暗い暗い闇の中。
淡い淡い光の中。
ボクはたった一人で歩いている。
どこから歩いてきたかなんて、おぼえていない。
けど、どこに進むべきかは解っている。
誰かに呼ばれたわけじゃない。
誰かが呼んでるわけでもない。
ただ前を“み”るだけで、正解の道が理解できた。
だからボクは、たった一人で道を歩く。
道の途中にある、いろいろなモノを乗り越えて。
―――あるときは、歯車仕掛けの門があった。
―――あるときは、深い深い森があった。
―――あるときは、光り輝く湖があった。
―――あるときは、銀に揺らめく月の道があった。
―――あるときは、広い広い迷宮があった。
そしてボクは、その先に………
ボクは、その先に―――
その先に―――
目を覚ますと、見覚えの無い天井が見えた。
とらいあんぐるハート 〜 天の空座〜
< 第零章 第一夜 >
さぁ、それでは始めよう。
最初の物語、その始めの一幕を。
始まりは此処。
彼の、彼等の住まう街この『海鳴』から。
一人の歌姫の歌声と、一人の青年の戦いから………
天空に、細い細い月が架かっていた夜の事。
月齢・七の三日月は、その白銀の輝きを何者にも遮られる事無く、地上へと平等に注ぐ。
山近く、海の音が聞こえる町、ここ『海鳴』にも優しいく夜を照らすその光を満たしていた。
それほど大きくもないこの町で、唯一のコンサートホール。
耳を澄ませば聞えてくる、
この月明かりのように優しく、そして透き通るような美しい音色。
ここでは舞台へ注ぐ照明の光を一身に浴びて、一人の
「フィアッセ・クリステラ」
「世紀の歌姫」と讃えられ、その名と歌声を世界中の人々へと響かせた歌手「ティオレ・クリステラ」の愛娘。
そして数年前に遭った事件で、喉と心とを痛め音楽の世界から一時期その姿を消した少女。
しかし、彼女は今また舞台の上へと立っている。
かつての自分すら霞ませるほどの、光り輝くような歌声で人々の心へと語りかけていた。
幼い頃からの夢だった、自分の母と同じ舞台で肩を並べて。
今ここには居なくとも、必ず自分を護ると約束してくれた
自分の幼なじみであり、最愛の想い人への気持ちを歌に乗せて……。
古より、月の光には魔力が宿るという。
人の中の魔性を浮き上がらせる魔力が………
――― ジャィン……
――― ジャン、キィン……
――― ジャォォォン……
コンサートホールから、さほど離れてはいないとある場所。
そこに建つ、本来なら誰も居ないはずの打ち捨てられた廃ビルから、鋼と鋼とが打ち合う音が響いていたる。
夜の闇の中、月光を浴びて静かに佇むその姿は、どこか異様な気配を纏っていた。
そのビルの埃に塗れた一室で、
「………セェェイ!!」
下段から太股を狙って迫る剃刀のような一閃を、恭也は右手に握る小太刀で受け止める。
「――ぐッ!?(重い!……『徹』か!)」
しかし、その一撃に籠められた技に、恭也は小太刀ごと腕を後ろに弾かれる。
そこに追い討ちをかけるように、今度は左からの抜刀による横薙ぎの斬撃が奔る。
(拙い、これは!!)
恭也の、そして“敵”の操る剣の流派。
『
その中に在る、七つの奥義。
その一つ、最速を誇る抜刀術。
――― 御神流・奥義之壱 ―――
―――
「チィイイイ!!!!」
避けられない、防げない。
ならば、恭也の取れる選択肢はただ一つ。
――― 御神流・奥義之伍 ―――
―――
―――― ガ、ガガガッガガガッガォオン!!!!
