ナデひな 〜黒猫と戦神のタンゴ〜
<第U話> Sleeping ladies (眠り姫)
「・・・・・・・・・」
なんや、ボーとする意識の中でウチ――紺野 みつね――は目を覚ました。
クラクラと揺れる頭で、枕もとの携帯電話兼、目覚ましをみるとまだ朝の六時にもなっとらんかった。
どーりで、まだ眠たいはずやで。いつもやったらまだ熟睡しとる時間やもんな〜。
(もう一眠りしとこか?あー、でも今眠るとアキトの朝飯絶対食べ損ねるやろな〜)
と、まだ眠気の残る頭でそないなこと考えとると、
「あ、なるちゃん。ただいま〜」
と、何故か聞くだけで妙に安心できるいつもの声が、開けっ放しの窓から聞こえてきた。
まぁ、アキトがここに居る限り、滅多なことでは泥棒も入ってこないからゆうても……ウチも随分楽観的になってきたもんやで。暑くなってきたとはいえ、寝てる間も窓に鍵もかけんどころか、むしろ窓を開けっ放しで寝るなんて。
この日向荘でアキトの正体を知っとるのは、ウチと外で喫茶店やっとるはるかさんだけや。
それでも他のみんなも、実は薄々気が付いとるんやないかとウチは思っとる。
(あれ?『ただいま』ってアキトのヤツ、こんな朝早くからどっか行っとんたんかい?)
少しずつはっきりしてきた頭で考えると、前に素子が、アキトは毎朝、裏山にジョギングしに行っとるみたいなことを言とったのを思い出しとると。
「あんた、一体何考えてるのよ〜〜〜〜!!??」
「ん?なんや?」
急に、表の声が騒がしくなっとることに気が付いた。
なるがアキトを怒鳴ったり、殴り飛ばしたりするんはそんなに珍しくない。むしろこの日向荘の名物、日常茶飯事や。
せやけど、それがこんな朝っぱらから始まるんはさすがに珍しい。
アキト、今度は一体何をやらかしたんや?
なるの声で、もうほとんど覚めとった目を窓から騒ぎの方へむけると、いつもと同じように向かいあっとるなるとアキトの姿が見えた。
例によって例のごとく、アキトに向かってなるが一方的に何事かをまくしたてている。
毎度毎度、飽きもせんとようやるわ、ホント。
しかし、こんな光景を見るたびにアキトの正体を知っとる、ウチやはるかさんは不思議に思う事がある。
(なんで、アキトは今でも日向荘におるんやろ?)
実際、アキトの実態はいつまでもこんな所で東大生やりながら、こんな場末の元・温泉旅館の管理人をしといて良えようなヤツやない。
それどころか、アキトが今までしてきたことを考えれば、ついこの前発表された『統合軍』とか言う所の司令官になっていても何の不思議もない。
にも関わらず、あいつは今もここに居る。
ホンマ、わからんやっちゃで。
・ ・
……でも。
もし、あいつが、
今では日向荘に居る事が、あまりにも当たり前な事になっとるアキトが、
今度こそ、本当にこの日向荘を出て行く事になったとき。
ウチらは一体、どうすんのやろ?
つい数ヶ月前にも有ったこと。
そのときの事は、自分のことも含めて思い出しとうない。
でも、もし今度こそ………
「アホか〜〜〜〜!!!!」
ボーっと考え事しとる間に、なるがキレたみたいや。
いつものように星になるアキトを見ようとして。
・・・・・・バシッ!!
