フルメタル・パニック!

<わがまま娘のカプリース>

第2話

宗介のアパートにて。
宗介、かなめ、テッサの三人は頭を寄せあって悩んでいた。

「ソースケが奇跡的に信じてくれたのはよかったとして」

テッサが口を開く。アッシュブロンドの髪を三つ編みにし、
普段は柔和な灰色の瞳を勝ち気に輝かせている。

「ええ・・・。今日はまだしも、明日からどうしましょう・・・」

かなめがテッサの言葉を受けて続ける。こちらは黒い髪を腰まで伸ばし、礼儀正しく座っている。
幾分のほほんとした感じをうけなくもない。

「むぅ・・・・・・」

宗介だけがいつもと変わらない戦争バカっぷり満載だった。

「今日も十分問題よ?だって・・・」

「メリッサとウェーバーさんですね・・」

美少女二人は顔を見合わせると、揃ってため息をついた。

 

 

三人がかなめのマンションに戻ると、何故かクルツが沈んでいた。
マットに(ベッドの)。
ついでに縛られていたりもする。

「へ、へへ・・・。燃え尽きたぜ・・・。真っ白によぉ・・・」
「・・・・・・クルツ君?」

テッサが心配そうにかけ寄る。宗介とかなめはそのあとに続く。

「どうしたのよ?こんなアザなんか作って・・・」
「いやなに、姐さんが激しくてね」

青タンのまま決めるクルツ。

「何してんのよあんた達・・・」
「んー、教えてもいいけど」

ジト目でクルツを睨むテッサの声に、後ろから答えが返ってきた。メリッサ・マオだ。

「あ、シャワー借りたから」

マオはついでのように言う。かなめは一瞬ぽかんとしていたが、
自分に言われているのに気がつくと、慌てて頷いた。
マオはタンクトップにジーパンという姿だった。
髪の毛が湿っているのは今まで入っていたという事なのだろう。

「へ?シャワーって・・・」

テッサが間抜けな声を出す。それはいつものテッサからは想像もできないような声だった。

「ま、そゆことよ」

自慢気にいうクルツにつかつかと歩み寄ると、マオはかかとで踏み抜く。

「んー。何か二人になったら急に襲ってきたもんで。返り討ちにしたんだけどね」

のんびりとした口調とは裏腹に、足はクルツを踏み続ける。

「あんた、人の部屋でなんちゅーことを・・・」

テッサがこめかみをひくつかせて拳を握る。それを見てかなめがあたふたと止めに入った。

「で、こいつが死んでるうちにシャワー浴びようと思ったら、
かなめの下着を物色しようとしたんでね。
つい縛っちゃったのよ」
「つい、で縛るのか・・・」

宗介は額に一筋、汗を流しながら呟いた。それに答えたのはマオではなくテッサだ。
クルツの前に仁王立ちになりながら言った。

「乙女の秘密を知ろうとする奴は、つい、で殺されても文句は言えないのよ、ソースケ・・・」
「そ、そういうものなのか・・・?」

先程よりも大きな汗を流す。今度は答えず、テッサは無言で足を振り上げた。
頭より上まで足をあげ、そのまま真っ直ぐに降り下ろすーーー

「テッサ、あなたらしくないですよ!!」

ねりちゃぎがクルツの脳天に直撃する寸前、かなめが叫んだ。

「・・・テッサ?」

「何を寝呆けてるんですか。テッサはあなたでしょう」

不思議そうに言うテッサに、かなめは少し馬鹿にした様に言い返す。そう言われて、テッサも我に返った。

「あ、ああ・・・。そうだった、でした」
「ふぅ・・・。私はもういいですから、ウェーバーさんを許してあげてください。お願いします」
「・・・あなたがそういうなら、ま、いいけど」

テッサは仕方ないといった感じで、クルツの脳天に直撃した
ーーー寸前に言われたところで止まるはずがなかったーーー足をどかす。

「?二人とも、なにを言っているんだ?さっきは確かに君が千鳥だと・・・」

二人の考えを全く理解していない男は声をあげようとしてーーーテッサに足を踏み抜かれた。

「・・・痛いぞ、千鳥」
「何言ってるの、相良さん?(マオさんとクルツ君には秘密なんでしょ!!)」

言葉は穏やかだが、ものすごい形相である。
先程まで自分がすっかり忘れていたことは棚に上げまくってこの言い様。
だが、さすがの宗介もかなめの言いたいことは通じたらしく、