本来は、二刀による突進しながらの高速連続斬撃。
その斬撃の一つ一つに『
その上抜刀術ではないため隙を作らず、反撃の暇を与えない。
御神流、七つの奥義の中でも最多の手数を誇る技の一つである。
恭也はこれを使い、その高速連撃で『必殺』の意を込めて放たれた一閃を
「――― カァッ!!!」
そして、そのまま恭也は更に花菱の速度を上げ相手に迫る。
「―― フッ!」
しかし敵は、己の技が不発と理解すると一瞬で恭也の間合いから離脱し、恭也の斬撃は虚しく空を斬る。
この間、僅かにニ百分の一秒。
恐ろしいまでの、状況把握と判断力の速さだった。
そのまま互いに隙を見せる事無く、
地に足が着くと、ダァンッ!と全力で床を蹴り相手との距離を取る。
「はぁ、はぁ、はぁ、………ッく」
荒い息を吐く。
この戦闘が始まってから、まだ十分と経っていない。
通常の戦闘であったならば、恭也はこの位では汗一つ掻く事はなかっただろう。
だが今の彼は、相手の強さに、
その身体から放たれる
何より、自分の“敵”として現れた相手の存在そのものに、
恭也の精神が、肉体が追い詰められていた。
ティオレから貰った黒のジャケットスーツは袖口から裂け、肩は鮮血と共に大きく斬られていた。
何度も床を転がったせいで、全身が砂と埃に塗れていた。
「――― 本当に、強くなったね………恭也」
ほの暗い闇の向こうから、声が響いてきた。
それはまだ若い、女性のモノだった。
「兄さんが亡くなったのが確か八年ぐらい前のはず………
君はその時はまだ十歳になったばかりだったろう?
よく独学でここまで御神流を仕上げたものだ………」
声の主が、静かに近付いて来るのが感じられる。
その声には、真実賞賛の色が込められていた。
「………貴女にそう言って貰えるなんて、嬉しい限りです。
でも、買かぶり過ぎですよ」
まるで世間話でもするような穏やかな口調に答えながら、恭也はまた静かに小太刀を構えなおした。
本心からなのか引き結んだ表情に、珍しく苦笑の形が浮かんでいる。
「――― でしょう?………美沙斗さん」
カツンッ!と、影がその歩みを止めた。
窓から入る月の光が、女性の姿を浮き彫りにしてゆく。
美しい女性だった。
黒に近い紫のスーツに身を包み、背中までの髪を後ろで束ねた美女。
恭也に向けられた表情も、その口調と相まってひどく優しげに感じられる。
――しかしそれは、彼女がボロボロの恭也に対し、この女性が殆んど傷を負っていないという事。
なにより、その両手に握られた二振りの小太刀が、凍えるような殺気を振り撒いていた。
――――
旧姓、
恭也の父、
同時に、恭也の義妹にして唯一の弟子・
一族を、愛する人を滅ぼしたとある犯罪組織に復讐をするため、まだ幼かった美由希を士郎に預けその姿を消した人。
その人が今、恭也の前に立ち塞がっていた。
敵として。
何より、彼の大切な家族の一人でもあるフィアッセの夢を阻むものとして。
「そんなことはないよ、本心からさ
何より、私が君の……敵の強さを測り違えると思うのかい?」
構える恭也に対し、美沙斗はとくに気負う様子も無く言う。
しかしこの緊迫した空気の中に在って、そのひどく穏やかな口調はむしろ場違いに感じられた。
その事に、恭也は相手と自分の力量の差を感じ取っていた。
残酷なほど明確に。
「………」
「………」
互いに口を閉じ、沈黙が場に流れる。
沈黙を破ったのは美沙斗の静かな、しかしどこか哀願の響きを伴なった声だった。
「…………恭也、これが最後だ。
たのむ、そこを…退いてくれ。
私に、君を斬らせないでくれ」
特に感情が込められていた言葉では無い。
むしろ、その感情を無理に押し隠すような声だった。
だがその瞬間、彼女から放たれる
「この仕事が最後なんだ、
これが終われば、奴らに関する直接な情報が手に入るんだ。
尻尾はつかんだ、後はこの情報だけで私は奴らに……『
段々と抑えられなくなった感情が溢れ出るような声に、何となく恭也は理解した。
(あぁ、……そうか、この人は)
この人は、同じなのだ。
自分と、そして彼女の娘である美由希と。
突然の理不尽に悲しみ、怒っているのだ。
剣を握り締め震える手が、どうしようもなく痛々しく感じるほどに。
「君だって憶えているだろう?忘れた訳じゃないだろう?
