十六夜の零
第十九章 「剣士と旅」
トリステイン魔法学院の中庭をキュルケとモンモランシーが歩いていた。
キュルケは最近よく連れ立っている二人の女友達が居ないので、暇つぶしの話し相手を探していた所、食堂で疲れた顔で座っているモンモランシーを見掛けたので声を掛けたのだった。
「やっと何事も無く、アンリエッタ王女を送り出せたと思ったら。
今度はタバサ達が行方不明になってるなんて。
タバサのシルフィードなら王女にお見せしても全然問題は無い筈だし。
・・・特に使い魔と仲が悪かったなんて話も聞いてなかったし」
モンモランシーが悩んでいた内容は、友人が折角の晴れの舞台を無断で欠席して、その後の行方が分からない事だった。
以前からタバサが学院から姿を消す事はあったが、その場合には事前に教師達に報告があった。
今回のように何の連絡も無く、突然姿を消すような事態は初めてだったのだ。
ルイズの姿も同様に見れないが、こちらは里帰りの申請が既に学院長経由で出ていたので問題は無かった。
・・・学院長経由という所に色々と引っ掛かる部分があるのだが。
「うーん、こればっかりは仕方が無いわよ。
それにしても生徒会長って役職も大変よねぇ、問題の有る生徒の素行まで見ておかないと駄目なんて」
モンモランシーの心配そうな声を聞き、訳知り顔で頷くキュルケ。
その態度に不信感を抱きつつも、一応タバサが行方不明な訳を尋ねる。
「タバサが何処に行ったか知ってるの?」
ルイズも不在という時点で、何やらきな臭い雰囲気を感じ取ったキュルケだが、二人して友人に相談をしなかった事に少々腹が立っていたので、適当な嘘をモンモランシーに告げた。
「タタタタタタ、タバサが京也と駆け落ちしたって本当なの!!」
「本当本当」
「その二人をルイズが追いかけてるっていうの!!」
「捕まれば・・・きっと血を見る事になるわね」
青い空を見上げながら、キュルケは必死に笑いを噛み殺す。
だから気が付かなかった、自分の想像以上にモンモランシーがその冗談にショックを受けている事に。
「たた、大変大変!!
ギーシュ!! ギーシュ!! ギィィィィィシュ!!」
次の瞬間、キュルケの冗談を真に受けたモンモランシーが、青い顔をしてギーシュ達が修行に使っている学院の外れに向かう。
「・・・あ、ちょっと待って!!」
最後に冗談だと告げる間もなく、モンモランシーはその姿を消した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もしかして、かなりヤバくない?」
トリステイン魔法学院で引きつった笑顔をキュルケが浮かべている時、同じように京也も遠いアルビオンの空の下で引きつった笑みを浮かべていた。
スカボローの港に着き、浮遊大陸という存在に感動をしている京也を引き連れて歩く一行は、丁度昼前ということで適当な店に入り注文をした後でその問題は浮上した。
「・・・金が無い?」
名前は知らないが、とにかく肉を焼いただけにしか見えない料理を不味そうに食べながら、京也が驚いた顔でルイズに聞き返す。
「うん、ワルド様が持ってきてると私は思ってた。
私が持ってきたお金は、ラ・ロシェールでの宿泊とスカボローまでの運賃で消えちゃった。
最初予定していた人数より、3人も増えたわけだし」
食事については諦めていたのか、もっぱらデザートばかりを食べていたルイズからその告白を聞いた後、全員の視線がワルドに向かう。
「何しろ急な任務だったのでね、実家に帰れば資産を使えるのだが・・・
だから僕も小遣い程度の金額しか持っていないよ」
