「あの………大丈夫なんですか?ジウさん一人で.........」

ジウさんに助けられた日の翌日、私はそのジウさんと一緒に丘の上にいた。望遠鏡を持たされて。

「そんなことより、見覚えのある奴はいるか?」

「……いません」

私は望遠鏡で森の方を覗きながら、言葉を返す。

―――でも、凄いな、この望遠鏡。おじさん達の顔がよく見える―――

私は、今、ジウさんのお仕事のお手伝いをしている。理由は、彼が討伐するはずの盗賊のおじさんたちを、私が一度見てるから。

いや、私が見たと確定したわけではないけれど………。







昨日。

「私を追っていた………人たち………」

私は彼らの目の前で、そのことを言ってしまった。

ジウさんとラドさんは、顔を見合わせ、なにやら困った顔をしていることに、私は不思議な恐怖を感じたのを、覚えている。

「いる場所は、大体分かっているのか?」

「ああ。地図で言うと、ここらへんにある洞窟にいるらしい」

ジウさんの言葉に、ラドさんはもう一度懐に手を伸ばし、机に地図を取り出して広げて見せた。

ラドさんがある一点を指差したのを、ジウさんはゆっくりと見ていた。

「ここからそう遠くないな.........。近くもないけど………」

ジウさんは、ぼそっと呟くと、私の方に振り向いた。

「―――勘違いってことも考えられるが―――お前を追っていたのは、九割方そいつらだろうな。だとしたら」

ジウさんのその時の表情が、私の脳裏に焼きついて仕方がない。だって、無表情であんなこと言うんだもん。

「明日、俺に付き合え。お前が見たことのある奴がいたら、盗賊でなくとも前科持ちは確定だしな」

思いっきり、命令口調だったし………。

しかも、それって、私にもう一度恐い目に会えってことだったんだよね。それを平然と言われても、こっちは困っただけなんだけどね。

私の心中を察したのか、ジウさんはこの時こう言った。

「危険な目にはあわせないよ」

と言われても、全く信用できる答えではないんだけどな。

「まぁ、今日はゆっくり食事して、ゆっくり眠りな」

ラドさんがこう軽い口調で言ったのを、最後に覚えている。

とりあえず回想終了。



なぜだろう?

私って、いろんな問題を抱えてる。

仕方がないことといえば、それまで。けれど、私にはどうしても理解できなかった。

なんで、私だけが、ってことではない。それよりも、私でなくてもいい不幸が、こう何度も来るのだろう、ということだ。

いや、悪いこと立て続けに起きているにもかかわらず、未だ生きているのだから文句は言わないでおこう。言うと、バチがあたりそうだし。

死ぬよりはマシだ、うん。

私は気分を切り替え、望遠鏡に手をかけた。私の目には森に武装した何人かの人間が見えている。見覚えのある人はいなかったけど、恐らく私を追っていた人だ。確信できる。

それにしても、ジウさんは本気なのだろうか?一人で、20人を相手にするなど。正気ではない、と普通なら言うだろう。

多勢に無勢が分かっていながら、戦いを挑むのがどんな難しいことか、ジウさんは知らないのだろうか。

例えば、戦争などで自分より多い数を相手にするのが不利なのは、少数では体力も保てないし、連携も出来ないからだ。逆に大軍は役割分担などで、体力の消費を抑えられるし、1人を大勢で囲んで攻撃することができる。

それほどまでに、ジウさんは強いのだろうか?確かに、私を助けてくれたあの時のジウさんの気迫に強い恐怖を感じたけれど………。

………いや、問題点はそこじゃない。

「ジウさん、本当に……」

「くどいな。あいつらが相手なら、大丈夫だ」

違う。私の言いたい事はそんなことじゃない。

「………なら、いいですけど」

でも、私はすんでのところで、本当に言いたい言葉を押し留めた。それを言うことは、ジウさんにとって深手を与える結果になってしまいそうだったから。

私は不安だった。

ジウさんがこれからしようとしていることについて、私は不安だった。

本当にジウさんは人を殺す気なの?

