十四  春樹 真人

 翌朝、彼女は何事もなかったかの様に朝食を作っていた。居間に入った俺を振り返って、おはよう春樹くん、と。昨日はごめんね、と。いつも通りの顔でそれを言う彼女を見て心底安心し、そうして、昨夜決心した事は間違いではなかったと確信した。

 朝食を終えた後、聖司にそれを伝えた。「あの闇に勝つ力が欲しい」と。「それを手に入れるためなら、どんなに辛い事だって乗り越えてみせる」と。
 彼は、その意図を汲んでくれた。

「直接死を突きつけるあれに対抗する為の鍛錬とは、やはり死を孕んだものでなければならない。その覚悟がお前にあるか」

 それを始める前に、彼はそう告げた。躊躇うことなく「ああ」と答えると、それだけで、自分の身勝手な提案を受け入れてくれた。「貴重な一日を費やすんだから、しっかり物にしてくれよ」とだけ言って。

 そうして俺がした事は、説明するには前の特訓より遥かに分かりやすい。ただ、木刀で、本気の聖司と斬り合うだけ、というこれ以上無い程単純で、これ以上無い程ムチャな事だったからだ。

 何箇所骨が折れたか分からない。あるいは、この籠手が無ければ何度かは死んでいたのかも知れない。
 天野は「もう止めて、あんたら何のつもりなのよ」と必死に止めたが、「いいんだ天野」とだけ言って俺がそれを諭した。
 だって、こんなの辛くない。籠手のおかげで怪我はすぐ治るとか、そんなことじゃなく。あの天野の姿を見た時の胸の痛みに比べれば、こんなの十分の一、いや百分の一以下だ。



「オレの目を見ろ」と聖司が言ったからそうしていたけど、どうにもならなかった。だって速すぎる。いくら彼が次に何をしようとしているのか分かったとしても、その頃にはもう、彼の剣は自分を打ち倒しているのだから。

「お前、勘違いしてるだろ。オレの目を見て、お前は何を考えてる? 次にオレがどう攻めてくるのか、それを読もうとしてないか。そんな事をしても意味がない。もしそれが出来たとしても、それをかわせるという事にはならないし、そうである以上勝ちには繋がらない。だから、お前が考えるのは一つだけ。次に、自分がどう動けばいいのか。相手の目に映る自分を見て、それだけ考えろ」

 そういえば師匠と呼んでもいい存在であるその少年は、何度やっても彼に敵う気配すら見せない俺に、そう言った。
 確かにそうだと思った。受けに回るな。先手必勝。分かりやすい言葉で言えば、そういう事だった。

 そうして何かを掴んだ自分は、何とか彼と打ち合えるようになり、遂には何と彼から一本を取ることにすら成功した。

「―――驚いた。まさか、一つの事を理解しただけで、こんなに変わるなんて。もしかして、お前、とんでもない資質の持ち主なのかもな」

 資質――いわゆる、才能というやつだろうか。確かに「守護者」の息子ではあるが、そんなのが自分にあるとは思えない。今のはきっとマグレだ、と言うと
「いや、オレには父親が居ないんだから、才能云々の話をするのはおかしかったか」
 と答えになっていない答えが返ってきた。
 ふと思い出して、
「そういえば、結局お前はどうやって生まれたのかな」
 口にしていいのかどうか分からなかったその疑問を口にすると、
「さあな。それこそ、「神のみぞ知る」ってやつじゃねえのか」
 彼は、いかにも彼らしい皮肉っぽい笑いを浮かべて、そう言った。


 それで結局、その日の最後には「ユートピア」を譲る譲らないの話に終着した。
 それを扱うトリガーであるらしい「信じる」という事が、自分の「受け入れる」という事とは相容れない事のような気がする、と前に感じた不安を口にすると、それは違うと彼は言い切った。お前が「受け入れる」ものは「事実」であり、「信じる」ものとは「真実」である。決して並行する事のないそれらは互いにぶつかり合う事もない筈だ、と。

 違いが分からないという俺に、彼がしてくれた話は、結構印象に残っていると思う。

「う〜ん、そうだなあ。どこにでもありそうな話しで言うと――例えば、好きな女の子に意地悪をしてしまう男の子が居たとする。そいつの事実だけを見た場合、女の子に意地悪するただの悪ガキになっちまうよな。でも、真実だけを見た場合、そいつはその女の子が好きだという事だけが見える。どっちが大事とかいう話はしねえけど、その違いってのは、つまりそういう事だ」

 どっちが大事だと感じるかは、きっと人それぞれだと思う。けど俺の場合、後者の方が圧倒的に大事なんじゃないかな、と何となくそんな気がした。

 試しにやってみるかと言われて、戸惑いつつも初めてそれを手にしてみた。驚いたのはその軽さ。塔子さんの形見であるイングラムも、剣にしては軽い方なんだろうが、それはまた違う次元の話。これには重さというものがない。