紅茶を飲みながら足を組み、ポーズを決めながらワルドが告げるが、その発言内容が情けない事に変わりはなかった。
「つまり、まとまった金は持ってない、と?」
「・・・そう言う事だ。
僕もルイズがアンリエッタ妃殿下から、準備金なり受け取っていると思ってたからね」
ワルドの言い訳を斬って捨てた京也に、さすがに誤魔化し切れずにワルドも引きつった笑顔を作る。
最後の頼みの綱とばかりにハシバミ草のサラダを食べているタバサを見るが、無言のまま首を左右に振っていた。
思い返してみれば、学院でタバサを捕まえてラ・ロシェールまでの運送をお願いしたのだから、それほどの金額を持ち歩いている筈が無かった。
この際、平民のアルトと普段からルイズからの小遣いで生活している京也は員数外である。
「タバサは仕方が無いとして。
何処まで計画性が無いんだ・・・貴族って奴は・・・
というか、この場合は王族が問題になるのか?」
「貴族様ってそんなものですよ。
仕方が無い事です、京也さん」
『何を今更言ってるんだよ相棒。
そんなモンだって諦めろって』
改めて先行きに不安を感じ嘆く京也を、新弟子のアルトとデルフが慰めるのであった。
幸い、今入っている店の代金分は手持ちで払えたが、それ以降になると最早文無しに近い状態だった。
店を出た後、ちょっとした公園の隅に円座で座り込み、全員が金策に頭を悩ませる。
とても国を代表する大公爵の娘と、前途洋々と称されている男爵の会話とは思えない話だ。
「アンリエッタ王女から水のルビーを受け取っているけど・・・おいそれと売れないわよ。
というか、国宝の宝石を捨て値で売れるわけないでしょ。
下手をしたら盗品と疑われて大騒ぎになるわよ」
「ごもっとも」
ちょっと考えれば、そもそも買い取り手がつく筈もない。
仮に売れたとしても、後日トリステイン王国から無理な値段で買い戻されたり、下手をするとタダで接収されかねない。
そんなリスクを犯してまで国宝を買い取ろうとする物好きがそうそう居るとは思えなかった。
というより、そんな先祖代々伝わっている宝石をほいほいと渡す方にも問題が有ると思うのだが。
改めてアンリエッタ王女の思量の無さに、京也は深い溜息を吐いた。
「皇子探し以前に、自分達が明日を生き残る事が問題だな。
という訳で、そこの無駄に煌びやかな服を着てるワルドさん・・・古着屋に行こうか?」
「断る!!
君は本当に貴族に対する礼を知らない男だな!!
この制服に袖を通す為に、一体どれだけの苦労を僕がしてきたと思うんだ!!」
爽やかな笑顔でワルドの肩を叩きながらそんな事を言い出した京也に、思わず立ち上がり杖を突きつけながらワルドが怒鳴る。
しかし、旅装束のルイズと学園の制服を着ているタバサ、元々平民の服装をしている京也にアルト。
明らかに魔法衛士隊の制服を着たワルドのその姿は、周囲から浮いている事も確かだった。
そもそも、トリステイン王国の魔法衛士隊の制服を着ての潜入捜査など、隠密行動以前に国際問題に発展するほどの問題だ。
「この先潜入捜査が多くなるなら、変装が必要」
「ぐっ・・・」
タバサからの冷めた視線を受けて、思わずワルドは口を閉ざす。
自分でもこのままでは拙いと理解しているだけに、タバサの正論に対して反撃が出来ない。
実際、身分証明が出来ない今は隠密にこの街を出て、それ以降も目立つわけにはいかないのだ。
ここまで抵抗をする理由は単純に今回の提案が京也によって出されたからだった。
多分、最初にルイズが同じ事を提案していれば、ルイズを褒め称えながら喜んで従った事だろう。
・・・負けず嫌いな自分の性格をちょっと後悔した瞬間だった。
「ワルド様・・・」