なるのパンチを軽く流して受け止めたアキトが見えた。
その光景に、ウチは思わず「なぬ?」と、妙な声が出た。
よく見ぃひんが、なるもきっと同じような顔をしとるやろ。
なんせ、アキトはスゥのキックや素子の攻撃は避けたり防いだりしても、何故かなるのパンチはいつも受けとったんやから。
と、そこまで考え(思考停止)とったウチは、アキトが背中に何か白いものを背負っとるのが見えた。
「だめだよ、なるちゃん。この娘怪我人なんだ流石に今はまずいよ」
どうも、背負っとるのは人。それも女の子らしい。
はっは〜〜ん、それでなるのヤツあんなに怒とったんやな。
アキトもそんなもの背負っとるときに、殴り飛ばされる訳にもいかんしな。
これまた珍しくアキトに注意されとるなるのことを見ながら、ウチは着替えを始めた。
アキトのヤツが、また何か騒ぎと問題を持ち込んできたらしい。
「なぁなぁアキト、この人誰なん?」
ウチ――カオラ スゥ――は、アキトの背中に負ぶさりながら聞いた。
アキトの部屋(管理人室)には布団が敷かれていて、そこには女の子が一人寝とった。
多分、ウチかしのぶと同い年ぐらいや。
なんか、モトコがいつも着とるのとは違う感じの和服を着とる。
真っ白い、浴衣みたいや。
「え?……う〜〜〜ん、何と言うか…なるちゃんにはもう話したんだけど」
言いながら、部屋の中をグルッと見回す。
今、アキトの部屋にはウチだけやなく日向荘のみんなが集まっとった。
なるたちもウチと同じで、何があったのか気になるみたいや。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!あたしも何があったか詳しいところ何にも聞いて無いわよ!?」
みんなの視線が自分に集まって、なるが慌てて言う。
「あれ、そうだっけ?」
「そうよ!私はただそこの裏山でこの娘を拾った、としか聞かなかったわよ!!」
今度はアキトがみんなからにらまれとる。
山の中で拾ったって、……う〜ん人間って山の中で拾えるもんなんか?
「スゥ、言っておくが普通山の中で人は拾えんぞ」
ニャハハハハ……モトコにツッこまれた。なんでウチの考えが分かったんやろ?
「あ、あの先輩、結局この人はどなたなんですか?」
「そーよ、ちゃんと説明しなさいよ!」
と、その瞬間ビクッゥ!!と、なんでかアキトがなるのセリフにものすごい反応した。
なんや?なんや?
〜某所、某研究所〜
「………あら?」
「いかがされました、主任?」
「いえ、何だかどこかで私の召喚呪文が聞こえた気が……」
「はぁ……ショウカン、ですか?」
「う〜〜ん、まぁ良いわ、気にしないで。それより、例の机上結果は?」
「あ、はい。ほぼ予測と同じ結果が得られました。誤差も範囲内です。」
「そう……、実験結果は?」
「はい、そちらはもう少し時間が必要ですが、この調子ならもうすぐ実用化も可能です。
目標にマーカーのようなモノを付ければ、最低『B級』以上の人なら、ほぼピンポイントで目標まで跳ばせます。
さらに、『A級』の人になれば目標が常に移動していてもほとんどリアルタイムで位置補正できますよ」
「そう、上々ね。解ったわ(ウフフ・・・これでお兄ちゃんは私だけの)」
アキトは知らない。
自らのあずかり知らぬ所で、金髪の美女が獲物を追い詰めた獣の瞳で笑っていることを。
アキトは知らない。
自分がどんどん追い詰められている事を。・・・・・・・・・・・・合掌!!!!
と、体をビクつかせていたかと思ったら、今度は急に震えだした。
なんや〜、こんなエエ天気なのに寒いんやろか?
「セ、先輩!?どうしたんですか、風邪ですか!?」
「ハ、ハハハハハハ……何でもないよ、しのぶちゃん。・・・・・・そう、何でもないんだ、気のせいさ」
しのむの心配に、無理やりな笑顔で答えるアキト。
何でもないわりには顔色も汗も、なんかすごい事になっとるけどな〜?
なんか、感じるもんでもあったんかな?
また、アキトの挙動不審が始まった。
コイツの場合、いつものいつも妙なことばかりしてるから、今更だれもツッこまない。
まぁ、しのぶのヤツだけは、何だかおろおろしてるみたいだけどな……ま、これもいつものことだ。
それにしても、あたし――サラ・マクドゥガル――もこういうことが「いつものこと」だなんて、随分ここに馴染んできたと思う。
そういえば、パパがあたしをここに預けて行ってから、もうすぐ一年になるんだ。
「ま、まぁそれはともかく、この娘ね、実は裏山を走ってたときに滝の所
……ほら、前に何度か宴会したところだよ、あそこの下の池みたいなところで溺れそうになってたんだよ。
多分、足を踏み外したか何かで、上のほうから落ちてきたんじゃないかな?」
少しボーと考え事をしてたら、アキトが何かを忘れるみたいにして、一息で言い切った。
裏山の滝のある所?
あぁ前に皆で、アキトとなるの合格祝いに鍋パーティした所か。
あんときは、カオラがタマを本気で煮込んで喰おうとしてたから、けっこうマジでびびったぜ。
そのときの光景を思い出して、ちょっと冷や汗がでた。
「あ、あれ?……チョッ、ちょっと待ってくださいよセンパイ
今、その女の子があの滝の上から落ちてきたって言いましたよね?」
突然しのぶが声を上げた。
どうしたんだ、しのぶもアキトに似てきたのかな?
