< 時の流れに >
「艦長・・・一大事よ。」
・・・久しぶりに顔を出したと思ったら。
いきなりソレですか? イネスさん。
「・・・はい?」
「データ測定だけど・・・悪い知らせよ。」
「どれくらい?」
「かなりね。」
ドガァァァァァァンンン!!!
ズガァァァァァンンン!!!
くっ!! やはり待ち伏せがいるのか!!
どうする・・・リョーコちゃんと二人で、この包囲網を突破出来るのか?
でも、俺一人なら・・・
「テンカワ!! 俺を置いて先に行け!!」
「・・・駄目だ!! リョーコちゃん!!
リョーコちゃん一人で倒せる数じゃない!!」
俺がそう言って手前にいる戦車を、3台まとめてライフルで撃ちぬく!!
ドン!! ドドン!!
ちっ!! 焼け石に水か!!
敵の数が多過ぎる!!
せめてD・F・Sが使えれば!!
・・・奥の手を使うか・・・だが、コレを使えばナナフシを倒す事は絶対に不可能になる。
俺は動きようが無い現状に苛立っていた。
その時・・・
隣で応戦していたリョーコちゃんが、一人で突撃をしようとする!!
「リョーコちゃん!! 一人じゃ駄目だ!!」
そんなリョーコちゃんのエステバリスを、俺が必死で止める。
「テンカワ!! オメーの決心てのはそんなモンかよ!!
ナデシコの皆を守るんだろうが!!
このまま俺達が立ち往生してても、タイムリミットは近づいてるんだぜ!!」
「だけど!!」
俺は必死にリョーコちゃんを止め様と、声を張り上げる!!
そんな俺を見て、リョーコちゃんは微笑みながらこう言った。
「お前を・・・テンカワ アキトを俺は信じる!!
ナナフシを止めてくれ!!
ナナフシからのコントロールが止まれば、この戦車達も止まる!!」
そう言い残して敵戦車隊に向って突撃をする
確かにそうだ・・・・
皆が・・・ナデシコが助かる道はそれしかない。
俺は自分一人で、何でも出来るつもりになっていたのか?
お笑い種だ!!
過去で俺がこの戦争に生き残れたのは誰のお陰だ!!
俺には仲間がいるんだ!!
「リョーコちゃん!!
直ぐにその戦車隊を止めてみせる!!
無理だけはしないでよ!!」
「おう!! ナナフシを倒す奥の手が見れないのが、残念だけどな!!
待ってるぜテンカワ!!」
その声援を背に・・・俺はナナフシに向ってエステバリスを駆る!!
誰も・・・決して誰も死なせはしない!!
「で、アキト君悪い知らせがあるんだけど。」
通信ウィンドウが開いてイネスさんを映し出す。
「・・・ナナフシですか。」
「御名答・・・時間が無いわ。
ナナフシは既にブラックホール弾の生成を始めたわ。
間に合うかしら、アキト君?」
「間に合わせてみせます!!
ナデシコのクルー誰一人!! 殺させはしない!!」
「そう・・・じゃあ私もアキト君を信じるわ。
また、ナデシコで会いましょ。」
そう言い残して、イネスさんからの通信は切れた。
俺は焦燥感を募らせつつ・・・的確に敵戦車を駆逐しながらナナフシに向う!!
「・・・見えた!!」
ナナフシの周りは、マイクロブラックホール弾の生成による磁場の揺らぎが見える!!
本当に残り時間は少ない!!
そして・・・ここからが今回のミッションの本番だ!!
持ってくれよ俺のエステバリス!!
「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺は雄叫びを上げながらナナフシに向って加速した!!