そこで、止めとばかりにルイズが涙目で見上げてくる。
ルイズの隣ではアルトも純真な子供の瞳でワルドを見上げていた。
「あは、あはははははははは・・・・・・・・・はぁ」
肩を落として降参するワルドから見えない位置で、ルイズ達と京也がサムズアップをしていた。
『相棒・・・容赦が無ぇな・・・』
全てを見ていたデルフだけがワルドに同情をしていた。
流石に上等な生地を使用していた魔法衛士隊の制服は、結構な値段で売る事が出来た。
不要と判断された過剰な装飾が次々に切り落とされる度に、ワルドのプライドも切り落とされていくのか顔色が悪くなっていった。
最後に外された魔法衛士隊隊長の徽章をルイズから手渡された時、引き攣った笑顔しか浮かべられない状態だった。
その過程を見ていた仲間達は流石に気の毒に思ったのか、先ほどの公園に飲み物を片手に集まりワルドを慰めていた。
「意外と平民の服にも仕立ての良い物があって良かったですよね、ワルド様」
「そうそう、似合ってますよ」
ルイズとアルトにヨイショをされてもその顔に笑顔が浮かぶ事は無かった。
古着は断固拒否すると息巻いたワルドに、そこまで無理意地はする必要は無いだろうと京也達は新品の服を購入した。
一応、ワルドやルイズのお眼鏡にギリギリ適う服もあったが、あまりの高額に京也が駄目出しをした結果、平均より少し上程度の服を購入する事に落ち着いた。
そう、現在財布を握っている京也は仲間内で最強の存在だった。
浪費癖のある貴族連中に財布を持たせていると、一瞬で財布が空になると京也が言い張った結果だった。
唯一、ワルドが空しい抵抗を行ったが、ルイズとタバサが賛成に回った為、泣く泣く換金したお金を京也に手渡したのだった。
ちなみに落ち込むワルドの姿ばかりが目立っているが、ルイズとタバサも平民の私服に着替えていた。
特にタバサが着ていたトリステイン魔法学院の制服は、好事家に高く売れるという事で高値で買い取られた事に京也は異世界と言えどマニアは存在するんだなぁ・・・と変な所で感心をしていた。。
服は着替えても、タバサの杖だけは隠しようがないので、結局今は布を巻いて誤魔化している。
元が良いだけにルイズ達は平民の娘の姿をしていても、やはり何か光る物が伺えた。
京也がそう言って二人を褒めると、ルイズは赤面をしながら当然という顔で微笑み、あのタバサも満更でもない様子で頷いていた。
さて、落ち込んでいるワルドの姿を全員で改めて確認する。
元々背も高く鍛えられた身体つきのワルドには、飾り気のない平民の服でも十分に目立つ存在だった。
貴族然としたハンサムな顔付きと長い金髪もそれを助長していた。
京也としては髪も切り落とした方がいいような気がしたが・・・青い顔でブツブツ言いながら地面の草を抜いているその姿を見て、流石に言い出すことが出来なかった。
「よし、とりあえず変装はこれで良いだろう。
次はこのパーティの役割というか、問い質された時の言い訳を考えておくか。
これから先は身分を隠して、旅人の振りをしないと駄目だしな」
「なら僕はルイズの兄の役だな」
『うお、瞬時に復活しやがった』
死にそうな顔をしていたワルドが、京也の言葉を聴いた瞬間に復活を果たした。
その立ち直りの早さに、思わずデルフが驚きの声を上げる。
「えっと、何と呼べば良いんですか?」
「勿論、『ワルドお兄様』だよ」
恍惚とした笑みを浮かべるワルドに、ちょっと引きつつルイズはその提案に頷いた。
元々、実家では兄妹のような関係だっただけに『お兄様』と呼ぶ事に躊躇いは無いのだが。
・・・・・・・・・・・・・・・・何だろう、この背筋に走る悪寒は?
