ナデひな 〜黒猫と戦神のタンゴ〜   

 

 <第一話>  At the day. (とある日常)

 「スッス、ハッハ、スッス、ハッハ」

 朝の山道、生い茂る木々の隙間から漏れる木漏れ日がキラキラと周囲を照らしている。

 その山道を若い青年が一人、山頂付近に在る広場を目指して、ジョギングしていた。

 ただ走っているように見えるが、ここに武術の達人がいれば、彼が凄まじいほどの精密で繊細な“気”を使ったレーダーのようなものを張っていることに気付いただろう。

 森の動物たちの気配から、木々を流れる空気の流れ、・・・果ては地を這う昆虫たちの動きまでを完璧に察知しているのだ。

 「・・・・・・ん?」

 不意に、何かに気が付いたように声を上げる。

 しかし、彼の視界には何も映ってはいない。

 「人の・・・・・・気配?しかもこれは−−−ッ」

 彼は一瞬足に力を込めると。

   ―――― シャッ!・・・・・

 と、小さな音だけを残してその場から掻き消えた。

 実際には独特の足運びと、目にも止まらぬ速さで走り出しただけなのだが。

 もしも、この場に古流武術、それも一流の達人がいれば、驚愕に目をむいたかもしれない。

 それは間違いなく、幻の歩法術「縮地」だったのだから。



  ――――彼の名は、「テンカワ アキト」かつての戦争で、『英雄』と呼ばれた最強の男。

  ――――訳あって、今は「浦島 アキト」と名乗り、ひなびた温泉付き女子寮の管理人兼、東大生をしている男だった。





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 (まったく、一体何があったんだか)

 俺は自分の背中でグッタリとしている十五、六ぐらいの少女を気遣いながら、登ってきた山道を下りながら考えていた。

 毎朝のように早朝鍛錬をしようと、広場へ向かって限りなく気配を絶つ『気殺』を行いながら走っていると、気で感じる範囲に人の気配を感じたのだ。
 
 しかもその気配が、かなり薄らいで弱っていたので急いで駆けつけると。案の定、広場の中にある滝つぼの泉の岸に、少女が一人倒れていたのだが。

 この少女、身体のあちこちが傷だらけの上、素人目には判らないだろうが、肩には銃弾が掠った痕があった。

 そのため、一先ず少女を「ひなた荘」に運ぶことにしたのだ。

 本来ならまず、警察なり病院なりに連絡を入れるべきなのだろうが・・・・・・。

 「・・・ぅうん、ッ」

 気が付いたか、とチラリと背中を見たが少女は呻くとまた、其れっきり動かなくなってしまった。

 そんな少女の様子を、苦々しく思いながらも、ほんの少し懐かしさに口元を緩める。

 (まぁ、なるちゃんたちには事情をある程度話せば解ってもらえるだろ・・・・・・)

 後のことを考えながら、俺はひなた荘に向かって足を速めた。








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 ジリリリリリリリリィィィィイィィィリリリリリィ・・・・・・・・・  チィン!!!

 「・・・・・・う〜にゅ」

 目覚まし時計の音に起こされて、私−−前原 しのぶ−−はカーテンから差し込む朝日に思いっきり伸びをしました。

 「ふぁ・・・良い朝ですね〜〜〜」

 意識をはっきりさせるための独り言も忘れません。

 今日は日曜、学校はお休みですが毎朝の大切なおしごとをサボるわけにはいきません。

 「さて、先輩はもう起きてらっしゃるでしょうから、早く朝食の準備をしなければいけませんね」

 むん、と気合を入れてパジャマを着替えます。

 最近は私の料理の腕も、先輩にほめてもらえるくらいにはなりました。

 まだまだ、お手伝いぐらいしかできない私だけど、いつかきっと・・・・・・。
 
 「ファイト、オー!!」

 カーテンを開けると、抜けるような青空が広がっていました。

 今日も良い天気です。

 





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 ・・・シュッ!

    ・・・シュッ!

       ・・・シュッ!

 私−−青山 素子−−は、物干し台で毎朝の日課である素振りをしていた。

 素振りを日課にする女子高生とゆうのは、世間では何かと奇妙な事らしいが私は気にしたことが無。

 ずっと昔から続けて来た事だったし、何より最近では今まで最強だと思ってきていた人より、さらに強いと思わせる者が身近にできた事がさらに私の修練に熱を篭らせているからだった。

 特にそいつが一つの目標を達成してからは、私の稽古の相手もしてくれるようになっていた。(昔は私が一方的に突っ掛っていくばかりで、そいつはのらりくらりと私の攻撃をかわしているばかりだった。)

 もっとも、今までの稽古では動きや技のキレを褒められる事はあっても、それが相手に当たるどころか掠った事すらなく。

 あまつさえ私が何年もかけて収得していた数々の技を、逆に盗まれるといった状態なのだが。

 だがしかし、目標が有り更に其れを諦めずに目指して行けば必ず報われる、とゆう生きた見本がいるので私も諦めるつもりは無い。

 とりあえず始めの目標は・・・・・・。

 「浦島 アキト、必ずお前に一撃を決めてみせる!」

 ・・・ビュン!!

