「う.........」
よっぽど疲れたのか、トルに乗ったユニトはぐったりとしていた。慣れない乗馬で疲れたのだろう。
本当は歩かせてもよかったのだが、あまりの足の遅さと、体力のなさに呆れた俺たちがトルに乗ることを勧めたのだ。………本人は不服そうな顔をしていたが。
「頑張れ。もう少しすれば、町に着くから」
その言葉、何度言えば気が済むんだ、ラド?子供を甘やかすような親じゃあるまいし。
「………大丈夫です」
弱音を吐かないのは偉いがな………今にも死にそうな顔して言ったって説得力ないって。
まあ、俺もラドも人のことが言えた義理ではないな。魔物と対峙したときの緊張は、精神的にも肉体的にも疲労させた。早く町に着きたいとまでは思っちゃいないけど、結構肩が凝ってる。
ラドも、まあ多分同じようなもんだろう。何のかんの言ったって、歩みがいつもより遅い。まあ、俺達に合わせてるという可能性がない訳でもないが。
「あ」
ユニトが軽く声を上げた。
その方向に道はないものの、木々の間から見えるのは、いくつもの屋根、いくつもの煙突―――それは小さな一つの町だった。
ようやく着けたかな?
My lost half
私達はトルを町の厩に預けることにした。
厩といっても、馬が何匹もいる訳ではなかったけど、ジウさんが言うには、“旅人のための厩というものが時々存在する”らしい。
厩のご主人さんも金さえくれれば、トルの世話をしてくれるとか言ってたし………本当は、一緒にいたかったけど、宿に馬を入れる訳には行かないもんなぁ。世間知らずの私でもそれぐらい分かる。
………明日、トルに会いに行こう
そんなことを考えながら、宿屋の前で口論している二人をボーっと見つめていた。私をどの部屋に入れるかで、揉めてるらしい。
一人は今に剣を抜きそうな勢いで、もう一人は軽くその勢いをいなして話している。
「だから!何で俺がユニトと一緒の部屋じゃなきゃいけないんだよ!!」
「だって、ユニトちゃんお前に結構懐いてるみたいだし、それに何かあっても若気の至りってことで済ませられるだろ」
「じゃあ、何かないように、一人で泊まらせればいいだろうが!!」
「俺、男と寝る趣味はない」
「だったら、三部屋借りれば済む話だろうが!!」
「え〜、そしたら、お金勿体無いじゃ〜ん」
「大体、ユニトに迷惑だろ!!それとも何か、あいつに危ない橋渡れってか!?」
「ふ〜ん、ならさ………ユニトちゃんはどうしたい?一人で寝たい?ジウと寝たい?」
ここで、私に振って来れれても、困るんですけど?っていうか、何でラドさんがその選択肢の中に入ってないの?
「ちょっと待て!“寝たい”って何だ!?“寝たい”って!?」
ジウさんは相変わらず叫んでる。ラドさん、そんなに変なこと言ったかな?
「私はジウさんがいいなら、別にいいですよ」
とりあえず、遠慮がちにそう言っておいた。
………本当は、一人で寝たかったんだけどね。“あれ”が来たら、迷惑掛けちゃうし、あのことも知られちゃうからなぁ。
「だとさ。逃げ場ないぞ、お前」
ラドさんがニヤニヤしながら、ジウさんにその顔を近づけた。ジウさんの表情がどんどん引きつっていく。
助けを求めるような視線を私に送ってくるけど、何をどうして欲しいのか全く分からないや。
「大体、ユニトちゃんを誘ったのはお前だろ?責任はきっちり取らなきゃねぇ」
ジウさんが何も言えなくなって、ポツンと人形のように立ち尽くした。うーん、本当は助けてあげたかったけど、助ける手段が見つからなかったんじゃ意味ないよね.........。
それでも、ジウさんは何かを言おうとしては、口を閉じ、何かを言おうとしては、口を閉じるという行為を繰り返していた。………魚?
