< 時の流れに >
「俺の名前はガイ!! ダイゴウジ ガイだ!!」
「私の名前はアクアです。」
「何!! 君はアクアマリンなのか!!
くぅ〜〜〜〜!! これこそ運命の出会い!!」
「いえ・・・ですから私の名前はアクアと・・・」
「君と俺は赤い糸と過酷な運命で結ばれているんだ!!
でも大丈夫!! 俺はその運命を乗り越えてみせる!!」
「・・・もしもし?」
「おお!! この建物はまさに研究所!! 博士もここにいるんだな!!」
「誰ですか? 博士って?」
「アキト〜!! 何処に行ってたの?」
「あ、ああちょっと散歩にね?」
森から出て来た俺をユリカが素早く見付け。
駆けよって来た。
「くんくん・・・アキト、何だか火薬の匂いがするよ?」
へ、変な所で鋭いな・・・相変らず(汗)
「気のせいだろ。
それより昼飯にしないか?
ルリちゃんも皆も呼んでさ。」
「え〜〜、アキトと二人だけで食べたいな・・・」
お前艦長だろうが、ユリカ・・・
クルーの和を乱す様な事を考えるなよな。
「駄目だ。
浜辺でバーベキューだからな・・・全員参加が当たり前だろ?」
「う〜ん、それもそうね!!
じゃあ皆を呼んで来る!!」
そう言って、元気にクルー達に向かって走り出すユリカ。
「さて・・・バーベキューの用意でもするか。」
俺もビーチパラソルの下に置いてある、バーベキューセットを用意する為に歩き出した。
「・・・艦長には秘密なのか?」
その声を聞いて・・・足を止める。
「・・・ええ、裏の顔をいちいち見せる必要は無いでしょう。」
そう、今はまだ・・・このままの状態で・・・
「そうか・・・まあ、それも自分自身の問題だからな。」
その通りですよ、ゴートさん。
「じゃ、お先に。
ちゃんとバーベキュー、食べに来てくださいよ。
ゴートさんの分も考えて、余分に肉を持って来てるんですから。」
「ああ、出来ればシイタケは抜きにしておいてくれ。」
「・・・了解。」
森に隠れたままのゴートさんとの会話を打ち切り・・・
俺は一人で先に浜辺に向かった。
「テンカワ・・・お前は一体何者だ?」
「美味い!! 美味いよこの料理!!」
「褒めてくれるのは嬉しいけど・・・
もう少し小声で話してくれない?」
「やっぱりアクアマリンは料理が上手だったんだ!!」
「ですから私の名前はアクア・・・」
「いや〜!! 俺は幸せだよ!!
ナデシコの女性にはこんな家庭的な事は出来ないからな!!」
「私の話し・・・聞いてます?」
「フフフ・・・アキト!! 見たか遂に俺にも運命の人が現れたぞ!!」
「・・・聞いてません、ね。」
「最近になってこの島は、個人の所有になったみたいですね。」
パクパク。
「へ〜、誰のだい?」
「あ、イズミ!!
そのイカちゃんは私が大切に焼いていたのに〜〜〜!!」
モグモグ・・・
「ヒカル・・・隙があった貴方が悪いのよ。」
「世界有数の複合コンツェルン、クリムゾン・グループです。
あ、アキトさんそのトウモロコシお願いします。」
「はいはい・・・ちょうどいい具合に焼けてるよルリちゃん。」
「クリムゾン・グループ!! 知ってるわ!!
