< 時の流れに >

 

 

 

 

 

第七話.いつかお前が「歌う詩」・・・俺にその資格が、あるのか?

 

 

 

 

 

 ナデシコと俺達は、無事合流を果たし・・・

 敵を殲滅しつつナデシコは、敵の包囲網から逃げ出した。

 が、依然として危機は身近にある。

 

 

 今、ブリッジでは今後の作戦を全員で考えている。

 こればかりは・・・俺もルリちゃんも手の出し様が無い、な。

 そして、イネスさんの『説明』が始まる。

 ・・・その顔が凄く嬉しそうに見えるのは、気のせいじゃ無いだろうな。

 

 ちなみに、『なぜなにナデシコ』はルリちゃんのサボタージュによって阻止された。

 

「・・・イネスさん不貞腐れてたよ、ルリちゃん。」

 

「じゃあ、アキトさんがお兄さん役をしてあげればいいじゃないですか。

 その方がユリカさんも喜ばれますよ。」

 

「・・・それだけは、勘弁してくれ。」

 

 俺はルリちゃんに頭を下げて謝った・・・

 

 

 

 

 

「つまり、このナデシコに搭載されている相転移エンジン・・・

 それとディストーション・フィールドの開発者の一人が、私よ。

 だからこそ解るの、今のこのナデシコ一隻の実力では火星を解放する事は・・・

 いえ、それどころかこの火星から逃げ出す事さえ無理ね。」

 

「そんな事はありません!!

 そんな事・・・」

 

 イネスさんの睨まれて、言葉を小さくするユリカ・・・

 しかし、現実がイネスさんの言葉が正しい事を物語っていた。

 最強の武器であったグラビィティ・ブラストは、敵のフィールドに防がれ。

 敵の放った一斉攻撃を受け、逆にナデシコは洒落にならない損害を受けていた。

 そう・・・自力では大気圏外に出れない程の損傷を、だ。

 

 

「先程の戦闘で、木星蜥蜴もディストーション・フィールドを張れる事が解ったわよね?

 これでナデシコの最大の攻撃方法であるグラビティ・ブラストは、一撃必殺では無くなったわ。

 さらに今現在でも、敵はチューリップから増援を呼び続けている・・・

 さて、この現状のどこをどうしたら勝てるのかしらね?」

 

 ・・・相変らず、説明をしながらの怒涛の会話だな。

 相手に反論の隙を与えないし。

 

「では、この艦長の能力に今後を期待するとして・・・」

 

「すると、して・・・」 (ブリッジ全員)

 

「流石にお腹が空いたわ・・・そこの君。

 アキト君、って名前だったっけ?

 食堂にでも連れて行ってくれないかな?」

 

 おやおや、指名されてしまった・・・

 でも今後のユリカが考える方針にも、興味はあるし。

 しかし・・・全員の目が冷たいぞ。

 

「あの、出来ればプロスさんとかジュンとか・・・ゴートさんもいますし。」

 

「私はアキト君がいいな・・・何だか彼とは、初めて会った気がしないのよね。」

 

 それはそうだろう・・・

 記憶は無くても、何故か俺だと気が付いているのか? アイちゃん・・・

 

「そこまで言われるのでしたら・・・俺でよければ。」

 

「そんな他人行儀な事言わなくても。

 私を抱かかえて敵陣突破をした仲じゃない。」

 

 

 ピキッ・・・

 

 

 空間が凍り付くのを、俺は感じた・・・

 

「じゃあ、私もアキトさんに抱き付いて一緒に敵陣突破をしましたから・・・

 もうアキトさんと、他人行儀な事をする必要は無いですね!!」

 

 

 パキィィィィィィィィン!!!!

 

 

 何かが・・・そう何かが砕け散るのを俺は感じた。

 そして、その何かが砕けた後に残ったモノが・・・

 俺に凄まじい害を与えかね無い事を、俺は直感で理解した。

 

「さ、さあイネスさん!! 食堂はこちらですよ!!」

 

「え、ええ、じゃあちょっと食事に行ってきます。」

 

 そして、俺とイネスさんは逃げる様にブリッジを退散した。

 後には・・・

 

「アキト・・・ふふふふ、逃げられると思ってるの?」

 

「アキトさん・・・そう言えば前回の釈明がまだでしたね。」

 

 

「「ふふふふふふふふふふ。」」

 

 

「ミスター・・・こんな事をしていていいのか、今のナデシコは?」

 

「ゴートさん、全てはテンカワさんの責任です。

 彼に責任を取って貰いましょう。」

 

 ・・・結局、俺は後日この時逃げ出した事を激しく後悔する。

 俺に・・・一体どうしろと言うんだ?

