Must I believe you? Or, must I doubt you?
白く輝く日の光が、緑に覆い尽くされた天井から、わずかに零れる。その光に照らされながら、俺は銀色の刃で宙を斬った。
――――これで千回は超えたかな.........。
無我夢中に俺は剣を振り回していた。久しぶりの素振りに、俺の息はほんの少し荒くなり、汗もちょっとだけ滲んでいた。
―――昔はよく日も昇らない頃から、やらされてったけ。
それでも、辛くはなかった。むしろ楽しかった。あの頃は、人を斬る禁忌に触れず、ただただひたすらに強くなる事だけを考えていればよかった。
そこには俺の、一応尊敬してた男がいて、俺を見守ってくれていた。無言ではあった、本当に口を噤みただ見るだけ。あの厳しい視線に、睨まれる度、正直怖かった。だけど、それでも、俺はあの人が好きだった。
好きだったんだ。
―――それなのに、俺はあの人を守れなかった。あの人を救えなかった。
俺にはそれが出来たはずなのに………。
いや、考えるのはよそう。余計なことを考えると、剣先が鈍るから。鈍ったら、また鍛錬にならないから。
まぁ、三日坊主になる可能性も否めないといえば否めないが、それでも自らを苦しめるよりかはマシか。
「ふぅ………まだまだ子供だよな」
惨めさ、悔しさ―――いくつもの感情を連ねて、自分のことを皮肉ってみる。
―――けれど、どうすれば、大人になれるのか………どのようなものが、大人なのだろうか?
身近な奴だとラドが大人だ。あいつは暢気で、いつもふざけてて、それでもって酒癖、女癖があまりにも酷い。そんな奴の何処を大人だと認めているのだろうか?
………なんだか腹立たしくなる。あいつは確かに強いし、人の悩みもちゃんと考えてくれ、頼りになる。
だけど――――とそこで思考が立ち止まる。
酔っ払っていつもいつも人の手を煩わせるのはどこのどいつだ?おまけに飲めない俺に、酔っ払った勢いで酒を飲ませたのは一体誰だ?その場で口説いた女がしつこいから説得してくれって、俺に泣きながら頼んだのは!?挙句の果てには、その女と肉体関係を持たせようとしなかったか!?昨日の朝も結局、ユニトと一緒に寝てしまったのをからかったのは!?
それもこれも全部、ラドじゃないか!!!
あ、剣が勢い余ってすっぽ抜けた。
少し、落ち着こう。じゃないと、後ろで見てるあの馬鹿にまで笑われる。
「あの………大丈夫ですか?」
ま、人のことを嘲笑うのは、こいつの性格じゃないか。
「少し………気分が悪いかな?」
「………あぅ?」
小首を傾げるユニト。どうせ俺の台詞の語尾が疑問形になってたのが、気になったんだろう。
「気にするな、ただの戯言だ」
ユニトは俺の続く言葉に更に首を傾げる。
「気にするなって言ってんだろ」
軽くユニトの頭を小突いて、俺は再び剣を手に取った。
姿勢を正して、もう一度宙を切り裂く。
息は上がっているものの、腕や肩が重くなることは全くない。まあ、こんなんで腕に疲れが来たら、実戦じゃとてもじゃないが耐えられない。
「で、何を訊きたいんだ?」
「え?」
俺は剣を振りながら、尋ねた。
「表情にそう書いてある。本当に分かりやすいな、お前」
剣が風を切る音以外に、言葉を遮るものはない。静寂そのものだ。
「ええと、その、あ、いや、うう、あ、え、え、えっと」
何が言いたいんだ、こいつは?何でそこまで混乱する?
