「フェイト、道場に関心を持つ」
「なのはの家の木の板張りの離れって、何の部屋なの?」
私立聖祥学園からの帰り道、純白の制服姿の小学4年生が2人歩いている。
金髪のツインテールの女の子……フェイト・テスタロッサにこう尋ねられ、栗色のツインテールの女の子……高町なのはは苦笑を浮かべながら、
「あそこはお部屋じゃなくて道場だよ」
「……ドージョー?」
「えーっと、アースラの戦闘訓練室みたいなものだと思えばだいたいあってるかな」
ミッドチルダの時空管理局に所属する次元航行艦・アースラの中にある、戦闘魔術師の訓練に使う多重結界と複合装甲で守られた部屋と木の家が同じだといわれても、正直フェイトにはぴんとこない。
「私の雷撃魔法とか、なのはの砲撃魔法を使っても平気かな?」
「わわわ、ダメだよそんなことしたら簡単に壊れちゃう」
「え、でも戦闘訓練だったら魔法も使わないと」
「……剣術の試合で魔法は使わないんだけどなぁ」
そんなことをいっているうちに2人はなのはの家に着いた。
「それじゃフェイトちゃん、また……」
明日、と別れのあいさつを口にしようとしたなのはは、目の前のフェイトが自分ではなくあさっての方を向いているのに気づいた。
「フェイトちゃん?」
「なんだろう、乾いた木をぶつけあうようなこの音……?」
なのはが耳をすますと、道場の方から木刀を打ちつけあう音が聞こえてきた。なのはにとっては日常の音だったので気にも留めなかったのだ。
「お父さんかおにいちゃんかおねえちゃんかな。基本的に道場を使うのはお父さんたちだし」
「なのは」
「ん?」
「見に行ってもいいかな?」
フェイトのお願いにむぅ、となのはは眉をひそめたが、よくよく考えたら別に道場に顔を出してはいけないとは言われていなかったのを思い出す。
「面白くないかもしれないよ?」
恐る恐るそんなことをいうなのはに、フェイトは薄く笑みを浮かべてこういった。
「私、戦闘訓練ってほとんどアルフとしかやったこと、ないから……ほかの人がどんなふうに訓練するのかすごく興味がある。だから、見てみたいんだ」
今でこそ恩人であり上司であり、もうすぐ義理の兄になるクロノ・ハラオウンとも訓練するようになったが、それまでは同じように闘える人はフェイトの周りにいなかった。
他人に対して興味が薄かったフェイトも、なのはと出会い、聖祥に転入してからはアリサ・バニングスと月村すずかとも友達になり、自分以外の存在を意識するようになったのだ。
「なのは、ダメかな?」
こういうふうに言われてダメ出しできるほどなのはは冷たくも厳しくもない。
「うーん、この時間だとおにいちゃんたちかな。頼んでみるよ」
「うん、ありがとう、なのは」
出入り禁止になってるわけでもなし、大丈夫だよね、となのはは軽く考え、玄関の戸を開けた。
「あれ、お客様かな?」
なのはの視線の先には、女物の靴が置いてあった。
○ ○ ○ O O O ・ ・ ・ O O O ○ ○ ○
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
妙齢の女性2名の気合が道場に響く。
かたや、長身で長い赤毛をポニーテールにまとめた、まなじりのきつい美女。
かたや、黒髪を1本おさげに束ね、Tシャツの袖をまくり上げた少女。
赤毛の美女は普通の木刀を。
黒髪の少女はやや短い木刀を両手に。
それぞれ構え、迫り、打ち合っている。
「行けえぇぇぇっ!」
「ちっ、なんとも、やり、ずらい、もの、だなっ!」
少女は両の手の木刀を巧みに使い、手数を増やして相手を攻めさせない。
だが、美女の方も無尽蔵とも思える攻撃をきれいにいなしている。
「美由希も大分仕上がってきたんじゃないか?」
その立ち回りを見ながら道場の上手で、壮年の男性が腕を組みながら満足そうにうなずいている。
「いや、まだまだだな」
その男性……高町士郎の側で弁に異を唱えるのは、当の男性によく似た青年だ。
「厳しいな、恭也は」
「事実をいってるまでだ。ほら」
青年……高町恭也が指をさした刹那、
「ここ、だっ!」
「うわわわっ」
美女の一刀が少女の二刀を左右にはじき、そのまま柄尻で押し倒した。
「勝負あり、だな」
