< 時の流れに >

 

 

 

 

 

第四話.水色宇宙に「ときめき」・・・何も、言うまい

 

 

 

 

 

 俺の目の前では・・・。

 ジュンとユリカが、過去と同じ会話をしている。

 

「そうだよね!! ジュン君はユリカの一番大事な友達だもの!!」

 

 ユリカの宣言に固まるジュン。

 ジュン・・・お前は、ずっとこんな会話をして育ってきたんだよな。

 さすがに同情をしてしまうな。

 

「ユ、ユリカ・・・そうじゃ無くて。」

 

「心中お察ししますよ。」

 

「・・・まあ人生先は長いんだし。」

 

「今後の活躍を期待する。」

 

「負けずに頑張って下さいね。」

 

 上からジュン、プロスさん、ミナトさん、ゴートさん、メグミちゃんだ。

 以上が、ジュンのナデシコ入隊歓迎式だったそうだ。

 

 

 

 

 

「これがジュンの歓迎式?」

 

「そうですよアキトさん。」

 

 俺が前回の戦闘の疲れから倒れて、一日が経つ。

 その間に起こった事を、ルリちゃんに聞くと・・・

 先程のジュンの映像と、ビッグ・バリア突破の瞬間の映像を見せてくれた。

 

「・・・まあ変化と言えば、俺とガイがその場に居ない事ぐらいか。」

 

「そうですね・・・それと、ラピスからのデータ受信は終りました。」

 

「オモイカネ単独で出来そうかな?」

 

 例の設計図の事か。

 

「不可能では無いと思います。

 それと、例のプロジェクトの進行率は10%に進みました。」

 

 それは・・・俺の予想を越える早さだな?

 

「ふふふ・・・私が資金の提供をしたんですよ。

 ナデシコに乗ってる限り、それ程お金は使いませんから。」

 

 ・・・考えれば、6歳児には越えられないハードルがあったな。

 俺も根本的な所で見落としをするとは。

 

「そうだったのか・・・一番肝心な所を、見落としてたな俺は。」

 

「アキトさんらしいです。」

 

「ま、悔しいけど否定はしないよ。

 ・・・さて、ここからが正念場だな。」

 

 俺達はブリッジへと辿り着いた。

 プロスさんがお呼びらしい・・・

 用件に想像はつくが・・・さて、何処まで誤魔化せるかな?

 

「では、私は傍観させてもらいますね。」

 

「・・・助けてはくれないんだ。」

 

「私、少女ですから。」

 

 微笑んでそう言うルリちゃんに続いて、俺はブリッジに入った。

 

 

 

 

 

「さてさて・・・テンカワさんの戦闘記録を今先程、ブリッジ全員で拝見させてもらいましたが。」

 

 プロスさんがそう切り出し。

 

「正直言って、信じられん程の腕前だ。」

 

 ゴートさんが代表で褒めてくれた。

 

「やっぱりアキトは私の王子様だから!!」

 

 ユリカ・・・他に台詞を知らないのかお前は?

 過去でも、同じ台詞しか聞いた覚えが無いぞ。

 

 しかし、そんな騒がしいユリカをプロスさんが一言で黙らせる。

 

「艦長は黙っていて下さい。」

 

「・・・はい。」

 

 ・・・お前の艦長って役職は一体なんなんだ、ユリカ?

 しかし、かなり気合が入ってるなプロスさんにゴートさん。

 

「しかし・・・何故です?

 これ程の腕前を持ちながら、今までテンカワさんが軍に所属していた記録は無い。

 はっきり言えば、テンカワさんの実力を持ってすれば・・・」

 

 眼鏡を怪しく光らせながら、俺を睨むプロスさん。

 

「装備が揃えば・・・コロニーでさえ単独で落せる。

 ましてやナデシコを落す事も可能だ、と言う事だ。」

 

 ほう、ゴートさんとプロスさんの裏の顔が垣間見えたな・・・

 しかし、コロニーを引き合いに出されるとは。

 過去の罪を忘れた訳では無いが。

 

 俺は自分の罪を再認識した・・・

 

「俺は・・・両親にその手の教育を受けたんですよ。

 両親は何かに怯えていました。

 そして、自分の身は自分で守れる様に、と。

 火星のある場所に、俺専用のトレーニング機を作ってました。

 でも、俺は両親の言う事なんて信じてなかった。」

 

 ・・・ちょっと苦しいか?

 ユリカは・・・涙目で頷いてるな。

 でも判断基準にはなら無いよな・・・

 ルリちゃん・・・肩が笑ってるよ。

 

 もうヤケクソだな、これは。

 

「だけど、両親がテロで殺されて、その話しを信じる事にしました。

 俺は火星にいる間は、そのトレーニング機で練習をしてたんです。」

 

 どうだ?