でも、本当にジウさん、何で嫌がってるんだろう?やっぱり、私が気持ち悪いからかな?話を聞いてる限りはそうは聞こえなかったけど、他に考えられることって少ないし………。
「それとも?」
かなり緩い表情だったラドさんが、すっと表情を引き締めた。軽い笑みを浮かべながら、瞳だけは真面目だった。
「………それとも、隠したいことがあるってーなら、仕方がないけど?」
何故か、私のことを言われてる気がした。
ジウさんは何のことか分かっているのだろう、たいした反応も見せずに、ポツリと呟いた。
「…………………………ないよ、そんなもの」
その一言が不思議なほど、印象に残ったのは、自分のことを隠そうとしてるのだと思っただろうか?
それとも、その表情に何かを見つけたからなのだろうか?
「いいから、早く行くぞ」
ジウさんは今まで打って変わったように冷たい口調で言った。
………何だか怖い。今のジウさんに触れちゃいけないような気がする。
空気は凍えるほど冷たくないのに、頭は身を焦がすほど熱くもないのに、ここにいたくないほど苦しいのだ。ジウさんの枯葉色の背中には、殺気も覇気も怒りも感じないのに、怖いのだ。
何でだろう?ジウさんは何を隠したいのだろう?一体、何を?
髪の毛とか、隠したいことが沢山ある私が言えたことじゃないけど。
「ジウのこと、気になる?」
「え?」
いつの間にか、背後に回っていたラドさんは、軽い表情を私に見せていた。ただ、その瞳だけは、その複雑な心境を語っている。
「気にしたって、仕方がないじゃないですか。それに私だって、隠してること、まだ沢山ありますから」
私の言葉にラドさんは、ふと思案した後、こう呟いた。
「例えば、その右手とか?」
―――え?今、なんて?
私が驚いて、ラドさんに振り返った瞬間、今度は別方向から弾けるような声がした。
「黙れっ!!!」
そこにいた誰もが振り向くような大声を上げたのは、他ならぬ誰でもないあのジウさんだった。
その瞳には切迫したものが詰まり、肩は大きく上下している。
当のラドさんは顔を押さえ、“失敗した”というような表情を浮かべていた。
かくいう私も体を小さくするしか、成すべき方法がなかった。
何がジウさんをそこまで、追いやったのか私には全く分からなかった。本気で殺気を感じる。
私達をギロリと睨んでいたジウさんの瞳は、そう時間が経たない内にその方向を変えた。それから、少し気が抜けた表情で歩き始め、私達の横をすり抜け、集まりつつあった野次馬の中へと消えていった。
私とラドさんはその野次馬をじっと見つめた。お互いにかけるべき言葉は何もない。かけていい言葉もそこには存在しない。沈黙だけが許された環境だった。
「………過敏すぎんだよ、あいつは」
その中でラドさんが、ボソリと呟いたその言葉に、私は項垂れた。
何故だかは分からない。分からないけど、私がいけないような気がした。私が………。
「あいつのことは心配するな。後で追っかける」
ラドさんは、私に優しく語りかけた。
その言葉に私は少しだけ理解した。
私だけでなく、ジウさんやラドさんも少なからず何かを背負ってるということを。それは初めて気づいたことであり、今まで知らなかったことでもあった。
目を逸らせ。考えるな。意識の外に追いやれ。逃げてしまえ。忘れてしまえ。
何度、言い聞かせても変わらないものが、心の中にある。
別に俺の事を言われた訳じゃない。
別に俺を話の種にしようとしたわけじゃない。
だけど、それでも反応した。
拳を握り締めることしか、俺には出来なかった。
………別にいいじゃないか、言われたって。他の“お仲間”と同じように、辛い目に遭ってきた訳じゃない。ユニトのように、苦痛に泣かされてきた訳でもない。俺は幸せな方なのに………。
だが、それでも嫌なことはある。割り切っても、割り切っても、何回割り切っても、結局割り切れないことがある。
何かを無性に殴りたかった。何かを無性に斬りたかった。………何かを無性に殺したかった。
苛々が溜まりに溜まる。
今の俺には絶対誰も近付かないな。不機嫌なのが、丸分かりだ。
絡んでくる身の程知らずがいれば、それはそれでいい。これ以上ないほど、ぶちのめしてやる。
俺は自分の考えに笑みを浮かべた。
