ソウサクリファイス

四神一鏡 檻神子荻



Is it heiphul to what in the dead place?
For still dying, it is too early. what has been produced with much trouble for itself

--all--one`s thing--aiso carrying out

is it what it should not carry out but I should do to leaving for the next world sure enough?
S-D and a collet

死んでみたところでなんの役に立つのだろうか?
まだ死ぬには早すぎる。せっかく自分のために生まれてきたものを
全部自分のものにしもせずあの世に旅立つなんて、果たして僕のすべきことだろうか?
S・D・コレット











「私は『普通』には成り得ません。
 それが私に定められた宿命であって、それこそが私に唯一与えられたものです。
 私は只、貴方が属している境界線の外側に『在る』だけ。
 それ以上でもそれ以下も────それ以外ありません」


 これは他人の言葉。これはぼくではない者の言葉。

 口を出そうにもそうさせてくれる雰囲気は無い、元より出す気も無いが。


「けれども、貴方は違う」

「何処も違わないさ。ぼくだって十分に道を外している。
 人間失格にまで『お前はどうしようもない』とまで言われてしまったしね。
 いや、別に他人の意見によって自己を確立しようとは思っていないけど」

「────違います。圧倒的に絶対的に。
 人外でなかろうと殺し屋でなかろうと殺人鬼でなかろうと殺人者であろうと。
 貴方は世界にとって『異端者』です。なのにこうしてのうのうと生きている」


 その言葉には一瞬詰まる。一瞬前の『何処も違わない』を全面的に取り消したくなるほどにそれは正論なのかもしれない。

 しかし、さしものぼくとて『のうのうと生きている』の節は聞き逃す訳にも行かなかったので反論する。


「ぼくは、そこまで最悪になった覚えはないよ。
 なにより、『最悪』をぼくは名乗れない。いや、名乗ってはいけない。」

「そうですね。貴方は『最低』ですから」

「ひょっとしてぼくは君に嫌われているのかな」


 その一言に、相手は一度鼻で哂った後。


「貴方を見ると苛々します。そしてそれ以上に壊したくなる」


 無感情にそんな事を言ってきた。


「言われ慣れてるよ。その程度の賛辞は」

「そうでしょうね」
………………
…………

ここで一旦、話にもなっていない戯言は切れる。

戯言は切れ端へと姿を変える。

そして切れ端は再び戯言を紡ごうとする。




だけど、切れ端は紡げなかった。

ただ、それだけの話。



第一幕 選択(選択肢)




『飛べない豚は食用だ』


 ………正直、やっていられないと思う。

 別に、ぼくが住んでいる部屋より調度もあり、十分な広さも在り、ついでに言うならば空きっ腹には香ばしい事この上ない匂いが不満というわけではない。

 その点から言うと満たすものさえ満たせば───いや、手段を目的に変えるその時間こそがか───至上の喜びを与えてくれると思う。まぁ、過言にして戯言なのだが。

 しかし、物事には例外がある。

『食堂に来て一切の注文を頼まずにただただ座っているだけ』というのは拷問に等しいと思う。マジで。

 余り退屈というのも何なので色々と自分なりにこの状況を打開しようともした。が、ことごとく失敗。敗走。しかも敵前。

 退屈凌ぎに買ってみた雑誌もそれこそ重箱の隅を突く様にして読み伏せたし、暇なので懸賞クイズも考えるだけ考えて、断念
し。ついでにエイトクイーンにも久しぶりに挑戦してみたのだが舞台となるチェス盤が壊れてしまっていたので(ルールを忘れた)
ので、もうどうでもよくなった。………そして、今に至る。


「………」


 鹿鳴館大学内<君が代食堂>(お勧めは天丼)にて、戯言使いは暇を弄ばせていた。




「………何でぼく、こんな事してんだろうなぁ」


 お世辞にも決して良いとは言えない素晴らしい記憶力を総動員させてこの珍事の原因を思い出してみる。

 普段ならその作業は困難を極める挙句に成果を出さないのが常なのだが、その時ばかりは何かしら思い出せる事が多かった
ためかあっさりと出てきてくれた。むしろ、消去されずに残っていたようだ。