 両手で持っても余りが出る、この柄。今なら無駄ではないと分かる、立派な鍔。確かに刃の部分は小さいが、それなりの重量が無くてはおかしいはずだ。だが、これにはそんなものはなく、実際目の前で握ってみても、本当にそれを自分の手がそれを握っているのかと疑いたくなる程に、それには重みというものがまるで存在していなかった。

 で、やってみてどうだったかと言うと、まあそんなのきっと言うまでもないだろう。見よう見まねで何度やってみても、それは全く何の反応も見せなかった。

「ま、「春樹真人の真実」というやつを見つけない事には、無理だろうな」
 聖司は、初めから分かっていた様な口ぶりでそう言った。それはよく分からなかったけど、ふと、そういえばこいつは何を「信じて」いるのかなと思って聞いてみると、
「オレは「知識」を信じてるだけだ」
 と答えたその声は、何か奥歯に物が挟まった様な言い方だった。それが気になったと言えば気になったけど、
「今日はもう終わりにしよう。あとは、一週間ぶりの家での夕食を楽しむとしようぜ」
 と満面の笑みで言うので、もうどうでもよくなった。



 屋敷に入ると、やっぱり天野に怒られた。
 むー、と唸りながら「あんたら何考えてんのよ」とか、拗ねたように言う天野をなだめつつ、「心配してくれてありがとう」と言ってみると、やはり図星だったらしく、彼女の顔は見事に赤く染まった。で、
「あ、当たり前よ。あんたみたいな情けない奴があんな事してるんだから、心配するに決まってるじゃないっ」
 喜んでいいのか悲しんでいいのか、実に微妙な事を言った。

「なんだそれ。オレの心配は無しかよ」
 聖司がやっぱり皮肉っぽい笑みでそう言うと、「あんたに何の心配がいるっての」と無愛想な答えを彼女は返した。聖司は「そうか」と苦笑したが、俺は、これって信頼してるってやつなのかなあ、と密かに聖司がうらやましくなった。

「早く食べたいなら手伝って」
 と、「腹減った」を連呼する男二人に天野が言うので、よしじゃあ久しぶりに三人でやろうと早速キッチンに立ったのはいいのだが、
「いや、オレは風呂沸かしてくる。メシは二人で作っといてくれ」
 と、何故か聖司はそそくさと部屋を出て行ってしまった。―――というわけで、キッチンの状態は必然的に、殆どの調理を天野がやっていて、俺はただ彼女に言われた事をやるだけという様相を呈していた。
 調理中の二人の会話は、本当に取り留めのないものだった。というか、殆どがああしろこうしろという彼女の指示だったので、そもそも会話が成り立っていたのかどうかすら怪しい。

 でも、一つだけ覚えているのは、
「そういえば、天野は何であんなにあっさり、この話を請けたんだ」
 という、何を今さらという質問をしたことだ。確か彼女は、「悪」という響きが自分とは無関係ではない様な気がしたから、とかそんな感じの事を言っていた筈だ。

 でもまあ、正直どうでもよかった。天野はいつも通り
「ああもう、何でそんな事もできないのよ、情けないわねぇ」
 と偉そうにぼやいてて、俺はそれに返す言葉もなかった。けど、それは決して嫌ではなく、むしろもうこれ以上何を望むんだと言うぐらい嬉しくて楽しかった。そして、その後に続く夕食は、当たり前の様にもっと楽しかった。
 そうして終えたその一日は、結局後から考えれば、辛い日というよりも楽しい日になっていたと思う。

 それでいい。もう一度、確認できたのだから。自分にも、ハッキリと、戦う理由が出来たのだという事を。
 世界を守るというのは、まだよく分からない。だってそれは、自分の目の前には「事実」として存在してしないから。

 その代わり、目の前には彼女が居る。その為に戦って、結果としてそれが世界の為になるというのなら、どこに文句を言う奴が居ようか。
 彼女の、彼女らしさを守りたい。命を賭けるにはあまりにも陳腐なそれは、しかし、自分の中では何より強い「事実」となっていた。



   十五  元靖 聖司

 結果として、果たしてその一日は、いい方に働いたのか悪い方に働いたのか。もしかすると、それが無ければ何かを察知できていたのかも知れないし、あるいは未然に防ぐ事ができたのかも知れない。

 けど、それは違うと自分は「信じて」いる。自分を超えていくはずの、あの少年の光。「悪」に対抗する切り札である、あの二人の絆。それらがいい方向に動いたというのなら、それは間違いなどではある筈がない。

 ―――そして。何より、楽しかったのだから。
 

 しかし何の因果か、それはその次の日にやってきた。

 確か、ちょうど三人が「おはよう」などと言って居間に集まってきた時だったと思う。
「う、うわ!」
「な、なに、地震?!」

 まるで地球を手の平にすっぽりと納める事が出来る程の巨人がいて、それがゆさゆさとこの星を揺らして遊んでいるような。縦に横に。地震には縦揺れと横揺れという種類があると聞いた事があるが、そんな事はすっかり無視して、それはいかにも楽しそうに暴れまわっている。

