第一章〜新しい世界へ〜
(二)
初めて訪れる外の世界の町。自然と期待が不安を上回る。バドも同じようで足取りが軽い。何度もデニーの前に出ては立ち止まり、デニーが前に出るのを待つ。
バドは『早く行こうぜ!』と叫びまくっているが、デニーは全く耳を貸さない。
感じたこの無い、重い沈黙が長く続くのかと思うと、僕の足取りも早くなる。横一列に並んで見えない、知らない目的地に向かいただ歩く。
長く続くと思っていた沈黙は、一度体験した地響きによって、唐突に破られた。
地響きを感じて僕とバドは顔を見合わせる。二人して口をぱくぱくさせて、やっと言葉が出た。
『化け物ワーム!』
「ビック・ワーム! こいつは俺がやる、お前らは出来るだけ下がってろ!」
デニーが言うよりも早く、僕とバドはデニーの後ろまで下がった。僕はデニーの後ろにいくと、腰が抜けて地面に尻をついた。震える顔をなんとか横に向けてバドを見た。バドは震えてはいたが、なんとかたっているし、かすかに見えるその瞳の奥、光は全く衰えていない。
地響きが一瞬鳴り止む。瞬きしている間に三匹のビック・ワームと呼ばれた化け物ワームが地面を突き破って現れた。
奇声を上げながら、体をクネクネ動かしている三匹のビック・ワームを間近に見て、僕はもう動くことが出来なくなっていた。ただただ体を震わせながら、自分の無力さを噛み締めながら、化け物と対峙するデニーのたくましい背中を見る。
「安心しな。俺はこんなワーム如きにゃ負けねぇよ。それに、こいつ等を倒すのが俺の仕事だからな。負けるのは当然、逃がすことだってさせやしねぇ」
余裕と自信に満ち溢れた顔がこちらを向く。にかっと笑っているその姿に僕は安心した。この人なら負けはしない、とそう思えた。そして、それはすぐに現実のものとなる。
デニーが正面を向いた時には、一匹のビック・ワームが迫っていた。余裕が感じられるほどあっさりとそれを横っ飛びで避け、手にした巨大な斧を振るう。
口の辺りから中ほどまで一気に裂ける。殆ど黒い血が勢いよく噴出した。デニーはすでに後ろに下がっていて、黒い血を浴びずにすんだ。切裂かれた一匹のビック・ワームはびくびくと痙攣していて、まだ生きているようだった。
死に掛けている一匹を無視して、デニーは突進してきた二匹目に狙いを定める。突進しか能が無いわけではないようだ。猛スピードでデニ―との距離を半分まで詰めると、急に体を上昇させ、圧し掛かるように口をあけてデニーを襲う。
大きな口と体は地面を突き破り、体の半分ほどが地中に沈んだ。僕ならそこで突っ込んで、ビック・ワームに攻撃して、そしてそのまま食べられたことだろう。そこが僕とデニーの差だ。
デニーは突っ込むどころか後ろに跳んだ。今さっきまで立っていた地面が突き破られ、ビック・ワームの巨大な口が現れる。デニーがにやっと笑うのが見えた。三枚刃の中で一番大きい刃を外側に、斧を横向きに構えてビック・ワームの近くまで素早く移動する。斧が日の光を反射して煌めき、同時にビック・ワームの上半身が音を立てて地面に落ちる。
あっという間に化け物と言えるワームを斬り倒した。安堵を感じたのは確かだったが、恐怖も同じく感じた。僕の住んでいた村で一番強い大人でも一人では倒せないだろう。外の世界を知らなかっただけ。そう言えばそうだが、それでも恐怖を感じてしまう。親友であるバドは全く反対で、感動しているだけのようだ。その瞳は太陽に負けないぐらいの輝きを放っていた。
全くの余裕で、デニーは斧を首の後ろで回して遊んでいた。最後の一匹に徐々に徐々に歩み寄る。本能によるものなのか、ビック・ワームは口を閉じたままデニーを見ている、ように見えた。