これから始まるのは、殺し合い。だから、ジウさんが人を殺すかもしれないということは、当然なんだ。当然………なんだ。

だけど、心がそれを受け付けない。理屈だけでは到底、分かることなんてなかった。

―――ジウさんはお金が欲しいの?

―――この人は人を殺すことに何も感じないの?

―――子供でも殺せちゃうの?

下らない憶測が私の胸の内を駆け回った。

彼は私を助けてくれた恩人なのに、どうしても思い浮かぶのは悪い想像ばかり。金の亡者、虐殺者、血も涙もない“悪魔”。どれもこれもひどい邪推だ。もしかしたら、間違っていないかもしれないけど。

でも、私にはそれらの邪推が間違っている気がした。無表情の下に何があるのかは知らないけど、彼はひどい人間じゃない気がした。

私はジウさんの方を向こうとした。でも、私には無表情をしているであろう彼の顔を見ることは難しかった。

私は恐かったのだと思う。これから人殺しをする人が、罪を犯そうとする人が、微笑むかもしれないという現実が。

でも、私は昨日、笑った。それこそ虐殺者であるはずの私は、ひどいことに罪を忘れて笑った。

私が“本当にジウさんは人を殺す気なの?”と言えなかったのは、単に自分の罪を突かれるのを恐れたからなのかもしれない。彼は私の罪なんて知るよしもないだろうけど。そして、心の中で自分のことを棚に上げて、ジウさんを責めて、そうして、自分の罪をなかったものにしたかったのだろう。

最悪の人間だな、私。

いや、“あの人”たちの言うように、人間ですらないのかもしれない。だったら、それはそれでいいだろう。そちらの方が楽になれる気がする。そういう現実逃避も悪くない。

「なぁ」

その時、ジウさんが急に声を上げた。その声は、穏やかだったけど、私にとってはそれが痛かった。

「はい?」

私は振り向けなかった。振り向いたら、心の中で思っていたことを責められそうで。だから、私は望遠鏡に必死に瞳を近づけて、そこから離そうとはしなかった。

それでも、ジウさんは尋ねる。

「お前は、人が人に殺されることを見たことがあるか?」

何のつもりでそんなことを私に聞いたのだろうか?私の思考を読みでもしたのだろうか?

私は急に恐くなった。恐くなって、私はジウさんの顔を見ることが更に出来なくなった。

でも、彼の問いに関して、私は、私は嘘を吐こうとは思わなかった。

「あります。それもたくさん」

すると、ジウさんは重い声で、こう返した。

「そうか。………嫌なことを聞いたな」

私はもう彼の傍にいることが辛くなってきた。ジウさんのせいではない。

このまま、彼の傍にいると、嘘をつき続けそうだったから。

ジウさんにじゃない、私自身に嘘をつき続けそうだった。誰かに嘘を言い続けなければいけない私は、誰に嘘をつくよりも、自分に嘘をつくことの方が嫌だった。

「いえ、それよりも見つけましたよ。………見覚えのある人」

これは嘘じゃない。思考の迷路に陥っていた私は、自分を追っていたその一人を見つけることが出来たのだ。

彼に、言えはしなかったけど。

だけど、今は言った。自分がどうしようもなくなる前に。

「そうか。なら、お前はここにいろ。背後に気を付けてな」

私に対する指示を与えたジウさんは、彼は色のジャケットを脱ぎ、私に手渡した。そして、そのまま、今私が望遠鏡で見ている場所へ向かった。

その背中にどこか、寂しさを感じたけど、私はそれ以上に、罪深い私を責め立てるだれかの姿にダブって見えた。





「ラド君といったね。その………本当に大丈夫なのかね?」

「何がです?」

俺は目の前のご老人の言葉に返事を返した。

このご老人こそが、今回のジウの仕事の依頼主であり、この町の領主でもある………えと………名前、何だっけな?

ま、いいや。それより、この爺さんが何を心配してらっしゃるのかが、気になるね。

「いや………何がと、訊かれると困るのだが……………」

へえ、どんなことを訊きたかったんだろ?

