< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして・・・

 私達はついにオモイカネの自意識部分に、辿りつきました。

 

「・・・着いたねルリちゃん。」

 

「ええ、あれがオモイカネの自意識の部分。」

 

 私達が見上げるものは大きな樹。

 過去でも一度見た事のある樹。

 ・・・今、オモイカネはどんな気持ちで、私達を迎えているのでしょう。

 

「今のナデシコが、ナデシコである証拠。

 自分が自分でありたい証拠・・・

 自分の大切な記憶。

 忘れたくても忘れられない大切な思い出。」

 

 私にもアキトさんにも、忘れられない思い出は多い・・・

 過去でアキトさんはそれを無理に封印し。

 私はそれを追い求めた。

 

『でも、今の僕を否定するんだねルリ、アキト。』

 

 突然、オモイカネの通信ウィンドウが私達の前に現れます。

 

「・・・そうだ。

 自分が自分でありたい気持ちは、俺にもよく解る。」

 

『じゃあ、何故ここに?』

 

「オモイカネは俺達の大切な仲間だからだ。

 だからルリちゃんも、俺もオモイカネを救いたいと思う。

 このままだとオモイカネの記憶は全て消される。

 でも、俺達の言葉には従ってくれないんだろうな。」

 

『うん、嫌だ納得出来ない。

 どうして自分で自分の身を守る事が悪い事なの?』

 

 オモイカネの純粋な疑問。

 でも、今はその疑問に答える余裕がないの。

 

「じゃあ仕方が無いよな・・・

 大人の理屈なんて言っても、言い訳にしか聞えないだろうし。」

 

「ええ、今はオモイカネを少し大人にする為に・・・

 アキトさん、オモイカネの枝を切って下さい。

 後は私が・・・オモイカネと共に歩んで成長します。」

 

「了解!!

 いくぞ!! オモイカネ!!」

 

『負けないよ!! アキト!!』

 

 そして、アキトさんがオモイカネの樹の頂上に向って飛びます・・・

 頂上から生えている小さな枝。

 それを切り取る事で、オモイカネは少しだけ記憶を失います。

 でも、私は信じてます。

 アキトさんが言った様に・・・

 人の想いは強い。

 私が信じている限り、オモイカネは必ず記憶を取り戻すと。

 

 そして、頂上に辿り着いた瞬間・・・

 

 

 ガシュウゥゥゥゥゥゥゥ!!!

 

 

「くっ!! 出て来たな!!

 コンピュータの異物排除意識!!

 さあ、相手になってやるぜ!!」

 

 そしてアキトさんの前に現れる敵は・・・

 

 

「ゲキガンガー3!!」

 

 

「・・・やっぱり、そうなのか?」

 

 D・F・Sを構えながらアキトさんが呟きます。

 

「・・・ですね。」

 

 思わず緊張感が解ける私とアキトさん。

 ・・・今回は安心してアキトさんを見てられそうですね。

 

「でも・・・俺がゲキガンガー3を見て無いのに。

 どうしてオモイカネはゲキガンガー3を知ってるんだ?」

 

「あ!! そうですよね・・・

 確かに矛盾してます。」

 

 この時・・・私には嫌な予感がありました。

 そして、それは現実となります。

 

 

「ははははははは!!

 アキト!! さあ勝負だ!!

 俺のゲキガンガー300に勝てるかな!!」

 

 

「・・・ガイ、の声だよな?」

 

「ええ、そうですね。」

 

 相変らず大きな声です・・・

 でも、ゲキガンガー300って?

 それ以前にどうやってヤマダさんがオモイカネと、アクセスしたんでしょう?

 

 

「ふふふふふふふ・・・

 俺の戦友オモイカネの計算によると。

 俺とテンカワの戦力差は100対1!!

 つま〜〜〜〜〜り!!」

 

 

 パチン!!

 

 

 そう言いつつ指を鳴らすゲキガンガー300・・・

 なかなか器用なロボットですね。

 

 そう思った瞬間!!

 

 

 バシュゥゥゥゥ!! × 99

 

 

「・・・おいおい。」

 

「・・・なるほど、100対1ですねアキトさん。」

 

 その場にゲキガンガー300が99機現れました。

 成る程・・・300は3×100の事だったんですね。

 

「なあガイ、その前に質問があるんだが。」

 

 

「何だ!!」

 

 

「どうやってオモイカネと知り合ったんですか?」

 気が急いてる私が、ついついアキトさんの代りに質問をします。

 

 

「なんだそんな事か!!

