その後、二人はもう一度、ハインツ・コフートのところへ行った。
もしお前の中で答えが見つかるときが来たら、その時はもう一度ここへ来い―――
別れ際、彼がそう言っていたのを、トモヤは覚えている。
が、シェキーナに乗っていつかの海辺の町へ向かう途中、トモヤは気がついてしまった。彼は、もう居ない。異端者≠ナはなくなって、アラボト天球に魂を吸い取られてしまっているのだ。
一体、何があったのだろう―――トモヤは不思議に思ったが、少し考えてみるとすぐに分かった。彼が異端者≠ナあったのは、望むものが全て己の内世界にあると考えていたから。ところが、例のトモヤを題材にした作品というのを仕上げたことによって、彼は外世界に望みを持ってしまった。つまり、その作品を他人、とりわけトモヤに見せたいと思ってしまったから、彼は異端者≠ナなくなって、アラボト天球に魂を吸い取られたのだ。
そこまで分かっていて、それでもトモヤは彼のところへ行った。彼の遺作とも言えるその作品を、自分の目で見ておかなくてはならない気がしたのだ。
彼の家の前に立つと、相変わらずの荒れ果てた佇まい。ドアを開けた瞬間に漂ってくるかび臭さは、前に来た時よりもさらに強くなっている気がした。
家の中に、彼の遺体はなかった。散歩にでも行っていたのだろうか。いずれにせよ、彼は書き上げてすぐに魂を吸い取られたのではなかったということ。そのあたりがいかにも彼らしいと、トモヤは思った。
本で埋め尽くされた書斎のデスクの上に、その原稿はあった。まだ題名はつけていなかったのか、表紙は白紙のまま。一枚目をめくると、彼らしい、決してきれいとは言えない字で、しかし見事に整頓された文章がつづられていた。
無言で、二人はそれを読んだ。現在の滅びた世界を舞台にした、自身を憎む男の物語。さまざまな出会いを通して、彼はどう変わっていくのか。そして、世界とどう向き合うのか。要約すれば、そんな内容だった。
知る者が見れば、一目でトモヤを題材にしたものであると分かる。ここまであからさまだとは思っていなかったので、トモヤは内心驚きながら読み進めた。
物語の結末は、主人公の男が自分の間違いに気付き、世界を救うために犠牲になるところで終わっている。その後彼が、そして世界がどうなったのか、そのあたりは一切書かれていない。そこまで読んで、トモヤは、ああなるほど、と納得した。
「どうりで、題名がつけられないわけだ。この物語は―――」
「やっぱりトモヤ様も思いましたか。これは、『ターギオリアの英雄』―――」
そう。読み終わったあとに思い返してみると、それはそっくりそのまま、誰でも知っているあの伝承の内容と重なるのである。唯一の違いは、伝承に登場する世界を滅ぼそうと悪魔というのが、このコフートの作品では主人公の心に巣食う闇という描かれ方をしていること。それを除けば、概要はほぼ一緒。コフートが題名をつけられなかったのも無理はない。
「俺を題材にした小説が、『ターギオリアの英雄』? なんだか、皮肉すぎて笑う気にもなれない」
ルーリアに向けて言ったのでもなく、ここには居ないコフートに向けて言ったのでもない。ただぼんやりと、ため息混じりに呟いた。
「そういえば、トモヤ様。本物の『ターギオリアの英雄』について、何か分かったことはありませんか」
「……いや。あれに関しては、やっぱり俺の『知識』は及ばない。もしかすると、本当に神が書いたものなのかも知れないな。……それにしても、どうしてなんだ? 君はやたらと、あれのことを気にしているみたいだけど」
彼女からその質問をうけるのは、トモヤが覚えているだけでもこれでもう五回目だ。「ターギオリアの英雄」とは、一体何なのか―――そのことは、トモヤにも全く分からない。というか、知ってはいけない何かが、そこにはあるような気がするのだ。
「いえ、大した理由はないんです。ただ―――私にもよく分からないんですが、あれを見ていると、自分が何かを忘れているような気がしてきて……」
「忘れている? 一体、何を」
「それが分からないから、訊いているんですけど……まあ、そうですよね。私が勝手に思ってるだけなんですから、こんなこと、トモヤ様に訊いても仕方がないですね」