俺は肩に伸びる金髪を指先でいじりながら、この爺さんがお困りになっておられる顔をじっくりと堪能した。しかし、こういう困った顔はいつ見ても気持ちがいいね。特に美女が困ったお顔をなさると、一番愉しいんだけど。

どうせだから、もっと困らせてやろう。

「ジウが助けた女の子のことですか?」

俺がそう言うと、このご老人は子供がふてくされたような顔になられた。………面白いな、あの顔。

「すまんな。ああいうチンピラを取り締まろうにも、何分、人手が足らんのでな。しかし昨日の件は、奴等にとってもいい勉強になっただろうな。」

だったら、授業料がほしいんだけど。

ま、そんなことは気にせずに、俺は俺の娯楽を愉しむか。

「ああ、その件は気にしないで下さい。うちの馬鹿が暴走しただけですから。しかし、あなたでしたら、うちの青少年があの女の子に対して手を出さないかどうかを、心配なさると思ったんですがね。何しろ、あの年頃は性への関心が強い割に、無防備な一面がありますから」

その言葉に、ご老人は赤面し、そして先程の困った顔に戻った。

「ご冗談はやめていただきたい。私が心配しているのは………」

声が上ずってますよ、ご老人。もう少し、落ち着いてから、喋られるべきでは?

心では思っても、声には出さない紳士ラド・ブラッドハンズなのであった………なんてね。

「あんな幼い………いや、失礼、あんな若い子供が一人で大丈夫なのか、ということなんだがね」

ご老人、真面目になりすぎ。けど、からかいの時間はもう終わりか。なんだか、つまらないな。

でも、仕方がないか。人は娯楽だけで生きるにあらず。

「大丈夫ですよ」

俺は言い切った。

「いや、だが、君も念のために行った方がいいのでは………?」

あいつが嫌がるんだよ、俺が行くと。どういうつもりなのかは知らないけど。

もしかしたら、見られたくないのかもしれない。俺だって、親しい誰かに自分が人を殺すところなんて見られたくないし。

「だから、俺が念のためにここにいるんですよ」

俺は言い訳半分、事実半分の答えを返した。

「もし、あいつが失敗、もしくはあいつらとすれ違って、盗賊がここに押し寄せるなんてことになってみてください。いくら、数が少ないとはいえ、彼らはまがりなりにも武装しているんですよ。確実にこの町の半分以上の家屋は全焼、住民の3割以上は死にますよ」

そうなったら、やばいだろ?それぐらいは優秀な領主様だったら分かってくださるよな?

「そうならないためにも、素人を戦闘指揮できる人間が必要でしょう?それも実戦経験の豊富な」

俺は腕こそ鈍っちゃいるが、経験だけはジウにも負けないぞ。

「しかしだね………」

「それにあいつの異名は、決して誤魔化しではありませんよ。あいつの、“赫の猛禽”のあの噂は作り話ではないですから」

俺はなおも言い募るご老人の台詞を切り捨てた。ご老人は呆気に取られた顔で、こちらに尋ねてくる。

「では、本当なのかね、彼が一人で100人もの盗賊を切り殺したというのは?」

ああ、そうだよ。いや、

「ええ。正確には96人でしたが」

あれはひどい惨劇だった。突如、俺たちがその時立ち寄った町を襲った盗賊に、ジウが俺の制止も聞かずに、一人で立ち向かった。数こそ多かったが、所詮は素人の寄せ集め集団、一人一人を相手にしていけば、ジウの敵ではなかった。

数時間も経たない内に盗賊全員の死体が転がり、おびただしい血が地面を流れていたよ。死体の中心で呆然と立ち尽くしていたジウと、あいつに近寄る俺に、そこの住民から容赦なく恐怖と侮蔑の視線が浴びせ掛けられたな。分かっちゃいたが、自分たちの事を自分たちで守れないくせして、と思わなかったわけでもない。

