< 時の流れに >

 

 

 

 

 

第二話.「緑の地球」はまかせとけ・・・全ての業は俺が背負う!!

 

 

 

 

 

 俺がデッキに帰還すると・・・ユリカが待っていた。

 

「アキト!!

 良かった無事だったのね!!」

 

 顔中に微笑みを浮かべて、俺の無事を喜んでくれている。

 やはり変わらないよな・・・その微笑んだ顔は。

 

「ああ、何とか生き延びたよ。」

 

 俺も軽く答えを返す・・・

 正直言って、余りユリカの笑顔を見たく無かった。

 

 自分の中の箍が外れて、抱き締めてしまいそうになるから・・・

 

「どうしたのアキト?

 顔色がちょっと悪いよ。」

 

 そんな俺を、ユリカが覗き込む様にして見る。

 その大きな瞳は、あの親愛の情を・・・俺に告げていた。

 

「生まれて初めての戦闘だったんだぞ。

 安心したら気が抜けて、気分が悪くなったんだよ。」

 

 適当に言い訳を並べて、俺は医務室に向かった。

 ・・・ただ、ユリカの前から逃げ出したかっただけだ。

 俺を気遣うユリカを残して、俺は医務室に向かった・・・

 

 

 

 

 

 ピッ!!

 

 

「アキトさん・・・」

 

「ルリちゃん、かい?」

 

 突然コミュニケの画面が現れルリちゃんが現れる。

 

「はい、そうです・・・お疲れ様でした。」

 

「止してくれよ・・・あんな戦いは、今の俺にとって戦闘の内に入らないさ。」

 

 そして寂しげに笑う俺を見て・・・ルリちゃんも顔を少し顰めた。

 

「ユリカさんにも・・・事情を話されないのですね。」

 

「・・・色々考えたんだ、これでもね。」

 

 俺は視線をルリちゃんの正面に合わせて、自分の考えを言い切る。

 

「ユリカには、このままの関係で接するつもりだ。

 そうすれば過去への干渉を、少しは防げる・・・

 余りに大きな干渉をしてしまって、予測の出来ない未来を招きたく無い。」

 

 下手に干渉をして、肝心な所で失敗をしたくは無い。

 それこそ愚かな事だ。

 

「・・・アキトさんがそう言われるのなら、私は何も言いません。

 ですが・・・アキトさんが死ぬ事が解ってる人を前にして、助けずにいられますか?」

 

 嘘は許さない・・・そういった目で俺を見つめるルリちゃん。

 

 成長したね・・・本当に。

 

「・・・ゴメン、正直言ってその事には自信が無い。

 ガイ、白鳥九十九、サツキミドリの人達、火星の生き残りの人達・・・

 俺は・・・理解はしていても、実行する事は出来ないかもしれない。」

 

 彼等を見捨てる事は出来ない。

 全てが、未来の悲劇へと続くものだから。

 

「それでいいんですよ、アキトさんは。

 私はそんなアキトさんだからこそ、支えてあげたいと思うんですから。」

 

「有難うルリちゃん・・・心強いよ、本当に。」

 

 お互いに本心からの笑顔を交わす・・・

 

「そうだ!! 早速だけど相談があるんだ。」

 

「何でしょう?」

 

「実は・・・」

 

 俺はラピスも過去に戻っている事を、ルリちゃんに説明し・・・

 ラピスとルリちゃんの二人で、ある計画を実行する事を頼んだ。

 

「・・・と、言う事なんだけど。」

 

「・・・結構悪知恵が働くんですね・・・アキトさんって。」

 

 例の冷めた目で俺を一瞬だけ睨み・・・

 

「勿論、その作戦には参加させて貰います。

 ・・・それにラピスには、一人補佐を付けましょう。」

 

 手の込んだ悪戯を見せる時の表情で、俺に話かけるルリちゃん。

 

「補佐? しかし、俺達の話を信じてくれて、しかも信用の置ける人物など・・・」

 

「いますよ・・・ハーリー君が。」

 

 何!!

 

 この時の俺の表情は正に、驚愕!! を表していただろう。

 

「まさか、マキビ ハリ君も・・・」

 

「ええ、覚醒してからすぐに私に連絡をしてきました。」

 

 悪戯が成功して嬉しいのか・・・その時の事を微笑ながらルリちゃんが俺に話す。

 

 ・・・過去のこの時点では、お互い全然面識が無いはずだろうに。

 羨ましい程に真っ直ぐだな・・・彼は。

 

「・・・出来れば直ぐに連絡を取って、ハーリー君にラピスの補佐を頼んでくれないか?」

 

「解りました・・・それではまたブリッジで。」

 

「ああ、ブリッジで会おう。」

 

 

 ピッ!!