 ・・・ルリちゃん、呆れた顔をして俺を見ないでくれ。

 これでもベットの上で、必死に考えたんだからさ。

 

「・・・確かに、テンカワ夫妻なら可能な事かもしれませんな。」

 

「プロスさん!! アキトの御両親をご存知なんですか?」

 

 お前が俺より先に反応するなよ、ユリカ・・・俺の台詞が無いじゃないか。

 

「ええ、テンカワ夫妻は高名な科学者でしたからね。

 ・・・それが、テロなどでお亡くなりになるとは。」

 

 お、ブリッジはルリちゃんを除いて同情ムードだな。

 後は押しの一手でもって・・・

 

「俺も最初は信じられませんでした・・・

 でも、あのトレーニング機だけが両親の形見だったから。

 俺、一生懸命練習したんです。」

 

 嘘泣きも付けた。

 このまま同情を誘って・・・一気に話しを誤魔化そう!!

 

 ・・・だからルリちゃん、俺にはその視線が痛いよ。

 

「では、テンカワさんはエースパイロットとしても働ける、という事ですな。」

 

「え、ええ、まあそう言う事になりますね。」

 

「丁度良かった。

 ヤマダさんがあの状態ですからね・・・パイロットが不足していたんですよ。

 ではこの契約書にサインを・・・」

 

 何故か嬉しそうに、懐から契約書を出すプロスさん。

 その笑顔が怖いです・・・

 

 これは・・・墓穴を掘った、かな?

 

 俺は結局、正式にエステバリスのパイロットとなり・・・

 過去と同様に、コックとパイロットを兼任する事となった。

 俺の目的の為には、余り目立ちたく無かったのだが・・・

 

 ま、これも過去と同じ状態だと思えば、気が少しは楽になるかな。

 

 

 

 

 

 

 ルリちゃんが当直のブリッジに、俺は訪れた。

 

「ルリちゃん・・・」

 

「何ですかアキトさん?」

 

「どの位の距離まで行けば、サツキミドリにハッキング出来るかな?」

 

 もう直ぐナデシコはサツキミドリに着く・・・

 それまでにやっておきたい事がある。

 

 戦艦相手では、幾らルリちゃんでもナデシコC並みの装備が必要だが。

 サツキミドリクラスの制御コンピュータなら、今のルリちゃんなら自力でハッキング出来るだろう。

 

「ギリギリの通信範囲からですね、ナデシコCでしたらかなりの距離から出来ますが。

 ・・・でも、サツキミドリをハッキングしてどうするんですか?」

 

 不思議そうに、俺に質問をするルリちゃん。

 そうか、通信距離が足りないのか・・・それは残念。 

 

「・・・じゃあ、サツキミドリのエマージェンシーコールを鳴らすウィルスを、作れないかな?」

 

 俺の言葉を聞いてルリちゃんの表情が驚きに変わる。

 どうやら俺の意図に、気が付いたみたいだ。

 

「それは、また・・・大胆な作戦ですね。

 とても先程の嘘を考えた同一人物とは思えません。」

 

 褒められてるの、かな?

 

「まあ、要するにサツキミドリから乗組員が脱出すればいいんだ。

 で、ウィルスは出来そうかな?」

 

「ええ、この手の悪戯はよくハーリー君とやりましたから。」

 

 クスクスと笑いながら、そう答えるルリちゃん。

 

 ・・・どこに悪戯してたんだ!!

 考えると恐いが、聞き出すのはもっと恐そうだ・・・止めておこう。

 

「・・・お陰でラピスの実力が良く解りました。」

 

 ・・・婉曲な解答を有難う、ルリちゃん。

 俺の知らない場所で二人の・・・いや三人の戦いは行われていたらしい。

 

「では、早速サツキミドリに仕掛けをしておきます。」

 

「ああ、頼むよ・・・俺はトレーニングルームに行って来る。

 まだ思う様に身体を動かせないんだ。」

 

 毎回毎回、出撃の度に倒れるわけにはいかないからな。

 

「そうですか?

 ・・・あの時のテンカワさんは、身体を鍛えてられましたからね。」

 

「そう言う事。

 今は記憶の通りに動けるように、ちゃんとトレーニングをしておかないとな。」

 

「頑張って下さいね。」

 

「ああ。」

 

 ルリちゃんの声援に送られながら、俺はブリッジを出た。

 

 

 

 

 

 

 その後、エマージェンシーコールにより緊急避難するサツキミドリの人達と、ナデシコはすれ違った。

 後日、このエマージェンシーコールは木星蜥蜴の奇襲によるものと判断された。

 

「・・・確信犯。」

 

「それは秘密だよ、ルリちゃん。」

 