恭也が勝敗を宣言すると押し倒された少女が床に大の字になったまま、うーっとうなり声を上げる。
「これが実戦経験の差、という奴だ」
「……恭ちゃんは弟子に冷たい」
「甘やかすだけが愛情でもあるまい」
とかいいながら差し伸べられた恭也の手をとり、打ち倒された少女……高町美由希はゆっくりと立ち上がった。
「ただいまー」
そこに、なのはの帰宅のあいさつが聞こえてきた。
「ん?」
「どしたの、恭ちゃん?」
その声を聞いた恭也がいぶかしむ表情になる。
「なんで部屋に戻らずにこっちに来るんだなのはは?」
「……誰か連れてきてるみたいだね」
恭也も美由希もそれなり以上に修練を積んでいる。他者の気配を察知することぐらいはできるのだ。
ほどなくして、フェイトを伴ったなのはが顔を出した。
「おかえり、なのは。それと、いらっしゃい、フェイトちゃん」
「あれぇ? お父さん、お店は?」
なのはもまだ小学生だ。彼女が帰ってくる時刻に父親の士郎がいるのは珍しい。
それも当然だなと、士郎は理由を告げる。
「珍しいお客さんが来ているんだ。バイトの子もいたし、今日はお父さんは早上がりだったわけだ」
「ふーん、で、お客さんって?」
お客さんが来てるのになんで稽古してるんだろ? と思ったなのはの疑問はすぐに氷解する。
「邪魔している、高町なのは」
「へ? シグナムさん?」
「シグナム?」
「テスタロッサまで来るとは思わなかったがな」
そう。
さっき美由希を圧倒していた赤毛の美女は『夜天の王』と呼ばれる魔術師(見習い)八神はやてに仕える守護騎士・ヴォルケンリッターの将、剣の騎士シグナムだったのだ。
「シグナムさんが、どうしてうちに?」
「顔を出している剣道道場で『実戦的な剣術を伝えている流派がある』と聞いてな。尋ねてきてみたらここだったというわけだ」
生真面目に答えるシグナムの後を美由希が引き継ぐ。
「はやてちゃんと一緒に、シグナムさんとかヴィータちゃん、翠屋にも何度か来ててね。顔は覚えてたんだけど」
「喫茶店の店員がここまでやるとは思っても見なかった。すごいな、君の姉は」
いえいえあはは、と照れ隠しの美由希と、真剣な面持ちのシグナムを交互に見やったが、なのははいまだに現状を理解しきれていなかった。
「それで、今日はどうしたんだ?」
なのはがかばんも置かずに道場に来ることはないので、士郎も不思議に思っていた。
尋ねられたなのはは、
「あのねお父さん、フェイトちゃんが修練を見学したいんだって。邪魔しないようにするから、見ててもいい?」
今までこんなことはお願いしたこともないし、自分の兄と姉が真剣に修練しているのを見続けていたのだ。なのははとても不安だった。
顔を見合わせる父親と兄姉。その誰かが口を開くより先に、
「もし、さしつかえがなければ、見学を許してもらえないだろうか」
「し、シグナムさん?」
シグナムからプッシュがあるとは思っても見なかった。目を丸くするなのはに薄く微笑みかけ、シグナムは士郎たちに頭を下げた。
「たった9歳の子供たちだが、戦闘魔術師として、またテスタロッサは剣士として、覚悟と信念を持って闘っている。士郎、恭也、美由希、あなたたちの剣は彼女たちに正しい姿を伝えられるはずだ。だから、見学を許していただきたい」
シグナムの嘘偽りない気持ちが込められた言葉。それを受け、士郎はフェイトの目の前にしゃがみこんだ。
「なのはや、リンディさんから話は聞いているよ。君がとてもいい子だということは知っている。だからこそ……」
そこまで言って士郎はフェイトから視線を外す。
そして、フェイトの頭をぽんぽんとなでて、士郎は言葉を継ぐ。
「本当は、君みたいな子に人殺しの技は見せたくないんだ。それに、魔法を使う君の戦いに参考になることがあるかどうかもわからない。それでも、いいかい?」
自分の視線で語りかける士郎の言葉をフェイトはゆっくりと咀嚼した。
「あ、あの……」
「うん?」
「私、今まで闘ったことがあるのってアルフ以外にはなのはとか、シグナムぐらいしかいなくって、最近になってようやくクロノとか、ヴィータとか……それでもそのぐらいしかいなくって、その、だから……」
フェイトには、父親の記憶はない。
