目の前に男が一人、駆け込んできた。

少々、ガラがとても悪く見えるが、いきなり“金を出せ”などと脅してくるということもあるまい。無視しておこう。

「あいつは………っ!?」

おやおや、この男、かなり息が上がって、疲れているのが丸分かりだ。何をそんなに急いでいるのかな?

とはいっても、赤の他人の事情に首を突っ込む主義はないがね。私はそのまま、その場を去ろうとした。

しかし、“袖振りあうも多少の縁”とはよく言ったものだ。

「オイ!!あんた、ここらへんで、前髪のやたら長い女を見かけなかったかっ!?」

ほう―――ユニトのことかな?

私は、微塵も興味を感じなかった男に、少々笑みを漏らした。

見た感じ“彼ら”の刺客ということはない。

となると、ただ単にあの子が、この男に因縁を掛けられたということだろう。全く、我が娘ながら、運の悪さは一品だな………。

「オイ!聞いてんのかっ!?そこのアンチャン!」

私は男の侮るような言葉を聞かずに、そのまま、振り返った。

「肩に怪我をしていた、あのお嬢さんのことかい?」

「あ………ああ、そうだ、知ってんのかっ!?」

ふむ、なるほど………。

「一応聞いておくが、あのお嬢さんの怪我、君が原因ということだね?」

「それがどうした!?いいから早く教えろ!!」

ふむふむ。やはり、そうか.........。

あの子に“彼ら”の追っ手か何かが、傷付けたのかとも思ったが………どうやら違うらしい。

私は笑みを浮かべたまま、振り返り、一瞬で男の首の根っこを掴んだ。

男は反応できずに、わずかなうめき声を上げ、その“非力”な握力で私の腕を掴む。

「その子は私の娘でね………君があの子を傷つけたのだというなら、過保護なりにも親心を見せねばならないんだ」

男はそれを聞くと、不思議そうにこちらを見返した。その意図を一瞬で掴み取った私は、その疑問に答えて差し上げることにした。

「ああ、“歳が近すぎる”?君、人は見た目で判断してはいけないよ。こう見えても私の生きてきた時間は、千年を軽く超えるんだ。しかし、そうすると、“歳が離れすぎてる”かな?」

まあ、外見年齢は20代前半に見えるだろうけどね。

「さてと、君には生きながら、死後の世界に旅立ってもらおう」

私は首を掴んでいない逆の手を、彼の額に押し付けた。

その行動に本能がこれからすることを察知したのか、彼は恐怖に顔を歪めた。

「大丈夫さ。この“幻”からは1日足らずで、戻ってこれるから………その後、普通の人生を過ごせるかどうかは保証しかねるがね」

――――世界彩る――――

「ウワアアッッ!!!!!!!!!!」

彼の叫び声は短かったが、嫌なくらいに大きかった。



「え?」

背筋に走った悪寒に私は後ろを振り返った。

何だろう?何処か遠くで、不吉なことでも起こったようなそんな感覚だ。

ジウさん達に起きたことじゃなければいいけど………。

ズキン

まだ、右肩が痛む。

血のは大分固まったけど、少しはあの“力”で応急処置した方がよかったかもしれない。

それでも今は、間に合うかどうか、もしかしたら、もう遅いかもしれないという瀬戸際なのだ。怪我を呑気に治してる場合じゃない。

急がなきゃ、手遅れになっちゃう!!

……………でも、本当は行きたくない。行くのが、怖い。

魔物も怖いし、ジウさんに裏切られるかもしれないことも怖い。演技でもない考え方だけど、ジウさん達の死体に会うことになるかもしれないということも、すごく怖い。

――――丁度、あの道にな、魔物の群れが出たんだとよ。あのガキがいくら強かろうと、これで終わりだな。

けど、やっぱり、見て見ぬ振りなんて出来ない。この場合の本当の言葉は聞いて聞かぬ振りだけど………。

それに、ジウさんは私に優しくしてくれた。

騙すための縁起かもしれない。ただの気まぐれかもしれない。でも、今まで生きてきた中で最高に嬉しかった。心が暖まった。

だから、私は行く。

初めてだな………誰かの為に、この“力”を役立てたいと思ったのは。

ゾクリ

――――何?この感じ?