その時に返り血で紅く汚れた、いや、染まったあいつについたあだ名が“赫の猛禽”。あいつはさほど気にしちゃいない素振りを見せたが、それでも心の奥ではどうしようもないほど訳が分からなかったんだろうな。

ご老人も放心したように呟いた。

「あんな少年が………」

全く、同意見だ。最初は人を殺したことに完全に混乱していたんだけどな。もしかしたら、あいつは今もまだ混乱しているのかもな。

あの右手(・・)さえ、右手(・・)さえなければ。

どうしようもない感情が溢れ出す。

だからか。今からジウが始めようとしていることが、虐殺にしか感じないのは。見えないものに対する復讐にしか感じないのは。

あの右手(・・)さえ、右手(・・)さえなければ。

あいつは、あんなに苦しむことはなかった。

“シャーリー”も、ジウも、何だってあの右手(・・)のせいであんな思いをしなきゃいけないんだ。幸福を、栄光をつかめたはずの人間なのに。

「それより、このお茶、美味しいですね。どこで、取れたものなんですか?」

無力な自分を噛み締める以外ほかなかった俺は、気分を切り替えようとつとめて明るい声を出した。

俺は頭上を見上げた。

そろそろかな………虐殺が始まるのは。

憂鬱な気分だな、全く。





森の中を歩きながら、俺はとりとめもないことを考えていた。

俺は一体何をしてるんだろうか。

こうやって、カネのために殺し合いにわざわざ出向いて、剣で人を斬る。

自分が死ぬかもしれない。

相手に殺されるかもしれない。

どれだけカネを手に入れたって、何の得にならないかもしれない。

いるかもしれない家族から男たちを、この世から奪うのかもしれない。

嫌な仕事だと、つくづく思う。

だけど、俺には他にすることがなかった。

大体、他に何がやれるのだ?泥棒?詐欺師?麻薬か奴隷を売る商人?

どれもこれも陳腐なものばかりだ。陳腐なだけじゃない。結局、法や道徳が禁じる職業じゃないか。だったら、傭兵の方がよりマシだ。

少なくとも、法で裁かれることもない。

――――だけど。だけど。

じゃ、何で俺はこんなに乗り気じゃないんだ。

この職業が本当は嫌なのか?昔の弱かった自分のせいで、仕方なく歩まされているこの職業が、俺は本当は嫌なのか?

だけど、仕方がないじゃないか。

俺にこの右手(・・)を捨てろと言っても無理な話なんだ。痛い思いもしたくないし、不便だって感じたくない。

だから、仕方がない。この仕事しか俺にはないんだ。

何も人殺しだけじゃない、俺の仕事は。

鉄をも切り裂く爪牙を持ち、人間のそれをはるかに超えた筋力を備える魔物の退治。

金持ちの商人や、貴族の紳士淑女、または、それらの御曹司やご令嬢の護衛。

そこまで、悪くないじゃないか。仕事を選びさえすれば。

だけど。

思い浮かぶのは、“人殺し”という単語。

―――お前は、人が人に殺されたところを見たことがあるか?―――

何故、そこに行き着くのだろう。

人が人を殺すこと。人が人に殺されること。

平和も何もあったもんじゃないこの時代ならば、至極当然のことだ。だから、気にすることではないのに。

人を苛々させる相手を好きなだけ殴るのには罪悪感を感じないのだ。なのに何故、人を殺すことは喧嘩と、こうも違うんだろう。

恐いのか?

相手の死が自分の死の想像と結びつくのが。

だからか?

こうも人を殺すことに躊躇を覚えるのは。

でも、この道を選んだのは俺自身だ。俺自身なんだ。

引き返すことはない。引き返してはならない。引き返せない。

何かが俺に告げる。

何故、引き返してはいけないのか、論理的に説明されない。

だけど、何かが告げる。

引き返すな、と。

俺は右手(・・)をギュッと握り締めた。

何度、迷えば気が済む?