「――――」
 
 その理由は分かっている。これは、地震などという物ではない。

「門」というのは、まさしくその言葉通りの代物だ。閉まっているとは言え、完璧に密封できるものではない。だからそのままでは簡単に見つかってしまうし、そこから漏れ出る力が周囲に悪影響を与えてしまう。だから、過去にあの町に居た「守護者」――恐らく、真人の父親だろう――が、それを封印して、力が外に漏れない様にしたそうだ。
 それはきっと正しい行いだっただろう。そのおかげで、今まで時間が稼げたのだから。
 しかし、それは同時に、良くない事も二つ引き起こした。一つは、そのせいで自分達もその場所を特定出来なかった事。そして、もう一つ。密封した事により、漏れ出る力をその中に溜め込んでしまったという事だ。
 それが開け放たれれば、どういう事になるのか。それは、今正に自分たちが体験しているという訳だ。ここですら影響がこのような形で届いているのだから、あの町がどうなっているのかは想像に難くない。

「おさまっ、た―――?」
 少年と少女が、どちらともなく呆然と呟く。その表情はまるでお互いを鏡に映し合ったかの様。今のはただの地震ではなかった、と。二人とも、何となく感じ取った様だ。

 ―――果たして、どうするべきか。暫く迷った。「知識」の指し示す事を達成できなかったのは、これが初めて。今やそれはすっかり切り替わって、「「鍵」を守れ」とそれだけを自分に告げている。
 それだけでいいなら、迷うことなどありはしない。自分のやろうとしている事は、全て余分だろう。
 それは分かっている。そして、今から行っても、救う事が出来るものなど何もないという事も、分かっている。

 しかし、それは許される事なのか。今あの町では、多くの命が失われている最中だろう。その中には、この二人と親しい人物も、多く含まれている筈だ。
 それを見捨てて、「鍵」だけを守るなどという事は、きっと許されない。迷っている暇などない。動くなら、今だ。

「―――用意しろ、真人」
 少年に声を掛ける。彼はやはり「……え?」と呆けた様な表情を見せるだけだったが、
「急げ。もはや手遅れだとしても、まだ救えるものも有るかも知れない」
 さらにそう続けると、ようやく彼は「あ――ああ!」と弾かれた様に反応し、奇しくも元は彼の父のものであった、黒い剣をその手に携えた。果たして彼は、昨日自分が伝えた事をどれ位理解しているのだろうか。もし半分、いやせめて三分の一でも理解しているのなら、今からでも間に合う可能性はある。

「わ、わたしも……」と、その傍らの少女が漏らす。それには
「いや。さつきはここに残れ」
 と短く答えた。「え?」と驚いた表情を見せる、彼女の声は受け付けない。今は、うまい言い訳を考えられそうにもない。ヘタな事をいうより、その方がいいだろうと考えた。
「ちょ、ちょっと待って、こんな時に何ふざけてるのよ!」
「さつき、ここで待ってるんだ。前にも言っただろ? 男の無事を信じて待つことが、女の役目だと」
 それだけ言うと外へと飛び出した。背後で少女がまだ何か叫んだが、気にせず速度を上げる。少年に振り返ることはしない。もう彼になら自分について来るぐらいの事は出来る筈。今は一分一秒が惜しい。一刻も早く町へと向かわなければ。それだけを考えて、ただひたすらに駆けた。



   十六  天野 さつき

 ―――行ってしまった。自分も行くと主張する私に、あの人は、
「聖司を信じてやってくれ。あいつは確かによく分からない奴だけど、意味もなくあんなことを言う奴じゃない」
 それだけ言い残し、もう私ではついて行くことすら出来ない速さで、先に発った少年の後を追った。

 ―――どうしてなんだろう。どうして私は、こんな広い屋敷で、また一人になっているんだろう。

 残されたのが嫌なんじゃない。私はただ、あの人が何処かへ行ってしまうのが心配なだけ。だってそうだ。あの人が私の大切な人である以上、いつかはきっと、私の前から消えてしまう。そんなの嫌だ。今度こそ、離れたくない。だから私はあの人の傍に居て、何処かへ行ってしまわないようにずっと掴んでいるつもりだった。

 なのに、どうして。どうして分かってくれないんだろう。あの人が今興味を持っているのは、戦うことだけ。私の事なんて、見てくれやしない。
 彼は、どうして突然変わってしまったのか。私の為に決断したんだと言ってくれた時は、本当に、涙が出るぐらい嬉しくて、やっと思いが通じたんだと思ったのに。あれは、ただの勘違いだったんだろうか?