 

 

 その言葉を最後に、ルリちゃんとの通信は途絶えた。

 そして俺は、ブリッジに向けて歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 ・・・まあ、予想通りなので仕方が無い事だが。

 

 ムネタケ副提督が叛乱を起こした。

 

 俺は食堂から動くつもりは無かったが・・・

 ルリちゃんの頼んだ出前を持って、ブリッジに来ていた。

 ・・・これも、ルリちゃんなりの可愛い悪戯だ。

 これしきの事では、未来も簡単に変わる事はないだろうしな。

 そして現れる連合宇宙軍の戦艦・・・

 俺とルリちゃんは、目の前の戦艦と通信を繋いだ瞬間、両手で耳栓をしていた。

 

 

「ユリカ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 

 

「お父様!!」

 

 相変らず元気そうだな・・・お養父さん・・・いやミスマル提督、だな。

 と、言ってもよく考えればこの時点では、提督もユリカもお互いに無事だ。

 ちなみに始めのミスマル提督の一声で、ブリッジの半分位の人が意識を手放しかけていた。

 その隙を狙ったかの様に、ユリカとミスマル提督の親子の会話が続いている・・・

 

「ユリカ!!

 おお、久しぶりだなこんなに立派になって(号泣)」

 

「そんな、お父様とは今朝も一緒に、食事をしたじゃないですか。」

 

「そうだったかな?」

 

 ・・・アルツハイマー症候群になるのは、早すぎるでしょうミスマル提督。

 俺も流石に、声に出してそんな事は言わないが。

 

「これはこれは、ミスマル提督・・・一体どの様な御用件でしょうか?」

 

 このままでは、親子の会話から抜け出せ無いと判断したらしく・・・

 プロスさんが復活し、ユリカとミスマル提督の会話に割り込んだ。

 

「うむ、こちらの用件を言おう。

 機動戦艦ナデシコに告ぐ!! 地球連合宇宙軍提督として命じる!! 直ちに停船せよ!!」

 

 簡単に言えば、ナデシコを寄越せ・・・という事だ。

 

 良く考えれば、虫の良い話しだな・・・

 まあ、それだけ宇宙軍には余裕が無いのだろう。

 確かにナデシコの実力は、宇宙軍には魅力的に映っただろうな。

 

「・・・どうします、アキトさん?」

 

「・・・今回も動くつもりは無いよルリちゃん。」

 

 ルリちゃんが俺に質問をしてくる。

 ちなみに、昼御飯にと俺にオーダーしたチキンライスを、今も食べている。

 

 ・・・行儀が悪いぞ、ルリちゃん。

 

「・・・解りました。

 それとハーリー君に連絡入れておきました、OKだそうです。」

 

 チキンライスを食べ終え。

 口元を拭きながら、俺に小声で報告をするルリちゃん。

 

「・・・そうか、ラピスにはもう連絡をしているから、後は大丈夫だな。」

 

「・・・まだ、繋がってるのですか?」

 

 何故か悔しそうな目で、俺を見るルリちゃんだった。

 

「・・・あ、ああ?」

 

 そこで俺と、ルリちゃんの小声での会話は終わった。

 その後の展開は・・・

 ユリカが皆の制止を聞かずマスターキーを抜き、ナデシコは操作不能になり。

 そしてユリカはプロスさんとジュンを連れて、提督の待つ戦艦に乗り込んで行った。

 ・・・しかし前回もそうだが、何をしに行ったんだユリカは?

 

 この時俺は知らなかったが・・・

 ユリカがしつこく、俺がユリカと別れてからの過去を聞くので、俺は両親が殺された事を話した。

 犯人は既に知っているが・・・

 この時点でのユリカへの言い逃れには、最適だと思った。

 それに、前回もそう言ったからな。

 

 ・・・後にこの事件の真相を聞いたら・・・やはりユリカだ、と思った。

 

 

 

 今、俺達の目の届かない所で、戦艦クロッカスとパンジーがチューリップに吸い込まれていた・・・

 

 

 

 そして場面は厨房に戻り・・・

 

「どうした!! 皆、暗いぞ!!

 俺が元気の出る物を見せてやる!!」

 

 ・・・その元気の良さは相変らずだな、ガイ。

 その姿を懐かしく思いながら見ていると・・・

 

「どうします?

 もう直ぐユリカさんが帰って来ますよ。」

 

 隣の椅子に座っていたルリちゃんが、オレンジジュースを飲むのを止めて俺に話し掛ける。

 こう言う仕草が、自然に出きる様になったんだな、ルリちゃんも。

 

 俺は少し嬉しくなった。

 

「う〜ん、前回は勢いで反撃をしたからな・・・

 今回はどうやって・・・考える必要は無いみたいだよルリちゃん。」

 

「・・・ですね。」

 

 俺達の目の前では既に、ガイを先頭に皆が反撃を始めていた。

 ・・・多分忘れていると思うんだが・・・ガイ、お前足を骨折してるんだろ?