斧が届くかどうか、微妙な間合いでデニーは足を止める。斧で遊ぶのを止めて、周りを見渡すと、今度は音も無く三匹のビック・ワームが飛び出した。僕はビクッと、体を揺らす。新しい三匹は僕の目の前に現れ、デニーの前にいた一匹もそれに加わった。震える体に鞭を打って、必死に逃げようとする。が、体が思うように動かない。
「ちっ、もっと後ろに逃げてろってんだ。仕方ねぇなぁ。ワーム如きに"これ"を使うのは勿体ねぇが……喰らいな、蒼雷を!」
デニーが斧を高く掲げながらこちらを向いた。両手でしっかりと握っている。僕はそれを見るのが精一杯だった。逃げるということはもう諦めていて、デニーに全てを託した。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
野獣の如き叫びと共に、斧が振り下ろされた。地面に激突すると同時に、幾つもの蒼い稲妻が四匹の化け物目掛けて宙を走る。あまりに綺麗な稲妻で、思わず見とれてしまう。先に逃げたバドがいつのまにかに横にいて、一緒に目を奪われている。
まるで意思でもあるかのように、蒼い稲妻は確実に四匹のビック・ワームの体を貫き、焼き尽くす。もはや生物とは思えない奇声を上げながら、稲妻と炎を纏ったまま狂ったように踊っている。
数秒した後に、四匹とも息絶えた。さっきまで生きていたであろうビック・ワームも動いていなかった。
ほっとして大きく息を吐き、軽く吸った。
デニーが満面の笑みで、『どうだ? 凄いだろ?』と言わんばかりの顔をしている。それに対して僕は反応できなかった。冷静になってみれば、斧から稲妻、しかも蒼い稲妻が走るはずがない。そう思っている間に次の不可思議なことが起きる。
デニーは腰に提げた袋から一本の小さな空瓶を取り出し、その蓋を開けるとビック・ワームの死体に近づける。と、突如真っ赤な炎が出現し、死体に乗り移るとじわりじわりと拡がっていき、デニーが次の死体に火をつけたときには灰になっていた。
何も無い瓶から炎が出た。さっきの斧といい、今の空瓶といい。そう言えば、村にも似たようなものが幾つかあった。木箱なのに冷気を放ち、生ものを保存する"冷蔵庫"。ボタンを押すと炎が出る"コンロ"。他にも色々あったような気がするが、名前まで覚えていない。これら全て外の世界の物だと今知り、納得した。それでも不思議な物に変わりはない。
最後の一匹だけ、焼く前にナイフで肉片を切り取り、小さな袋に入れた。そしてまた空瓶から炎を出して、最後の死体を焼き尽くし灰にする。
全ての作業を終え、まだ動けないでいる僕の方に近づいてくる。ただ辿り着く前に素早く駆け出していたバドに捕まり、質問責めにあった。
困り果てた顔をデニーがしたのを見て、体が動くようになった。『後で話す』とでも言われたのか、バドがデニーと一緒に早く来いと手招きをしている。
まだ重い腰を上げて、僕は早歩きで二人のもとに寄った。色々な思いが心中を巡っていたが、宿に着くまで抑えることにして、僕ら三人は襲われる前よりも早い歩調で歩き出した。
頭の中で自問自答を繰り返し、考え事に耽っている間に僕らは見慣れない、外の町の出入り口まで来ていた。
柵の切れた場所があって、そこに木製の看板が立っていて、"モコ"と刻まれている。町の名前か、と思いながら先に町に入っていた二人の後を追う。
町はさほど大きいわけではなかった。二十数軒の民家に野菜屋や果物屋、肉屋が何軒かあるばかりだった。村か町か、中途半端なところだ。
民家の隣には大概畑があって、耕している人も何人か見えた。はじめて見る外の町人の服装は、僕らに比べれば幾分も立派に見えた。
何個かの畑を通り過ぎた場所に一際大きい二階建ての建物前で止まる。扉の上から突き出した棒には"宿屋"と刻まれた木製の看板が吊り下がっている。