「あ、ああ・・・。いや、何でもない、テッ・・・サ」
「そう?ならいいけど(はぁと)」

にこりと微笑む。だが何故か宗介は、脅えた顔をして目を背けた。

「テッサ・・・。顔、恐いよ、アンタ」

マオに言われてハッと気づく。

「あ〜・・・。いや、何でもないんです、ええ」
「・・・・・・ふぅん」

パタパタと手を振って誤魔化すテッサ。マオは何も言わないが、少し目を細める。

「と、とりあえず、もうお昼だし。ご飯でも食べない?」
「あ、それじゃ私作りましょうか」

取り繕うように言ったテッサにかなめが合わせる。
テッサも、私も手伝うわ、と二人で台所へ引っ込んだ。

「・・・・・・ふむ」

なんとか誤魔化せたようだ、と安堵する宗介。が、

「さて、ソースケ?聞きたいことがあるんだけど」

マオの言葉に固まる。

「あの二人、なにがあったんだ?」

マオに続けてクルツ。いつの間にか縄抜けしていたりなんぞする。

「いや、その」

二人の視線を真っ向から浴び、冷や汗を流す。

(どうする?千鳥は二人には死んでも秘密だと言っていた。
千鳥達は誤魔化しきれたが、俺にはとてもあのようなことはできない。となると・・)

「すまない、二人とも・・。俺はお前達が好きだった」
「・・・急に何言ってんのよ?」
「ソースケお前・・・目がヤバいぞ」

二人の心配そうなーーー少しヒいているのは明白だがーーー声にも耳を貸さない。
宗介はその言葉とは裏腹に、どこからか銃を取り出すと、

「すまん」

何のためらいもなく発砲した。
弾はラバー弾である。
致死性はない・・・が、当たるともの凄く痛いのは当たり前。
クルツはどてっ腹に受け、

「おふっ・・・」

と呻いたきり昏倒する。

「ちょ、ちょっと、ソースケ!?」
「すまんマオ、悪く思わんでくれ」

すまないと思っているにしては、恐ろしいほど素早く正確な速さでマオに照準を合わせる。
うろたえるマオを尻目に再び発砲ーーー

「ソォーースケェェェッッッ!!!」

しようとしたが、銃声に驚いて出てきたテッサのジャンピングニー
(台所で覗いていたかなめは膝タックルだのと呼んでいた)によって未遂となった。

「・・・痛いぞ、千鳥」
「だからイタいのはアンタでしょ〜が!ってゆ〜かすでに一人始末済みだし!」

テッサは宗介に詰め寄ると、首を締めあげる。

「やめろ、千鳥。極まっている」
「ああ!?わ・た・し・は!テッサだし、関係ないわねっ!」

きっぱりと言い切る。
宗介は赤から青、紫へと顔色を変え、

「・・・・・・む」

オちた。
ぐったりとした宗介をクルツの上に乗せる。
その様子は、ギャグマンガでよく見る、ザコが倒された後の風景に似ていないこともない。

「あんたって奴は、まったく・・・!」

男性の重さと自分の予想以上の非力さに肩で息をしながら、テッサは毒づいた。

「あ、あの・・・テッ、サ?」

少し怯えた様子でマオが声をかけた。その声に、はっと我に返る。

「あ、ああ、いけない。東京に来たのが嬉しくて、つい。うは、はははは・・・」

誤魔化すように笑うが、そもそもその笑い方がテッサらしくない。
引きつった笑みを張り付かせ、料理の手伝いをしなきゃ、と
立ち去ろうとするテッサの肩をマオは優しく叩いた。

「・・・私も手伝っていいかしら」
「・・・・・・喜んで」

ごめん、<テッサ>。もうバレたかもしんない。
<かなめ>は張り付いた笑顔の下で、<テッサ>に謝っていた。
そのころ、かなめーーー<テッサ>ーーーは。

「ええと・・・。玉ねぎ、お肉・・・。やまあおい?どんな食べ物なんでしょう・・・?」

だのと、冷蔵庫をあさっていた。普段料理をしない戦隊長にとって、
今日は腕を上げるチャンスでもあったのだ。

(<カナメ>さんにこれ以上サガラさんを餌付けさせる訳にはいきません!
例え敵の手を借りようとも、やれる時にやる!これが勝つ秘訣です・・・!)