 

 

 

 

 

「不思議だな・・・アキト君を見てると何故か落ち着くのよ。」

 

「そうですか?」

 

 俺の顔を見ながらイネスさんがそう呟く・・・

 そこまで・・・アイちゃんの記憶の中での俺は、ヒーローだったのか?

 結局、俺はアイちゃんを助けてあげる事が出来なかったのに・・・

 

「それにしても、どっちが本業なのアキト君は?」

 

「・・・どちらかと言うと、俺はコックが好きなんですけど、ね!!」

 

 フライパンの中のオムレツを素早く返しながら、俺は返事をする。

 

 

 ジュワァァァァ!!

 

 

 フライパンの中で、オムレツが焼ける音が響く・・・

 後は、ちょっと焦げ目を付けて完成だな。

 

 しかし、先程のイネスさんの質問。

 俺の本職・・・

 聞かれればコックと答えるだろう。

 しかし、それはあくまで俺の希望・・・であって。

 現実は、決して俺の思い通りにはならないと、知っている・・・

 それでも無くした夢を語る位の事は・・・許されると、思いたい。

 

 トン!!

 

 イネスさんの目の前に、焼き上がったばかりのオムレツを出す。

 

「はい、お待ちどうさま。」

 

「へ〜、やっぱり良い腕してるね、テンカワ。」

 

「ホウメイさんに褒められる程の、腕じゃ無いですよ。」

 

 実は厨房は今しがた、昼食の時間が終ったばかりだった・・・

 その為、休憩しているホウメイさんの代わりに、俺がイネスさんの料理をしたのだ。

 

「テンカワ? もしかしてテンカワ夫妻のお子さん!!」

 

「・・・ええ、そうですよ。

 俺の両親を知ってるんですか?」

 

 何が言いたいのか・・・解ってはいるけどな。

 そして、イネスさんが冷たく目を輝かせながら俺に言い放つ。

 

「それでよくこの船に・・・ネルガルの船に乗る気になったわね?」

 

「・・・何が言いたいんですか?

 俺が・・・ナデシコに乗ってるのが、どうして可笑しいですか?」

 

 当り障りの無い会話で場を誤魔化す・・・

 俺はまだ真相を知らない事になっているからな。

 

「知りたい?」

 

 俺に近づいてくるイネスさん・・・その時。

 

 

 ピッ!!

 

 

「二人共、近づき過ぎ!! プンプン!!」

 

 やっぱり現れたなユリカ・・・だが、今回は待ちどうしかったぞ。

 

「・・・何を、されてたんですかアキトさん。」

 

 ・・・見てたんだね、ルリちゃん。

 

「そ、それより何かあったのかユリカ、ルリちゃん。」

 

 俺は話を強引に進める事にした。

 

「そうそう、アキトとイネスさんは直ぐにブリッジに来て下さい!!」

 

「はいはい・・・じゃあ行きましょうか、アキト君。」

 

 そう言って立ち上がる、イネスさん。

 しかし視線は名残惜しそうに、皿の上のオムレツを見ていた。

 

 ふむ、時間的に見てクロッカスを発見したな。

 俺もイネスさんの後を追って食堂を出る・・・その時、後ろからルリちゃんの声が・・・

 

「近頃、見境無し・・・ですねアキトさん。」

 

 俺の胸を貫いた。

 

 ・・・だから、違うってルリちゃん。

 信じてよ、頼むから。

 

 

 

 

 

「センサーに反応・・・間違いありません、護衛艦クロッカスです。」

 

「そんな、信じられない!!

 クロッカスは、地球でチューリップに吸い込まれた筈なのに・・・」

 

 ブリッジに入ったとたん・・・

 ユリカとルリちゃんの声が聞こえてきた。

 

「そう!! そこで私の仮説が成り立つ訳なのよ。

 木星蜥蜴が使うチューリップ・・・あれは一種のワームホールだと、私は考えているわ。」

 

 ・・・そんな突然に、会話に割り込むなんて。

 科学者って、自分の話を聞かせる時って周りを見ないよな・・・

 

「そんな・・・チューリップが一種のワープ装置だと、言うんですか?」

 

「そうよ・・・そう考えれば、木星蜥蜴が何故あれ程の軍隊を、瞬時に動かせるか説明がつくわ。」

 

 ユリカとイネスさんの討論が続いている・・・

 俺は全てを知っているから、今回は高見の見物だけどな。

 

「さて、アキト君・・・貴方はどうしてこの提督の下で戦っているの?」

 

 突然、イネスさんが俺に話かけてきた。

 ユリカとの討論はもういいのか?

