「ソースケ」
「・・・何だ」

 俺が呼びかけると、ソースケは銃の手入れをやめて顔をあげた。

「テッサちゃんに言われたんだけど・・・。M9の乗り方、教えてくれないか?
 ソースケに頼むのが一番だって言われたから・・・」
「ASの操縦を教えなければいけないのか・・・?」
「・・・駄目か?」
「・・・ブローディアに乗っていたからな。大佐殿の様なことにはならんだろう」
「ん?」
「いや、こっちのことだ」

 ソースケは何故か青い顔をしていた。



   <さ迷うゲスト・オブ・フューチャー>

         第3話


 「テンカワさん、あなたにはM9に乗ってもらいます」

 訓練場で呆然と立ちすくんでいた俺を現実に引き戻した声。
 テッサちゃんは先ほどとは違う、軍人としての瞳で俺をみていた。

「ブローディア、見せてもらいましたが・・・。あれに乗っていた位です。M9の腕もきっとトップクラスになれますよ」

 楽観的にーーーともすれば考えなしに言っているようだが、その調子とは逆に自分の言葉に確信をもっている。

 自分の目利きを信じることができる、か。やはりこの艦長は只者じゃないな。

 「大佐殿、自分はこれで」

 ソースケが軽く礼をする。テッサちゃんは少し残念そうな顔をしたあと、返礼をしていた。

「すみません、話を続けてもいいですか?」
「え? ああ、もちろんだよ、テッサちゃん」

 軽く答える俺にーーー何故かーーーテッサちゃんは顔を赤らめた。

「? どうしたの?」
「い、いえ。『テッサちゃん』と呼ばれたので、その・・・恥ずかしくて」 

最後の方は消え入りそうな声でつぶやく。

「あ、ごめん。階級も違うのに慣れなれしくいったりして

「いえ! そんなんじゃないです!」

謝ると、何故か強く否定された。

「そう? なら、いいんだけど・・・。向こうがこんなもんだったんで、ついね」
「向こう? ・・・ああ」

 俺に訊ねようとしてーーー口をつぐむ。が、またすぐに口を開いた。

「向こうは厳しくなかったのですか?」
「う〜ん、というより、そもそも軍人じゃなかったからね、俺」
「は?」

 その答えはさすがに予想出来なかったのだろう。目を丸くしてこちらを見る。

「ナデシコは元々企業の艦ーーー民間船なんだ。
 まあ、途中から軍の下にはついたけど、俺達は会社からの派遣社員て扱いになってて」
「・・・そうなんですか」

 ポツリと呟く。その心中は俺には解らない。顔をあげた時、テッサちゃんは元の柔和な顔に戻っていた。

「すみません、また脱線してしまいましたね」
「いや。いいよ。で、M9・・・だったっけ。それに乗ればいいの?」
「テンカワさんには2日で乗りこなしてもらいます」

 さらりといわれた所為で、俺は一瞬何のことだか分からなかった。

「ちなみに、次の任務には参加してもらうと思いますのでーーーたぶん、M9で」

固まっている俺をよそに、話を続ける。

「・・・て、ちょっと待って」
「はい、何でしょう?」

 可愛らしく小首を傾げるテッサちゃん。

「それって、そんな簡単に乗れるものなの・・・?」
「大丈夫ですよ。ニッポンの自衛隊では、民間人がぶっつけ本番で乗った事もあるとサガラさんから聞いてますし」
「・・・そうなの?」

 俺も他人のことは全く言えないのだがーーーぶっつけでエステに乗ったしなーーーさすがに呆れてしまう。

「ええ。私でさえ3日でーーーまあ、私の場合M6だったんですけでどーーーでも、走れるようになったんです。
 テンカワさんなら大丈夫ですよ」

(励ましてくれるのは嬉しいんだけど・・・)

