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 冬木市
 一般的には何の変哲も無い日本の地方都市の一つである。
 特筆するほど栄えているわけではなく、過疎化するほど廃れてもいない。これと言った産業も、観光名所も、名物も存在しない。
 はっきり言ってしまえば目立たない地方都市だった。
 ここ二十年で全国ニュースで取り上げられたのは十年前の新都大火災のみ。
 同じ県の住人にすら「そんな市在ったっけ?」と言われてしまうような都市だった。

 ―だった。

 過去形である。
 この三年で冬木市は‘ある業界’に属している者なら知らない者はいない程にまで高まった。
 その威名は日本国内だけでなく大陸にまで達する程である。
 
 全てが冬木市に存在するたった一つの組織のためだ。

 ――藤村組――

 たった三年で日本の‘ある業界’を半ばまで制覇してしまった組織である。





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ごくどーのみかた



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 きっかけは何時もの事だった。
 士郎が何時もの様に自分から事件に首を突っ込んだだけである。
 ただ、それがとうとう洒落ではすまない事態にまで発展してしまっただけである。
 そんな事態はそうそう起こるものではないが、1%の確率も積み上げればいつかは当たる。士郎の日頃の行動をかんがみるとむしろ遅かったと言えるだろう。今まで無事に過ごしてこれた方がむしろ驚くべきことなのだ。

 聖杯戦争から四ヶ月後の六月の日曜日。士郎達は新都に買い物に出かけた。
 梅雨で長雨が続き、止めに気の早い台風までが直撃した所為で一週間家に閉じ込められたイリヤが久しぶりに晴れたのだから何処かつれてってよと士郎にせがんだのが直接の原因である。
 行き先が新都になったのは夏物の買出しに行く必要がちょうど良く在ったからだ。

 特にセイバーとイリヤは夏物などほとんど持っていなかった。
 イリヤは夏まで冬木に居る予定ではなかったので夏服など持って来ていない。アインツベルンとは断絶状態で送ってもらえる訳も無い。それにもともと彼女の故郷は冬が大変厳しく、夏は短い。湿度が高く蒸し上げるような日本の夏に対応できる服など必要無い。
 セイバーにいたっては凛のお古を着回しているだけである。
 イリヤはともかくセイバーは着る物にはあまりこだわらず、必要無いと主張したのだが、他の女性陣の猛反発にあい敢無く陥落した。さしもの騎士王も四対一の包囲戦では突破口を見出すことは出来なかったらしい。彼女は王とは言え所詮騎士、言論による戦いで三人の魔術師と虎まで相手にして勝てる訳も無い。

 そんな訳で士郎は凛をアドバイザーにセイバーとイリヤを引きつれて新都に買い物に行くことになった。
 士郎自身は荷物もちである。
 藤ねえと桜は夏の大会が近いので午後から部活である。この夏で引退する美綴から次期主将に指名されている桜はサボりたくてもサボれない。一応周りへの示しと言うものが在る。顧問ぐらい居なくてもだいじょーぶよねー、と気楽に言ってついてこようとした藤ねえは桜の笑顔で石化されて連行されていった。自分も行きたいのを我慢しなければならないのに一人でサボろうとするのが許せなかったらしい。
 ちなみにもちろん桜の笑顔に石化の魔力なんて無い。無いったら無い。
 あると思えたのならそれは気のせいだ。魔力感知が狂っている証拠だ。
 居合わせた三人の魔術師が感じ取り、対魔力Aの英霊が直感にしたがって目をそらしたとしても。
 石化の魔眼は宝具に位置付けられるような神秘の一つ。そう簡単に身につけられるものでは無い。
 微笑みかけられた藤ねえが一切の抵抗が出来ず硬直したのは純粋に恐怖のためだ。
 ……その方がよほど恐ろしくはあるが。

 ま、それはそれとして。買い物自体はスムーズにいった。
 セイバーが凛とイリヤに着せ替えられるのに辟易して逃亡したり、
 イリヤが合うサイズが子供服しかなかった事実にむくれたり、
 猫を被った凛が男性店員と微笑みながら交渉して三割引を勝ち取ったり、
 休憩に寄った喫茶店でセイバーがケーキバイキングで店長に泣きつかれるまで食べ続けたりしたが、
 そんなことは充分予想できたので士郎にとっては何でもなかった。
 重ねて言うが買い物自体はスムーズにいったのだ。……士郎にとっては。