あの日、本当なら幸せになるはずだった琴絵さんの事を。
君の御婆さん、御影母さんの事を。
何より、…何より静馬さんを、彼の事を君が忘れた訳じゃないだろう!?」
美沙斗さんは悲しくて遣る瀬無くて、奪われた全てに涙した。
奪ったもの全てに憤って、憎んで、許せなくて。
だから彼女は復讐に身をやつした。
だが。
「――なら、何故……」
だが、それは―――
「……何故だァァァ〜〜〜〜!!!!」
だが、それはまさに今、美由希たちが感じている
何故、
かつてそれを味わった者が、他者に同じ痛みを与えていい道理はない。
“復讐”なんて、何の免罪符にもなりはしない。
恭也は、悲しみでも同情でもなく、白熱させるほどの怒りに思考を焼き、
雄叫びにも似た怒声を張り上げ、恭也は極限の集中と共に床を蹴る。
――― 御神流・歩法之奥義 ―――
―――
モノクロームに変色した世界に飛び込むと共に、
恭也の突然の豹変に戸惑う美沙斗の一瞬の隙を、何倍にも引き伸ばされた感覚で一閃を加える。
―――『神速』
御神流を“最強”たらしめる、御神流体術系の唯一の奥義。
極限まで高められた集中力で、元来全体の三割しか使えない脳のリミッターを外し、
その処理速度を極端に上げる、これにより思考及び判断能力、知覚能力が爆発的に上昇する。
一歩間違えれば廃人になりかねない上、恭也にとっては幼い頃の後遺症である右膝の故障を悪化させかねない荒業である。
しかしその副作用として潜在的な筋力も開放され、例え達人と呼ばれる人間にも視認どころか反応も出来ない、正に“神速”の速さで動く事が出来る
“神速”の状態で腕を伸ばす。
まるでゼリーのプールの中に居るような鈍い動きで、右の小太刀が相手に迫る。
「――― クッ!!」
――― 御神流・歩法之奥義 ―――
―――
――― ガッガァン!!
しかし敵もまた御神流。
それも現存する使い手の中でも最強の。
一瞬の隙と意表を突いた恭也の一閃も、瞬間的に入った美沙斗の“神速”に弾かれる。
――― だが、恭也は止まらない。
「―― ッセイ!!」
弾かれた小太刀を無理やり引き戻し、更に逆の手で逃げ道を塞ぐ。
ひどくゆったりとした時間間隔の中、美沙斗の持ち上げた両手の小太刀と、
蹴りで間合いを取ろうと迫る足が映った。
幼い頃に膝を砕き、本来ならまともに動けもしない恭也の限界。
恭也が長時間の休息なく使える神速は、一日四回まで。
既に二回使っている恭也にこれを避けられた場合、後がない。
(足りない、………速さが足りない。
このタイミングでは、防がれる)
小太刀の柄を、掌から血が滲むほどに握り締める。
(足りないならば……)
さらに集中力を上げる。
(更に速さを、上げればいい!!)
――― 御神流・歩法之奥義 ―――
―――
“神速”に入った状態のまま更に“神速”に入る、“神速”の二重掛け。
視覚に映っていた映像から明暗が消え、完全な白黒の世界に変わる。
そして音すら消えた世界の中で、恭也の刃は確かに驚愕に目を見開く美沙斗を捉えていた。
――― ザジュッ!!
そこで、互いの“神速”が解けた。
「………ゼェ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァ、!!」
恭也は、貪るように空気を吸う。
限界以上の脳内処理を行い、筋肉も断裂を起こしたかのような激痛を訴えてくる。
それでも恭也は
何故なら―――。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、……本当に恐ろしいまでの才能だね、恭也。
まさか神速を更に重ねるなんて、一歩間違えれば自爆するような技じゃないか」
賞賛の声に顔を上げると、呼吸も荒く、左腹から右肩にかけ切り裂かれながら、
それでも小太刀を落とさず立っている美沙斗の姿があった。
恭也は、自分の必殺の一撃を防いだものを見て、僅かに顔をしかめる。
―― それは美沙斗の左の小太刀の柄。
それが半ばから絶たれていた。
彼女はあの刹那の間に、その恐るべき反射神経で柄だけを剣の軌道に滑り込ませ、その威力を殺したのだ。
「………、」
恭也は無言のまま、再び小太刀を構える。
「……その身体で、まだ闘う気なのかい?」
その姿に、美沙斗の方が戸惑ているようだった。
確かに先程の一撃で美沙斗自身も傷を負ったが、戦えなくなるほどのものでもない。
それに引き換え、恭也の身体は美沙斗自身が与えたダメージに加え
“神速”の二重掛けによる筋肉と脳への過負荷で、まともに動けるかも怪しい。
そんな彼が、何故まだ自分に向かってくるというのか。
「何故、…何故だ?どうしてまだ立ち上がれる?私に向かってこれる!?