 ……違う。はっきりと口にしない私が悪いんだ。あの人が私の前から消えていくのは、私のせい。悪いのは、私。これはきっと、自業自得というやつなんだ。
 でも、まだ今ならまだ間に合うんじゃないだろうか。あの人の後を追えば。まだあの人の声が耳に残っている今のうちに、あの人の背中を追いかければ、あるいはまだ追いつけるかもしれない。
 そうしてまた掴めばいい。一旦は離れてしまった手を、もう一度握りなおせばいい。

 ―――待つことが、女の役目。
 そんなの知らない。そんな古風な考えなんて、今時持ち出すのがそもそも間違ってる。

 誰が何と言おうと関係ない。私はもう一度掴んでみせる。ようやく自分に射した一筋の光を、むざむざ失ってたまるものか。



   十七  春樹 真人

 ―――ここは、何処だ。

 すべてが赤い。すべてが熱い。それ以外には何もない。あるのはただ熱を持った赤。それはまるで意思を持っているかのように広がって、全てを呑み込んでいる。

 ……おかしい。そもそも俺は、自分の町に向かっていた筈だ。何をどの様に間違えて、この様な地獄に迷い込んでしまったのか―――。

「―――しっかりしろ、真人」
「え……?」

 傍らで聞こえたその声に、引き戻された。事実を「受け入れる」事を拒否してしまえば、今の自分には何も残らない。だから見ろ。ありのままの事実を「受け入れ」ろ。

 事実を拒絶したせいか、あらゆる感覚が閉ざされている。分かるのは、ただ熱くて、喉が渇いているという事だけ。それでは駄目だ。それでは、事実を確かめられない。

 まずは聴覚から蘇った。聞こえるのは、パチパチと火花が散る音。どうやら、何かが燃えているらしい。

 続いて嗅覚。木材が燃える匂いに混じって、微かに異臭が漂ってくる。どこかで嗅いだ覚えがある匂い。あれは実験室だったか。そうだ、これは確かタンパク質が焦げる匂いだ。

 そうして、ようやく視界が開かれた。しかし、やはり見えるのは一面の赤。全てを焼き払う業火の炎。既に崩れた家々は邪魔なだけだと、全てを無に還さんと踊り狂っている。

 ―――見覚えなどある筈がない。だって、こんなに赤い光景は始めて見る。だから、俺が受け入れようとしている事実は、きっと間違いであるに違いない。

「く――そ―――」

 それでも、この心は逃げる事を許さない。
 受け入れろ、と。春樹真人に出来るのはただそれだけなのだから、と。事実を――この目の前の光景は、自分がよく知るあの町の姿に他ならないのだという事を、目を逸らさず正面から「受け入れ」ろと。心が煩くそう叫ぶから、自分の嘘などかき消されて―――

「くそォォォッ!」

 思わず、地面に拳を叩き付けた。しゃがみ込んで、何回も何回も。皮膚がずる剥けたがやはりすぐに癒され、その新しい皮膚でまた地面を叩き付けた。
「なんでだ! なんでこんな! 意味わかんねえよ!」
 痛い、痛くない。それはよく分からない。けど熱い。きっとみんな熱い。みんな燃えている。アパートも学校もコンビニもバイト先も、友達も―――

「真人。思い出せ。お前は何をしに来たんだ。事実を受け入れたのなら、次は行動に移らなければいけないだろう」
「ムリだよ! こんな所で、俺に何をしろって言うんだ!」

 何も浮かばない。ただ分かるのは、自分の知っているものは全てもう燃えていて、きっと何も残っていないのだという事。来るのが遅すぎた。ここにはもう命がない。動くものはただ猛り狂う炎と、自分たち二人だけに違いなかった。

「―――君達。そんなところでボーっとしてないで、手伝ってくれないかな」
 しかし。それは、赤の向こう側から聞こえたのか。自分とも傍らの少年とも違った、生きた声が、確かに耳に入ってきた。
 赤が退く。そこには、煤で黒く薄汚れた顔で、しかしいつか見たあの飄々とした顔のまま、あの男が立っていた。
 そうして、その肩に担がれたそれを、俺の目が捉えた時。赤かったはずの景色が、真っ白になった。

「……生きているとは思っていたが。まさか、無傷とはな」
「無傷なんかじゃないよ。自分が守っていたはずの物がほとんど全て壊されたんだから、、心はズタズタさ。町全体を探したけど、見つかった生存者はこの子だけだった。君たち、痛み止めか何か、持ってないかい?」

 二人が何かを話しているが、俺の耳には届かない。自分の意識は、その男の肩に担がれたものに集中してしまっている。

 ゆっくりとそれが降ろされる。生存者だという、限りなく死体に近いそれの目が、しゃがみ込んだ自分に向けたとき、
「まさ、と――?」
 その口が、自分の名前を漏らしたような、気がした。

「うそだろ……」と、そんな声が自分の口から漏れた。
 何の冗談なのか。なぜこの顔を、こんなところで見ないといけないのか。

「なん――だ――こんな、ところに――」
「永治――なのか」

 その名前を口にした時、ずっと押さえていた感情が蘇ってしまった。それは、おそらく寂しさと呼ばれるもの。たった二週間の間とはいえ、その感情は確実に自分の心に存在しており、ヘタをすればいつ蘇ってきて自分の胸を締め付けるか分からなかった。
 今まで押さえられていたその感情が、こうして全てが失われつつある今になって蘇って来たというのは、皮肉のつもりなのだろうか。

