世界は無数にあると言われている。

滅びた世界


生まれる世界


優しい世界


歪んだ世界


それぞれに命が生まれ滅んでいく。それは全ての流れであり


運命もまたしかり


運命に翻弄され永劫を生きるものたち


彼らもまた流れ












第一話 The Blade And Sacrifice









月光すら差し込まぬ森の中。
目に映るのは黒一色の風景。
ときおり、不可解な金色の霧が一条、また一条と天へ昇り消えていく。
不思議に思う人は……いない。



複数の影が黒の中でかなりのスピードで動いている。
その中心に立つ一人の担いだ長大な棒からは赤い光が立ち上っている。 その輪郭から杖のようなものであることが分かる。
ただし、両端が中心部より膨らんでいるため、厳密には違うらしい。


影たちの動きが止まった。 互いに牽制するように影たちはにらみ合って、 
一瞬の沈黙が流れた。
いきなり赤が動いて静寂を破った。

一面の黒に赤い光が帯のように残る。
少年が駆けた方向から来た一つの影の背からいきなり銀色の刃が突き出る。
赤が一直線に襲ってきた影の懐に飛び込んで杖の尾部に備わった刀身で貫いたのだ。


ごぼりっといやな音を立てて、貫かれた影が血を吐く。 致命傷なのは目に見えて明らかである。
鮮血が闇夜に舞い、影は動かなくなった。

どさっと、赤は動かない影から刀身を抜き、死体を地面に抛った。
影はやがて輪郭をぼやけさせ、金色の霧のようなものに姿を変える。
まるで、立ち上る蒸気のように金色の霧は立ち昇り消える。
その中心に立つ赤が一人。 黒の森に金がまた一条立ち昇った。

「……ごめんなさい…。」
少年は言った。
自らが命を絶った影をまっすぐに見据えて。

刹那
間髪いれずにまた別の影が、赤にとびかかる。
ひょいと無造作に赤はかわす。
追撃する敵の攻撃を捌きながら、赤は魔導術を顕現させるための術式を組み立て始めた。


―来たれ、奥底の存在よ。

―わが力を代価に姿を示せ。

―限りなき眠り。 纏う深遠。

―彼の者を原初へと誘え。


錫杖を掲げて赤は叫んだ。

「呪壊陣(ディバインインパクト)!」


力が集まった錫杖の先端から掌へと移り、地面にたたきつける。その掌を中心にして構築された魔法陣が一瞬だけ現れ広がり、そして消える。 そして、それと同時に放物線を描いていた影の姿が、転移した魔法陣より生まれた黒い何かに飲み込まれた。


ズンッ……。   オアァァァァ……。

空気を震わせ、重い音が響いた。
直後に何かの叫び声が聞こえる。 地獄の落ちた亡者の放つような暗く重い声。


また一条。

「……ごめんなさい…。」

立ち上る光はどんどん増え、やがて途絶えた。 再び静寂が訪れた。
*     *     *



薄暗い場所。 城の中の一室  謁見の間と呼ばれる場所があった。
窓は天井付近に小さい窓がいくつかついている程度で風通しは悪くじっとりと汗がにじんでくる。おかしな香草を炊いたらしいおかしな匂いが鼻を突いた。
そこはかなり大きなしっかりとした造りと優美な装飾がされたの部屋であり、上座にファンタジー映画に出てくるような
大きくて立派な、しかし、どことなく間抜けに見える椅子に目つきの鋭い初老の男が座っている。
おそらくはこの国を治める王なのだろう。


