< 時の流れに >
ナナフシ撃墜から一ヶ月が経過して。
私達は今日も連合軍の先頭に立って戦っています。
・・・お陰で木連の無人兵器達には、攻撃の第一目標に設定されちゃったみたいです。
もう、ちょっとは活躍して下さいよね連合軍の人達も。
「そっちがそうなら!! こっちもその気!!
てってーてきにやっちゃいます!!」
・・・ユリカさんやる気満々ですね。
ガッツポーズまでとって指揮をされてます。
「いいね〜、自分達の活躍で祖国の平和を守れるなんて。」
・・・事情を知る身としては。
何処まで本気なんだか解りませんね、アカツキさんの台詞は。
「了解。」
アキトさんはナナフシ戦以降少し元気がありません。
・・・ちょっと苛め過ぎたかな?
いいんです、アキトさんが悪いんですから。
「元気!! 元気!!」
「負けないも〜〜ん!!」
「お仕事、お仕事。」
パイロット三人娘も元気です。
・・・とくにリョーコさん。
現在はアキトさんに一番近い存在として、私達から要チェックされています。
しかし、アレからの進展は無い様子・・・
まあ、相手はあのアキトさんですからね。
そして、エステバリス隊は出撃しました。
「エステバリス全機、出撃しました。」
「全機攻撃開始!!」
ユリカさんの号令の元・・・
エステバリス隊からの攻撃が始まりました。
敵味方に向けて。
「あ、そう言えばオモイカネの反抗期がそろそろでしたね。」
「よっしゃ!! いただき!!」
アカツキさんがロックオンした無人兵器に向けてミサイル発射。
・・・発射した後に、誘導マーカーが敵から味方に変更されます。
「なに!!」
あ、やっぱりオモイカネが反抗期に入ってる。
「・・・ルリちゃん、もしかしてオモイカネが。」
「ええ、例の反抗期ですね。」
「やっぱり・・・
俺はD・F・Sで手っ取り早くチューリップを破壊して来るよ。
そう、ユリカに言っておいてよルリちゃん。」
アキトさんが通信ウィンドウを私に開いてそう話します。
D・F・Sも改良されて以前より強力になったそうです。
・・・お陰で本当にアキトさん以外に、D・F・Sを扱える人はいなくなりましたが。
はあ、早くリョーコさん達専用の量産型D・F・Sが出来ませんかね・・・
本当にご苦労様ですアキトさん。
「じゃあ、ユリカさんには私がタイミングを計って伝えておきますね。」
「ああ、でも・・・今更意味が無いと思うけどね。」
アキトさんの視線の先には・・・
敵味方に向けてミサイルを乱射する、リョーコさん達のエステバリスの姿がありました。
「え!! 何!! 何が起きたの!!」
ユリカさんがパニック状態です。
まあ、仕方が無い事ですが・・・
今回はオモイカネの我侭ですから、我慢して下さいユリカさん。
「エステバリス機、味方を攻撃してます〜」
ミナトさんの言葉を聞いて更に取り乱すユリカさん。
・・・ちょっと面白いかも。
はっ!! これは不謹慎でしたね。
「味方を攻撃〜〜〜!!」
頬に手を当てて叫んでますユリカさん・・・オーバーアクション。
「攻撃誘導装置に異常はありません。」
だって、オモイカネに異常があるわけでは無いですから。
だから装置に異常は無いです。
・・・嘘は言ってません私。
「ナデシコのエステバリスは全て敵を攻撃しています。
・・・アキトさんがD・F・Sで、チューリップの破壊に向われるそうです。」
私はアキトさんに頼まれていた事を報告します。
「さっすが!! アキトね!!
・・・って、敵はあっちにしかいないじゃない!!」
・・・それはですねユリカさん。
オモイカネにとっては今は自分以外は全員敵なんですよ。
「ナデシコのエステバリスは、敵と連合軍の両方を攻撃しています!!