「お前――でん、わ――出ろよ――な」
 井上永治。息も絶え絶えに何かを漏らす彼は、恐らく親友と呼べる存在であり、友人の中で唯一自分の父親と面識のある人物でもある。
 サッカー部に所属しており、常に自分がサッカー部で一番足が速いと吹聴していた彼だが、しかしその自慢の脚はすでにその両方が失われている。いや、それどころか腰から下が無い。蠢く臓物を覗かせたその体は明らかに死体のそれであり、何故まだ息があるのかが不思議だった。
「なんでお、まえ――そんな、に、ピンピン、してん――だよ、うらや、ま、し――」
 段々と小さくなっていくその呟き。確実に死に行くそれにこの左手を押し当てる事は、果たして優しさと呼べるのだろうか。自分は知っている。これは「痛み」は和らげるが「苦しみ」には効果がない。こんな、ろくに息も出来ないであろう姿に成り果てた彼にとって、生き永らえる事とはそのまま長く苦しむ事を意味するのではないだろうか。もう、命を助ける方法がないのであれば、ただこうやって見守ることしか、してはいけないのではないだろうか。

 ……しかし、自分はその決断を下す必要は無かった。それよりも早く、彼の目はゆっくりと閉じられ、口は「あ――」と何かを呟いたのが最後、二度と動く事はなかった。
 死んだ。人を看取った事などない自分にもはっきりと分かるほど、それは分かりやすい「死」だった。

「――――………」

 ―――確かに、戻れる保障などなかった。しかし、きっと戻れると思っていた。今はただ、一時的に離れているだけ。このよく分からない戦いが終われば、また自分は元の日常に戻り、この少年とも当たり前の様に学校で会い、下らない会話に花を咲かせたりするのだ、と。そう思っていた。  だが、今、それは全て失われた。学校はまた建てればいいけど、この少年はそういうわけにもいかない。一度失われればそれまでだ。

 よろよろと立ち上がる。虚空を捉えた視界は赤に戻っている。それは、今死に絶えたこの少年が流した血の様でもあったし、本来自分の心に渦巻くべき感情が形になっているようでもあった。
 怒り。憎しみ。親友と呼んだ存在が目の前で命を奪われて真っ先に浮かんでくるのは、きっとその様な感情だろうと思っていた。しかし、実際は違ったようだ。いや、それとも余りにも多くのものを一度に失いすぎて、おかしくなっているのだろうか。
 今自分の心を支配しているのは、おそらく虚無感と呼ばれるもの。ただ、「お前にはもう何もない」と。さっきから、自身が自身へと向けて、そんな声だけを発し続けている。

「真人……」

 傍らの少年が、痛ましげに自分の名前を呼んだ。

 そう。俺は春樹真人。父親の言葉に従って、生きる人間。今回も涙を流す事はするまい。

 今まで、生きてきた中で、見つけた答え。

 ―――強い。それは揺るがないということ。
 ―――優しい。それは誰かを想うという事。

 ならば、自分のやる事はもう決まっている。

「―――慶さん。もう生存者はいないんですか?」

 どうやらその男は、意外な顔をしたらしかった。それはどうでもいい。ただ、この男が何と答えるのか。それだけが自分にとっては重要だ。

「……驚いた。強いんだね、君は。けど、残念ながらさっき言った通りさ。僕は、魔力を扱えない人の気配も感じ取ることが出来る。それがもう生存者は居ないと言っているんだから、もう探しても意味はないよ。それに、そうじゃなくても分かるだろう? この町は、溜め込まれたあの力の放射を、直接浴びたんだ。もう、原型を留めているものは、何も無いさ」
 それは少し調子を落としたその声で、「お前は全てを失ったのだ」と、心が叫ぶのと同じ事を告げた。

 赤く染まった空を、見上げた。

 ―――俺に残されたものは、後、なにがあったけ? 

 何も語らない傍らの少年は、一応友人と呼べる存在らしい。だけど分かっている。この少年と過ごすのは目的を果たすまでの間だけで、それが終わればきっと自分の前から姿を消すのだと。
 ならば、今の俺に残されたものは―――

「春樹くん! よかった、やっと追いつけた……」
 不意に、背中ごしに自分の名前が呼ばれて、振り返った。すっかり聞きなれたその声は、誰のものなのか確かめるまでもない。

 ―――そう。ここに、まだ残されたものがある。何より守りたいと思うものが、自分にはまだ残されているではないか。
 こちらに歩み寄ってくるその少女。走ってきたのか、その息は乱れている。煤で黒く汚れたその顔は、しかし彼女らしさは失っていない。だからそれでいい。掛ける言葉もなく見つめていると、