「このままだと間違い無くナデシコは撃沈。
この周辺も壊滅状態になるわね。」
「そんなに凄いんですか?」
メグミさんがイネスさんに質問します。
「ええ、ナナフシの最初の攻撃は宇宙に向って飛んで行ったから、自然消滅したけど。
今度はナデシコに直撃・・・その場で重力波を解放。
重度の放射線と熱量で辺り一帯が死の大地になるわ。」
イネスさんの言葉は真実しか伝えてません。
ですから・・・その分余計な憶測を生む事はありません。
まあ、希望も生まれませんが。
「でもアキトの例の技は・・・ああ、最後は宇宙に飛んでったね。」
「そう、その事はアキト君も考慮してたみたいね。
・・・実際、規模は小さいとは言え。
アキト君が使った技でも、地表に打てば大規模な災害を引き起こすわ。」
その言葉に・・・改めてブリッジの皆さんは、アキトさんの実力を確認しました。
「間に合い・・・ますよねアキトさんなら。」
「ええ、アキトさんなら大丈夫ですよ。」
「ルリルリって・・・アキト君の事本当に信じてるんだね。」
「ええ・・・」
ミナトさんの言葉を聞いて、思わず顔を赤くしてしまいました。
「さて、と・・・私もアキト君への連絡は終わってるし。
後は医療室でアキト君の成功を祈ってるわね。」
「なら!! 私達はブリッジで作戦行動を取り続けます!!
勿論、アキトの作戦成功を信じて!!」
ユリカさんが満面の笑顔で・・・イネスさんとブリッジの全員に、そう宣言をしました。
ドガッ!!!
ガンガンガン!!!
ドガガガガガガガガ!!!
「くそっ!!
そう言えば過去でもいたよなお前は!!」
俺は改造された戦車の猛攻に押され気味だった。
倒すのは簡単だが・・・
今は余分なエネルギーと、エステバリスに負担をかけたく無い!!
・・・だが!!
これ以上の時間の浪費は出来ん!!
その時、湖を挟んで見えていたナナフシが光に包まれだす!!
これは・・・時間が無い!!
「いちかばちか・・・こいつを破壊せずにナナフシまで逃げ切れるか?」
半分、運任せの作戦だ。
いや、作戦とは言えないな・・・こんな博打は。
「・・・決めた!!
これ以上お前にかまってる暇は無い!!
何より、リョーコちゃんやナデシコを救うにはこれしか方法が無いからな!!」
俺は決心を固めて前方の戦車に突入を敢行した!!
「テンカワ機・・・再進撃をします。」
「突入するのかテンカワ?」
「何故テンカワはDFSで戦わない?
ライフルが効かなくても、DFSならあの敵を倒せるだろうに・・・」
衛星からの映像データを見ている私達の前で。
アキトさんのエステバリスが、神業めいた回避行動を見せています。
・・・確かにおかしいです?
どうしてアキトさんは、あの敵戦車を倒さないのでしょう?
「どうやら・・・DFSが故障、もしくはトラブルで使用不可みたいですね。」
ずっと黙って画面を睨んでいたユリカさんが、そう呟きます。
なるほど・・・そう言う訳ですか。
「ど、どうするのよ!!
じゃあテンカワの奴はライフル一丁で、ナナフシを破壊するつもりなの?
そんなの無理よ!! 絶対に無理だわ!!
艦長!! どうするの!!」
非常時にとことん弱いですね・・・このキノコさんは。
「黙ってて下さい提督!!
私は・・・私はアキトを信じてます!!
きっとナナフシを倒して、私達を・・・ナデシコを助けてくれます!!」
ユリカさんの一喝と一睨みに、一瞬で黙り込むキノコさん。
流石ですユリカさん。
「いやいや・・・うちの艦長はいざという時は強いですな。」
プロスさんが私とメグミさんに、そう話しかけます。
「そうですね。
でも、プロスさんも慌ててませんね?」
落ち付いた態度を見せるプロスさんに、メグミさんが質問をします。
「いえいえ・・・私は期待してるんですよ。
あの不思議な力を持ったテンカワ君をね。」
そう言って後ろを見るプロスさん。
その視線の先にいるゴートさんや、ジュンさんも黙ってその場に立っています。
皆さん、結局はアキトさんを信用してくれているんですね・・・
私は・・・その事がとても嬉しかった。
「なら・・・私達と同じですね。」
「ええ、そうなりますなルリさん。
さて・・・さすがテンカワさん、もう直ぐナナフシに到着しますな。
でも、エステバリスの損傷も見られますし・・・
この後はどうやってナナフシを破壊するおつもりですかね?
