< 時の流れに >
今、俺は一人で自室で考え事をしている・・・いや、していた。
「アキト!! この秘蔵のテープを一緒に見ようぜ!!」
キィィィィィィィィィンンンン・・・
・・・ガイ、狭い空間でその大声は止せ。
俺の鼓膜が破れるから。
「くくくくく・・・面白いね君達は。」
「なんだお前は!! ・・・ん、新しいパイロットじゃね〜か。」
アカツキ・・・一体何の用事でここに?
「何、君達はナデシコが軍に編入される事について、どう思ってるのか聞きたくてね。」
・・・軍、か。
過去ではただ嫌悪感しか抱かなかったが。
でも、俺は・・・アカツキを試すか?
「どちらかと言えば、コックの方が向いてるんですけど。」
「・・・テンカワ君、君がその台詞を言うのは他のパイロットに対して失礼だよ。
君は現在間違い無く、連合宇宙軍を含む中でのエステバリスライダーのエースだよ?
そんな君が軍隊を否定するのかい?」
ほう・・・やっぱり絡んできたか。
アカツキもまだ、俺を完全に理解出来て無いみたいだな。
俺は軍隊が嫌いだ・・・命令のままに戦うのが嫌いなんだ。
特に職業軍人の典型的な奴は、な。
上の命令が正義だと信じ切ってる・・・
その為にはどんな事も許されると・・・思いやがって!!
そう!! アイツ等を思い出すからな!!
一瞬、俺は自分の内に秘めた黒い闇を放出する所だった・・・
それを救ったのは・・・
「何を言う!! 俺がナデシコのエースだ!!」
キィィィィィィィィイイインンン(前回の1.5倍の声量)
・・・その大声を受けて、俺とアカツキは気絶した。
最早一種の音波兵器だなお前の声は、ガイ。
俺達が気が付いたのは、リョーコちゃんの怒声のお陰だった。
「こら!! テンカワ!! ロン髮!! 迎撃戦だぞ早く格納庫に来い!!」
「え!! あ、ああそうなんだ。」
「な、何が起こったんだい?」
俺とアカツキが頭を振りながら周りを見まわすと・・・
「お、俺のゲキガンガー!! くぅ〜〜〜、もう最高だぜ!!」
ギュィィィィィィィィンンン!!(前々回の2倍の声量)
ハイテンションのガイが、ゲキガンガーを見ながら泣いていた。
額に大きな汗を浮かべる俺と、アカツキ・・・
俺達は、ずっとこのガイの音波兵器を受けていたのか?
・・・よく、鼓膜が破れなかったな。
リョーコちゃんの声が聞こえたのは、多分奇跡だったと思う。
「・・・行こうか、テンカワ君。」
「・・・そうだな。」
俺は取り敢えずガイに一声かけてから、格納庫に向かった。
果たして・・・俺の声はガイの耳に届いているのだろうか?
「リョーコ、隊列はどうするの?」
「鳳仙花だ!!」
「りょーかい!!」
ギュワァァ!!
俺達は四方に散って行き・・・
無人兵器の各個撃破に出る。
「テンカワ君、無敵のエースの実力を見せてもらうよ。」
「ああ、そこでじっくり見ていて下さい・・・」
遠距離からライフルでの一撃・・・これだけではフィールドに遮られる。
だが、全く同じ個所に3発も集中すれば!!
ドドドン!! ドドドン! ドドドドン!!!
勿論相手も高速移動をする・・・
が、俺から見れば止まっている様なものだ。
フィールドを貫かれ・・・爆発するバッタ。
「まずは軽く3匹・・・どうですか?」
「・・・恐れいったよ。
君だけは敵にしたくないな。」
さて、それはアカツキ・・・あんた次第だよ。
「ん?」
俺の目の端を・・・バッタともつれながら、ガイのエステバリスが飛んで行った様な気が、した?
