「本に人型兵器。ご依頼の品の調達全て完了しました。」
「よくやった…ブラックホール…一つ頼みたい事があるのだが…」
「は!」
「わがヨリシロと一緒に…戦神を連れて来い…この地へ…」
激闘!!超人大戦!!
第三話後編
「くっ!次は何に変身する気だ!」
エリマキトカゲの皮を脱ぎ捨て別の姿へと変態しようとするスニゲーターの前で素子が焦燥にかられながら叫ぶ。
「おーい、こいつの相手は俺が…」
後ろから、出番を取られた事による恨みがましい大島の声が響く。
「スゥ、武器がなくなったのでは危険だ、ここは引いてろ。」
「わかった!あっちにある武器取ってくるから、ウチが戻ってくるまで持ちこたえてくれ!」
素子に声をかけられたスゥが建物の方へ駆けていき、それを見届けた素子は再びスニゲーターへと注意を向ける。
「お〜い、聞いてますか〜って言うか俺無視の方針ですか?」
大島が先程より大きな声で素子に話しかける。
「やかましい!あいつと元々戦ってたのは私だ!第一貴様何者だ!?」
「俺はアキトの知り合いの大島…」
「浦島の?だったら奴の手助けでもして来い!」
大島の言葉も終わらぬ間に素子が言い放つ。
元々初対面の男に優しく出来るタイプではない上に、万能な再生能力を持つ敵を前にして勝負が決まらないことへの苛立ちもあり、かなり言葉に刺がある。
「いや〜あいつは手助けなんか要らないんじゃ…」
「だったら邪魔にならない所で見ていろ!」
「あ〜…わかったよ!こんちくしょう!」
元々精神年齢が低いせいか大島は明らかに不承不承と言った表情で庭先の縁側に座り、奥の部屋にあった煎餅とお茶を口に入れながら見学の体制に入った。
「俺としては二人がかりでも良かったんだぜ?」
直後、スニゲーターがエリマキトカゲの皮を脱ぎ捨て飛び出し――
そのままこつぜんと姿を消した。
次の瞬間素子の肩に浅く斬撃が走った、
「!?」
姿無き奇襲に思わず体制を崩すが、何とかそのまま踏みとどまる。
慎重深く辺りをうかがうが、スニゲーターの微かな気配はすれども姿は見えなかった。
再び殺気が走り、先程より深い一撃を素子の足へ刻む。
思わずバランスを崩し、素子が片膝をついた。
それを待っていたかのように素子の目の前の景色の一部が歪み、カメレオン型に変形したスニゲーターが姿を現した。
「カメレオン!?擬態か!」
ニヤリ――
スニゲーターは顔の端を歪め、まさに嘲笑うような笑みを浮かべ再び消えた。
「斬岩剣!」
スニゲーターのいた場所に斬岩剣の一撃を加えるが、地面を砕いただけで手応えは無い。
「ちっ、どこだ!」
素子が姿無きスニゲーターに叫ぶ。
「フフフフ〜〜〜」
すると後ろから奇妙な笑い声が聞こえた。
思わず素子が振り向くがスニゲーターの姿は何処にも無い、すると、
ベロリ…
「ひゃう!」
本来向いてたはずの方向からいきなり舌でほうを舐められ思わず素子は嬌声をあげた。
「可愛い声上げるじゃねえか…お前そんな棒っきれ振り回してるよりそっちの道の方があってるんじゃねえか?」
「貴様!!」
怒りと共にスニゲーターの姿を確認しないまま、再び斬岩剣を放つが打ち砕いたのは地面だけだった。
地面の破砕音と同時に素子に袈裟懸けの新たな傷が刻み込まれる。
「斬岩剣!」
素子がわずかな気配を頼りに三発目の斬岩剣を放つが、
「無駄だぁ!!」
むなしい土ぼこりが舞う、斬岩剣は再び地面を打ち砕いただけだった。
「ケッケッケ…下手な鉄砲数うちゃ当たるってか?当たる頃には朝が来てるぜ!!」
スニゲーターの嘲笑う声が虚空に響くが、先程とは違い素子は―――
笑みを浮かべていた。
同時刻、中庭の池の中でも死闘は繰り広げられていた。
「うおおおおお!!」
魔雲天が気迫と共に瀬田に掴みかかろうとするが、瀬田はそれを潜り抜け無数の正拳を打ち込む。
常人ならダウンは間違い無しの連撃だが…
「ウワハハハー!きかんぞ!」
そのまま魔雲天は腹を突き出した形のぶちかましを瀬田に浴びせる。
1トンの体重から繰り出される重量感ある一撃をくらった瀬田は思わず吹き飛ぶが、ダウンせずにぎりぎりの所で踏みとどまった。
「しつこい男だ。いくら貴様が攻撃を繰り返そうとも、この岩石の体には傷一つ付かんわ!今あきらめれば命だけは助けてやるぞ?」
魔雲天が勝ち誇った顔で自分の胸を叩き、瀬田にギブアップを問いかけるが、
「いや〜そうしたいのは山々なんだけどね、みんなが頑張っている中で自分だけあきらめるのはちょっと…
それにいろんな所を掘って来た考古学者が岩石一つ崩せないのもシャクだしね。」
いつもの笑顔でそれを跳ね除けた。
第一に瀬田は『あきらめる』と言う言葉を使う性格ではない、笑顔の裏には強烈なあくなき挑戦と言う意思がある、その男に『あきらめ』をすすめる事自体愚行に過ぎない。
その意思をぶつけられ魔雲天が少し怯むが、
「フン!人の好意を無視するとは愚か者め!ならばワシの本気を見せてくれるわ!」
怒りでそれを振り払い、
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…」
腕をクロスした体勢で低い唸り声を上げはじめた。
魔雲天の今までとは違う気迫に瀬田が直感的に警戒した直後、
「はあ!」
魔雲天が気と腕を解き放つ、それと同時に瀬田に向かい空中から無数の大小の岩石が降り注いだ。
唸りを上げ落下した岩石が池に無数の水音を作る。
「ウハハハハー!山の怒りを思い知れ!」
魔雲天が技の始動体勢を崩さずに高らかと響く声を上げる。
「おっと、危ない危ない。」
しかし降り方にムラがあるため瀬田は軽口を叩きながら易々と避け、いまだ技の始動体勢でいる魔雲天に向かって一撃を加えようと接近する。
瀬田が回避行動と移動を繰り返し、一撃が加えられる距離まで迫ったその時、
「それを待っていたぞ!喰らえ、ボルケティックマグナム!!」
魔雲天の絶叫の直後に魔雲天の頭に亀裂が走った。
そして魔雲天が頭を下げ亀裂を瀬田に向けた瞬間、凄まじいスピードで中から巨大な赤く燃えた岩石が発射された。
至近距離のため避けきれないと判断した瀬田は上へと跳び、赤い岩石は瀬田の下を通っていく。
そのまま空中から一撃を加えようと魔雲天のほうを向いたその時、魔雲天の頭からボルケティックマグナムの第二射が発射された。
轟音と共に赤い岩石は瀬田に直撃し、瀬田は池の中心まで吹き飛ばされる。
「そんなに化石が好きならば、貴様も化石にしてくれる!マウンテンドロップ!!」
それを追うようにして魔雲天がジャンプ、自身の体重全てをかける勢いでダウンした瀬田に向かってダイビングボディプレスをしかけた。
間を一旦おいた後、爆音とも言える凄まじい水音とともに水の壁とも言える大波が巻き起こる。
しばらくし、水の壁が晴れた後に見えたものは――
うつ伏せになっている魔雲天、その下には瀬田の着ていた白衣が見えた…
アキトがひなた荘の屋根を飛び回るようにして移動し、その後をプラネットリングが正確無比に追いかけていく――
ある意味膠着化した攻防が屋根の上では繰り広げられていた。
「カカカーー!逃げ回ってばかりでは名が泣くぞ!戦神!」
プラネットリングの主、プラネットマンが空中に浮きながら高々と笑う、それはまさに悪魔の嘲笑と呼べるもの、
それを聞いたアキトが飛び回るのを止め、そのままプラネットリングの方を向き立ち止まった。
そこを狙い襲い掛かるプラネットリング、高速で移動したままアキトに突っ込んでいく、しかしぶつかるかに見えたその時、なぜかプラネットリングは空中四散した。
「カカ!?」
いきなりの展開に訳もわからず唖然とするプラネットマン、それを見たアキトが一言告げる。
「今の一撃が見えなかったのか?だとしたら俺の敵じゃない、さっさと引け。」