デニーが木造の扉を開けて中に入る、その後に僕とバドは続く。
まず目に入ったのが宿主らしい豊かな膨らみのあるお腹をしたおじさんだった。これもまた木造の台の向こう側にいて、デニーが近づいてくるのを見ると部屋の鍵らしいものを手渡す。周りを見渡すと、椅子と長いテーブルが二つずつ置かれていたり本棚があったり、普通の民家をそのまま宿にしたような内装だった。ランプの明かりがいい具合で、眠気を誘う。
僕がきょろきょろと目をまわしているうちに二人は二階に上がっていて、早くこいよ〜、とバドの大声が聞こえた。他の客は見当たらないが、失礼な親友を思うと頬が少しばかり赤くなった。
デニーが借りていた部屋は三人で寝泊りするには少々狭い感じがした。元々、デニー一人で使うはずだったのだから当たり前ではある。なのにベッドはなぜが二つある。他には小さな机と丸い椅子が一つだけ。他には何も無い。
僕は背負っていた荷物の置き場所に困り、とりあえず机の横に置かしてもらった。上に置かないのはデニーの荷物が幾つも散らばっているからだ。
バドは部屋に入るやいなや、ベッドに腰を落としたデニーの横に陣取り、質問責めを始める。バドの顔に丁度窓から入る光があたって、うきうきした顔がよく見えなかった。デニーの呆れたような、楽しそうな顔は逆に良く見えていた、
「まあ落ち着け。確かに宿に着いたら教えてやると言ったが、お前ら疲れているだろ? それに腹だって空いてるだろうよ?」
デニーが言い終わる前に僕とバドのお腹が一斉に鳴った。ぐぅ〜という音が反論を許さない。デニーははは、と声に出して笑い、僕とバドは頬を赤らめるばかりだった。
デニーに連れられて僕とバドは一階、階段の奥にある食堂に行った。僕ら三人以外に誰も食堂にはいなかったので、中央の席に座ると、デニーが知らない名前の料理を幾つか叫んだ。厨房と思われる場所から、はいよ〜、と言う声が聞こえて、続けざまに何かを焼く音や、何かを切る音が聴こえた。
料理が完成するまでに二十分とかからなかったが、その間に十回はお腹の虫が鳴いた。
木製の丸いテーブルに置かれた料理はどれも初めて見るものだった。見たことも無い姿の鳥の肉を焼いたもの、トカゲのような生き物の丸焼きに具沢山の暖かいスープ。唯一見たことがあって、食べたことがあるのは色々な野菜のサラダだ。それでも見たことの無い野菜が幾つも入っている。
僕としたことがいただきますも言わないで、一通り料理を見渡すと自分でも驚くほどのペースで食べる。小食でも大食でもない僕は、普段ならゆっくり食べている。それだけ疲れていて、体がエネルギーを欲しがっているのだろう。いつも早食いで、大食いのバドのスピードは倍以上だ。
デニーは何も口にしないで僕らが食べているのを見ていた。何度か横目でちらっと見たが、さすがに驚いているようだ。口をほんの少し開けて呆然としている。
全て食べ終えるのに十五分とかからなかった。その間一言の会話もないままに、食べていて、食べ終ると一気に眠気が襲ってくる。バドも早いペースで瞬きを繰り返し、目を擦っている。
「全く、よく食うガキどもだな。ま、人の事は言えないが」
がっはっは、と今までの中では豪胆な笑い方をした。お兄さん見たいな存在だと思っていたが、考えてみれば叔父さんにもなるかもしれない。
「よく食ったところで今日はもう寝ろ。まだ夜にはなっていないが、お前の体力じゃここまで来ただけで大分疲労してんだろ」
確かに、と首を縦に振った。早く部屋に戻って眠りにつきたい。ここに来るまでの間考えていたことが全て何処かへ行ってしまった。
デニーが立ち上がり僕もそれにならうと、バドがふらつきながらも立ち上がって人指し指をびしっとデニーに向けて精一杯声をあげる。
