空が紫色に染まりつつある時頃。
とある入り江で1人の釣り人が糸を垂らしていたが、彼らが陸に上げようとしているのはある意味かなりの大物だった。
海面に人影が4つ……現われたかと思えばその身を海中から陸へ上げ、釣り人へと歩んでいく。
ウエットスーツ姿の4人の人物が、海岸線に上陸した所だった。
「ようこそ、平和の国オーブへ」
「“クルーゼ隊”のククルだ。協力感謝する」
先頭に立っていた女性 ククルがキャップを脱いで髪を振り解く。
纏まっていた銀髪が絹のように輝く様は、霞む水面にも映って実に幻想的な光景だった。
ニコルは思わず見とれてしまい、早く行けと後からイザークに蹴られていた。
だが、男の視線は異なった。ククルの顔とその歳相応に発育した肢体をさっと見渡すと、僅かに失望の色を浮かべる。
「ちっ……」
「どうした?」
「いや……何でもない。それよりもだ」
ククルの不審気な視線を感じた男は素早く眼を逸らすと、再び釣り糸へと視線を戻す。
「一応取り決めでな、合言葉に答えて頂く」
「承知している。あの男から聞かされておるでな」
上陸する前にククルはクルーゼから合言葉の符丁を教えられていた。
オーブに潜入している工作員には各々の暗号や合言葉があり、それが無いと例え味方でも援助を受けられないのだ。
「では、合言葉に答えて貰おう」
「ああ」
入り江の桟橋に、静かな緊張感が漂い始めた。
「今から訓練ですかぁ?」
「そうだ」
模擬戦闘訓練が終った後、先程までM-1アストレイに乗っていた4人のパイロットは格納庫の隅に集められた。
3人のテストパイロット、アサギ=コードウェル・ジュリ=ウー=ニェン・マユラ=ラバッツは少し凹んでいる。
対照的に赤毛の少女、アークエンジェルの予備パイロットであるフレイ=アルスターは意気旺盛だ。
当然と言えば当然だろう。
正規のテストパイロットがアマチュアである筈のフレイに実質3対1で負けたのだから。
逆に言えばフレイの力量は、彼女等テストパイロットよりも上だという事なのだ。
「諸君等のパイロットとしての技量は認める、だがこのままではおのずと限界が見えるだろう」
「はぁ……」
「そーですか……」
「そーみたいね……」
覇気の無い感じで顔を見合わせるオーブ3人娘。
各々の額には『肉』の一文字が油性ペンで描かれていた。
これはフレイとトールが行う模擬戦時の負けた者へのペナルティであり、罰ゲームでもある。
『中』や『※』等のバリエーションもあったが、基本的にフレイは『肉』を好んだ。
「未熟である事は恥ではない。だが、未熟な自分を許容するのは罪だ」
しっかりと頷くフレイの顔を見て、そして今度は3人娘の方を見る。
確かに、幾分引き締まった表情のフレイと比較する以前に未熟さ満載だ。もう顔の表面まで出ている。
「1度戦場に出てしまえば、後悔する事も振り返る事も出来なくなる。それが出来るとするならば……」
「するならば?」
「己が死んだ後か、戦友の死体袋が目の前に転がっている時だ」
相槌を打ったフレイの目には緊張が浮かぶ。
だが、3人娘の視線は相変わらず緩んでいた。
『だから何?』と言わんばかりの様子である。
無理も無いだろう。
アークエンジェルに乗り激戦の最中を潜り抜けて来たフレイと、戦争などモニターの向こう側だという彼女等の意識では。
実際に体験するのと、単に見聞きした程度の差では雲泥の差である。
気合の入れ方一つにしても1人と3人の差は現れていた。
……尤も、その差を作り出したのはフレイ自身の努力と、厳しいゼンガーの指導についていった根性の賜物であるが。
だが、今からでも遅くは無いとゼンガーは思っていた。
遠からず、オーブが戦火に巻き込まれる時が来る。
戦火は黙っていても向こうから勝手に近付いてくるのだ。ならば、今からでも備えなくてはならない。
「実感が無いのは仕方が無い。これは実戦を経験しなければ解らぬ事だ」
『はぁ……』
解っていないと言うか、理解する気が無いらしい。
自覚が無いのは問題だと、ゼンガーは思った。
「解らぬ事だが、備える事は出来る。そして君達はその備えが必要な時期だ」
『はぁ……』
気の抜けた返事を返し続ける3人娘に、隣に居たフレイが苛立たし気な唸り声をあげる。
このままではフレイの方が先に噛み付くだろう。そう判断したゼンガーは活を入れる事にした。
「……どうやら君達は自らの立っている位置を理解してない様だな」
平和ボケした彼女等を緊張状態へと持っていく為には雰囲気を作る必要がある。
幸い、ゼンガーはその雰囲気を作る方法を心得ていた。かつての旧友が教官時代によく使っていた手である。
「俺の旧友の言い方を借りて言えば、今の君達の状態は……」
懐から古びた革手帳を取り出してページを開き、ゼンガーはすっと息を吸う。
「今直ぐ故郷のママに電話して『生まれて来てごめんなさいこれから死んでお詫びします』と謝って来いこのバカチンがぁ!!」
いきなり格納庫に響いた怒号に、4人の女性達はびくりと体を震わせた。
「ゼンガー少佐! 幾らなんでもその言い方は……」
「誰が勝手に喋っていいと言った?」
ゼンガーの視線がギロリとアサギを射抜き、反論を一撃封殺する。
「これから俺に返事をする時は全て『サーイエッサー』とだけ答えろ解ったか!?」
『サッ、サーイェッサー!!!!』
反射的に4人の返事がハモった。
だが、ゼンガーはそのヘナチョコな返事を鼻で笑うと、ツカツカとマユラの側まで歩いていく。
「チンケなOSしか積んでいない国防費喰らいのヘボMSに乗ったこれまた腐れ顔のビッ○が!