 

「この提督が火星戦役で、ユートピア・コロニーにした事を・・・知っているの?」

 

「ええ、知ってますよ。」

 

 俺の感情を込もっていない返事を聞いて、ブリッジの全員が固まる。

 そうか、このもう一人の俺。

 裏の俺を知っているか・・・もしくは見た事があるのは・・・

 ルリちゃんとメグミちゃん・・・それとイネスさんだけだったな。

 

「ですが・・・それも過ぎた事です。

 時間は過去には戻りません・・・今は、それどころじゃないですし。

 何よりフクベ提督が、一番惨めだったと思いますから。」

 

 偽りの英雄を演じてきた提督・・・

 いや、軍隊に英雄に祭り上げられた提督・・・

 その心の内は、俺には計り知れ無い・・・

 だが、単純に割り切る事など出来ないだろう。

 自分の命令で罪の無い、本来なら守るべき者達を皆殺しにしたのだから。

 

 俺の冷めた声と顔を見詰めていたイネスさんは・・・

 

「そう・・・見かけより大人なのね、そんな考え方が出来るなんて。

 ・・・つくづく興味深いわね、アキト君は。」

 

 

 ビキッッッッ!!!

 

 

 再び俺はあの音を聞いた・・・

 頼むから、勘弁してくれ。

 

 しかし、今回はどちらかと言うと場を和ます為の冗談だったらしい・・・

 そのまま、イネスさんとプロスさんは今後の方針を話し出した。

 

 

 

 俺はその後の会議を横目に、ルリちゃんに近づく・・・

 

「ルリちゃん・・・やっぱりクロッカスに生存反応は無い?」

 

「ええ、猫の子一匹も反応は有りません。」

 

 ・・・まだ、ご機嫌斜めの様だ。

 後でラーメンかチキンライスでも作って、ご機嫌取りをしておくか。

 

「・・・今回の事は映像添付のメールで、ラピスに送信しましたから。」

 

 

 ピキッ!!

 

 

 今度は俺自身が凍り付いた・・・

 

「ル、ルリちゃん・・・」

 

「一応私はこれで許して上げます。

 後はラピスの機嫌がどうなっても、私は知りませんから。」

 

 後ろではフクベ提督の提案により、エステバリスで先行偵察が行われる事が決定していた。

 どうやら過去と同じく、ネルガルの研究施設に向かうらしい。

 ・・・もっとも俺は、いかにしてラピスの機嫌を直すか?

 と、言う事に考えを集中していた為、その決定には何も意見を言わなかったが。

 

 先行偵察のパイロットはリョーコちゃん、ヒカルちゃん、それと俺。

 イズミさんは万が一の場合を考えて、ナデシコに残った。

 ん?・・・誰かの存在を忘れている様な気が?

 

 

 

 

 

 先行偵察中・・・俺は先頭をきって氷の大地を走っていた。

 リョーコちゃんと、ヒカルちゃんは、俺の後ろで会話を楽しんでいた。

 

「だから砲戦フレームなんて嫌いなんだ。

 重くって仕方がないぜ!!」

 

「ぼやかない、ぼやかない!!」

 

 緊張感の無い会話だな・・・

 まあ、索敵レーダーに反応が無いのだから・・・!!

 

「二人とも止まれ!!」

 

 俺は二人に急停止を指示する。

 

「ど、どうしたんだよテンカワ?」

 

「敵でも出たの? 索敵レーダーに反応は無いけど?」

 

 いや、確かに無機質な殺気を感じた。

 無人兵器特有の殺気だ。

 俺は五感を研ぎ澄まし・・・辺りを探る。

 

 ・・・いた!!

 

「リョーコちゃん、右の足元だ!!」

 

「何!!」

 

 

 ドゴォォォン!!

 

 

 氷の地面の下から、リョーコちゃんに奇襲を仕掛ける無人兵器!!

