「俺と一緒に来ないか?」
ユニトの目が点になったのを見て俺は苦笑した。
しばらく、ユニトは言葉の意味が分からなかったのか、何も言えずこちらを黙って見ていた。
ただ、表情を見る限り、嫌ではないみたいだった。
俺はてっきり、明らかに拒絶の意思を見せるのかとも思ったんだが………。
素性を考えてみれば、ユニトが人を信じやすい性格ということは考えられない。単に、他人にそう言われた事が嬉しいのだろう。
―――大人ってのは子供を守るもんだ。違うか?
ラドにそう言われた時の俺と少し似ているかもしれない。
だが、この場合の違う点は、俺もユニトもまだガキだってことか。
「まぁ、じっくり考えてみる事だな。幸い、盗賊の件の事後処理でもう一日はここに留まるからな」
その言葉にユニトの表情が、また少し明るくなった。
もう少し、人を疑う気持ちがあってもいいだろうに。こいつこの性格だと、世渡りがきついぞ。
俺は心の中で嘆息した。
「まあ、結論はお前が出す事だ。どの答えを出しても、俺は構わないからな」
ユニトの明るい表情とは裏腹に、彼女の出す答えは恐らく拒絶だろうという事を、俺は密かに確信していた。
温もりと嬉しさと疑いと
宿に帰った俺は、何をするでもなくボーっと天井を見上げていた。
結局、あいつのことは聞き出せなかったな。
―――馬鹿。何で、“殺したかった”のかっていうことを聞いてるんだ。
ユニトがどうして人を殺してきたのか、それぐらいは知ってる。だけどあいつがどうして、あんな目に遭わなきゃいけなかったのか、それが分らなかった。
最悪、聞き出せないまでも、あいつの溜まりに溜まった愚痴や恐怖を聞いてやるぐらいの事をしたかったが、結局、何も聞いてやれなかった。
―――俺の………せいなのにな。
俺は自分の手を見つめた。
つい先程、人を何人も斬った手だ。そして、ユニトを抱え上げた手でもある。
―――血にまみれた手、か。
そういや、気にしちゃいなかったが、この手は母親を殺した手でもあるんだよな。俺は生まれたときから、人殺しの道が決められていたんだろうな。
だとすれば、俺が人を殺してきたのは運命という奴のせいか。
違っている可能性は大きいのだが、自分以外のものの所為にしてしまうのが、人間の性というものだろう。
―――だけど、ユニトとここで出会えたのは、ある意味、運命か。
嫌な運命だ。
俺にはユニトのこれまでの暗い過去が、手に取るように予想できた。
だが、多分、俺はユニトに対して何も出来ないだろう。
いや、出来ないじゃないな、しないんだろうな。その気になればいくらだってやれることなんだから。
だからか、一緒に来てくれる道をあいつに選んで欲しいのは。
この際だ、“アイツラ”も全員ぶち殺すか。悪くない考えだ。受けに回るよりも、攻めに回る。なかなか、爽快な気分だろう。
だが、あいつを狙ってるのは、他にも何百人といる。下手な奴だと、ユニトを奴隷というよりも、珍獣として扱う恐れまである。
だからといって、あいつを無理矢理俺たちと一緒に旅させる?だが、そんなことをすれば、“アイツラ”と一緒になってしまう。
それこそ、冗談じゃない。
じゃあ、どうすればいいんだ?
俺はその問いに答えを出せぬまま、ベッドに横たわり、そのまま、じっと目を瞑った。
「凄いな………」
男の一人が、放心したように呟いた。
太陽が沈みかかっていて、森が暗くなりつつある事が、更に恐怖を増長させているのだろう。
目の前に広がるのは、死体、死体、死体、死体、死体、死体。
「これを何人いるのか、数えるのか?」
男のもう一人は、今からしなければならない行為を、酷く面倒臭そうに言った。だが、その顔は明らかに引きつっている。
確かに、こんな異常な風景、常人だったら確実に見たくないって言うよ。
俺はジウの仕事の結果を、町人とともに確認しに来たのだ。いくら、仕事を受けても、結果報告がデマなら事態は何ら変わりがない。
ちなみに、男が死体を数えると言ったのは、国に征伐された罪人の数を報告しなければいけないという規則があるからだ。とはいえ、焼死などの場合も考えて、その数は大体見積もりで構わないらしい。
「数える必要はないと思いますよ。それよりも、彼らを埋めましょうか。このまま放置しておいてもいいんですが、それだとそちらがお困りでしょう?」
俺は出来るだけ、親切な口調で言ってやった。
まあ、でも、百人斬りの時に比べれば、大分マシだよ。ジウは少しやりすぎたみたいだったみたいだがね。
「そうですね、そうしましょう」
男達は俺の提案に従ってくれたみたいだった。
死臭が漂うと、きついからな。賢明な判断、おめでとう。
しかし………最初は、可愛い女の子でも連れてきて欲しかったが、確かにこりゃ女の子に見せるには衝撃的かな?