と、胸の前で拳を握り締めてみたりする。

「・・・かなめ、さん」

とそこに、宿敵が現れた。今は自分の姿をしているが、
いずれはーーーと、そこで思考を中断する。

「メリッサ・・・マオさん?」

テッサの後に、マオがついてきている。
確かにメリッサは料理もかなり出来る。自分よりはずっと上手い。が、

「マオさんはいいですよ。手伝いはテッサだけで十分です」

にっこり笑うと、やんわりと断る。
ボロが出るとすれば多分ーーーこの人の前が一番高い。
だがマオは、いいのよ、と一言言うと、じゃがいもの皮を剥き始めた。

「・・・どうしたんですか」
「ごめん、怪しまれてるかもしんない」

テッサが小声で手を合わせる。
一応訊ねてはみたものの、理由は分かっていた
ーーーというより、リアルタイムで聞いていたのだ。
かなめは小さくため息をつく。

「やってしまったことは仕方ありません。
それよりも、これからきちんとしていかなければいけません・・・お互いに」
「う、うん。分かった」

かなめの言葉に頷く。その様子をマオは不思議そうな目で見ていた。

「・・・・・・どうしたのよ、二人して」

マオが怪訝そうに聞いてくる。二人は慌てて何事もなかったかのように振る舞ってみせた。

「いや、サガラさ・・・ソースケのことを尋ねていただけですよ?私は」
「そ・・・そうそう。こっちでのことをね、ちょっと」
「ふぅん?」

その後は大して気に止めなかったようだ。皮剥きを再開している。

「で、カナメ。これで何作るの?」
「とりあえずカレーを、と二人で話していたんですけど」

かなめはたどたどしくも一生懸命に玉ねぎと格闘していた。
マオの言葉は耳に入っていないようだ。マオの問いかけに、代わりにテッサが答える。

「目・・・・・・!目が・・・!」

涙目になっているかなめにマオが近寄る。玉ねぎを取ると、軽やかにきざみ始めた。

「ををっ・・・。さすがマオさん・・・」

思わずテッサが感嘆の声を漏らす。

「あ、ありがとうございます・・・」
「お礼はいいから。それよりも、お肉は切ったの?」
「あ、いえ、今から」
「じゃ、カナメはお肉切って。テッサはあたしの皮剥きの続きをお願いね」

いつの間にかマオが仕切っている形になっていたが、二人とも大人しく指示に従う。
それだけマオのやり方がいいのだ。
鍋で肉を炒め、それに野菜を放り込む。
ぐつぐつと煮込ませながら、マオは小さく息をついた。

「ん。あとはルウを入れるだけね。
じゃがいも余っちゃったから、ポテトサラダでも作ればよかったわね〜。
・・・それにしても、かなめって一人暮らしなんでしょ、今。カレーなんてよく作ったりするの?」
「え、えぇ・・・。友達などを呼んだりする時には、よく作りますよ」

マオの問いかけにテッサは一瞬凍り付くが、かなめはそつなく答える。

「へぇ〜・・・。じゃあさぁ。ソースケにご飯とか作ってあげたりとかはしてる訳?ん?」
「え、えと、それはその・・・」

マオの意地悪な問いに、かなめはテッサに助けを求めるかのように視線を投げる。
が、テッサは顔を赤くして目をそらしてしまった。

(そ、そういうことですか・・・!
カナメさん、私には一言も言っていないのに、
やはり餌付けはしていたのですか!
いいでしょう、私にも考えがあります・・!)

かなめはにっこりと微笑む。その笑みのまま、

「は?何で私が?私、テッサの協力をするって約束したんですよ?
テッサの手伝いこそすれ、恋路を邪魔しようだなんて、できません」

と、いけしゃあしゃあと言ってのけた。その言葉にテッサが顔色を変える。慌てて話題を止めにかかった。

「な、なんの話ですか?それよりも、カレーのことでしょう?」
「あ、そうそう。やっぱカレーって一人で食べてもおいしくないのよね・・」

マオはかなめ達のことは気にも止めなかったようだ。灰汁を取りながら会話を続ける。

「私もちっちゃい頃はよくやってたっけね・・。
焼肉だったり、ケーキだったりしたけど、みんなで食べるのって何か違うのよね・・・」

マオは昔を思い出すかのように少しだけ遠くを見つめる。
それから、いいことを思い付いたような笑顔になって振り向いた。

「今度はTTDでもしましょうよ、ね、カナメ」
「はい、喜・・・ん、で・・・」

振り向かれた相手はにこやかに返事をしようとしーーーそのまま固まる。
テッサは目を泳がせながら必死になって次の言葉を探す。

「えと、喜んで・・・・・・御招待、しますよ?」
「あ、その、ありがとう。ぜひ行かせてもらいますっ」

冷や汗を流しながらお茶を濁そうとする。しかし、宗介はともかくマオの目を誤魔化しきれるはずもなかった。

「・・・まあ、御招待はするけど?その前にアンタ達ーーー何のジョークよ、それ」
「え、えと、メリッサ?」

かなめの言葉には耳を貸さず、マオは続ける。

「私が見たままのことを言うけどーーーアンタ達、変よ?
なんてゆうか、お互いがお互いのフリをして、
しかもそのことを必死に隠そうとしてる・・・?
そう見えるんだけどね」

