第5話 少年の戦い

 

 

アリスがやられた。

皆、そのことで頭がいっぱいだったのだろう。

仮面をかぶり、マントのようなもので身を包んでいるその敵の動きに反応が 遅れた。

 

「冬人ぉ!!」

「え?」

 

仮面の者は瞬時に冬人に近寄る。

その勢いを利用して飛び蹴りを冬人にかました。

 

どごおぉぉぉぉぉぉん!

 

悲鳴をあげるまもなく、冬人は体を飛ばされる。

砂煙が巻き起こり、姿が見えなくなった。

 

仮面の者の攻撃はまだ終わらない。

足が地面に着地すると同時、今度はユキの腹部に蹴りを放った。

ユキの体が高々と宙に浮く。

仮面の者は跳躍する。

あっとゆうまに追いつくと、ユキの後ろ右足をつかんで地面に投げつけた。

ユキは無惨にも地面に叩きつけられる。

 

「まずい!」

 

俺はユキめがけて落下する仮面の者に体当たりをした。

さすがに宙では踏ん張りが効くはずもなく、吹っ飛ぶ。

仮面の人はそのまま木に突っこんだ。

 

危なかった。

あのまま奴の重力を利用した攻撃を許していたら、ユキは・・・。

 

「ふゆと、さまは・・・?」

 

弱々しい声でユキが聞いてくる。

そうだ、冬人はどうなった?

かなり激しい攻撃だったと思うが、生きているだろうか?

 

「ふゆと、さま・・・・・・」

「いいからお前はだまってろ!死にてえのか!?」

 

ユキはかなり重傷である。

あばら骨が何本か逝ってしまっている。

そんな状態で下手にしゃべろうもんなら折れた骨が肺にささって、あっと いうまにあの世行き。

魔物といえど体のつくりは人間なんら変わりはないのだ。

 

「待ってろ。すぐ探してくる」

 

仮面の者は先ほどの一撃でしばらく動けないだろう。

となれば、冬人を探してちゃっちゃと退散するのがベストだ。

 

「って、おい。マジかよ」

 

仮面の者がゆっくりと動き始める。

しかも、怪我はまるでしてないかのように。

てか、ありゃ無傷だ。

 

「やるじゃねえか。てめえ、何者だ?」

「・・・・・・」

「答える気はないってか?」

 

あの体当たり。

普通の人間ならばあれだけで死ぬ。

腕の立つ者でもすぐに動けるはずがない。

それほどの威力はあったのだ。

なのに今も俺の前に立ちはだかっている。

結論:こいつは人間であって人間じゃねえ。

 

「神・・・・・・、いや、<神殺し>か?」

「・・・・・・」

 

俺の問いかけに、仮面の者はまたもや無反応だ。

しかし、それ以外考えられない。

冬人やユキには悪いが、少しばかり戦わせてもらうぜ。

 

「先手必勝!!」

 

俺は思いっきり息を吸う。

体内で吸った空気の温度を高め・・・。

一気に吐き出す!

 

「っしゃあ、直撃!」

 

仮面の者は俺の放った焼け付く息に飲み込まれた。

避けられた、ということは絶対にない。

空気は透明。

仮面の者が熱気が生む陽炎によりゆがんで見える。

 

「あ!?なにしてんだ?」

 

仮面の者が何もないところに手を伸ばす。

次の瞬間、空間が割れた。

そして何かを取り出す。

 

取り出した物。

それは、大きな剣だった。

ここからでははっきりとした長さは分からないが2メートルはありそうだ。

 

仮面の者は大剣を頭上にかざす。

俺と仮面の者は10メートルぐらい離れている。

が、なぜかとてつもなく嫌な予感がした。

体が自然に右へと動き、大剣の斜線上からはずれる。

仮面の者は大剣を振り下ろす。

 

ズシャァァァァァァァァ!

 

バキバキ!

 

ズゥゥゥゥゥゥン!

 

不可視の攻撃に木々は折れ、倒れる。

おまけに焼け付く息まで消されてしまった。

これは、おそらく衝撃波によるもの。

嫌な予感の正体はこれだったのだ。

そんでもってもう一つ、悪いことが・・・。

焼け付く息が効いてない。

どうやらあのマントみたいなものが原因のようだ。

ある一定の炎を無効にするとかいう防具かもしれない。

ずるいな、おい。

 

「ち、やっかいな野郎だな。逃げんのも一苦労になりそうだ、こりゃ」

「エン!」

 

突如、呼ばれる俺の名前。

声のした方を見てみるとそこには・・・。

 

「冬人、生きてたか。

 ってのこのこ、こんなとこに来るんじゃねえ!さっさと逃げろ!」

「エンはここから逃げる方法を考えて」

「は?なに言ってんだ?」

「この人とは、ぼくが戦う」

 

冬人の瞳がエメラルドグリーンへと変化する。

 

「ち、わあったよ。だけどあんま無理すんなよ」

「分かってる。この人は強い。倒せるとはおもってないから」

「それならいい」

 

俺は逃げるための道具を探すためにその場を離れた。

 