 その後の彼ら自身の進路すら決定したトラブルはその帰り道にやってきたのである。

 


「やめてくださいっ!!」

 その声が聞こえてきたのは夕食を久しぶりの外食で済ませて家に帰ろうとしていた時である。
 場所は駅前の繁華街。
 時間は既に9時を回っている。
 つい買い物に夢中になって遅くなってしまったので夕食を外食で済ませる事にしたのだが、下手な物にすると衆目監視の中でセイバーがフルアーマー化しかねない。かといってあまり高い物にする訳にもいかなかったので、せめて量だけは確保することにしたのだ。要するに焼肉の食べ放題で手を打ったのである。
 これが以外に当たりで肉の質も最上とはいかないまでもかなりの物で、たれも多種多彩で工夫が凝らされていた。最初の内こそ雑だといっていたセイバーも次第にこくこくと頷いて食べだしたのだから成功と言って良いだろう。
 ただ、問題が一つあった。
 食べ放題なのだ。頼めばいくらでも肉が出てくるのである。基本的に終わりが無いのだ。
 いつも綺麗に出されたものを食べきってしまうセイバーをこんな状態に放り出せば結果は明らかだ。
 結果としてセイバーは二時間の制限時間をめいいっぱい使い切って食べ続け、その店での大食い記録を樹立した。7時に店に入った筈なのに帰りが9時を回ってしまったのはこう言う訳である。
 ちなみにその店の店主は人間の出来た人で恐縮しながら定額の料金を払う士郎に

「いや、あれだけうまそうに食べられたら商売忘れるぜ。またこいよな」

と、つわもの以外には語れない言の葉をはいた。今の世の中絶滅種と言って良いだろう。
 経営者としてはちょっと、いやかなり問題がある。
 また来ますと言って店を出た士郎達が満足しながらもこの店が次来る時まで存続できているかどうか心配になったのも無理は無い。
 そんなのんびりした―セイバーにとってはかなり深刻な―事を考えながら四人が歩き出した時にその声は聞こえてきたのである。



 声のした方を見てみるとお約束の光景が広がっていた。
 
 一人の少女とそれを取り囲む柄の悪い男達―要するにチンピラだ―。

 状況の説明が必要だろうか? いや、無い。

「なんか、ある意味珍しい状況に遭遇したわね……」

「ほんと、まるで漫画」

 凛とイリヤが呆れた。

「シロウ、どうしますか」

 セイバーが一応確認を取ろうとする。
 尤も、形だけだ。まず間違いなく士郎は助けようとする。それは確信ですらない。単なる事実だ。

 実際、セイバーが声を掛けた所に士郎は居らず、既に歩き出している。

「待ってください、シロウ。私も……」

 シロウの後を追おうとしたセイバーを凛が止めた。

「やめときなさい、貴方が出るほどの事は無いわ」

 町のチンピラに英霊が出張るなんて、ネズミの駆除に地球破壊爆弾を使うようなものだ。

「そうそ、ここはヒーローの出番なんだから」

 随分とささやかな出番では在るが……

「いえ、それは心配していないのですが……」

 士郎が片手で戦ってもお釣りがくる相手だ。睨みつけるだけでも良いかもしれない。

「何よ?」

「そうすると、あの少女がヒロインということに……」

 年のころは凛と同じぐらい。なかなかの美人でスタイルも結構良い。
 だからこそチンピラに絡まれたのだろうが。

「「………」」

 凛とイリヤが眉間にしわを寄せて黙り込んだ。
 現状から今後の展開をシュミレート。三秒でコンプリート。

「やっぱ行って来て」

「そうね、士郎一人じゃまだ心配だわ」

 前言を即座に撤回。状況打開のため行動開始。
 その言葉にセイバーが士郎の方に目をやった時にはもう終わっていた。 

「……遅かったようです」

 チンピラ達で立っているのはリーダー格と思われる男だけ。
 他の四人は大の字になってのびていたり、ましな方でも膝をついている。
 一方、少女はぼうっと士郎の方を見ている。僅かに頬が赤かったりする。