元々、フェイトを創ったプレシア・テスタロッサも離婚して片親だけ、教育係のリニスも、使い魔のアルフも女性だ。
知り合いの顔を思い浮かべても、大人の男性は元管理局のグレアム、ヴォルケンリッターのザフィーラ、そして、目の前にいる士郎と恭也ぐらいしかいないのだ。
そんなフェイトにとって、なのはの父親とはいえ士郎にお願いをするという行為がどれだけ大変なことか。隣にいるなのははフェイトを気遣い、一歩下がって両手でフェイトの肩を抱いた。
あたふたするフェイトに美由希が声をかけようとしたが、無言で首を横に振る恭也の視線に押し留められる。
士郎はもう一度フェイトの頭を軽くなでると、うつむいてしまったフェイトの顔をさらに下から覗きこんだ。
「いいかいフェイトちゃん」
「は、はいっ」
「武器も魔法も、結局は誰かを傷つけることしかできないものだ。君は、それでも武器を振るうのかい?」
バトルマニアでもウォーモンガーでもない人間は、理由がなければ他人を傷つけることはしない。衝動にかられることもあるが、それを理性で抑えられるのが人間だ。
本来、物静かで心やさしいフェイトは、
「私は、なのはやクロノ、はやてたち、それにロストロギアのせいで困っている人たちを守りたい。守るためなら、闘う必要はないかもしれない。でも、私が闘うことで誰かを守れるのなら、私は闘います」
手近の人々、困っている人たちのために闘う。
フェイトはそう言い切った。
その言葉をまっすぐに聞いた士郎は、一つうなずいた。
「……美由希、棍を持ってきてくれ。恭也、準備しろ。それと、なのは」
「ふ、ふえ!? な、なぁにお父さん?」
自分にまで話が振られると思っていなかったなのはは目を丸くして士郎に問い返す。
「フェイトちゃんに服を貸してあげてくれ。ちょうどいいものがなければ美由希の古い服でもかまわん」
「え?」
「とーさん?」
「……まさか」
なのはと美由希がもう一度問い返し、恭也があきれたようにため息をつく。
「見取り稽古も確かに身になるが、100回の見学よりも1回の実戦の方がためになる。そういうことだ」
最近はいい父親をやっていたが、士郎も剣の道に生きる男。容赦なく非常識なことを言い出す父親を見てなのははあうあうと慌てふためく。
が、当のフェイトは落ち着いたもので、
「わかりました。ありがとうございます」
なのはを伴って道場を後にしようとする。
それを、
「待て、テスタロッサ」
「シグナム?」
シグナムが呼び止める。
「バリアジャケットを使え」
「え?」
「彼らの剣は、とても重いぞ」
先に美由希と剣を交わしたシグナムの言葉に、フェイトは首肯した。
「バルディッシュ、バリアジャケットSet Up」
『Yes sir.』
バルディッシュのマシンボイスに続き、フェイトの体が光に包まれる。
光が治まったそこには、聖祥の制服から戦闘時に身にまとうバリアジャケット姿になったフェイトがいた。
「……着替えなくてもいいのは便利だよねぇ」
「おねーちゃん……何かちょっと違う……」
あきれた声のなのはに苦笑を向けて、美由希はフェイトに木棍を手渡した。両手で構えるとちょうどバルディッシュのサイズフォームぐらいの長さになる。
向かい側では、太刀より短い木刀……小太刀を両手に構えた恭也が立っている。
その恭也に士郎が声をかけた。
「恭也」
「ん?」
「『神速』は使うな。奥義については、判断は任せる」
「わかった」
「ちょっ、ちょっととーさん! 恭ちゃんも何いって」
美由希があわてて口を挟むが、士郎も恭也も何もいわない。
不安にかられたなのはの隣にシグナムがやってきた。
「シグナムさん……」
「心配はない。木刀の一撃なら私のレヴァンティンほどではない。バリアジャケットの防御力ならば大丈夫だろう」
他ならぬ、実際に剣を交えた者の言葉になのはは頷くものの、不安はぬぐえない。
「では、始めよう」
士郎が声をかけ、恭也とフェイトが一歩前に出る。
「成り行きでこうなったが、よろしく頼む」
「えっ、あの、こちらこそ……」
思わず頭を下げようとしたフェイトが、その姿勢のまま固まる。
恭也が発する『気』に、フェイトの直感が反応する。目をそらしてはいけない。目を離したらとらえられない!