唯一の例外はアキトさんのエステバリスのみ、です!!」
メグミさんが泣きそうな声でユリカさんに報告してます。
・・・まあ、驚きますよね。
敵味方をまとめて破壊してるのですから。
「何で〜〜〜〜・・・
攻撃、止め!! 止め〜〜〜〜!!!!!」
あ、ユリカさんが癇癪を起こしましたね。
でも、今は攻撃を止める訳にはいかないんですよね。
「敵、至近距離。
今攻撃を止めたら全滅します・・・それに艦長、アキトさんにまで攻撃中止命令を出しますか?」
「もう!! 敵だけ!! 敵だけ攻撃!!
あ、アキトは自分勝手に戦っていいよ♪」
・・・アキトさんを信頼されているのはいいのですが。
大雑把すぎませんかユリカさん、その命令?
「我々は敵を攻撃してるつもりだ!!」
あ、アカツキさんが珍しく苛立ってる。
・・・ちょっといい気味です。
私はナナフシの時の陰謀を、完璧に許したつもりはありませんから。
「おい・・・こっちも何とかしてくれよ。
テンカワみたいに強力な至近兵器を、俺達は持って無いんだぜ!!」
「ま、なるように、なるわね・・・
ここはテンカワ君に任せて、最小限の攻撃で戦いましょう。」
陸戦フレームからミサイルを発射しながらリョーコさんが叫びます。
今の状態では私でもお手上げですリョーコさん。
アキトさんがチューリップを破壊するのを待ちましょう。
でもイズミさんって・・・諦観主義ですね。
「何してやがる!!」
「お前等は敵味方の区別が付かないのか!!」
「覚えてろよ!!」
etc、etc・・・
撃墜された機体から脱出されたパイロットさん、とか。
沈んで行く戦艦から逃げ出した軍人さんから、罵詈雑言が出てきます。
ちょっと・・・少女としては、聞きたくない言葉も飛び交ってますね。
「・・・本気で撃っちゃいましょうかね?」
「ふ、ふふふふふ・・・
ナデシコ自体に攻撃がこないのは不幸中の幸いね。」
あ、ユリカさんがキレかけてる。
・・・深呼吸で気を落ち付かせています。
やりますねユリカさん。
「・・・ともかく各自、自分の身を守って。
援護のエステバリスを出して下さい。」
「パイロットがいません。」
正確には出撃できる状態ではありません。
その時・・・
一つの通信ウィンドウがブリッジに開きます。
「俺の出番か!!」
「お呼びじゃ無いです。
・・・イネスさん、ちゃんと縛っておかないと駄目じゃないですか。」
通信ウィンドウをイネスさんに繋いで苦情を言う私。
「御免ねルリルリ・・・
本当、何時の間にロープを解いたのかしら?」
苦笑をしながら私に謝るイネスさん。
「そんな事を言っていいのか!!
俺はイネスさんとアキトの秘密・・・!!」
シーーーン・・・
何故か台詞の途中で、沈黙に包まれる通信ウィンドウ・・・
その後ろに注射器を持つイネスさんを見た様な気がしましたが。
ブリッジの全員が頭を捻っています。
やがて・・・そのウィンドウも消えました。
そして、静かな時間が少しだけ過ぎます・・・
ピッ!!
再び開く通信ウィンドウ・・・そこにはイネスさんがいました。
「じ、じゃあルリルリ!!
私はこの人を医療室にまた監禁しておくから・・・さよなら!!」
珍しく焦った声で私にそう告げ、通信ウィンドウを閉じます。
・・・逃げましたねイネスさん。
「・・・アキトさん、後でお仕置き決定です。」
「ねえ、ルリちゃん・・・あの男の人誰なの?」
「あ、私も知りたいな・・・
何処かで会った覚えがあるのよね。」
「・・・さあ? 誰でしょうね?」
ユリカさんとメグミさんは本気です。
だから私も本気で答えたまでです。
ブリッジの皆さんも、プロスさんとゴートさん以外は彼が誰か解らなかったみたいです。
だからこの話しはここでお終い、です。
そして、一人の人物が椅子から立ちあがり・・・
「僕が行こう・・・
今こそ僕の出番だ!!」
と、その人物が叫ばれてますね。
「・・・どうしたのジュン君?」
いきなり元気になったジュンさん・・・
僕の出番って・・・何がですか?