 夏休みの半分以上を費やした入院生活に終わりを告げた日のこと。








「あ〜〜あ〜〜。つまんねぇぇぇぇぇぇ。
 いーいーが退院しちゃうとさ、な〜〜んか物足りねぇ感じなのよねぇ。
 ねぇ、どうせ暇してんだったらさ、もう二〜三週間程度入院してかね?」

「あんた本当に看護婦ですか。いや、マジな質問ですけど」

「ぶっぶ〜〜、残念不正解はずれって言うか男女差別だっての。
 セクハラだってんでしょが。訴えちまうよん?
 看護婦じゃなくて看護士。看護婦って言いたいんなら病院ルートに来ねぇとさ」



 …………ねえっつってんだろうが。



 ともあれ、ぼくは待ちに待って待ち望んだ退院日を迎えていた。

 退院というものは少なからず喜びが伴っているものだが、怪我が治ったという点以外でそれを見出すのも変な話だと思う。

 しかし、ぼくはこのイカレた看護婦(己が信念を貫き通す)と離れれるだけでも幸せである。


 性は型梨(=かたなし)、名はらぶみ(=らぶみ)。女性。年齢不詳。

 変わった名前の人にろくな人間はいないという理論が正解だという動かぬ証拠である。


 この宇宙人以上の電波な人のおかげでぼくの入院生活は散々なものだった。ぼくの性格は無変動並びに無感動だと自分で
思っていたのだが、トラウマじみたものが出来る限り中々に普通染みているのかも知れない。

 ・・・・・・・・・


「……そんな事実、嬉しくねぇよ」

「にゃに?なんか言った?」


 いえ、別にと視線をそらしておく。ぼくの本能的にも「これ以上関わるな」と告げている。これ以上の会話を失くして一
目散に逃げ出すのが得策だと思う。違うか?いや違わない(反語法)と、いうわけで実行。


「それでは、お世話に………」

「ああ、そうそう」


 何だよ、畜生。


「今度来る時はもうちっと土産持参ね。
 流石に土産話にも退屈ぎみ。
 ああ、そうそう。ちなみにお薦めは食いモン以外。永続性のあるもんで」

「黙れ型梨らぶみ」

 そんな、愛と感動に満ち溢れた高尚な会話をしていると─────────



「あぁ………今日退院だったのですね」



 そんな声を、真後ろより掛けられた。

 真後ろ。

 厳密に言えばぼくの背中から一メートルも離れていない距離。

 まるで、暗殺者のように気配を失くして、よく見知った少女が、立っていた。

 まるで、暗殺者のように─────。

 一瞬だけ、息が詰まった。


 しかし、よくよく考えてみれば一瞬息が詰まった程度って、別段普通の呼吸ではないのか?

 と、こんな馬鹿らしい戯言のおかげだろう。たいした動揺もなく振り向き、件の人物に挨拶する。




「─────やあ、崩子ちゃん。今、帰り?」

「はい、鴨川公園まで少し足を伸ばしてきたところです」

「…………」


 ちなみに今現在の時刻は午前8時を少し過ぎた辺り。

 いや、別に他人の生活習慣にケチを付けるわけでも何でもないのだが、何となく気になったので聞いてみる。


「………少しばかり質問しちゃったりしていいかな?」

「はいはいん、自慢の体型から色々な趣味まで大暴露だよん」


 何かほざいてる誰かは自分ながらに気持ちいいほどに無視(シカト)しておいて、崩子ちゃんに話を振り、許可を頂く。


「んーとさ。崩子ちゃん歩きだよね?」

「はい、そうですよ」

「あのおんぼろアパートから此処経由で鴨川公園に着くまで───。
 成人平均の徒歩で大体一時間は堅いと思う。
 で、崩子ちゃんの足から言うとその1.2倍位だと推理してみる」