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

「リョーコ!!」

 

 砲戦フレームの為に動きが鈍いリョーコちゃんのエステバリスは、敵の攻撃を受け地面に倒れる!!

 そして倒れたエステバリスのコクピットに、敵が張り付き・・・

 

 

 キュイィィィィィィインン・・・

 

 

 ドリルを回転させて止めを刺そうとする!!

 

「テンカワ〜!! 助けて・・・」

 

「了解!!」

 

 俺はエステバリスで、豪快な回し蹴りを繰り出す!!

 

 

 ガゴッ!!

 

 

 吹き飛ばされ・・・地面を削って止まる無人兵器。

 

「ギ?」

 

「ここだ・・・」

 

 俺の姿を探していたらしいが・・・

 俺は既に敵のバックを取っていた。

 そして問答無用の踵落しを、無人兵器の頭部に叩き込む!!

 

 

 ドコッ!!

 

 

 鈍い音と共に、無人兵器は氷の大地にめり込み・・・

 その動きを止めた。

 

「・・・助かったぜテンカワ。」

 

「どういたしまして。」

 

「ふ〜ん、アキト君だったらリョーコの白馬の王子様も勤まるね。」

 

「ば、ばっきゃろ〜!! 急に何言い出すんだよヒカル!!」

 

「だって、リョーコは自分より強い男としか付き合わない、って言ってるじゃない。」

 

「だからって!! テンカワとは!!」

 

「照れない、照れない・・・」

 

 この会話を聞きつつ俺は・・・

 ルリちゃん、また会話のトレース・・・してないよな?

 と、信じてもいない神に祈った。

 

・・・甘いですアキトさん。

 

 

 

 

 

「研究所の周りに、チューリップが五個、か。

 どうします艦長?」

 

「私は・・・これ以上クルーの皆を危険にさらすのは、嫌です。」

 

「でも、皆さんは我が社の社員でもありますから・・・」

 

「俺達にあそこを攻めろ、って言うのか?」

 

 俺の目の前の地図には・・・研究所を囲む様に、5個のチューリップが落ちていた。

 ・・・そして、その研究所の攻略について今は会議中だ。

 ユリカとプロスさん、それとリョーコちゃんが激しい議論をしている。

 ところでジュン・・・お前全然意見を言わないな?

 もう少し自己アピールをしろよ。

 

「よし、アレを使おう。」

 

「アレ?」 (ブリッジ全員)

 

 フクベ提督が提案した作戦は・・・やはり過去と同じものだった。

 

 

 

 

「アキトさん。」

 

「仕方が無いんだよ、ルリちゃん・・・

 今の俺達には、この火星から脱出する手段さえ残っていないんだから。」

 

 俺は無力感に捕われながらも、返事をする・・・

 未来を知っていても・・・変えられない事も多々ある。

 そんな俺に、ルリちゃんが手に持っていた物を俺に渡してくれた。

 

「これ・・・先程完成しました。」

 

「ジャンプ・フィールド発生装置、出来たのか・・・

 でも、ナデシコを飛ばす程のフィールドを張るのは無理だ。」

 

 それどころか・・・これは個人用の発生装置だ。

 俺と後二、三人がジャンプ出来る限界だろう・・・

 しかも、今現在のジャンパーはユリカとイネスさんだけだ。

 

「今後の展開には・・・有利に働く、か。」

 

 その今後の為に、フクベ提督は今回も消えて行く・・・

 後日再会する事は知っているが。

 それは前の世界での、過去の話であって・・・

 今回も無事にクロッカスから脱出できる保証は、無いのだから。

 

「済みません・・・ラピスからのデータ転送を受けてから、オモイカネと一緒に頑張ったのですが。」

 

「いや・・・ルリちゃんは、十分頑張ってくれてるよ。」

 

 ただ・・・俺が不甲斐ないだけ、さ。

 

「さて・・・それじゃあ動作テストを兼ねて、ラピスに会いに行ってくるよ。」

 

「解りました、作戦は3時間後に決行ですからね、アキトさん。」

 

「ああ、解ってるよ・・・それじゃあ。」

 

 そして、俺はジャンプ・フィールドを展開し・・・

 

 

 ヴィィィィィンンンン・・・

 

 

「ジャンプ」

 

 地球にジャンプをした。

 

 

 

「オモイカネ、今の出来事の映像と記録を、全部消去して。」

 

『OK、ルリ!!』

 

「さて、アキトさんはラピスにどんな言い訳をするんでしょうか?

