第6話 砂漠?

 

 

「ブレイン様、なにもこのような所に来られなくても。

 我らだけで死体の片付けはいたしますから」

「いや、そういうわけにもいかんのでな」

 

私は今、ウキラム〜コライアス間にある森の中にいた。

目の前に広がるは幾多の死体。

これではおそらく生存者はいないだろう。

ここには、だが。

 

「どうやらシンは生きているようだな」

 

シンから連絡が途絶えて早3日。

カルナ様の命令でシンの生存を確かめにきたのだが・・・。

どうやらそれらしい死体はない。

なにに襲われたかしらないがどうやらうまく逃げ切ったようだ。

 

「ブレイン様、こちらに来てください!」

「なにかあったのか?」

「はい、転移球を使用した後に発生する空間の歪みがあります!」

 

私は声のしたほうに走る。

そこには魔法が得意な部下・・・確かマアナという名前、がいた。

 

「ここです」

「ほほう、確かに空間の歪みがあるな」

 

周りの部下はマアナと私を不思議そうに見ている。

無理もない。

ただの兵士には見ることはできないからだ。

 

たぶん、シンが使ったのだろう。

しかし、転移球とはまたとんでもないものを使ったものだ。

ワープ先はランダムというギャンブル性あふれる転移球。

そんなものを使わなければならないほど追い込まれていたとでもいうのだろ うか?

 

「それで、行き先は特定できそうか?」

「はい。おそらく、ですが」

「どこだ?どこに行った?」

「それが・・・・・・」

 

マアナがいいにくそうに、口ごもる。

そんなに変な所へとばされたのか?

 

「カチ砂漠、です」

「な、なんと!」

 

カチ砂漠とは、また大変なところに飛ばされたものだ。

せっかく、ここで殺されることは免れたのに。

シンが死ぬのも時間の問題かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽が地平線に沈んでゆく。

これで暑さはなくなるだろう。

もっとも、今度は寒くなるだろうが・・・。

 

今、ぼく達は昼間と夜の気温差が天と地ほどある場所、砂漠にいた。

と、いうことで右を見れば砂ばかり。

左を見ても砂ばかりだった。

こんなに砂があったら本物の砂の城が造れそうだ。

あ、水がないとすぐに崩壊しちゃうか・・・。

 

「ようやく涼しくなってまいりましたね・・・」

「ユキは暑さに弱いからね。本当に辛かったでしょ」

「そんなことは、といいたいところですが、辛かったです・・・」

 

無理もない。

ユキはフェンリル。

そしてフェンリルの弱点は暑さ。

ぼくでも厳しい暑さなのだからユキにとっては地獄だったであろう。

 

そんなユキとはうってかわって、元気なのがエンだ。

背にぐったりとしたアリスを乗せて歩いているのに、全然、苦ではなさそう だ。

ちなみにアリスはまだ目を覚まさない。

仮面の人の一撃が余程効いたのだろう。

もしかしたら脳に異常があるかもしれないが、ぼくに出来ることはなにもな い。

医者に見せようにも砂漠内にそんな人がいるはずはなかった。

 

「まあよ、アリスは分かる。けどな、なんでだ?」

「どうしたの、エン」

「なんでこの野郎を俺の背中に乗せなきゃなんねえんだよ!」

 

エンの背中にはアリスの他にもう一人いる。

そう、シンさんだ。

しかもなぜか寝ている。

 

「スースー。は、ママ。いつもにも増して美しい。さすが我がママンだ・・ ・」

 

時々、変な寝言を言うのが、エン怒りをさらにかっているようだ。

それにしてもママンってなんだろう?

誰かの名前かな?