ついこの間、一人娘が社交界にデビューして話題になってたわ!!」
ガシガシ・・・
「・・・テンカワ、これは何だ?」
「え、焼きシイタケですよゴートさん。」
「何故、これが俺の皿に入ってるのか聞いているんだ。」
「好き嫌いを言ったら駄目ですよ。」
「・・・むう。」
「バリア関係ではトップの兵器メーカーね。
あのバリア衛星もこのクリムゾン・グループの製品ね。
でも、その財閥の一人娘は多分に問題児らしいわ。」
「はい、イネスさんホイル焼き出来ましたよ。」
「あら、有難うアキト君。
・・・レモンを忘れないでね。」
「はいはい。」
バリバリ・・・
「アキト〜!! 私のお肉はまだ焼けないの?」
「もうちょっと待ってろユリカ・・・生肉だとお腹を壊すぞ。」
「艦長なら大丈夫だと思いますけど。」
「ちょっとメグちゃん!! それどう言う意味!!」
「テンカワ!! 俺の頼んでいた海老は焼けたか?」
「そこの皿に寄せてありますよ、ウリバタケさん。
・・・それと、ビールはさすがにヤバイんじゃ。」
「何ですって!! ウリバタケ!! 貴方ビールなんて飲んでるの!!」
「会長秘書はお堅いね〜
心配しなくてもノンアルコールのビールだよ。
気分だけでも楽しんでるんだよ。」
「・・・本当かしらテンカワ君?」
「さあ?」
「で、その一人娘なんだけど・・・社交界にデビューする時に、全員の料理に痺れ薬を混ぜたり。
自分だけの少女漫画を描かせる為に、漫画家の誘拐未遂を起こしたり。
ま、財閥にとっては唯一の汚点よね。
モグモグ・・・
あ、アキト君このホイル焼きもう一つ頂戴。」
「アキトさん、私も欲しいです。」
「御注文受け賜りましたよ、ルリちゃん、イネスさん。」
そして、楽しい昼食後・・・
俺達は新型のチューリップの探索を始めた。
「ご馳走様です、アキトさん。」
「どういたしまして。」
「・・・あれが新型のチューリップか?
さっそく破壊しますか。」
「待て!! ・・・あれはバリア発生装置?」
「しかも・・・クリムゾン家の紋章入り?
何を考えてるんだクリムゾン家は?」
「アクアマリン・・・君の不幸は俺が知っている!!
だが大丈夫!! 俺が必ず君を守って見せる!!」
「え、あの、私はただ悲劇のヒロインに憧れた・・・」
「そう!! 君は悲劇のヒロインだ!!
だが、しか〜〜〜し!!
この俺!! ダイゴウジ ガイが君を救ってみせる!!」
「でも、まだ不幸にはなってませんけど?」
「もう君に戦いを強いるキョアック星人に怯える事は無い!!
俺が君を自由にしてあげよう!!」
「・・・あの身体が痺れません?
実はさっきの料理には痺れ薬が・・・」
「俺に薬は効かん!!
なんせナデシコではこの一〇〇倍はキツイ劇薬を飲んでたからな!!」
「何者ですか? 貴方は?」
「俺の名はダイゴウジ ガイ!!
地球を守る正義のヒーローだ!!」
「・・・とんでも無い人を拾っちゃった。」
『くっ!! バリアが邪魔で攻撃が届かない!!』
アカツキの空戦フレームからの一撃も効果は無い様だ。
『しかも、チューリップ自体、バリアを張ってやがるしな!!』
『あ〜ん、固いよこのバリア。』
『ほんと、何考えてるんだろうね・・・お嬢様って人は。』
リョーコちゃん達の攻撃も効果無し、か。
『・・・テンカワ、お前ならどうする?』
『そうそう、アキト君はこういう場合どうするの?』
『是非、聞きたいわね。』
俺のやり方、ね。
「ウリバタケさん・・・アレ、出来てます?」
『おう!! システム自体は既に完成して取付けてある。
だがな・・・この前みたいは戦い方はしない、と約束しないならコードは教えてやらん!!』
・・・結構、根に持たれてるな。
「解りました。
今後あんな戦い方はしません。」
『・・・だ、そうだルリルリ、艦長、メグミちゃん。
確かに聞いたよな?』
ウリバタケさんがそう言った瞬間・・・
俺の通信ウィンドウに三人が現れる。
ピッ!! × 3
『ええ、はっきりと。』
『約束だよアキト!!』
『嘘は駄目ですよ、アキトさん。』
は、嵌められた。
まあ、これ以上はルリちゃんに心配をかける訳にはいかないしな・・・
無茶は禁物か。
「降参です、ウリバタケさん・・・コードを教えて下さい。」
両手を上げて降参する俺を見て。
ウリバタケさんが、してやったりと楽しそうに笑う。
『よしよし・・・いいか良く聞けよテンカワ。
例のバーストモードはリミッター解除のコードを入力すると自動変更される。
フィールド・ジェレネーターが3分間だけ、出力を5倍に引き上げる。
いいか、3分間だけだぞ?