「……いい勘をしているな。それでは、小太刀二刀御神流・高町恭也、推して参る」
推参の口上とともに、恭也が大きく踏み込む。
初太刀はかろうじて受けたが、2撃、3撃と続けざまに打ち込まれ、いきなり守勢に回らされた。フェイトも鋭く切り返すが、何せ相手は小太刀の二刀流。手数は圧倒的だ。
加えていうなら、小太刀と棍なら間合いを開けば棍が有利なはずなのだが、恭也とフェイトの体格差がそのハンデを埋めてしまっている。バルディッシュは鎌なので、『突き』のような直線的な攻撃はない。そのため、棍の長さを生かした攻撃ができないのだ。
「あああ、フェイトちゃん!」
「恭ちゃん、大人げない」
妹二人の抗議を聞き流し、恭也はフェイトを攻め立てる。だが、
「む?」
「はぁぁぁぁっ!」
二刀で攻める。棍が受ける。
棍が返す。二刀がいなす。
「こっちの打ち込みのすき間に割り込むか。やるな」
「アルフとの稽古では、両手と両足から攻撃が繰り出されるから」
「……俺の倍だな、それは」
恭也の二刀の攻撃の合間に、フェイトは反撃を繰り出す。
こういうと簡単に聞こえるかもしれないが、
「テスタロッサの攻撃は早い。得物が長くても小太刀の斬撃に負けない早さを持っている」
「シグナムさん」
「なのは、君の親友は音よりも早い。見守っていてくれ」
「は、はいっ!」
誰よりもその『早さ』に苦しめられたシグナムがいえばこそ、フェイトの非凡さがわかるというものだ。
「でも、フェイトちゃんこれは致命的だなぁ」
「え、おねーちゃん?」
美由希に促され、なのはは前を見る。すると、
「やぁぁぁぁぁっ!」
「ふんっ、たぁっ!」
「あうっ」
フェイトが棍を長く持ち変え、横薙ぎしようとする。だが、恭也はその一撃を右の一刀で打ち払い、返す左で体ごとはじき飛ばした。
「体格差は身長だけじゃない。体重差を考えるとフェイトちゃんの攻撃は軽くて当たり前。あれぐらいの打ち込みじゃ、恭ちゃんの牙城は崩せない」
「そ、そんなぁ!」
美由希の解説になのはが声を上げるがこればかりはどうしようもない。棍の長さを利用して遠心力を上乗せしてもたかがしれている。
打つ手がなく荒い息をつくフェイトに、右の一刀を正眼に突き付けて恭也が問いかけた。
「まだ、やれるか?」
この問いかけにフェイトは必死に息を整えながら大きく一つうなずいた。
「……はいっ」
「わかった……」
恭也は両の小太刀を腰に下げているホルダに納め、フェイトに正対する。
「刀を鞘に納めて……ちょっと恭ちゃん!? まさかアレを」
「なのは」
何かに気づいた美由希の抗議を聞き流し、恭也は埒外のなのはに問いかけた。
「バリアジャケットの防御は完璧か?」
「え……?」
「魔導士のバリアジャケットの防御は完璧なのかと聞いている」
なんで今更そんなことを聞くんだろう、と思いながらなのはは素直に答える。
「大丈夫だよ、ハンマーで殴られても打ち身ですんじゃうぐらい」
「そうか」
……ヴィータのラケーテンフォルムの直撃を打ち身ですませられたのはなのはの防御能力が際立って高かったからで、フェイトはそこまでの防御力は持っていない。
そこは言っておいた方がいいかもと思ったなのはの言葉は間に合わなかった。
「フェイトちゃん」
「……はい」
「受けるか、流せ」
「え?」
「いくぞ」
恭也の二刀が抜刀され、真横から強烈な斬撃が連続で襲いかかる。
「……いかん! かわせテスタロッサ!!」
シグナムの叫びも間に合わない。
ガードした棍に亀裂が入る。そのとき、
『Defencer』
待機状態だったバルディッシュが反射的に防御魔法を展開した。