俺は呆れながらも、素っ気なく言ってやった。
「落ち着けって」
「うぅ………」
呻き声を上げられたってなぁ.........。
しばらくの後、ユニトは重々しく口を開いた。
「なんで………?」
大体予想はつくんだが………。
「“なんで”って何が?」
「なんで、私と一緒にいるのが怖くないんですか?」
同じような問答を、“一緒に来るか?”って誘った時に訊いたような気がしたけどな。いや、あれは少し違ったか。
「私がいたって、邪魔なだけじゃないですか。鈍クサいし、何も出来ないし、その…………気持ち悪いし」
最後の言葉は、恐らく自分の髪のことを言っているのだろう。
確かに不自然だけど、あの髪は綺麗だと思うんだよな、俺は。まあ、それを公衆の前で見せるってのはかなり無謀だけど。
「それに、ジウさん達の方が危険なんですよ!?そりゃ、私が色んな人から狙われてるのは自覚してますし、ジウさんから離れたら、間違い無く私はその人に捕まって、酷いことされるかもしれないってことも知ってます!でも、だからって離れなかったら、ジウさん達まで巻き込んじゃうんですよ!下手すれば、“あの人”達に遭うかもしれない!!いいんですか、ジウさんはそれで!?」
急に白熱したユニトに俺はいささか驚いた。こんなに大声で叫ぶユニトは少し新鮮だった。
「それにこういう言い方、失礼かもしれませんけど私その気になれば、ジウさんやラドさんをあっさり殺せちゃうんですよ!それこそ二言三言呟くだけで!」
確かにな。離れてなきゃ“革導”を使われる前に殺せるが、少し離れられると反撃の手段はない。
だけど、この言葉を吐いてる事自体が、殺される云々以前の問題だ。
「お前は単純に俺を信用して、甘えたいだけだろ」
俺の言葉にユニトの言葉が止まる。
「ま、お前の生い立ちを考えれば、誰かに甘えたいってのは分かるよ。ずっと、甘えてもいい人間がいなかったんだろ?」
まあ、随分と酷い目に遭ってきただろうからな。その反動もあるかもしれない。
「けど、俺の底が、俺の目論みが見えない。どうしても信用できない。自分の過去を考えてみても、疑うべきだ。そう、どうしても疑ってしまう」
「当たりです............」
先程の勢いは何処へ消えたんだろうかというような声で、肯定する。
俺は剣を振りながら続けた。
「それでいいんだよ。これでまるっきり信用されたら、俺はお前をどう騙そうか悩むところだ」
「いいんですか?私は守られてる立場なのに、その私がジウさんを信用してないんですよ?」
ユニトは不安げになって訊いてくる。
「いいって言ってんだろ。大体、信用や信頼なんてもんは疑う事から始めるもんだ。俺だってラドの事を最初から、信じきってたわけじゃない。まあ、多分ラドの方は違うだろうが」
「なんでですか?」
「今のお前と共通点があったからだよ」
あの時の俺は感情が表情にすぐ出てたんだろうな。今のこいつと同じように。
ユニトは再び首を傾げて、こちらを見返すが俺は絶対に昔のことは喋らない。っていうか、我ながらあの頃の自分は情けない気がして、とても話す気にはなれない。
「……ジウさんは、私のこと………えっと……その、信じてくれてるんですか?」
そう言われると少し迷う。ユニトを疑う必要なんて……まあないが、しかしそれが信用とか信頼に足るものかと訊かれると、なんだか違う気がする。
「………信じるというよりも、分かるかな……………?具体的な情報や状況がないとさすがに正確な判断はできないが、それでも表情に出やすいみたいだし。まあ、そのときの気持ちが前向きなのか後ろ向きなのかぐらいは分かる」
ユニトはその場で黙りこくった。
「大体がして、お前の何を信じろっていうんだ?何かあれば、魔物の時みたいに守ってくれるって?それとも、俺達はお前に殺されることはないって?」
言葉の端々に辛辣なものが混じる。あまりの言いようにユニトが思わず反論する。
「違います………っ!!」
「勘違いするなよ。俺はお前を責めてるわけじゃない。だがな、俺はお前に信じて欲しいとも思わないし、お前を信じたいとも思わない。………ただ、苦しんでるお前を助けて、自分の偽物の良心を満たしたいだけだ」
同じ事。あの時の言葉と全く同じ言葉。だが、その言葉にユニトは酷く傷付いたのか、涙を飲む声が聞こえた。
少しだけその偽物の良心が疼いた。
「………ついでに言えば、お前が何処へ消えようとお前の勝手だ。でも、お前が俺達の傍にいる限りは、少なくとも俺は………お前を守ってやる。その言葉を信じて付いてくるかはお前の自由だ」
その瞬間にユニトは一瞬で表情を喜色に豹変させた。………おめでたい奴。俺のこと信用してるとかしてないとか、それ以前の問題だよな、こいつの場合。
だが、ある意味羨ましい。例え、心のどこかで疑心暗鬼になっていても、ああいう風に笑えるってのは。
その瞬間、軽薄な声が聞こえた。
「ひねくれた青春だねぇ。お前らしいといえばお前らしいけど」
こいつ............。気配消してたな。声を掛けられるまで、全く気付かなかった。………どこから聞いてた?
