それは、とてもとても遠い世界の物語り。
だけれど、ごくごく身近なそんな宇宙の御伽噺。
時間の意味すら存在しないほどの大昔。
時間の概念すら無くなってしまうほどの遥かな未来。
空の彼方。
其処に在るとある“門”。
そこから大勢の『カミサマ』たちがこの宇宙に攻めて来ました。
その“門”は此処とは違う宇宙に繋がっていて、“カミサマ”たちは其処からこちらの宇宙にやって来たのです。
やって来た“カミサマ”たちは今までたくさんの生き物たちが住んでいたこの宇宙をメチャクチャにして、自分たちの宇宙を造ってしまいます。
みんな、みんな、泣きました。
みんな、みんな、怒りました。
だけど“カミサマ”たちはとても強くて、誰も歯が立ちません。
それだけでなく、もっと強くて、もっと恐い【獣】が“カミサマ”たちのミカタをしていたのです。
【獣】は元々この宇宙に居た神様や悪魔やニンゲンたちを殺していきました。
それだけでなく、ずっと昔にこの“カミサマ”たちをやっつけた善い神様も倒してしまいました。
―――だから、みんなお願いしました。
―――だから、みんなお祈りしました。
ニンゲンたちがお祈りしました。
神様たちがお願いしました。
悪魔たちが希望を求めました。
【世界】が、宇宙の星々が、声の限りに助けを求めました。
――――そしてそんなみんなの声は、世界も超えて一人の【青年】に届いたのです。
SHUFFLE! on the mix
days
〜 The
throng of ruin 魔獣咆哮篇 〜
< 第零楽章 / 前奏曲 >
終わる世界の
全てが崩れ、全てが壊れ、全てが終わる。
一切の存在が消失してしまった宇宙の中。
文字通り、宇宙最後の地平の上で彼ら【狩人】と【獣】は向かい合っていた。
「……来たか、【狩人】」
「待たせたか、【獣】?」
片や白に近い、限り無く澄んだ銀の瞳を【勇気】と【愛】と【優しさ】と【信念】と【正義】と【理想】と【希望】に輝かせ。
片や黒に近い紺蒼色の眼球に、くすんだ銀の瞳を【恐怖】と【憎悪】と【憤怒】と【慟哭】と【虚無】と【孤独】と【絶望】に濁らせていた。
その【青年】は、世界を超えてやって来ました。
みなの願いを聞き届けて。
みなの想いを聞き届けて。
だけど、やって来た【青年】に最初は誰も期待なんかしていませんでした。
だってその【青年】は神様ではなく――
その【青年】は魔王ではなく――
その【青年】は魔法使いではなく――
その【青年】は勇者ではなく――
その【青年】は、剣士の業を持っただけの、【狩人】だったのです。
しかし、その【狩人】は皆の【希望】になりました。
何度倒されても何度でも立ち上がり、やがて【狩人】は“カミサマ”たちと同じ場所にたどり着きました。
ついに【狩人】は誰も倒せなかった【獣】をやっつけ、“神様”を斃してしまいます。
銀色の光を身に纏い、その手に握った剣の一振りは星ごと“カミサマ”を斬り斃してしまいました。
「全てを終わらせる前に、答えろ【獣】」
「……何をだ?」
【狩人】が握るのは、純白の雪のような―――
天空に輝く月のような―――
全ての闇を消し飛ばしてしまうような優しい輝きを放つ、流麗な意匠の銀の小太刀。
「……何故だ?」
「………」
「何故、この
【狩人】の声が大地と大気をまるで大砲の音のように震わす。
しかし【獣】は表情を崩す事無く、まるで当然のような声で答えた。
「何度も言っただろう、今更言わせるな。
この宇宙の【観測者】たる“ヤツ”を俺とお前が
『【観測者】なしには、その世界は存在し得ない』……判っていた事だろう?」
奇跡はまだまだ続きました。
【獣】が“カミサマ”を裏切ったのです。
【狩人】と【獣】は次々と“カミサマ”たちを滅ぼしてゆき、ついにその存在を宇宙から消してしまいました。
みんなが手を取り合って喜びました。
みんなが【狩人】の事を褒め称えました。
「そんな事を訊いてるんじゃない!!」
【狩人】の激昂した声と共に、彼の左手の小太刀が振われる。
瞬間、一切音を立てる事無く、しかしただそれだけの動作で大地が深く切り裂かれた。
しかし本来この一撃だけで星すら切り裂く斬撃は、【獣】が手に持ったソレで殆どのエネルギーを受け止められた。
「【世界】の維持に【
【獣】が握るは巨大で無骨な鬼包丁。
それはまるで地の底のように―――
星一つない、漆黒の宇宙のように―――
其処の見えない悪夢のように、冥い輝きを宿していた。
「なのに何故、貴様は態々世界を滅ぼす必要があった!!宇宙を壊す必要があった!!