「何でも教えてくれるってのはウソなのかっ! 早く教えてくれよ!」
最後のほうは眠気に負けたようで、弱かった。デニーは優しく笑って言う。
「明日必ず教えるよ。今教えたって何も覚えられないだろ?」
デニーの言う通りだ、とは言わなかったが頷いて、バドの腕を引っ張る。さすがのバドも眠気と疲れに負けて、分かったと答えた。
部屋に入ると同時に僕とバドは駆け出し、一緒の布団に飛び込むとものの十秒で眠りに入った。意識が途切れる寸前、デニーの声が聞こえた気がした。
「変な奴ら」
眩しい。開いた窓から容赦無く朝日が僕の顔に差し込む。反射的に右手で光を遮る。
意識がはっきりとしてやっと僕は旅に出たことを思い出す。あまりにも今までと同じ朝に違う場所にいることを忘れていた。
部屋を見渡してみると、デニーの蒼雷の斧、デニー、バドが消えている。どこに行ったのだろう、と思っていると外から風を切る豪快な音が聴こえた。
窓から顔を覗かせると、宿屋の前でデニーが斧を振るっていた。朝早くなので通行人はほとんどいなかったが危ないとしか思えない。
さらに体を乗り出させると壁によりかかって、熱心にデニーを見ているバドがいた。よく見ればデニーの額にはうっすらと汗が浮かんでいた。もっと早くから斧を振るっていたのだろう。僕は起きたままの姿で外に出て行った。
「なあ、俺に戦い方教えてくれよ〜。頼むよ〜」
「嫌だ。というか無理だ。俺は教えるとか、そう言うの苦手なんだよ」
「いいじゃんか、ケチ。ケチデニー」
「無理なもんは無理だ」
こんな会話が聞こえてきたのは宿屋の扉を開けた時だった。
扉のすぐ横に蒼雷の斧が立てかけられていて、デニーは腕縦伏せをしている。その近くにバドはしゃがんでしきりに同じ事を言う。
「あ、エリウス。おはよう」
バドが僕に気付いていった。僕も、おはよう、と返してバドの横に立つ。
「どれくらいからデニーさんはやっているの?」
「ささ。俺が起きた時にはもうやってたから、一時間以上だと思う」
一度会話を交わすと、「三百っと」という声と同時にデニーは立ち上がり、腰に差したタオルで汗を拭いながら挨拶をした。
「よお、エリウス。よく眠れたか?」
「はい、おかげさまで。ところでデニーさんは何をしているのですか?」
「俺か? 俺は体が鈍らないようにトレーニングだ。いつもやってるんだよ。さて、三人揃ったことだし、朝飯でも食べにいくか」
デニーお決まりの笑みが決まり、僕らはそれに従う。後ろから見たデニーの背中は確かにたくましかった。無駄な肉は一切無く、鍛えぬかれた筋肉を纏っている。僕なんかが殴ったら逆に僕の腕が折れてしまいそうだ。
「ちょっと部屋に行ってくる。先に行っててくれ」
そう言いながらデニーは階段を駆け上っていった。言われたとおりに先に食堂に足を運ぶと、昨日見られなかった他の客人が何人か座って、食事を取っていた。誰も見慣れない服を着ていて、僕のささやかな好奇心を踊らせる。
目が合った人たちは皆挨拶をしてくれた。僕とバドは勿論、それに笑顔で返した。簡単な交流だが、これだけで僕は嬉しくて、朝早々気分がよくなった。
運良く三つ席の空いているところに座り、少し待つと上着を着たデニーが入って来た。僕らを見つけるのに三秒もかからなかったが、すぐに来ないで注文をしてから席に腰を降ろす。
「今日こそは教えてもらえるんだろうなっ!」
人の目を気にせずに大声でバドがデニーに詰め寄る。デニーは少し鬱陶しそうに手を振って答えた。
「安心しろって、ちゃんと教えるさ」
笑顔と同時に料理が差し出され、三人で無言のうちに食べ始めた。