「名推理ですね」

「ついでに鴨川公園から此処までその数値で当てはめていくと40分位が妥当かな?
 ともあれ、これで約110分。時間に直すと1時間50分だね。
 もうちっといって、現在時刻からそれを引くと出発が6時過ぎ、もしくはそれ以前になるんですけど?」

「はい、やりたい事があったので5時半には家を出ました。」




 ………この娘、早朝の鴨川公園で一体何をしてたんデスカ?

 そんな湧き上がって来た疑問に、ぼくは…………。



1.君子、危うきに近寄らず。この辺にしておこう。

2.このまま知らずにいるのも消化不良だ。しっかり聞いておかなければ。

3.それはさておき、らぶみさんの色々な趣味とは何じゃらほい?




 迷う事無く、エセ看護婦に話題を移した。別に気にはならないが気にしてみる。

 いや、戯言使いの基本は奇想天外な話の進め方だし。



「………で、崩ちんは何故に朝も早からンなとこに向かったって事だね?」



 台無し。

 最低ですか、アンタ?

 いや、まさか、こう。人の純粋な善意をこうも横から踏みにじられるのはいやなもんですな。やられてみると。


「毎朝というわけではありませんが、習慣ですので」

「なになにん、ひょっとしちゃって体育会系に属しちゃう訳!?
 こんな清純青春真っ盛り美少女が!?
 裏切りだ破滅だ絶望だタナトスだ!!これは人類に対する冒涜だ!!」

 型梨らぶみ、壊れる。

 元からという説、無茶苦茶高し。

 それ以前に、見知らぬ隣人×人類の5分の2程度の方々に喧嘩を売るな、そこ。



「─────まぁ、それはそれとして」

「で、何やってんの?
 ここは王道でラクロスの特訓とか?
 あ。でもでも走り込みはいけないぜよ。筋肉付いちまう」

 どうにでもせい。

「いえ………鴨や家鴨と戯れたりするのが趣味ですから」

「?鳥類?」

「はい、餌をやったり…………」


 崩子ちゃんの言葉を最後まで聞き終える事無く『ガガガーンッ!!』というナイス効果音が立ちそうな雰囲気を醸し出しながら
両掌をそれぞれ逆肩に乗せるという懺悔ポーズにチェンジ。

 まぁ、らぶみさんの病気はさておいて。


 闇口崩子ちゃん。

 ぼくの住んでるアパートでの一つ屋根の下で住んでいる。いわゆる隣人である他人。
 家出娘。
 腹違いの兄と二人暮し。
 んでもって日ごろバタフライナイフを常備していることを除けばとても良い子である。