「……行くわよ」

「……そうね、手遅れみたいだけどフォローはしておかなくっちゃ」

「……了解しました、リン」

 三人はため息をつきながら士郎の方へ歩き出した。



「何やってんのよ」

 声を掛けたらいきなり殴りかけられたので仕方なく応戦した士郎は直に途方にくれた。
 ちょっと脅かすぐらいの力加減で二人に足払いとボディブローを一発づつ。殴りかかってきた一人をかわして体勢を崩したところを残りの一人に向かって突き飛ばす。
 それだけで終わった。
 残ったのはリーダー格の男ただ一人。
 最初いかにも柄の悪そうな嘲笑を浮かべていたその男は今では震えながらこっちを罵っていた。
 曰く

「いきなり何しやがる」

 それは士郎の台詞である。

「俺達が何をした」

 説明不要。

「俺たちを誰だと思ってやがる」

 町のチンピラ。

「親父に言いつけるぞ」

 ……あんた歳幾つだ? 

 いちいち受け答えするのもあほらしい。思わず苦笑してしまいそうになるのを堪えているぐらいだ。
 其処にかかってきた凛の言葉である。
 正直助かったと思った。
 これ以上こいつを相手にするのはあまりにも馬鹿馬鹿し過ぎる。
 脅しつけて退散願うのが最良だろう。
 そして、その手の事に掛けては自分より凛の方が遥かに向いている。
 何、あかいあくまの本性を出すまでも無く、優雅に微笑みかけるだけで充分だ。
 
 ……考えを読まれたらおそらく士郎の命は無い。

 そんな訳で士郎はまだ喚き続けているチンピラを無視して凛に対応した。

「なにって…… いきなり殴りかかられたから、仕方なく」

「町の‘チンピラぐらい’気迫で追い返しなさいよ。この、へっぽこ」

「そんな事言ったってなあ」

「いっつもぼけーっとしてるから‘チンピラなんか’に舐められるのよ。それで正義の味方なんかめざしてんの? 言って見りゃこいつ等なんか‘戦闘員’よ。‘雑魚中の雑魚’よ。‘言葉も喋れないような下っ端’よ。登場しただけで蹴散らさないでどうすんの」

「む。確かに‘チンピラごとき’に手を出したのは情けなかったか」

「今ごろ気づかない! だいたいね…………」

「其処まで言わなくても……………」

「―――――――」

「―――――――」

 周りが口を挟む間も無い。敵対者も救出対象も完全に置いてきぼりである。
 それを冷めた目でセイバーとイリヤが見守る。

「また始まりましたね」

「今月何回目だっけ?」

「いちいち数えていられません。少なくとも十回は軽く超えてます」

 ちなみに今日はまだ四日である。一日平均2.5回以上。慣れもする筈だ。

「フォローにきた筈なんだけどなあ」

「逆効果ですね」

 さっきまで喚いていた男は今では沈黙している。その肩が震えているのは恐怖のためではあるまい。さっきまでは確かに恐怖に震えていた筈なのだが、どうやら怒りに駆逐されたらしい。