………少し、買い物でもして帰るか。いくらキレてたって仕方がないし、このままボンヤリと歩くより、マシか。
ふと、店先に並んだ瓶が目に入った。鈍く輝く黒やくすんだ半透明の茶色が、押し詰められている。
―――………虫料理か。
東方、南方から伝わってきた虫料理は日常食というよりも、携帯食として意味合いが強い。栄養が高く、非常に長持ちするし、持ち運びも結構楽だからな、言ってみれば旅人の必需品みたいなものだ。
―――あの、私………肉は食えないんです。
そういや、昨日ユニトがこんなこと言ってたな。
あいつにとって、人殺しがかなりの傷になってるってことなのだろう。
俺は………人殺しを楽しんでるっていうのに。
まあ、いい。買っておいてやるか。
「蝉の塩炒め、蟻の酢漬け、それぞれ一瓶ずつくれ」
俺の声に愛想よく笑った女が、訪ねてくる。
「はい。78ニゾモになりますが、よろしいですね?」
ニゾモとは一般に使われる通貨単位だ。
「ああ」
俺は自分の財布から石貨を何枚か出した。
石貨とは、この大陸全域で使われる、貨幣のことだ。昔は金や銀を使っていたが、今では勿体無いため、そこらへんの石から取れる物質を使って製造される石貨が主流となっている。後は、特別な紙と特別な墨を使った紙幣といったところか。
“ニゾモ”という通貨単位やこの石貨などは、大陸全土で使われている。この大陸はもともと、古い昔一つの国だったというから、そうおかしくはない話だろう。
俺は専門家ではないので、突っ込んだことまでは分からない………がな。
上手く布で包んでくれた瓶二つを俺は受け取り、その場を後にした。
他には………あ、ユニトの服を、買っておかないと。いつまでも、俺の服を着させる訳にもいかないし。
………金、足りるかな。
俺の金って、ラドがほとんど握っているから、あまり無駄使いできないんだよな。今思ったんだが、あいつは酒だの、女だの、賭けだのかなり色んな方面で無駄に放出してもいいのか?
「はぁ………」
「何、溜息吐いてんだよ?」
いきなり後ろからかかってきた声に俺は、振り向きもせずこう返した。
「悪かったな、さっきは」
「別にいいさ。でも、驚かないとは意外だな」
こいつがが本気で気配を消せば知覚するのは限りなく不可能に近いだろうが、手加減までされて気付かないわけがない。
ラドも無論そんなことは分かっているのだろうが。
「で、何の用だ?」
俺は冷え切った声で呟いた。といっても、先程よりかは感情も篭もってる。
「ん?お前が少し気になってな」
「そうか。それは心配かけたな」
ラドは俺の様子に安心したのか、いつも以上に軽い口調で話している。
俺はそんなラドに向かって掌を差し出した。
「何?その手は?」
「ユニトの服買わなきゃいけないから、金くれ」
俺が即答したのを聞いて、ラドは笑いながらからかう。
「そんなにあの子に惚れたの?」
「違う!」
俺の反論にニヤニヤしながら、顔を近づけるラドに、俺は正直“敵わないな”と思った。これがこいつのよく言う“大人の余裕”という奴だろうか?
「安心したまえ、君達の寝台は、“大き目の一人分”だ」
は?どういう意味だ、それは?
俺が
「では、今宵は甘い逢瀬を楽しみたまえ」
ああ、自分でも額に青筋が浮くのが分かる。
「夜道を歩く時は、背後に気を付けな」
俺の低い声に気圧されたのか、ラドの表情が固まった。見事に青ざめている。ふん、内心では全く怖くないくせに。
「で、そのユニトはどうしたんだ?」
俺の至極当然の問いにラドは、軽く笑みを浮かべ、手を振った。
「部屋に行くなりお寝んねさ。よっぽど疲れてたんでしょ」
「そうか………」
昨日の疲労はまだ抜けてないのだろう。“革導”を人前で見せたという事実も、精神的な重みになってるはずだしな。
………いや、俺達と一緒にいるだけでもあいつにとっては苦痛か。他人に怯えすぎてるからな。
俺は信用できる大人が三人もいて、本当によかった。その内の二人には、容赦なく裏切られてはいるが………まあ大した問題じゃない。
一人は裏切ったというより、俺が勝手にそう思ってるだけだし、もう一人は本当に仕方がない事だ。
「じゃ、気にしなくてもいいか」
俺は大して感情も見せずに言った。
「ふ〜ん」
またこのバカは、一体何を言う気だ?