 気合を込めて振り下ろした竹刀で空気を切り裂く感触が、ひどく心地よく感じた

 






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ザッ、ザッ、ザッ・・・・・・

 まだ早朝なのに、眩しいくらいの日の光に軽く目を細める。

 今日は珍しく、早くに目が覚めて、その上大学の授業が午後からな事で私−−成瀬川 なる−−はアキトの代わりに庭の掃除をしていた。

 最近知った事だけど、アキトは毎朝私たちの朝食を作る前に裏山をランニングしているらしい。

 まぁ、東大にしっかりと合格できたんだから今さら何も言わないけど、当時の私だったら間違いなく「んな事してるヒマがあったら英単語の一つも覚えなさいよ!!」とでも言ってたわね。

  春も終わりに近ずき、玄関前の庭掃除も桜の花びらより、木の枝や小さなゴミのほうが目に付くようになってきた庭を見ながら、クスッ・・・と頬を緩めた。

 「そういえば、アイツがこのひなた荘に来てからあんまり時間経ってないのよね・・・・・・」

 ポツリ、と小さく漏らす。

 それこそ毎日顔を合わせている為か。

 それともアキトが来てからの時間の濃度が異常に濃い為か。

 私は、もうずっと昔からアキトと一緒に暮らしているような気がしていた。

 きっとそれは私だけじゃなく、他の皆も同じだと思う。

 アキトが東大に合格して、ひなた荘を出ると言ったときの皆の落ち込みようはすごかった。

 それこそ、まるでお通夜とお葬式が一緒に来たように。

 しのぶちゃんは泣きじゃくって、部屋から出てこなくなるし、

 普段はしっかりしているはずの素子ちゃんは泣きながら刀を振り回して、アイツに突っかかっていくし、

 キツネも、何だかヤケ酒と言わんばかりに、溺れるほどお酒を飲んでいた。

 いつも楽しそうに笑っている、サラちゃんやスゥちゃんも落ち込んで、静かだった。

 私自身、なんだか裏切られたような気がして、アイツの事を泣きながら責めていた。

 ・・・・・・思い出すと、何だかとんでもなくこっぱずかしい事を口走っていたような気がする。

 まぁ、なにはともあれ色々とスッタモンダした挙句、アキトはまたこのひなた荘に帰ってきてくれた。

 ふと後ろを振り返ると、あちこちが古くなり、少しひなびた感のある、だけど、何処か不思議で温かい、そんな雰囲気をした木造の建物が目に映った。

 ・・・・・・その感じは、どこかあのバカに似ている気がした。
 
 またいつまで一緒に暮らせるか解らないけど、「またしばらく世話になるよ」ってアキトが帰ってきてくれたとき、私たちは、それこそ大げさなくらい喜んだ。

まるで、お祭り騒ぎのように。

 (お祭り・・・・・か)

 自分の思考に、言えて妙だと納得した。

 アキトが来てから、このひなた荘は本当に騒がしくなった。

 それこそ、毎日がお祭りをしているみたいに。
 
 そのどれもが忘れられないほど、大切な思い出だ。

 きっと、こんな思い出がこれからも増えていくんだろうな・・・なんて思いながら、また箒で庭を掃き始めた。

 

 「あ、なるちゃん。ただいま〜」

 
 後ろから聞こえてきた声に、なぜか無性に安心して私は振り返りながら答えた。

 


 「おかえり」
 

  

 

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あとがき  どうも、国広です。
 いや、何か前回書きかたに失敗しまして。とゆうか毎回ここに投稿される方々を尊敬することしきりです。
 今回のお話しは、私がそれぞれのキャラクターの呼吸といいますか、性格といいますか、そんなものを掴むためにこんな感じにしました。
 時間と暇と金がなく中々思うように進まない上に、短すぎる感の話しですが、見放さないでください。これでもマジでギリギリなんです。
 まぁそんな泣き言はほっといて。次回は今回出なかった人たちの登場です。(日向荘限定ですが)

PS  しのぶちゃんファン、及び素子ファンの皆様。彼女たちの出番が少なくてごめんなさい。
   でも彼女たち、けっこう書きずらいんですよ〜。

 

 

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代理人の感想

第一話というか、話が始まってないので実質的にプロローグですね、まだ。

 

あと、「ゆう」じゃなくて「言う」、「近ずく」じゃなくて「近づく」です。

こういう表現使うだけで読まなくなる人もいますからご注意。