「爆発も時間の問題ね」

「実害は無いですが、無益なことです。……まさか歯向かってきたところを殲滅する気ですか?」

「賭けてもいいわ。絶対何も考えて無いから」

「ですね」

「どうする?」

「ほっときましょう。あんなものは犬も食べません。所詮は‘雑兵’。切れたところであの二人に危険は無いでしょう。それより救出対象の確保を」

「そうね。この借りは後で返してもらいましょ。フルールのベリータルトぐらいかな?」

「む。私は江戸前屋のどら焼きの方が」

「結構古風ね、セイバー」

 実はこの二人の会話も‘チンピラのリーダー’には聞こえていたりする。

 遠目に見守っていたギャラリーの視線が哀れみに変わったあたりで男の理性は限界を超えた。

「い、いいかげんにしやがれぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 魂の叫びだった。

 攻撃力は2.5倍に上昇。……10が25になっただけだが。

 もはや理性のかけらも残っていない彼は何の迷いも無くナイフを抜いた。

 バタフライナイフ。ランクZ‐。本来は片手での作業用。戦闘に使う方が無理がある。

 ギャラリーから悲鳴が上がる。
 それに勢いづいた彼はこれでもかと言うぐらいお約束の台詞を吐いた。

「いっ、今更謝っても遅えからなっ!! 覚悟しやがれっ!!」

 ぎっ、と睨みつけると呆けたような四つの瞳と目が合った。

「あ、まだいたんだ」

「忘れてたわ。でも変ね。戦闘員って死体も残んないから、いつのまにか消える筈なのに」

 やけに詳しい。ひょっとしてお前も士郎の同類か? マスターとサーヴァントは似た物同士の筈だし。

「ま、いいわ。見逃したげるからさっさと消えなさい。あ、ちゃんとごみは持ち帰ってよね」

 辺りに散らばる四人を見まわしてそう告げる。

 実に寛大なお言葉なのだが男にそれが解るはずも無い。

「てっ、てめえらこれが見えねえのかっ!! 脅しじゃねえぞ!! 刺すぞっ!! 抉るぞっ!!抉りこんでやっからなっ!!」

 返ってきたのは哀れみの視線だった。

「解った、解った。其処まで追い詰める気は無かったんだがつい本音が…… 謝るからさ、ここは退いてくれると嬉しいんだけど」

 これで士郎は宥めているつもりである。

 凛はため息をつきながらやれやれと言った風に手の平を上に向けて肩をすくめている。

「まだ持ってるやつがいたのね。あのナイフ。はやったの十年近く前だった筈なのに…… よっぽど気に入ったのかしら?」

 ちょっと危険な独り言だ。

「■■■■■■■■――――――」

 もはや言葉も無くしてバーサークした。

 全能力1ランクアップ。ただし、所有スキルと宝具は使えない。
 ……もともとスキルも宝具も無いから有効な手段の筈だが、ZがYになろうとあまり関係は無い。

 闇雲に突っ込んでナイフを持った右手を振りかぶる。
 
「あっ、生意気」

 イリヤがむくれる。その目にちょっと危険な光が浮かんでいるのは気のせいでは無い。こんなのバーサーカーに対する侮辱以外の何物でも無い。ひそかに男の命は崖っぷちに在った。

 それには気がつかずに士郎に向かって振り下ろす。士郎は避けようともしない。

 次の瞬間世界が反転した。

 何てことは無い。男の剣速はあまりにも遅すぎた。士郎は振り下ろされた右手首をあっさりとつかんで固定した後、足を払っただけである。
 自分で突っ込んだ勢いをそのまま利用された男は派手に一回転した後受身も取れずに地面に叩きつけられた。肺の空気が全て吐き出される。かろうじて意識は保てたがとても立ちあがれない。

「ふう、じゃ、これで」

 やっと洗濯が終わった。そんな感じで士郎が告げた。緊張感のかけらも無い。

「セイバー、その人は?」

 少女を保護しているセイバーに問いかける。

「大丈夫のようです」

「そっか、とりあえず場所を変えよう。ナイフまで出たからな。警察がきかねない」

「解りました。此方へ」

 セイバーが少女の手を引いて走り出す。呆然としたままの少女は手を引かれるままに引きずられていく。イリヤがその背を押しているのが何処か微笑ましい。

「遠坂、俺達も行くぞ」

 まだため息をついていた凛に声をかけて士郎は走り出した。

「あっ、こら、待ちなさい。置いてくな」

 慌てて凛も走り出す。
 走り去る背中に

「覚えてやがれぇぇぇ」

 と、これまたお約束の台詞がかけられたがもちろん四人は聞いていなかった。



 事後処理は簡単だった。
 少女とは駅まで送って別れた。友人とはぐれたところに絡まれてしまったらしい。駅でその友人達と合流できたので安心して別れられた。
 少女はしきりに御礼をと言ったがこの程度士郎にとっては当然のことである。笑って拒否した。
 せめて名前だけでもと言うので仕方なく名乗ったがそれぐらいは大した事は無い。
 ちょっと三人の目が冷たかっただけである。少女が頬を赤く染めていたのが気に食わなかったらしい。