衝撃を受けてる美女を、俺が格好よく慰めるって手もあったにはあったけど………。
いやいや、しかし、この惨状の原因、実は俺の連れだし、慰めた後に反感くらいそうだな。
ま、いいや。町に戻ったら適当な女の子でも口説こう。
そういや花屋の看板娘、結構な美人だったっけ。三つ編みのおしとやかそうな女性だったな。帰ったら、早速口説いてみようかな。
「はい、これスコップです」
俺は男にスコップを手渡された。
おっとっと、まずいまずい。無意識の内にバラ色の世界に旅立ってたよ。これから、遺体を弔うというのに、不謹慎だなー、俺。
こいつらに呪われるかもな。少なくとも、バチは当たりそうだ。
まあ、暗い事に捕らわれすぎても、ダメだってことで。人生明るく、元気よくってね。
そういや、ジウの助けたユニトって女の子も、結構可愛かったな〜。年齢がジウより年下っぽかったから、手は出さなかったけど。
いやぁ〜、しかし、ジウも隅に置けないよなぁ。
―――ユニトがもしかしたら、もしかしたらだが、俺達に付いて来るかもしれない。
帰ってきて、いきなりこれだもんなぁ。
あの女の子に何したんだろ?ま、道徳的なことならいいんだけど。
俺は思わず、この惨状の中で笑いそうになった。
いくら何でも、それはまずい。不謹慎すぎる。
俺は自分の行動が挙動不審にならないように、人一倍穴掘りに精を尽くした。
だけど、ジウがあんなこと言うなんてなぁ、どういう心境の変化だろ?女性には無関心な風だったのに。
あいつが、そのように装っていたなら、分からない話でもないけど、あいつはそんなことで格好つけるほど、器用でもないし。
何か、匂うな。
帰ってみたら、少しばかし詮索してみるか。一応、俺はあいつの、保護者だしな。
自分の考えに、俺はわずかに、苦笑を漏らして夕日を見上げた。
橙が綺麗な夕日だったが、それが死体をくっきりと照らしているのが、無性に勿体ないと、自分らしからぬ事を考えてしまった。
―――バチン......バチン......。
私の耳の奥で、乾いた音がした。
小さいころから何度、あの音を聞いただろう?何度、背中を鞭で叩かれただろう?
“あの人”たちが私に、自分達の都合で、命令するために、私は何度も叩かれた。
動物と子供は暴力以外じゃ、人の言うことを聞かない………って言いながら、何度も何度も叩いた。
泣き叫ぶと余計に叩かれた。
それは私が何歳になっても変わらなかった。
痛くて、苦しくて、辛くて………。
それでも、叩かれた。
私が気絶しても、“あの人”たちは鞭を振るい続けるから、すぐに起こされた。
私を叩いていたおじさんの顔は覚えていない。だけど、私が苦悶の表情を浮かべる度に、私が哀願の言葉を発する度に、にやりと笑っていたのは印象に残っている。
それから、人殺しに出かけさせられる。
強そうなおじさん達が私の護衛に、私の監視に付いて、そうして猫なで声でこう言うんだ。
―――あの男の人を殺せばいいんだよ。
―――あの小っちゃ女の子も忘れないでね。
―――今度はあのお爺さんだよ。
そして、最後にこう付け加える。
―――これが終わったら、美味しいご馳走が待ってるから、頑張ってね。
そうやって、幼いころの私をつり上げようとした。
だけど、“あの人”たちの言う通り出てきたご馳走を、私は決して食べられなかった。
殺した相手に対する罪悪感は覚えない年頃だったとしても、断末魔、宙を舞う首、死体の虚ろな瞳、飛び出す内臓、吹き飛ぶ四肢、私に降りかかるおびただしい量の血液、そして向けられる剣。人を殺したという事実よりも、本能的な死への恐怖。
そのどれ一つ取ってみても、幼い私に悪夢を見せるのは十分だっただろう。
それでも、こうして正気を保っていられるのは、皮肉なことに、私を人殺しに駆り立てた原因のおかげだと思っている。
さもなければ、気が狂って何も喋れない、何も考えられない状態になっていてもおかしくないのだから。
でも、必死で自分を保っている私に向けられたのは、いつも温かな言葉ではなかった。嘲笑、憎悪、欲望、そして拒絶。
………私はいつも一人だった。
―――俺と一緒に来ないか?