 

「ホント、なんでだよ!」

「エン、落ち着きなさい」

「なんで、ヘムダルを、ダチのヘムダルを殺した野郎を・・・」

「黙りなさい!」

 

疲れているにもかかわらず、ユキは叫ぶ。

エンのほうは・・・・・・泣きそうに見えた。

ぼくに優しかったヘムダルさん。

ユキを前にすると上手く話すことの出来なかったヘムダルさん。

エンの親友だったヘムダルさん。

彼はもう、この世にはいない。

 

「殺してやりてえ。今すぐ臓物をぶちまけさせてやりてえ!」

「エン!」

「・・・・・・ごめん、ね」

 

ぼくはエンに謝るように呟いた。

頬に涙が伝う。

 

ぼくのせいだ。

ヘムダルさんが死んだのはぼくのせいだった。

ぼくさえしっかりしてさえすれば、あんなことにはならなかったのに。

ヘムダルさんを殺したのは他の誰でもない。

この、ぼくだ!

 

涙を流す資格などありはしないのに。

それでもぼくは涙が流れるのを止めることが出来なかった。

 

「ぼくのことはいいから、エンの好きなようにしていいよ。ぼくなら・・・」

「それ以上言うな!」

 

ぼくの言葉は断ち切られる。

 

「・・・・・・」

「え、エン・・・・・・」

 

エンは何も言わず、歩き始めた。

ぼくは何かいけないことを言おうとしていたのだろうか。

エンの怒りようからするに、おそらくそうなのだろう。

しかし、何がいけなかったのか。

まるで分からなかった。

 

「冬人様」

「ゆ、ユキ」

 

ぼくの気持ちを察したのかユキが話しかけてくる。

 

「エンは冬人様のことを怒っているのではありません」

「じゃ、じゃあなんで、エンは大声を?」

「さっき、冬人様は死んでもいい、というようなことを言いかけたでしょう? 」

 

エンの大声がなかったら確かに言っていた。

ぼくなら死んでもいいから、と。

 

「ここまで付いてきたエンにその言葉はないかと。

 いえ、エンだけではありません。私に対してでもです」

 

ユキはいつもからは考えられないほど厳しい口調だった。

でも怒っているというわけではなくて。

子供をたしなめる親といった感じだ。

 

「私たちが冬人様に付いてきているのはなぜだかわかりますか?

 義理や同情であるとお考えなら、それは違います」

「・・・ぼくのことを・・・愛してくれてるから」

 

他人が聞いたら自意識過剰な奴と思うかもしれない。

だがこれは事実。

ぼくはユキとエンが大好きだ。

それと同様にユキとエンは愛してくれている。

これは他人には決して分からない。

理解できないことなのだ。

 

「ごめん、2人とも」

 

自分で死んでもいいなんて言うことは2人に対して失礼なことだ。

エンはぼくの口からその言葉を聞きたくなかった。

だから怒ったのだ。

 

「ち、わかりゃあいいんだけどよ」

「もう二度と、死んでもいいなんて考えないでくださいませ。

 あと、申し訳ありませんでした・・・」

「な、なにが?」

「いえ、生意気な口をきいてしまったことです・・・・・・」

「ああ」

 

こちらが悪いのに謝るところがユキらしい。

エンはそんなユキを見て、謝る必要はねえだろという顔をしていた。

 

「う、う〜ん」

「ふ、冬人様!あ、アリス様が」

 

ユキに言われるまでもない。

アリスが長い眠りからようやく目覚めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんでこんな砂漠にいるの?」

 

すごく純粋な質問であろう。

負ける前は森の中にいて、目が覚めたら砂漠でした。

こんな不可解な状況は説明でもなければ分かるわけがない。

とりあえず、寒いなあ。

夜の砂漠は。

 

「おお、美しき女性よ、ようやくお目覚めですか」

「ご迷惑おかけしました」

 

目の前にいるのは見知らぬ男。

正確にいうと見たことはある気がするが・・・。

とりあえず私は頭を下げる。

瞬殺され、足手まといになっってしまったのだ。

ホント迷惑なことをしてしまった。

 