そんな、よく分からないことを話しながら、二人はコフートの家をあとにした。二人で過ごす時間も、あとわずか。二人とも、そのことを分かっていて、あえて意識しないようにしている。
この世界に異端者≠ヘ居なくなったというのは、もう彼女にも話してある。だから、二人がこれからすることと言えばもう、一つしかない。どこへ向かえばいいのか分からないままにシェキーナを飛ばしていた二人だったが、いつの間にか、二人が最初に出会ったあの山へと来ていた。
ふもとにシェキーナをとめて、二人は山の頂上へと歩いた。もともとそんなに大きな山ではないので、時間はそれほどかからない。薄暗い山道を抜けて、柔らかな日差しの降り注ぐ山頂へと出た。
見上げれば、アラボト天球が近くにある。赤、青、紫色。白い球体を染色しているそれらは、きっと人の感情の色なのだとトモヤは思った。だからこそ醜くて、だからこそ美しい。
「私たちのしたことって、正しかったんでしょうか……」
それは、トモヤへの問いかけなのか、それとも単なる呟きなのか。空を見上げながら、どこか虚ろなものを感じさせる声で、ルーリアはそんなことを言った。
「正しいかどうかなんて、俺には分からない。そんなの、俺が判断していいことじゃないと思う」
「正しいかどうか決めてくれ、なんて言ってません。トモヤ様の、トモヤ様なりの意見を訊きたいんです。トモヤ様は、私たちがしてきたことについて、どう思っているんですか」
深緑の目が、トモヤを見据えてくる。初めて会ったころに比べて、彼女はずいぶんはっきりとものを言うようになった。そのことを、トモヤは内心で嬉しく思っている。
「……あのコフートって男が言ったことを、覚えているか?」
「コフートさんが、言ったこと……? トモヤ様は幸せだとかいう、あれですか」
「ああ。あの人は、ただ生きているというだけで、死んでしまった人よりも幸せだと言っていたのだけど……俺は、そんなことはないと思うんだ。だって、幸せというのは、人によって違うものだろう? だからもし『このまま生きているより、死んだ方が幸せだ』というふうに考えている人が居たとしたら、きっとそれはその通りなんだと思う。その人にとって、生きていることが不幸で、死ぬことのほうが幸せなんだ」
「じゃあ……『死にたい』と思っている人を殺すのは、悪いことではないと?」
「いや、そうじゃない。犯罪というのは、他人の持つ権利を侵すことだろう? その権利の中でも『生きる権利』というのは絶対に誰にでも平等になくてはいけないもので、しかも一度失われたら二度と戻ってこない。だから、それを奪ってしまう殺人という犯罪は、絶対に裁かれなくてはいけないと思う。たとえどんな場合であっても」
「でも『命の実』があれば、トモヤ様は世界を再生することが出来る。二度と戻ってこないはずの命も、また戻ってくるんですよ」
「……そうだな。だけど俺は、俺のしてきたことが正しかったなんて思えない。思いたくもない。だって、結局俺は異端者≠スちの命を肥やしにして『知識』の力をつけてきたんだから」
この地方の季節は、今は秋。さわやかな風が吹き抜けて、ルーリアの髪を揺らす。まるで金糸のよう。さらさらとなびく、天使の髪。人間離れしたその外見とは裏腹に、彼女が誰よりも人間らしい心を持っているのを、トモヤはよく知っている。
(……いや。実際彼女は天使なんだから、その言い方は少し変か)
そんな彼女を、好きだといったトモヤ。慰めだとかそんなものでは決してなく、あれは紛れも無く、彼の本心から出た言葉だった。
「世界って、人の命って、一体何なんでしょうね」
そんな彼の気持ちを知ってか知らずか、ルーリアは肩を寄せてくる。腕のあるほう、つまりトモヤの左肩に、ルーリアは頭を乗せた。彼女がいつも意識してトモヤの左側に立つようにしているのを、トモヤは知っている。そっと、左腕を彼女の肩にまわすと、ルーリアは気持ちよさそうに、彼の腕の中で目を閉じた。