 近頃ルリちゃんの突っ込みが厳しいのは、俺の気のせいだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はじめまして!! 新人パイロットのアマノ ヒカルで〜す!!」

 

 

「おおおおおおお!!!」 (メカニック達の魂の叫び)

 

 

「18才、独身、女、好きな物は、ピザのはしの硬くなった所と、両口屋の千なり。

 後、山本屋の味噌煮込みで〜す!!」

 

 

「おおおおおおお!!!」 (メカニック達の血の叫び)

 

 

 ・・・前回と違いヒカルちゃんとリョーコちゃん、それにイズミさんは無事に合流出来た。

 と、言ってもサツキミドリからの避難組から、彼女達を引き取っただけだが。

 自分の機体は、それぞれ避難時に持ち出したらしいのだが・・・

 それでもエステバリスの0Gフレームが、一台残ってるらしい。

 はあ・・・結局取りに行くんだろうな。

 

「よお、俺の名前はスバル リョーコ 18才、パイロットだ。

 これからよろしく。」

 

 

「うおおおおおおお!!!」 (メカニック達の熱き叫び)

 

 

「特技は居合抜きと射撃。

 好きな物はオニギリ、嫌いな物は鶏の皮、以上。」

 

 

「うおおおおらららららら!!!」 (メカニック達・・・狂う)

 

 

「愛想が悪いよリョーコちゃん。」

 

「けっ!! 自己紹介に愛想なんかいるか!!」

 

「じゃあ私が代りに、色々とリョーコちゃんの秘密を喋っちゃおっと!!」

 

「何だとヒカル!! てめー勝手な事するなよな!!」

 

 ・・・相変らず仲がいいんだなリョーコちゃん、ヒカルちゃん。

 あれ? イズミさんは何処だ?

 

 

 ベベベンン・・・

 

 

「おわ!!」

 

 お、俺の後ろを取るとは誰だ!!

 

「こんにちわ〜〜」

 

「こ、こんにちわ。」

 

 イ、イズミさんですか・・・今まで気配が無かったのに。

 

「どうも、新人パイロットのマキ イズミです。」

 

 

「うおおお・・・・???」 (メカニック達正気に戻る)

 

 

「ふふふふふふ・・・ヒカルとリョーコ・・・二人揃って・・・」

 

 

「・・・・・・・」 (全員凍結)

 

 

 はっ!! な、何が起こったんだ一体!!

 何かイズミさんが喋った様な記憶が・・・駄目だ、思い出す事を本能が拒否している。

 周りを見渡すと、イズミさんが楽しげにウクレレを鳴らしているが・・・

 

 あ、ユリカとジュンも凍ってる。

 

「イズミさんの話を聞いていた乗組員全員が、意識不明です。

 ・・・どうしますかアキトさん?」

 

 一人平気な顔で俺に話しかけるルリちゃん。

 

「ルリちゃんは聞かなかったの・・・もしくは効かなかったの?」

 

「耳栓してましたから。」

 

「・・・賢明な判断だね。」

 

「二回目ですから。」

 

「ごもっともです。」

 

 結局、ナデシコが通常勤務に戻るまで一時間もかかった・・・

 よく、木星の無人兵器に攻撃されなかったものだ。

 

 

 

 

 

 

 その後・・・俺達主要なメンバーはブリッジに集まっていた。

 今後の作戦を話し合う為であるのだ、が・・・

 

「ねえねえ!! この船に乗ってる二人のパイロットって誰なんですか?」

 

 元気よくヒカルちゃんが、ユリカに質問をしている。

 

「え〜と、一人は名誉の負傷の為に入院中です。

 もう一人は・・・」

 

 俺の方を向いて、笑顔でヒカルちゃん達に紹介をするユリカ。

 名誉の負傷・・・

 ガイ、お前の名誉は守られた様だ。

 

「ナデシコの誇るエースパイロットのテンカワ アキトです!!

 そして私の王(モガッ!!)」

 

「・・・艦長、今はそんな事を言ってる場合ではないでしょう?

 サツキミドリに残された、0Gフレームの回収の話しを先決させて下さい。」

 

 ミナトさんに口を押さえられ、目を白黒させながら頷くユリカ。

 ・・・成長しないな、お前は。

 

「御免ね〜艦長、プロスさんって怒ると恐いんだもん。」

 

「・・・で、結局は回収に向かうんだろ?」

 

「ええ、それは是非ともお願いしますよ。」

 

 結局はテスト飛行を兼ねて、パイロット全員で回収に行く事になった。

 だが、結局リョーコちゃんとプロスさんとで、話しを決めてしまったな。

 ・・・ユリカ、お前って一体?