貴様はこの世界を救いたかったのではないのか!!??」、
―――だけど、それだけでは終わりませんでした。
今度は【獣】が世界を壊し始めたのです。
「……違うな」
「何!?」
「違うと言ったんだ。
俺が救いたかった【世界】と言うのは。
……俺が、護りたかったのは―――」
重い、……重い何かを吐き出すように、【獣】は言った。
「俺を取り巻いていた【
「……っ!?」
その言葉に何を感じたのか、【狩人】が息を呑む。
そんな【狩人】を見据えたまま、冥い瞳で【獣】は続ける。
「【
『彼女たち』を救うための、手段がな。
だけど、全て終わった後になって、それが間に合わなくなった……。
笑い話さ。手段を手に入れるために時間を稼いだつもりだったのに、逆にソレで時間切れしちまった。
だから、――――」
「――――だから、この世界を滅ぼすと言うのか!?」
しかし、そんな【獣】の言葉を遮って、【狩人】は言う。
その気持ちを、恐らく彼自身も理解できるが故に。
だからこそ、その選択を間違いだと断言する。
「この世界に生きていた全ての命を消し尽くして、それで何になる!?
貴様がしているのは、ただの八つ当たりだろう!!」
だが、その【狩人】の言葉にも【獣】はまるで揺らがない。
そんな事は知っている、と。
そんな葛藤は、とうに超えて来たのだと言う様に。
―――そして、【獣】の口から【絶望】は吐き出される。
―――ならば、生きろと言うのか?―――
それは【慟哭】にも似た、静かで空ろな魂の叫び。
「なん、……だと?」
「何一つ護れず、何もかも失って……
【獣】となるしか生き方を見出せなかったこの俺に、貴様は「生きろ」と、そう言うのか?」
「―――どういう意味だ?」
【獣】の言葉に、【狩人】は理由も解らず気圧される。
【獣】は何か疲れたように、一つ溜息をついて答えた。
「【
黙示録の言葉に従い、【七つの頭】たる【七つの狂気】を『冒涜の言葉』として、『竜の権能を明け渡すが如く』、な。
つまり、貴様の【死国の銀眼】と違って、これは今だからこそ完成していると言える」
「―――何が、言いたい」
【獣】は嘲りを含むように、一つ息を吐くと滴り落ちるような【虚無】を抱えて答えた。
「つまりこの宇宙が『滅ばない』なら、今度は俺が宇宙の中心に組み込まれるのさ。
『白痴にして盲目たる、全能にして無能の原初の混沌』として、―――永遠にな……」
「な、…………ッ!!?」
今度こそ、【狩人】は言葉すら失う。
その言葉はひたすらに重い。
当然と言えば当然だろう。
目の前の【獣】は、【憎悪】と【恐怖】と【憤怒】と【慟哭】と【虚無】と【孤独】と、
そして何より、【絶望】を文字通り“力”に変えて戦ってきたのだから。
―――しかし、
「だからといって、世界が終わることを良しと出来るものかぁ!!!」
しかし、それでも【狩人】はその【絶望】を拒絶する。
己の信ずる理念こそが、何者にも折られる事の無い絶対の利剣であると信ずるが故に。
当然と言えば当然だろう。
その言葉を聞く【狩人】は、どこまでも【獣】とは対極に【命の賛歌】を“力”の源とするのだから。
理想のような夢物語すら、現実にしてしまうのだから。
その間にも、【宇宙】はボロボロに壊れていきます。
最初に生き物たちが失われ、次に輝く星々が無くなりました。
【宇宙】はその果てから、崩れるように消えていきます。
宇宙そのものが、“死”んでしまったのです。
(……嗚呼、きれいだな)
決然と小太刀を構え、愚直なほどに真っ直ぐな視線を向ける【狩人】を、【獣】は羨望を込めてそう思った。
(そうだ。ソレこそがお前だ。ソレだからこそのお前だ。
全てをムダだと知りながら、それでも絶望を識ることなく【希望】を紡ぎだす。
【未来】を当たり前のように信じているからこそ、本当の【絶望】を決して識る事は無い)
長い間、……本当に永い間、動く事無く固まっていた頬が、知らず笑みの形に歪む。
それは嘲笑であり、畏怖であり、嫉妬であり、そして……憧憬の笑みであった
真の【絶望】を識る者は、無駄を費やす余力さえない。