「あ、ラドさん.........」
「おはよう、ユニトちゃん。よく寝れた?」
「あ、はい。おはようございます」
俺は何度も振っていた剣を下ろし、ラドの方へ向き直った
「何の用だ?」
ユニトは“信用してない”とか言っておきながら、ラドがどこから聞いていたかなんて気にもしない。やはり、俺の偽物の良心はあいつを放って置けないみたいだ。
「………ユニトちゃん、ちょっとトルと遊んできてくれる?」
「“席を外せ”でいいですよ」
ラドの言葉に笑いながら、ユニトは昨夜寝てた場所に戻った。
―――単純な表情しかしないんだな、こいつ。
それはユニトの一つの個性であり、ある意味魅力ととらえてもいいかもしれない。少なくとも、不自然じゃない。
ユニトが全く見えなくなってから、俺はラドに尋ねた。
「何を聞いていた?」
「君達の会話」
「どこから?」
「全部」
ニヤニヤと笑いながらこちらを見やる、その視線に俺はわずかながら苛立った。
「でも、ユニトちゃんの正体を表すような言葉はなかったと思うよ。気になった単語もちらほら聞こえはしたけどね」
確かに、聞かれるとまずいことは俺もユニトも言ってないな。だが、だからこそ気になる。
「むやみやたらに聞きはしないよ。したって答えてくれない事は分かってるし、それに揉め事の起きそうなことだろ?だったら、お互いの為にもしないさ」
ラドはそこで一つ息をついて、柔らかい口調で俺を呟く。
「しかし、“偽物の良心を満たすため”ねぇ?その割には熱心に振ってたじゃないの」
「悪いかよ」
からかってると感じたので、あまりムキにならないように心がけた。それでもムスっとした印象が滲み出るのは仕方がない。
「いや、やっぱりジウ君も少年だなぁと思って。そっちの方がよっぽどお前らしいよ」
だけど、ラドの台詞は柔らかいままで続く。
「ジウ、お前は大人じゃないけど、子供でもないよ。ただ若すぎるだけだ」
「馬鹿にしてないか?」
からかっている―――――割には、物言いが柔らかすぎる。
「してないしてない。子供ってのは“幼い”奴の事をいうんだ。決して“若い”奴のことじゃない。それより………」
ラドはいつの間にか持っていた棒の一つを俺に投げた。
それを俺が掴むと、ラドは軽く笑った。
「久々にやるか?」
―――ほう。速い速い。
俺は棒でジウと打ち合いながら、感嘆を心の内で漏らした。油断すれば、ジウに一瞬で打ちのめされるだろう。前にやり合ったのは何年前だか忘れたが、基本を忘れてない上、経験もしっかり積んでいるから、その時より段違いに強くなってる。
ちなみに、これはウィスアの兵士の鍛錬の一つで、実戦でどのように戦うかを教えるためによく行われるものだ。本物の剣を使わずこのような真直ぐに刳り抜かれた木の棒で打ち合う。普段は更に鎧を身に纏い、安全性を増すのだが、本物の実戦の緊迫感を出すためにあえてつけない連中もまあ中にはいる。
俺達なんかは鎧も持っちゃいないし、つける気もしないのでどうでもいいことなんだけど………っと!