 俺の心の呟きは、当然テッサちゃんに届くはずもなかった・・・。



「・・・変わってるな」

 M9に入ったアキトの最初の台詞はこれだった。中は狭く、ほとんど人一人がやっと、という位だ。
 人型の蝋をつくるための型のような感じである。

「とりあえず、起動させてみろ」

 宗介が下の方でトランシーバー越しに指示を出す。
 アキトが言われた通りにすると動力源が入り、電子機器が作動して、

「やっほ〜。アキト兄ぃ!」
「・・・どこにでも現れるもんじゃない」

 半眼でツッコむアキト。M9のAIかと思ったじゃないか、と心の中で付け加える。

「むぅ。折角来てあげたのに」
「だから止めとこうって言ったじゃないか・・・」

後ろからブロスの声。

「いいから、お前達邪魔」
「・・・!  私を捨てるのね!」
「どこで覚えた、そんな台詞」

 涙目で訴えるディアと、やはり半眼のまま答えるアキト。

「別に二人がいらなくなったと言ってる訳じゃないんだ。ただ、これにはもうAIがあるからね。
・・・それに、二人には仕事をしてもらいたいし」
「なに、アキト兄ぃ」
「ブローディアの正確な破損状況と、修理にかかる時間。
それとできれば遺跡の行方かな。調べて欲しい」
「アキト、何をしている?」

 宗介が怪訝そうに訊ねてくる。アキトはごめん、と一言言うと、ブロスとディアを見やった。

「さ、頑張って。あ、あとこの世界の情勢なんかも調べといて」
「う、うん」
「やってみる」

 二人が消えるのを待って、アキトは宗介に言った。

「ごめん、ブロスとディアが急に来てさ。もう大丈夫。続きを教えてくれ」


 宗介はいぶかしげな表情を見せたが、会話は聞こえていたのだろう。それ以上は何も言わずに続きを口にする。

「・・・ASは、搭乗者の動きを真似る。基本はそれだけだ。・・・足を少し上げてみろーーー少しだけだぞ」

 言われる通りに、足をチョン、と上げてみる。すると、
M9はビシッ! と音がつきそうな勢いで踏み出した。

「簡単に言えば・・・それだけだ。あとはその状態で戦闘が出来ればいい」
「本当に簡単に言ってくれるな・・・」

 冷や汗をかいて呟く。IFSとも、操縦桿とも違う。
動きを全くそのままトレースしてくれればまだ楽だったのに・・・と一人ごちる。慣れてしまえばいいのだろうが、
一瞬の判断の際には、と考えるとやはり不安がある。

「・・・ま、なんとかなるだろ」

 溜め息一つ、呟く。

 そして、それから2日後。
 
 アキトはテッサの予想通りーーー本人達以外は目を丸くしていたがーーー
 戦闘に出しても足を引っ張らないレベルまでになっていた。




 「それじゃ、まず最初の任務ですが・・・」

 第2状況説明室で、テッサが口を開いた。
本来任務指令などは、カリーニンやクルーゾーが直接下すのだが、テッサは自分が、と言ったのだ。
当然ーーーマデューカスはいい顔をしなかったが。
アキトは黙って続きを待つ。呼び出されたマオとクルツ、宗介は後ろも黙って立っている。

「トーキョーに行ってもらいます」
「で、何をするんですか?」
「まさか・・・」

 アキトが訊ねるのと、宗介が呻くのが同時。それよりも若干遅れて、

「アキトも高校に転校か?」
「カナメの護衛?」

マオとクルツが訊ねる。それにテッサは微笑むと、

「ええ。<アマルガム>がカナメさんを知っている以上、気は抜けません。
 なんらかの動きもあるみたいですし。1、2週間程度ですが、短期留学という形になります」
「大佐殿。お言葉ですが、自分一人では不十分だと・・・?」

 テッサの言葉に宗介が口を開いた。心なしか、不満の色が混じっているように見える。

「そうは言ってません。ただ、念は入れておくに越したことはないと言っているんです。
 それに、最初の任務からM9に乗るというのはさすがに荷が重いかと・・・。
 そういう訳です。分かってくれますか?」
「・・・は」