朝食を食べ終えたときにはほとんどの客はいなくなっていた。デニーは好都合だ、と言わんばかりに隣のテーブルを引っ張って、横に並べるとその上に昨日見た空瓶と、蒼雷の斧を置いた。斧を置く時に軋んだ音が聞こえてきて、壊れないか気になった。
僕らが初めから使っているテーブルの上にはデザートと飲み物が置かれていて、つまみながらデニーの説明会が始る。
「じゃぁ説明をはじめる。いっとくが、説明は苦手だ。分からなくても分かれ。いいな?」
ほとんど無茶な言い分を仕方なく僕らは受け入れた。
「まず、お前らが知りたがっているこの道具。これは『魔導具』と呼ばれるものだ。あ、まず魔導から説明しなくちゃいけねぇのか……」
逆立った青い髪を掻きながら、舌打ちをした。本当に説明するのが苦手なんだな、と実感せずにはいられなかった。
「いいか、『魔導』ってのは誰もが生まれつき持っている『魔力』を使って、炎を出したり傷を癒したり、とにかく色々することだ。魔力は人それぞれ差があって、高いやつもいれば低いやつもいる。俺はどっちかと言えば低いほうだ。で、魔導にも得手不得手はあるが使おうと思えば誰でも使える。魔導を主に使って戦ったりする奴らの事を『魔導士』って言うんだ。ここまでいいか?」
僕は大方理解出来た。緑術も魔導に近いような感じがするからだ。対して、考えることや緑術が苦手なバドはあまり分かっていないようだ。端から見ると、バドとデニーは良く似た兄弟に見える。色は正反対だがこのさい関係無い。
「それで魔導具ってのは魔導の力を秘めた、利用した道具のことだ。この空瓶は空気に触れると炎が出るように魔導がかかっていて、フレイムボトルって呼ばれている」
横のテーブルから空瓶を取って、デザートの皿をどかして真中に置く。見た目は本当に空の瓶で仕掛けがあるとは到底思えない。
僕は今の話と空瓶を見て思い出したことを言ってみた。
「ただの木箱なのに冷気が出て、保存できる冷蔵庫や、ボタンを押すと火が出るコンロというのも魔導具なのですか?」
「ああ、そうだ。一般的な物だ。小さい村でもそれぐらいはある」
バドも疑問に思っていたようで頷いている。納得したところで話の続きに耳を傾ける。
「俺の大事な相棒、蒼雷の斧は魔導武といわれているものの一つだ。まあ魔導具の武器バージョンだ。蒼雷の斧は名の通り蒼い雷の力を秘めている。これでも結構貴重で、強力な方だ。そもそも魔導武の数は少なく、ドワーフ族しか作れないらしい。あ〜ドワーフ族ってのは……武具作りが上手い種族で……見たことないからどんなのか分からないが、とにかくそういうことだ」
聞きたいと思ったところで逃げられてしまった。とはいえ知らない物を訊いてもしょうがないというのも事実だった。
一旦話を区切って、デニーはデザートを頬張る。そして眼つきが変わった。
「この魔導武は元々知っているか、かなり凄腕の魔導士でもなければ見ただけでは気付かないと言われている。つまり、エリウス……お前は凄まじい魔力を秘めている、はずだ。緑術ってのが関係あるかもしれないが、なぁ……」
ちょっと睨んだ感じで恐かったが、最後にはバドを見て馬鹿にするように笑っていた。バドはそれに気付いて怒鳴っていた。
デニーが言うのだから本当だろう、そう思ったが実感が無かった。魔力が凄い、といわれてもどうしようもない。だが、本当に炎を出したり傷を癒すことができれば、この先楽になるだろうと心の中で喜ぶ。
「ま、説明はこんなところだ。それでこの前の食事のお礼としてこれをやる」
デニーがそう言ってズボンのポケットから出したのは一つの指輪だった。余計な飾りは一切無いが、それ自体が金色で、綺麗で、とにかく高そうだ。
僕とバドは顔を寄せ合ってそれに見入った。