 このごたごたでの被害で最大のものはフォローの借りを返すための出費である。
 フルールのベリータルトと江戸前屋のどら焼きが買い物リストに追加された。
 ちなみに士郎のおごりである。いっしょに騒いだ凛は御咎め無し。少し理不尽なものを士郎は感じたがそれを口に出すほど命知らずでは無い。まあ、いつものことだ。
 夕食まで除け者にされて不機嫌だった桜と藤ねえの機嫌がそれで直ったのだからある意味幸いだった。



 これで何時もなら終わる筈である。
 この程度の騒動はそれこそ日常茶飯事だ。
 いつもと違っていたのは彼等では無い。相手の方である。

 どう見てもチンピラにしか見えなかったあの男。実はやくざの幹部の一人息子だった。
 彼の唯一と言っていいとりえはその執念深さだった。
 屈辱を忘れることが出来るほど人間が出来ておらず、勝算を計算できるほど頭が良くは無かった。 
 父親に泣きつくのが恥ずかしいと思うような心は持っておらず、むしろ父の威光を笠にきていた。
 その願いを喜んで叶えてやるほど父親は彼に甘かった。
 条件がこれだけそろえば結論は一つである。
 利用できる全てを巻き込んでの復讐戦が始まった。



 3日後
 
 学校から帰宅途中の凛と士郎がチンピラ30人に絡まれる。
 士郎が相手にしようとしたのだが、‘チンピラのリーダー’が逆鱗に触れたため―凛のスタイルについて言及したらしい―あかいあくまが実体化。
 2分45秒で状況修了。
 とりあえず死者は無し。同日、恐怖でショック状態の患者が30人冬木精神病院に担ぎ込まれる。
 一人は奇跡的に回復したが後は長期入院が必要。最長で五年の月日を要したらしい。



 7日後

 近江屋で大判焼きを買い食いしていたセイバーがドスを持ったヤクザの若衆に因縁をつけられる。
 最初のうちは無視していたのだが、何故か混じっていた‘チンピラ’が近江屋の親父さんを突き飛ばして焼きかけの大判焼きをひっくり返したためフルアーマーダブルセイバーが顕現。
 1分51秒で状況修了。
 この戦いでセイバーは商店街の領主としての地位を確立。藤村雷画に統治を委任。善政を敷く。
 


 15日後

 衛宮邸から帰宅途中のイリヤと藤ねえが長ドスを持ったヤクザに拉致られかける。
 人質はイリヤ一人で充分と判断した‘チンピラ’が「年増のババアには用はねえ」と発言したためタイガー大爆発発動。
 一撃で全員昏倒。所要時間0.5秒。
 襲撃者は藤村雷画に引き渡され処理された。‘その筋’のやり方でしっかり落とし前をつけさせられたらしい。

 追記

 一人だけ混じっていた‘チンピラ’が一人だけ遥か遠くまで吹き飛ばされて逃げ延びたらしい。

「きっと人間の中身が軽かったのね」

 目撃者であるイリヤスフィール・フォン・アインツベルン嬢の言葉である。



 21日後

 桜が一人で夕食の準備をしていた衛宮邸をチャカを持った武闘派ヤクザが襲撃。
 桜がはじめて士郎に用意してもらった湯のみを割った上に、二時間かけて煮込んだシチューをひっくり返す。黒い影が理性の堤防を越えて氾濫。
 一人だけ逃げ延びた‘チンピラ’を除く全員が未帰還。
 その後の消息は不明。
 桜は何事も無かったかのように夕食の準備を再開したらしい。
 その影から幾つもの悲鳴が響き続けたと言う証言があるが衛宮士郎はこれを否定している。

 奇跡的に逃げ延びた‘チンピラ’は暗所恐怖症になったらしい。



 以降一月の事件禄である。



 衛宮家。食卓。
 其処は臨時の作戦会議室となっていた。
 集まったメンバーはこの家に出入りする全員。
 尤も藤ねえはおおいびきをかいて爆睡中だ。対策会議をするため一応一般人(?)の藤ねえは眠ってもらおうと凛が魔術で眠らせる筈だったのだが、それをするまでも無く大量の餌をとった冬木の虎は自分から丸くなって眠ってしまった。この分では空が落ちてきても目を覚ましそうに無いのでほおって置くことになった。
 そんな状況で対策会議は始まった。
 口火を切ったのは凛だ。 