先程までとは違い冷酷な威圧感のある口調、アキトをひなた荘の住民と引き離した事はプラネットマンにとって誤算だったのかもしれない、
誰も見ていなければ戦神に戻る事へのストッパーは無くなるのだから――
「き、貴様!調子に乗りおって!コレで終わったわけではない、くらえ!リングストーン!!」
プラネットマンが焦燥に駆られながらもアキトに砕かれ四散したプラネットリングの欠片を口に含み、アキトに向かい吹き付けた。
無数の細かい岩石がアキトに向かい襲い掛かる、しかしアキトはそれをバク転して避けた。
目標を見失った岩石が屋根を打ち砕く。
それを追いかけるかのようにしてプラネットマンが高速で飛行し、その勢いでアキトめがけ飛び蹴りをくわえる。
アキトは十字ガードでそれを防ぐが、プラネットマンは反射の勢いを利用しワンモーションでアキトの顔面めがけローリングソバットを放つ。
しかしアキトはその一撃を避けずに直撃直前に無造作にプラネットマンの足首の惑星を掴み、そのまま手に力を加える、
直後に鈍い音と共にプラネットマンの足首の惑星が砕け散った。
「ギャアーーーー!!」
プラネットマンの悲鳴が空に響き渡る、しかしアキトはそのまま隙を突いてもう片方の足の惑星も掴む、再び何かが軋む音が辺りに響いた。
「コレで最後だ!引け!お前は俺には勝てない!」
力を加えながらもアキトがプラネットマンに対し最後通告を告げる。
しかしそれを聞いたプラネットマンは、
「カカカ…」
空虚な笑みを浮かべていた、いぶかしがるアキトを前にそのままプラネットマンは言葉を続ける。
「俺の両足の惑星は冥王星と海王星…この二つの惑星は太陽より最も遠く氷河に覆われた氷の惑星と呼ばれている…」
アキトが掴んでいる惑星が不気味に光り始め、
「その力は触れたものを何でも凍りつかせる事が出来る!」
強い閃光が辺りを覆いつくした。
「くっ!!」
一瞬アキトの視界が奪われ、アキトが視界を取り戻した時には右腕でしっかりと掴んでいたはずのプラネットマンは消えており、その右腕を中心としたアキトの半身が見事に凍り付いていた。
「両足が健在であれば貴様を完全に凍らせる事が出来たものを…私の惑星を砕いた罪は重いぞ!」
虚空に姿無きプラネットマンの邪悪な声が響く。
「気に食わないんだったらバランスよく全部砕いてやろうか?」
凍りつかせられながらも、自信に裏打ちされた口調でアキトが挑発する。
「調子に乗りおって…ならば、貴様の半身も同じように打ち砕いてくれるわ!」
直後、プラネットマンの声が消えると同時に気配まで消える。
それを警戒しアキトが場所を移動しようとするが、右足も凍り付いてるので思うように移動が出来ない。
なんとか奇襲に対応するため姿を探ろうと左右の空間に気配を走らせるが気配は無い、注意深く上空を見ても怪しげな惑星は無い。
(逃げたのか?)
時間が経ちアキトが思わず警戒を解いた瞬間、足元の屋根が軋み、下に位置する成瀬川の部屋から殺気が感じられた。
(下か!)
アキトが気付いた瞬間、分離し十字型の配列に並んだプラネットマンが足元の屋根をぶち破り姿を現し、
「魔技グランドクロス!!」
技名を叫び、プラネットマンはそのままアキトを捕まえ凄まじい勢いで上空へと運んでいった。
そして急停止し、アキトを上空に打ち上げその隙に人型へと再び変形を遂げる。
そのまま、落下してくる半分凍ったアキトをボディスラムの体勢で捕獲し、
「いくら貴様でもこの状態では脱出できまい!死ねー!!」
アキトを下へ凄まじい勢いで投げ捨てた。
無防備で落下するアキト、下には破壊され材料の木材を毛羽立たせ凶器と化した屋根が待ち構えている。
「ちい!」
しかし激突寸前、アキトは自由な左腕を使い片手の逆立ちで尖った木材の上に着地した。
そのまま器用にジャンプして再び屋根の上に戻るアキト、そしてそのまま気合を溜め、
「はあ!」
気合一閃、自身の半身を覆う氷を粉々に粉砕した。
「あの体勢で着地の上に氷を砕いただと?ば、化け物かあいつは…」
必殺と思えた策を力で破られ、プラネットマンの表情が戦慄へと変わった。
「せたやん!モトコ!アキトも気になるし…くそーピンチや!」
新たに巨大な銃身を持った銃型の武器を携え中庭へと戻って来たスゥが視界に広がるそれぞれの戦局不利な光景に混乱するが、
「まあコレでも食って落ち着け。」
傍の縁側に座っていた大島が無造作に煎餅を渡す。
「ああ、悪いな〜…って何しとるんや!」
口に煎餅を含んでから一気にテンションを変えスゥが突っ込む。
「なかなか上手いノリ突っ込み、いいねー自分。」
「そりゃー毎日キツネに鍛えられてるからなぁ…いやちゃうて…何でこんなとこで煎餅食って茶飲んでるんや?」
「いやそこの部屋にあったから…もしかして食っちゃまずかったか?」
「ポイントそこちゃうわー!!」
堂々巡りの漫才にピリオドを打つスゥの飛び蹴りが大島のコメカミに炸裂し、大島からダウンを奪った。
「感じ的にせたやんの方がやばいか…待ってろ、今助けに行くでえ!」
とりあえず増援先に目端を着けスゥが駆け出そうとするが足が動かない。
後ろを見るとダウンから復活した大島がスゥの襟首を掴んでいた。
「だから落ち着けって。今、全員勝負かけてんだから…下手に威力ある援護は邪魔になるぜ。」
「全員?ホンマか?だってせたやん押しつぶされてるやん。」
スゥが遠く池の中央、魔雲天の下に見える瀬田の白衣を指差す。
「あの人ほんとに考古学者なのか?」
大島は質問に答えず、逆に場に関係なさそうな質問をする
「?」
スゥの顔に疑問符が浮かび、それを見た大島が口の端を歪ませ言葉を続ける。
「巧いなー戦い方が、あのデカブツ完全に騙されてやがる。」
大島の笑みはとても意味深で狡猾な物だった。
「むっ?おかしい。いくらなんでも手応えが無さ過ぎる。」
瀬田を押しつぶした魔雲天が何か雰囲気がおかしいことに気付きゆっくりと立ち上がる。
「な、なんだと!白衣だけとは!奴めどこへ消えた!!」
魔雲天が潰したもの、それは瀬田の白衣だけであり、着ていた筈の本人は影も形も無かった。
自分の予想していた展開とは違った展開に魔雲天の笑みが凍る。
「あーあ、その白衣結構気に入ってたんだけどね。」
直後に魔雲天の背後からいつも通りの瀬田の声が聞こえた。
「!?」
魔雲天が振り返り瀬田を目視したその時、瀬田が手に掴んでいた何かを魔雲天の口に押し込み、中華拳法風の体重を乗せた肘打ちを魔雲天のみぞおちに打ち込む。
「むぐっ!」
魔雲天は自分の口に入れられたものを確認しないうちにそれを飲み込んでしまった。
それを見届けた瀬田は魔雲天から離れ、まるで何かを警戒しているようにかなりの距離をとる。
「き、貴様…一体何を飲ませおった…」
軽く咳き込みながら魔雲天が瀬田を怒りの瞳で見つめる。
しかし瀬田はいつもの表情で怒りを受け流し、飄々とした口調で答えた。
「君達に日本アルプスで襲われてそのまま逃げてきたから懐に発掘道具が入れたままだったのをおもいだしてね。
ポケットを探してみたらあったんだよ、硬い岩盤を砕くために持ってきた火薬が。」
「なんだと!?」
一気に魔雲天の顔色が恐怖に彩られるがそんな事は関係無いかのように瀬田が言葉を続ける。
「ちゃんと防水がきく紙に包んであったからシケってないよ。いや無意識のうちに包んだんだろうけど…備えあれば憂い無しってやつだねーこれは。」
「ば、馬鹿な…ありえん…だが一人では死なん!貴様も道連れに…」
愕然とした魔雲天のセリフが言い終わらないうちに、瀬田が懐から発掘に使う岩石を砕く太い釘を幾本か取り出し魔雲天の片足めがけ投げつけた。
釘は妙に上手く全部魔雲天の体の割には細い膝頭にささり、魔雲天の片膝が砕け散る。
片足では自重に耐え切れずに魔雲天の巨体が崩れ落ち、鈍い水温が辺りに響いた瞬間、
ドゴーーーーーン!!