だから、ジウさんにそう言われたとき、嬉しかった。
嘲笑でも、憎悪でも、欲望でも、拒絶でもない、温かい言葉。あのときから、永遠に失くしたと思っていた、あの温かさがようやく戻ってきたような感じだった。
けど、もし、何かを企んで言ったのだとしたら………。
思わず体が震えた。
大丈夫…大丈夫。あの人は、きっと私を騙してない。
人を騙すのは、“あの人”みたいな、善人を装ってる人なんだ。ジウさんは本当の善人だから、私を騙してない。
………そう信じたい。
背中の傷跡が少しだけ、疼いた。
私の背中の傷は、完全に癒えることはなく跡が残り、虹色の髪と同じく私の心の重しになっている。
そう感じるたびに、右腕が急に痺れるようになる。自分の心を表しているかのように、震えるんだ。
私は自分がどうしたいかに気付いた気がした。
私は………ジウさん達と………。
コンコン。
「開いてるよ」
俺は扉を叩く音に、返事を返した。
「入るぞ〜」
何だ、ラドか。しかし、何の用だ?今、俺とあいつは同じ部屋に泊まっているのだから、わざわざ断って入ることもないだろうに。
「どうした?」
ラドは俺の問いに口の端を微笑で曲げて、俺と同じようにベッドに腰掛けた。
「いや、結構な収入になりそうなんでね」
俺はそれを聞いて、すこしうつむいた。
カネは………正直、いくらでもある。小さな仕事から、大きな仕事まで、俺に来た依頼はいくらでも受けた。
カネが欲しかったわけでもないが、生まれのせいだろうか。出来る仕事は何でもやった。いや、やらせてもらった………か。
「ん?どうした?」
俯いてたせいか、ラドは俺を心配するような言葉を口にした。こういう変なところで保護者ぶる、こいつの優しさに、俺は正直救われている部分があった。
だから、悪いとは思っているが、今回も甘えさせてもらう。
「いや……もし、ユニトが一緒に来なかったら、そのカネ、あいつに渡していいか?」
ラドは豆鉄砲を食らったような顔になった。
当然だ。昨日出会ったばかりの赤の他人に、自分で稼いだカネを手放すなんて、誰だって驚くに決まっている。
だけど、俺にとっては赤の他人でもないんだ。………ユニトは。
「そりゃ、別に構わないけど、どうしてだ?」
ラドは薄笑いを浮かべながら、質問した。
今はもう驚きより、からかいの要素の方が濃く出ているように思える。
「ちょっとな………」
こいつのからかいには付き合えない。
「なるほど、聞かれたくないわけか。じゃあ………ユニトのことについて聞いてみようかな」
そのとき、ラドの顔が急に変わった。相変わらず薄笑いだが、その笑みには、思わず引き込まされそうになる何か、怖いものがあった。
威圧………とは全然違う、彼自身が持つ自然な強さ………と言うべきかもしれない。これが敵としてなら、俺はまず一歩後ろに退がっていただろう。
久しぶりの感覚に、俺は苦笑いを浮かべた。
まだ、俺はラドの足元にも及ばない………な。今更ながらに思い知る、この男の実力と底の深さを。
それだけに、そのラドが何を言わんとしてることに、少し俺はたじろいでいた。
「あの子、何で変装してるの?」
ラドの核心を突く言葉に俺は俺は驚いた。
何せ、俺はユニトのカツラが取られるまで、あいつが虹色の髪を持っているということに気付かなかったのだ。俺は、あいつを“知っていた”のに―――。
だが、言葉が上手く出せない。ラドの事を信用してない訳じゃないが、言ったことで何が起こるか予測もつかないのだ。
「いつから、気付いてた?」
ようやく出せた俺の言葉にラドは苦笑し、あっさり答えた。
「ああ、じゃ、あれやっぱりカツラなんだ。いや、お前が助けたときから、ちょっと気になってな」
この言葉から関するに、ユニトの変装については確信が持てずにいたようだ。ということは、ユニトの正体が分かっているわけじゃないんだ。
にしても、これがこいつの底の深さなんだよなよな、とつくづく思う。俺では、気付けなかったのに、こいつは見た目だけで、それを見抜いていたのだ。全くもって、恐ろしい男だ。普段はただのボケのくせして………。