「気になるんだ?」
「何を?」
「ユニトのこと」
「何で?」
「好きなんだろ?いい加減、白状しちまえよ」
「まさか」
大体予想がついてたんで、普通に流せるって。いい加減、同じ攻撃を喰らうと思うか?
「まあ、寝顔にムラムラして、乱暴を働かないようにな」
前言撤回、こいつの攻撃は痛烈すぎる。お茶でも飲んでたら、間違い無く吹き出してたぞ、今のは。
「やっぱり、二人の甘く切ない夜は和解の上でないと………」
「別にお前の想像してるようなことはしないっての!!」
「お互いに初めてだろうから、慎重にな」
「だから、お前、人の話聞いてるか!?」
っていうか、どうしてお前はそういう話に持っていきたがるんだ?
「俺とお前は同じ次元で考えるな!」
俺はそう叫ぶと、前に大股で歩き始めた。
そこにはいつもの自分がいた。かなり、だらしない大人を前に、冷静で大人ぶった自分を捨ててしまう自分が。
それはそれで、結構楽しいんだがな。
「どうでもいいが、お前本当に飲みすぎ」
泥酔してぐでんぐでんになった、ラドの手を持ちながら、文句をぶつけるが反応が完璧にない。
「これだから………」
後先省みずに何本も飲むからこうなるんだ。………しかも、コップの単位じゃなくて、瓶の単位で飲むからな、こいつは。
しかも、真昼間から日が沈むまで飲み続けていたのだから、こうなるのは当然だろう。
もし俺がいなかったら、酒場で寝たままだったな、こいつ。節操ってものがないのか?
それにしても、酒場が宿の近くで本当によかった。こいつの千鳥足に合わせて歩くのは辛いからな。息も酒臭いし。
「ほら、着いたぞ」
俺は注意したが、そこから返ってきた返事は
「…………………………ムリ」
………一発、殴ろうか?
本気でそう思った。
大体、金の方は大丈夫なのか?
ユニトが旅に付いてくるようになったから、今までの計算の仕方じゃ、すぐに破産だぞ?こいつはそこら辺、分かってるのかね?………分かってないな、多分。
自分の泊まる部屋を確認した後、俺はラドを支えながら二階へ上がった。
暗い廊下に、受付で貰ったランプの光を晒した。橙が黒を消し、茶色い木の床を照らす。
別に夜遅くという訳でもなかったので、ギシギシとなる音は気にならなかった。
「ここかな………」
目の前に見えた数字は、受付で教えてもらった部屋番号と一致している。俺はラドから預かった鍵をポケットから取り出し、扉を開けた。
さてと………。
未だによりかかってくるラドを横目で確認しながら、俺はニヤリと笑みを浮かべた。
下手に落として火事になってはいけないので、ランプは床において…………。
――――3、2、1………0!!
俺はラドをボンヤリと見えるベットに思い切り投げ飛ばした。
特に鈍い音もしなかったので、布団に着地したのだろう。
何度手を煩わせれば気が済むのだろうかと、ちょっとばかしの爽快感の中で少し思いつつ、俺は自分の部屋に向かった。
………ユニトに謝んないとな。
ちょっとした罪悪感を感じながら、俺は扉に手をかけた。
開けた先には、やはり部屋自体はラドの部屋と大して変わらない光景が広がっていた。
ただ、一つだけ違うところといえば………二つのベッドが一つに繋がっている事だろうか。
確実に狙ってたな………あいつは。
そういえば、昼あいつは“大き目の一人分”だとかどうとか言っていたな。今度、何か報復でもしてやろう。
スルッ
その時、僅かに布の擦れる音がした。
起こしたか?だとすれば、悪いことをしたもんだ。
俺はそう思いながら、ランプを置いてあった机に置いた。しかし、結構光が強い………
「んんっ…………………」
苦しげな声が聞こえ、俺は思考を中断した。
「ユニト?」
起こされたことに関する反応だったらいいのだが、そうでない気がした。
ちょっとした不安が俺を襲った。何かよくないことがあるような、妙な不安。別に危機的なものでもないだろうが………。
俺はベッドに近寄り、ユニトの様子を窺った。カツラは外しているが、個室ということで油断したのかもしれなかったし、うつ伏せに寝ていて表情は見えないかったが、大したことはないようにその瞬間は思えた。
――――!!