 そう答えたものの、完全に納得したとはいえない宗介の様子に
クルツは面白そうに笑い、マオは複雑な表情を浮かべた。

 「テッサちゃん、カナメちゃんって?」

 一人話の見えないアキトが訊ねると、ああ、といって続ける。

「千鳥かなめさん。ある理由で組織から狙われています。その子の護衛が最初の任務です。
 テンカワさん、これから先、作戦中のあなたのコールサインはウルズ13。階級は軍曹です。
 あなたはこういうのは好きではなさそうですが、これは決まりなので。すみません・・・」
「いや、いいさ。テッサちゃんのお蔭で生きていられるようなもんだし。恩返し位はしないとね」
「ありがとうございます。それで、その、他の人の目がありますので、作戦中は、その・・」

と、言いよどむ。それを察したアキトは苦笑すると、了解、と呟いた。

「それでは、明後日からお願いしますね」
「・・・あさって?」
「ええ」
 ニッコリと笑う。その笑みには邪気のかけらもなかったがーーー何故かその場にいる全員が汗を流した。



 艦長室に戻ると、テッサは制服のままベッドに突っ伏した。そして、写真立てを手にとる。

 宗介と砂浜で撮った、たった一枚のーーーそして、多分宗介にとっても初めてであろうツーショットのーーー写真。
しばらくそれを見つめていたが、やがてそれを胸に抱く。そして、小さく呟いた。

 「・・・テンカワさんはたぶん二十歳前後。素敵な人だし、もしカナメさんがテンカワさんに心揺らいでくれたら・・・」

 労せずして宗介独り占め。

 恋する少女、テレサ・テスタロッサ。伊達に艦長をしている訳ではなかった・・・。



 「いい方と悪い方、どっちから聞きたい?」

 夜、あてがわれた部屋でアキトはブロスとディアから報告をきいていた。

「じゃ、いい方」
「なんでかわかんないけど・・・一個だけ、ブローディアの中でCCが見つかった。何かの切り札になるかもしんない」
「そうか! もしかしたら・・・」
「帰れる可能性は、ある。ーーーま、アキト兄ぃのことだから、テッサちゃんに恩を返すまではいると思うどね」

 アキトにとってこれは思わぬ収穫だった。

「・・・で、悪い方は?」
「ブローディアなんだけど、修理が出来そうにない」

 淡々と言ったディア、だがそれにはさすがのアキトも絶句した。

「正確にいうと、すべての修理。フェザーを解体して、本体の方に回せば何とかなると思うけど・・・」
「どういうことだ?」

さらに訊ねるアキトに、今度はブロスが答える。

「ブローディアを造ってる物質だよ。超々強化樹脂にしても複合ルナニウム合金にしても、
こっちの世界じゃ手にはいんない。かと言って、未来の物質をここで創って歴史を変える訳にもいかない
ーーー只でさえ僕達の所為で変わっているはずなんだから。
これで新しいものがつくられたら、それこそナデシコの存在自体が危なくなるよ」
「そうか・・・」

 沈んだ声でつぶやくアキト。

「で、でもアキト兄ぃなら帰れるよ!」
「うんうん、漆黒の戦神に不可能は無いって!」
「・・・・・・ありがとう、ブロス、ディア」

 礼を言うアキトだが、やはり声は沈んだままだった。



 
「ソースケ? あんたいつになったら帰ってくんのよ?」
『すまない、明後日には帰ってくる。おまけつきで、な』
「おまけ・・・? 何それ、お土産?」
『いや、違う。人間だ』
「クルツ君?」
『いや』
「マオさん?」
『違う』
「もしかして・・・またテッサなの!?」
『違う。新顔だ』
「ふ〜ん。ま、いいや。明後日ね。何時頃?」
『正確にはそちらで明日の二二〇〇時頃だな』
「・・・十時ね。分かったわ。その・・・、晩ご飯作ってあげとこっか?」
『そうか? 君の料理は美味い。そうしてくれると助かる』
「そ、そんな・・・。誉めても何もでないわよ」
『いや、事実を言ったまでだが』
「と、とにかく! 明日ね!」