 

「クスン・・・ルリちゃん、皆が私を苛めるの・・・」

 

「私、少女ですから。」

 

 ・・・意味不明な会話をしてるな、二人して。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてサツキミドリに向かう俺達・・・ガイは勿論ベットの上。

 途中でリョーコちゃんから通信が入った。

 

 

 ピッ!!

 

 

『お前、テンカワ・・・って言う名前だったっけ?』

 

「ああ、そうだよリョーコちゃん。」

 

『けっ!! なれなれしい奴だな、会ってから二時間でもう呼び捨てかよ!!』

 

 う〜ん、相変らず気性が荒いな。

 

「気に障るんだったらスバルさん、って呼ぶよ。」

 

『・・・リョーコでいい。

 一応パイロット同士で仲間だからな、他人行儀は苦手だしな。』

 

「了解。」

 

 

 ピッ!!

 

 

『じゃあ私もヒカル、でいいからねアキト君!!』

 

 突然ヒカルちゃんも通信に割り込んで来た。

 

「はいはい、了解しました。」

 

『・・・リョーコ、テンカワ君に何が言いたかったの?』

 

 ・・・相変らず心臓に悪い登場をする人だな、イズミさんは。

 しかし、通信ウィンドウの開く音がしなかったぞ?

 もしかして、自分でキャンセルをしているのか?

 

『そうそう!! テンカワ、お前本当に凄腕のパイロットだな!!

 地球圏脱出の戦闘記録見せてもらったぜ!!』

 

『そうだよね〜、とても人間業とは思えない腕前よね。』

 

『・・・同感。』

 

「褒めても・・・何も出てこないよ。

 あ、サツキミドリが見えてきたな。」

 

 俺はその話題を避けるため、任務に三人の意識を戻した。

 

『よっし!! 俺が先頭で案内するからな!!

 後続はしっかりと警戒しながらついて来いよな!!』

 

 

 

 

 

 

 

『デビルエステバリスだー!!!』

 

 なんだか・・・安直なネーミングだな、ヒカルちゃんそれって。

 

 

 ヒュン!! ヒュン!!

 

 

 中々の素早さで、デビルエステバリス(ヒカルちゃん命名)がコロニー内を飛び回る。

 

『くそっ!! 何て速さで動くんだよ!!』

 

『見かけは重そうなくせに!!』

 

 ふむ・・・過去では俺はこの時外で遊んでたな、確か。

 ・・・エステバリスに遊ばれていた、というのが正しいが。

 しかし、何時までも遊んでる訳にはいかないな。

 取り敢えずライフルで狙って・・・

 

 こいつのパターンは、俺には既に読めている。

 

「そこか。」

 

 

 ドン!!

 

 

 エステバリスを操っている無人兵器を、エステバリスの頭部ごと打ち抜く・・・

 ちょっとした隠し芸を披露した気分だな。

 

『・・・うそ?』

 

『一発で・・・終りかよ。』

 

『信じられない腕前ね。』

 

 三者三様の褒め言葉を貰いながら、俺達はナデシコに帰艦した。

 

 

 

 

「ふう・・・」

 

 ナデシコの格納庫に帰還をし、一息つく。

 その時・・・

 

 

 ピッ!!

 

 

『お帰りなさいアキトさん・・・

 もう手加減無用で倒されてますが、それでいいのですか?』

 

 ルリちゃんから通信が入った。

 

「ん? ああ、戦闘記録を見たんだね。

 ・・・どうせ素性は疑われているんだからな。

 せいぜい、役に立つ所を見せておかないとね。」

 

 プロスさんや、ゴートさんが俺の嘘に気が付かないはずは無い。

 あの嘘で騙せるのは、ユリカくらいだろう。

 ・・・無条件で信じているからな、俺を。

 

 それが皮肉に思えるが、な。

 

『・・・そうなんですか。

 私はリョーコさん達に、自分の実力をアピールされているのかと思ってました。』

 

 ど、どうしてそうなるかな?

 

「・・・もしかしてルリちゃん、戦闘前の会話も聞いてた?」

 

『ええ、艦長と一緒に。』

 

「・・・ああ、それでか。」

 

 俺はエステバリスの格納庫に向って、走ってくるユリカの姿を確認した。

 ・・・過去ではメグミちゃんが優しく迎えてくれたんだけどな。

 

『後で私も行きますからね。』

 

「俺は別に悪い事は、何もしてないじゃないか。」

 

『そんな事を言ってるから・・・過去と同じ状況になるんです!!』

 

 珍しく声を荒げるルリちゃん。

 何が言いたいんだろう?

 

『もう!! 知りませんからね!! アキトさんの馬鹿!!』

 

 

 ピッ!!

 

 

 そこでルリちゃんの通信は途絶えた・・・

 後には頭を捻ってる俺と。

 エステバリスの外で待ち構えている、ユリカがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

第五話に続く

 

 

 

 

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