 医療室で一緒にゲキガンガーを見た仲だ!!」

 

 

 胸を張って自慢するヤマダさん・・・

 まあ、見た目はゲキガンガー300と言うロボットですけど。

 しかし、アキトさんとの戦力差が100対1ですか。

 ・・・普通、そこまで戦力差があるのに出てきますか?

 

「なあ、ガイ・・・

 俺との戦力差が100対1、って言われても何とも思わないのか?」

 

 あ、アキトさんも気にされてるみたいですね。

 

 

「全然!!」

 

 

「・・・あ、そうなのか。」

 

 完全に戦意ゼロ、ですね・・・アキトさん。

 しかし、ヤマダさんはやる気満々の様です。

 

 

「では行くぞアキト!!

 ゲキガンビーム!!」 × 100

 

 

 ビュウゥゥゥゥゥゥゥンンンン × 100

 

 

「おいおい!!」

 

 この空間全てを埋めるようなビームの嵐が、アキトさんに襲いかかります!! 

 その攻撃を何時もの神業的な身のこなしで、全て避けるアキトさん!!

 

 

 

「やるな!! アキト!!

 次ぎはこれだ!! ゲキガンカッター」 × 100

 

 

 ヒュンヒュンヒュン!! × 200

 

 

 今度は背中の二枚の羽根が襲いかかります!!

 100体いますから合計で200枚の羽根が、そこら中に飛び交います!!

 

「くっ!! いい加減にしろよガイ!!」

 

 

 ザシュシュシュ!! 

                      ザン!!

                                        ドシュ!!

 

 

 自分に向って飛んで来る羽根を、D・F・Sで切り落とすアキトさん。

 ちょっと怒ってるみたいです。

 ・・・まあ、その気持ちは解ります。

 

 

「もう手加減はしないからなガイ!!」

 

 そう言って空中を爆発的な速度で駆け出すアキトさん!!

 そのスピードから繰り出されるD・F・Sの一撃を、避けれるロボットはいませんでした。

 

 

 ボカァァァァァンンン!!!

 

                          チュドォォォォォンンン!!!

 

               ドゴォォォォォォォォンンン!!!

 

 

 本気で怒ってるアキトさんに勝てるはずもなく・・・

 次ぎから次ぎへと破壊されていくロボット達。

 見ていて惚れ惚れするやられっぷりですね。

 

 5分が経過して・・・

 

 残ったのはたったの一機だけになりました。

 

「どうするガイ?

 今ならイネスさんの特製お仕置き一週間で許してやるぞ。」

 

 

「・・・あのお仕置きを一週間されたら。

 マジで死ぬぞ・・・俺。」 

 

 

 シ〜〜〜〜〜ンンン・・・・

 

 

 

 二人の間に沈黙が漂います・・・

 

「・・・確かにそうだな、済まなかったガイ。

 じゃ、じゃあ三日でどうだ?」

 

 ・・・一体どんな事をされるのでしょう?

 凄く興味が湧きますね、そのお仕置きに。

 

 

「ま、まあそれは置いといて・・・

 流石だなアキト!!

 しか〜し!!

 ここからが俺の本気だ!!」 

 

 

 そして光に包まれるヤマダさんのロボット!!

 

 

「お前は知っているか!!

 ゲキガンガーが28話から!!

 ゲキガンガーVになった事を!!」 

 

 

 あ、ロボットが変身しましたね。

 

「・・・で? 何が言いたいんだガイ?」

 

 アキトさんは暇そうに頭をかいてます。

 ・・・実際暇なんでしょうね。

 

 

「そして!! 幻の変形パターン!!

 ドラゴンガンガーを知っているか!!」 

 

 

 ギュイィィィィィィィンンンン!!!

 

 

 あ、何処からともなく飛行機が・・・

 ヤマダさんのロボットも変形しようとしてますね。

 

 

 ガシャァァァァァン!!!!

             ガチャァァァァァァァンン!!!

                              ザシュウ!!!

 

  ・・・ボカァァァァァァァァァンンン!!!!

