さて、再び幕を開ける前に少しばかり昔話をするとしよう。
物語の主役は一人の姫君。
一柱の女神の気まぐれと、一人の男への愛に振り回された一人の女の物語。
……………どうやら、舞台の準備が調ったようだ。
さぁ、それでは僅かばかりの間、この暇つぶしの如き物語に付き合っていただくとありがたい。
ふむ、……そろそろ望まれない役者は、幕の袖へと引っ込む事にするか。
……おや、名乗るのを忘れていたか?
己の名は兇夜、或いは狂夜……。
滅び逝く、月と闇との森の住人。
凶ツ夜の狂い神……とでも言っておこう。
今回はアルキメデスにこの役を代わってもらったのだが………
しかし、ヘタだねぇ…どうも。
とらいあんぐる ハート
〜 天の空座 運命破綻篇 〜
<第一幕・幕間 / 既朔> 悪夢見た頃を過ぎても
それを夢と言うには余りに生々しく、身に覚えがありすぎて。
しかし走馬灯と言うには、余りに脈絡が無さ過ぎた。
「何故俺を裏切った!?」
「何故私達を騙したの!?」
「何故あの人にこんな事を!?」
それは、ずっとずっと昔のお話。
まだ、神様も人間も仲が良く、人の傍には神様が居た頃の御伽噺。
――― 何故だ!!
――― 何故なの!?
――― 一体何故!?
四方から誰かを罵る声が聞こえた。
其処は黒海と呼ばれる海の果ての王国、その名を『コルキス』。
其処にはとても美しく、そしてとても優しいお姫様が住んでいました。
その『誰か』が自分だと解っていても、彼女には人事のようにしか聞こえなかった。
どれだけ人に罵倒されようとも、彼女は表情一つ変えることは無く、涙一つ流す事はしなかった。
美しいお姫様はとても魔術の才能があったので、叔母に魔術を教わって国の民のために使いました。
そんなお姫様は国の皆から好かれ、お姫様も国の民や自分の家族たちを心から愛していました。
だけども、それは表面だけの事。
その心は、どうしようもなくボロボロに傷付いていて、その事を何も言う事が出来ない。
けれど、ある日お姫様は呪われてしまいました。
呪ったのは、悪い魔法使いでも悪いドラゴンでもなく、それは一人の愛の女神様。
お姫様が何かしたわけでもなく、ただその女神様が気に入った英雄を助けるのに都合が良かったから。
本当に、ただそれだけの理由でお姫様は呪われたのでした。
口から出るのは謝罪の言葉でも、本心からの気持ちでも無い。
まるで予定調和のような、決められた/呪われた/歪んで狂った―――“愛”の、言葉。
―――だって、あの人の為ですもの―――
その呪いは、会った事すらないその英雄を愛し、そのためならどんな事でもするという呪い。
愛の女神様の身勝手で非情な、酷くて悲しい“愛の呪い”。
呪いに侵されたお姫様は、英雄を助けるために自分の国の【黄金の毛皮】という宝物を与えました。
そしてその英雄を逃がすために自分の弟を殺し、英雄の国に逃げ出してしまいました。
お姫様は英雄と結婚するという約束をして王女様になり、さらには英雄の国の王様も家族を騙して殺させました。
「血も涙も無い、魔女めッ!?」
「国を!民を裏切った、裏切り者め!!」
「己の弟まで手に掛けたか!!?」
「血みどろの魔女めが!!呪われてしまえ!!」
人々の罵倒の言葉は、優しかった彼女の心をボロボロに抉り、血の涙を流させる。
しかし、愛の呪いは彼女に涙を許さず、英雄を助けた喜びの笑顔をその美貌に貼り付けさせた。
しかし、これだけ尽くした王女様を、英雄は次第に嫌うようになっていきました。
英雄の為とはいえ、王女様のした事に英雄は脅え始めたのです。
やがて英雄は王女様と違う女性を選んで結婚し、女王様を追放してしまいました。