「バカ! なんで来たんだ!」

 ちょうど手の届く位置にまで彼女が近付いた時、傍らの少年は突如として激昂した。怒りというよりは焦りに似たものを含んだその声に、思わず「え――」と漏らした。目の前の少女も、その剣幕にたじろいだ様子で「え?」と自分と似た呟きを漏らしている。

「聖司、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。天野は自分の身ぐらい自分で―――」
 守れるのだから、と言おうとして、そこで思考が凍り付いた。力を感じ取る事などできはしない筈の自分でも、ハッキリと分かった。―――何かが、近付いてくる。

「く――早い。もう察知しやがった」
 少年は苦々しげに漏らす。その間にも、赤が黒に変わっていく。
 炎すら飲み込む、黒。これは、あの時の闇とは違う。言うなれば、これは深淵。明らかに自分が知っているものとは違うそれは、しかしきっとあの時と同じく、自分の懸念している事を引き起こすに違いない。そう確信し、彼女に視線を戻した。

「うそ……これ、前より……」
 そうして、ああやっぱりと嘆いた。赤い炎に照らし出されたその顔は、しかしそれでもハッキリと蒼白で、肩はやはりガタガタと震えている。殆どあの時と同じであるその姿が唯一違うのは、その手が掴んでいるのは自身の肩ではなく、俺の上着の袖であるという事だけだろうか。

「セージ」
 聖司は黒を睨みながら「ソーマ……」と何かを呟く。それ以外にも何か聞こえた気がするが、よく分からない。ただ、迫り来るあれも、彼女をこんな姿にさせるのだから倒すべきだ、と、地面に置いたままだった黒い剣を拾い上げた。

「―――真人。さつきを連れて逃げろ」
 だが、聖司は自分の意図を理解していない様だった。視線を動かさず、張り詰めた声でそんな事を言う。

「何でだ。俺も戦う。昨日、何のためにあんな事をしたと―――」
「いいから行けえぇェッ!」
「うっ……」
 その気迫に思わずたじろぐ。

 ―――逆らえない。いや、逆らうべきではない。彼が、何の理由もなく、あんなふうに叫ぶ筈がない。何か、特別な理由がある筈だ。

 背後で頷く気配を感じたのか、彼は振り返る事はなく、それ以上何も言わなかった。
 俺は、震える彼女の手をとり、その目を見て「走れるな?」と声を掛ける。幸い彼女は反応を見せ、朧げながらも頷いた。

 そうして二人は、炎の合間を駆け出した。
 確かに行動としては正しい。自分があれの影響下から彼女を連れ出し、彼がその根源を断つ。それで彼女は、きっと自身を取り戻すに違いない。
 背後の少年には何の心配も要るまい。彼が敗れるところなんて想像も出来ないし、増してや彼は一人ではない。あの、如何なる力を持っているのかよく分からない、しかしきっと俺などよりは遥かに頼りになるであろう男もいるのだから。

 そうして彼の事を意識から外し、彼女と共に走ることに集中する。

 それとは無関係に、
「―――頼んだぞ、真人。世界の命運を握っているのはオレなどではない。お前だ」
 自分の耳は、誰かがそんな事を呟いたのを捉えたらしかった。



   十八  天野 さつき

 恐怖は消えてくれない。それは駄目だ。このままでは、彼の足手まといになってしまう。

 私は、何かをすれば魔力を使えるというのではない。ただ「恐れない」事。そうするだけで、私は魔力を使うことができた。
 それが私の心を定義するものであるというのだから、私にとってそれは難しい事ではない。だから私は、意識しなくても魔力を扱えるという、特殊な能力を持つに至っている。

 しかし、どうやら今はそれが難しいらしかった。何故なのかは分からないけど、あの闇を見た途端、私の心は恐怖しか映さなくなってしまう。
 どうしてあれを「知っている」などと思うのか。私の深いところはどうやら全てを理解しているらしかったけど、私が普段外に出している部分、つまり他人から見ての天野さつきである部分は、それを頑なに拒絶していた。
 結果として、外から見た私はきっと、目の前の闇に怯えている様に見えていると思う。

 でも、本当は違う。私が恐れているのは、目に映るものではない。それは、自らの深い所から繰り返し聞こえてくる、逆らい難い声。それはただ、「お前はあれと同種である」と、それだけを―――
「い……や……やめ、て……」
 ―――もう嫌だ。そんなの違う。違うって言ってるのに。そんなに深いところから繰り返されたら、否定できなくなってしまうじゃないか。

「天野、しっかりしろって」
 きっと一人で居たのなら、とっくに呑まれていたと思う。けど、そうはならなかった。
 深いところから聞こえるそれとは正反対の、強くて優しい声。繋いだ手から伝わるその体温。それが、私を繋ぎ留めていた。