自分で言ってみても要領を得なかったのだろう。言葉を選びながらマオが言う。

「それとアンタ達が朝から変なの、あれも何か関係あるんでしょ」

たたみかけるように言われ、二人はがっくりとうなだれる。

「な、なんかすぐばれたんだけど・・・」
「ええ・・・。さっきの決意は何だったんでしょう・・・」

詰めよるマオの顔を見ながら、二人は諦めたように呟いた。

 



「で?そのウィスパードとやらの所為で二人が入れかわっちまったって訳か?」

クルツが唖然とした声で言う。せっかくだから、と<かなめ>が開き直ってしまい、
クルツの前で全てをばらしたのだ。その隣ではかなめが深々とため息をついている。

「そう思ってもらって結構です・・・。
ですが、よく信じてくれましたね・・・
自分で言うのも何ですが、こんなのって正気を疑わざるをえません」
「うん、まあ・・・ソースケが面白半分でこんな事言える訳ないって分かってるからね」
「そうそう。言える位の甲斐性あるならテッサ達も苦労してないぜ」
「「確かに」」

クルツの軽口に、お互いに口を揃える。宗介は少し撫然とした表情になるが、結局黙っていた。
かなめがSRTの3人に向かって告げる。

「このことはブラック・アウトです。本来ならばあなた方には知る資格はありません。
が、これは緊急を要する事態です。そこでーーー任務を与えます」
「任務?」
「・・・まあ、想像はつくけどね」
「ああ」

クルツ、マオ、宗介はかなめの言葉に三者三様の反応を見せる。

「<私>はこれから2週間の休暇をとります。その間にーーー可能な限り<かなめ>さんのことを知ろうと思います」
「へ?<私>?」

テッサが驚いて顔をあげるが、構わずに話を進める。

「代わりに<カナメ>さんには<私>の持っている知識を全て会得してもらいます」
「つまり俺たちはーーー」
「そのサポートですね」

クルツと宗介の言葉に頷く。

「もちろん、<私>と<カナメ>さんも人間ですから、限界というものはあります。

そこで、私達がこういう事態であることを誰にも漏れないようサポートしてもらいます。
トーキョーでは、サガラさんが<私>を、
ミスリルではメリッサとウェーバーさんとで<カナメ>さんをサポートしてください」

淡々と話すかなめに対し、テッサはひどく狼狽した様子で、

「ちょ、ちょっと待ってよテッサ。私、潜水艦の指揮なんて出来ないし、あなたの代わりだなんて・・・」
「大丈夫です。以前TTDと一つになった時のことは覚えているはずです。
大抵のことは今のあなたなら乗り切れます。
それに・・・。もしこれがマデューカスさんに知られたら、私は確実に艦から降ろされるでしょう・・。
それはーーーそれだけは、嫌なんです」
「<テッサ>・・・」

かなめの真剣な様子に気押されるテッサ。やがて、ため息をつくと、渋々といった感じで頷いた。

「しょうがない・・・。やるしかないか・・・」

かくして。

後にTTD内で語られることとなる、<女神乱心>事件
ーーー陣代高校では<かなめの記憶混乱>事件といわれたがーーー
は幕を開けたのだった。






続く







後書き

逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ・・・。

よし。

こんにちわ、どうもこのシリーズ、私の文才のなさを露呈する為に存在するみたいです。
Kに、
「待たせた挙げ句にこれか」
「期待外れもいいところじゃないか」
「つ〜か期待してくれた人に対する裏切行為だ」だのと言われまくっております。
ええ、反論の余地はございません(泣)。

次こそは、次こそはぁぁっ!!と思っていると、
「お前次々言ってるからいつまでも駄文なんだよ。今回やれよ、今回」と言われました(泣)。
本当に反論できん・・・。
でも、実はKも期待してくれてたんだ〜、とちょっと嬉しかったり(爆)。

今回も最後までつき合ってくださった皆様、ありがとうございます。
Kに「マンネリ化してる」と言われましたが、
次は(あぁ、また次っていっちゃった・・・)もっと、こう、
ひねりのきいた奴をお送りできればなぁ、と思います!・・・・・・首締めたかも。

では、次回も駄文にお付き合いを・・・。

 

 

代理人の感想

うむ、持つべき者は友人ですねぇ。

仲良きことは美しき哉。

 

それはさておき作品ですが・・・

ん〜〜〜。

ぶっちゃけ、そんなに悪いわけでもないと思います。

 

ただ、日常的な描写やチョットした会話などはともかくとして

話の高低差というか、盛り上がり盛り下がりに欠けるのは確かかもしれません。

盛り上げて落す、あるいは盛り下げてぐっと上げる事を意識して見てはいかがでしょうか。

ではまた。