「と、思うけど……それが何だい?」
「どないしたんや、しのぶ?」
アキトとカオラの質問に、あたしたちも不思議そうにしのぶを見る。
一体、何を驚いてるんだろう?
「何って……あの滝、けっこう高さありますよね?
その子、そんな所から落ちてきたんなら何処か大ケガしてるかもしれないじゃないですか!?
ちゃんと病院に連れて行ったほうがよいのでは?」
『あぁ!!』
しのぶの言葉に、みんなポン!と手を叩いて納得する。
そー言えばそうだよな。
何だかなるたちとアキトの体を張った漫才を見慣れてるせいで、普通の人の耐久力に対して認識がズレてた。
ウ〜ん、でもそれを考えると、アキトってやっぱ化け物だ。
どっかの秘密組織に肉体強化でもされてるんじゃないのかな?
昔パパが潰したって言ってた「しょっかー」とか「げるだむ」とかの。
「あ〜、うん、大丈夫だよしのぶちゃん。
さっき少し診て見たけど、骨とか筋肉自体にそんな異状はなかったし、
他の内臓とかにも特に問題なかった。
ただ、やっぱり擦りキズとか打ち身が多いけどね……」
そう言いながら、アキトは何だか懐かしそうな、悔しそうな、そんな顔をしながらその女の子を見た。
いつもよりずっと真剣で、コイツがたまに見せる不思議な雰囲気に、あたしも声がかけずらかった。
他の皆も、アキトに気圧されて押し黙ってしまった。
ホントに、アキトは何者なんだろう?
「なー、なー、アキト、さっきその娘の事診た言うとったかどな、いつの間に診たんや?」
「ハァ?」
と、そのとき、そんな空気など知らなげに突然カオラが妙な質問をしだした。
アキトも訳が分からないらしく、マヌケな声をだしてカオラを見た。
ホントに、何を言いだすんだ?
「どうゆうこと、スゥちゃん?」
「イヤだってな〜、アキト、この娘の体のケガ、筋肉にも異状はない言うたんやで〜?
いつの間にそんなちゃんと診たんやろか〜?……裸でも見て調べたんか?」
ビシッ!!
その一言で、部屋の空気が一瞬で凍りついた。
ゆっくり……ゆっくりと、あたしたちの視線がアキトに集中する。
「……はっ!?えっ!あ、なッ…ち、違うよ!!?
診たって言っても実際は“氣”の流れとか、ちょっと触って腫れてるとこ調べたくらいで……。」
「さ、触ったぁ〜!!??」 「アキト!キ、貴様ァ!!」 「そんな……!センパイ!?」
アキトの言い訳(墓穴)になるたちが反応する。
あたしも、取り出した土器を振りかぶって力を貯める。
「違うんだ、誤解だ!オレは無実だぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!」
『問答・・・無用!!!!』
なるとモトコねーちゃんの声に合わせて、あたしら全員でアキトに攻撃を仕掛ける。
「ふべラッ、バグァ!!」
バギ、ベキョッ! ガチャン!!
変な悲鳴を上げながら、アキトが外へと吹っ飛んで行った。
星なったのを見届けながら、チラリとカオラに視線を向ける。
いつもみたいに「ニャハハハハ……」と笑ってる顔を見て、さっきまでの雰囲気がすっかり霧散しているのに気が付いた。
もしかして、カオラのヤツ……
「ん?どしたんやチビ」
あたしの視線に気付いたカオラが言ってきた。
「べっつにぃ〜〜」
そう言って、アタシはまたアキトが飛んでった方を見た。
……まさか、ね。
「う……ん、あ?」
ふと、後ろから声が聞こえた。
to
be coninue…….
《第V話に続く》
あとがき
どうも、国広です。
これを投稿しているのはいつなのだろうと思いつつ、パソコンに指を滑らせています。
この時期になると色々忙しくなり、一人暮らしの寂しさと不便さにちょっと泣きそうです。
この前なんか提出用のレポートと、この作品の今後のプロットとが混じってえらい苦労しました。
まぁ、今回はこの辺で。
次はいよいよBLACK CATのキャラ登場。眠り姫も眼を覚まします。
では、また次回。
代理人の感想
ああ、黒猫だったのか・・・スンマセン、読んでないです(爆)。