謁見の間には王のほかにも数名の側近と思われる男と護衛のための衛兵。
そして、それにひざまずいている、その場の雰囲気にそぐわない一人の少年がいた。



「大儀であった。 異邦人(アージュ二)よ」

王はアージュニと呼ばれた少年を見下ながら言った。
口で言っている上では少年を褒めているのだろうが、王の目は何か汚いものを見下ろすように、
少年を見つめていた。


「はっ。」

一呼吸おいて感情のこもらないな声で少年は形式的に答えた。 
まだ、声変わりすらしていなかった幼い声が石の壁に反響する。


「もうよい、さがれ」


「はっ。」


スッと少年は立ち上がり手にした錫杖を王へと掲げる。

「神剣第五位「螺旋」の主の名において。 グラウズシオン国王の命による、任務を終了。
これより本国に帰還いたします。」


最後の報告を終了し謁見の間の扉へ歩いていった。
その部屋にいる誰もが少年を見つめている。


豪華な装飾のされた重そうな扉を少年は片手で無造作に開け、出て行った。
少年が扉の向こう側に消えると同時に、王とその周りの側近たちの顔がフッと、緩んだ。


……………………。

「やれやれ、やっと終わりましたな。」
側近のうちの一人が漏らした。


「あぁ、全くだな。『アレ』と関わるのはもうごめんだ、寒気がしてくる。」
『アレ』というのはさっき出て行った少年であろう。何事においても限度を、常識を超えた強さ
を持つものは偏見や誤解の目で見られることも少なくない。
そういう偏見はやがて妬みや憎しみに似たものにまで姿を変える。この側近たちもそういうような思想を持つ輩だった。


「しかし、さすが首都のものは性能が違いますな。たった一体で全ての魔族を殲滅するとは。」
 

「だが、わが国があんなにもてこずっていたものをああもあっさりやってのけられると複雑な気分ですが
また一人が、

「まぁ、『アレ』が魔族を駆逐してくれたのですから、多少は感謝してもいいのではないのですかな?
領土も広がったことですし。」


また別の側近がネチリっとした口調で言った。
「バカな事を。」
王の口が笑みの形にゆがんで

「ヒトでないものを感謝しても仕方があるまい?」
笑うようにはき捨てた。


少年についてはもう眼中にない様子だった。



*     *     *




「ミュール」はグラウズシオン共和国に属するそれなりに大きい国だ。
国を巨大な岩で作られた城壁が円を描くように配置されと白を基調とされたオブジェにも似た建物が多く
築てられている。土地の関係から緩い斜面に配置されているため、城が斜面の一番上、そして一番下に
たった一つの出入国のための門がある。そしてそれを何本もの大通りがつないでいる。
戦争になったらほとんど無抵抗に陥落しそうな国の形がこの場所の平穏をあらわしている。
現にこの地域はここ数十年紛争が起こったことなどはなかった。




たったったっ、と軽い足音が、薄暗い天井にこだましていた。
謁見の間での最後の報告を終えて、少年はいったんあてがわれていた部屋へ戻るとさっさと荷物をまとめて 城門へと向かっている途中だった。
足音が響くたびに伸ばし放題のぼさぼさの髪の毛がゆらゆらと揺れた。 小さめのナップサックを肩に下げ歩く装いはこの国のものではなく、紺が基調となった異国の制服のようなもので 手には包帯のような薄汚れた布でくるまれた長大な棒が握られていた。
小柄、というか華奢な体つきで細い首の上の容貌は長い前髪に阻まれて見えなかったが、少なくともたくましいという印象はなかった。
その奇異な持ち物と羽織った膝まであろうかという首都国の白い陣羽織を着ていなければ、いたずらな子供と間違われてほっぽり出されるような風貌である。

長かった回廊も終わり、城門から外にでた。
開け放った城門の外は一面の輝くばかりの芝生だった。
さすが、一国の主が住まう国の中心だけあってよく手入れされていた。 城内の淀んだ空気とは違う新鮮な空気をすうっと吸い込む。
そのまま、少年は前方の城下町へと続く曲がりくねった階段へと歩いていった。

やがて、長かった階段も終わりにさしかかる。
最後の五段を一気に飛び降りた少年は中央通りを歩き始めた。

もう昼過ぎだからだろう、ほとんどの店が開店し人があふれていた。
街路樹が規則正しく並び、見栄えの良い景観を演出していた。
しかし、歩いていると不快感が目についた。 少年が歩くたびに自分の周りからは人が減り遠巻きに自分のことを無遠慮に見る輩が増えていく。
心なしか周囲から先ほどまでの活気が消え静まり返っている。