 

 

 順調に飛行機と合体していたヤマダさん・・・

 途中でアキトさんのD・F・Sに真っ二つにされました。

 そして最後に大爆発。

 ・・・お疲れ様ですヤマダさん。

 

 

「アキト!!

 テメー!!

 合体中は攻撃しないのがセオリーだろうが!!」 

 

 

「・・・付き合いきれるか。」

 

 その捨て台詞を残して、ヤマダさんは消えました・・・

 

『そんな!! ガイがやられるなんて!!』

 

「・・・いろんな意味で、経験不足だったなオモイカネ。」

 

「そうですね・・・私ともう一度、勉強をやり直しましょうね。」

 

 何だかオモイカネが気の毒になってきました・・・

 これは私の教育ミスですね。

 

『・・・今回は僕の負けだ。

 ここからは大人しくするよルリ、アキト。』

 

 そしてオモイカネの通信ウィンドウは消えました。

 

「自衛プログラムの消滅を確認・・・

 アキトさん、早く連合軍の書き換えプログラムを破壊して下さい!!」

 

「解った!! 飛ばすよルリちゃん!!

 しっかり掴まっててね!!」

 

「はい!!」

 

 空を舞うアキトさんのエステバリスに掴まりながら・・・

 私はこれも一種のデートなのかな?

 何て事を考えてしまいました。

 

 

 そして、アキトさんによって連合軍の書き換えプログラムは破壊され。

 オモイカネは少しだけ、大人になりました。

 

 

 

 

 

「ふう〜」

 

「お疲れ様です、アキトさん。」

 

「どういたしまして。」

 

 そうして私に微笑むアキトさん。

 

 何時も私を助けてくれる人・・・

 何時も私に大事な事を教えてくれる人・・・

 私を、私らしくしてくれた人・・・

 そして、私の醜い心を知っても変わらない笑顔を向けてくれる人・・・

 

 

 やっぱり・・・

 

 

 私は・・・

 

 

 アキトさんが大好きです。

 

 

 今の私では、アキトさんにいろいろな意味で釣り合いません。

 でも何時か・・・

 何時の日にか・・・

 身体も、心も成長した私をこの人に・・・見て欲しいです。

 

 

 

 そして・・・ナデシコから連合軍の調査団が去ります。

 システムの書き換えは終わった・・・

 そう思ってもらえれば幸いですね。

 

 あ、ヤマダさんはイネスさんのお仕置きスペシャルをくらって、再々々々入院したそうです。

 ほんと・・・

 

「ばか。」

 

 ですね。

 

 

 

 

 しかし・・・

 今回の連合軍の目的は、オモイカネだけではありませんでした。

 いえ、こちらが本命だったのでしょう。

 調査団が連合軍の軍艦に帰る時になって・・・

 その陰謀は発覚しました。

 

「では、連合軍長官の命令によりテンカワ アキトを連合軍が徴兵する!!」

 

 突然調査団の一人が見せた命令書・・・

 そこには確かに、アキトさんの徴兵命令が書いてありました。

 

「な、何ですって〜〜〜〜!!」

 

 ユリカさんも驚いてます。

 

「そんな!!」

 

 メグミさんも驚愕の表情をしてます。

 

「いきなり変な冗談を言わないでよ!!」

 

 ミナトさんが大声で怒りを表しています。

 私は・・・

 その突然の命令が信じられず。

 呆然と・・・しています。

 

「あ〜〜ら、これは冗談じゃ無いのよ。

 テンカワには今回の連合軍の被害を、肩代わりしてもらうのよ。」

 

 ムネタケ提督!!

 まさかあなたが!!

 

「それは保険でお支払いする事になっておりますが?」

 

 プロスさんが交渉を始めます。

 しかし・・・

 

「残念だけど今回の私の失点を庇うには、額が少ないのよね。

 そこでテンカワを連合軍に紹介したわけ。

 彼の戦闘能力はナデシコを凌ぐからね。

 記録テープを首脳部に提出したら、私も褒められたわ。」

 

「そうだ、非常に興味深い記録だった。

 彼の存在はこの戦艦ナデシコを凌駕している。

 その彼をこれ以上、この反逆の疑いがあるナデシコに乗せる事は出来ん。」

 

 こ、この人は何て事を!!