「……実害は無いけど、いいかげんにして欲しいわね」

 凛は静かに言った。青筋が立っているように見えるのは気のせいだ。

「しかし、どうしますか?」

 セイバーが尋ねる。
 手加減などしていないのだ。それなのに何故か首謀者と思われる‘チンピラ’だけは逃げ延びている。
 なんか特殊能力でも持っているのだろうか? ランサーみたいに「サバイバル」とか。

「元から断たないとダメね、これは」

 イリヤが苦虫を噛み潰したような顔で言った。

「元、ですか?」

 桜が問い返す。

「そ。元。あいつの後ろ盾のヤクザ、全部叩き潰さないと」

「そ、それはちょっとやり過ぎじゃないか?」

 過激な意見に士郎が冷や汗をかきながら答える。

「私はイリヤスフィールに賛成します。雑兵など相手にすることは在りません。敵将さえつぶせば、それで戦は終わります。その後で締め上げてやればいい」

 騎士王陛下の戦争論。

「そうね、えーと、どこの組だっけ?」

「指定暴力団柴崎組、藤村組と冬木を二分する勢力ですね。近隣の大勢力と結びつきが強いらしく近年急速に勢力を伸ばした組織です。昔かたぎの藤村組とは正反対ですね。ヘロインにも手を出しているらしいです。構成員は約200。地方の組織としてはなかなかのもののようです」

 凛の問いによどみ無く答えたのは桜だった。

「……何でそんなに詳しいのよ、桜」

「あっ、いえ、この間‘吸収’した人の記憶から……いえ、何でもありません」

 にっこり。

「そ、そう。まあ、いいわ。ね、士郎」

「あ、ああ」

 凛と士郎だって命は惜しい。これは人が触れてはならないものだ。
 え? 正義の味方が情けないって?
 正義の味方だって人間だ。生にしがみついて何が悪い。

「で、敵の城はどこです? 桜」

 セイバーが前後のやり取りを一切無視して尋ねる。さすがは英霊だ。
 実はさっきの桜の笑顔で冷や汗をかいてしまったのは秘密である。

「新都郊外の柴崎邸。二代目組長柴崎征司が其処に住んでいます」

「じゃ、とりあえず其処に‘訪ねて’いって、いいかげんにしてもらえるように組長を‘説得’するってのでどうかしら?」

 妙に強調されているのはさしたる意味は無い。……筈だ。

「いいんじゃない」

「問題無いと思います」

「なるほど。討ち取るのではなく屈服させるのですか、合理的ですね」

 イリヤ、桜、セイバーが賛成。
 この時点で決定は下された。

「……俺が何を言っても無駄なんだろうなあ……」

 士郎が達観した口調で呟いた。
 
 ちなみに、桜とイリヤは留守番が決まった。
 士郎がこれだけは譲らなかったからである。
 妹達を危険にさらすわけには断じていかない。
 たとえ、心配する必要が無くてもだ。
 
 尤もそれは建前で、少なくとも死者だけは出さないようにしたかった士郎の精一杯の抵抗だったのかもしれない。
 



 翌六月二八日

 新都郊外の柴崎組組長宅に男一人女二人の襲撃者が突入。
 中国風の双刀を構えた少年と竹刀を持った金髪の少女、丸腰の赤い少女といった面子だった。
 当日同邸宅では幹部会が催されており、組幹部が勢ぞろいしていた。
 彼らは厳重な警備―チャカで武装したものもいた―を紙のように突き破り幹部会に乱入。
 その場で発見した幹部の一人息子―‘チンピラ’―を血祭りにあげ恐怖でもって組長以下幹部達を完全に屈服させた。
 彼らが引き上げた後、組長以下幹部達は自分の命がまだ残っていることに信じてもいなかった神に感謝の祈りをささげたらしい。以後彼らは敬虔なクリスチャンになったそうだ。

 後日襲撃者達が藤村組組長藤村雷画の身内と判明。
 柴崎組はそれまで敵対していた藤村組に即座に全面降伏、傘下に収まったらしい。

 以後の伝説の第一歩とされる藤村組の冬木完全掌握の顛末がこれである。

 

 

「あっ! ‘若’いらっしゃいませ」

 1週間後藤村雷画に呼び出された士郎は顔なじみの若衆にそんな言葉をかけられた。
 宴会をやるからたまには顔を出せといわれたのだが……?