貴様の出身は何処だ!?」
「お、オーブです、サー」
「オーブだと? オーブと言ったなこの雌豚野郎!」
眼を剥き青筋を立てて叫ぶゼンガー少佐ハートマン先任軍曹。
罵倒している間にも、手に持っている謎の手帳から視線を殆ど逸らさない。
喋り方もやや棒読みだったが、そこまで気がまわる様な余裕は4人には無かった。
「俺が○○主義者と反戦主義者と中立主義者をママのスパンキングの次位に嫌いなのを知ってて言いやがったな!!」
「えっ……あの……そ、それは」
「言い訳など聞きたくないし言い訳できるのは人間だしかし貴様等は人間ではない雌豚だから反論は出来ない解ったか!?」
「サ、サーイェッサー!!」
「よろしい! 豚が人語を解すのは癪に触るがこれでは調教が進まんからよしとしよう」
句点無しの罵詈雑言を浴びせ続けるゼンガー。
3人娘はもちろん、フレイですらも何も言えない程の迫力だった。
そしてゼンガーは相手の反応など気にも留めない様子で、背後の立っているMS=M-1アストレイを指差す。
「いいか! 貴様等がこのハリボテと同等なヘボMSに乗って戦う相手はコーディだ!
試験管の中で卵子と精子が○ァックし合って出来た 〔あまりに卑猥な表現の為削除〕 どもだ!
フレイ=アルスター!!」
「さ、サーイェッサー!!」
「貴様はコーディが嫌いか? あの宇宙の度果ての砂時計の中で日夜○スをかきあっている犬畜生どもを殺したい程憎いか!?」
「憎いであります、サー!!」
「よぉし了解だクソッタレ女だったら俺が教えてやる!
あの腐れ駄馬MSに跨って腰とケツを振り犬畜生どもを保○所へ送るテクニックをそのアカくて軽い木魚頭に直接流し込み棺桶に片足突っ込んでも忘れられない様にしてやるから覚悟しておけ解ったか!!?」
「サーイェッサー!!」
「………………ふむ」
パタンと手帳を閉じ、胸元のポケットに入れながらゼンガーは4人を見渡す。
「とまぁこんな感じだったな……ん、どうした?」
思わず数十歩下がってゼンガーを見ている3人娘と、2・3歩下がっているフレイの姿が其処にあった。
合言葉に答えよ。
男の求めにククルが応じたのを最後に、桟橋に沈黙がおりた。
ククルも男も、そして他の3人も言葉を発しない。
徐々に大きくなる潮騒の音と打ち寄せる波。
ゆっくりと頭上をカモメがミャアミャアと鳴き、左右へ大きく揺れながら飛び去っていった。
やがて工作員の男の、潮風でやや渇いた唇がゆっくりと開く。
ククルは眼を細め、イザークは眉をはねあげ、ディアッカは唾を飲み、ニコルは息を呑んだ。
「『知世ちゃんとさくらちゃんは現在、小学生か、中学生か、高校生か、大学生か、何れのどれだ?』10秒で答えろ」
「『二次元の幼女は歳をとらないから、ファンの中では永遠に小学生』……だったな?」
「よし、正解だ……受け取れ」
男が近くの岩陰に置いてある四つのバックを指差す。
イザークが確認の為に開けて見ると、モルゲンレーテ社の作業服と偽造IDが入っていた。
どれもこの国で潜入活動を行うには必要不可欠なものである。
「今の質問、一体何だったんでしょうね?」
「知らぬ。クルーゼが取り決めた事だ……私が細かい事まで知っている筈も無かろう」
「ま、そりゃそうだわな」
「どうでもいい事だ。急ぐぞ」
4人はそんな事を言い合いながら、着替える為に海岸線の茂みの中へと入っていった。
「何と言うかまぁ……」
彼らの後姿を、特にククルの背中を見送りながら工作員はぼやく。
確かに美しい女性だった。だが、彼の守備範囲からはかなり外れてしまっている。
「ザフトにもいないかねぇ……小学生の潜入隊員ってのは」
居る訳ないよなぁと愚痴をこぼしつつ、男は再び海面に垂らしている釣り糸と浮きに視線を戻した。
まぁ良いと思う。相方に任務を引き継いで非番になったら、市街地にある小学校へと双眼鏡片手にウォッチングへと行こう。
其処は男にとっての楽園、まだ二次性徴直前の美少女達で一杯だからだ。
「しかし、プラントの娘は発育が早すぎていけない……やはり小4位は『初めて』って感じじゃないとな〜」
男は、ヴァージンハンターだった。
幼女に関して言えば、コーディネーターよりもナチュラル派だった。
「しかし、何と言うかキツイですね〜」
フラフラとゾンビの様な動きで階段を昇る3人と、息を切らしながらもゼンガーの直ぐ後ろを付いていくフレイ。
小休止の後、彼らは次の訓練に赴くべく工場内を移動中だった。
とは言っても小休止の前が凄まじかった。
過酷と言われる士官学校よりも強烈な基礎訓練が4人に課せられたからだ。