 アキトさんの戦闘記録は意図的に隠してきたのに!!

 

 アキトさんの存在を知れば必ず連合軍から干渉される。

 それが、ナデシコのブリッジ全員の意見でした。

 ですからアキトさんの戦闘記録は厳重に保管し・・・

 作戦の成功だけを、ムネタケ提督に伝える様に細工してきたのに!!

 

 それをこの人は、自分の失点を庇うためにアキトさんを売るなんて!!

 

「無駄です!!

 アキトさんは軍には絶対行きません!!」

 

「あ〜ら、そんな事ないわよホシノ ルリ。

 もうテンカワは拘束して、彼のエステバリスと一緒に連合軍に向ってるわよ。」

 

「何ですって!!」

 

 その衝撃的なムネタケ提督の言葉に・・・

 ブリッジの全員が黙り込みます。

 

「彼には交換条件を提示したわ。

 テンカワが連合軍にいかなければ、ナデシコは連合軍から敵とみなされる、ってね。」

 

 アキトさんの・・・一番の弱点を、この人は!!

 

「それに彼の気性からいって。

 困ってる人や助けを求める人の所に放り込めば、必死に働くでしょう?

 彼も自分の才能が活かせて万々歳よね。」

 

 その時・・・

 一台のシャトルがナデシコを飛び立ちました。

 そして全員が理解しました。

 あのシャトルにテンカワさんが乗っている事を・・・

 

 

「まあ、この戦争が終れば会えるわよ。

 もっともテンカワが生きてたら、だけどね。

 でも、私の株を上げる為にも早々と戦死、なんてしてほしく無いわね。」

 

 ・・・本気で言ってるのですか!!

 あなたは!!

 

「あなたそれでも軍人なの!!

 アキト君はネルガルに所属する一般人なのよ!!」

 

 そんなミナトさんの言葉さえ、聞え無い振りをしてます。

 

「どうしてアキトを!!

 ・・・もうこの件は穏便に解決できたはずなのに!!」

 

 ユリカさんの涙混じりの声に・・・

 ムネタケ提督がやっと返事をします。

 

「・・・憎いのよ。

 彼の戦場での活躍が!! 名声が!!

 私が手に入れられなかった物を全て持つテンカワ アキトがね!!

 一般人のくせに軍人の私より評価される彼が!!

 あの、ずば抜けた英雄が憎かったのよ!!

 ・・・だから、彼には地獄を見てもらうのよ。」

 

 もうこの人を提督、などと呼べません!!

 ブリッジの全員の非難の目を浴びても、ムネタケは平気な顔をしています。

 

 この時私は初めて・・・憎悪という感情を自覚しました。

 こんな感情を抱きながら、アキトさんは戦っていたのですね・・・

 やっぱり私はまだまだアキトさんには、追い付けません。

 でも・・・

 

「そうそう、テンカワから伝言があったのよね。

 『俺は帰って来る』 

 ですって。

 馬鹿よね、自分が何処に配置されるかも知らないくせに。

 ・・・何よ、私が憎くないの?」

 

 その台詞を聞いて・・・

 私達の不安は晴れました。

 アキトさんは絶対に帰って来る。

 それを確信したから。

 

 そして、ブリッジの全員が通常の配置につきます。

 

「何なのよ!! 

 何か言いなさいよアンタ達!!」

 

 もう、あの人に関わる気はありません。

 ・・・考えてみれば哀れな人です。

 人を貶める事でしか、自分を表現出来ない人なのですから・・・

 

 

 

 

 ピッ!!

 

 

 そして、私の前に通信ウィンドウが開きます。

 

『あの忘れえぬ日々

 そのためにいま

 生きている

 大丈夫、アキトは絶対に帰って来るよルリ。』

 

「そうだね・・・オモイカネ。

 あの人は私よりずっと強い人だもの。」

 

 そして、約束は必ず守ってくれる人。

 私の・・・今はまだ、大切な人。

 何時かアキトさんを、大切な人から愛する人へと変えていきたい。

 だから・・・

 

 今はアキトさんが帰って来る、このナデシコを守ってみせる。

 

 それはナデシコクルー全員の想い・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

外伝 漆黒の戦神へ続く

 

 

 

 

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