「‘姐さん’がたもようこそいらっしゃいました」

 いっしょに呼び出された凛とセイバーも戸惑っている。

「? ああ。雷画爺さんいるかい?」

 やけに今日は言葉遣いが丁寧だなと思ったが特に実害は無いので放って置いた。

「はい。お待ちです。どうか此方に」

 首を捻りながらも案内されるままに士郎達はついていった。


 
 ごく普通の宴会だった。案内された先にいたのは雷画爺さんと藤ねえとイリヤだけ。
 用意されていた食事は最高級でセイバーは一心不乱に食べ続けた。
 酒も極上。あまり強くない凛と藤ねえは直に酔っぱらった。
 イリヤは士郎の隣でちびちびとオレンジジュースを飲んでいた。
 士郎は絡んでくる凛と藤ねえをあしらいながら雷画爺さんと‘杯’で酒を酌み交わしていた。
 妙な事にたまに組の人と思われる人がやってきては雷画爺さんに挨拶をしていくのだ。
 それだけなら別にいいのだが士郎にまで深々と頭を下げて帰っていく。
 雷画爺さんに尋ねてみたが「細かいことは気にすんな。飲め飲め」とあしらわれて飲んでいるうちに酔っぱらって寝てしまった。さすがに二人で一升は無理だ。

 眠り込んだ士郎を見てイリヤが雷画と視線を合わせてにたりと笑った意味は謎である。


                      


――藤村組の全国極道会完全掌握まであと……







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後書き



 …………どうも私、血迷ったようです。暑さに脳がやられたのかなあ(汗)

 前作「真霊」を上げた後深刻なネタ不足に陥りました。
 毎回その都度考えたネタを使い切ってきましたからねえ。10作を超えれば尽きもしますよねえ
 ………こういう時連載がうらやましいなあ。

 で、うなっている私の脳にさとやしさんの「Again」のイリヤの台詞が目にとまったんです。 
 
>「日本極道界、完全掌握! 目指せ、イリヤ姐さん!」

 で、思いついてしまったのが本作。

 思いついたのはいいけど自分には無理だと判断して他のネタは無いかと1ヶ月考えても思いつけず、ためしに書いてみて自分がシリアスしか書けないと言うことを思い知って三度ほど断念しかけ、やっと書いてはみたものの人目にさらせるものではないと判断して封印したんですが……
 ナデシコネタはまったく形にならず(設定は思いつけてもラストが固まらない)、フェイトはバカネタばかり(矛盾は見つかっても短編にまとめきれない)
 とうとう開き直っての封印解除。

 どうか生暖かい目で見てやってください。

 ダークやシリアスの方が遥かに書きやすかった………つくづく向いてないようです。
 
 一つだけ。
 世界設定はFD(ファンディスク)仕様です。
 聖杯戦争の結末はあいまいに、サーヴァントはセイバーのみが現界です。
 ……なんか桜がライダーを隠し持ってるような気がしてきましたがとりあえずそこは未定です。
 要するにお祭り、きのこ氏が言うところの2学期です。
 ですから設定的な矛盾はできたら見逃してください。
 細かいことには目をつぶってぱーっとやりません?
 ……駄目かなあ(爆)
 
 ナイツさん、御指導感謝です。
 御助言生かしたかったんですが結局変えられませんでした。
 申し訳ありません。
 どうも壊れは性に合っていないみたいです。
 一場面で壊したら後が収拾つかなくなるんですよね。
 皆さんはいったいどうやって整合性を取っているのか本気で解らなくなりました。
  
 次はまじめにやりたいなあ……
 今までの作品を読んでくださっていた方、怒らないで下さいね。
 次は(できたら)真面目にやりますから
 
 それでは
 












感想代理人プロフィール
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代理人の感想

ま、素性(文章)が良いのでそれだけでも読めます。

さらりと読み流すには悪くもないかと。

得手不得手に関しては・・・こればかりはどうしようもないかなぁとw