「ユニトッ!?」
何かがおかしい。
ユニトの体全体は小刻みに震えているし、左手は布団を手が白くなるほど強く握り締めていた。それなのに、右肩より下は全く動いていない。
俺はその不自然さに恐れを抱き、ユニトを仰向けにさせた。
ユニトの顔が橙色の光に晒された時、俺の両目は大きく見開かれた。
―――どういうことだよ………。
それは思わず戦慄を覚えるものだった。
ユニトの左眼はボロボロ涙を流しているにもかかわらず、右眼は全く持って動いていなかったのだ。左眼は俺の動きに反応するのに、右眼はまるで絵画のように固まって動かない。
「ううっ………っ……ああ……………」
時々、呻き声を出すユニトの口は何かを堪えるように固く結ばれていた。
何かにしがみつきたいのか、俺の服を思い切り掴む。
その様子はおおよそ人間とはいえないものだった。こんなこと思いたくもなかったが、ユニトは既に人間じゃない、そう感じるほどにユニトの様子はおかしかった。
しかし、どうしてこんな………?何も言わず、叫ばず、ただただ大量の涙を左眼から流しながら、じたばたと首を振り回す。
その時、あることに俺は気付いた。
「―――っ!?」
まさか?
疑問が急に浮かぶ。こいつの左手は俺の服を掴み、意外なほど強い力で引っ張ってくるのに、右手は全く動かない。
そういえばと、昨日こいつに薬を塗った時のことを俺は思い出した。
こいつは、右肩の怪我の痛みに、泣き言一つ言わずに耐えていた。もし、あれが耐えていたのではなく、元々痛くなかったのだとしたら。
こいつの今の様子と、そして右眼、右手が動かないこと、昨日の出来事………何となく一つの線に繋がるような気がした。
そして、それが形を持つにはそう大して時間が経たなかった。
一つの単語が頭の中を駆け巡って、痺れるようにそれが強くなる。
その単語は―――麻薬。
依存性の強いこれなら、どんなに反抗する人間でも、服従せざるをえない。ユニトが反抗した時に使われたのだろう。
こいつのやらされてきたことを考えると、その可能性は非常に高い。
そして、今、このような状況に陥ってるのは、恐らくは禁断症状。右手や右眼は何らかの後遺症だろう。
――――あいつ………!!
黒い髪の下で憎らしい笑みを浮かべる男の姿が、俺の脳裏をよぎった。
これも俺の…………せいだってのかよ!
俺はユニトの手を振り払うことが出来なかった。
振り払おうと思えば、いくらでも振り払えるその手を包んでやるしか出来なかったのだ。
「………ジウ………………さん…………」
ユニトのかすれた声に、俺は驚いた。声を出す気力が未だあることに、俺を責めるための言葉ではないことに。
一体、俺は何をしている?
