人生って何だろう?
 そんな事を考えている俺は水着の女の子に囲まれて、周りの野郎達から『死ね』という視線を向けられている。ほんの少しだけ、死んで逃避できたら、なんて事も思ってしまった。
 俺って、一体何なんだろうと思ってしまいました。

 セイバー…いや、アルトリアと遠坂は火花を散らしているし、桜は何か気になる視線を向けてくる。こうなると、向こうで泳ぐ練習をしているイリヤと藤ねえだけが心のオアシスだ。
 藤ねえが手を掴んだままイリヤがバタ足をして…あ、手を離した。あっぷあっぷ言ってる。……ああ、潜水の練習だな、きっと……。
「はあ……いったい、何でこうなったのかな……」
 今はもう居なくなったもう一人のエミヤシロウに、感謝と怒りのぶつけどころを求めるのは、至極当然の事だと思う。
 もしかしたら、俺が正義の味方を目指して戦い続けた先に、あいつにもう一度会うことがあるのかもしれない。
 ……その時は仕返しをしてやると、心に決めながら。
「シロウ、済みませんがこの『サンオイル』というものを塗ってもらえないだろうか」
「そうね。士郎、私にも頼むわ」
 そう言ってにじり寄ってくる二人。
 最近のこの二人は、普段仲が良い代わりに一度喧嘩すると非常に長引く。そのくせ仲の良いそぶりを見せる時は裏があるときだ。つまり今、どちらを先にするかで、何かあるはずだ。
 さらりと、願掛けで伸ばしているという桜の髪が柔らかそうに音を立てて目の前を横切った。
「セイバーさん、姉さん、サンオイルは全身くまなく塗らなければならないですし、それを男の先輩に頼むのはどうかと思いますよ。先輩が困ってるじゃないですか」
 いいぞ桜、もっと言ってくれ!!
「サクラもやってもらう、というのはどうですか」
「う、それは魅力的な提案ですね……」
 ちょっと待てセイバー、一体何を…?
「だから桜、ちょっと耳を……で、…だから、……なのよ」
「……はうっ」
 ふらりとして倒れこむ桜。
 そしてこちらを……熱っぽい顔で見ながら、
「先輩、私もお願いします……」
 なんて言ってきた。

 ああ、アーチャー……俺はお前を倒す為に、呼び出すためだけに世界を破滅させたくなってきたよ。


Fate偽伝/After Fate/Again―第7話『再び、当たり前の日常へ』


 あの後、アーチャーとアサシンの戦いは何時間と続いた。まるで聖杯に集められた魔力を全て使い切るかのようにして、恐怖だけで死にそうな、圧倒的な戦いを続けていたんだ。
 そして空が白む頃、互いに致命傷を与えあい、消えていった。
 アサシンは笑っていた。まるで遊びつかれた子供が楽しかったというように。
 アーチャーは笑っていた。まあ、悪くなかった。そう言いたそうな顔で。

 戦いを見届けて、桜を連れて何とか家に辿り着いた俺は、そのまま丸一日眠っていたらしい。
 そして目が醒めた時、日常が戻っていた。
 聖杯戦争のときのように、騒がしくも楽しい日常が戻ってきた。
 きっとこれが、衛宮士郎が望んでいた当たり前の日常なんだと思う。


>interlude


 藤村大河が合宿の予定を決め、久しぶりに衛宮邸に訪れてみると、庭や家屋の一部にブルーシートがかけられていた。そこには流麗な書体で『改装中につき、立ち入りを禁ずる』と書いてある。
「あれ? …えーと…?」
「おはよう御座います、藤村先生」
「あ、遠坂さんだ。どうしたの、今日は早いみたいだけど」
 暗に、朝弱いのになんで居るのかと言って居る。いや、既に『暗に』ではないか。
「それは昨日、泊まったからです」
「ふうん、泊まった……泊まったですってーーーーっ?!」

 ガォォォォォォォォォォンンンン!!