格納庫内のランニングに始まり、徒手体操・腕立て伏せ等を数セット。
これを終えた時、3人娘は半死半生で息も絶え絶えな状態であった。
ゼンガーも勿論付き合い、彼女等の倍の数量をこなしているが息を切らしてすらいない。
彼女等が愚痴を言いつつも付き合っているのは、ゼンガーが身を持って手本を示しているからだ。
「これが、少佐が元の部隊で毎日やっていた訓練なんですかぁ?」
汗だくになった顔と首筋をタオルで拭きながら、M1のテストパイロットであるマユラが問う。
”サラリーマン的に”テストパイロットをこなして来た彼女等にとって、今の厳しい訓練に意味があるのか疑問なのだ。
「その通りだ。我等は戦技教導隊だったからな。他人に物事を教える立場故、人よりも高いスペックを求められる」
戦技教導隊に求められたのは、兵士が持つべきスペックの『理想体』だった。
当時の情勢から言えば、『ナチュラルでありながらコーディネーターを圧倒する戦力』なのかもしれない。
そして、彼らはそれを実現し疎まれた。皮肉にもそれを求めた軍上層部によって。
教導隊のメンバーに解散が命じられ、隔離する様に配属が為されたのも教導隊による成果が現れ始めた頃だ。
彼等にとって例え味方であろうと、自分達の手に負えない存在は許せなかったのだろう。
だが、如何に隔離し分散させようとも彼らの得たポテンシャルまでは消せない。
故にゼンガーは他の部隊へ移っても、出来る限り教導隊時代の訓練法を部下達に伝授した。
最初は反発もあったが、そこは彼の人徳と指導力か。
結果的には部下達は屈強な精兵へと成長しているし、今尚ゼンガーを恩師として慕っている。
トールやフレイも何れ成長し、かつての部下達の様に巣立って行く筈だ。
教導隊設立の意義が人を育てる事ならば、これこそゼンガーにとっても本懐だろう。
「これぞまさしく」
ゼンダム応援SS
武神装攻ゼンダム其七の外 『戦技教導隊式訓練術』
「次は精神鍛錬だ」
ゼンガーはある一室へと4人の訓練生を連れてきていた。
置いてあるのは十個近くの椅子と大きなモニターが一つだけ。
中央にあったテーブルは電動式で、今は床へと沈んでいる。
「次の精神鍛錬は生理的嫌悪と恐怖を克服する為のものだ」
「生理的嫌悪と恐怖……ですか?」
「そうだ。それを鍛えぬと戦場では生き残れん」
生理的嫌悪と恐怖。これは戦場ではつきものである。
戦場ではありとあらゆる恐怖、そして『見たくないモノ』が多数存在する。
生死を賭けた人と人との殺し合い。
直に己に向けられる憎悪と殺意。
さっきまで話し合っていた戦友や友軍が物言わぬ肉塊に変わっていく現実。
そして、彼等が『原型を留めない状態になったモノ』になったのを直接見る機会だってあり得るのだ。
あまりに極限状態が続いた為、発狂してしまったり精神の均衡を崩して廃人になるケースすら珍しくない。
現に戦闘疲労症と呼ばれる病状もあり、長期戦を戦う軍隊にとって頭の痛い問題の1つになっている。
故に戦技教導隊でもこの『精神面の強化』は重要視された。
強靭な戦士にはただ勇敢に戦う事だけではなく、生き残る為の屈強な精神も要求されるからだ。
人材とは一日一夕で育てられるものではない。
熟練にしても同じで、3年かけて育てるパイロットに簡単に戦死されてはたちまちの内に軍組織そのものが崩壊してしまう。
しぶとく生き残る技術を磨き、敗北してもそれを己を上昇させる契機とする。
そういった人物こそが強靭なベテランパイロット・兵士へと成長し、やがて自軍への貢献度を飛躍させていくのだ。
地球連合軍が序盤で敗走を重ねていたのも、単純に兵器や種としての能力で劣っていただけではない。
連合軍全体の思考から『戦闘に勝つ為の姿勢』と言うものがすっかり抜け落ちていた為だ。
安易に核兵器を使用して勝利を得る戦術に頼り切った結果、それが封じられれば呆気無く敗北を重ねてしまうのが良い例だろう。
ゼンガーの友であり、連合の士官学校で教鞭を執っていた男もそれを指摘して、何度も上層部と激突している。
だがこの時代の軍のシステムはそれを拒絶し、彼も同じく軍を去っていった。
彼を放逐した事で一体どれ程の人的損害が出たのか、当時の上層部将官達は未だに理解していないだろう。
『〔組織〕を護る事には敏感なくせに〔組織〕を構成する人材を教育する事には杜撰では話にもならん』
軍籍を離れる直前に彼が語った一言は、今尚ゼンガーの耳から離れない。
肝心な事を忘れて面子や派閥に拘っている軍組織等、〔張子の虎〕にすらなれないと言いたかったのかもしれない。
それでもゼンガーは軍に残っている以上、自分の手の届く範囲で彼の教えを実践し続けた。