それで何になるというんだ!そんな状態じゃ刀も満足に振れないだろうに!!」
「……だ、まれッ」
どこか怯えたように叫ぶ美沙斗を見据え、恭也は小さく絞り出すように言う。
確かに、先程の一撃を避けられた以上、最早恭也に勝機は無い。
しかしそれは彼の退く理由にはならない。
彼は彼女たちに、必ず護ると誓ったのだから。
そして何より、彼は許せないのだ。
かつて、本当に優しくて大切な人だった叔母が、“復讐”として他者に理不尽を振りまく事が。
だから、彼は倒れるわけにはいかない、絶対に。
「たのむから、もう立たないでくれ恭也。
これが最後なんだ、私が此処で諦めたら、ここに至るまでに犠牲にしてきた人たちが無駄になってしまう!
だから、止めないで……行かせてくれ!!」
その言葉に、恭也の中に有った何かが音をたてて切れた。
「黙れぇ!!」
湧き上がる、マグマのような怒りを
恭也は、その崩れそうな身体から声にして吐き出す。
コンクリートで出来た部屋全体がビリビリと震えた。
「巫山戯るなッ!そんな言い分で何を正当化しようとしている!?
犠牲にした人達?
彼らが何をした!そのための犠牲になる事を自ら望んだのか!?
コンサートの妨害?クリステラ親子の殺害?
彼女たちの夢を潰す事が、貴女の復讐か!?
そんな戯言を吐く前に自分がしている事を、してきた事を顧みてみろ!!
貴女が受けた理不尽と何の違いがある!?」
「………、」
恭也の剥き出しの怒りに、ビリビリと体ごと震わせる声に、
何より、その言葉の正しさに、今度は美沙斗が立ち竦む。
「怒りも、悲しみも、そのための復讐も否定はしない!
だけどその遣り方が、剣を向ける矛先が間違っているだろう!!
美由希を捨てた先に有ったのがこれか!?
何度でも言う、ふざけ―――
「黙れェーーーーー!!!!!!」
その咆哮を、美沙斗の剥き出しの感情と“神速”での右フックに遮られる。
「黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、黙れーーーーーー!!!!!」
まるで駄々っ子のような叫びと共に、小太刀を握ったままの拳が恭也を襲う。
“神速”状態での連撃のに声を上げる事すら出来ない。
「お前に、お前みたいな餓鬼に何が分かると言うんだ!?
私だって、いくらでも他の道を探したんだ!
……だけど奴らの情報はまるで掴めなくて、一人の力じゃ限界があって!!
それでも、やっと見つけた道なんだ!
それをお前みたいなヤツに説教される謂れは無い!!」
――― ゴギィッン!!
美沙斗の渾身を籠めた一撃が、恭也の肋骨を砕きそのまま殴り飛ばた。
恭也はそのまま一メートル近く転がり、背後の壁に体を打ち付けて止まった。
「―― が、ッはァ……ぐ」
その衝撃に肺の中にあった空気を全て吐き出しながら、
それでも蹲る事無く、壁を支えに起き上がり美沙斗の方を見る。
折りしも彼女は、一つの技を使おうとしていた。
体を引き絞るように捻り、左の小太刀を恭也に向け狙いを取る。
身体の影に隠れるほどに引いた小太刀が、凶悪なまでの力を溜めてその解放を待っている。
それは女の力で御神の復讐を遂げようと、彼女が磨き続けた刺突の奥義。
御神 美沙斗が最も得意とする技であり、御神家の分家であり対を成す“不破”家に伝わる奥義の一つ。
七つの奥義中、最長の射程距離を誇る『御神流、不破』の奥義之参。
――― 御神流・奥義之参 ―――
―――
―― ドックン
心臓が、一つ跳ねた。
本来なら、瞬きすら出来ない速さのはずなのに、まるで“神速”状態のように時間の流れが穏やかに感じた。
凄まじいまでの予感に、一気に体中が冷えていく。
―― ドックン
いうなれば、それは絶対的な“死”の予感。
動けず、防げず、避ける事も出来ない。
この一撃は、確実に自分を貫くだろう。
―― ドックン
その後に訪れるのは、―――“死”
そのことを理解した瞬間、体中を“恐怖”が這いずり回る。
―― ドックン!!