 真正面にいた凛は、その迫力に弾き飛ばされそうになりながら、何とか向き合うことに成功する。
「ちょっとちょっと遠坂さん、体は大丈夫? 士郎は優しかった? 避妊は大切なのよ、でも今からなら出産までには士郎も18歳に――」
 酷く混乱していた。
 しかも、伝染性の混乱だ。
 内容の一部に反応して、凛の顔が真っ赤に変わっていく。
 それが大河の危惧に拍車をかけた。
「久しぶりですね、タイガ」
 突然声をかけられなければ、きっと凛は喋ってしまっていた事だろう。
 その意味ではこの声は、救いの主であったとも言える。
 大河が、その声に懐かしさを覚え、視線の向きを変えた時――懐かしい顔が居た。
「セイバーちゃん!」
 写真の一枚もなく、その金色の髪、翠の瞳、華奢な体、凛々しい表情、そう言ったイメージだけになりかけていた虚像が、目の前に居る現実のセイバーに塗り替えられていく。
 頭をがくがくに揺さぶられて意識朦朧となった凛を投げ捨てながら――凛は何とか持ち直して地面に膝をつき、すぐさまこそこそと逃げ出し――大河はセイバーに駆け寄る。
「久しぶりじゃない! どうしていきなり帰っちゃったのよ! 連絡先を聞いても士郎も遠坂さんも教えてくれないし――」
「すみません、その……病気の療養で、国に戻らなくてはならなくなりまして……倒れて連れ戻されたなどとは、伝えて欲しくなかったのです」
 かつての宮廷生活で慣れた、嘘八百を綺麗に並べるその様は、詐欺師で明日から食べていけるほどの演技力だった。
 まるで10年前の少女漫画のヒロインのような病弱さ――事実今の彼女は非常に弱っている――を見せるが故に、大河も納得してしまう。
 道場で竹刀を持ってコテンパンにされた屈辱の記憶は今もあるが、それにしたところで重病人でありながら日常生活を続ける人だって世の中には居る。そう考えれば納得できないことではなかった。
「まだ本調子とはいえませんが、こちらで生活する事に問題は無いようです」
「そうなんだ。……あれ、遠坂さんは?」
「凛でしたら、イリヤスフィールと一緒にサクラの様子を見ているのではないでしょうか」
「サクラ…って間桐さんのことよね、彼女がどうかしたの?」
「精神的なもので、今は休んでいます。何かあるのでしたら、今しばらくは時間を置いてください」
「そっか―じゃ、士郎は?」
「昨日は徹夜仕事でしたから、今は寝ています」
 あちゃあ、全滅か。
 そう言いながら顔に手を当て、どうしたものかと大河は悩む。

「何かあるのですか?」
「うん、今度みんなで海に行く事になってるの。セイバーちゃん、水着持ってきてる?」
 言われ、思い出す。
 男として性別を偽る事を決めてから、まともに湯浴みも出来なかった事を。そしてここにきて初めてそれが楽しいと思えたことを。ならば水遊びもきっと悪くないだろうと。
「いえ。ですが、それは楽しそうですね」
「じゃあ一緒に買いに行かない? すっごいの選んで、士郎やみんなを驚かせようよ」
「すごいの……ですか?」
「うん。こうなって、こうなって……こう言うの」
 手で軽く、水着のラインをなぞって見せる。
 見る見る赤くなるセイバーに、
「このくらい普通じゃない。……それとも、もっとすごいの売ってるお店、行く?」
「いっ、いえ! わたしはごく普通のものを――!!」


>interlude out


 遊び疲れた体を、海から戻ってきてそのまま家の廊下、太陽のあたる場所に転がして想う。

 世は全て事もなし。
 そんな事はありえない。
 けれど、こうやってみんなで生きていけたら、英雄なんて物が必要の無い世界であったとしたら、そんな世界に生きていけたら。

 ――体は剣で出来ている――

 きっと、そのために生きていけるのが、強さなんだろう。
 ずっと遠くへ、何処までも続く青空を見上げ――俺は自然と、そう思う事が出来た。



「何故私の部屋がシロウの隣から移されなければならないのですか!?」
「姉さんこそ、自分の家があるのに先輩の家に部屋が在るんですか?!」
「サクラがリンの家に住めば良いじゃない。元々自分の家なんだから」
「てゆーかイリヤ、アンタだって何時の間にか私物大量に運び込んでるでしょう!」
「ここは元々キリツグの家だもん。私の家も同然でしょ」
「あら楽しそうね、みんなでここで暮らすの? だったら保護者として私も―」


 ――嗚呼。
 やっぱり平穏な暮らしは遠い。
 もしかするとアーチャーは、こんな生活から逃げた先で英霊になったんじゃあないよな?



