何があったのかわからないけれど、ここ暫くの遠坂とアルトリアはどこか吹っ切れた表情をしていて、桜もあれだけ毛嫌いしていたマキリの魔術を受け入れようとしているらしい。この間、言峰の後任の神父さんにお礼を言われて戸惑っていた桜は、今までの桜よりずっと魅力的に見えた。
みんなが新しい一歩を歩き出そうとしているのに俺は、結局何も決められなかった。
そんな俺を見かねたのかイリヤは、
『サクラとタイガは任せて、シロウは外で修行してきなさい。その代わり、必ずこの家に帰ってくること。シロウの家は、ここなんだから』
そう言ってくれた。
きっと彼女は、オヤジの事を許してくれたんだと思う。
あの後、リズとセラがやってきて仏壇に線香を上げていった。
なんでも、オヤジが天のドレスを破壊するのをあの時まで引っ張っていったのは、藤ねえやライガ爺さんまで人質に取られていたからだったらしい。
対処療法だけで何とかしようなんて、あの時英霊エミヤにも散々言われたのに見えてなかった、俺の詰めの甘さなんだろう。
百をこぼして九百を――百にされた俺にはたまったものじゃないけど、九百にされた人たちのことを考えると、仕方ないと思える自分がいる。
……遠坂とアルトリアに、それを言ったら物凄く怒られたけど。
俺は、オヤジを本当に乗り越えられたんだろうか。
確かに、勝ったのは俺だった。けれど、本当に俺の力で勝ったのだろうか。
いや。オヤジはきっと、負けるために戦ったんだ。
だから、衛宮士郎は進まなければならない。
本当に、誰にも負けないくらいに真っ直ぐに、大切な人たちと一緒に進むんだ。
Fate偽伝/After Fate/Again
第二章第六話『新たな道へ』
俺は結局、イリヤと桜に後押しされて、遠坂とアルトリアに引きずられる形で時計塔の魔術師の中で学ぶ事になるようだ。
遠坂と俺は冬木市で起きた聖杯戦争に生き残ったマスターとして、ある意味注目を集めているらしい。
とはいえ、俺が表向きに使える魔術など強化と解析――研究職の魔術師向け――の物くらい。せめて投影した物に一定時間で消滅するプログラムでも仕込めれば、手抜きした物を投影する事が出来るのだが……それは流石に難しい。
しばらくは、俺に相応しいレベル――初級講座――の講義を受けることになるだろう。
「シロウ、もう終わったのですか」
「ああ。……遠坂はまだみたいだけどな」
「その様ですね」
言って柔らかく笑うアルトリア。
いつものように清楚な服を着ているのだが、それでも腕まくりなんてしている所為でおかしな感じがする。
元々暖かい冬木市の冬。
それももう終わり、そこかしこに春が来はじめている。
遠坂のように自分の工房を持っている魔術師とは違い、俺には修行の場としての土蔵くらいしかない。アルトリアもそうだ。彼女も物に執着する性質ではないので、普段着る衣料類ばかりらしい。
そんなわけだから、荷物の量だって俺達の仕事は少ない。
荷物整理で疲れた体を庭でほぐし、汗をかいた上着を脱ぐと、まだかすかに冷たさを残す風が心地よかった。
「くぅ〜〜〜〜〜っ」
伸ばした体が気持ち良い。
あの事件で受けた銃創も、遠坂の『イリヤが見たら落ち込むじゃない』という発言のもと、怪しげ……もとい怪しい薬によってすっかり消え、今では何処にそんな物があったのかさえ分からない。
そんなだから、傷が残っているはずも無いのだが、右腕に少し違和感がある。
「シロウ?」
「いや、何か…引きつるような感じがするんだ。でも何も異常は無いし…さ」
似たような感触を思い出した。
ドロップと勘違いして飲み込んだ、遠坂に渡された宝石。