アリスが起きていたら冬人が戦うことを止めていただろう。

が、それは冬人のことをよく知らないから。

4人のなかで一番強いのは俺でもユキでもない。

なにを隠そう、最強はキレた冬人だ。

そして、あのエメラルドグリーンはキレた証拠。

ああなった冬人は、たとえ<神殺し>といえども一筋縄ではいかないだろう 。

 

 

 

 

 

 

 

 

「行きます」

 

ぼくが一気に間合いを詰めると仮面の人は大剣を捨てた。

相手がぼくだから手を抜く、ということではないだろう。

さっき一撃食らったとき。

そしてエンに向けて放った斬撃。

どうやら仮面の人は相手によって色々と使い分けるようだ。

接近戦を挑んできたぼくには確かにあの大剣は当てずらい。

ゆえに拳で迎え撃つ気なのだろう。

 

仮面の人が右手で正拳突きを放ってくる。

 

「そんなもの」

 

ぼくは前に進みつつ仮面の人の拳をそらす。

100%の威力でもらえば、ぼくは払いきれずに吹っ飛ばされる。

が、スピードに乗る前に動いて、払ってしまえばなんのことはない。

威力は30%ぐらいに落ちる。

 

拳を流され体勢が不安定な仮面の人。

隙を逃さず攻撃を仕掛けた。

アゴ先に向かって蹴りをお見舞いしてやろう。

上手くいけば脳が揺れ、少しの間、自由に動けなくなる。

 

バキッ!

 

思惑通り、ぼくの足がもろにアゴ先にヒット・・・しなかった。

むしろ食らったのはぼくの方。

仮面の人は払われた右のほうで肘うちを食らわせてきたのだ。

ぼくの頬にめり込む相手の右肘。

一瞬、意識が飛びそうになった。

 

隙が出来たぼく。

仮面の人は大剣を拾いあげ。それでぼくを・・・・・・

 

ズシャ!

 

何かが切られる音が森の中に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

エンは走りながら冬人のことを考えていた。

 

冬人は格闘がそこそこ強い。

しかし、あの仮面の者が相手では意味はないだろう。

ゾウとアリ。

いや、月とスッポンといったほうがいい。

 

冬人は力を使いこなせていない。

初めは格闘で挑むだろう。

真の力はその後に発揮される。

 

「でも、心配だ。とっとと打開策をもってくなり、考えるなりしなきゃな」

 

ガサ!ガササ!

 

「誰だ!」

 

走るのを止め、音のした茂みを睨み付ける。

魔物だったら無視。

人間だったら脅してアイテムをださせる。

<神殺し>だったら・・・戦う。

っていうかむしろ殺す。

 

「ん〜?その声はエンですね」

「シン、てめえか・・・」

 

勇者シン。

ヘムダルを倒したとされている男。

そして、俺が最も嫌いな男。

そいつが茂みから現れた。

 

「俺の前に二度と姿をみせんなっていったろ」

「いいんですか?私にそんな口聞くと、後悔しますよ」

「なにを・・・」

「私は、逃げる方法をもっています」

「・・・・・・」

 

こいつ、聞いていやがったのか。

 

「一体、いつから聞いていた・・・・・・」

「朝、あなた達3人が湖に行ったところからですよ」

「盗み聞きとは関心しねえな」

「魔物ごときに言われる筋合いはありません。

 で、どうするのです?私を背に乗せて戻りますか?それとも別の方法を?」

「・・・・・・お前、いつかぜってえ殺してやるよ」

「いつかといわずに今、ここででもいいですよ」

 

俺とシンの間に、冷たい風が吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ズシャ!

大剣が振り下ろされる前に、ぼくの影からでた黒い槍が仮面の人の右腕を切 り裂いた。

 

「!?」

 

仮面の人は何が起きたのか分からなかったのだろう。

少し後ろに退いた。

 

黒い槍は、氷が水になるように様に溶け、ぼくの影 の中に帰る。

 

「ふう、危なかった」

 

もう少しで殺されているところだった。

やはり格闘で勝とうなんて無理。

でも、こうしないとこの力が発動できないのだ。

己の身が危機にさらされたとき、そして心が怒りに 満ちているとき。

そのときに発動できる力。

一度、使えるようになればしばらくは使える。

なぜ、普段使えないのかはわからないが・・・。

おそらく未熟者だからだろう。

 

ぼくの影はなぜかいつも真っ黒だ。

日の当たり具合などには無関係に。

 

仮面の人が大剣で斬りかかってくる。

ぼくは影から再び黒の、いや闇の槍を発現させ、受け止める。

 

キン!