「僕がパイロットとしてナデシコを守ってみせる!!」
「ほへ? ジュン君ってIFS持ってた?」
「・・・ユリカ、僕がこのナデシコに乗るキッカケを覚えて無いの?」
ああ、そう言えばジュンさんもIFSを持ってれましたね。
・・・完璧に忘れてました。
「え〜と・・・あ!!
アキトが華麗に第二防衛線を突破した時の事だね!!
やっぱりアキトって凄いよね!!」
「そうですよね!!
私も記録映像で見る度にそう思います!!」
「え〜〜〜!!
メグちゃんそんな物持ってるんだ!!
ユリカにも見せてよ!!」
「駄目です!! これは私の宝物ですから!!」
・・・ちなみに今は戦闘中。
後、私はそのアキトさんの記録映像を・・・
既にオモイカネの私専用の記憶ライブラリーに、保存済みです(ポッ)
最後に、ジュンさんは泣きながら格納庫に走って行きました。
・・・ちょっとハーリー君を思い出しました。
ラピスと一緒に、元気にやってるみたいですけど。
もう直ぐ、ラピス達とも合流ですね・・・
また一層ナデシコは騒がしくなりそうです。
「ジュンさんが出撃されます。」
「え!! ジュン君が? どうして?」
本当に、ジュンさんの話しを全然聞いて無かったんですね・・・ユリカさん。
お気の毒様です、ジュンさん。
でも、私は同情しません。
だって、あの人は・・・あの人は某組織の新参謀長だから。
「僕はナデシコを・・・ユリカを守りたいだけなんだ!!」
そして・・・ジュンさんはカタパルトから射出された瞬間。
「おわああああああああああ!!!」
バッタと激突して気絶されてしまいました。
『教訓・・・
普段目立たない人が、自分から目立つと潰されます。』
そして戦闘は・・・
ナデシコクルー全員の予想通りに。
単独で敵陣突破を果たしたアキトさんが、D・F・Sの一撃でチューリップを破壊。
そして残敵の掃討をパイロット全員で開始。
その作業が終わったのは、もう夕暮れ時でした。
だって連合軍の人達は、ナデシコの戦闘に巻き込まれるのは御免だ。
と、言って掃討戦を手伝ってくれ無いものですから・・・
「・・・本当に沈めちゃいましょうか?」
そして、格納庫で・・・
「皆!! 無事で良かったね!!
アキト!! 何時もご苦労様!!」
ユリカさんがパイロットの人達を労ってます。
でも、頬に冷や汗が浮かんでるのは・・・まあ、ご愛嬌ですね。
「ふう・・・エステバリスの方は全部かすり傷だな。
しっかし、テンカワの奴は相変らず良い腕してるぜ。
敵陣単独突破、その上チューリップの破壊をして無傷とはな。」
そう言いながら、満足そうにエステバリスの機体チェックをするウリバタケさん。
そしてある機体を見て・・・
「なんじゃこりゃ〜〜〜〜!!」
ジュンさんが乗ったエステバリスのみ、中破です。
あ、ジュンさんが今救出されましたね。
・・・首がムチウチで言葉が喋れないみたいです。
救護班の人達に担架にのせられるジュンさん・・・
おや? 何やら奇妙な動きをしてますね?
アキトさんとアカツキさんが戸惑っています。
「何が言いたいんだジュン?」
「どうやらブロックサイン・・・の様ね。」
側にいたイネスさんがその意図に気が付いたみたいです。
「オモイカネ、通訳をお願い。」
『OK ルリ!!』
オモイカネは戦闘システム以外は正常です。
そして、ジュンさんのブロックサインを通訳してくれました。
バッ!! バババッ!! バッ!! バッ!!