凄まじい爆音と共に魔雲天の体が爆砕し木っ端微塵となった。
それを見届けた瀬田は踵を返し歩き始める。
仕事を終えた顔、いつもの陽の笑顔とは違い陰を含んだ笑顔が何か物悲しいものを感じさせる―――
「おっしゃあ!勝った!!」
「いいで〜せたや〜ん!」
遠くで見ていた大島とスゥが歓声を上げる。
「?あ、見ててくれたのかい?」
それを聞いた瀬田が立ち止まり、大島とスゥに向かいいつもの笑顔で手を振ったその時、
ヒュ〜………ゴン!
魔雲天の破片が瀬田の頭に直撃した。
瀬田の動きが止まり、
「「………」」
ついでに遠目で見ていた大島とスゥの動きまで止まる。
少しの静寂の後…
瀬田が頭に大きなコブをつくり前のめり池に倒れた。
それを見た大島とスゥがそれぞれ一言呟く、
「勝つとは思ったけどオチまでつけるとは思わなかった…」
微妙なひや汗をかく大島とは対照的に、
「さすがせたやんやな。」
何故かスゥは自信満々の口調だった。
「魔雲天!馬鹿が!アレほど油断するなと言っただろうが!」
池の爆発を目撃した、姿無きスニゲーターの絶叫が響く。
「フフフ…」
それを聞いた素子が意味深に声を出し、軽く笑った。
「あん?何がおかしい!?」
「いや、瀬田さんに負けていられないと思ってな。次で勝負を決める…」
瞬間、素子の気が研ぎ澄まされ、周りの空気まで張り詰める。
「望むところだ!こっちもこれ以上テメエにかまってる暇はねえんだよ!!」
姿無き足跡が響き、空気が胎動する。
それはまさしく勝負の時を表していた。
「モトコ…大丈夫やろうか?」
スゥが不安げに大島に問いかける。
「ああ、勝てる勝てる。」
しかし大島は対照的にあっけらかんと答えた。
「何でそんな自信満々なんや?」
「だって、あの変態野郎、自分が見えてるのに気付いてないじゃん。」
「見えてる〜?ほんまか?」
スゥが疑い深げに大島の顔を見る、
「いや、ほんとだって!たぶん位置的にあのサムライねーちゃんにも見えてると思うし。
なんなら、俺があいつの動き実況してやる…あっ!動いたぞ!」
大島が途中で言葉を区切り、目を凝らすようにして素子の方を睨む。
「左の一撃!」
大島が叫んだ瞬間、カキン!と刃を結ぶ音がし素子が見えないはずの一撃を止水で受け止める。
「右で追い討ち!」
素子はそのまま止水の刃を引き虚空に向かって切り付ける。
空間に鮮血が舞った。
「左のロー!」
素子が地面へと止水を振り下ろす、地面から赤い血が吹き出した。
「一歩引いて舌攻撃!」
素子が止水を居合いの体勢のまま連続して振りぬく。
無数の斬撃音の直後、見えない何かが地面に大量に落ちた音が響く。
「やけっぱちの特攻!」
大島のテンションが最高潮に達すると同時に、
「斬魔刀!」
素子が走り出し、空間に向かい必殺剣を放った。
何かが切り裂けたような音がした直後に、
「な、なぜわかった…」
もはや再生能力も意味が無いほどの重傷を負ったカメレオン型のスニゲーターが現れ、そのまま崩れ落ちる。
縦一文字に付けられた深い裂傷、右手は断ち切れ、左膝は皮一枚でつながり、カメレオン型の特徴とも言える舌に至っては根元からズタズタに切り裂かれている。
「な?俺の言ったとおりだろ?」
大島が明らかに偉そうにスゥに向かって胸を張る。
「お〜ほんまや。なんでわかったん?」
「ふふふ…はーっつはっはあー!!お教えしましょう!ホコリだよ土ボコリ。」
まさに鼻高々と言った表情で偉そうに大島が解説を始める。
「ホコリ?」
「あいつが姿を消した直後から、あのサムライねーちゃん地面に向かって空振りばっかしてただろ?」
「んにゃ?しらんで。ウチ武器探しに行ってたからな。」
「…まあいいや。あの変態野郎はやけっぱちに乱発してると思って安心ぶっこいて調子乗っていやがったんだが、そのせいで気付かなかったんだなー
サムライ姉ちゃんが起こした空振りの余波の土ぼこりが自分の体にうっすらと積もってんのに。馬鹿なヤツだぜ、さっさときめてりゃ勝ってたのによ。」
大島が勢いに任せた長ゼリフで解説を終えた。
「おお〜なるほど。流石モトコや。一つ疑問があるとすれば…」
「なんだ?」
「何でオオシマここから見えたんや?ウチぜんぜん見えなかったで?」
大島の言ってる事が正しければ自分にも見えなければおかしい、そこから生まれた疑問点をスゥは素直に大島にぶつけた
「あくまでうっすらとだからなあ、相当近づかなけりゃ見えないぜ。まあ俺の視力は5.00だからな、やろうとおもえば月のクレータの数も数えられるこの目で見切ったと言うわけだ。」
やけに自信たっぷりの口調で大島が答える。…実際5.00でクレータは見えないと思うが現実にスニゲーターを見切ったので特段、否定要素も無い。
「なんやオチがばれるとたいした事無いな〜。まあそれは置いといて、これで素子も片付いたって事は…あとはアキトだけやな。」
結構ひどいセリフを言った後、スゥが屋上に消えたアキトの事を心配するが、
「オチがばれたらたいした事無いって…まあいいや、多分あいつなら大丈夫じゃね?」
ショックを受けながらも大島がめんどくさそうに答え、頭を掻きながらセリフをつなげる。
「あの史上最強の管理人が誰に負けんだよ?」
「うお…」
至近距離で首相撲の体勢からボディにニーを打ち込まれ、プラネットマンの口から苦悶の声が漏れる。
その隙をつき、アキトは首相撲の体勢を解き放ち、つま先で顎を蹴り上げ、そのままよろめいたプラネットマンの脳天めがけカカト落としをめり込ませる。
ゴン!と言う鈍い音と共にプラネットマンがうつ伏せにダウンした。
その体勢のプラネットマンめがけ、アキトが力を込めた踏み付けを打ち込むがプラネットマンは分離し難を逃れる、目標を見失った一撃が屋根を破壊した。
アキトが上空を見上げると、プラネットマンが直線状に隊列を変え、こちらに矛先を向けていた。
「コレは破れまい!惑星直列!!」
直後、空気を切り裂く快音と共に巨大な槍と化したプラネットマンがアキトめがけ襲い掛かってきた。
しかしアキトは、
「…調子に乗るな!貴様等にこれ以上付き合っている暇は無いんだ!」
逃げずにそのままジャンプして、空中で真正面から向かい合った。
「!?」
予想外のアキトの動きにプラネットマンが動揺するが、コレを好機と見たか、そのまま勢いを緩めずにアキト向かい突撃する。
プラネットマンの先頭の惑星がアキトに触れるかいなかのその時、
「はあ!」
アキトが気迫と共に先頭の惑星を肘で叩き落とし、そのままもう片方の肘で次の惑星、三番目の惑星は空いた左膝―――
ある意味人間と言う範疇を超えた空中での連撃がプラネットマンの体の惑星を次々と叩き落していく。
そして最後に残った惑星、プラネットマンの中枢とも言える惑星バルカンを、
「惑星直列…破れたな。」
挑発のセリフと共に全力のスレッジハンマーで屋根へと叩き落した。バルカン衝突の衝撃で屋根が浅く壊れる。
「がっ!…くそ!惑星たちよ戻って来い!」
激突の衝撃で傷をおったプラネットマンが本来の人型にもどるが――
「!ヤツはどこだ!?」
そのままアキトの姿を見失ってしまう、左右を見渡すがどこにも姿が無い。
「くそ!出て来い卑怯者が!」
混乱し手前勝手なセリフをはくプラネットマン、その直後凄まじい殺気がプラネットマンの背後から解き放たれた。
プレッシャーをもろに受け、冷や汗をかきプラネットマンが振り向いた瞬間、
バキッ!!