 慌てて受話器を置く。少し頬を朱に染めて、黒髪の少女は呟いた。

「まったく・・・相変わらずなんだから」

 モデル誌にも載っていそうなスタイルの美少女は言葉とは裏腹に嬉しそうに笑うと、
明日の準備のために台所へ向かった。

   続く





      後書きじみた座談会

 マオ「あれ?」

 拓斗「なんです?」

 マオ「これってテッサの揺れ動く恋物語じゃなかったっけ」

 拓斗「グサッッッ!!」

 マオ「あんたの芸風ってラブコメじゃなかったっけ?」

 拓斗「胸を張って違うと言い切れない自分が悲しい・・・。だ、だから、最初に言ったでしょう?
 アキトはここでは女性を落としたりはあんまりしないって」

 アキト「・・・お前って見かけによらずいい奴なんだな


 拓斗「・・・何か気になりますが・・・。ま、まあいいでしょう。私の中では、アキトは飛び抜けて美青年という訳ではないんです。たしかに結構いい男かも知れませんが、顔だけならクルツやレナードさんのほうがよっぽどいいと思いますし。ただ、アキトの場合はその中から滲み出る心や、なにかに女性陣は惚れとるのではなかろうかと。だから一撃必殺としてのアキトスマイルはこの作品ではないですね」

 マオ「ふう〜ん。ま、そういうことならいいけど。あと一つ聞いてもいい?」

 拓斗「なんでしょう」

 マオ「私の出番が少ないのは何故・・・?」

 拓斗「・・・痛いです、姐さん。アイアンクローはやめて・・・」

 クルツ「お前ってほんっと人動かせねぇよな」

 拓斗「シクシクシクシク・・・」






      後書き

 え〜。お久しぶりです。最後に宗介と話していた美少女は一体誰だ!?
 と皆さん不思議に思っていることでしょう。

 ・・・え、分かりきってる? まさか、私も分かっていないのに・・・!
 おそるべきは読者様の洞察力。 というより、今回出す積もりは全くなかったんですけどねぇ。
 何故こうなったのでしょう?
 これで、自分の文の駄文さ(グハァ、ひでぇ文になってる!!)をより一層痛感することになった訳です。

 それはそうと、TV版のフルメタ見ました。二話ほど除いて。んで。
 マオ姐、素敵っぷり満載でした。
 
 というわけで何時もの感謝の気持ちを。
 管理人様御生還おめでとうございます。・・お礼じゃないですね。
 代理人様、私に長所があったとは・・!
 天にも登る気持ちでした。自分では青クサイラブコメもどきが長所なのかなぁ、と(苦笑)。
 毎回感想のメールを下さる皆様、ありがとうございます!
 このような駄文にも感想がくるというのはとても心強く、嬉しいものです。
 皆様のお陰で私も何とかやっていけています。
 K。お疲れ様。ゆっくり休んでくれコンチクショウ。
 そして、最後まで読んでくださった皆様、ありがとございます。
 お時間があるようでしたらぜひ感想を・・・と最近態度のでかい私。自重せねば。
 それでは、次回も駄文にお付き合いを・・・。

 

 

代理人の感想

あ、三つ編みが揺れてる(爆死)。

(注:テレサ・テスタロッサ大佐は某通信士と同じく髪型を通常三つ編みにしています)

 

そうです、私は唐突に世界の真実の一つに気がついてしまったのです。

銀髪の若き天才艦長テレサ・テスタロッサ大佐は外見こそ某オペレーターですが、中身は半分くらい

某三つ編み通信士が入っていたのです!(核爆)

いや、髪型が三つ編みである事を考えると外見も中身もそれぞれのキャラを

ほどよくちゃんぽんにしたと言うのが真相かもしれません。

 

・・・なんだかこれ以上続けると本当にシャレになりそうにないので今日はこれまでにて(爆)。