多分・・・目の錯覚だろう。
そう自分に言い聞かせた。
「ヤマダ機、月の影に入りました。」
「・・・ヤマダ機、って。
ヤマダさんて誰? ルリちゃん。」
「・・・先日まで医療室のヌシ、と呼ばれていた男性パイロットです。」
「・・・メグちゃん知ってる?」
「そんな人・・・いましたっけ?」
そしてヤマダ機はその存在をロストした・・・
「自力での帰艦は無理なんですか?」
「エネルギーフィールドの外に完璧に出てるからな。
自力での帰艦は絶対に無理だ。
それどころか内蔵バッテリーが切れれば、そこで酸欠でアウトだな。」
ユリカの質問に、ウリバタケさんが頭を掻きながら返事をする。
「ナデシコは修復中でコスモスからは出せませんし。」
プロスさんが更に、現状の厳しさを報告する。
・・・暗い話題しか出ないな。
はあ、仕方が無い俺が迎えに行くか。
今、死なれたら俺がした事が無駄になるしな。
せめて・・・平和になるまで生きていてもらわないと、な。
「ユリカ・・・俺にノーマル戦闘機を一台貸してくれないか?」
「え、別にいいけど・・・アキトまさか!!」
「ま、一応仲間だしな。
俺が迎えに行って来るよ。」
仲間、か・・・
そう言えば俺にとっての仲間と言える人は。
ナデシコの皆が初めてだったんだよな・・・
だから、誰も失いたくないんだ。
「アキトさん、でもヤマダさんは慣性の法則を思い付かないんじゃ・・・」
「大丈夫だよルリちゃん。
あのガイだからね・・・きっと真空中でも生きてるさ。」
「・・・人間じゃ無いですよ、それじゃあ?」
このルリちゃんの答えに、俺は苦笑をする。
ある意味、そうかもしれないな。
「ま、ガイを見殺しにする訳にはいかないし・・・
さっさと、迎えに行こうかな。」
「やっぱり・・・アキトさんですね。」
「そうかな?」
「そうですよ。」
俺はルリちゃんとそんな会話をしながら、ノーマル戦闘機に乗り込んだ。
「さてと・・・お姫様ならぬ・・・なんだろう?」
俺が出発の言葉を考えてると・・・
ピッ!!
『・・・馬鹿、で十分ですよアキトさん。』
ル、ルリちゃん?
ピッ!!
『そうそう、馬鹿野郎で十分だテンカワ。』
リョーコちゃんまで・・・
ピッ!!
『いえ、大馬鹿ですアキトさん。』
・・・メグミちゃん、そこまで言わなくても。
「・・・テンカワ機、熱血馬鹿をサルベージに出ます。」
せめてもの妥協点を俺は提示をした。
『・・・了解!!』 × 女性陣
ガイ・・・お前、結構不幸な奴かもしれないな。
俺は救出後のガイの運命に同情した。
途中、バッタ二機の襲撃を受けるが・・・
面倒なので体当たりで壊した。
・・・近頃思考が大雑把だな?
多分、ナデシコの影響だろう。
ラピスを乗せた時に、悪い影響が出なければいいが・・・
「・・・おい、ガイ生きているか?」
「お、俺の熱い魂はこれしきの事で・・・ガクッ」
俺がガイを発見した時・・・
ガイは既に半死半生だった。
どうやらコクピットの近くまで、敵の攻撃を受けたらしく。
空気が漏れていた状態だった。
・・・よく、生きてたなコイツ。
「おい、ガイ!! 死ぬのはナデシコに戻って、女性陣と会ってからにしろ!!」
この時の俺は、多分ガイの意識を保つのに嘘を付いた。
・・・でも、全部が嘘じゃないよな?
少なくとも女性達はガイを待ってる。
「なに!! 薄幸の美女が俺の帰りを待ってるのか!!」
「あ、ああ・・・多分な。」
何故、そこで薄幸の美女が出てくる?