「天使たちにとっての死というのは、きっと、この世界で考えられているのとは少し違っていると思います。だって、私たちは知っているんですもの。アラボト天球のことを、つまりは死んだあと自分がどうなるのかということを。だから、死を恐れる感情というのは、きっとこの世界の人々よりも軽いと思うんです。だけど、それでも、残された者たちの悲しみは、何も変わらなくて……」
そこまで言うと、彼女は目を開けて、間近からトモヤの顔を見つめた。彼女の潤んだ瞳に、なんとも言えない表情をしたトモヤの顔が映っている。
「私、もう嫌なんです。誰かと別れるのは、もう嫌です。ねえ、トモヤ様、分かりますよね」
答える代わりに、トモヤは肩に回していた手を、彼女の後頭部に当てて、引き寄せた。意を察したルーリアが目を閉じると、トモヤはゆっくりと唇を重ねて―――
(俺も同じ気持ちだよ、ルーリア……)
決して口には出せないその想いを、心の中で噛み締めた。
「トモヤ様……」
唇を離すと、頬を紅潮させたルーリアの顔がそこにある。幸せというのは、人によって違うもの。ならばきっと、自分にとっての幸せとはこういうものなのだ、とトモヤは思った。
「ありがとうございます。私、トモヤ様のことを忘れません。いつかきっと、会いに来ます」
その言葉に、一体どれだけの想いが込められているのだろう。すがるように見つめてくる彼女の瞳に、しかしトモヤは言葉を返すことが出来ない。何故なら、それが不可能だと知っているから―――
近づいてくる気配を感じたのは、その時だ。以前は、まったく感じ取ることが出来なかったその気配。人の命を肥やしにして育てた「知識」の力でそれに対抗するつもりでいる自分は、やはりとんでもない罪人だ。もはや決定的となった自分の運命は、きっとそれに対する報いなのだろう―――そういうふうに考えて、半ば強引に、トモヤは未練を断ち切った。
左手で軽くルーリアの肩を押すと、彼女もなんとなく悟ったらしく、トモヤから離れて後ろに下がった。それを確認してから、トモヤは空を見上げる。青々と広がる秋の空に、やがて、それよりもさらに濃い蒼色の瞳をしたそれが現れた。
「知識≠諱v
「命=c…」
きらきらとたなびく、銀色の髪。生きることに希望を見出せなかった、かわいそうな男―――
「この世界の異端者≠熨Sて死に絶えた。残る私の目的は、ただ一つのみ―――さあ、今こそ訊こう、知識≠諱B私は、何のために生まれた」
相変わらずの、芝居がかった大仰な喋り口。一説では千年以上も生きていると言われているにも関わらず、それだけの長い時間をかけて、たった一つの疑問に対する答えも未だに見出せずに居る。そんな男に、トモヤは憎しみなど感じるはずもなく、むしろ同情に近い気持ちすら抱いている。
だから、言ってやった。
「……悪いけど、それは答えられない」
「なに……?」
命≠ヘ驚いた声を出したが、それ以外にトモヤは言いようがなかった。それこそが、命≠フ求める知識≠ニしての回答なのだ。
「生まれてくる命に、理由なんてない。それを求めること自体、無意味だ」
絶句。命≠ヘ、まさにそういう顔をしている。しぼり出すような声で、
「馬鹿な……それが、お前の回答だというのか」
そんなことを言う。
「そうだ。ただ生まれ、生きて、死んでいく。それこそが命。それこそが世界。救いなんて、どこにもありはしない。……だけど、あえて俺の意見を付け加えるのなら、それはきっと、生きるため。それだけが命の意味であり、唯一の目的なんだ」
「そんな……そんな馬鹿な。では、生きることに何の希望も見出せなかった私は、どうすればいいのだ。死ぬことも許されず、苦しみながら、ただひたすらに生き続けることを強要された私は、一体どうすればよかったのだ」
「そんなのは知らん。それは、お前が自分で考えること。幸せってのは、受動的じゃない。むしろ能動的なんだ。世界に嘆くことを止めて、自分からなんとかしようとしていれば―――あるいは、お前なりの幸せというのも、見つけることが出来たかも知れない」
「それならば、やっている! 世界をこうすることが、私の幸せなのだ。そのようなことを言うのならば、否定するな! 私の行いを、否定するんじゃない!」