 その場で聞きたかったですね。」

 

 

 

  

 

(ラピス・・・)

 

(アキト!! ・・・さっきルリからメールが届いたんだけど。)

 

(うっ!!)

 

(・・・アキト、ナデシコで一体何をしてるの?)

 

(・・・戦争だよ。

 人間のエゴとエゴのぶつかり合いさ。)

 

(シリアスで誤魔化さないで。)

 

「・・・御免なさい。」

 

(謝って許して・・・・え!!)

 

 俺は研究所内にある、ラピスの個室に出現した。

 

「久しぶりだね、ラピス。」

 

「アキト・・・アキトだ!!」

 

 俺に体当たりする様な勢いで抱き付く、ラピス・・・

 ラピスもこの世界ではまだ6才だ。

 しかし、この年齢の時からたった一人で、研究所の一室に閉じ込めるとは!!

 俺は改めて、ネルガルの非情な一面を見せ付けられた。

 

「ねえアキト・・・アキトは火星にいるんじゃ無かったの?」

 

「ああ、ジャンプ・フィールド発生装置が完成したんだ。

 これからは、何時でもラピスに会えるよ。」

 

 俺は微笑みながらラピスに話しかける。

 

「本当!!」

 

「本当さ・・・でも今日はもう時間が無いから、ナデシコに帰るが。

 あ!! 」

 

 俺は一つの事実を思い付いた。

 

「どうしたのアキト?」

 

「実は・・・これから8ヶ月の間、ナデシコは音信不通になる。」

 

「・・・火星でのジャンプのせいだね。」

 

「そうだ・・・済まないが我慢してくれラピス。」

 

 ちょっと考える素振りをしたラピスだが・・・

 

「仕方ないよね・・・私はまだジャンパー体質になってないし。

 例の計画も今が大切な所だから。」

 

 残念そうな顔をしながらも・・・健気にそう答えるラピス。

 俺は結局、ラピスにもルリちゃんにも迷惑ばかりかけている・・・

 

「悪いな、ラピス・・・」

 

「アキトが悪いんじゃない・・・

 それはそれで納得するけど・・・

 この映像の釈明はして帰ってね。」

 

 ラピスの合図を受けて、ある映像が壁に設置してあるモニターに映る。

 

「・・・ルリちゃん、何時の間にこんな映像を。」

 

 そこには・・・例の格納庫の床が直角になった時、俺に抱き付いているパイロット三人娘。

 そしてメグミちゃんを抱っこしながら、イネスさんを右手で抱かかえている俺が映っていた。

 

「で? 釈明はアキト?」

 

「・・・ゴメンナサイ。」

 

 ・・・何故俺は謝っているんだろう?

 

 そして、それから一時間後に俺はラピスから許しを得て・・・

 ナデシコへと帰って行った。

 

「つ、疲れた・・・」

 

 

 

 

 

 今、俺とフクベ提督とイネスさんは、護衛艦クロッカスに乗り込んでいた。

 ・・・よく、作戦開始時間に間に合ったな俺。

 

 実は帰って来て直ぐに、ルリちゃんから怒られたのだった・・・

 自分の部屋にジャンプした瞬間、ルリちゃんから通信が入った。

 

 

 ピッ!!

 

 

『・・・30分の遅刻です、アキトさん。』

 

「・・・ゴメンナサイ。」

 

 何だか・・・謝ってばかりだな俺。

 

『適当に理由は付けておきましたから・・・

 直ぐに格納庫に向って下さい。』

 

「了解。」

 

 と、そんな事があったのだった。

 

 

 

 

 

 クロッカスの凍った通路を、ブリッジに向かって進む俺達・・・

 確か・・・ここら辺りで・・・いた!!

 

「危ない提督!!」

 

 

 ガンッガンッ!!