嫌な胸騒ぎがした。それこそ、目の前を黒猫でも通ったかのような、そんな感覚。

「ジウさん?」

不安がその名を呼び起こした。

まだ………生きてるよね?

「トル、もっと速く走れる?」

あの優しそうなおじさんから譲り受けた、この純白の馬は私の言葉を理解したのか、その脚を急激に加速させた。

優しい馬だ。

「ありがとう、トル。でも、無理はしないでね」

そう言うと、トルは満足そうに少しだけ鳴いた。

おじさんに感謝しなくちゃ。ジウさんが、私を利用しようとしたとしても、私には新しい友達がいるのだから………もう独りじゃない。

太陽はもう沈みかけていた。







「ひい、ふう、みい………」

何を余裕かましてるかね、こいつは.........。

俺はラドの後姿を見ながら、そう思った。

大体、この状況下で数を数えるか、普通?いや、敵の数を数えること自体は戦闘においてはいたって普通なんだが、そのふざけたラドの態度が異常すぎる。俺にはとても信じられない。

「なあ、この場合“匹”か“体”、どっちが妥当だと思う?」

少しは怯えとけ、この馬鹿。っていうか、それぐらい自分で考えろ。

「う〜ん、面倒臭いから、間を取って“人”でいいか」

「確か、“そのもの、獣に非ず、人にも非ず”っていう言葉があったぞ」

ヤバイな。つい、乗っちまったよ、俺。

「じゃあ、“体”か。という訳で、俺達の獲物は8体だ」

ラド、頼むから笑うな。俺は自分の人生に、少し疲れてきてるんだ。

「何だ、その視線はぁ?“これから俺達をお食べになる大層立派な方々”よりはマシだろうが」

そう、俺達の目の前には、なんか物凄く渋い緑の肌で、目が一つで、少し丸っこい頭をしてて、おまけに口がやたら大きくて、二本足で立っている化け物が大勢いた。俺達と比べるとかなり大きな体、左肩に甲羅のような突起を持ち、右腕は太く、異常に長い爪と相まって凶暴性を感じさせる。唯一安心させてくれそうな要素といえば、その大きな体が、却って鈍重そうに見せていることだけだが、どんな魔物の脚力も人のそれとは比べ物にならないのだ。見た目で判断してはならないということだな。

危険なそいつらの動きは、少し息を荒くし、よだれを垂らして、こちらを見つめているだけだ。まるで、さかりのついた人間の変態男のようだ。

この場合は、単に食欲に支配されているだけなんだが、この前の仕事で俺が殺したような奴等には、そういう奴が必ず一人いるからな、何となくそっちが異様に印象に残って、忘れらないんだよ。人の頭には、いい印象より、悪い印象の方が強く残るって本当だよな、全く。

まあ、とにかく、こいつらが人間でも、普通の獣でもないことは確かだ。というか、確実にこいつら魔物だな。こんな異様な獣見たことないし………。

くそ、こんなところでこんな厄介な集団に出会うなんて………。

これなら、この前の町でもう少し情報収集をしておけばよかったかもしれない。

悔やんでも仕方ないといえば、仕方ない。

逃げるのも、多分無理だ。背を向いた瞬間に殺されることは、目に見えてる。それほどまでに、魔物の筋力は並外れてている。

じゃあ、どうする………?魔物一体相手でさえ、辛いってのに………こうも多いんじゃ…………。これなら、あの時みたいな盗賊100人を相手にしてた方が楽すぎるぞ。

―――魔物が2体だけで“群れ”?“群れ”って呼ばないんじゃないの?