もう戻れないなら、進むまでだ。その道が間違っていようと、その先に地獄が待っていようと構わない。

その方が、人を殺した俺のような“悪魔”にはぴったりだ。

そう思うしかない。

俺は目的地に辿り着いたみたいだった。

大きな洞窟を、武装した二人の男が見張りをしている。両方とも、かなり痩せている。

俺は見張りにばれないように、そっと木の陰から相手の挙動を窺った。

ラドによれば、大勢の人間が雨露をしのぐような場所はこの大きな洞窟しかないとのことだ。中は乾燥していて、長期間の野宿には最適らしい。

最適ね。

これから、俺のせいで最悪に変わるかもしれないが、仕方がないと諦めてもらうしかないだろう。

―――人殺しか.........。

俺は先程の逡巡にケリをついた。

今のように、いくら迷ったところで、答えが見つからないのだ。

そう、なのに、何度、迷えば気が住む?

俺は、じっと盗賊らしき、そしてユニトを追っていたらしい、その一味の縄張りを、気付かれぬようにじっと見つめながら、自嘲的な笑みを口の端に浮かべた。

―――なら、俺は俺らしく行くか。

俺は腰に装備してある、投擲用のナイフを二本、手に取った。

これで、人を殺す。

俺は先程の迷いも、甘さも捨て去り、両手にわずかに力を込める。

両手の力加減をそのままに、木の陰から姿を盗賊達に見せた。

「な………!!」

男たちの口から何か言葉が発せられる。

だが、最後までは言わせはしない。そのようなヘマはしない。

俺は腕と手首を小さく動かして、ナイフを投げた。俺の手から白刃が宙を飛んで行く。

そのまま、するりとナイフは男の一人の首に、男の一人の肩に深く刺さった。

一瞬の間。

男の一人は喉を貫かれたから、もう一言も言えぬまま死ぬだろうが………。

「ぐうっ.........!!」

もう一人の方は外したか。深手のようだが、致命傷には程遠いな。

俺は、仲間を呼ばれる前に、敵に近付く。

腰の長剣はすでに、抜いている。

「て………!」

―――大声を出そうとするな、馬鹿野郎。

だが、最後まで言わせなければ、意味はない。

その言葉が放たれる時には、もうすでに俺は自分の攻撃範囲内に男を捉えていた。言葉を言わせる前に俺は剣を振り、相手の首を両断した。

身体から離れた男の頭は地面に転がり、首からは噴水のように血がピューピューと吹き出している。

返り血が俺に降りそそぐ。体が赤く染まる。

まあ、いい。

あのジャケット、ユニトに預けて正解だったかな。おかげで、汚れずにすんだ。

人を殺したことにもかかわらず、返り血に汚れたことにもかかわらず、不思議と思っていることはそれだけだった。

不気味だな、俺って。狂っている人間としか思えない。

いや、狂っているんだ。

あんなに人殺しが嫌だと思った割には、人を斬った時の、表現しようとしても、しきれないあの快感が、今もまだ掌に残っている。人をもっと殺したいと、掌が求めている。

あまりに掌がそれを求めて騒ぐものだから、心が乱されて仕方がない。

だったら、掌が求めているなら、与えてやればいい。それで心が和らぐなら。

だけど、本当に欲しいと願っているのは、掌だろうか?俺自身なのではないのだろうか?

どっちでもいいか。どうせ、殺さなきゃいけないやつらなんだ。

そう思うと、自然に顔が綻んだ。どこか、ずれた笑い方ではあったが。

俺は乾いた笑みを浮かべながら、洞窟の中へ入ろうとした。

その時、俺の歩みを止めるものがあった。

人の気配?

俺は後ろを振り返った。

なぜ、ここに盗賊の一人がいる。見回りとやらから返ってきたのか。だとすれば………。

俺は剣を再び握り締めた。だが、男が口を開くのは止められなかった。

「なっ………」

しまった。反応が遅れた。いや………油断しすぎていたのか。

男が声を上げる。

間に合わない。

「敵だぁぁっっ!!」

―――ちっ。

俺は心の中で舌打ちした。

だが悔やんだところで、意味はない。俺は苛つきを抑えながら、相手に向かう。

相手も、俺の行動に気付いたのか、いまだ鞘に収められている剣に手を掛けた。

―――遅い。

俺は剣を大きく振りかぶり、そして相手を縦に一刀両断した。

相手は断末魔すら叫べず、死に絶えた。

とりあえず今はこれでいい。

だが。

「チッ」

洞窟の中から何人もの足音が聞こえてくる。

くそ。やはり聞こえていたか。

いくら俺でも、20人近くもの人間を相手にするのは辛いぞ。さて、どうする?