自分の“右手”のせいで、不幸だと勘違いして、それで怒り散らして………こいつはこんなにも苦しんでいるのに、苦しんでいたというのに。
ユニトはなおも、俺の服を引っ張り続けていた。
俺は、ユニトの肩に手を添えた。その行為のほとんどが、無意識だっただろう。
俺はユニトの虹色の髪を優しく撫でながら、ゆっくりと子供を寝かしつけるように、ギュッと抱きしめてやった。
その日の夜、俺はずっとそうしていた。それ以外に方法はなかった。
後書き
添い寝は漢の浪漫です(爆)
という訳で、こんにちは、今回もダメダメの、あなたの知らない人です。うん、代理人様の感想が活かしきれてない上に、もう書きたいことがイマイチ。
もう、いくらでも斬ってください。
>遊戯王ライダーはともかく、デジモンは殆ど知らないんですよねー。本当に来たときのために、近所のレンタルビデオ屋をチェックしておこうかな(笑)。
「失礼な!!遊戯王ライダーとは!!!」とか思ったりもしましたけど、見える人にしてみればそう見えるんだろうなーとか思ったり。仮面ライダーって銘打たなければ、文句なしの名作だったんでしょうけど(笑)。
でも、実際二次創作で苦労するのは、多分纏め方と文章化なんでしょうね(それで二、三度失敗しました)。
それだと龍騎は本当に辛いんですよねー。戦闘シーンとか、変身シーンとか、リュウガとか………構想立てるだけで神経すり減らしそう(多分そういった意味では、SEEDの方が楽なんじゃないでしょうか。いくらでも設定いじくれそうだし)。心理状態の組み立てなら、そこまで難しくないだろうけど。
それとデジモンはデジモンで難しいんですよ。アニメの二次にする気ないですけど、十闘士とかX抗体とか話が飛躍しすぎて、上手く纏められそうにないです。
だから、今は“書きたい”気持ちだけですね。
ちなみに、アニメを見るなら『アドベンチャー』『アドベンチャー2』『テイマーズ』『フロンティア』の(放映)順がオススメです。『フロンティア』から見ると勘違いする可能性もありますから。見ても損はありませんので、余裕のある方は是非見られるのがいいかと。
それからデジモンは成長期→成熟期→完全体→究極体の順で進化するんですけど、完全体、究極体のレベルは最早ドラゴンボール。究極体の中には、惑星破壊砲のなんてもんを装備してるし。もう、ただのポケモンのパクリじゃないんですよ。
という訳で、ここまでお読みくださり、ありがとうございました。次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。
※麻薬は危険です!!ユニトはけろっとしてますが、あくまで私の空想の中の事象です。あまりに酷い場合は脳が溶け出す場合もあるそうなので、絶対に打ったり吸ったりしないでください!!(まあ、言わなくても分かると思いますが)
代理人の感想
初々しいなぁ(爆)。
辛く悲しいシーンでもあるわけですが、同時に初々しいラブシーンでもあるわけで。
今回はこのラストのイベントのおかげで上手く纏まったというところですね。
ところでちょっと気になりましたが、そこらへんの石から取れる物質に貨幣価値があるもんなんでしょうか?
古今東西貨幣に貴金属を使うのは「それが価値がある物質だから」であって、「貨幣だから価値が出る」ではないんですよね。
あるいはこの世界の貨幣は魔法か何かで作られていて偽造不可能なのかな?
と、すると紙幣も使われているようだし、ファンタジックな世界にもかかわらず信用貨幣が一般に流通してるって事ですか。
ちょっと面白いかも。
※一口に貨幣といっても「物品貨幣」「本位貨幣」「信用貨幣」などがあり、ファンタジー世界では普通物品貨幣(要するに物々交換)や本位貨幣(それ自体に価値のある貨幣。金貨や銀貨など)が主流です。
「信用貨幣」というのはそれ自体には全く価値が無く国家や銀行、あるいは会社などがその価値を保証するから貨幣として通用しているもの、例えば紙幣などを指します(同様に小切手や約束手形なども広い意味での一種ですが、まぁそれは省略)。
要はその信用を保証するところがなくなる(戦争で国が無くなったり不況で会社が倒産したり)すると「ただの紙」になっちゃうような貨幣のことです。
「ヒャッハハハ、こ〜んなもの、今じゃケツをふく紙にもなりゃしねぇってのによぉ!」
まぁ、だとしても近代的な信用経済が成立してなさそうなこの世界の人たちは
「自分の持ってるお金が、ある日突然価値のない石ころになるかもしれない」とは夢にも思わない、
「石貨の価値は永久不変である」と信じて疑わないのでしょうが。
>トルに乗ることを進めた
良くある誤字その一。「勧めた」ですね。
>魔物と対峙したときの緊張は、精神的にも肉体的にも疲労させた。
「俺たちを」などの目的語がないと変です。
>“ニゾモ”という通貨単位やこの石貨などは、大陸全般に使われている。
全般というのは抽象的な範囲を指す時に用いるので、「全土」ですね。
>「やっぱり、二人の甘く切ない夜は和解の上でないと………」
「和解」というのは争っていた二者がそれをやめ、歩み寄ること。
元から喧嘩をしてるわけでもないのでここは「合意」でしょう。