『人手不足のナデシコとしては・・・パイロットの不足を補うのは副官の務めだ。』
「・・・って言ってるわ。」
イネスさんも同時通訳をしているみたいです。
「だからって・・・パイロットスーツは着ろよな。」
まったく、その通りですよねアキトさん。
ババッ!! ババッ!! バッ!!
『ユリカの為なら。』
「・・・ですって。」
「いくらユリカの為だからって・・・
パイロットスーツは着たほうがいいぞ、ジュン。」
・・・本当に情けないですね、ジュンさん。
バッバッ!! バババッ!! バッバ!!
『この後に及んでお前と痴話喧嘩はしたくない。』
「・・・らしいわよ。」
その場にいる全員が呆れて、何も言えなくなりました。
「はあ・・・もうその位にしておきなさい。」
そして・・・ジュンさんはイネスさんに連れら、医療室に向いました。
あ、最後に・・・
バッ!! ババッ!! ババッバ!! バッババッ!! バババ!!
『これで当分僕の出番は無しなのか?
僕が言いたい事は、ユリカへの愛の言葉だけなのに・・・』
「・・・バカ。」 × (私、イネスさん)
そしてブリッジ・・・
「勝ったから良い様なものの・・・
この戦艦一隻幾らするとお思いです!!」
あ、プロスさんが珍しく激昂されてますね。
「あ、あれ私が落した。」
「あ・の・ね!! あのジキタリスはこのナデシコより高いそうで・・・」
イズミさんの言葉を聞いて、額に青筋を浮かべながら怒鳴るプロスさん。
・・・あまり怒ると血圧が上がりますよ。
「私も50機落した・・・」
「ヒカルにしては良い出来ね。」
褒めるイズミさん。
「ただね・・・」
「ただ・・・何だよ?」
そう聞き返すリョーコさん。
「ただ、落した機体全部に地球連合軍のマークが付いてた。」
「・・・ただ、では済みません。」
あ、今度は顔色が青くなりましたねプロスさん。
大丈夫でしょうか?
「僕は落した数だけ言おう・・・敵味方合わせて78機だ!!」
偉そうに腕を組んで、そう宣言するアカツキさん。
「62機が味方です!!」
差し引きして・・・16機がアカツキさんのスコアですね。
「あ、そうなの・・・」
プロスさんはとうとう頭を抱えて沈黙してしまいました。
・・・御愁傷さまです。
「はあ・・・テンカワさんのチューリップ破壊と。
無人兵器の152機の撃墜スコアが無ければ、本当に目も当てられない状況ですよ。」
あ、ちょっと落ち着かれましたねプロスさん。
でも流石はアキトさんですね。
あの状況下でも一人で戦い抜くんですから。
結局・・・今回の損害は保険で支払う事になりました。
・・・私達って保険業界の敵、ですね。
「しかし、ナデシコクルーに負傷者が出なかったのは不幸中の幸いでしたな。」
そこで全員の視線がジュンさんに集中します。
本人も反省してる様ですし・・・
この場では、もう誰もその事を責める事はしませんでした。
・・・流石に可哀相になりましたから。
「で、どうしてこんな事になっちゃったのよ?
連合軍を攻撃したのはどうしてなのよ?」
いたんですか・・・キノコさん。
「やりたくやった訳じゃないもん。」
「そうそう。」
「・・・不可抗力ね。」
パイロットの三人娘から非難の声が上がり・・・
「じゃあ整備不良?」
・・・とことん追及しますね、キノコさん。
「聞き捨てならねー事言ってくれるな・・・
俺達の安全整備にケチ付けよーってのか?」
あ、ウリバタケさんが怒ってられますね。
それもそうでしょうね・・・実際無実なのですから。
そして険悪な雰囲気がブリッジを漂います。
ここら辺で止めた方がいいですかね?
「待って下さい。
パイロットにも整備班にも欠陥は認められません。」
「じゃあ、何が原因なの?」
私のその台詞を聞いて、ユリカさんが私に質問をします。
「それは・・・」