真の【絶望】に対峙したとき、生命は叫ぶ喉すら持たないのだから。
己の総てを、ただ『存在する』事のみに費やす。
己の一滴たりとも決して漏らさず、抱え込む。
【絶望】に己の存在を採取されつくされない為に。
【絶望】を知ってしまった【獣】は、しかし余りに永い間ソレに対峙し続けてしまった。
慣れるほどに接し続けた【絶望】はやがて諦観へ、諦観は怠惰へ、怠惰は焦燥へ、そして焦燥は【憎悪】へと移ろっていく。
―――しかし、【獣】はほんの少しだけ強すぎた。
その【絶望】も、その【憎悪】も、彼はその手に握り締め、己の“力”と出来るほどに。
正気のまま、【七つの狂気】を揮えるほどに。
―――【獣】は、想う。
久遠にも近しい永い永い生の果て。
世界を血に沈め、世界を血に死詰め、幾星霜。
腐れ落ちた世界の上に、更なる屍を積み重ね幾星霜。
死する事すら許されず、ただただ永遠と
怪異なる永劫の内には、死すら終焉を迎た。
その永劫の合間に、数の上限を超えた数だけの命を奪い、そして命を奪われた。
それを繰り返し続け、それを狂り返し続た。
【恐怖】と【憎悪】と【憤怒】と【慟哭】と【虚無】と【絶望】と【孤独】の狂気を胸に。
それを【七つの頭】として、ただひたすらに鍛え上げ、研ぎ澄まし、磨き上げ続けた日々。
生きることに疲れ、生きることに飽き、生きることを憎んでいた。
―――それでも《獣》は開放される事なく、無限の生を生かされ続けていた。
無限の生をただひたすらに、【かの者どもに敵対する者への敵対者】としてたった一人縛られ続けた。
身も裂けるような、心砕けるような、魂朽ち果て存在すら死すような。
そんな無限地獄の狂気に溺れ、塗れた日々。
――――――だがそんな、一人地獄に哭き続けた日々も今日で終わる。
と、そう考えたとき―――
――――リィィィィィィンン………
ふと、【獣】が握っていた刀が“啼い”た。
まるで【獣】を慰めるように、優しく、本当に優しげで切なげな、声なき声で。
《獣》が心から不思議そうに、自身のその刀を見つめる。
その巨刀は、その名を“ルイン”といった。
“Ruin”―――即ち、滅びと破滅を司る、【獣】の七つの狂気を基に『かの者ども』によって造られた何処までも黒い刀。
柄もなく、鍔もない。
歪で巨大な剥き出しの刀身だけの漆黒の刃。
幾千もの血で磨き、幾億もの骨で研ぎ、限り無いほどの呪詛によって鍛え上られた、名実共に最強で最悪の最凶の災厄たる【魔刃】。
無骨な殺意の塊は、守りを捨て、護る事を省みなくなった正に剥き出しの狂気の証。
護りたい者も、守りたい物も、全て失った《獣》の在り方そのものの具現。
そう在るように生み出され、そう在るように使い続けた“ルイン”は、しかし今、その担い手を慰めるように啼いていた。
「…………そうか、……そうだったな」
【獣】は本当に、不意に気づいた。
永劫の牢獄のその中に在って、常に自分と共に居た相方の事を。
「俺には、―――お前が居たんだっけな」
今更ながらに気付く自分の馬鹿さと鈍さに、ほんの微かに微笑が浮かぶ。
いや、それは微笑とも呼べない淡い表情の変化。
―――永い永い永劫は、【獣】からその感情の現わし方すら磨耗させていた。
久しく忘れていた、『優しい気持ち』というものに浸りながら、今度こそ真っ直ぐに【獣】は【狩人】を見た。
その【未来】に輝く瞳は、【獣】と同じようで全く違う、白の眼球にまるで満月のような白銀の瞳が彩っている。
その手の刀は所謂【小太刀】と呼ばれるもので、その小太刀もまた月光の如き白銀の輝きを放っていた。
【獣】は知っている。
その白銀に光り輝く小太刀―――“逆鱗”と“銀月”こそ、自分の振るう“ルイン”の対極に位置するものだということを。
さまざまな生命たちの祈りと願いを受け、担い手の魂と意志の力で鍛え上げ、絶対の理を持て敵を断つ。
それは正に、伝説にすら成り得る―――【聖剣】。
其処から溢れるその輝きは、無限の優しさと暖かさに溢れた『いのちの輝き』。
断絶し、拒絶する力ではなく。
享受し、創造する力の発露。
屍の大地の中に在ってなお、その姿も輝きも一片たりとも翳る事はない。