我慢いかなくなった、という様子で、激昂を始める命=Bどこか底の知れない印象のあったこの男も、薄っぺらいヴェールを剥いでみれば、こんなにも人間らしい表情を持っている。人である以上、人であることからは逃れられないのだ。
「分かってるさ、命=B俺は、お前を否定するつもりはない。お前を憎いとも思わない。……だけど、俺の幸せのため―――世界を再生するために、俺はお前を殺さなくてはならない」
「……よかろう。もはや、抵抗するつもりはない。そもそも、死というのは私の願いの一つでもある。今までずっとそれが叶わずに生きてきたが……お前にならば、きっとやれるだろう」
言って、命≠ヘ一度大きくため息をついた。もうすぐ再生するその世界で、この男は一体どうなるのだろう。全てが、たった一つのものを除いた全てが再生するのだから、きっとこの男もどんな形でかは知らないが蘇るはず。新しく始まるその生において、この男が自分なりの幸せを見つけられることを、トモヤは願わずにはおられない。
命≠、殺す。今の自分にならば、それが可能だ。直接的なやり方ではまだ無理かも知れないが、それならばやり方を変えればいいだけのこと。
トモヤは、言った。命≠ノ片方を奪われ、残り一本となった、己の腕に。
「奪え―――」
その通りになった。トモヤの左腕は次元を超えて伸び、命≠フ心臓を掴んで引き千切った。
「こ、ふ……っ」
僅かに、命≠フ口から赤い血が垂れ落ちた。トモヤの腕は見事に心臓だけを引き抜いて、命≠フ皮膚や骨には少しの傷もつけていない。神経の通っている部分には触れていないのだから、苦しいという感覚はあるかもしれないが、痛みは感じなかったはず。
トモヤの手のひらの上で、びくびくと痙攣する命≠フ心臓。やがて、命≠フ体はふらふらと地上に落ちた。
命≠フ体は、普通ならばとっくに干乾びているぐらいの歳月を生きてきた。それを保たせていたのは「命の実」だったのだが、それが今失われたのだから、これからどうなるのかは分かりきっている。
ゆっくりと、皮と肉が失われていく。自分の体が徐々に白い骨だけになっていくその過程を見つめながら、命≠ヘどこか満ち足りたような笑顔を浮かべていたように、トモヤには見えた。やがてそれさえも消え去って、あとにはもう他の遺体と見分けのつかなくなった、白い骨だけが残された。
気がつけば、手のひらにあったはずの命≠フ心臓がなくなっている。命≠フ血肉であった部分は消え去り、そこに溶け込んでいた「命の実」は、トモヤのものになったのだ。
ならば、自分は神に等しい存在になったのだろうか―――そう思って、両手を目の前にかざしてみようと思ったその時、ようやくトモヤはそのことに気がついた。
「トモヤ様、その腕……」
「……ああ」
そう、両腕。トモヤ自身ですら気がつかないうちに、彼の右腕は再生していたのだ。それはつまり、トモヤが人間とは違う存在になったことの証明である。
気付けば、何もかもが今までとは違う感覚。ここという場所にありながら、世界中を見渡しているかのような。そして、その全てを、今の自分ならば思いのままに出来る。実際にやってみて確かめなくても、今の自分はそういう存在なのだと、トモヤはかつてないまでに確信していた。
「あの、なんて言っていいのか分かりませんけど……」
「いいんだ。君は、何も心配しなくていい」
今の自分ならば、この滅びた世界にあって、永遠に生き続けることも可能である。だが、むろんトモヤはそんなことは望まない。すぐにでも目的を果たすべきなのは分かっているが、何も言わずにやったのではさすがに忍びないので、じっとルーリアを見つめながら、言う。
「一つ、君にいっておかなくてはいけないことがある」
「……え? なんですか、今さら」
二人は、世界が滅びてから今までずっと、一緒に過ごしてきた。その時間が、果たして長かったのか短かったのか。全てが終わろうとしている今となっては、もうどうでもいいことだ。
「いくら両方の『実』を手に入れたからといっても、何の代償もなしに世界を再生できるわけじゃないんだ。二つの世界に存在する何百億という命を蘇らせるんだから、それなりの代価が必要になる」
「代価……? それは、一体―――」