力を込めたグーパンチがプラネットマンの右の顔面を砕け散らせた。
「グギャア!」
もんどりうち屋根へとたおれこむプラネットマン、それをアキトが追い、プラネットマンが立ち上がる前に胸倉を掴み無理やり立たせた。
「さて、吐いてもらおうか…北斗の居場所を。」
殺戮は好まない、しかし何かを守るためならそれも厭わない――
ある意味狂気とも言える視線をプラネットマンにぶつける。
しかしプラネットマンはその視線に怯む事無く直に合わせ口を開いた。
「カカカ…あの女と貴様が持つ布袋の中身はサタン様復活の鍵…渡すわけにはいかん!」
そう言い放つとプラネットマンは、自身の胸倉を掴んでいたアキトの両腕をはずし、上方で右手を振り上げハンマーパンチを放った。
しかし到達前にアキトは右手でプラネットマンのパンチを受け止め羽折型の関節技に固める。
プラネットマンが口から苦悶の言葉を発しようとするが、そんな事にはかまわずアキトは残った左手でプラネットマンの左腕を右腕と同じように固めた。
「ギャ〜〜〜〜〜ア!!」
苦悶を出すまもなく悲鳴へと変わる。
両手を羽折で固め、ほとんど鼻先をつけたような形で向かい合ったプラネットマンにアキトが告げる。
「別に無理して語ってもらわなくてもいい、それならそれでどうにかできるからな…」
そしてそのままの形でアキトが後ずさり、関節を決められているため苦悶の表情でプラネットマンは引きずられていった。
後ろには先程プラネットマン自身が開けた穴があった。
「まさか貴様…?」
いやな予感がしたプラネットマンが思わずアキトに問いかける。
「昔、形だけは月臣さんに聞いた木星型稲妻落とし…ほとんど漫画みたいな技なんで使う機会があるとはおもわなかった…」
セリフの途中、アキトの体から内なる力『昂気』が発動し、プラネットマンを締め付ける両腕に力が入る。
「せっかくの機会だ、使わなきゃな!」
アキトが頭をプラネットマンの懐へと潜り込ませ、アキトはその体勢のまま穴へとプラネットマンを引きつれ後ろ向きでダイブした。
そのままプラネットマンとアキトの二人は連れ立って階下の成瀬川の部屋へと落下して行くが、
狙っていたのか偶然か、二人の体は成瀬川の部屋と管理人室を繋ぐ例の穴を通過し、凄まじいスピードで成瀬川の部屋を通り抜けていく。
刹那、何かが破砕する音が穴の下から響き、その後静寂が訪れた。
そして管理人室では―――
二人が空中に飛んだ体勢と同じまま、床に突き刺さり静止していた。
ただし突き刺さっているのはプラネットマンの脳天だけで、アキトは固めたプラネットマンの腕を支えにして激突を免れている。
そしてアキトが腕を外し、体を反転させ立ち上がったと同時にプラネットマンの両腕の惑星が粉々に砕け散り、
そのまま腕がへし曲がったままの不自然な体勢でプラネットマンが硬直状態のまま仰向けに倒れた。
それを見届けたアキトが天井を見上げ、嘆息し溜息と共に深く呟いた、
「天井に床に…中庭の方も無事とは思えないしなぁ、修理に時間が…まあこれは大島にでもやらせて。
しかし北斗の行方と悪魔超人についてディアとブロスに調べさせるのは俺が直接頼まないとだめだろうな。」
寮の被害状況と将来先行きへの不安さがアキトの肩に重くのしかかる、そのまま肩を落とし、今だ戦闘続く中庭に向かおうとしたその時、
「ま、まだ…終わっていないぞ…戦神…」
アキトが後ろを振り返ると、息も絶え絶えとなったプラネットマンが体を無理やり立たせ、焦点の合わない目でこちらを見つめていた。
「ケケケ…」
死闘が終わったと思えた中庭、屍と化したと思えたスニゲーターから乾いた笑い声が響く。
それはまるで全てを諦めたかのような笑い、絶望の笑いに聞こえた。
「!?まだ動けるのか?」
素子が慌てて止水を構え死に体のスニゲーターへと止めを刺そうとするが、
「まあ、待て…」
スニゲータが手で素子を止めるしぐさを取った。
「いくら無限の再生能力を持つ俺でもここまでやられたら助からん…」
そう言うと、スニゲーターは立ち上がり、まるでヨガのような複雑怪奇なポーズをとり変形を始めた。
素子が止める間もない間に、光を放ちながら変形し光が止んだ頃にはスニゲーターは巨大なスニーカーへと変形していた。
「何だ?それは?」
爬虫類でもなんでもない変形に思わず素子の顔に疑問符が浮かぶ。
「俺は元々スニーカーとワニの合成超人、もはや助からぬこの身なら騎士の一人として潔く本来の姿で死にたい…」
今までの行為からは考えられ無い、殊勝なセリフをスニゲータがとうとうと語る。語り終えると貝の様にスニゲータは口を噤み、そのままピクリとも動かなくなってしまった。
それを見た素子が切腹の介錯をするように、スニゲータめがけ刀を大きく振り上げた。
降伏し死にたがる相手への死と言う開放。古来、日本武士が行なってきた行為を今ここで素子が行なおうとしていたが、
「おい、サムライねーちゃん!ちょっと待て!怪しいぞそれ!」
少し離れたところで見ていた大島がその行為に水をさす。
「怪しい?もはや覚悟を決めている相手、止めを刺してやるのが情だろうが!第一サムライねーちゃんとは何だ?私にはちゃんとした青山素子と言う名前がある!」
素子がその水を払おうと変な呼び名への怒りもこめ、叫び返す。
「はぁ?何で人の名乗りもまともに聞かねー様なヤツまともに呼ばなきゃいけねえんだ?サムライねーちゃんが嫌なら人の名前聞く位の余裕持てや!!」
大島も負けじと言い返す、どうやら初対面時に名乗りを途中で切られた恨みが意外と深いらしい。
「くっ…男が過ぎた事をグチグチと…こいつの介錯が終わったら貴様の相手をしてやる!そこで待っていろ!」
そう言いはなつと、素子は大島の静止を聞かぬまま、縦一文字にスニーカー形態のスニゲーターを切り裂いた。
切り裂いた後にはスニゲータのスニーカーの抜け殻だけが残り、それは命の終焉の証にも見えた。
「終わったぞ。さて、話し合いをしようか…」
素子がそれを確認し、明らかに話し合いで済みそうも無いオーラを放ちながら大島の方を振り向く。
すると大島は何故かこちらに向かい全力で走ってきていた。
思わぬ大島の行動に素子が思わずたじろぐが、そんなのにはかまないのか大島はまったくスピードを緩めない、そして一言、
「どけ!!」