異様な服装に長大な棒を担いだ年端も行かぬ少年が目に入らないわけはなかったが、今回は少しだけ以上だった。


しかし
(…………いつもと同じ………。)

特に気にもせず少年は思った。
なぜならそれは見慣れた光景。彼がいつも受ける態度。
それは季節が変わっても国が変わっても、変化がないこと。
だから半分あきらめていた。


[―誓約者よ。]
唐突に頭の中に声が響いた。

「何?」
ごく当たり前のようにさして驚いた様子も見せず少年は答えた。
すたすた、と返答を待たずしてどんどん進んでいく。 声は答えた。
[―たしか、頼まれておったのではないか? この地の特産の茶を買ってきてくれとか。]

(忘れてた……。)

少年は歩みを止めた。



*     *      *



ギィィィ……。 古い木製の扉が音を立てて開いた。
少年は先ほどの大通りから横道に入り裏通りにはいってそこにあった一軒の怪しげな店に入っていった。
10人見たら10人とも、この店を見て「茶葉の専門店」だとは思わないであろう程に見事にぼろぼろだった。
塗料がはがれかけた看板だけが弱弱しくそれを主張している。
だが、今少年がいる店はただのボロ店ではなく俗に言う「知る人ぞ知る名店」というやつだった。

「―いらっしゃい。 何にするだい?」
無遠慮に店の主人の老婆が聞いてきた。 店の雰囲気とあいまってどことなく不気味である。
少年は懐から預かったメモを取り出す。

「ええと。 シスリム茶が一袋とバルゾマ茶が一袋半 それと―――。」
両者ともこの地の特産品で香りも味も豊かであると聞く。それは良い。
次に書かれている文字に少年は目を疑わざるを得なかった。



マンドラゴラ茶…三袋



なんか、久しぶりに生命の危機を感じた気がした。
マンドラゴラはいろんな意味で有名である。 様々な医療用の薬の材料として活躍しているが効果が強過ぎるのと高価なためあまり民間人には馴染みのない存在である
だが、もっとも有名なのはその危険性であろう。引き抜かれると同時にとんでもない叫び声をあげるのだ。
「マンドラゴラの叫び」はそれを聞いただけで昏倒。最悪死亡すると言われている。

その効果を買われて、過去の戦争で兵器として鉢植え入りのマンドラゴラを上空からばら撒き、
落下して鉢植えが割れると引き抜かれたと勘違いしたマンドラゴラの「マンドラゴラの叫び」が炸裂。
敵は全滅。とかいう作戦まであったそうだ。
それをお茶にして飲むとか言うのだから正気の沙汰ではない。

(ねぇ、これ飲んで生きてられると思う……?)
頭の中で声が返す。
[―まぁ、何事も経験だ。] (……………。)
嘲る様な声に少年は合えなく沈黙する。
「………ちょっと? 大丈夫かい。 冷やかしに来たんなら出て行ってくれるかい?」
主人が心配して声をかけた。よほどすごい顔をしていたのだろう。
「あ、いえ・・・。大丈夫です。 それと……マンドラゴラ茶を三袋ください。」
「……ふむ、あんた、勇気があるね。」
意味深な台詞と同時に頼んだお茶の袋が渡される。
(……。)

(「あ、ソーゴ様もしミュールに行ったときにお時間がありましたらこのメモに書いてあるお茶を買ってきていただけますか?」)
このメモを渡した同僚の顔が頭をよぎる。 天使のような笑顔が今は悪の権化に見えた。
代金を渡して、茶葉の袋を受け取る。もともとが軽いので旅路に大きな影響はなさそうである。


これで今日来る客も最後だろう。 もともと「知る人ぞ知る」な店だから客はあまり来ない。
いいかげん店の修理でもしようか、と老婆は袋の中身を確認している少年を見て何かが引っかかった。
初対面なのにどこかで見た覚えがある。 むろん自分の孫、というわけでもない。
はっと何かを思い出した、たしか昨日の新聞に書いてあった!
思わず相手に聞いていた。