「なんでお前がそうなるのかは、もう聞かない。でも、どうして来たんだよ。きっと聖司は、お前がそうなっちまうから「残れ」って言ったんだぞ」
 その声は、これ以上ないほど、私の心に響く。こんな時でも、この人、初めて私の事を「お前」と呼んだな、とか、そんな事にすら気が付いた。それが馬鹿らしくて、少し心が落ち着いてくれたけど、口から出るのはやっぱり「でも、私……」とかそんな情けない言葉だけだった。

 ……きっと、私が弱っているのは、恐怖によってだけではない。
 ざく、ぱき、と彼と私が歩を進める度に音を立てる、もう元は何だったのか分からない黒い物体。その合間に見える、どうやら人の形をしているらしい、やはり真っ黒なそれ。
 それらは、もう戻らないものとなった、町の残骸だ。この日々が終わればまた戻ってくるはずだった、いろいろな思い出が詰まったこの場所。それが無くなってしまうのは確かに辛いけど、過去との決別はもう折り合いをつけていたから、何とかなるはずだった。

 けど、この二週間の間に、それは変わってしまっていた。全てが終わった後、またこの人と共に、ここへ戻ってこよう、と。いつの間にか、私の中ではそんな気持ちが芽生えて、これ以上ないほど大きく育っていた。
 だから、これでは駄目だ。これでは、終わった後も、もう戻ってこれない。ここが、私と彼の、唯一の共通点だったというのに。これでは、彼が私と一緒に居る理由がなくなってしまう。せっかくもう一度掴んだこの手が、いつかまた離れてしまうではないか。


「―――ほう、またお前か。まさか、こんなに早く再会するとは思わなかったぞ」
 そうして不安になった時、あの闇がやってきた。さっきのあれとは違う。今度は正真正銘、あの夜に遭遇した、彼を傷つけたあの闇と同じもの。
 心がまた叫ぶ。お前はあれを知っている。お前はあれと同種だ。ならお前は、この少年とは相容れないものだ―――。

「はるき、くん……」

 繋いだ手が離される。そこに残された体温もすぐに消えて行く。
 彼はこちらを振り向かない。また彼は、私の手から離れていく。

 闇と対峙する彼。その背中ごしに、
「―――天野。俺、お前を守ってみせる」
 そんな声を聞いた気がしたのは、きっと私の身勝手な思い込みだったと思う。

 
  
   十九  春樹 真人

 ―――人を守っての戦いというのは、お前が考えているよりずっと難しい。

 いつか言われたその言葉が、身に沁みた。

「……男児、三日会わざれば活目して見よ、と言うが。全く驚いた。たった一日会わぬうちに、一体何があったのだ」

 昨日のあれが無ければ、恐らくとっくに自分は死んでいたと思う。前回の様にただ呑まれるだけで、彼女を守る事など全く出来ないまま、命を絶たれていただろう。
 だが、そうはならなかった。まさか、自身の中でこれほどの劇的な変化が起きているとは、自分でも思っていなかった。

 ただの闇にしか見えなかったあの敵の姿は、今ではハッキリと認識する事が出来る。黒い外套に身を包んだその外見は、三十代後半辺りの男。あの自分の肩を串刺しにした細長いものは、恐らくその両手に握られた日本刀のうちの一本だったのだろう。

 聖司に聞かされた話に拠れば、あれの名前は住吉辰巳。元々の彼は、確かに「イレギュラー」と呼ばれる存在ではあったが、理由も無しに人を殺す様な男ではなかったのだという。
 彼の生きた道は、ただ、剣のみ。彼が求めたのは、ただ、強者のみ。そうして彼は、生涯の強敵と呼べる相手を見つけ、最後にはそれと相打ちとなり、その生涯を終えた筈だった。それが、何の間違いでかあの様な形で復活し、今に至っているのだという。

 つまり、あれの脅威というのは、その体から滲み出る「悪」とは別のところにある。純粋な、剣士としての腕。強くなることでしか乗り越えられないそれが、あの男の、真の力だと言える。

 その接近を、三度退けたのだ。春樹真人という駆け出しの青二才の戦士にしては、奇跡と呼べるほどに上出来だ。

「全く、あれに逆らえぬ己の身が憎い。そうでなければ、ただお前と果たし合うことのみに集中できるものを」

 完璧に計算されつくした二本の太刀筋。次々に繰り出されるそれに対抗するには、それが振るわれる前に、先手を取ってこちらから打って出るしかない。

 しかし、今の自分にはそれが出来ない。どういうことか、あれは、自分の背後で震えるこの少女のみを狙っているのだ。その理由は分からないが、そうである以上、自分は彼女のもとを離れる事が出来ない。つまり、聖司に教えられた「次に自分が何をすればいいか考えろ」という事が意味を成さないという事。自分から動けない以上、それを実行に移す事が出来ないという事だ。