1人でも多く生き残って欲しい、1人でも強くなり生き残って欲しいが為に。
彼は見返りを要求するつもりはない。
只、生き残って欲しかった。そして伝えて欲しかった。
自分達が確立した教練の意味を、兵士とは本来何を目指すべきなのかを。
「君達にも一定の精神の鍛錬を行っていこうと思う。これから先戦場に出て生還する為には必ず必要なものだからな」
フレイは真面目に頷いているが、3人娘は未だに納得している様子ではない。
ゼンガーの語る言葉、つまりは『精神論』に疑問を抱いているのだ。
「でも、直接殴りあったりする訳じゃないんですよ」
「そうですよ〜非合理的です」
「精神だけじゃ、何も出来ないですからね〜」
あくまで彼女等の言葉は否定的だ。
ここで誤解が生じているのは、決して『精神論』自体は間違っていないという点だ。
屈強な戦士には先にも述べた様に強靭な精神が不可欠である。
だが、かつての極東の軍隊がこれを曲解し、世間一般に精神論=無茶というイメージを広げてしまった。
彼等が間違っていたのは精神論の用法なのである。
つまり『精神論』を万能視し、これを絶対と定義した事によるのだ。
例え強靭な精神を持つ者でも、銃弾に当たれば死ぬし弾が無ければ戦えない。
食料が無ければ飢え死にしてしまうし、薬が無ければ助かる傷病兵も助からない。
こんな当たり前の事も忘れ、『精神を統一すれば』の一言で括り兵士の方に全責任を負わせたのだ。
良薬も、使い道を間違えればたちどころに毒薬となる。
そして後に残ったのは、それを信じて倒れた兵士達の死体と『精神論』に対する誤解だけだった。
よく意味も噛み締めずに物事を印象だけで決め付けて疎外するのは愚かとしかいえないだろう。
この戦争の両陣営の世論に蔓延している雰囲気、『ナチュラルだから』『コーディネーターだから』も決め付けの偏見や差別、そして相互の無理解と大して変わりはしないのだから。
「ちょっとアンタ達、いい加減に……」
「待てフレイ」
遂に怒り出したフレイを制し、ゼンガーは静かに彼女等を見詰めた。
「ならば君達に問おう。もし、君達3人が同時に出撃し、他の誰かが撃破されたとしたら……それでも平静でいられるか?」
「………」
「………」
「………」
沈黙。
3人は一旦眼を合わせたかと思うと、直ぐに逸らした。
平静でいられる筈が無い。
否、そもそもそんな事を考えた事すらなかった。
定時に出勤し、勤務時間内は査定に響かない程度に仕事を済ませて定時に帰る。
休日は市街地へ出て、流行の服を探したり美味しいレストラン巡りをしたりする。
それが彼女等の日常であり、何時までも変わらない生活のはずだった。
少なくとも本人達はそう思い込んでいた。
それをいきなり死ぬだの生きるだの言われたのだ。
ショックを受けるのも無理は無い。
「んぅ〜……」
「で、でもまさかね……」
「あー……なんと言うか……」
気拙い雰囲気が3人の間に漂う。
もし、他の2人が負傷したり、最悪戦死などした場合は……。
『………』
結局、3人は押し黙ってしまった。
いざ、イメージすると身体が総毛立つ。
まさかと思いつつも、考え始めると止まらない。
明らかに動揺している彼女等を見て、畳み掛ける様にゼンガーは言う。
「つまりはそう言う事だ。戦場において、それらの事象は珍しくも何とも無い」
「そ、そうなんですか?」
「そうだ、そして君等が動揺しているからと言って敵が容赦してくれる訳ではない。戦闘中にそんな事をしていたら……」
すっと指を立てると、軽く喉笛を横に斬る仕草を見せる。
「本人もその事象の仲間入りだ」
『………!』
ひっと息を呑み、沈黙してしまった3人娘を見てフレイが少しだけ嗤う。
彼女からしてみれば、ゼンガーに対して不遜な態度をとった事自体が許せないからだ。
「それでは改めて精神鍛錬を行う。全員、そこの椅子を持って来てモニター前に座れ」
『はい』
全員が部屋の隅にあった椅子を引っ張ってきて横一列に座る。
「本来なら座禅から始めるのだが、今回は女性のみという事もあって視聴覚で鍛錬を行う事にした」
「視聴覚……ですか?」
疑問形の問いを発したのはフレイだ。
普段の訓練では、ゼンガーは座禅や示現流式精神統一の訓練をフレイとトールに対して行っている。
それをいきなり視聴覚でと言うから驚いたのだ。
「座禅というのは毎日行うからこそ意味がある、しかし俺が彼女達に訓練を施せるのは今日だけだ」
そしてゼンガーは、懐から1本のメモリーカードを取り出すとフレイに手渡す。
「故に、速成の方法を取らせて貰う。本当はあまり使いたくは無いのだがな」