「聖光の指輪って言ってな、結構貴重な魔導具だ。売れば十万金貨(キフラム)ぐらいにはなるんじゃないかな。分からないが、売れば普通に暮らす分には一生大丈夫な額だ」
僕とバドは目が飛び出るかと思った。一キフラムでも相当なものなのに、二万となるとずば抜けている。いつも目にしていたのは銅貨(ドフラム)、良くて銀貨(ギフラム)だった。僕らのような小さな村に住む人間にしてみれば、十ギフラムもあれば生きていける。
僕らは指輪とデニーを交互に見る。デニーは苦笑いをしていた。
「気にするな。ちなみにその指輪の力は傷を癒したり、光を出したりすることだ。魔力の強い者しか扱えないから俺にはいらねぇんだ。金にもそれほど困ってないしな。貰ってくれ」
とてもじゃないが受け取れなかった。それどころか触ることも出来ない。冷や汗が吹き出てきて、僕とバドは互いの顔を見ては指輪を見て、指輪を見てはデニーを見た。
「俺の為を思うなら貰ってくれ。できれば売らないで使ってくれたほうが嬉しい。な、頼むよ」
デニーが頼むのはお門違いだった。僕らはそう言われてしまったら喜んでもらうしかなかった。デニーが言うには僕の方が、魔力が高いそうなので、僕は右手の中指に指輪をはめる。
指にはめた指輪を食い入るように見つめていると、デニーが現実に連れ戻してくれた。
「もう一つなんだが、お前らこれからどこ行くんだ?」
唐突な質問にまたも僕らは顔を見合わせて言った。
「どっか」「近くの街にでも」
基本的な意味は同じだった。デニーはなら、といってから泡立った麦酒を一口飲んでいった。
「次の町まで一緒に行かないか? 俺も用があって一番近くの町に行く予定なんだ。おまえらがよければだが……どうだ?」
顔を見合わせることなく意見は一致していた。そんなのは当たり前だ、と言わんばかりに声を張り上げる。
「もちろんだ!」「お願いします」
デニーの顔が明るくなり、子供のように笑う。つられて僕らも笑う。笑いは次第に大きくなり、客のいない食堂で声に出して少しの間笑いつづけた。
部屋に戻ってから五分もしないうちに支度を整え、宿を出て、来た時は反対方向の出入り口の前で止まる。
「本当に俺と一緒でいいのか?」
僕の顔を見ていたって真面目な声でいった。何処かいつも笑っている雰囲気のあるデニーが言うのだから心配してくれているのだろう。
僕はゆっくりと笑顔で頷く。僕とデニーを挟むように立っていたバドが「早く行こうぜ!」といつものように急かす。
そうか、とデニーは喜んでくれた。始めの町から出て、僕らは次の町へと足を進める。
代理人のキツめの感想
ん〜、いいですねぇ。ジュブナイル的な冒険譚っぽくて。
キツめとリクエストされたけど、キツくするところがないや(笑)。
とは言え頼まれたわけですし、荒さがしに近いですがいくつか。
一、行を詰め過ぎていて読みにくいこと。
ネットで表示するのであれば、ある程度適当なところで改行すること、また行間を一行ずつ空ける事を心がけたほうがいいと思います。
二、「ビッグワーム」じゃなくて「ビックワーム」なんでしょうか?(爆)
・・・本当に荒さがしだなぁ。
それはさておき、今回の話で一番気になったところなのですが・・・
エリウスとバドは何故貨幣という物を知っていたのでしょう?
序章と一話を読む限り、彼らの故郷はきわめて閉鎖的な村であり、
また自給自足しているように見受けられます。
「コンロ」や「冷蔵庫」と言った魔道具がある以上、外とはある程度の交流があるのかもしれませんが
それにしても自給自足社会の村の中で貨幣を使用する機会は無に等しいように思えます。
言い換えると、村の中に限っていえば貨幣経済が存在するとは思えません(苦笑)。
まぁ、私が何か勘違いしてるのか、あるいは伏線なのかもしれませんが。