追放された女王様は、しかしまだ愛の呪いからは逃げられませんでした。
「殺せ、あの魔女を殺せ!!」
「我らの姫を焼き殺したらしいぞ!!」
「あの魔女の子供たちだ!捕まえて殺せ!!」
「あの石を投げつけて殴り殺せ!!」
自分を裏切った英雄以外の全てを、彼女はその女性に送った花嫁衣裳に染み込ませた毒で焼き殺してしまった。
そして彼女はそのまま自分と英雄の間に出来た子供たちとを連れ、共に国から逃げ出そうとしたのだ。
だが国の人々はそんな彼女の非道を許さず、その子供たちを捕まえ石を投げつけて嬲り殺したのだった。
「お母様!!、助けておかーさまぁーー!!!」
「おかーさまぁー!!いたいよぉ、かーさまぁーー!!」
愛の呪いに侵されながら、そんな子供たちを護ろうとした王女様の愛していた想いは本当の事でした。
ですが結局護る事ができずに、終に王女様は壊れてしまいました。
国も、家族も、自分の子供たちも、そして呪いに侵された愛すらも失い、とうとう全てを失った彼女。
誰もが噂し合いましたが、結局その後の行方はようとして知れませんでした。
―――何故!?
―――返して!!私の家族を、私の
彼女は一人叫び続けていた。
誰にも気付けないボロボロの心の中で、誰かが気付いてくれますようにと祈りながら。
しかしそれを知らない人々は、彼女を罵倒し続けた。
残酷な魔女として、物語の悪い魔女の原型として。
その王女の心すら、何時しか本当の魔女になってしまうなど誰も知らずに。
彼女の心が見る影も無く傷付き、痩せ衰えてしまいながら、それを誰にも言うことが出来ずに。
これは一つの御伽噺。
愛という呪いに縛られて、利用されて捨てられた一人のお姫様の御伽噺。
愛のためなら何でも行い、それ故に愛以外の見返りを求めない。
心を操られながら、泣くことも出来ずただ微笑むしかなかったお姫様の物語。
あとがき
さて、背景に色を入れるという初めての試み!!
とか意気込んでしまいましてが、どうでしょう、少しは雰囲気出てたでしょうか?
今回の副題、『悪夢(ユメ)見た頃を過ぎても』の通り、出来るだけ暗い雰囲気を出してみましたが、やっぱ俺実力ねぇ〜(汗
とはいえ、二週間ばかり更新停止せざる得ないほど年末の忙しさでこれ以上の速さとクオリティは無理だったと言い訳させて下さい。
まぁ、それにしたって無様な言い訳なのでしょうが……
さて、今回のお話はバレバレかと思われますが前回最後に意識を失っておられた少女の過去話です。
本当は次回の分の冒頭に来るはずだったんですが、量的に無理が出たんでこれで一本上げることにしました。
最後に、ネタバレになりますが、今回のお話の冒頭でアルキメデスの代わりに登場していた兇夜君。
彼は言ってしまえば、恭也の七夜バージョンです。
ブッチャケ、第零章にも出た恭也のキレモードの事。
恭也は志貴のように『七夜』と『遠野』に分かれておらず、完全に『退魔(殺戮?)衝動』の人格と混ざっちゃってます。
しかし七夜の里で手に入れた薬と、恭也自身の体質及び超人的な精神力で完璧に制御できてるので、そこら辺は(キレない限り)大丈夫です。
まぁ、キレてしまったら記憶を保ったまま元に戻ったとき自分の殺したくなるほど落ち込んでしまうんですが……
ついでにキレたときの恭也がどれだけ洒落にならないかというと、
(後のネタにするつもりですが)修行時代に敵にキレて完全に滅殺し、あの師匠を殺しかけた事がありました。
では、また次週(?)。
代理人の感想
ふむ。
と言っても、原作そのままなんで取り立てて感想つけるべきところはありませんねぇ。
ということでパス1(ぉ