やや使い古した感のある、映像カードだった。
「この中に納められている映像をしっかりと観る事が今回の課題だ。時間はおよそ40分程らしいが……」
「らしいがって……少佐は見た事ないの?」
「俺は観ていない。と言うよりも、観るのを禁じられた」
主にそのメモリーカードに納められているビデオを鑑賞していたのは教導隊の関連組織に在籍していた女兵士達である。
彼女等も、教導隊式訓練を女性に試す為の訓練生として一定期間参加していた。
そして、当時女性訓練生達の間で『精神鍛錬』の名目で流行っていたのが、今ゼンガーの持っている映像カードである。
鑑賞したある者はショックを受け、ある者は「不潔です!」と叫び、またある者は精神的に逞しくなったらしい。
と言うよりも、鍛錬と称した根性試しという感じだった様だが、真に受けたゼンガーは精神鍛錬と受け止めてしまっていた。
どんなものかと興味を抱いてその方法を聞き出そうとしたものの、彼女達は口を割ろうとしなかった。
ちなみに鑑賞時には男性陣……特にゼンガーは遠くへと追い払われている。
異性に対して極めて愚鈍であるゼンガーは、その時彼女達が自分を含みのある眼で見ていた事に気付いていない。
教導隊が解散する際にコレを手渡された時も、何やらニヤニヤしていたのにも全く気付いていなかった。
「まぁ、恐らくは男が見るのには不適切な映像だったのかもしれんな」
「えっ……そーなんですか?」
「大丈夫ですよね?」
「身体的には問題ない筈だ、少々ショックを受けていた様な話も聞いてはいるが」
「えーまさか、呪いのビデオとかそういった奴?」
「ほら、井戸から女が這い出して来るとか?」
「見たら二週間で死んじゃうとか? 他人に見せると助かるって奴?」
「……馬鹿みたい」
横道に逸れた話題で盛り上がっている3人娘を尻目に、フレイはモニター脇にあるコンソールへと向かった。
「フレイ。先程も言った様にこの映像は男が見るには不適切なものらしい。だから……」
「外に出るのなら了解よ。後は私がやるから、少佐は珈琲とか飲んで待っていて」
「すまんな」
「フフ……大丈夫よ。さぁ」
親しみを含めた目線でウィンクすると、ゼンガーに外へ出る様に促す。
「では、後はよろしく頼むぞ」
「うん、任せて」
ゼンガーが会議室から出て行くのを見届けると、フレイはコンソールパネルを押してモニターとビデオ機能を立ち上げた。
電源が入り、再生環境が整ったのを確認した後、ゼンガーから渡されたビデオカードをスリットへ差し込む。
「これでよし……始まるわよ!」
「やっぱりさ、絶対に呪い系だよ!」
「違う違う、見ると中からスーパーヒーローが飛び出して来て……」
「そして観ていたヒロインと一目惚れして熱烈なラブラブ?
きゃ〜!」
「……始まるって言っているのよ」
騒ぐ3人を無視して、フレイはモニターの方を見詰めた。
彼女等も何だかんだ言いながらも、視線だけはしっかりとモニターを見ている。
やがて暗い画面を背景に現れる製作会社らしいテロップ。
騒いでいた3人も流石に黙り、モニター画面をじっと見ている。
そして十数秒。
真っ黒な画面に、ピンク色の一行の文字が浮かび上がった。
そのタイトルは 。
画面一杯に飛び散る汗。
『ヨシキ、すげぇ硬ぇよ』
『うん……気持ちいいよ』
迸る体液と粘液。
そして絡み合う男どもの肉体。
『どうだ、気持ちイイだろ?』
『ああ……尻が裂けそうだよ、でも止めないでぇ!!』
彼女達の視界に広がるもの。それはゲイ・ビデオだった。
しかも汁多め。○野家式に言えば肉だく汁だくだくと言った所。
「「「ぎゃ、あ、あ、あ、あ、あぁ〜〜〜!!!」」」
「きゃ〜素敵よぉ〜!!」
何故か歓喜の叫びを上げている約1名を除けば、性的な感性が普通である残り3人にとっては堪らない。
フレイ・アサギ・マユラは今まで生きて来た人生の中で、1番の生理的恐怖を感じながら辺りを見渡す。
このままでは危険だ。早く画面を停止させないといろんな意味で危ない。
「は、早く電源を、電源を消して〜〜!!」
「り、リモコンは、リモコンは何処〜!?」
「何処よ? 早く、早く消さないと!!」
テレビから流れて来る野郎同士の濡れ場と喘ぎ声に、必死の形相で耐えながらリモコンを探す3人。
こうしている間にもダメージは蓄積されていく。早く見つけねばならない。
だが、それは叶わなかった。
モニターの前に鎮座したジュリが、がっちりとリモコンをキープし一言。
「見れ」
「「「い、いやぁ〜〜〜〜!!!!」」」
おまけにコンソールまで抱き込んでキープし、どうあっても離そうとしない。
やばい、太平洋だ!!