と叫び素子を横へと突き飛ばした。
バランスを崩し、素子が思わず尻餅をつく。
「いたた…貴様いきなり何をする!気が狂ったのか!?」
素子が怒りと共に視線を戻す、しかし大島の姿はそこには無かった。
替わりに、
「余計な事をしやがって…まあいい、俺の蹴りを喰らって起きやがった奴はいねえ…」
何か不気味な4本指の巨大な爬虫類の足のような物へと変身したスニゲーターがいた。
「オオシマー!!」
大島の名を呼ぶスゥの視線は何故か上空を向いていた、素子が思わずつられ上空を見ると、エライ勢いで空中を吹っ飛んでいる大島がいた。
そのまま池へと吹っ飛び、水音と共に何か鈍い音を発し、水面へと消えていく。あの飛んだ勢いから見て良くて重傷、いやそのまま死亡…
「な、なんやアレ?足?何の足や…」
危険を察知したのかスゥが素子の傍らへと駆け寄り、新たなマシンガン型の武器を構えながら不気味な変化を遂げた、スニゲータを凝視する。
「俺の正体は7000万年前に地球を支配した恐竜の王者、ティラノザウルスの足よ!!」
スニゲーターの高らかとした声、それを素子が悔しげに呟く、
「覚悟を決めたのではなかったのか…?」
これでは大島の静止を振り切ってまでの覚悟で介錯をした自分、そして身代わりとなって攻撃をくらった大島が浮かばれない。
しかしスニゲーターは、
「覚悟?はっ?知るかよ。かわいそうになぁ〜アイツも、地獄の封印を解いた当の本人は無傷で、止めた奴が死ぬなんてな。
世の中わからないもんだなぁ?」
明らかに楽しみながら、あっさりと気持ちと大島の命を踏みにじった。
怒り、その感情は自分を見失わせるため戦いでは邪魔な感情と言われている、しかしその感情は時に凄まじい力を生む。
それを示すかのように、素子から今までとは違ったオーラが放たれていた。
「うわあああああああ!」
怒りを込めた咆哮と共に素子はスニゲーターに向かい駆け出し、激突直前で空に跳んだ。
そして思い切り剣を振りかぶる、すると剣の先に何か雷のような物が集まり始め、放たれるのを心待ちにするように雷が轟き始めた。
「神鳴流決戦奥義!!雷鳴剣!!」
素子が叫ぶと同時に帯電した止水を振り下ろす。
止水がスニゲーターに触れると同時に、スニゲーターの周りの空間が振動し、帯電を含む爆発が起こり、
「グギャァァァァァァァァァ!!」
断末魔のような悲鳴と共に凄まじい爆風がスニゲーターを包み込み、その姿をすっかり覆いつくした。
技を打ち終えた素子が着地し、息を荒げて膝を着く、怒りと共に放った一撃の代償はかなり大きかったようだ。
「それで終わりかよ!きかねえって言ってるだろうが!!」
次の瞬間、爆風を裂き少し焼け焦げたスニゲーターの巨体が唸りをあげ、素子に向かい原理不明の凄まじいスピードで突っ込んできた。
普通、足と言う物は両足で歩き動く物であり、片足で動く事は考えられない。
しかし否定だけでは攻撃を避けることは出来ない、スニゲーターは疲労困憊の素子をハイスピードのまま、器用に足で捕まえ、力を込め締め上げていった。
その握力はかなり強いらしく、素子の手から硬く握っていたはずの止水が落ちる。
「く…放せ……」
「モトコ!!」
素子の苦悶の声を聞き、スゥが手に持っていた大振りの銃を構えるが、それを見たスニゲーターは無言で体をスゥの方へ向けた。
それは強烈な意思表示、『撃てばこいつも死ぬぞ?』あえて言葉に出さない事がその確実性を実に表していた。
それを見たスゥが銃口を悔しそうに下ろす。
「ククク…そうだそれでいい!安心しろ、今からこいつを握りつぶす!そうしたら安心して撃てるぜ?ま、そんな武器が俺に効くとは思えねえけどな!
悪魔の逆鱗に触れた事を後悔しろ!!ケーケケケケッ…ケーケケケッ!!」
胸がむかつき吐きたくなるほどの嘲笑、地獄の底からの高らかな笑い声をスニゲーターがあげる。
悪魔の笑みをを止められる者は居ないのだろうか?
直後、その笑い声を遮るかのように静かな池に水音が上がった。
いきなりの怪音に、思わず敵味方問わず水音の元に視線をやる。
「あーしんど!しかし…えらい吹き飛ばされたな〜俺。」
そこには頭に大きなコブをつくり、疲れた表情で水面を上がってくる、ずぶ濡れの大島がいた。
頭にコブは出来てるが、他に外見上目立つ怪我は一切無い、あの吹き飛び方から見てそれは奇跡にも思えた。
それを見て、てっきり大島が死んだか重傷を負ったと思っていた、素子とスゥの目が点になる。
「無傷だと!?ありえねえ!あそこまで吹き飛ばされて人間ごときが無事でいられるはずがねえ!!」
素子を握りながらもスニゲーターが驚愕の声を上げる、顔は無いもの、その声からはかなりの焦燥が見て取れた。
それを聞いた大島が急に、着ていた上半身のシャツをめくる。
すると、何か鉄製の鋲の様な物が音を立てて服から落ちてきた。
「こいつで鎖を作って、服の中に仕込んであったんだよ。」
大島が服からこぼれ落ちた鋲を拾って、全員に見えるように手を広げながら言葉を続ける。
「あとはお前の無駄な力を利用して景気良く吹っ飛ぶだけ…『俺の蹴りをくらって起き上がった奴はいねえ?』俺くらっても無傷なんだけど…もしかして新記録?
明日辺りギネスに申請してこよーかなコレ?」
大島が物真似を交えた、明らかにスニゲーターを馬鹿にしきった口調でからかう様にトリックを明かした。
その口調にスゥどころか、スニゲーターに握り締められている素子も軽く吹き出す。
「テメエ…ここまで俺を馬鹿にした野郎は始めてだ!待っていろ!今すぐこいつを握りつぶしてテメエも殺してやる!!」
スニゲーターが小馬鹿にされた事に激怒し、素子を握りつぶそうとその足に全力で力を込めようとするが、
「あ、最後にちょっと聞いてくれ。」
大島が気勢を削ぐタイミングで言葉を発した。
「確かにお前の攻撃をくらった俺は無傷だったんだが…実は着地にミスってな、それで頭にこんなでかいコブ出来ちまったんだよ。
いやーまさか適当に吹っ飛んで池で寝てたやつと頭ぶつけるとは思わなかったぜ。おかげで起きてくれたけどな」
世間話を話すように大島が軽く話した直後、物陰からこれまたずぶ濡れの頭に二つ目のコブができた瀬田が飛び出し、スニゲーターに向かい駆け出した。
魔雲天に潰された、ボロボロの白衣を着てるのは見栄なのだろうか?