さすがに痛いのは嫌だからねぇ〜。そう簡単には当たらないよん。
「ちっ」
「そう毒づくなって、ジウ君。焦りは禁物だよ」
俺は笑いながらジウに語りかける。
「うるさいっ!!」
俺の攻撃を器用に受け流しながらも、短く吐き捨てる。
「少しは、まじめに………やれっ!!!」
今度は攻守逆転して、叫びつつ振り下ろされる。………まだ、ジウの方も余力残ってるなぁ。さすが、“赫の猛禽”様。
「まじめにやってるって。ほら見て、額の汗。これが何よりの証拠だよ」
「じゃあ、っく、その余裕を見せ付けるような表情は何だ!?」
「大人の、っと、顔?」
「ふざけるな!!」
「本気だって、信じろよ」
「信じられるか!!!」
なんだかんだ言っても、喋れる分ジウだって余裕じゃないか。それはお互い様だろ?
ジウの突きを俺が捌き、俺の突きをジウが流す。
回避は考えない。避けようとも思えないのだ、これだけ速いと。反応するのも精一杯。
「このおっ!!」
ジウはムキになったように振り回すが、動き自体は鋭いままだし、こちらの動きもしっかりと見ている。
「台詞とやってる行動が逆な気がするが?」
冷静すぎるだろ、いくら何でも。
「だ・か・ら………」
こちらが少し怯んだ瞬間に、一気に息を溜める。
「………黙れ!!」
叫びとともに一撃が放たれる。それを受け止め、その隙に後ろに退がる。
いつまでも打ち合いを続けたらさすがに疲労も溜まってくる。ジウもそれが分かってるのか深追いはしない。
「………気付いてたのか?」
何を思ったのか、ジウは口を開く。
「何に?」
「さっきまで素振りやってた事だ」
ああ。そのことか。
「朝、お前が起きた時からかな。何やってるか気になって、ちょいと木の上で見てた」
「なんで、木の上なんだよ?」
「気にするな。ただの趣味だ」
趣味というより癖だな。さすがに寝る時とか、物食べる時は、屋根の下、でなければ土の上の方がいいけど。
「嫌な趣味だ」
「俺の昔の仕事知ってるだろ?」
俺は辛辣に言葉を紡ぐジウに苦笑しながら尋ねた。
「それと何の関係があるんだよ?」
「ん。東方で同じ仕事してる人はそれぐらいやるぞ」
「お前には直接関係ないだろ。大体、その話って作り話なんじゃないのか?」
全く………。俺は剣先―――まあ、単なる木の棒だが―――をピッと立て、口を開いた。
「まあ、いいじゃんいい。んじゃ、そろそろ再開し………っと!!」
乾いた音が俺の言葉を中断させる。俺は振ってきた木の棒を間一髪で受け止めた。
「チッ」
ジウの奴がまた毒づいた。
………って、人が話してる時に、普通打ってくるか?実戦じゃあるまいし。
俺は再び始まった打ち合いに、息を切らしながら話し掛ける。
「結構今のは卑怯じゃな……っ……かったか?」
「……これは………っく………っと、実戦の鍛錬だ……ろ」
ごもっともな意見で。
「でも、実戦なら………」
さっきより打ち合いが激しくなり、声を出す余裕が徐々になくなっていく。だが、ジウの方を見やるとまだ本気じゃないようだ。こっちも全力を出し切ってるわけじゃないが。
「今のよ………うな…奇襲は、使えな……っとと、危なっ!」
一撃を喰らいそうにながらも、何とか俺はそれを捌くことが出来た。
「お前………はっ、実戦、でも………ちっ、無駄……口、叩、くだろ」
あ、納得。
ほらやっぱり、俺は余裕じゃなくとも常に余裕を見せて、ついでに思いやりを持って戦うべきだと思うんだよね。何も相手の事情を聞かずに殺すのって、ちょっと可哀相だし。まあ、本当に余裕ない時は仕方がないけど。
ジウは頭上に高く掲げた棒を振り下ろした。
意外にも重い一撃がこちらの腕に衝撃を伝える。
―――やっぱり、強くなってる.........。
技量の点でもそうだが、体力も予想以上に向上してる。
………なるほど、“赫の猛禽”の名が知れ渡る訳だ。少なくとも数と武器だけで攻めるような馬鹿な盗賊相手に、命のやり取りする場で遅れを取る事はないだろうな。