その時―― 頭の中に、
―― オ前ガ、“死”ノ何ヲ怖レル? ――
―― “夜”ノ闇ニ、“死”ノ黒ニ、オ前ハ最モ愛サレテイルトイウノニ ――
―― “死”ぬのが怖いんじゃない、“死”んでもう護れなくなるのが怖いんだ。
―― ダケド、オ前ハ此処マデナノダロウ? ――
―― 結局、オ前ハ何モ救エズ、誰モ護レズ、皆トノ約束モ守レズ、コノママ此処デ“死”ヌンダロウ? ――
―― そんなのはイヤだ。
―― このまま殺されるなんてイヤだ。
―― このままフィアッセも護れず、美沙斗さんも救えず、生きて帰るとの約束も守れないままで“死”ぬなんてイヤだ。
―― それでも俺は、殺さていく。
―― アレに射抜かれ、殺される。
―― コロサレル………
―― ナラバ何ヲ耐エル事ガアル? ――
―― 何ヲ堪エル? ――
―― コノママ“死”ヌ事ヲ良シトスルノカ?――
―― アレヲドウニデモ出来ル“力”ハ、ハジメカラオ前ノ中ニ有ルト言ウノニ ――
―― 奪ワレル前ニ、奪エ ――
―― 殺サレル前ニ、殺セ ――
殺セ!!!!
――― カチリッ、と頭の中で何か歯車の噛み合う音がした。
途端、世界の全てがその鮮明さを増した。
それは例えるなら、極端に視力の悪い人が初めて眼鏡を掛けたような感覚。
自分に迫る刃を見る。
“神速”に入った訳でもないのに、その動きが凄まじくスローに見えた。
それだけでなく、その小太刀の作成に使われた材質が、骨子が、技術が、理念が、
果ては、その小太刀に籠められた使い手たちの経験が、蓄積された年月が、
そのありとあらゆる工程が、
美沙斗本人に目を向ける。
相手は“神速”入っているはずなのに、その動きの一つ一つが完全に知覚できた。
筋肉の収縮が、関節の軋みが、完璧なまでに昇華されている“射抜”の軌道が、
その動作の起点から、次に移るであろうその流れまでが、
観ただけで、理解できた。
理解できたのだ。
その動きに含まれている、御神 美沙斗の激怒が、悲哀が、後悔が、切望が、
そして、何より ―――
(――― あぁ、そうか……貴女も気付いてはいたんですね)
自分を止めて欲しいという、感情が。
何故かふと見た窓の外に、月齢七の細い細い三日月が目に映った。
―― 嗚呼、今夜は月がこんなにも綺麗だ ――
その想いを最後に『高町 恭也』の人格は、“何か”に呑まれた。
古より、月の光には魔力が宿るという。
人の中の魔性を浮き上がらせる魔力が………
...... to be continue
あとがき
はい、というわけでやっとこ恭也君が出てまいりました。
つかいきなり前後編ものってどうよ、ホントはこの一話で書き切るはずだったのに……
「前回書き上げたモノと随分違うじゃねーか」と思われるでしょうが、こっちが真作。
しっかりプロット練ったものです。
後半、何か色々な作品から借りたような書き方がございますが、気にしたら負けという方向で……
さて多少ネタバレになりますが、見れば分かるように恭也君は
あと、時間軸つ〜か設定的なものは、全員のイベントとフラグ立てていながら、誰とも付き合っていないALLエンドて事になっております。
ついでに、フィリス先生や、リスティさんを始めとした「さざなみ寮」(愛さんを除く)の人々や、“1”に登場した人も何人か落としているというアキト君張りの被害者数を出している。(そして、やっぱり本人に自覚無しな上気付いていない)
このシーンは、フィアッセルート+美由希ルートのラストを足して、恭也君を反転させた(あれ、ネタバレ?)ヤツをオリジナルで付け加えました。
ホントは紅○朱を出そうかとも思ったんですが、とりあえずトラは3の恭也を取り巻く世界観をまとめる意味でも、敵キャラは美沙斗さんにしました。
何となく美沙斗さんの扱いが酷い気がしますが、個人的には大好きなんですよ?美沙斗さん。
それとこの話は、《第零幕》は海鳴で、ほとんどただの(ツーと変か?)とらいあんぐるハート1、2、3の合同ものになりそうです。(3時代の恭也メインで)
クロスしていくのは、《第壱幕》ぐらいから。
では、また次回。
代理人の感想
・・・すいません、さっぱりわかりませんわ。
とらは関係は全然手を出してないからなー。
タイトルのつけ方や順番もわからないっちゃわからないんですが(爆)。