< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フィールドジェネレータ破壊!!」

 

「チューリップ内部より巨大なディストーション・フィールド発生!!」

 

「ボース粒子、大量に検出!!」

 

「まさかこの研究所を直接潰すつもりか!!」

 

「・・・来るぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 ドガァァァァァァァァァァァンンンンンン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はナデシコの船内を自室に向いながら、今後の事を考えていた。

 手札で伏せていたカードは殆ど明かした。

 後はどれだけ俺を信頼してもらえるか、だ。

 

 

 ピッ!!

 

 

 俺の隣に通信ウィンドウが開く。

 誰が通信をしてきたのか、何となく解かっていた。

 

『結構、教えちゃいましたね。』

 

「ああ、でも最後の真実まで話した訳じゃない。

 ・・・アカツキ達の協力は絶対に必要なんだ。

 いくらネルガル自体を手に入れても、俺達に経営が出来る訳じゃないんだからね。」

 

 そう、だから頼むのは俺の方なんだ。

 しかし、頼んだだけでは彼等は動いてくれないだろう。

 だから実力の誇示と、ボソンジャンプのデータを取引に使った。

 

 ギブ アンド テイク

 

 企業人だからこそ、この不文律は守るはずだ。

 それに俺はネルガルが、クリムゾンよりはマシな企業だと信じたい。

 過去の両親の事もその為に忘れると、アカツキに宣言もした。

 後は・・・彼等の決断を待つだけだ。

 

『・・・明日は、どうされるんですか?』

 

 ジンシリーズとの戦いで過去では、俺は二週間前の月に跳んでいた。

 しかし・・・

 

「この時代では俺はまだ月にいないらしい。

 どうやら大分修正が出来てるみたいだな。」

 

『では明日は何事も無くジンシリーズを倒すのですか?』

 

「いや、月には月臣が来る。

 ・・・彼には会っておく必要がある。

 それに月の人達を見殺しにするつもりは無い。」

 

 そう、最小限の被害で食い止めてみせる!!

 

『そうですか。

 アカツキさんやエリナさんが、アキトさんの話しを信じてくれるといいですね。』

 

「そうだな、俺も皆を信じる事しか出来ない。

 ・・・さてと、明日も早いんでねお休みルリちゃん。」

 

 俺は自室に辿り付いていた。

 ラピスは・・・俺を待っていて、起きてるだろうな。

 

『あ、明日はクリスマスパーティの料理があるんですよね。

 じゃあ、お休みなさいアキトさん。

 ・・・ラピスに変な事をしちゃ駄目ですよ。』

 

 

 ピッ!!

 

 

 そんな言葉を残して、ルリちゃんの通信ウィンドウは閉じた。

 

「おいおい。」

 

 ルリちゃんの冗談に苦笑をしながら、俺は自室に入って行った。

 明日は忙しくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 翌日早朝・・・

 俺は布団を抜け出し、朝の厨房に出勤していた。

 隣に寝ているラピスが起きない様に、細心の注意をしながらだ。

 

 でも癖かな、厨房にいると落ち着くのは。

 

「お〜い、アキト。

 俺、朝定食のAセットな。」

 

「了〜解、で何か動きはありましたか?」

 

「うんにゃ、まだ赤い人は大人しいよ。」

 

 俺はナオさんの定食を作りながら、クリムゾンの情報を聞いていた。

 今の俺には諜報戦をする余裕は無い。

 そう言った意味でもナオさんの存在は有難かった。

 もう、あんな悲劇は御免だ・・・

 

 それは、ナオさんも思っている事だろう。

 

 

 ジャァァァァァ!!

 

 

 油をひいたフライパンに卵を落す。

 それを見ていたナオさんが・・・

 

「あ、俺は目玉焼きは二つな。」

 

「一人一つが決まりですよ。」

 

「固い事言うなよな〜、別にいいじゃね〜かよ〜」

 

「駄目です。」

 

 こんな気軽なやり取りも楽しく感じる。

 ナオさんが来てくれて良かったと思える。

 

 暫くして・・・

 

「・・・アキトさん、私もAセットで。」

 

「僕も・・・」

 

「アキト〜、私も〜」

 

 ネボスケオペレーター三人衆が登場した。

 まあ、昨日の夜更かしは俺の責任だけどな。

 

「はいはい、目玉焼きは幾つだい?」

 

「二つでお願いします。」

 

「僕は一つでいいです。」

 

「じゃ、私は二つ。」

 

「・・・ずりぃぞ、アキト。」

 

 まあ、ご褒美だしな。

 ナオさんの恨みがましい視線を、俺は黙殺する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 朝食のラッシュが終った後。

 俺が向ったのは医療室だった。

 後ろにはラピスが着いて来ている。

 どうやらナデシコに乗ってる間は、離れるつもりが無いようだ。

 まあ、一年近く待たせたからな。

 これ位の我侭は聞いてやら無いと。

 

 

 プシュ!!