だからこそ………怖い。
その力が、その力で人を殺すことだけがジウの唯一の拠り所になってしまうのが。力は目的でなく手段のはずだ。今のジウはそれをわきまえてはいるが、今後はどうなるか分からない。
何せ、まだ成長途中の十代だ。それだけに間違いも多くなる。
いや………もう多くの間違いを犯しているのかもしれない。犯させてしまっているのかもしれない。
ジウの人生はジウが決める事だ。俺の出る幕ではない。
だから、俺は助言しか出来ない。
大体がして俺が必ず正しいなんて確証はどこにもないのだ。
―――おっと。
ジウの一撃を流しつつ、驚く。まだ流しきれる程度だが、やはり重い。
もう、あのおっさんがジウに示した目標のところまで限りなく近い。基本はしっかりしてるのだから、後は経験次第といったところか。まあ、すぐにでもそこに辿り着くのは間違いない。
しかし、先程まで素振りをしてたってことは、完成されつつある強さのその上を目指しているという事なのだろう。
となると、原因はユニトちゃんか。最近変わった事ってユニトちゃんがついてきたこと以外、何もないしねぇ.........。薄々気付いてはいたけど、そこまで厄介な存在なのかね?
まあ、仮にそうだとして、なんでジウは一緒にいることを許しているんだろ?面倒な存在だとすれば、ジウは嫌がるだろうに。
何か得することでもあるのか?ああ、それとも本当に………
「惚れた?」
「は………?」
あ、思わず口にしちゃった。それでも、ジウが動きを止めなかったのはさすがだ。まあ、何を言ってるんだと目で訴えてくるのは仕方ない。
でも、まあそれはないか。いきなり出会った相手を口説くほど、ジウは勇敢じゃないし。ちなみにジウに言わせるとそれは、勇敢なんじゃなくて無節操らしいけどさ。
思いながら一撃を放つ。ぶつかり合った衝撃に、空気がいっそう激しい音を立てる。
ミシッ............。
「あ」
「お」
俺とジウの声が重なった。奇妙な音を立てた、俺の棒には、若干だがひびが入っていた。
お互いが妙な沈黙を持って、打ち合いを中断した。
「これはもうお終いってことなのかな?」
俺の苦笑気味の声にジウが明らかに不満げな声を上げる。
「そうじゃないのか」
まだ、打ち合えることは打ち合えるが、もし折れてその破片が目にでも当たったら大変だ。それが分かってるから、ジウも打ち合いを続けるのを諦めた。
まあ、久々のこれは、なかなか楽しかったな。予想以上に緊張が味わえて。
「にしても………強くなったな〜、お前」
「そりゃ、久々にやり合ったんだし………成長はしてるさ」
ジウは俺の賛辞を素直に受け取る。顔もジウにしては珍しく可愛げのある表情だ。まあ、無愛想を装ってはいるが。
俺はジウから木の棒を受け取り、そこにあったタオルをジウに投げ渡した。
「ま、ユニトちゃんをきちんと守ってやんな。男らしくさ………」
「五月蝿い。黙れ」
全く、可愛くない奴だ。
「ま、可愛いのは女の子だけでいいか.........」
その言葉にジウは不審げな視線を送ってきたが、俺は無視しておいた。
「で、俺達に仕事って?」
「また、女子供でも攫って来いとでも?」
「全く、強欲なもんだねぇ、商人ってのは。………奴隷なんぞ売らなくとも裕福に暮らしていけるだろうに」
薄気味の悪い笑みを浮かべる3人を目の前にして、私はやや恐れを感じていた。まるで全てを見透かされているようで、かなり辛い。
だが、彼等の考えていることと、私の頼みたいこととは違う。
「女子供は女子供でも、奴隷は奴隷でも、私の欲しい商品は今までのような安っぽいものではない」
「ほう…………」
男の一人の目に射竦められ、私は少し身じろいだ。しかし、この話を持ち出すところまでは進めなければ。
「1ヶ月前………“奴等”の手から“神の人形”が逃げ出したらしい。今はウィスア、しかもこの付近にいるとのことだ」