 いや、もう一個ばかり欠点があったか。





 趣味が『下等生物の殺戮』。





「らぶり〜崩子ちん〜」

「………」



 ……さて、鴨川公園にも烏は生息してるはずだし、今頃はさぞ凄い光景になっているだろうな。

 多分、京都の(色々な意味での)新名所になること請け合いって感じ。いや、『自殺の名所』で有名な清水寺的存在な。

 都市伝説一丁上がり、みたいな。


「じゃ、ぼくはそう言う事で」


 立ち去る事にしておいた。

 このまま深みに嵌ると見たくも無い真実が見えかねないという理由の実に保守的な行動である。

 そして、ぼくの足が帰宅路に向けて踏み出されたとき崩子ちゃんに声を掛けられた。



「ああ、そうでしたお兄ちゃんに用事があるんでした」

「?とりあえず金銭的なことは無理だから、入院費がかさむし」

「いえ、それは非常に現実問題を明瞭に示しているのですがとりあえず別の話として捉えておきます。
 用事というのは、お兄ちゃん宛の手紙が届いていました」

「手紙?ぼくに?」


 心当たりが無い。

 まさか両親がぼくの所在地を知っているはずが無いし、こちらも知られないように努力をしている。

 なので親類関係ではないだろう、今更だが。

 続いて玖渚といった友人関係を当たってみるが、玖渚以外に友人は居ない上にアイツも出すような玉じゃない。なので却下。

 ………それじゃあ。



「セールスはお断りの方向で。あ、新聞も要らない」

「女性からみたいですよ、中、覗きましたし」


 この娘、最高だ。

 とりあえずらぶれたーだの言っている人外は放っておいて、女性からぼくに手紙?それこそ不思議現象だ。

 いや、別にぼくの人生がそこまで女っ気が無いかというとそういうわけではないのだが、ないのだが。



「……お兄ちゃんの顔が山の神に…………」

「ん?いや、何でもないさ、なんでもないよ。うん」


 よっぽどぼくは難しい顔をしていたらしい。山の神という表現を喰らってしまった。

 後に、骸骨面と知って憤慨するのだが、それは別の話。

 ともあれ、家に帰って(封の開いた)手紙を読んでみるとしよう。話はそれからだ。











「………以上、回想終了」



 で、手紙に差出人の名前はなく、文書体が女性らしいというだけの事だったというオチがつく。

 別にぼくは男性と女性の文書体の違いについて知識は持ち合わせていないのだが、崩子ちゃんがそうだといった以上そうなのだろう。

 そして、名前も書いてないくせに待ち合わせ場所なんかを明記して下さいやがった無作法者を待っているというわけだ。



「思い出してもどうにでもなるものでもない」

 独り言。

「ここで『お待たせいたしました』ってひかりさんが出たらぼくとしては言う事はない」

 一人芝居。

「ついでに無作法を反省して赤面していたらもう最高」

 独りよがり。


「空しい」


 その時、急に真後ろから声が聞こえた。









「期待に沿えず、申し訳ございません」

「…………」


 ひかりさんじゃない……って事は。

 椅子をそのままに上半身と首の絶妙なコンビネーションを活用して振り返る。


「…………」



 あかりさんでもなかったようだ。

 最後の望みまでもが断ち切られて静かに心の闇に沈んでいくって感じ。

 ぼくの知っているひかりさん達よ永遠に。


 まぁ、でも。とりあえず…………



「何で君がここにいるんだろうね」

「『久しぶり』の一言も無しですか。
 まぁ、私の知る限りの貴方らしいと言えば貴方らしいですが」

「その辺は勘弁して欲しいね。流石のぼくもこれは予想外だったから」

「貴方ならばこの程度は日常茶飯事のことと思ってごく普通に話しかけてみたのですが」

「普通の女の子なら
『やっぴ〜!お久しぶりだね〜、「懐かしのアノ人は今何処に!?ただしロケ場所は墓地!」みたいなっ!』
 って言わなきゃいけないんだよ。勉強不足だね」

「軽佻浮薄に戯言を弄んでいるのは変わりませんね。変わったのは頬の刺青だけですか?」


 いや、これはわが片思い相手みいこさんよりつけてもらった由緒正しきモノだ。

 そんなことは今の問題じゃないけど。

 さて・・・・・と。


「人間はそう簡単には変わらないものさ。そうだろう?」




 懐かしむように。

 だけど、全然懐かしくも何とも無くて。

 一切の労りを持たず、一切の感情を持たずに。

 ただ、名前を言ってみた。







「萩原子荻ちゃん」






 退院二日目。

 今度は長期にならないことを今から祈っておく。





続く






 後書き


 戯言シリーズ呼んでても判り辛いというクレームが多かったので改定してみました。

 やはり一話で起承転結の承まで持っていくのは不可能だったようです。


 と、言うわけで大幅なカットとなっております。



 ・・・・・ひょっとして余計見辛くなってたりするかもしれませんが、どうか御割愛の程を。