「理由は俺もよく知らない。ただ、顔がばれるとマズイことになるらしい」
正確には、顔じゃなくて髪の毛だけどな。
何はともかく、俺はとりあえずシラを切ることにした。こいつにシラを切ったってあまり意味がないことではあるが、ユニトのことは出来るだけ秘密にしておきたい。
「なら、アレと関係あるのかなぁ?」
ラドは手をあごにやり、俺に向き直って質問を投げかけた。
「ニレカ・ラストマジックって知ってるか?」
―――ニレカ・ラストマジック、ROYGBIP暦696年にウィスアの隣国、メルク王国で生まれた貴族の令嬢だ。彼女は、ROYGBIP歴715年から734年にかけて起こった
“灰色の乱”の混乱に乗じ、728年に政権の独占を狙った行動を起こしたが、失脚し、その後の行方は不明である。
だが、その名前には何の驚きもない。本当に驚くべきは………。
「あいつ確か、ラストマジックって名乗ったよな.........」
ニレカ・ラストマジックと同じ苗字。ただの偶然………とは、どうにも思えない。
しかし、新しい発見は驚きだった。
何せ俺はあいつの苗字など、全く眼中になかった。ユニトの虹色の髪、それが“神の人形”であるということで頭がいっぱいだった。
ニレカ・ラストマジックなどに気付くはずもない。
「なんでそれが、変装する理由に繋がるか、俺には分からないけどな」
俺にも、それは分からない。
いや、分からないのはそれだけじゃないな、きっと。俺はユニトと過ごしてきたわけじゃない。あいつの出生も、あいつの酷い過去も、あいつの心も、皆知らない。想像でしか知らない。俺が本当に知っているのは、あいつの一部分にも満たない量だろう。
ただ、一つだけハッキリしているのは、あいつの名前、虹色の髪、そしてあいつを守ってやりたいという気持ち。
償いたい、恩を返したい、という気持ち。
だけど、俺には無理だ。ユニトに対しては無理だ。
ユニトはきっと拒む。忘れている過去を思い出しても、多分結果は変わらない。
―――あいつ、怯えた瞳をしてた。
それは、俺に対して、世界に対して。
「ラド」
「何だ?」
俺はつい尋ねた。
「他人から見て、俺はどう見えるんだろうな?」
ラドは言葉に詰まり、痛い表情になった。
「怖く見える?それとも、憎しみの対象?」
優しく見えたら、ユニトに付いて来てもらえるかもしれない。俺の自己中心的な、償いと恩返しが出来るかもしれない。
「生きてちゃいけ………」
―――生きてちゃいけない存在に見える?
俺はそう言おうとしてラドに阻まれた。
「らしくないじゃないか、今日は」
ラドはおもむろに優しげな微笑みを浮かべた。
「いつものお前だったらそんなこと、気にしないぞ。それとも、なにか、あの子にでも惚れたか?」
「それはないさ。きっとね」
俺はそう言った。
あいつに惚れるとかいった感情の前に、俺は過去の出来事にこだわるだろう。
「ジウ………」
「ん?」
「お前、同姓愛好者ってことはないよな?」
俺は危うくひっくり返りそうになった。
「何だ、それは?」
ラドの冗談をいつものように軽く受け流しながら、俺は微笑を浮かべた。
俺の思っている以上に、ラドがいてくれてよかったかもしれない。そうでなければ、あまりに孤独すぎる。
あいつを守りたいと思うのは、あいつが同じように孤独だからということも関係してるかもしれない。
何がどう変わることもなかったその夜は、ラドともう少しだけ話をして、眠りについた。
そして、2日後―――
私はジウさん達が荷物を纏めるのを、黙って見ていた。
私の心境は複雑だった。
ジウさんを信じたいという気持ちと、ジウさんを疑う気持ち。
そうして、未だに答えが出ずにいた。
だけど、そのことを考えられる期限はもう過ぎている。答えを出さなきゃいけない。
「で、ユニト、答えを聞かせてくれるか?」
ジウさんは最後の荷物をリュックサックに詰め込んだ後、私の顔を覗き込んだ。
その視線が痛かった。
もし、私が断ったら、ジウさんは私のことを追求するだろうか?私を強引に連れて行くだろうか?