俺は自問自答した。

そうこうしている間に盗賊たちの足音が近付いてくる。

―――考えるまでもないか。

殺せばいい。

今この時だけは、誰にも奪わせない。人の殺せる至福の時間を、他の誰に奪われるものか。

かりそめの罪悪感に縛られようと、誰に嫌われようと構わない。



全 て を 忘 れ ら れ る か ら。 苦 し み も 痛 み も 過 去 の 記 憶 も。



俺は最悪の人間だった。でも、今はそれでよかった。



すでに俺の目の前には、殺した男の叫びを聞いて、駆けつけてきた男たちの姿があった。













後書き

こんにちは。“最悪の人間だ”のフレーズが、個人的にヒット中のあなたの知らない人です。(あくまで個人的に)ヒットしたので、この言葉、作品前半で何度も使うことにします。使わないかもしれないですけど(笑)あ、でも、自嘲にも軽蔑にも使えるから、かなり使い勝手のいい言葉ではありますかね。

さて次回は(予定ではありますが)ユニトの秘密がいよいよ明らかに。重箱の隅をつつくほど熱心に読んでくださった方(いらしたら嬉しいです)なら、彼女の“カツラ”の存在が引っかかっていることでしょうから、そこのところも、ぜひ期待していてください。仰天させるよう努力したいと思います。

ジウの異名も今回、初めて出てきました。本当は“深紅の猛禽”にしたかったんですけど、“時の流れに”の某女サイヤ人(?)さんとネーミングが被ることに気付きまして、急遽変更。“赫の猛禽”となったわけです。

それにしても、投稿作家の皆様、規約には是非ご注意を(言われるまでもないでしょうが)。早速引っ掛かりました、私。………だって、ピュアテキストの意味が分からなかったんですよ〜(泣)。規約違反に気付いた私はすぐに、「お父さ〜ん、ピュアテキストって何?」と助けを求めました。全く、情けない話です。



では、楽しまれた方も、“こんなクソ作品見てられるか”と思われた方も、読んでくださってありがとうございました。次回も、ぜひお読みください。







P.S.代理人様

>女の子っぽい何かではなく、本当に女の子だよといいたかったのかな?

いや、もう序盤から秘密をばら撒く予定だという意味です。

もう一部ばれてる部分もありますし。……書くにしてももうちょっと、間接的にするべきでしたね(猛省)。



感想代理人プロフィール



戻る

 

某キャラの話になるとスタンピードする代理人の感想

たわけ、北斗は「真紅の羅刹」であって「深紅の羅刹」ではないわっ!

 

そこ、「大して違わねーじゃん」と言った奴らは書き取り千回。

 

それはさておき。

ちょっと、地の文(ユニトの一人称部分)に違和感がありましたか。

「持たされて。」「見てるから」などとぶつ切りの(言ってみれば無愛想さや固さを感じさせる)語尾があるすぐ隣で

「〜なんだもん」「〜なんだけどね」と、歳相応の女の子らしい(言い換えると可愛らしい、親しみやすい)語尾を使われているので彼女に対する印象が一定しません。

ただの口調ならともかく、一人称、つまり内面ですからそうコロコロ変わるのもおかしいんですよ。

あるいは気分屋なり情緒不安定なりであるというならそれでもいいんですが、

それならそれでそう言うことを感じさせる描写が欲しかったかと思います。

例えば最初は緊張していたからぶつ切り語尾、その後はリラックスしていたから本来の女の子らしい口調が出たとか。

 

 

>お父さんに聞いた

いや、それで正しい!(笑)

分からないことがあればどんどん人に聞け!