後書きと言うか、動機。ついでに後悔。


 敵はACTIONにあり!!
 怨敵『セイバーグッドエンド不要論者』の首をとれぇい!
 ……それはさて置き。

 セイバーのエンディングに『グッドエンド不要論』を唱える人間が複数いる。現代に残るのは、最終戦に望む彼と彼女の決意を損ねるものだと。
 御都合主義。ハッピーエンド主義。
 どう罵られようとも、努力や苦悩に見合った報酬が在って然るべきではないか。理想論だと言われようとも、私はそうあるべきだと思う。

 そう考えると、Fateアフターで書く事になるが、前作とは全く別のものとして書く事になる訳です。

 第二話のラストを書いていて、これ以上突っ込んで書いたら精神的に死ねるんじゃないかと思った。ラブコメとかエロなんかより遥かに、恋心を語るシーンは精神的な負担がでかすぎる。本当はもっと突っ込んで書くべきなのかもしれないが……精神的にきついんで一気に削除する事にした。
 増補改訂版を書くべきか…?

 二人の『エミヤシロウ』が唱和をするシーン。
 かつて同じ存在であったにも関わらず、全く別の存在となり、しかし根底に同じものを持つ二人の共闘。
 これがやりたかった。

 英語やそれ以外の言語、それを日本語表記するのだから、
『エクスキャリバー/エクスカリバー』
『ラーンスロット/ランスロット』
『クー・フーリン/ク・ホリン』
『モルドレッド/モードレッド』
『ヴィヴィアンとニミュエは、作品によっては同一の精霊』
 とか、細かい事は気にしないで欲しいです。


推測
 衛宮士郎の最大の魔術『固有結界・アンリミテッドブレイドワークス』とは、一体如何なる魔術であるのか。
 まずは事実を列挙してみよう。

Fate
 此処においては、投影魔術としてのみ登場。
 遠坂凛は衛宮邸の土蔵にある失敗作を見、士郎の『投影』はある魔術が劣化したもの、との見解を出している。

Unlimited blade Works
 教会地下におけるアーチャーの台詞の中には『武器であるのなら、オリジナルを見るだけで複製し、貯蔵する。それがオレの、英霊としての能力だ』というものがある。
 武器を打ち出すグラフィックでは、剣以外にも槍が確認された。
 また本来は石の魔剣カリバーンの原型とされるカラドボルクであるが、偽・螺旋剣(カラドボルグII)の名称で登場している。
 槍や独鈷のような剣以外の武器を含むギルガメッシュの宝具を全て複製し、相殺した。
 武器ではなく盾の宝具『熾天覆う七つの円環』を投影している。

Heavens Feel
 バーサーカーの武器無名・斧剣を投影し、更にバーサーカーの技『射殺す百頭』を再現した。
 宝石剣ゼルリッチについては、全くの理解の範囲外であったが、それでも構造そのものを再現し、複製させている。
 ゼルリッチは他の投影された宝具とは異なり、能力を発揮させても一度で崩れる事は無かった。

side material
 防具の複製も可能だが、その場合は通常の二倍から三倍の魔力が必要になるとある。

 発動に用いる呪文は、あくまで内面に働きかけるものであり、自身の内面を表現しているもののようだ。
 結果が固有結界『アンリミテッドブレイドワークス』の発動であっても、士郎と英霊エミヤでは呪文が異なって居る。
 また、教会地下でのアーチャーの呪文と、オープニングに現れる文句が同一のようだ。

結論
 機械的な構造を持たない武器であるなら、見ただけで複製し貯蔵する能力。
 貯蔵された武器は通常の投影魔術として投影できる。
 その際、干将莫耶やカラドボルグIIのように独自の改良を加える事ができる。




 

代理人の感想

アーチャー最高(爆死)。

衛宮士郎であることを貫いた君が好きさ(笑)。

 

いやなんというか、セイバーグッドエンドを目指してお書きになったんでしょうが・・・・これは。

アーチャーグッドエンドないしエミヤグッドエンドですよねぇ(爆)。

・・・・・・ま、むしろ真グランドフィナーレと言う感じがしないでもないですが。

 

是非については・・・ま、ヤボなんで。