それは、幾千、幾万、幾億にも亘る永劫の中、絶対の希望と信念を胸に敵を狩り続けた戦士の姿だ。
『希望を勝ち取る』。その理念の下鍛え上げられた、聖なる剣そのものだ。
神々が書き上げた
嗚呼その姿の、なんと美しいことか―――。
《獣》は《剣士》のその姿を、眩しい物でも見るかのように一瞬だけ目を細めると、スッと立ち上がる。
“ルイン”を片手に、《獣》はその巨大な刀を軽々と持ち上げ上段に構えた。
すると、その刀身から禍々しい程の気配と共に、どす黒い紺色の光が溢れ出す。
その光は、その気配は、急速なまでに残った世界を【死】と【滅び】と【邪悪】に侵していく。
《剣士》の持つ小太刀とは、何処までも対極に。
―――その昔、『かの者ども』をその宇宙ごと封じた【窮極呪法兵葬】が在ったと云う。
かつて【獣】の人生の全てを狂わせたとある邪神が、二つを戦わせ破壊することで封じられた宇宙を解き放とうとした事があったと云う。
それを知った【獣】は、一つの事を思いついた。
―――それを超えるほどの物を持って“ヤツラ”を滅ぼせば、自分は解放されるのではないか?
その思いに駆られたまま、【獣】は何の力も持たない己が身をひたすらに鍛え上げ、その果てに“ルイン”を手にした。
そして時を同じくして、【世界】の嘆きに呼び出された【狩人】もまたその小太刀を手にしていた。
共に『かの者ども』を滅ぼして回りながら、しかし遂にこの瞬間まで、互いに手を取り合うことは出来なかった。
何故って?
それは【獣】がこの世界の終わりを願い、『かの者ども』を滅ぼしながら【世界】ごと全てを無へと還していったから。
【獣】には、どうしても認められなかったのだ。
その世界の中で、自分一人だけが永遠を
それが間違っていると分かっていても。
それがただのとばっちりだと理解していても。
この宇宙は終に助かる事無く、滅びすら超えて無へと消え逝かんとしていた。
―――これから行われる戦いは、この世界への最後の儀式。
【狩人】の持つ“逆鱗”“銀月”の白銀の輝きが、【世界】を照らし出し【狩人】自身を包み込んでいく。
「―――行くぞ」
【獣】の持つ“ルイン”の禍々しい輝きが、【獣】を包み込み【世界】を侵しながらその軌跡を抉って行く。
「―――来い」
瞬間、互いに大地を蹴り、時空すら越えた速さでそれらをぶつけ合う。
「《
それは、唯のヒトでありながら、神すら越えたる【狩人】の名前。
「《
それは、最早誰一人呼ぶ事のなくなった、【世界】を滅ぼした【獣】の名前。
終わる宇宙の片隅で、宇宙最後の生命がその戦いを見て思いました。
―――どうしてこんな事になったのだろうか?
―――いったい誰が悪かったのだろうか?
【ヒト】が脆く弱かったからだろうか?
“カミサマ”たちがこの世界に攻めてきたからだろうか?
悪魔が【獣】の大切なヒトを殺したからだろうか?
もしかしたら、悪者なんて居なかったのだろうか?
それとも―――
やっぱり【獣】が一番悪かったのだろうか?
それは、もうだれもいない『うちゅう』のなかでつたえられた
きくひとも、はなすひともいない
とてもちいさな、
とてもおおきな
とてもたいせつな
とてもかなしい、
とてもやさしい、
【あい】と、【ゆうき】と、【いのち】たちの
これはそんな、《
あとがき
は、ははははは……
やってしまいました。
ろくに『天の空座』も完成させていないくせに、勢いと電波だけで始めてしまった新シリーズ。
はっきり言ってろくに構成も練れておらず、ただ面白そうだと思ったものだけを片っ端から詰め込むつもりだらけの作品です。
ですから、原作無視で、設定だけあるいは、キャラクターだけを登場させたトンデモ作品になるかもしれません。
つか、この作品だけでもかなりの部分が一目で何を参考にしているのか分かる方も多いんじゃないだろか?
一応、シャッフルを原型にするつもりはありますが、はっきりいってオリジナルとして読んでもらってもかまいません。
そんな作品ですが、どうか天の空座と同じく、生暖かい目で見守って下さい。
あ、天の空座のネタバレありましたけど。