「このまま起きないようでしたら私の熱いキスで起こそうかとも考えました よ」

「はははは。面白いね、この人。で、誰?」

「私を知らない!?」

「知らない」

「ああ、なんてことだ。この私を知らないなんて・・・。

 神よ!この罪深き美しき女性を許したまえ!」

 

なんかよくわからないけど知らぬ間に罪を犯していたらしい。

しかも神に慈悲を請うほどの罪を。

いったい何をした、私。

 

「私は勇者シン。以後お見知りおきを」

「あ、ああ!」

 

思い出した。

この人、ヘムダルを倒したとかいう人だ。

個人的にどうでもいい人だったからすっかり忘れてたよ。

 

「ええと、私はアリス。よろしく」

「おお、アリスという名ですか。美しいあなたにふさわしい名前だ。

 いかがです?今夜私と・・・・・・」

「なんで砂漠にいるか説明してくれないかな?そしたら考えてあげる」

「わかりました!」

 

なんかこいつも単純な奴だ。

男の欲求に素直というかなんというか。

ともかく名前は覚えた。

変態勇者シン、と。

 

「率直に申し上げましょう。転移球をつかったのです」

「転移球、ねえ・・・・・・」

 

あの使うと世界のどこかに飛ばされるというアレか。

本当にどこに飛ばされるか分からないから使う人は滅多にいないんだけど。

とりあえず使った結果が砂漠というわけか。

 

「さあ、私は話しました。今度はあなたが約束を守る番です!」

「や、私は考えてあげるっていっただけだし。

 まったくあわてん坊さんだな〜、シンちゃんは。はっはっは」

「NO!!!」

 

あ、ショックのあまりシンちゃん凍り付いちゃった。

でも話をキチンと聞いてないのが悪いし。

 

それにしても砂漠とは・・・。

夜はいいけど昼間は汗が滝のように流れそうだ。

よく考えると食料はないし、水もない。

これではあっというまに全滅してしまうだろう。

せめて、水は欲しいところだが。

 

「って、そういえばユキちゃんてフェンリルだよね」

「はい、そうですけど」

「フェンリルって氷を自在に出せるって聞いてるけど」

「砂漠では空気中に水分が少ないですから、あまり作れないと思いますけど」

 

どうやら空気中の水素を上手く利用して氷を出現させることがユキにはでき るようだ。

 

「ちょっと試してみてくれるかな」

「はい」

 

ユキに皆の視線が集まる。

氷が出来るか出来ないか。

まさに私たちの生死の境目であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

アリスさんの背中が今、目の前にある。

それだけなら何でもないこと。

上の服を脱ぎかけているということを除けば。

 

まてまて、落ち着け。

一体何があったか冷静に思い出してみよう。

まず、ユキが氷を出すことに成功して、水は確保できた。

それでアリスさんが汗まみれだから気持ち悪いって言って。

シンさんがなぜか持っていたタオルで体を拭くという話になって。

でも背中は自分では届かないからということでぼくが拭くことになったんだ った。

 

「冬ちゃん、準備できたよ」

 

水分を含んでいるタオルを持ちながらアリスさんは言う。

ぼくの方は準備できてないんだけど。

 

「ど、どうしてぼくなんですか?」

「なにが?」

「背中を拭くのが、です」

「まあ、別に誰でもいいんだけどね。裸を見られても減るもんでもないし」

「じゃ、じゃあ」

「・・・あれ、見てごらんよ」

 

アリスさんの示した方にはシンとエンがいた。

 

「離すのですエン。私はアリスの背中を拭かなければならないのです!」

 

エンに踏みつけられて動けない状態にされていた。

何故か目隠しをさせられて。

 

「あそこまで露骨に裸が見たいオーラ出してる奴に背中は拭いてもらいたく ないかな。

 と、いうことで冬ちゃんなわけ。さ、早く拭いて、拭いて」

「はい」

 

ぼくは観念して濡れタオルを受け取った。

なるべくアリスさんが視界に入らないように上を向きつつ背中を拭く。

それでも恥ずかしかった。

 

「冬ちゃん、力が弱いよ」

「は、はい!」

「ちゃんと背中を見ながら拭いたほうがいいんじゃないかな?」

「う・・・・・・」

「はは、冬ちゃん照れちゃって、かわいー」

 

この人、ぼくをからかうためにわざと拭かせているのではないだろうか。

だとしても代わってくれそうな人もいないし。

結局、ぼくが拭くしかないのだ。

そもそもなんでぼくが恥ずかしがらないといけないのだろう。

普通、逆じゃないだろうか?