 刀が迫る。普通なら見切る事など出来はしないその軌道。しかし、どうやら俺が手にした黒い剣は、それを見事に捌いているようだった。

 闇を舞う剣戟。二本を弾く黒い剣から、火花が散る。

 間違いなくそれは自分の手によって行われているというのに、この目はそれをまるで他人事の様に眺めている。まるで、違う何かが自分に乗り移ったかのよう。自分の意志とは無関係に、ただ本能にのみ従って動くこの腕は、しかし確実に男の刀を弾き返していた。
 男が下がる。まるで現実感のない斬り合いは、その四度目も、攻めあぐねた男が一旦下がる事によって一時中断した。

「―――全く、面白い事この上ない。本来ならば、剣士として名乗った上で正式に果たしあう―――状況がそれを許さぬ、か。許せ、少年よ」
「名乗られたところで困る。俺は、あんたみたいな奴に名乗るような名前は持ち合わせてはいないからな」

 気付けば、自分の口はそんな言葉を紡いでいた。冷静な時間稼ぎなのか、それともただの思い上がりなのか。そんな余裕はないはずなのに、何故かその声は落ち着き払っていたように思う。

「―――そうであったな。もはや人外のモノであるこの身。剣士として生きる事を望むは、分不相応であったか。この戦いは、ただお互いの目的の為にのみ、という訳だな」

 ……男は「戦い」と言ったが、果たしてこれはそう呼べるかどうか。「戦い」というのは、お互いに勝利しえる可能性があってこそそう呼ばれるのだと思う。だが、今行われているこれは、そうではない。こちらから攻められないのである以上、その結末は自分の敗北という形にしか成り得ないのだから。

 そうして、男は五度目の跳躍をする。迫る二本の刀を再び黒い剣が弾こうとした、その刹那。

「む……!」

 それは、突如現れた光によって、吹き飛ばされていた。

「何とか間に合ったみたいだな。無事か、真人」
「聖司……! あの敵はどうしたんだよ。まさか、もう倒したのか」

 虚空から突如現れた少年の背中に、信じられないような気持ちで声を掛ける。見れば、その身体には傷一つない。いや、それどころか、何かと争った様な形跡すらない。自分と別れたあの時からの変わっているところと言えば、彼が手にした、完全な形となった「ユートピア」ぐらいしか見当たらなかった。

「……一旦退くぞ。ここは、あまりにも状況が悪すぎる」

 聖司はそれには答えず、目の前の敵を睨んだまま、背中ごしにそうとだけ言った。

「え―――? なんだよ、一体なにがあったんだ」
「いいから言う事を聞け。このままでは、世界中がこの町みたくなっちまう」
 その声には、彼らしくない、焦りの色が窺える。……それで何となく察した。彼は恐らく、あの敵を倒して来たわけではない。何の理由からかは分からないが、撤退を余儀なくされ、今自分たちを連れて逃げようとしているのだ、と。

「―――賢明な判断、と言えような。しかし、今ここで退いても、状況が貴様らにとっていい方に動くとは思えないが」

 対照的に、先程まで自分が対峙していたその男の声は、落ち着き払っている。無遠慮に放たれていた殺気も薄れ、ただ静かにそんな言葉だけを発していた。

「……止めないのか。お前の目的は、達されていないだろう」
「ふん。奴の目的など、私にとってはどうでもいい事。私の願いは唯一つ。奴の命令がその足枷となるこの場では、それを叶える事は出来ぬと嘆いていた所だ。そこへ、丁度よい言い訳が出来た。貴様が来たとあらば、どちらにせよ私一人では無理だからな」

 そう言う男の姿には、もはや敵意すら感じない。どうやら本気で、自分たちをこのまま見逃すつもりらしい。

「―――行くぞ、真人。さつきを連れてついて来い」

 言うが早いか、俺の反応を確かめる間もなく聖司は跳躍した。躊躇っている場合では無さそうだ。無遠慮に、天野の体を抱きかかえる。びくっと、一瞬彼女が反応したが、気にする余裕はなかった。

「また会おうぞ、少年よ。恐らく、次が最後となろう」
 彼の後を追う自分の背中にそんな言葉が掛けられたが、それにも構っていられない。聖司の疾走はいつにも増して速く、気を抜けば置いていかれそうだった。

 そうして、すべてが燃え尽きようとしている、俺の町を後にした。また来る事があるのかどうか分からないが、次に見るときにはきっと、ただの焼け野原と化しているのだろう。
 復興に何年掛かるか分からない。たとえ復興したとしても、自分の知るあの町はもう二度と戻ってこない。犠牲になった人たちも、もう二度と、元に戻る事はない。

 自分に残されたものは、唯一つ。腕の中の少女だけが、自分の守るべきもの。
 もしかしたら、本質的にはあまり変化はなかったのかも知れない。結局、俺はこの少女を守るために、これからも戦うのだから。





代理人の感想

む・・・・・そろそろクライマックスでしょうか。

ちなみに「型にはまりすぎ」というよりは「狙いすぎ」といったほうが適切でしたね。

マニュアルに忠実すぎるというか、売れ線過ぎるというか。