 

 

 俺の放った二発の銃弾に、頭部と中枢神経を打ち抜かれ沈黙するバッタ。

 

「・・・有難う、良い腕だな。」

 

「褒めても何も出ませんよ。」

 

 俺は軽口を返しながら先を急いだ。

 

「・・・君は、本当に私を恨んでいないのかね?」

 

「提督を恨んでユートピア・コロニーの人が生き返るなら、恨みますよ。

 でも、今はそんな非現実的な事を言ってる場合じゃないでしょう。」

 

「強いな・・・君は。

 私はそれ程強くなれんよ。」

 

 ・・・俺が強い訳じゃ無い。

 俺を支えてくれている皆の期待に応えるため・・・強さを装ってるだけだ。

 

 イネスさんは始終無言のままで、俺達の後ろを付いて来ていた。

 そして俺達はブリッジに辿り付いた。

 

「・・・君ならナデシコを託せる。

 ここで、引き返してくれないか?」

 

「やはり・・・囮になるつもりなのね。」

 

 イネスさんは気付いていたか・・・

 頭がいい人だからな。

 

「イネスさん・・・行きましょう。

 提督の決断を無駄には出来ない。」

 

「それでいいのアキト君!!

 この提督をそこまで信用出来るの?」

 

 俺は・・・暗い瞳でイネスさんを見詰めて答えた。

 

「信用・・・出来ますよ。

 俺も提督も同じ傷を、心に持つ身の上ですから。」

 

「・・・それって。」

 

 俺は無言で提督に敬礼をし・・・ブリッジを出る。

 その俺に続いて、イネスさんもブリッジを出る。

 

「君の過去に何があったのかは聞かん。

 だが、君はまだ若い!!

 未来をその手に掴む権利は・・・君にもあるんだぞアキト君!!」

 

 俺の背中にフクベ提督の最後の言葉がかけられた・・・

 俺の未来・・・か・・・

 

 

 

 

 

 ゴォォォォォォォ!!

 

 

「クロッカス、浮上します。

 ・・・クロッカスより通信。」

 

「艦長、前方のチューリップに入れ。」

 

「提督!! そんな、どうしてですか?」

 

「ナデシコのディストーション・フィールドがあれば、チューリップに進入しても耐えられる筈だ。」

 

 

ズガァァァァァンンン!!

 

 

「艦長、木星蜥蜴の攻撃です。」

 

「フィールドは持つの、ルリちゃん?」

 

「相転移エンジンが完璧ではありません。

 このままでは・・・フィールドを破られるのは時間の問題です。」

 

「・・・ミナトさん、チューリップへの進入角を大急ぎで。」

 

「艦長、それは認められませんな。

 あなたはネルガル重工の利益に反しないよう、最大限の努力をするという契約に違反・・・」

 

「御自分の選んだ提督が、信じられないんですか!!」

 

「・・・その通りだ、ユリカ。」

 

 俺がブリッジに帰ってみれば・・・修羅場とはな。

 

「アキト・・・」

 

「提督は自分が囮になる事を俺に話してくれた。

 ナデシコが助かる道は、最早一つだけだ。」

 

 俺はユリカの視線を真っ直ぐに見詰め・・・ユリカの意見に賛同を示した。

 

「しかし、チューリップに入るまでに攻撃を受ければ、ナデシコが持ちませんよ?」

 

 プロスさんが食い下がってくるが・・・

 俺は黙ってクロッカスを映しているモニターを、目で追った・・・

 

「クロッカス反転・・・敵に攻撃を仕掛けています。」

 

 ルリちゃんの報告する声も辛そうに聞こえる。

 

「提督・・・何が貴方をそこまで・・・」

 

「プロスさん、ここは提督の行動に敬意を示して・・・最後の希望に縋りましょう。」

 

「解りました、私もこうなっては何も言いませんよ。」

 

 そして、ナデシコはチューリップへと進入していく・・・

 

「・・・クロッカスより通信。」

 

 

 ピッ!!

 

 

『・・・アキト君。

 私は君の言葉に救われたよ。

 確かに私がいくら謝罪した所で、ユートピア・コロニーの人達は生き返らない。

 今、行ってる事も私のエゴかもしれん・・・

 だが、これから先に未来が必要なのは、君達若い者だ!!

 君達が何を悩み、何を考え、何を求めているかは解らん!!

 だが、その人生は・・・まだ・・始まった・・・ば・・・』

 

 最後まで提督の言葉を聞く事は出来なかった。

 静寂に包まれるブリッジ・・・俺は目をつぶって、提督の言葉を聞いていた。

 

 ・・・大丈夫、また会えるさ。

 

 そして、クロッカスを示すモニター上の青い点が消える・・・

 

 青い点が消えると同時に・・・ナデシコはチューリップに吸い込まれた。

 そして、俺達の意識は白い光に飲み込まれていった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第七話 サイド・ストーリーに続く

 

 

 

 

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