言いかけて、はっと気がついたようだ。それはそうだろう。全ての命を蘇らせるための代価というのならば、それ相応に価値の高いものでなければならない。そんなものは、今この世界において、一つしかあり得ないのだ。
「まさか、そんな……冗談でしょう……?」
「申し訳ないけど、本当のこと。それだけの命を再生するためには、神、もしくはそれに等しい存在の命―――つまりは、俺の命を代償にする必要があるんだ」
「うそ……じゃあ、世界が再生しても、トモヤ様は……?」
「ああ。新しい世界に、俺は居ない。しかも、それだけじゃないんだ。蘇った世界に、俺に関する記憶、記録は一切存在しない。俺は、最初から居なかったことになる。もちろん、君だって例外じゃない。君は俺のことを忘れて、あっちの世界で幸せになるんだ」
「……っ!」
声にならない叫びを上げて、ルーリアはトモヤに掴みかかった。涙は出ない。あまりにも突然の告白で、感情がついてきていないのだ。
「どうして……! どうして、あなたは……っ!」
彼女の口は、意味のある言葉を紡ぐことができない。ただひたすらにトモヤの服をぐいぐいと引っ張って、ここに、ここという場所に繋ぎとめようとする。
「いやです! どうして、あなたを忘れないといけないんですか! 私は、私はこんなに……っ!」
「……すまない」
謝って、どうなるものでもない。それはトモヤにも十分に分かっていたが、そうとしか言えなかった。ルーリアの肩を掴んで引き離すと、
「じゃあ、行くよ」
それだけ言って、彼は空へと舞い上がった。
優しく、優雅に。この世界を救う、英雄の姿である。
「待って! いやです、私は、私だけは―――」
空に向かって、手を伸ばす。だけど、もう届かない。彼の姿はもう、はるか上空に行ってしまっている。
「私だけは、絶対にあなたを、忘れません。だって、愛しているから―――」
もう届くことのない、愛の告白。いつまでも空を見上げ続ける彼女の視界の先で、彼の姿は空の向こうへと消えてゆき―――やがて、世界は光に満たされた。
◇
世界は、続いていく。己が何故生きているのか、何故生きていられるのかを、考えもせず。
世界の再生は、一切の揺ぎも無く、完璧に成功した。終局は過ぎ去り、人々は何も知らないまま、今まで通りの日常を続けていく。人知れず消え去った、一人の少年のことに気付くこともなく。
(あまりにも、哀れ)
遥か天上、流出の世界≠ノ住まう神々は、消え去った彼を救済しようとした。だが、かの少年は、最期の瞬間において、神に等しい存在となった。いくら創造の神といえども、そんな彼の存在をもう一度作り直すなどということは、不可能なのだ。
だからせめて、人々が彼を敬って生きるように。神々は一つの物語を紡ぎ上げ、世界に伝えた。時を超え、次元を超え、物語は全ての人々に語られる。
世界を救うため、己を犠牲にして。様々な想いを超え、終局へと立ち向かった一人の男の、英雄譚。
―――そう。「ターギオリアの英雄」である。
代理人の感想
自己犠牲は美しいけれども、正直人一人の犠牲でどーにかなることってあまり大した事はないんですよね。
目先の10人救うために犠牲になるより、死ぬまで働いて1000人救ったほうが最終的には世のため人のため。
今死ぬよりも、これから50年生きていくほうがナンボも辛く、そして意義のあることだと思うのです。
この話の主人公はそれを回避するために神様になっちゃってるわけですが、
正直ちょっと自己陶酔が入っているかなという感じはします。
「生まれてきたことそれ自体に意味なんかない」って下りは共感を覚えたんですけどね。
後、全体の構成についてですが、ここで終らせるなら5,6話あたりでもっと盛り上がりをつけるべきだったと思います。
全体的にのっぺりしていて、「もう終り?」と言う感は否めません。
物語というのは盛り上げて、落ちをつけるものです。
この話は緩やかで単調な上り坂が続いていて、それがいきなり崖になって終り、という感じでした。
なお、第一話の家族が死ぬシーンその他ですが、やはり入れておいたほうが良かったかと。
主人公の動機づけとしても必要だったんじゃないかと思います。
最後になりましたが、投稿ありがとうございました。