「なるほど………強欲もここまで来れば財産だな」
「しかし、面白そうな話ではある。“神の人形”といっても所詮は小娘………」
「虹色の髪を持つ女か………まだ、15にも満たないとの事だが、別に楽しんでも構わないよな?」
返事もそれぞれだが、私の話に好感触を持っているのは確かなようだ。だが――――問題はここからか.........。
「ジウ・リプロダクションを知っているな?」
「ああ。まだ、そこまで名が知れていない頃ではあったが、一度目にしたことはある。外見とは裏腹になかなか印象に残る小僧だった」
私はその言葉を聞きながら、ゆっくりと口を開いた。
「その少年が“神の人形”に同行しているらしい」
その瞬間、緊張が一同に走った。
「あの“赫の猛禽”が………?」
「…………それを我々にやれと?」
不平………いや不安だろうか?彼等は質問を発し、視線をうろつかせる。
先程、その少年を見たことがあると言った男だけが口を噤み、目を閉じていた。
「君は何も言わないのか?」
私は恐怖を感じ、その男に尋ねた。
「“赫の猛禽”ジウ・リプロダクション………“悪魔の仔”だという話もあるその小僧が、名を轟かし、いくつもの仕事を成功させてきたのは、それに見合うだけの風格、実力があるからだ」
男は動じることなく言い放つ。その冷たさに私は心底恐怖した。
―――断られてもおかしくないな。
私はそのように認識した。しかし、男は躊躇することなくこう言い放った。
「その“赫の猛禽”、そして本命の“神の人形”………。無論、それに見合うだけの報酬は期待してもよいのだな?」
「つまり受けると?」
「ああ、そういうことだ」
―――全くこれでよく人のことを強欲だかなんだかと言えたものだ。
しかし、そのことは口にしない。
「で?貴様の事だ、何か手を打っているのだろう?」
「今、“かませ犬”たちが、神の人形のもとへ動いている。まあ、返り討ちに遭うのが関の山だろうがな。それから―――」
私はあらかじめ用意していた紙の束を男たちに手渡した。
「“革導”“Bag”について調べたものだ。といっても、かなり情報が少ない上、デマもなかなか多いようだ。一応、信憑性が高い文章だけ四角く線で囲っておいた」
「なかなか、手回しが早いな。まあ、いいだろう。後は―――」
私は思わず笑った。男もそれに感化されたのかニヤリと笑う。
「我等“四つ羽の兄弟”に任せるがいい」
後書き
とりあえずごめんなさい。どれだけこの小説を読んでくださる数少ない皆様が設定集を期待してたのか知りませんが、途中で挫折しました。まあ、ほとんどの方々は、設定集よりも本編で楽しませろと言うかもしれませんが………(自己弁護中)。大丈夫です、いつかは出します。多分、この作品が終わった頃に(爆)
という訳で、こんにちは、あなたの知らない人です。アメリカ映画って、ちょっとハプニング起こるとすぐにカップル成立するんですよね。ラブワゴン要らずだぁ、ハハハハハ。
でもって、塾の講習に通いながらこの話を終わらせたわけですが、受験生は辛いんです(泣)。来週返却予定のテストが本当に楽しみ、絶対に悪いな、きっと。
ま、そんなこんなで、次回も勉強しながらなるべく早く投稿したいと思ってます。
では、ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。次回もお付き合い頂ければ幸いです。
おまけ(?)今回のNG………ってか自分で気付いたミス
書き直し後>俺は辛辣に言葉を紡ぐジウに苦笑しながら尋ねた。
書き直し前>俺は辛辣に言葉を紡ぐジウジウに苦笑しながら尋ねた。
………ジウはルリじゃなーいっ!!良かった、気付いて(汗)。
代理人の感想
いじけ虫ジウ。(爆)
それに加えてユニト→ジウ→ラドの「甘えの構造」(核爆)が出来てるところがなんか微笑ましいなと思うわけで。
でもジウはやっぱり尻を蹴とばしてやりたくなるな(笑)。