―――それは、お前が魔物の恐怖を知らないから言える言葉だ。

いつか無知が俺に言わせた台詞を思い出す。

全くアイツの言う通りだ。人よりも怖い存在があるとは思わなかった。

って、おい!!

いつの間にか近付いていた魔物の1体が、突然、ラドに飛び掛った。

ギリギリのところで、ラドはその攻撃を躱したが、ラドじゃなかったら死んでてたぞ。

「いやぁ〜。速いねぇ.........。お見事、お見事」

そうやって、パンパンと手を叩くラドの姿は、いつもと変わらない。下らない冗談を好み、常にふざけた態度を見せる、軽薄な男。

そのあいつが、ウィスアで恐れられていた、あの男だと誰が信じる?

だけど―――あいつが怖くないのもこれまでだ。

俺はラドと魔物を交互に見比べながら、いつ何が起きてもいいように剣を抜き放った。

「じゃあ、こちらからも行かせてもらいますか。私の未熟な腕前で退屈なさる方もいらっしゃるとは思いますが、皆様方が楽しんでいただけるよう努力させてもらいます。それでは、とくとご覧あれ」

ラドは品のいい紳士でも真似るかのごとく、魔物に対し軽く会釈した。ここまで来て、冗談を言えるこいつの底の深さというのは………恐ろしいな………。いや、冗談ではなく、案外、本気なのかもしれない。よく分からないことをする男だから。

ラドはゆっくりと呼吸すると、魔物の群れにいきなり飛び込んだ。

いつの間にか取り出したのか、ナイフを片手に持ち、魔物に斬りかかろうとする。

だが、魔物の身体能力は、こちらを遥かに凌駕しているのだ。反応が遅れこそしたが………。

やはり………速い!

突き出されたその右腕は、尋常ならざる速度でラドを攻める。常人なら躱すどころか、何が起こったか分からないまま、あっさりとあの世行きだ。

だが、ラドには………。

「甘いですなぁ〜」

その攻撃を前に、ラドはのんびりとした口調で言った。

そして――――。

ズドォォオンンッッ!!

魔物の、巨体があっさりと地面に沈む。

俺には、ラドが手を魔物の右腕に添えたところまでしか分からなかった。そこから先はまるで分からない。

今度は二体の魔物が左右から、その怪しく輝く爪でラドを引き裂こうとするが、ラドは余裕を見せながら、ナイフを腰に………隠した!?

いくら何でも、素手で魔物と戦うというのは、無茶すぎるぞ!!

俺の疑問とは別に、ラドは余裕を顔面に貼り付けて、立っている。

魔物が腕を大きく振るう。

爪の放つ光がよりいっそう大きくなる。

その動きを視覚で完全に捉えることは恐らく不可能だろう。

それほどまでに、速かった。

だが、ラドには全く関係なかった。

軽くえみを浮かべながら、手を交差させる。

「よいっしょっと」

魔物とラドが接触した刹那だった。

長い金髪が揺れ、交差していた手が大きく開かれ。

そして、いかにも重そうな魔物の体は、宙に浮かび、宙を舞い、宙で回転する。

常識で考えるなら、ありえない光景だった。

そのまま1体は木にぶつかり、1体は地面とお見合いすることになった。

森中に響いた大きなその2つの音が、その非常識を表している。

実際、俺の額には冷や汗が浮かんでいたに違いない。

魔物との力の差は、重量差が圧倒的にもかかわらず、あれを吹き飛ばすとは………。しかも、あいつが何を起こしたか、全く分からない。

相変わらず、強いっていうか、巧いっていうか………。

思わず、腕が震えた。

まだ、魔物はラドを襲うが、あいつはそんなことを気にもせず次々と、魔物を地面に沈め、あるいは空中に浮かし、攻撃を繰り返していた。

まるで、“手品”だな。

しかし、一歩間違えば、あっさり死ぬというのに、よく素手で戦えるな。俺には、やっぱり、あの男が信じられそうにない。

いや、1体の攻撃を見切って避けることぐらいなら、俺にだって出来るが、しかし、あの数を相手に全く動じず、反撃も繰り出せるなんてな………。

―――っと!