DFSは故障中。
バーストモードは可能でも、武器はライフルのみですよ。」
「でも、逆にどんな事をするか解らないので楽しみですね!!」
メグミさんが楽しそうにプロスさんに話しかけます。
・・・結構、神経が太いですねメグミさん。
この状況で楽しめるなんて。
「はははは、ビックリ箱ですかテンカワ君は。
・・・ルリさんはご存知のようですな?」
「ええ、予想は付きます。
でも・・・秘密です。
ビックリ箱の中身を知ってると、面白みが減るでしょう?」
私はそう言って、アキトさんが映っているモニターに集中します。
「成る程、手品の仕掛けは公表出来ませんか。」
「なら・・・楽しみましょうか。」
そんな会話をしている間に・・・テンカワさんは最後の加速に入りました。
アキトさん・・・頑張って下さい。
俺は敵の攻撃の着弾による衝撃に苦しみながら、最後の加速を行なう。
我ながらよくここまで直撃なしで辿り付けたものだ・・・
ナナフシは前方500mに位置する。
その直線上には敵は存在しない。
目標に到着、と。
しかし・・・空から来てたら、洒落にならない状況になってただろうな。
下から戦車隊に、万単位の砲弾を撃ち込まれる自分を想像し思わず笑ってしまった。
時間が無いな・・・これがラストチャンスだ!!
「さて・・・ここで決める!!
バーストモード・スタート!!
最後の大仕事だ!! 持ってくれよ!!」
俺の気合の声に応えるように・・・
バースト・モードに突入したフィールド・ジェネレータが・・・
高々と活動音を響かせる!!
フィィィィィィィィイイイイインンンンンンン!!!
「出力全開でローラーダッシュ!!」
ゴォォォォォォォォォォォォ!!!!!!
後ろの敵は完全に無視する。
今は加速度を付ける事が先決だ!!
横手に・・・
真後ろに・・・
着弾の衝撃と音が響く・・・
回避行動に出たいと思う思考を制御して・・・ひたすら加速する!!
「・・・ここだ!!」
ナナフシまで後300m地点。
右拳にディストーション・フィールドを全集中。
バースト・モードが持続する3分間を・・・1分間に集中し。
全フィールドを右拳に集める。
「今攻撃をくらったらアウト、だな。
・・・でも!! この攻撃を失敗すればナデシコが沈む!!
それだけは何がなんでも阻止してみせる!!」
ギュイィィィィィィィィィィイインンン!!!!!
俺のエステバリスの右拳が真紅の炎で包まれる!!
用意は完了だ!!
後は・・・!!
ドゴァァァンンン!!!
ナナフシまで後150m!!
エステバリスの左足に敵弾が着弾!!
左足が完全に破壊される!!
「!!
まだまだ!!
右足一本でも・・・飛ぶ事は出来るんだよ!!!!!」
ナナフシまで後100m!!
俺はエステバリスの体勢を崩されつつ、右足一本で最後の跳躍をする!!
俺を止める事は貴様等無人兵器には出来ん!!
「全てを!! 噛み砕け!!
必殺!! 虎牙弾!!」
それまでの加速度・・・プラス
真紅の右拳に凝縮されたディストーション・フィールド・・・
それらが合わさり・・・
ナナフシの中心部を抉り抜く!!
ドギャァァァァァァァンンンンンン!!!!
「・・・ディストーション・フィールド解放!!」
そして、ナナフシ半ばまで埋まりつつあるエステバリスに。
俺は右拳から一気に、今迄収縮していたディストーション・フィールドを開放する!!