それはともかく、走った勢いのまま瀬田はスニゲーターの指めがけ、回し蹴りをぶち込んだ。
スニゲーターの指の一本が、それで骨折したかのように歪み、思わず握力が下がる。
そこから瀬田が素子を引き出し右手で抱え、さらに左手で地面に落ちていた止水を拾い、
「悪いね、素子ちゃんと止水、返してもらうよ。」
捨てゼリフを残し、去っていった。
「逃がすか!」
スニゲーターが逃がすまいと瀬田を追いかけようとするが、それを見た大島が手で握っていた鋲を、スニゲーターめがけ投げつけた。
鋲は凄まじいスピードでスニゲーターに突き刺さり、その肉体にめり込んでいく、傷は一瞬で治ってしまった。
その援護が功を奏し、瀬田は攻撃をくらうことなくスニゲーターと一定の距離があるスゥの元へたどり着く事が出来た。
「大丈夫かい?素子ちゃん?」
瀬田が担いでいた素子を地面に降ろし、心配そうに顔を覗き込む。
「ゴホッ、ゴホッ…大丈夫です、有難うございました。瀬田さん。」
少し咳き込んでいるが、とりあえず顔色も悪くなく、別段怪我は無いようだ。
「モトコー!!」
それを見たスゥが嬉しそうに素子へ飛びつく。やはり、素子が無事だったのが相当嬉しいようだ。
飛びついてきたスゥの頭を素子が軽く撫でる、戦闘中とは思えない空気が一瞬流れる。
「いい光景だ…少し百合っぽいが。」
大島が軽い問題発言を吐いたのも束の間、スニゲーターが大島めがけ襲い掛かった。
「おわ!」
いきなりの矛先転換に慌てながらも大島が横に飛びそれを避ける、スニゲーターの外れた攻撃は池の縁石を砕いた。
しかしスニゲーターは怯むことなく、そのまま大島を追い続ける。
「よく考えてみればテメエが邪魔をしなければ俺はとっくにあの女を殺せていた!テメエは邪魔だ!先に死ねえ!!」
攻撃を加えながら怒りの声でスニゲーターが叫ぶ、亀のときの一撃、そして恐竜の足に変化しての一撃…考えてみればいつもいい所で大島は乱入していた。
それに対しての怒りが爆発したのか、本来のターゲットであった素子の事は忘れ、大島に向かいスニゲーターは暴走気味の攻撃を続ける。
「何ほざいてやがる!そう簡単に死ねるかよ!」
スニゲーターの攻撃を軽い身のこなしで避けながら大島も負けじと言い返し、腰のサイドパックから鉄鋲を取り出し、避けざまにスニゲーターに向かい投げつける。
しかしその攻撃はスニゲーターに致命傷を与えることなく、鋲は体へとめり込んでいった。
「きかねえぜ!そんなちんけな攻撃!」
スニゲーターが鋲を無視してそのまま攻撃を続ける。
「あかん!オオシマのピンチや!!」
スウが援護射撃をしようとするが、素子が目の前に手を差し出し、それを止めた。
「撃つな。あの男のちょろちょろとした動き、誤爆の可能性が高すぎる。危険だ。」
意外に冷静に素子が止める、その目は何かを見極めてるような注意深い目だった。
「そうだね。確かにそれも有るけど…」
それを聞いた瀬田が素子の言葉に補足するように言葉を続ける。
「彼はまだ顔に余裕があるみたいだしね、策があるのかもしれない。」
確かに効かない攻撃を続けながら三次元的なバク宙や側転を織り交ぜ中庭を逃げ回る大島、それを破壊的に追いかけるスニゲーター、
ギリギリのところで攻撃をかわし続けている状況は、明らかにピンチな状況のはずなのに、大島の顔にはいまだ余裕があるように見えた。
しかし程なく大島は建物の壁際へと追い詰められてしまった。ここではバク転も側転も距離が狭すぎて意味が無い。
「ようやく追い詰めたぞ…潰れろ!!」
スニゲーターが勝利を確信し全力で大島に向かい突撃する。
しかし間一髪で大島は上空にジャンプしそれを避けた。
目標を見失った攻撃がひなた荘の壁の一部を粉々に破壊する。
そのまま大島は月面宙返り〜バク転と言う無駄に器用な動きで、素子達のいる場所へと戻ってきた。
「10.00」
「有難うございます。」
瀬田がそれと無しに得点をいい、大島がやけにスポーツマンライクに頭を下げ礼を述べる。
「今や!モトコ!」
「…ああ!」
スゥが銃口を向けると同時に、素子が瀬田から止水を受け取り、壁に突撃して残骸からの脱出に手間取っているスニゲーターめがけ一撃を加えようとするが、
「いや、ちょっと待て!そんなの使ったんじゃ俺がやった下拵えが無駄になっちまう!」
大島が慌てた表情でそれを止める。
「何で止めるんや?」
スゥが不満げに呟くと、それを押さえるように瀬田が一歩前に出た、手には何故かいくつかの小石が握られている。
「気付いた?」
大島が小石を持つ瀬田を見て満足げな笑みを浮かべる、
「まあね。」
瀬田もいつもの笑顔で大島に微笑み返す。
それは完璧に大島の考えを読み取った証に思えた。
「え〜ちっともわからん。オオシマ、教えて〜や〜」
スゥが玩具を親にねだる子供のように、大島に飛びつき答えをせがむ。
大島もまたその親のようにそれを無視しスニゲーターのほうを見つめている、ただ元来子供が嫌いではないのかその顔は嬉しそうだ。
それを素子はまたも値踏みするかのように見つめていた。
そんな中スニゲーターが壁の残骸から復帰し、こちらを向こうとする。
そこに瀬田が手に持っているいくつかの小石を無造作に投げつけた。
小石は勢いはあるが、別に体にめり込むわけでもなんでも無く、スニゲーターの体にぶつかり全弾そのまま跳ね返る。
今までの攻撃に比べれば、ほとんど児戯のような攻撃だったが、
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
それをくらったスニゲーターは、今までに無いような絶叫をあげ、その場をのたうち回った。
原因不明の展開に、スゥが驚きながら答えをせがむように大島を見つめる。
それに気付いたのか、大島は腰のサイドパックから鉄鋲を取り出し、手のひらに乗せた。
「この鉄鋲をよ〜く見ろ、結構尖がってて痛そうだろ?」
指を差しながらなぞなぞでも出すように大島が意味ありげに話す。
「つまり再生力があだとなったと言う事だな。」
答えたのはスゥではなく素子だった、無言の大島を見て了の証ととらえ素子は言葉を続ける。
「こいつは逃げながらも無数の鋲をあいつの体に撃ち込んだ、しかし鋲は威力が無いため貫通する事が出来ず、奴は鋲が体にめり込んだまま再生することを余儀なくされた。
奴の体の仕組みはわからんが、神経ぐらいはあるのだろう。攻撃をくらうたびに、奴の内部の神経を尖った鋲が傷つける。だから石をぶつけただけであんなに苦しんでると言うわけだ。」
「まあ、そんなとこだな。だから今のあいつに有効なのは体を吹き飛ばさない打撃系、切ったり吹っ飛ばしたりしたら体ごと鋲が取れちまうからな。
今あいつに有効なのは打撃技だ!!」
大島がセリフを言った後ビシィ!と効果音がつきそうな勢いで、のた打ち回るスニゲータを指差す。
「ふ〜ん。どれどれ?」
スゥが確認するかのように足元の小石を幾つか拾いスニゲータめがけ投げつけた、勢いは無いが弾道を描き小石はスニゲーターへと到達する。
「ギャァァァァァァァ!!」
「ホンマや…」
再びのた打ち回るスニゲーター、それは確かに素子が言った効果をスニゲーターが受けている事を暗に示していた。
実際その効果があるとしたら、内部から神経を直に痛めつける拷問級の痛みがスニゲーターには断続的に襲い掛かっているだろう。
それを見た素子が、
「瀬田さん、止水をお願いします。」
瀬田に止水を渡し、両手に気合を入れるような仕草をする。直後に素子の両手が淡く光りだした。
「?、刀いらないのか?」
てっきり素子は止水の峰打ちで戦うと思っていた大島が、素子に問いかける。
「ふん、そこでよく見ていろ。神鳴流の奥義の一端、見せてやる…あいつを片付けたら次は貴様だ。
その戦いの巧さの理由…アキトの正体と共にはいてもらうぞ。」
少し殺気を含んだ視線を投げかけながら言葉を返す。
大島が思わず冷や汗を掻きながら半歩引き下がったのを合図として、素子は両手を構え、スニゲーターの方へと突撃して行った。
痛みが治まり、スニゲーターが素子の接近に気付いたときには、すでに素子はスニゲータに肉薄していた。
スニゲーターが迎撃の構えを取る間もなく、素子が輝く両手を振りかぶり、
「神鳴流裏七八式斬魔掌壱の太刀――――ッ!!」
全力を込めた左右の掌底を、スニゲーターの巨大な体に切り裂くような軌道で思い切り撃ち込んだ。
「グギャァァァァァァァァーーーー!!」