その後、ジェレネーターの冷却に30分間の時間がかかる。
まあ、今回は3分も時間はいらないと思うがな。』
・・・成る程、どちらにしても俺は自分でリミッター解除が出来なくなってるのか。
本当にウリバタケさんにはやられたな、これは。
「了解。
さて、リョーコちゃん達は向こうに避難しててよ。
・・・結構、衝撃があると思うからさ。」
俺とウリバタケさんの会話から。
俺が何をしようとしてるのか理解したらしく、大人しく3人は後ろに下がった。
『僕はどうするんだい? テンカワ君?』
「あ、アカツキさんはあの建物に人がいないか確認して下さい。」
『了解。』
・・・これでガイも見付かるだろう。
ついでにアクアも。
・・・意外とお似合いのカップルかもな。
「さて・・・終らせるか。」
俺はD・F・Sを構え・・・チューリップの上空に待機した。
「・・・でも、どうしてアキトさんがこの役なんですか?」
「説明しましょう!!」
「・・・イネスさん、何時も何時もどうやってブリッジに入ってくるんですか?」
「それは秘密です艦長。
ゴホン!!
さて、何故アキト君しかD・F・Sを使えないのか?
それは単純に他のパイロットでは、D・F・Sを使用しながらの移動が出来ないからです。」
「・・・だから、その訳を聞いているんです!!」
「まあ、待ちなさい・・・つまり、あのD・F・SはIFSのイメージを通して刃を出現させます。
実は機動戦を制御しつつ、ライフルを撃つのは比較的簡単です。
これにはエステバリスに搭載されたコンピューターが、サポートをしてくれるからです。
パイロットは’撃つ’の意識だけでライフルを撃つ事が出来ます。
が、D・F・Sにはサポートがありません。」
「どうしてですか?」
「余りに複雑過ぎるのよ・・・システム自体がまだ機械に追い付いていないの。
それにIFSを通して同時に二つの事を制御するのよ?
例を上げると、全力疾走をしながら裁縫をするみたいなものね。
実際、リョーコさんやその他のパイロットでは、エステバリスを機動させながら刃を出せ無かったわ。
言ってみればD・F・Sは強力な武器だけど・・・通常兵器としては欠陥品ね。
・・・そう、アキト君専用の武器とも言えるわね。」
「正に一撃必殺、って事ね。」
「ミナトさん・・・そんな事を言っても、あの武器を使うと防御フィールドが無くなるんですよ!!」
「あ、メグミちゃんその欠点は大丈夫よ。」
「え、本当ですか!!」
「そうよ、ウリバタケさんとルリルリの協力でね。
バースト・モード・・・3分間だけフィールドの出力を5倍に出来るわ。
これをアキト君なら上手く活用出来る筈よ。
これで防御にも、攻撃にも幅が出来たわね。
しかし、あのシステムをこんな短期間で作るなんて・・・流石ねルリルリ。」
「生きて・・・欲しいですからアキトさんには・・・」
「そうね・・・さあ、始まるわよ。」
「ルリちゃんディストーション・フィールド全開!!
全員、対ショック準備!!」
「了解!!」(ブリッジ全員)
俺はナデシコがディストーション・フィールドを展開するの確認した。
「では、いくか・・・リミッターゲージ最大!!
バーストモード・スタート!!」
ブィィィィィィイインンンンン!!!!!
俺のエステバリスに細かな振動が走り出す!!
そして手に持つD・F・Sに白い刃ではなく、真紅の刃が出現する!!
「出力・・・フィールドの80%をD・F・Sに。
残り20%で防御フィールドを展開・・・行くぞ!!」
俺の意識が真下にあるチューリップに向かう!!
その意思に従って弾かれた様に俺のエステバリスが突進する!!
チューリップの上空10m地点・・・俺は真紅の刃に最大限の集中をする!!
瞬間!! 真紅の刃が以前と同じ、200m程の長さに延びる!!
「斬!!!!!!!」
ドスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・
俺のD・F・Sの一撃に・・・クリムゾンのバリアごと両断されるチューリップ。
多分中にいた、巨大なジョロはその姿を見せる事なく切り裂かれた。
「・・・全フィールド防御に移行。」
俺のエステバリスを真紅の防御フィールドが包む。
そして・・・爆発。
ドガァァァァァァァァンンンン!!!!