フレイ・アサギ・マユラの3人は心中で叫ぶ。
先程まで相容れなかった者同士が分かり合った、感動的瞬間である。
だが、感動的であろうがナンであろうが、ヨシキの進行と汁の出具合は止まらなかった。
「はぁ〜やっぱりいいわよねぇ。鍛え上げられた男の人の躰って」
ジュリは引き締まった男優達の裸体を惚れ惚れとした表情で鑑賞している。
だが、彼女の暴走はそれだけに留まらない。
「ほら、みえるでしょこの覆面男」
ヨシキを包囲している男優達の中で、無意味に存在感を示している黒いアイマスクをした小麦色の肌の男優。
他の男優と比較して通常の3倍の速度で彼を弄っている覆面男を指差し、得意げに説明し始める。
「この逞しい肉付き。間違い無いわ……この人はエースよ」
眼鏡の下にある瞳をギラギラと輝かせながら、そう断じる。
「いや〜〜そんな指摘しなくてもいいよ〜!!」
「し、知りたくない。知りたくないわよそんな知識〜!!」
「い、いや〜エースパイロットは好きだけど、AV男優のエースは嫌〜!!」
腐臭の漂う視線をモニターへと釘付けにし、ジュリは涎を垂らしながらどっぷりとヨシキ・ザ・ワールドに浸っている。
めくるめく男色空間に、阿鼻叫喚の地獄を見出したフレイと2人は悲鳴をあげ続けるしかない。
「ねぇねぇアサギ、これって観る人間の事をしっかり考えて作ってあるわよ?」
「い、いや、しっかりだなんてどうでもイイから早く止めて〜!!」
ヨシキと覆面の男率いる男優軍団の組んずほぐれつの大肉弾戦。
一対六で行われる壮絶なる蹂躙性戦闘に、『そっち』に興味の無い3人は只々悶絶し続ける。
「う〜ん素晴らしいわ。とっても、ご・ち・そ・う・さ・ま」
「「「いやぁ〜〜〜!!!!」」」
そして。
恐怖の汁地獄はその後38分続き、同時にジュリの事細かな解説もエンドマークが出るまで延々と続いたという……。
「そろそろか」
時計を見たゼンガーは呟きながら、ブラック珈琲の入っていた紙コップをゴミ箱に捨てる。
男性が見てはいけない、その指示を忠実に守った彼はかなり離れた位置にある休憩室で時間を潰していたのだ。
「これで幾らかは改善されれば良いのだが」
廊下を歩きながら、ゼンガーは物思いに耽っていた。
速成式の訓練は彼の望むところではない。
だが、オーブに迫る戦雲は予想を遥かに超えたスピードだ。
もはや、躊躇している場合ではないのだ。
多少荒治療でも、彼女達……特に3人娘には意識の改変をして貰うしかない。
「む?」
そんな事を考えながら会議室へと入って来たゼンガーは、眼を丸くした。
何故なら、彼が退室する寸前とは全く異なる状況に室内は陥っていたからだ。
「あ、ありえない……絶対にありえないわよ……」
「……ママ、ママ助けて……汁は嫌、エースはもっと嫌……」
床へと倒れ込んでいるアサギとマユラ。
眼は虚ろで何も見ておらず、只々意味の無い呟き声だけが聞こえてくる。
そして、
「続きは、もっと他にビデオは無いの〜〜!!?」
ガンガンとコンソールをパイプ椅子で叩いているジュリ。
コンソールは殴られ過ぎたおかげで半壊していた。
あれでは中に入っているメモリーも無事では済まないだろう。
「……」
「フレイ、一体何があったのだ!?」
部屋の隅で座り込んでいたフレイに近寄り肩を揺さぶる。
何度か揺すると、虚ろだったフレイの眼に徐々に精気が戻って来た。
「気が付いたか?」
「あ、パパお帰り!」
嬉々とした表情でフレイがゼンガーに抱き付いて来る。
いきなり抱き付かれゼンガーが目を白黒させていると、フレイはにこにこと微笑みながら話しかけて来た。
「フレイね、パパがお仕事に行っていた間もずーっと、ずーっと良い子にしてたんだよ?