強烈な衝撃と共に来る痛みに、もはやこの世の物とは思えない断末魔の悲鳴をスニゲーターがあげる。
それと同時にスニゲーターの巨大な足の中指の先端が胎動し、何か顔のような物が浮かび上がってきた。
それを見た大島が、腰から鋲を取り出し、一瞬で鎖を作り上げ、スニゲーターの中指の節をその鎖でとらえ、そのまま絞り上げる。
「グゲェェェェェェェ…」
スニゲーターの苦悶の声と共にスニゲータに浮かぼうとしていた顔がはっきりとその姿を現した。
鋭い目に裂けた口…まさに妖怪や悪魔の見本といった顔が悲鳴をあげながら、虚空を恨みの視線で見つめる。
「多分この顔が奴の本体だ!止めを刺せ!!」
大島がスニゲーターを押さえつけるように両足を踏ん張りながら大声で叫ぶ、それを聞いた素子が再び両手を構え、必殺の一撃を加えようとするが、
「モトコ!どけえーーー!!」
大島の前に躍り出たスゥが大降りの銃口を構え、スニゲーターに標準をあわせながら、素子を静止するように叫ぶ。
それを見た素子が、技を解きスニゲーターから一歩はなれた瞬間、凄まじい勢いのレーザーが太い銃身から発射された。
あまりに勢いがあったのか、スゥが発射後に尻餅をつく。
レーザーは標準正しくスニゲーターの中指の顔に向かっていき、そのままスニゲーターの中指を飲み込んだ。
断末魔の悲鳴もあげぬまま、スニゲーターは光に飲み込まれていく――――
「光学系兵器はどんな生物にもきくんや…」
「馬鹿な!人間ごときにこの俺が!グ…グギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
断末魔と共に光が止んだとき、スニゲータの中指は痕跡を残さず吹き飛び、この世からその存在を消していた。
そのままスニゲータの残った体は崩れ落ち、黒き炎を発して燃え尽きる、
その炎を見た素子には炎が不死身の怪物の終焉を弔う邪悪な火葬に思えた。
「さて、大島とか言ったな。本人は吐かないからな…アキトの知り合いだと言う貴様に奴の正体を吐いてもらおう…お前も只者ではないみたいだしな。」
感慨深げに炎を見つめた後、素子が初めて名を呼び鎖を持っている大島の方を振り返ると、
「みゅう〜〜?」
何故か鎖を持っているのは今まで姿を消していたタマちゃんだった。無邪気な瞳が素子を見つめる。
「彼だったら、戦いが終わった後、タマに鎖を渡して『なんかあそこの二階の部屋で破砕音が響いたな…アキトが心配だ!俺は先に行ってるぜ!』
って叫んで管理人室の方へ走って行ったよ。」
一歩引いたところで状況を見ていた瀬田が、水でしけったタバコと格闘しながら素子に事情を説明する。
「あれ?でもさっきアキトのことは心配するなっていっとったで?」
スゥが大島の発言の矛盾点に気付き、不思議そうに呟く。
一見矛盾した行動から導き出される答えは一つ、
「逃がすかー!!」
それに気付いた素子は走りながら瀬田から止水を受け取り、管理人室に向かって走り出した。
「素子もオオシマの事、気にいったようやなぁ。」
「そうだね。ハハハ…」
スゥが無邪気に呟き、瀬田が笑みを浮かべながら楽観的な意見を述べる。
突っ込み無しの妙な会話のコントラストを描いた後、二人も管理人室へと向かい走っていった。
「みゅー」
それを鎖を放したタマが追いかけていく。
人がいなくなった中庭を静寂が支配する中、ペタリペタリとなにかが這っている音が響いた。
その主は一匹のトカゲだった。そのトカゲは怨念を含んだ双眸でひなた荘を睨み、そのまま影へと飲み込まれ消えていく。
トカゲが完全に影に飲まれた後、再び中庭を静寂が支配した…
不自然な体制、まるで糸の切れた操り人形が無理やり体を起こすようにして、プラネットマンが立ち上がり、アキトを空虚な目で見つめる。
片足、両手の惑星は砕け散り、両手の関節はありえない方向に曲がっている。もはやプラネットマンは再起不能ともいえる傷を負っているが、
空虚な目の裏には今だなにか策を持っているような自信があった。
目の奥を見たアキトが警戒し再び構えを取る、それを見たプラネットマンがボソリと呟いた。
「プラネット重力…」
その瞬間、アキトが懐にしまっていた布袋が勝手に飛び出し、プラネットマンの胸の木星に吸いつけられていく。
いきなりの展開にアキトも袋を捕まえる事が出来ず、袋はプラネットマンの手へと渡ってしまった。
プラネットマンはいとおしそうに袋を剥ぎ、中から鈍く銀色に輝く角突きの西洋兜のようなマスクを取り出し抱きしめた。
そのマスクからは威厳や威圧感、そのような物が感じられた。しかしそれ以上にほとばしる邪悪なオーラがそれがただのマスクではない事を示していた。
「サタン様…目的は果たしました…今そちらへ戻ります…」
マスクに対し恭しく呟いた後、プラネットマンはアキトに燃えるような恨みの視線を向け、
「戦神…貴様『北斗はどこだ!』と言っていたな…そんなに気になるなら連れて行ってやる…そして…天使も顔を背けるような無残な手で貴様を…殺してやる!!」
そう言い残しマスクを抱えたままプラネットマンはうつ伏せに倒れこんでしまった。
すると影に沈むようにしてプラネットマンの姿が徐々に消えていく。
「おい、ちょっと待て!」
アキトがプラネットマンを捕まえようと足を動かす、しかし動かそうとするが足が進まない、下を見ると自分の足元の影が底なし沼のように口を開けている。
直後、底無し沼と化した影の中から、顔面にぽっかり空いた大穴が特徴の四次元超人ブラックホールが、影の中から上半身を出してこちらを影の中に引きずり込もうとしていた。
「くっ!放せ!」
アキトがブラックホールの脳天めがけエルボーを打ち込む。悲鳴も出さずにブラックホールは影のように消えていった。
「効かないぜ。」
アキトが安堵の溜息をつく間もなく、後ろからブラックホールの声が聞こえ、アキトをスリーパーホールドで捕らえる。
アキトがそれを外す間もなく、もう一体のブラックホールが横から現れ左手を押さえつけた。
それを期にして、無数のブラックホールがアキトにまとわりつき影に引きずり込んでいく。
「「「「「「効かない!効かない!効かない!」」」」」」
無数のブラックホールが同時に同じセリフを言いながら、数の力でアキトを影へと引きずり込んでいく。
アキトはそのまま右手だけを上げ、影へと沈んでいった。
そのまま右手も沈むかと思われたその時、その右手に長い鎖が巻きついた。
その鎖の先には、
「なんちゅうー非現実的な光景…ボソン研究者が見たら泣くぞ、これ…」
部屋の入り口で先程と変わらぬ姿で鎖を握る大島がいた。
いや、中庭での戦闘時と正確には少し違い、背中に到着時に持っていたズタ袋を持っている。
…どこに隠していたのかは知らないが。
そのまま、大島が踏みとどまりアキトの沈降速度が止まる、助かったと思った矢先、
「そんなに邪魔をするならお前も来い!」
大島の足元の影からもブラックホールの一体が出現し、大島も影に引きずり込み始めた。
廊下を走る素子、角を曲がると、管理人室の入り口で鎖を構えている大島がいた。
「見つけたぞ!」
素子が叫んだ直後、大島が管理人室の中に飛び込むようにして入っていく。
「逃がすか!」
素子がそのままスピードを緩めずに管理人室の入り口にたどり着き、中を覗くと、大島の姿は一切なく、ここに居たと思われていたアキトの姿もない。
残っているのは天井の少し大きくなった穴、かなりへこんでいる真下の畳、ただそれだけだった。
「浦島…?大島…?消えた?」
素子が二人の名前を呼ぶが返事は無い、つい先程まで喧騒していた管理人室は今、破壊の後を残し不気味なほどに静まり返っていた。
遠くシベリア、寒風拭きすさむ中に一軒の木こり小屋がある。
明り無き室内、一人の男が椅子に座り、考え込むように腕を組みながらじっとしている。
なにかするわけでもなく日がな一日座ったまま、目的無く動かない男に付近の住民は植物人間の小屋と陰口を叩いている。
永遠に近い孤独、それがこの小屋を長い間支配していた。
しかし今、その封印を破るように部屋の電話が鳴り響いた。
静寂に響くベル音、しかし男は動かない、数十回に及ぶベル音の後、男はめんどくさそうに手を伸ばし受話器をとった。
「何者だ…?」
深く重みあるがやる気の無い声、久々に口を開いた男、しかしその声の調子は一瞬で変わる事となった。
「大英博物館…?預言書が盗まれただと!?ああ…確かに、あれの一応の持ち主は俺だが…犯人は?不明?