「あ、あんた、首都から来た異邦人(アージュニ)ってやつかい!?」
「? ええ。そうですが。」
唐突の質問に少年は少し戸惑いながら答えた。
少年の答えを聞くと老婆は顔を青ざめさせながら叫んだ。

「ひ、ひゃぁぁぁぁッ!?」
言葉にもなっていない、ただの恐怖からの叫び。
最悪だ。
何故自分がこんな目にあうのだ。
死にぞこないのあたしみたいな老婆でも殺すつもりか!?
老後は、今までの分もゆっくり暮らしたいと思っていたのに。
それなのに……。
「で、出て行っとくれ! この人殺しのくせに!!! 何持っていっても構わないから早く出て行っとくれ!!」
少年はわけが判らないような顔をしてポカンと突っ立っていた。
そして我に返ったかのようにそそくさと出口から出て行った。

老婆の手元の新聞に「首都の異邦人(アージュニ)について警戒を怠らないよう」という見出しの記事が
記載されていた。


逃げるように大通りに戻った後今度はかなり早めに出国門へと向かっていった
やがて、出国門までたどり着いた。
受付の女性が差し出した、用紙に必要事項を記入し始めた。


……受付の女性が泣きそうな顔をしているのは気のせいだろうか……?
あきらめてさっさと用紙を渡して出入国門から出ることにした、出たと同時くらいにシャッターがしまる音
ついで、出入国門が閉じた。

呆れたように少年は、目の前に広がる一面の草原に目を戻した。
遠くにうっそうとした森林地帯が広がっている。「ミスレの森」と呼ばれる広大な森林地帯である。
刹那、風が吹いた。

長い前髪が一瞬舞い上がる。 髪の下に人間ではありえない『赫い』瞳が見えた。
足元の少し重くなったナップサックを拾い上げるとミスレの森の方に歩いていった。



少年が国の出国門から出た後ようやく人々の顔に安どの表情がうかんでいた
みな、少年が歩いていった方向を向いていた。

「いった……よな?」
「大丈夫! 行ったみたいだ。」
「よかった〜。いきなり暴れだすんじゃないかと怖かったわ。」
「ほんとだよ! アレは人みたいに見えるけど化け物みたいに強いらしいからな! しかし、あんなのを呼び寄せるなんて王は何考えてるんだ。」
「まったくだ!この前なんか1発で山の形を変えたらしいぜ!」
「いやいや、私の聞いた話では……。」
人々は口々にしゃべり始めた。ほとんどはさっきの少年についてだが。
開店の準備をしていた、母親に小女が尋ねた。



「ねぇ、ママあの人のこと、なんでみんなこわいっていうの?」

何気なく聞いた質問に母親は顔をしかめてこういった。
「アレはね、人じゃないの。よく似た形をしているけど、ぜんぜん違う生き物なの。
 そしていっぱい人を殺してしまうの。 王様もいってたでしょう?」


母親の答を首をかしげながら少女は見上げていた。自分と同じに見えるのに何が違うのかと
女の子にはわからなかった。
そしてその問いに母親は答えなかった。














道中、ふと少年は自分の着ている服の肩口を見た。
何かの紋章とともに赤い糸で文字が縫いこまれている。

今では、読み方すら忘れてしまったが「元の世界」を感じさせることの出来る数少ないものだ………。
少年は無意識にそれを撫でた。




*     *     *


やがて、鮮やかな山吹色の太陽が地平線と一つになり沈んで行く。
東から暗い蒼が広がり、夜になった。


音を立てて焚き火がはぜる。
どことも知れぬ森の中、町の明かりもないこの場所の光は2つの月と焚き火のみ。
この時期には紅葉して色づく頭上を覆う木の葉も今は黒い。


少年もしくは赤い影―詠浦想護は、どことも知れぬ森の中で野宿を決め込んでいた。
もともと、ミュールは国領の端に位置しているためその日のうちに首都に帰るのは無理だったためである。