ラドの攻撃を受けて倒れていた、1体の魔物が立ち上がり、後ろに廻り込んで、こちらに爪を向けた。

その攻撃は確かに速い。俺やラドでも、その速さに付き合うのは不可能だ。

だが、俺はその攻撃を躱せた。

魔物の鋭い爪が地面に大きく、突き刺さった。

意外と危なかったな――――冷や汗が頬をつたう。思わず安心の溜息が零れた。

だが、これならいける。

こういうのを相手にする時は、攻撃を見るのではなく、攻撃の直前を見る。

人間のように、“戦術”や“技”という概念がない魔物には、どうしても“力”に頼らざるをえない。そうすると、武術や戦闘に精通していない人間以上に、無駄な隙が出る。その無駄な隙が攻撃の軌道を教えてくれ、攻撃を躱せる一つのきっかけや、反撃のきっかけを作り出してくれる。

無論、その隙を見つけるのも命がけではあるがあるが………。

その今までの俺の常識はとりあえず通用する。ただ一つ、“反撃のきっかけを作り出す”という一点以外では………。

「っ!」

右方向から魔物の爪が飛んでくる。その一瞬に合わせるように、その鋭利な爪を受け流す。

しかし、衝撃が凄い.........!!

「くっ......」

次は左から二体、そして、先程俺に攻撃を躱された一体が後ろから、その爪を向ける。

俺はその三つの攻撃を擦り抜けながら、上手く魔物の包囲網から抜け出す。

――――やはり………!!

ここまで、数が多いとなると、反撃の糸口そのものがない。もし、仮にあったとしても、一撃で仕留めきれなければ、こちらの大きな隙となる可能性がある。敵が一体ならまだしも、この状況でそれは命取りになりかねない。

かといって、ひたすら攻撃を避け続けるだけでは、こちらの体力がもたない。持久戦では、あちらの方に分がありすぎる。

って、次は左右両方から………!?

とにかく俺はその場から、飛び退った。

くそ、次から次へと………。

ん!?

前の1体が小さく動きを変えるのが、俺の目に入った。

―――何をする気だ?

動きに無駄の多い魔物にしては珍しいその隙のなさを、俺は疑問に思った。疑問に気を取られたせいか、わずかに剣先が下がった。

それを見計らったかのように、その魔物は左肩の突起を前に突き出して突っ込んでくる。

こいつ!!

俺は剣を上げ、その突進を受け止める………つもりだった。

気付けば、俺の体は自然と宙に浮いていた。こちらの予想してたよりも魔物の力が強かったことと、剣を下げていたことでかなり反応が遅れたことが、恐らく原因だろう。

だが、直撃は避けたし、体勢も整えたから、木や地面に叩きつけられるということもない。

俺は、大した音も立てず、その場に着地した。

だからといって、魔物の“狩り”が終わるわけではない。

着地した直後にも、違う魔物が同じような突進を繰り出す。

しかし、強いといっても、所詮は“策”のない魔物。

冷静に、油断さえしなければ………。

俺は魔物の突進を難なく避ける。

そうそう同じ攻撃を喰らえるかよ!

後ろから来た別の魔物の爪を、剣で受け流す。

そのまま、間合いをとって、剣で一撃を加えようとしたが、横から割り込もうとする魔物の気配を感じて、とりあえずはその場を離れた。

「剣の振る腕が鈍ってるぞ」

いつの間にか後ろを取ったのか、背後でラドの声がした。

「意外だねぇ〜。お前が恐怖を感じてるなんて………」

この状況で恐怖を感じない奴は、人間じゃないと思うぞ?