ズガガガガガガァァァァァァンンンンン!!!!!
更に内側から破壊されるナナフシ!!
徹底的なまでの破壊の力が、ナナフシの内部を荒れ狂う!!
ズズズズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥウンンンン・・・・
そして中央に大きな穴を穿たれ・・・
沈黙するナナフシ・・・
俺のエステバリスは沈黙したナナフシを突き抜け。
地面を300m程抉って停止した。
同時に・・・
俺のエステバリスは、電源が落ちたのか故障なのか判別は出来ないが停止した。
暗くなったコクピットで俺は、モニターを軽く叩きながら呟く。
「・・・ご苦労さん。」
どうやら・・・俺が生き延びる事も。
大切な人達が生き延びる事にも成功したみたいだ。
ピッ!!
「お疲れ様です、アキトさん。」
コクピットで休んでる俺にルリちゃんから通信が入る。
「ああ、お疲れ様ルリちゃん。
・・・そっちはどうだい?」
「皆さんビックリ箱です。」
悪戯っぽく笑うルリちゃん。
・・・何をしてるんだブリッジは?
ルリちゃんは何故か鎧を着てるし?
「?????、は?」
俺は結局意味が解らないので、顔中でハテナマークを作る。
「ふふふふ、帰ってこられたらお話ししますよ。
では、迎えを出しますね。」
「了解。」
ピッ!!
穏やかな笑い顔を残して。
ルリちゃんからの通信は切れた。
「ふう〜〜、ビックリ箱?
・・・何なんだ一体?」
3時間程が経過して・・・
「お〜〜〜い!! テンカワ!!
生きてるか〜〜〜!!」
この声は・・・リョーコちゃん!!
俺は電源の落ちたコクピットから、非常脱出装置を作動させて抜け出す。
そして辺りを見まわすと・・・
「ここだよテンカワ!!
お前の足元だよ!!」
「ああ!! 無事だったんだねリョーコちゃん!!」
俺はリョーコちゃんの無事に心から喜んだ。
そしてエステバリスから降り、リョーコちゃんの隣に行く。
「まあな・・・正直最後の方はヤバかったけどな。
・・・テンカワが絶対何とかするって、信じてたからな。」
「リョーコちゃん・・・」
バシッィィィィ!!
「痛って〜〜〜〜〜〜!!
何するんだよリョーコちゃん!!」
いきなり背中を思いっきり叩かれ、驚く俺!!
「うっせ〜〜〜〜!!
恥ずかしい事ばっかり言わせやがって!!」
「ご、ごめん・・・」
何で俺が謝らないといけないんだ?
「・・・テンカワ、どこまでやれば自分が赦せるんだ?」
ナナフシの残骸を見ながらリョーコちゃんが呟く・・・
「まだ終らないよ・・・・先は長いんだ。」
「そうなのか・・・間違っても自分から死ににいくなよ。」
「ああ、それだけは約束するよ。」
俺もナナフシの残骸を見ながら呟いた・・・
「お!! ヒカル達が迎えに来てくれたみたいだな!!」
「そうだね。」
俺達の視線の先に。
ヒカルちゃんとイズミさんの空戦フレームが見えた。
さあ・・・ナデシコに帰ろう・・・
「リョーコ♪
結構上手い事告白できたね〜〜〜♪」
「ふふふふふ・・・『俺の話し・・・聞いてくれるか?』
いいね〜いいよ〜リョーコ。」
「な!! 何でテメー等がそんな事知ってるんだよ!!」
「ナデシコの全クルーが知ってるよリョーコ♪」
「な、な、な、な、何だって!!!!!」
・・・直ぐにナデシコには帰れなかった。
後日、アカツキとウリバタケさんが半死半生で発見された。
・・・一体、俺の知らない所で何が起きてるんだ?
「・・・フッ」(S-1、S-2、S-3、S-4、S-5、S-6、S-7’s)