想護は大樹の根元においたナップサックから携帯用の小型の鍋を取り出して焚き火にかけた。


数十分後、鍋の中にはぐつぐつと煮えるシチューができていた。
無論、多少の野菜と燻製肉の簡単なものではあるが。
想護はナップサックから折りたたみ式のスプーンとそこの深い皿を出してシチューをよそった。
スプーンでシチューをすくって、口に運んで―
しばしの沈黙、そして


「………美味しくない……。」


思わず口に出していた。 

今まで、何度もこういう風に野宿をして、その度に料理を作っていたが、その腕は一向に上達しない
今回は塩の量を間違えたらしく塩辛かった。

キィン
金属が震えるような音がした。
[―まったく、誓約者は見ていても飽きぬな。その鍋に塩大さじ2杯は入れすぎだ。]


頭の中に声が響く。 想護の錫杖型の神剣「螺旋」の声というか意思だ。
神剣にはそれぞれに独立した意思のようなものがある。 上位の神剣になるほどそれは強くなり、さまざまな感情も生まれてくる。
「螺旋」は第五位に位置している、よって人並みの感情は持ち合わせていた。
「だったら、言ってくれればいいのに。そしたらうまく出来た。」
ボソッと想護はつぶやく。

[―いや、教えたとしても誓約者は他の所で必ず間違えるからな。 まったく天性の才能だ
いつになったら食せる物が作れるようになるものか。 前回は水が足りなくて料理が干からびておったな。その前―――]

ビュんッ!! ガンッ!

「…………。」
「螺旋」の言葉は想護がぶん投げたこぶし大の石によって中断された。
どうやら料理の腕は上達しなくても投石の方は上達したらしい。



[な?―――お、おい!!] そのまま、「螺旋」は重力のなすがままに倒れて。
べしゃ!
「螺旋」は石の衝撃ずり落ちて泥の中に倒れた。複雑な装飾がされた先端部分が泥にめり込んだ。
[―酷い。 錆びる…。]
悲痛な叫びが響いた


想護はじりじりと歩み寄っていった。


*      *      *



無言でシチューを全てたいらげた後、想護はナップサックを置いた大樹を背もたれに回収した「螺旋」を立て掛けながら
寝袋に包まっていた。水を大量消費したのは言うまでもない。


時折、響く獣の鳴き声以外に聞こえる音はない。
燃え残った薪がまだ弱弱しく残っている

何も音がしない静かな世界にいると、無意識にも何かを考えてしまうものだ。



[―まだ、考え事か?]

「…………。 僕は命を消してるんだよね。」
想護の言葉を聴くとなにをいまさらと呆れたように「螺旋」は言葉を続けた。
[―それより、早く身体を休めろ。 道中倒れられてはたまらん。]

   螺旋の言葉も届かなかった。

僕はいつからこんな風になってしまっただろう。命を奪う事に何の躊躇も持たないようになってしまった。
最初、この世界に呼び出されたときには殺す事に躊躇した。
目の前で絶命していく魔族や人間や自分の同属。
僕が殺した。
そう考える度に目頭が熱くなり戦えなくなった。
それでは、仲間も護れない。
だからココロを殺した。 


想護は戦った。戦って戦って今まで生きぬいた。
護れたものも増えた。
でも失うものも増えた。




唐突に
空気が変わった―――

キィンッ!!
[―――誓約者よ。]
頭を軽く殴られたような感覚。「螺旋」からの警告だった。
「……うん。」
短く答えた想護は寝袋から這い出して立ち上がった。

[―気配が一つ近づいてくる。気をつけろ。]