だが、確かに、そのせいで動きが鈍ってることは事実だ。せめて、もう少し数が少なければ何とかなるんだが………。

「守ってばっかじゃ………勝てないよな」

「無茶するなって」

ラドの忠告に苦笑した俺は、四方から飛び来る魔物から、剣で牽制しながら、逃れた。

魔物がラドにいいようにされてるのを最初見た時は、何とかなるかとも思ったが、駄目か。

いや、この場合、ラドは悪くない。悪いのは、俺の方か.........。

よく見ると、青い血を流している魔物が何体もいる。だが、その傷口は決して深くはない。

ラドの持つナイフでは、深いところまで刀身が届かないのだろう。

だが、あれ以上、刀身が長い武器となると俺の持つ剣しかない。だとしたら、俺が一番働かなければならないのだが………。

無理だな.........。

現に、今は守りに回るだけで精一杯だ。とてもじゃないが、攻めには回れない。

せめて、1体とのやり合いになれば、楽なんだが………。

「ちっ」

魔物の攻撃を見切りつつ、俺は舌打ちをしていた。

一々、ラドの動きに驚いてないで、隙が大きく出来た魔物に攻撃してりゃよかったものを………。

ラドを横目で見ると、ナイフを1体の魔物の背中に突き立てていたが、あれじゃ、魔物は死なないな。あまりにも、傷が浅すぎる。

俺も人の心配をしてる場合じゃない。

気付けば1体の魔物が、攻撃を繰り出す。それを、横へと避ける。

もう躱そうと思えば、いくらでも躱せた。目が、体が、魔物の動きに慣れてきている。もう少しすれば、反撃ができるかもしれないというぐらいに、戦えるようになった。

でも、それまで。

どんなに、目が慣れようと、体が慣れようと、魔物の動きは速すぎる。

どんなに、躱せようと、冷や汗を止めることは不可能だ。

1体をあしらっても、また1体が攻撃をして、その前にあしらったばかりの1体が、また攻撃をしてくる。

それらの繰り返し。

その度に、命が削られるような感覚になる。

辛い。

また1体が、俺に爪を向ける。

それを受け流したはいいが、横から突進してくる魔物がいて、反撃が出来ない。

………………苛々してきた。

力だけで押してくる魔物に、手も足も出ない自分に。人でこそないが、敵を斬る感覚を愉しめないことに。

人間である以上、この状況下で生きていられるだけ、まだいい方だが、それでも俺は満足ができなかった。

徐々に掌がウズウズしてくる。

今は、“人殺し”だとかは、関係ない。

そうだ。

殺しても、罪悪感に駆られることもない。

自分や戦い自体に恐怖することはあっても、命の重みを覚えることはない。

魔物に怯えてる場合じゃないんだ。折角の機会を無駄にしてる場合じゃないんだ。

――――それで死んでも別に構わない。

コートが風に揺れた。

「………ジウ?」

ラドの呟きに答えるつもりはない。

俺の愚行に勘付いたんだろうが――――もう、遅いんだよ、ラド。

魔物の爪が風を切る。

確かに速い。俺では付いて行けないほど速いが、動きが丸見えだ。

俺は、あっさりとそれを躱すと、後ろに廻り込む。

大きな体と動きが、俺を一瞬見失わせたのか、魔物の反応が僅かに遅れた。

――――もらった!!!!