だが、これが間違いだった。
恭也の斬撃は打撃力が防御の向こう側に伝わる。『徹』と呼ばれる技法だ。
バルディッシュの防御魔法は木刀の斬撃では破壊されない。つまり、棍を破壊することで失われた打撃力の残りはそのまま向こう側……フェイトに伝わるのだ。
フェイトが恭也の斬撃を理解していれば、物理防御に衝撃拡散の機能を付加できたのだが、そこまでの術式を編めるだけの余裕はない。斬撃の速度がそれを許すはずがない。
4連撃を瞬時に受けたフェイトは踏ん張りきれずにはじき飛ばされた。
「フェイトちゃん!!」
なのはが叫んで目を伏せる。
だが、いつまでたっても床に打ち倒されたり板塀に叩きつけられる音が聞こえない。
恐る恐る顔を上げたなのはの目に入ったのは、ぐったりと気を失ったフェイトを抱き抱える士郎の姿だった。
○ ○ ○ O O O ・ ・ ・ O O O ○ ○ ○
意識がゆっくりと覚醒する。
「大丈夫かい、フェイトちゃん?」
かすかな浮遊感を覚えたフェイトは、周りを見て自分の状況を確認する。
恭也の斬撃にバルディッシュが反応して防御魔法を展開したが、衝撃はそのまま伝わってはじき飛ばされた。
『……Sorry, Sir』
「ううん、大丈夫だよバルディッシュ」
「立てるかな?」
そこまではわかったのだが、この浮遊感と頭上の声がわからない。
頭を一つ振って意識をはっきりさせる。
自分の身長よりも高い視線。かいだことのない汗のにおいと体温……体温?
「あ、あれ? うわっ!?」
「あばれると落ちるよ」
ようやくフェイトは、声の主がなのはの父親である士郎で、自分が士郎に抱き抱えられていることに気づいた。
「ほら。もう大丈夫かな」
「あの、えっと、はい、平気、です……」
「フェイトちゃん!?」
フェイトが顔を上げると、心配そうにして駆け寄るなのはと美由希、その向こうに小太刀を腰のホルダに納める恭也の姿が見えた。意識を飛ばしていたのはほんの数秒のようだ。
「大丈夫? どこも痛くない?」
「平気だよなのは。もう大丈夫」
なのはに笑い返すフェイトに深刻なダメージは見受けられない。
「恭ちゃんも恭ちゃんだよ。奥義まで使うことなかったんじゃないの?」
「恭也を非難するより、恭也に奥義を使わせたフェイトちゃんをほめてやれ、美由希」
「それはそれ、これはこれだよとーさん」
恭也を悪者にする美由希を士郎は軽くいなしている。
「2連抜刀から遠心力を上乗せして追撃2連……それが君の奥義か」
「御神流奥義ノ六・凪旋(なぎつむじ)だ」
「魔法も使わずに防御を抜いたのは何故だ?」
「御神の剣は鎧の裏側にダメージを『徹す』ことができる。これは魔術ではなく技術だ」
「ほう……」
当の恭也はシグナムとさっきの技について話していた。
「それに、士郎のあの動きだ」
「ん?」
シグナムは恭也の向こう側の士郎を見据えた。
「恭也側に立っていた士郎では、反対に飛ばされたテスタロッサを受け止めるのは無理だ。だが、間に合った」
そう言って、シグナムは胸の奥からペンダント……待機状態のレヴァンティンを取り出す。
「魔力は一切感知できなかった。そうだな、レヴァンティン?」
『Ja.』
「転移魔法を用いて単距離瞬間移動を行うことはある。高位の魔導士なら魔法陣なしでも転移は可能だが、魔力をまったく感知させないのは無理だ。高町士郎、あなたは何を……いや、それこそが……?」
「奥義の歩法・神速。まぁ、そういうものだってことにしておいてくれないか」
魔導書のガーディアンプログラムで、人間の規格外のこともできるシグナムをして、理解できない『奥義』。