パパは良い子が好きだから、フレイも良い子にしてたのっ。偉いでしょ〜」
普段よりも舌っ足らずな声音で喋るフレイは、甘える様にゼンガーの胸に頬を寄せる。
「フレイ?」
「えへへっ……パパ大好き〜♪」
困惑するゼンガーを余所に頭をスリスリと撫で付けるフレイ。。
どうやら彼女はショックのあまり、現実を拒否して幼児退行してしまった様らしい。
それからゼンガーがエリカの助力を借りて、4人を訓練に復帰出来る精神状態へ戻すのに2時間かかった。
例のビデオカードはジェリがコンソールごと破壊してしまい、2度と使えなくなってしまっている。
一体何が起きたのかに関しては誰しもが口を閉ざして話そうとはせず。
ただ、ご機嫌なジェリが一言ゼンガーに、
「少佐、肉ダク汁ダクダクって最高ですねっ♪」
とだけ語ったと言う……。
「それでは、次は耐久力の訓練を行う」
何とか精神状態が落ち着いた4人を連れて、ゼンガーは施設の地上部へと出て来ていた。
彼がこの耐久力訓練の準備を行う為に費やした時間を含めれば、既に3時間が経過している。
「これが終れば本日の訓練はほぼ終了だ、あと少しなので頑張って貰いたい」
フレイとアサギとマユラは少しふらつきながらも、何とかゼンガーの方を見ていた。
ジュリは何故か黒いアイマスクをしていたが、他の3人は見て見ぬ振りをしている。
その話題に触れては己の命の危険に関わる そう彼女達の生存本能が警告していたからだ。
ゼンガーは些事に気を留めるつもりはないらしく、アイマスクに関しては何の指摘もしなかった。
それだけがフレイと2人にとって救いだった。指摘でもされて再びあの解説を始められたらもう逃げ出すしかない。
楽しげなジェリの様子とやや憂鬱げな残り3人の様子には構わず、ゼンガーは声を張り上げた。
「まずは、その小屋の中へと入ってくれ」
「あれですか?」
ゼンガーが指差した方には、安っぽいプレハブ小屋がポツンと建っていた。
周囲には建物も何も無く、僅かな数の倉庫が広い間隔で建っているだけ。
そんな広場のど真ん中に、その小屋は建っていた。
「あれが、耐久訓練の訓練施設ですか?」
「どう見ても只のプレハブ小屋だよね……?」
「で、あの中には濡れ場はあるの?」
「んもぅ……くだくだ言ってないで早く行きなさいよ。少佐が耐久訓練って言ったんだから耐久訓練でしょ?」
「まぁ大丈夫だ。この訓練は直ぐに終る」
ゼンガーの言葉を受け、未だ通常世界に復帰し切れていない1人を引っ張る様にして3人は小屋へと向かった。
中に入ってみると、何の事は無い。只の、変哲も無い六畳一間で折り畳んだパイプ椅子が幾つか置いてあるだけ。
「別に、なんも変わらないわよね……?」
「ふつーの、プレハブ小屋だわ」
「つまんないわ、こうずっぽりと……」
「変ね。少佐が意味の無い事するとは思えないし……」
各々好き勝手な事を言いながら、彼女達は室内に置いてあったパイプ椅子を広げて腰を降ろした。
「では、始めるとするか……」
4人が小屋の中へと入り、扉を閉めたのを確認してからゼンガーはゆっくりと歩き出す。
小屋から少し離れた所に置いてある特徴的な形の箱の側に立ち、箱の穴に1本の金棒を差し込んだ。
横にあるスイッチを押し、箱の電源を入れる。
そして小さなウィンドウに表示されている記号を見て、正常に『接続』されているのを確認した。
「最終確認完了……それでは参るっ!!」
ゼンガーはありったけの大声で叫ぶ。
それこそモルゲンレーテ社試験場地上部全体に響かんばかりの音量で。
「総員、口を半開きにして耳を塞げ!」
『はい?』
彼女等が反応を返す前に、ゼンガーは行動に出た。
気合と共に両手でT型の金棒を掴み。
「ふんっ!」
勢い良く下のボックスへと押し込む。
同時に、小屋の真下で何かの電子音が響き。
『えっ?』
小屋の中で4人が顔を見合わせた次の瞬間 。
モルゲンレーテ社試験場地上部から。
眩い閃光と巨大な爆炎が空高く噴きあがるのを、半径数km以内に居た人達全てが目撃したという……。
「な、何だ?」
「これが地震って奴かよ?」
地響きと共に低い爆音が聞こえる。
辺りの空気がビリビリと振動し、周囲の木々に居た野鳥が一斉に飛び立った。
「おい、アレを見ろ!」
素早く辺りを見渡したククルが、青髪の少女が逃げていく方の空を指差す。
ククルを除く3人は先程遭遇した芸人もどき達に一方的にぼこられた後なので、痣だらけの顔を痛そうに上げただけだった。
それでも任務とククルに忠実なニコルが、彼女の視線の先にあるキノコ雲を見て驚く。
「ククル……あれは?」
「うむ、どうやら『当たり』の様だな」
自分達の目指す方向に立ち昇る巨大なキノコ雲。
どうやら、あそこがモルゲンレーテ社の中枢らしい。
(しかし、何処にいっても目立つ連中だ)