 

もう一本、闇の槍を発現。

仮面の人を倒すべく、一直線に心臓を狙った。

しかし、身をひねり、難なくこちらの攻撃をかわす。

この人、本当に強い。

ぼくが今まで会った人間の中でもダントツだ。

だが、負けるわけにはいかない。

ユキを、アリスをあんな目に遭わせたこの人には。

 

「はあああああああ!!」

 

ぼくの影が足元から消え、体内に取り込まれる。

仮面の人に対し、左の掌を向けた。

 

ぼくの力は影から闇を出現させ、自在に操るというもの。

基本的には、だ。

応用すればこんな風にも使える。

 

「夢想影現・氷雹狼!」

 

ぼくの左手から、狼の形をした闇が放たれる。

しかもただの闇ではない。

影氷(えいひょう)と呼ばれる闇の氷で作られたものだ。

 

己の影を体内に取り込み、属性を付け、攻撃をしかける。

これが能力の応用、もとい真の使い方だ。

ただしこれには欠点がある。

それは体力の消耗が激しいということ。

技にもよるが1日3回ぐらいが限度だ。

 

仮面の人が大剣を上段に構える。

どうやら迎撃するつもりらしい。

しかしそれは無駄なこと。

なぜなら・・・・・・

 

「!!!」

 

その狼は触れたものすべてを凍らせるからだ。

 

パリパリパリパリ!

 

大剣を伝い、仮面の人が凍ってゆく。

手、胴、足・・・そして頭。

あっというまに仮面の人は氷付けになってしまった。

 

「ふう」

 

ぼくは思わず安堵の溜め息をついてしまう。

狼は溶けて、黒い固まりとなり、帰ってくる。

ぼくの足元に再び影が現れた。

 

「冬人ぉー!」

 

向こうからエンがやってくる。

何故か背中にはシンが乗っていた。

 

「大丈夫か、って」

「・・・・・・」

「勝ったのか。すげえじゃねえか!」

 

確かに仮面の人は氷付け。

しかし、まだ終わってない気がする。

 

「っつ、エン。逃げる方法は考えてある?」

「俺はしらねえ。シンが知ってるらしい」

「シンさん、どうするの?」

「まず、皆を集めてください」

「エン!アリスさんとユキをここにつれてきて」

「なんで・・・」

「いいから、早く!」

 

今、仮面の人が動いた。

気のせいではない。

つまり仮面の人はまだ生きている!

 

ピシピシ!

 

氷に亀裂が走る音がはっきりと聞こえた。

 

「皆さん、準備は出来ましたか?それではいきますよ」

 

シンさんはどこからともなく黒ずんだ玉を取り出し、地面に投げつけた。

 

パリン!    「ワープ!」

 

氷というなの拘束が解けるのとほぼ同時。

ぼくたちはその場からある場所へと瞬間移動した。

 

 

 

第6話に続く・・・予定(汗)

 

 

 

 

後書き・・・なのかな、これ。

 

 

NEZU「ええと、初めてのお使いならぬ、初めて の後書きです。

     と、その前に、私の書いた文を読んでく れている方々に感謝を。

     本当にありがとうございます。

     さてさて、私一人で色々と話すのも何な ので、毎回一人、ゲストを呼びたいと思います。

     それでは記念すべき第一回後書きゲスト。 アリスさん、どうぞ!」

シ〜ン・・・

NEZU「ん?なに、アリスは今日休み?じゃあエ ン・・・、エンも居ないの?

     ああもう!誰でもいいから入ってこい!」

リュウ「俺にまかせろ!」

NEZU「帰れ」

リュウ「いや〜、今回は冬人が活躍したな」

NEZU「おい、無視するな」

リュウ「冬人が活躍したよな!」

NEZU「・・・このままじゃ冬人はただの弱い子 供だと思われてしまいそうだからな。

     そうではないことを証明するために今回 の話を書いた」

リュウ「ちなみに今までで戦闘をこなした奴らの強さの順は?」

NEZU「う〜ん、一番強いのは仮面の人だな」

リュウ「そうだよ、あの野郎強すぎ。あれは一体誰なんだ?」

NEZU「秘密だ。まあ、後々分かるからな、それまで待ってろ。

     2番目は冬人、後はエン、アリスってところか。

     でもまだ戦っていない奴らもいっぱいいるし、分からないぞ」

リュウ「でも、今一番弱いのはアリスなんだろ?うっわ〜、大丈夫なのか?

     なんなら俺がいまから主人公になっても・・・」

NEZU「や、今一番弱いのはお前だよ」

リュウ「ま、待て。俺とアリスは2人とも仮面野郎にやられてるから同じぐ らいだろ?」

NEZU「俺の中での設定ではお前が一番雑魚ってなってるの」

リュウ「しょ、職権乱用だ!訴えてやる!」

NEZU「じゃかあしい!散れ!」

リュウ「覚え〜ろ〜よ〜

NEZU「さて、馬鹿もお星様になったことですし、そろそろこの辺で。

     第6話 砂漠? の後書きでお会いしましょう。

     あ、最後に一つ。「それは流れる涙のように」(以下それ流)を 読んでくれた方へ。

     BBS(感想のみ)もしくはメールで「それ流」に対する感想を 聞かせてくれたら嬉しいです。

     いつも感想を書いてくださる代理人様、その他の皆様方。

     「それ流」第五話を読んでくださってありがとうございました」

 

 

 

代理人の感想

・・・あれ。リュウって死んだんじゃ?(爆)