自分の知らないワルドの姿に、ルイズは言い知れない不安を感じていた。
「さあ、呼んでみたまえルイズ!!」
「えっと、ワルド・・・お兄様?」
「良いね、良いね、最高だね!!」
笑顔でテンションを上げてきたワルドに、着いていけない他の仲間達は引いていたが、先程まで見ていて痛々しいほど落ち込んでいただけに、そっとしておく事になった。
「・・・タバサはどう呼ぶつもり?」
「必要あるの?」
「勿論、タバサ君は『ワルド兄さん』でいこうか」
鼻息も荒く詰め寄るワルドに、微妙に顔を引き攣らせつつタバサが上目遣いでワルドの要望に応える。
「・・・ワルド兄さん」
「きたきたきたきたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
両手を天にかざすワルド。
ますます引いていく京也達。
・・・どうやら入れてはいけないスイッチを入れてしまったらしい。
「じゃあ、僕は?」
「うむ、特別にこの任務の間は『ワルド兄上』と呼ぶといい。
ただし、必要が無い限り気軽に呼ばないように」
「はぁ、じゃあそうします」
あまりのテンションの違いに着いていけず、適当な相槌を打つアルト。
「俺はワルドの兄貴って呼ぼうかな」
「君は話しかけるな、黙ってろ」
「・・・・・・・・・・・・・」
『何だかんだ言いながら、仲が良いよなぁ、この一行』
結局、最終的にはワルドの強い要望により。
長男=ワルド
次男=アルト
長女=ルイズ
次女=タバサ
召使=京也
という配役に落ち着いたのであった。
「・・・駄目だ、やっぱり検問をしてるみたいだ」
スカボローの港街に一つしかない出入り口の門には、予想通り反乱軍によって検問がされていた。
様子見に出ていた京也の報告を受けて、ワルドが重々しく頷く。
「まあ当然の処置だな」
門の近くの路地裏で集まっていた一堂は、予想をしていた事態に驚きはしなかったが面倒になったと顔を暗くした。
身の上を問い質されて先程決めた配役を答えることが出来ても、それを証明する手段が無い。
即興の芝居を演じきれるのは京也とワルド位だろう。
ルイズとタバサにワルドの妹を演じる演技力を求めるのは・・・酷だろう。
もしこの時期にトリステイン王国の公爵家の娘に、魔法衛士の男爵などという身分がばれれば只では済まないのだから。
「このメンバーなら強行突破も可能だろうが、なるべく面倒ごとは起こしたくない。
やはり夜になったら闇に紛れてフライで外壁を越えて行こう」
「うん、その意見に賛成。
この先も色々とあると思うし、変にトラブルを呼ぶような事をするのは避けよう。
・・・そう言えばタバサ、シルフィードは無事にアルビオンに着いてるのかな?」
最近姿を見ていなかった風竜の事を思い出し、京也が背後に居るタバサに尋ねる。
「大丈夫、私達と同時に着いてる。
ヴァーユも一緒」
「そうか、それは良かった」
タバサからの報告を受けて京也は嬉しそうに頷く。
「じゃあ夜まで適当に時間を潰しましょうか?
京也、私あっちの通りにあった宝石店に行きたい」
「・・・見るだけだからな。
じゃあ、日が暮れたらこの場所で落ち合う事にして、一時解散するか。
警備の状態もそれとなく見ておきたいし」
「なら私も一緒に行く」
「あ、僕も着いていきます」
時間が空いたという事でルイズを誘って出掛けようとしていたワルドは、その誘いを掛ける前にルイズ達が去ってしまい、腕を上げたままその場に固まっていた。
日が暮れてから京也達が約束に場所に足を運ぶと、微妙に機嫌の良い顔をしたワルドが待っていた。
「・・・何かあったのか?」
「・・・さあ?」
訳が分からずルイズと一緒に首を傾げる京也達を無視して、ワルドはさっさと話を進める。
「僕が調べたところ、定期的に外壁の周囲を巡回している兵士と、外壁の上を巡回する兵士がそれぞれ同時に不在になる時間が一時間に一回位発生する。
もっとも、その時間は約十分間ほどだけどね。
もう少し時間を置いて深夜になってから、その隙間を利用して脱出を決行する」
「は、はぁ、了解です」
きびきびと作戦を説明するワルドに、何か悪い物でも食ったのかと心配になりながら京也が同意をする。
他の皆も同意見なのか、まるで別人を見るようにワルドを見ていた。
「この中でフライが使えるのは・・・私とタバサ君だけだな」
「ん」
フライを使える人物を再確認するワルドに、タバサが短く同意の返事をする。
ワルドに視線を向けられたルイズは、ちょっと悔しそうな顔をしながら首を左右に振っていた。
「ならば、ルイズは僕が抱えてフライで飛ぼう。
タバサ君はアルトを頼む」
「俺は?」
「自力で頑張れ」
京也の素朴な問い掛けに突然、滅茶苦茶良い笑顔で返事をするワルドに、流石の京也の頬も引き攣った。
「ワルド様、三十メイルはある外壁を、京也一人で乗り越えるなんて無理です!!」
「そうだそうだ!!」
ルイズが早速抗議の声を上げ、それに京也が同調する。
「ええい、この非常識な男なら多分可能だ!!