まだまだ自分の知らないことはあるのだ、と改めてシグナムは感心していた。
「なのは」
「なぁに、フェイトちゃん?」
「なのはの家族は、すごいね」
そのフェイトの言葉に、なのはは少しだけびっくりしていた。
今でこそリンディの義娘になり、やさしい母親と心配性の兄がいるのだが、フェイトはそもそも魔術的に『作り出された』存在だ。
気にはしていないとはいえ、両親ともに健在のなのはにとって、フェイトと家族の話はタブーであることが暗黙の了解になっていた。それをよもやフェイトの方から破ってくるとは。
そんななのはの内心の葛藤を見透かして、フェイトは「大丈夫」と言葉を継ぐ。
「リンディ提督……ううん、お母さんとお兄ちゃんと、士郎さんと桃子さんを比べているわけじゃないよ。ミッドチルダやベルカ以外の世界にも、こんなにすごい人たちがいるんだって思って」
フェイトの感心になのはは「あはは」と苦笑を浮かべる。
「あー、それに関しては血縁者の私から見ても人間離れしてるというか、そう言うのを見てたから魔法も受け入れられたというか」
「なるほど」
聖祥の制服で二人、道場でそんなことを語り合う。
……おおよそ9歳の女の子らしからぬ、それでも、とても平和な光景だった。
余談だが。
弟子入りを志願したフェイトに対して、
「フェイトちゃんやシグナムさんには悪いが、御神流を教えるわけにはいかない」
「恭ちゃん……それは、そうだけど」
「だが、他流派との稽古は得るものが多い。美由希にも、俺にも」
時々手合わせをすることは問題ないので、顔を出すのはかまわないという恭也からのお墨付きは出た。
クロノやアルフ、ヴィータをも交えてこの道場がにぎやかになるのも、やがて日常となる。
だが、近接戦闘の技能が必要だからとフェイトに付き合って習い始めたなのはは、御神の血を引いているにもかかわらず、剣術の腕前はなかなか上がらないようだ。
「ううう、私やっぱり運動神経ない〜」
「大丈夫、大丈夫だからなのは」
「フェイトちゃ〜ん」
道場でもラブラブなフェイトとなのはであった。
世はすべて事もなし。
( Happy end )
なのちゃん萌え燃えっ!
……なんかこー、妄想を抱いたまま溺死しろって感じですがお久しぶりです皆様。
去年1年間、ろくに物書きしてなかった俺なのです。
今さらナニをという感じですが、まぁ、ほら、萌えちゃったもんはしかたないってことで。
ということでリリカルなのはA'sのSSです。
まぁ、萌え萌えって言ってますがこのアニメ、見事に萌えの皮をかぶった燃えアニメですから。
……ナニがかなしゅーて9歳児と7歳児のガチバトルで燃えなあかんねん(似非)って思ったりもしますが。
つーこって、アルカナストライクともども、こんなものも今年は書いていこうと思いますので、皆様よろしくお願いします。
代理人の感想
テーマは 努力! 友情! 勝利!
・・・は嘘ですが、まーどこのジャンプアニメだって位に熱血友情ガチバトルなアニメでしたからねー。
わずかにまぶされた萌えの糖衣も気にならんくらい、燃え部分が熱い、というか
男の子がやるともはや嘘臭くなってしまうような展開を「アイアンリーガー」が二頭身ロボットに仮託したように
魔法少女と言う形態に仮託したのがこの作品なんだろうなと思ってます・・・・ま、萌えはしませんけど(爆)。
にしても容赦ないなぁ、この親子(主に男二名)(笑)。
覚悟を問う士郎オヤジもそうですが、途中の打ち合いのシーンなんか一歩間違えればまんま幼児虐待。
ご近所に覗かれたりしたら警察を呼ばれること請け合いです(爆)。