ズガァァァァァンンン!!!
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「くっ!! フィールドを展開していてもこれ程の衝撃とは!!」
「何処かにしっかりと掴まるんだ皆!!」
「きゃっ!!」
「頑張って!! ルリルリ!!」
そして、大きなクレーターを残して・・・
チューリップはその地から消え去った。
「・・・おさまったね?」
「アキトさん!! 応答願います!!
アキトさん!! アキトさん!!!」
「・・・テンカワ機・・・確認出来ました!!」
「!!
アキトさんから通信が入りました!!」
「すぐ繋いで!! メグちゃん!!」
『ふう・・・何とか無事だよ皆。
御免ね心配ばかりさせて。』
「そうだよアキト・・・心配ばかりかけさせるんだから!!」
「余り無茶をしないで下さいね、アキトさん。」
「無事で良かったです・・・アキトさん。」
『・・・ま、これ位でテンカワがくたばるとは俺は思ってないけどな。』
『え〜、さっきまで必死でアキト君のエステを探してたのは、誰だっけイズミ?』
『そうね・・・私は赤いエステバリスだったと思うわ。』
『お、お前等!! いい加減な事言うなよな!!』
『はははは・・・テンカワ機、今から帰艦します!!』
「了解、アキト!!」
俺が格納庫に帰ると・・・アカツキが俺に話しかけてきた。
「・・・テンカワ君。」
「どうしました?」
「・・・彼を見付けて連れて帰ってきたんだが。
何でもアクアマリンって子を救うんだ――――って叫んでたと思ったら・・・
急に倒れてそのまま医療室に直行さ。
一体彼は何がしたかったんだい?」
「・・・さあ、俺にも解りませんよ。」
・・・イネスさんの薬の効果が切れたな。
これで少しの間はガイも大人しくしてるだろう・・・多分。
その頃例の彼女は・・・
「ガイさ〜〜〜〜〜ん!!
二度とこの島に来ないでね〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
と、飛び去るナデシコに叫んでいたらしい・・・
そして、その夜・・・
「アキト!! 私頑張ってまたお夜食作ってきたの!!」
「アキトさん!! 私の料理食べて下さい!!」
「テンカワ・・・俺、初めて料理してみたんだけど。
味見、してくれないかな?」
「・・・ちょっと俺、用事が。
はっ、はははは・・・じゃ!!」
俺は・・・後ろを向いて走り出した!!
「待ってよアキト〜〜〜〜!!」
「待って下さいアキトさ〜〜ん!!」
「せっかく作ったんだぞ!! 食べろよテンカワ!!」
「どうしてこんな事まで前と同じなんだ〜〜〜!!!!!!
俺は悲劇の主人公になんて・・・なりたくなかったのに〜〜〜〜〜!!!」
俺は廊下を走りながら心の叫びをした・・・
「嘘付け・・・悲劇じゃなくて喜劇だろうが。」
「ある者の幸福は、ある者にとっては不幸。
・・・人の不幸は蜜の味。
テンカワ君、君はもっと不幸になるんだよ・・・僕達の組織によってね。」
「・・・はあ、でも羨ましい。
その幸福、必ず壊してみせるさ・・・ふふふふふ。」
「・・・まだ、私に逆らう気ですか彼等は?」
「誰か〜〜〜〜〜!!
私を助けなさいよ〜〜〜〜!!」
「うふふふ・・・貴方は私と死んでくれるの?」
「へ? 貴方誰よ!!」
「もう直ぐこの辺りは満ち潮で海の底・・・一緒に溺れましょうね?」
「何なのよ!! この子は〜〜〜〜〜!!!」
「どうする、おい?」
「どうするも何も・・・お嬢様を溺れさせる訳にはいかんだろ。」
「はあ、俺本気で転職しようかな・・・」
「今回は怪我人も結構でたしな。」
「でも・・・強かったなあの二人。」
「ああ、特に若い方がな・・・
一体何者だ?
ネルガルのゴートは、名の売れたエージェントだから知ってたが。」
「さあな・・・だがアイツは俺達全員を相手にしても、勝てたんだろうな。」
「生き残っただけ、有り難いか・・・」
「そう言う事だ。
さて、今日の最後の仕事はお嬢様とキノコの監視だな。」
「そうそう。」