あの下に大天使が居る事を確信したククルは薄く笑う。
そして全員の顔を見渡し追跡の続行を宣言した。
「行くぞ、先に逃げていった娘を見失うな」
「はい!」
「ちっ……人使い荒いぜ」
「言われなくともそうするっ!!」
4人は再び、遠ざかっていく少女の背中を追いかけ始めた……。
モルゲンレーテ社試験場地上部
プレハブ小屋 ”跡地”
爆発後のプレハブ小屋周辺は凄惨な状態だった。
半径10mを超える巨大なすり鉢状のクレーターが出来、周囲の倉庫にも少なからぬ被害が生じていた。
遠くから消防車のサイレンが聞こえてくる中、1人の影がたちこめる硝煙の中から立ち上がる。
「むぅ……」
爆発と爆風を気合と根性だけで乗り切ったゼンガーは、肩にかかった粉塵と硝煙を払いながら辺りを見渡す。
舞い上がった破片が周囲に降り注ぐ中、ゼンガーはさっきまで小屋が『存在した』場所、クレーター中央部を見詰めていた。
「少し、火薬の量が多過ぎたか……?」
クレーターが出来ていると言う事は、その上にあった物体と大地が丸ごと吹き飛んだという事だ。
安っぽいプレハブ小屋など、跡形も無く消し飛んだのだろう。
「まぁ、大丈夫だろう」
精々、重さ8tの兵員輸送車がビル5〜6階の高さまで舞い上がる程度の破壊力。
仕掛けた火薬も、数百sのTNT爆薬とセムテック爆薬を半々で小屋の真下に浅く埋めただけ。
たいした事は無い。
この程度の危険、ゼンガーと教導隊のメンバーは笑いながら何度も乗り越えて来た。
「しかし、万が一と言う事もある」
そう呟くとゼンガーはクレーターに向かって歩き出す。
手にしているのは、家庭用救急箱。
どうやら、訓練生達が負傷したかどうか気にかけているらしい。
如何にも、厳しさと優しさが両立しているゼンガーらしい心遣いと言えよう。
流石は大天使の剣と呼ばれる武人である。
「こ……これは」
未だに黒煙が上がっているクレーターの縁まで来たゼンガーが珍しく驚きの声をあげた。
彼が見た信じられないもの、それは。
「「「「きゅう〜」」」」
折り重なる様にして倒れている3人娘とフレイ。
ヘロヘロな表情に渦巻き状態になった目。
煤けた全身にプスプスと出ている煙。
躰の線もリアルではなく何だかヘナヘナな太線で、ジュリに至ってはカートゥーン化している。
そして。
フレイも3人娘も例外無く全員アフロだ。
「まさかギャグ化して爆発のダメージを防ぐとは。驚かされたぞ……見事也!!」
流石のゼンガーもこれにはびっくりした。
まさか、己自身の事象をギャグ化しダメージを軽減させる等、戦技教導隊のメンバーですら考え付かなかったのだから。
「訓練生に驚かされるとは、まだまだ俺も未熟だな……」
「し、少佐……?」
納得してウンウン頷いていたゼンガーの耳に、弱々しい声が聞こえて来た。
「フレイか?」
「少佐……」
クレーターから這い出して来たフレイが、ソウルフルな髪型そのままでよろよろと近付いてくる。
「だ、大丈夫よ……ほら見て少佐。わ、私だけでもこうして無事に帰って来たんだから……」
ガクガクブルブルと全身を震わせながら、彼女は両手を広げて見せる。
だが、そこまでが限度だったのだろう。
「はぅ……」
フレイの身体が、ゆっくりと崩れ落ちる。
ゼンガーは素早く近寄って受け止めると、優しくそのアフロな髪を撫でた。
「大丈夫か?」
「う、うん大丈夫……たぶん、大丈夫だから。大丈夫、大丈夫、わたしがいるから……大丈夫……私の想いが……少佐を守るから……だから、守ってね……あいつら皆やっつけて……フフフ……アハハハ………アハハハ……アハ」
支離滅裂な事を言っているフレイ。
だがゼンガーの眼にはそれが気丈に振舞っている様に映った。
「それだけ喋れれば大丈夫だな。よくぞ、ここまで成長した……」
馬鹿愛弟子の成長に思わず目頭が熱くなるゼンガー=ゾンボルトであった。
こうして誤った認識のまま、教導隊式の訓練は続いていく。
3人娘と周囲を巻き添えにして。当然の如く、彼女等に拒否権は一切合財無い。
「「もう、勘弁して下さぁ〜〜い!!」」
「ヤヲイとホモは違うのよ〜〜!!」
無自覚に被害を与えた加害者か、被害者である認識の無いまま突っ走った者が状況を動かす。
それが世界の選択である。
言い訳後書き
これで、フレイと3人娘の死亡フラグが消滅しました。
ノバさん、ご安心下さい。シナリオは既に修正済みですw
管理人の感想
takaさんからの投稿です。
・・・本家本元のフルコースでしたね(笑)
ゼンガーが誠心誠意、大真面目にこの訓練を指導しているのがまた笑いと涙を誘います。
しかし、ギャグキャラ化をすれば致命傷も大丈夫なのか・・・ゼンガーは気合と根性で凌いでましたけど。
何気に某仮面の人が危ない道を走ってませんか?