「ん。」
そういって想護は立て掛けてある「螺旋」を手にとり気配の反応がある方向に移動し始めた。



*     *     *

森の中を移動し始めてまもなく、想護は気配の主を肉眼で確認した。


いきなり木々が消えて円形のただっぴろい空間が出来ていた。
周りの枝や草は真っ黒に炭化して、地面はえぐれていた。
気配の主はその地面のほぼ中央に悠然と立っていた。

ぼろぼろのローブを着ている人物。
月光が照っているとはいえ、目深にフードをかぶっているため男か女かすら分からない。

想護はゆっくりと歩を進める。
『昨日、俺様の集落を襲ったのはお前か――?』
くぐもった声が聞こえた。
水の中で喋っているような異質の声。

[―魔族だ。 気をつけよ、誓約者よ。 先日の魔族たちよりも強い]
「螺旋」が強い警告を発する。全体が少し振動する。

―魔族
この大地に住む種族の一つ。
人とは異なる外見と薄っぺらい紙一つを隔てたようなこの世界の影に入り込めるといわれている。
その外見は一言で表すなら 怪物。
人の形をした何か。
故に昔から人々は彼らに恐怖し、また憎みつつあった。


「そうです。」
きっぱりと想護は言った。

『随分思い切りがいいな? まぁ、いいか。どうせすぐに何にも出来なくなるんだからよ。』
月並みな台詞を言い終わるか終わらないくらいかだろうか。

月が雲に隠れてあたりが暗くなる

『お前、名は?』
ぶっきらぼうに男が聞いた。

「詠浦想護。」
こちらも無愛想に答えた。
『ソーゴ? 変わった名だな。俺はデューバってんだ。短い付き合いだがなッ!!!」


デューバの姿がぶれて唐突に想護の前に移動していた。
まさに一瞬で。
手には、というか手そのものが鋭い槍のように変形していた。

ギャギンッ!!

わき腹を突き刺すはずの黒い槍は想護が構えていた「螺旋」の刀身の部分に止められていた。
包んでいた白い布は邪魔にならないよう持ち手の部分にまき付いていた。

『な……。』 男は絶句していた。今の一撃をとめられるとは思っていなかったのだろう。
月が隠れてしまったため今はとんでもなく暗い
その中で一瞬でしかも黒い槍(?)での攻撃を止められれば誰だって驚く。 普通の人間に出来るはずはない
まさか……。 頭に浮かんだその考えをデューバは振り払った。
そしてお互いに獲物をかみ合わせて闇の中でにらみ合っている。
二人は動かない。

月が再び照った。
少しだけ色が戻った。
『―――ッ!!!』

月光によって浮かび上がった想護の瞳を間近で見たデューバが驚きの表情を浮かべ大きく後ろに飛ぶ。
もしかしたらうすうす感じていたのかもしれない。

『異邦人(アージュニ)ってやつかよ……。』
デューバから殺気が消える。
『最近この辺にそういうやつが出た、とは聞いてたがお前だったとはな……。』
先ほどまでの威勢が嘘のように消え去っていた。淡々とデューバは続けた。
『なぁ、何でだよ? 何でだ?』

深い悲しみの声でデューバはつぶやいた。 それら一つ一つが重い。
『お前は人間じゃねぇ、どっちかって言えば俺らの仲間みたいなモンだろう? だったら、何でだ!! 俺たちを殺す!!」



想護は一言だけぽつりと言った。
「ごめんなさい……。」と


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初投稿の神無月です!
これからがんばっていこうと思います!
で書いてみての感想ですが、やっぱ文は難しいです。自分であーしようこーしようと考えてもそれを説明するのは想像以上に過酷でした(ぇ  未熟な一高校生が書いたものであまり説明不足が否めないというかなんと言うか。


これからの話でちゃんと説明できるかが不安な限りですが(汗 ここはひとつ読んでやって下さい。
では第二話でお会いしましょう。
Ps:「国民Aが山の形変えたとか言ってますが、ドラ○・スレイブじゃないですので(汗
   ↑弟に指摘されて気づいた


管理人の感想

神無月さんからの投稿です。

改訂版を頂いたわけですが、大分読みやすい文章になっていますね。

以前にはなかった、お婆さんが怖がる場面などが、想護君の現状を説明してくれますね。

何やら仲間らしき人物も居るようなので、今後の登場を期待しましょう。

では、次の投稿をお待ちしております。