 

「あ、こけましたね。」

 

「ああ、その上皆に踏まれているな。」

 

 哀れな奴かもしれないな。

 ・・・前回の最期を思い出して俺はガイに同情してしまった。

 そして俺達は、叛乱した兵士達を鎮圧しつつデッキに向かった。

 

 俺も途中で遭遇した兵士を叩きのめしたが・・・

 すまん、まだ過去の身体での手加減の具合が解らなかったんだ。

 少なくとも・・・全員が入院3ヶ月程の怪我をしたと思う。

 

 

 

 

 

 そして、俺とルリちゃんは廊下でミナトさんと出会った。

 

「あれ〜、ルリちゃんってアキト君と仲がいいんだ?」

 

「はい、そうなんですミナトさん。」

 

 ・・・俺はどう返事をするべきなんだろう?

 いや、下手に返事をしない方がいい。

 

 俺の勘がそう告げていた。

 

「アキト君も艦長とルリちゃんを、天秤にかけたりしないわよね〜。」

 

 ・・・声は軽いが、目が真剣で恐いぞミナトさん。

 

「アキトさんはそんな事しませんよミナトさん。」

 

「ふ〜ん、アキト君の事には詳しいんだルリちゃんは。」

 

 今度は優しい目でルリちゃんを見詰めるミナトさん。

 ・・・そう言えば過去でもミナトさんが、一番ルリちゃんの面倒を見てたな。

 

「ええ、アキトさんの事には詳しいですよ私は。」

 

 ルリちゃんも、ミナトさんに微笑みながら返事をする。

 そんなルリちゃんの返事と表情に、驚くミナトさん。

 

「初対面の時は、あんなに無表情だったルリちゃんが・・・

 そうか、これも全部アキト君のお陰なのね。」

 

 ・・・ミナトさん・・・全部って、まあ間違っては無いか。

 ・・・いや、やはりルリちゃんの成長には、ミナトさん貴方も関与してますよ。

 

「そうですね。

 最初の時は実は緊張してたんです。

 アキトさんと、再会出来るかどうか解らなかったので・・・」

 

「ほぉぉぉぉぉぉ!! 言うじゃないルリちゃん!!」

 

 ・・・もう勝手にやってくれ。

 ルリちゃんのその言葉を最後に、ミナトさんはホウメイさんの手伝いに。

 俺とルリちゃんはチューリップを牽制する為に、エステバリスの格納庫に向かった。

 

 

 

 

「・・・今回もマニュアル発進ですね。」

 

 何故か嬉しそうなルリちゃん。

 あれはちょっと・・・流石に今度もやるのは俺も嫌だ。

 

「・・・ちゃんと飛行ユニットを付けて行くよ、今回は。」

 

「そうなんですか・・・じゃあヤマダさんは本当に、イイトコ無しですね。」

 

「・・・だな。」

 

 ・・・でもやっぱり飛行ユニットを付けて俺は出撃した。

 すまんガイ。

 何時かお前も、日の目を見る時が来るさ・・・多分。

 

 

 

 

「あれ〜、ルリちゃんどうしたの、急に笑ったりなんかして?」

 

「ちょっと、意地悪してあげたんです。

 昔された意地悪の仕返し、かな。」

 

「・・・誰に意地悪をしたの?」

 

「秘密です。」

 

「教えてよ〜ルリちゃん。」

 

「幾らメグミさんでも、これは絶対秘密です。」

 

「もう〜、ルリちゃんの意地悪!!」

 

 等の会話があった事など、俺は知らない。

 

 

 

 結局、俺がまた余裕でチューリップの触手をいなし、遊んでる間にユリカが帰艦し。

 戦闘はナデシコがチューリップの入り口に頭を突っ込み、グラビティ・ブラストの一撃で決着はついた。

 

「しかし・・・ルリちゃんの成長には驚かされたな。

 ・・・そうだよな、ルリちゃんが俺のあの2年間を知らない様に。

 俺も知らない、ルリちゃんの2年間があるんだからな。」

 

(ラピス・・・)

 

(何、アキト?)

 

(・・・頑張ろうな。)

 

(・・・うん、アキトも頑張ってね。

 私もハリと一緒に地球で頑張るから。)

 

(・・・ああ、じゃあまた。)

 

(うん。)

 

 ラピスも精神的に、急激に成長している・・・

 俺の心残りは、だんだん解消されていくだろう。

 

「後は・・・」

 

 俺はその時の事を夢見ながら、ナデシコに帰艦した・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三話に続く

 

 

 

 

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