剣が青く染まる。

ポロリと頭が血に落ちる。

巨大な体が地響きとともに倒れる。

魔物の首を斬った………。

何だ。簡単じゃないか、これくらい。今まで何を怯えてたんだ、何を恐れてたんだ。

俺は狂った笑みを浮かべた。

人を斬る快感に比べれば、この程度ちゃちなもんだが、つまらなくはない。

今までのように、次々と襲ってくるが、俺は先程までとは違った動きで、踊るかのように、躱していく。

四方を囲まれようと、関係ない。

俺の眼は、身体は魔物を捉えている。

さすがに、人間相手のように、反撃が簡単にいくわけではないが………攻撃を避けたり、受け流したりする程度なら余裕だ。

「ジウ!!」

安心しろよ、ラド。

咎めるような声に、俺は心の中で返事をした。

俺は調子に乗ってるわけじゃない。

調子に乗ってたらすぐにでも、次の魔物を殺そうとするさ。敵を斬る快感を、この掌は求めてるからな。

だけど、反撃をせず、防御に徹してるだろ?これがその証明さ。

俺はただ熱に浮かされてるだけだ。

もうちょっと、魔物の表情が読み取れれば、もっと面白いんだがな。

まあ、それは高望みか?

襲い来る爪を受け流し、また背後から剣を突き刺す。

青い血が再び剣に付着する。

魔物の合間をすり抜けた一撃だ。こちらの命取りになるようなことはない。

しかし…………愉しいなぁ……………。

苦悶や恐怖の表情すら浮かべず、死んでいくから物足りなさはあるが、この快感は何事にも変えられない。

「ジウ、油断するな!」

―――油断して、死んだならそれもまた運命だよ、ラド。

ラドは2体を相手に、ナイフで渡り合っていた。あの境地にはとてもじゃないが、達することは出来ない。

しかし、ラドも手加減しないで、本気を出せばいいのに。あいつなら、いくら力の強い相手だろうと、巧く倒せるだろうに。

全く、おかしな奴だ。

………さて、また1体、隙ができたな。美味しく頂くとするか。

さっきの2体は背後から殺したが、今度は正面から殺してやることにした。

懐に飛び込み、一気に胸元へ突き立てる。

これまた、あっさりと絶命した。

―――残るは5体か。

今回は恐怖が大きい割に、手に入る快感は少ないのか。

仕方がないか。世の中というのは、いつも不平等なものだ。文句を言ってはいけない。

やれやれと溜息をつき、魔物の体を貫いた剣を引き抜こうとした瞬間。

――――――抜けない!?

剣が魔物の体とぴったりとくっついたかのように、離れない。

肉が絡みついて………………取れない!!

「くっ」

魔物の接近を見て、俺は剣から手を離し、その場を飛び退いた。

丸腰でも、躱すことぐらいなら………。

だが、気持ちと裏腹に魔物は俺を囲み、一気に攻める。武器を持たない俺には、それを受け流すことはできない!

そして、その全てを躱すことは出来なかった。

一瞬の恐怖が、俺を包み込む。



「―――――ジウ!!!!!!!!」



ラドの叫びがやけに耳に残った。







後書き



こんにちは、あなたの知らない人です。

前回同様、多分、これも盛り上がってないです。っていうか、どうやったら文章が盛り上がるんですかーっ!?

単に文章力が駄目なだけなら、文章力上げるコツ下さい…………マジで(泣)。

もう一つ問題視されるかもしれないところですが………魔物のモデルは気にしないで下さい。何度でも言います。気にしないで下さい。

では、ここまでお読みくださった方、ありがとうございました。次回もお付き合いいただければ、幸いです。





 

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代理人の感想

>盛り上がりと文章力

・・・・・・・こればかりはなぁ。感覚の問題ですから、言葉じゃ中々(苦笑)。

それでも何か言うならば、盛り上げる演出は文章のリズムで作るものだと思います。

そして盛り上げるための構成のテクニック。

どちらにしてもいろいろな文章を読んで、そう言った感覚を身につけろとしか言えませんねぇ。

二次創作に応用が利きやすくてかつ分かり安いのは隆慶一郎が筆頭、ついで司馬遼太郎でしょうか。

構成などに関しては夢枕獏や菊地秀行(古い作品のほうがいいかも)がよろしいかと。

夏目漱石や芥川龍之介等、いわゆる名作や新聞の社説も国語力の基礎を高めるためには重要です。

なんにせよ語学は数をこなしてナンボなので、いい文章を書きたければいい本をたくさん読め、と言うのは絶対の真実ですね。