 

ぼくはアリスさんの背中に目を向ける。

 

「え・・・・・・?」

「ん、どうかしたの?」

「い、いえ、なんでもないです」

 

アリスさんの背中にあるもの。

それは大きな傷跡だった。

最近のものではない。

かなり古い、しかも剣のようなもので斬られたもののようだ。

 

近代における人間の魔法はすごい。

治癒魔法においても例外ではないはずだ。

少なくともこんな傷跡は消せるはずなのだが・・・・・・。

もしかしてわざと消さないでいる、とか?

 

アリスの背中を拭いている間中、ぼくは傷跡から目が離せなかった。

 

 

 

 

第7話につづく・・・はず

 

 

 

 

後書き

 

 

NEZU「さてさて、今回のゲストは」

???「もちろん、俺・・・」

NEZU「逝ねい!」

???「ぐはっ!」

NEZU「はあ、はあ。死者が二度も出てくるな!そして二度と俺の前に姿 を見せるな!」

アリス「あらら、NEZUちゃんたら。人殺しはよくないよ」

NEZU「お前のせいじゃあ!」

アリス「なんだかよくわからないけど落ち着きなって」

NEZU「う、うう、グスッ。お前が、お前が前回休むから、グスッ」

アリス「にしても、エンちゃんはよっぽどシンちゃんが嫌いなんだね」

NEZU「ん、ああ。あの魔族3人組の中ではエンが一番嫌ってるだろうな。 シンのこと」

アリス「一番?」

NEZU「冬人もユキも少なからずシンのことを嫌ってるってこと」

アリス「同族の仇だからね。仕方ないか」

NEZU「まあ、実際はそんな簡単な理由じゃないいんだけどな・・・」

アリス「そういえば今回は私に感謝してよ」

NEZU「はいはい、分かってるって。お前が脱いだシーンがあるからだろ」

アリス「あのシーンのおかげで今回の話を読んでくれる人が100倍にはな るから」

NEZU「それ、いつも読んでくれてる人が0人だったら変わんねえじゃん! 」

アリス「お、NEZUちゃん、いつにもまして鋭い指摘だねえ。熱でもある のかな?」

NEZU「やかましい!俺はいつも鋭いわい!」

アリス「私の背中の傷っていつ出来たんだっけ?」

NEZU「会話を露骨に変えるなよ。ってか、アリス、それ本気で言ってる のか?」

アリス「もちろん冗談だよ」

NEZU「お前、言っていい冗談と悪い冗談が・・・」

          ガチャ!(銀色 の輪っか?が腕にかけられた音)

NEZU「は?」

警察官「NEZUだな。お前を殺人容疑で逮捕する!」

NEZU「なにこれ、ドッキリ?」

アリス「リアルだよ。さっき私が呼んどいたんだ。殺人があったってね」

NEZU「アリス、てめっ!」

警察官「何をしている、早く来い!」

            ズルズルズル

NEZU「だ、誰か!悪い冗談だと言ってくれ〜!」

        NEZUは退室させられた。

アリス「次回の題名は 第7話カチ砂漠は危険 だよん。

    それじゃ、ばいば〜い」

 

 

 

 

 

 

 

 

代理人の感想

うーん、話が動いてないなー。

もうちょっと纏まった形で出してもらえると、読んでるほうとしては嬉しいんですが。

 

それと、最近良くある間違いなのですが「まがれた(間逃れた)」ではなく、「まがれた(免れた)」なのでお気をつけを。