強制的に開かされた、魔術回路の異常な感触。
あれをとてつもなく薄めた物に似ている。
「でしたら、リンかイリヤスフィールに聞いてみるのが一番でしょう。私には魔術に対する知識は乏しいし、士郎も自分で判断できるほどではないでしょうから」
「……ご説ごもっとも、痛み入ります」
そんな事を荷造りに奮闘する遠坂に言ったら、魔力を込めてみたらどうかと言われた。普段の状態でそれが何か分からないのなら、普段の状態ではない状態になれば分かるだろうと。
それもそうだと思い、とりあえずイメージの撃鉄を一つ落とし、魔力の生成を開始させる。
「あっきれた。これ、魔術刻印じゃない。まさか自力で作っちゃうなんて…」
「……え、これが?」
魔力を込めたら、そこには微かに光を放つ奇妙な図案ができていた。意味をもたない模様が凝り固まって意味を成しているようだ。そんな物が何時の間にか、自分の知らないうちに右腕にあった。
魔術刻印。
形の無い神秘そのものである魔術、それを『手に取れるほど習熟』させて、最後には『魔術刻印』という名の存在に『結晶化』させたもの。親から子へ、子から孫へ、その家系の魔術師としての系譜のような存在。
しかし、魔術師の家系ではない俺には、譲られる事は無い。
なのに有るのだから、俺自身の魔術が結晶化したものなのだろう。形に取れるほど……というのだし、意識してしまえばこれの正体は簡単に知れた。自分でいうのもなんだが、これは欠片に過ぎない。衛宮士郎にとって固有結界という魔術は大きすぎる。だから、これはその欠片が浮かんだものだ。しかしこれは、ある一つの宝具を投影するまでの一つの流れ、その殺傷能力は高すぎる。
――秘匿せねばなるまい。
「シロウ、その魔術刻印は一体何なのですか。強化、投影、それとも固有結界ですか」
興味深々という顔でせかしてくるアルトリアに不審なものを感じながら、そう決意した。
ちょっと離れた場所で、イリヤは桜相手に……
「ねえサクラ。アルトリアの竜種の因子、物凄い魔力を生み出すよね」
「ええ。……まあ、一時的にしろ聖杯にされた私たちと殆ど変わらない魔力を持ってますから……世間一般の魔術師とは比べ物に……」
「で、もしシロウの造った魔術刻印が、アルトリアとの子供に移植されたら……凄い事になりそうね」
「せ、先輩の子供ですか?! まさかそんな…!!」
「まだ、だってば。シロウにはちゃあんと
……まさかさっき貰った餞別の箱、そーゆーブツが入っているんですかイリヤさん?
「でも」
と。
「固有結界使い放題の魔術師……上手くいけば、世界征服くらい出来るかしら?」
そこで目に宝石を浮かべている人、何をお考えでしょうか。
遠坂はにんまりとした笑みを浮かべる。
「士郎の最大の特徴と言えば……本物以上の偽物を作れるくらいの投影と、それを可能にする異常な解析能力。固有結界までは高望みしすぎだけど、その二つが在れば、きっと子供は凄い魔術師になるわね」
何を言っているんですか遠坂さん。
何で腕を抱きしめて、胸を当てるんですか。
そんな事をしてパトスが暴走したらどうするおつもりで?
「いえ。シロウは魔術師ではなく魔術使いの正義の味方になるのです。ですから、何事があっても戦える…竜種の因子のある子供の方が望ましいはずです」
あの、アルトリアさん、なんで遠坂さんを鏡に映したような行動をとるのですか?
胸があたってます。
もうちょっと控えていただけないでしょうか。
なんだか桜まで目の光がこう……古い表現だけど『キュピィィィーーーーン』てな感じなんです。
ついでに言うならイリヤさん、サスペンスドラマで奸計をめぐらす悪女のような微妙な微笑みはいったい?