「そうか!! 俺にもとうとうヒロインが出来たか!!」
「・・・」
ヒロインって・・・おい。
「よし!! 早速ナデシコに帰艦するぞ、アキト!!」
「・・・了解。」
済まんガイ・・・俺はお前を助ける事は出来ない。
せいぜい、お前の帰りを待っている薄幸の美女達に宜しくな。
帰艦後・・・
ガイの姿は再び医療室にあった。
・・・全治一ヶ月。
不憫な奴だなお前って、ガイ。
「・・・ヒ、ヒロインが強いのは、反則(ガクッ)」
「で、テンカワ君・・・君はパイロットとしてナデシコに残るのかい?」
食堂で休憩していた俺にアカツキが質問をしてくる。
「・・・ま、再就職先が決まるまでは、ね。」
「ふ〜ん、あ、そ。
じゃあ、取り敢えず今は仲間だ・・・今後も宜しく。」
「ああ、宜しくアカツキさん。」
そう言ってアカツキは食堂を出て行った。
・・・ふっ、心配しなくてもナデシコには残るさアカツキ。
俺の守るべき者は、全てこのナデシコにいるのだから・・・
それに、再就職先も既に確保済みだしな。
「さてと、後は仕上げを御覧有れ、だな。」
(ラピス?)
(何、アキト?)
(そっちの進行具合はどう?)
(えへん!! Aプランは昨日でコンプリート!!
今日からはBプランを始めたんだよ。)
(それは・・・凄いな。
頑張ったんだねラピス。)
(うん!!)
(ハーリー君にも礼を言っておいてくれ。)
(解った、伝えとく。)
(じゃあ、もう直ぐ会えるよ・・・ラピス。)
(うん・・・さよならアキト。)
暫くするとブリッジに召集がかかった。
多分・・・エリナさんが来たんだろうな。
「は〜い、皆さんお久しぶりね〜」
・・・そう言えば、コイツも乗り込んでくるんだったな。
「・・・あんた誰?」
ルリちゃんのその言葉に、クルー全員が笑い転げる。
「あ、相変らずねホシノ ルリ。
アタシは今度からナデシコの提督になった、ムネタケ サダアキよ!!
今後はビシバシと、このナデシコを鍛えていくからね!!」
でも、ムネタケのその台詞を誰も聞いていなかった。
ムネタケの横にいる女性が、自己紹介を始めたからだ。
「はじめまして、ナデシコの皆さん。
私の名前はエリナ キンジョウ ウォンです。
これからは副操舵士として、ナデシコに乗らせてもらいます。」
その目は俺を凝視していた・・・
そう品物を検分する目付きだ。
さてさて・・・何時までその顔を維持する事が出来るかな?
今回は、俺も素直にネルガルの思惑に乗るつもりは無い。
「どうして会長秘書が直接乗り込んで来るんです?」
プロスさんがブツブツと文句を言ってるな・・・
まあ、会社の上司がこんな近くにいれば、良い気はしないだろうな。
「では、今後とも宜しくお願いします。」
「宜しくね〜」
・・・さてさて、今後は更に忙しくなりそうだな。
「まさか・・・貴方まで乗り込んでいるなんてね。」
「例の彼に興味があったんだよ。」
「それで、第一印象はどうなの?」
「・・・正直言って底が知れない。
だが、何か触れてはいけない物に触れた気分だ。」
「貴方がそこまで言うなんて・・・
でも、ますます彼に興味が湧くわね。」
「エリナ君・・・これは僕の勘なんだが。
彼には関わらない方がいいかもしれない。」
「嫌よ。
この映像を見たらもう引き返せないわ。」
「ジャンプの瞬間、か。」
「・・・そうよ、彼には絶対協力してもらうわ。
我が社の為にも、ね。」
「だが・・・彼が一瞬だけ見せたあの気配は。
あの時は本当に殺される、と覚悟をした・・・
彼は一体何者なんだ?」