でも、それじゃ、ジウさんが“あの人”たちと同じになっちゃう。
「一つだけいいですか?」
私は疑問に思っていたことを、口に出したかった。
「ジウさんは、私を連れて行くことで何か利益になることでもあるんですか?」
ジウさんの瞳が少しだけ揺らいだ。でもそれだけだ。後に残ったのは、感情を窺わせない全くの無表情。
その無表情の口から、静かに言葉が零れた。
「そうだな.........。不幸な奴を助けたことにより、俺の満足感が多少満たされるな。それから、何かあった時、お前の“力”で守ってもらえるかもしれないって言う保険………かな?」
その言葉には何の抑揚も込められていなかった。
「保険と満足ですか?」
だからこそ、私には保険って言葉が気になった。
「まあ、ありていに言えば、俺もお前のことを道具としか見てないかもしれない」
ジウさんの言葉が私の胸を突き刺した。
痛くはない。悲しくもない。寂しさと虚しさだけだ。
道具として、見られるのは嫌いじゃないけど、人間として認めてもらえないのは、すごく苦しい。
「それから俺の方も一つだけ言っておくけど、お前なんかに頼らなくても、自分の身ぐらい十分守れる」
私は少しだけ俯いた。少しだけ。
「で、どうする?来るか?来ないか?」
ジウさんが私を急かす言葉を出した。
私の人生というのはつねに分岐点があるらしい。ここでまた私の人生が変わる。
ジウさんが私を利用する腹なら、また地獄が始まるかもしれない。
ジウさんの私に対する好意なのだとしたら、今までにないほど幸せになれるかもしれない。
ジウさんに断れば、今までと全く変わらない。
拳を握り締め、鼓動を落ち着かせようと働きかけ、ゆっくりと息を吐いた。
それを何度も繰り返す内に、沈黙はだんだん長くなっていく。
今度は、ジウさんの方から急かすような言葉は出なかった。
「ご………」
口から呻き声とも取れる言葉が出た。
―――私は………私は………私は………
ゆっくりと口が続く言葉を紡いだ。
「……ごめんなさい」
私は……………………。
「ジウさんとは一緒にいられません」
ジウさんの表情が少しだけ変わった。険しいとも、厳しいともつかないが、決して無表情ではない顔。
ジウさんを信じなかったわけじゃない。
でもジウさんと共に付いて行ったら、ジウさんに迷惑がかかるかもしれない。それは――――嫌だった。
と心の中で言い訳してみたけど、本当はジウさんを信じられらなかったんだ。疑って、疑って、せっかくの好意を踏みにじった。
その罪悪感が私の胸を縛り付ける。
「分かった」
ジウさんは、無表情に近い顔で、私に近付いてくる。
そして私の手を掴み、私の手の平を強引に開けた。
「餞別だ」
そう言ってジウさんが、私の手の平に乗せたのは、少し重みを感じる袋だった。
袋のでっぱりからして、恐らく中身はお金だろう。
そう気付くと私は思わず叫んでいた。
「いりません!こんなの!!」
ジウさんは苦笑しながら私の肩を叩き、抑揚のない声でこう言った。
「俺には必要ない。でも、お前に必要なはずだろう?」
必要って………。それに、これは………
そう言おうとした瞬間、肩に置かれていたジウさんの手がそっと離れた。
「頑張れよ………」
優しい口調で台詞を置き去りにしたジウさんは、そのまま部屋を出た。
残された私はどうすればいいか―――、分からず、そのまま立ち尽くすしかなかった…………
後書き(っていうか近況報告)
こんにちは、あなたの知らない人です。ようやくテスト期間が終わりました。小説が思う存分書けて満足しています。
さて、一番ばれたくない人間(仮名E‐23Y君)に投稿している場所がばれました。漢字が多いのだの、早く投稿しろだの、何で20人も斬ってるのに剣が刃こぼれ一つないんだの、もの凄い文句が多い割に、今後の予定ばらしたらぶち切れちゃったし。好きなのか、嫌いなのか、よく分からないです。
面白かったのは、知り合いなんだから“あなたの知らない人”じゃないっていうこと。私が言ったら、何気に受けてました。
でも、私の小説を読んでくださるのは構わないけど、“時の流れに”も読みましょうよ。面白いから。笑えるから。
というわけで、ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。次回もお付き合いいただければ、幸いです。
追伸。代理人様へ。
誤字とか、文法上の間違いとかは大丈夫なんでしょうか?一応、気を付けてはいるんですが、どこで見落としがあってもおかしくない注意力なもんで………。
代理人の感想
うん・・・・やっぱりこうなっちゃいますか。
「心を開くかも?」と期待はしていたのですがまだ無理だったようで。
>誤字とか、文法上の間違いとか
あからさまなのがあったら適当に直してます。逆に言えば、明確な間違いで無い限り放置します。
今回は目立ったところで文法の間違いがひとつ、誤字が二つありました。
例えば「厚意」というのは敬語表現と結びつけて使う言葉なのでここは「好意」だろうな、とか。
まぁ、毎度のことなんである程度量があったりひどい間違いが無ければいちいち書いたりはしません。