わかった、警察には知らせなくていい…俺が解決する。」
相手がなにか言ってるのを無視して男は受話器を乱暴に置く、そしておもむろに立ち上がり、壁にかけてあったマントを羽織って小屋の入り口へと向かっていった。
ドアを開けるときに一言呟く。
「大英博物館の倉庫に封印した預言書、一見古ぼけた本の重要性を知るものは超人しかいない…完璧か悪魔か残虐か…どちらにしろ俺が止めてやる!」
決意新たにドアを引き、ブリザード吹き荒れる外に躊躇無く飛び込む男、外の明りで顔が一瞬見える、
黒いメットに、目の穴だけが開いた鼻も口も無い漆黒の仮面、明らかに常人では考えられない姿。
男はその顔を恥じるかのようにマントで顔を隠し、ブリザードへと突入していった。
主無き小屋のドアがキーキーと悲しむように鳴いた―――
夜の闇の中、沖縄近くの島の海上、静かな海に振動が走り、海底の巨大な遺跡が浮上した。
神の力か悪魔の力か?付近の島民は口々に噂しあった。
そしてその遺跡の上には…
黒いバイザーに黒マントに黒尽くめの服、生ける伝説と化した男、漆黒の戦神テンカワ=アキトが佇んでいた。
「この力…悪魔超人、何を考えているんだ?」
「さあな。わざわざこんなところまで連れてきたってことはなんか目的があるんじゃないか?」
アキトの呟きに答えながら大島が空となったズタ袋をめんどくさそうに海へと投げ捨てる。
「バイザーと服は持って来れたんだけどな、DFSは持って来れなかった…スマンな。」
大島が装備の不備を謝る、戦場での準備不足は死を招く、それが珍しく大島に頭を下げさせていた。
「いや、気にすることは無い。服にもマントにも対刃防御が…」
アキトがフォローするのをさえぎるように遺跡が胎動し、後ろに漆黒へと通じる下り階段が現れた。
「招待の準備が整ったみたいだな。」
大島が階段を指差し相手無き皮肉を言う。
「ああ、待っていろ北斗…今行くからな。」
アキトは躊躇鳴く階段に向かい、地獄への階段を慎重に下りていった。
それを見た大島が深い溜息をつき、
「あー入りたくねえ。でも北斗連れて帰んないと舞歌様に…いや、その前に零夜に…釘バット痛いんだよなぁ…アレ…」
ぶつくさと愚痴をこぼしながらアキトの後を小走りで付いて行った。
アキトと大島が遺跡の中に消えた直後、ふたたび遺跡が胎動し下り階段が閉じていく。
退路を立たれたアキトと大島、中には何が待ち構えているのか?残る悪魔の動向は?
その前途を現すように、海風が悪魔の嘲笑のような音を奏でた―――――
〜続く〜
次回予告
暗き遺跡を進むアキトと大島!
その前に第一の関門、血の池地獄が立ちはだかる!
「くっくっく…悪魔騎士は情け深い!!逃げるなら今のうちだぞ!!」
「うるせえ!このままギャグキャラで終わるかよ!!」
対峙する二人の男、一進一退の攻防が繰り広げられる。
時が経ち、勝負が決まろうと思ったその時、戦場に赤き影が舞い降りた!!
急転直下の次回!お楽しみに!
「あのね…北ちゃんがね…居なくなっちゃったの…」
後書き
長!!いや今回は話の節目だから気合入れて書いたんですが…そのせいでやけに長くなりました。
長すぎて途中飽きるかもしれませんがそこは勘弁ください。
魔雲天のボルケティックマグナムは原作には出てません、実はこの技は某ネットフリー格闘ゲームの魔雲天の技から取っています。
話は飛びますがこのネットゲームの使用キャラには「キン肉マンビックボディ」「レオパルドン」「ゴーレムマン」等もいます。
またこのゲームから技をとるかもしれません…だって原作参照だと活躍が少なすぎてこいつら出せないし(笑)
あと一部で話題を呼んだ「人面プラネットの犠牲者は誰だ!!」問題ですが次回持越しとなりました。
いやあの技ちゃんと書くだけで一話消化できるんですよ…プラネットマンの再登場はかなり早いのでそれまでご期待ください。
予想クイズやったら絶対当たらない人が入るんで。股間に(笑)
あ、ラブひなのキャラはしばらく2〜3話ぐらい出ません。まああの人は少し出ますが…(現沖縄在住のあの人ですね)
では恒例の超人図鑑を
プラネットマン 必殺技 プラネットリング 魔技!人面プラネット!!
悪魔騎士の一人、宇宙地獄の使い手。惑星にちなんだ多彩な技を持ち『超人ボール』『アポロンダイナマイト』等といった技は今だ今作には出てない。
正体は太陽系12番目の惑星バルカン。この星がどこにあるのかは彼以外誰も知らない…
あとオマケを一つ
オマケ
大島「しかしあのスニゲーターとか言う奴、爬虫類の範疇を越えてたよなー空飛ぶわ片足で浮くわ。」
タマ「みゅう〜〜〜」
大島「……亀が飛んでる」
アキト「ちなみにタマちゃん字もかけるし、分数の計算も出来るぞ。」
大島「いや、その、あれ………………木星のみんなー!!地球はとっても素晴らしい所だぞー!!」
たま「みゅう〜?」
アキト(なんでロランなんだ?)
…オチが弱いまま終わり(自爆)
代理人の感想
赤く燃えた岩石って・・・・それ溶岩って言いません?(爆)
まぁ、この作品世界の連中が人間離れしてるのはもう慣れましたんで突っ込みませんが。
むしろ突っ込むべきは「人面プラネットの犠牲者は誰だ!」なんて問題に興味を持つ人間が
私以外にもいたのかというところでしょう、ええ(爆)