「それじゃあ士郎、あなたは私の弟子として、みっちり『教育』してあげるわね」
「そうですねリン。シロウ、私『も』貴方の剣の師として努力を怠る事は無いでしょう」
「では先輩、くれぐれも『お気をつけて』。一年後、私も必ず時計塔に行きますから」
「うん、サクラとタイガの事は任せて。シロウが『飽きた頃』、絶世の美女になって会いに行くから」
さて。
昔同じ事を考えた事があるかもしれないけれど。
神様ならギルガメッシュでもバーサーカーでも構わないや。
ブッ倒してあげるから降臨してください、お願いします。
ああ、今日はこんなにも、空が、綺麗だ――
あとがき
前回の『Fate偽伝/After Fate/Again』は、セイバーが『アーサー王』としての責務を果たし、一人の『アルトリア』という少女として生きるにはどうすれば良いか。
そこからスタートさせ、内容としてはFateルートでは消化し切れなかった聖杯戦争を書きました。
が、その道中。赤い奴が目立ちすぎたと言うか、主人公を張ったというか食ったと言うか。挙句の果てに『エミヤグッドエンド@代理人氏』と呼ばれる始末。
だが書ききれなかったものも、また多い。
遠坂家(凛)は聖杯を否定する側に、マキリは養子の桜を残し断絶、しかしアインツベルンは――聖杯探求を諦める要素が無い。
そして、起こるべくして起こったのが今回の事件『大聖杯復元』です。
故に、今回の指標は『エミヤトゥルーエンド』もしくは『イリヤグッドエンド』です。
迷って迷って迷った挙句、正しいのかどうか分からない答えを出す。
衛宮士郎のように、周りの人間を切り捨てることの出来ない人間だからこそ迷って、そして出した答え。
それは一体どういうものなのでしょう?
疑問
ところで設定集に載っているだけのルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト嬢ですが、まるで夢魔の猫少女の如く人気が有る模様。
まだまだ歪な衛宮士郎に答えを出させる為の第三章を書くとすると、彼女は間違い無くキーパーソンになるのでしょうね。
淑女系とお嬢様系。どっちだろう?
凛並みの『猫かぶり』が出来るんだから、女王様系だけは無いと信じたい……もしそうなら、あまりに士郎が哀れすぎるから……。
登場人物に関する推測
凛ルートとは違い、セイバールートでのキャスターは単独出撃&殲滅。
そのマスターである彼は、柳洞寺に置いてきぼりを食っているはず。
そんな訳で、彼はちゃんと生きているのです。……相変わらず朽ち果てた殺人鬼のままでしょうけれど。
固有結界『無限の剣製』に関する推測
重なり合う世界の中から生み出された偽・螺旋剣。
英霊エミヤの戦闘技術や魔術技法、果ては記憶までも受け継いだ士郎に、難易度はともかくとして宝具の改造が出来ない道理は無いでしょう。
魔術『固有時制御』に関する推測
凛ルートにおいて、アーチャーがキャスターに攻撃を仕掛けた際、キャスターが使った回避方法は『空間転移』もしくは『固有時制御』と推測されていた。
この際に使われた物が固有時制御だと仮定すれば、自分の周囲の時間を早く進めるか、敵の周囲の時間を遅くする魔術と思われる。
飛来する剣に魔術をかけ、更に士郎やアーチャーにまで同時に効果を及ばせるのはほぼ不可能。
ならば自分自身にかけ、周囲よりも早い時間の中で行動したと考えるのが自然だろう。
使用者に殺傷能力の高い武装を与えれば、生前の衛宮切嗣のように暗殺者として高い能力を得ることが可能と思われる。
オリジナルキャラクター
魔術師クライスト
マキリ同様衰退した魔術師の家系。再興のために聖杯を欲する。
人形遣いの家系だが、彼自身の研究分野は衰退を止める為の魔術回路の強化、復元、再生。
魔術による延命を行ってなお高齢のため、体は衰弱しており半ば封印している。
肉体の代わりに使う人形は、破壊された時に安全に別の人形に乗り移る事を最優先としておきながら、様々な武器や兵器を内蔵させている。
代理人の感想
・・・・だってねぇ。
どー考えてもあの展開だとセイバー復活ってオマケだし(爆死)。
そんな身も蓋もない本音はともかく。
今回は確かにイリヤグッドエンド・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ではあるんですが。
やっぱハーレムエンドというかフタマタエンドというか。
・・・・・・・・世間の風は冷たいですが、挫けずに頑張ってください(爆)
>ルヴィアゼリッタ
出番のことから考えるとむしろ突撃八極拳娘・・・でも、やっぱギャップが凄いんだろうなぁ(笑)。