何より魔法を使った後は、仕掛けられているデティクト・マジックに引っ掛かる可能性が高い。
つまり、どちらにしろ僕かタバサ君が引き返して迎えに行くのは非常に危険なんだ」
「え、そうなの?」
「うん、有り得る話」
京也がタバサに真偽を問い掛けると、無常にもワルドの言葉を肯定したのだった。
「ははは、もし捕まっても君ならなんとか抜け出してくるだろう?
まさか戦う力の無いか弱いルイズや、無力なアルトを残す訳にはいくまい?」
「うわっ、滅茶苦茶良い笑顔だこの人」
状況が自分に有利だという事を確信したのか、ワルドが我が意を得たりと笑顔のままで京也の説得に当たる。
色々と言い返した事はあるが、言っている事は正論なので京也は歯軋りをしながらその提案を受け入れた。
そして、待ちに待ったタイミングが訪れた。
眠そうな顔をした反乱軍の兵士が通り過ぎた後、ワルドがルイズを抱え上げ、タバサの腰にアルトがしがみ付いた状態で呪文を唱えて空へと舞い上がる。
それを離れた位置で隠れて見送っていた京也は、近くの反乱軍が屯している小屋が俄かに騒がしくなる気配を感じていた。
「うーん、皆は無事に抜け出せそうだけど・・・こっちは微妙だなぁ」
『流石に三十メイルのジャンプは無理かい、相棒?』
「・・・・・あのなぁ、あの高さの壁を飛び越えたら、そいつは人間止めてるぞ。
むしろ飛び越えるより、破壊する方が楽だろうな」
『・・・破壊する方でも十分人間止めてるよ』
京也の台詞に呆れた返事をするデルフだったが、そうしてる間にもワルド達は壁の向こうに消えて行った。
後は無事に地面に着けば脱出成功だ。
「よし、そろそろ俺達も行くか」
『言っとくけど俺を外壁に刺して足場にするなよ!!』
「ま、なんとかなるだろ・・・登るだけなら」
反乱軍が小屋を出る前に、京也は外壁に向かって走り出した。
そして全身のバネを使って外壁を駆け上がる。
だが、重力を振り切り続けるも二十メートルを超えた辺りで急速に勢いが落下した。
『相棒、残り五メイルだ!!』
「っ、やっぱり垂直で三十メートルはキツイな!!」
残り五メートルで遂にその上昇が止まる。
京也は壁を蹴って逆に空に飛び出しながら、懐に用意をしてたロープを括り付けたナイフを外壁の最上部に投げつけた。
「よっしゃ、狙い通り!!」
『準備が良いな、相棒』
京也は落下する身体をロープでつなぎ止め外壁に着地する。
そのまま素早い動作でロープを登りきり、外壁の上に身体を運んだ。
そして、そのままの勢いで外壁を降りようと向こう側に向かう。
「さて、後は降りるだけなんだが・・・」
外壁の向こう側を見て京也は黙り込んだ。
そこには、深々と水を湛えた堀があった。
『堀だな』
「ああ、堀だ」
『どうする?』
「・・・向こう岸で笑顔で手を振ってるのはワルドさんだよなぁ」
『なら跳び込むしかねぇな・・・ちゃんと後で手入れをしてくれよ、相棒?』
憮然とした顔をしたまま、京也は外壁から大きく飛び出した。
こうして、賑やかな京達一行のアルビオンでの旅は始まったのだった。
あとがき
仕事も忙しければ、プライベートも大変です。
まあ、生きている以上仕方が無い事ばかりなんですけどね。
・・・職を失ったら、それどころじゃないですしねぇ