 

 

「あら、アキト君じゃないの何か用かしら?」

 

「ええ、ちょっとガイのお見舞いにね。」

 

「・・・ああ、医療室のの事ね。」

 

 ・・・哀れだなガイ。

 今回は名誉の負傷なのに。

 

 イネスさんとそんな会話をしながら。

 俺はガイの寝ているベットに近づいた。

 

「ねえ、アキト。」

 

「何だ、ラピス?」

 

「どうして医療室のベットなのにヤマダ専用、なんて名札が付いてるの?」

 

 

「俺の名前はダイゴウジ・・・ぐえ!!」

 

 

「はいはい、医療室では静かにしてようなガイ。」

 

 俺の肘を鳩尾にくらい、悶絶するガイ・・・

 まあ、こいつなら3分程で復活するだろう。

 

「アキト、私何だか理由が解った。」

 

「そうかい?」

 

「・・・で、何の用だよ。」

 

 復活したガイが俺に話しかける。

 

「いや・・・頑張ってくれたんだな、って思ってね。

 あ、これ見舞いの果物。」

 

「へ、ヒーローとして当たり前の事をしたまでよ。

 アキトとの約束もあったしな。」

 

 照れてるガイを見れるとは思わなかったな。

 こいつにも人並みの感情があるとはな。

 ・・・結構失礼な事を考えてるな、俺も。

 

「あんな口約束で、命を掛けるとは思わなかったからな。」

 

「ふん、俺は何時でも本気だぜ。

 お前は俺にナデシコの守備を任せたんだ。

 男ならその期待に応えなくてどうする!!」

 

 ・・・だってさ、あの時はリョーコちゃん達と一緒に、って頼んだはずなんだけどな。

 どこで聞き間違えたんだ?

 まあ、勘違いは何時もの事か。

 

「まあ一言お礼が言いたくてな。

 有難う、ガイ。

 お前のおかげでナデシコは沈まずに済んだ。」

 

「・・・なあ、アキトは恐く無いのか?

 俺はチューリップに単独で挑んだ時、恐くて仕方がなかった。

 逃げ道もなければ進む道も無い。

 気が付けば、叫びながらDFSでチューリップを切り裂いていた。

 もう・・・二度と同じ事は出来ないと思うぜ。」

 

「懸命な判断だよ、ガイ。

 ・・・俺も恐いさ。

 

「そう、か。」

 

 そして俺は医療室を後にした。

 ラピスを引き連れて廊下を歩いていると・・・

 

 ユリカ達に拉致された。

 ・・・おい。

 

「アキト!! 早くパーティ会場に行こうよ!!」

 

「アキトさん、さあこっちです!!」

 

 そっちは化粧室じゃないか?

 それにそのカツラは何だいメグミちゃん?

 

 俺の勘が最大レベルの警報を鳴らしている!!

 ここから・・・逃げなければ!!

 

「おうアキト、約束は覚えてるよな?

 出向先で浮気をした償いの為に、二つだけ俺達の言う事を聞くんだったよな。」

 

 ・・・一つは俺の料理が食べたい、だった。

 だから俺は帰って来た翌日から、厨房に立っていたのだ。

 

 そして二つ目は・・・まさか。

 

「はい、化粧品も一通り揃ってますよ。」

 

「楽しみですね。」

 

「私もドレスを縫う手伝いをしたんだからね!!」

 

 嬉しそうに化粧品を持つ、サラちゃんとアリサちゃん。

 そして、一着のドレスを大事そうに抱えるレイナちゃん。

 

 ・・・俺に、逃げ道は無かった。

 

「じゃあ、女装の準備をしましょうかアキト(さん)(君)」

 

 

 

 パーティ会場での出来事は思い出したく無い。

 そしてイツキさんとの出会いは多分、過去よりも更に情け無いものだった。

 

 堪忍してくれ・・・

 

 

 

 ビー!! ビー!! ビー!!

 

 

 非常警報・・・

 来たのかジンシリーズが。

 

 

 ピッ!!

 

 

 そして、俺の前にウィンドウが開き。

 

『・・・ヨコスカシティに木星蜥蜴が出現しました。』

 

「了解、ルリちゃん。

 さ、ラピスはルリちゃんと一緒にブリッジにいるんだ。」

 

 これで女装から解放される!!

 有難う木連!!

 有難う無人兵器!!

 

「・・・うん、解った。

 頑張ってねアキト。」

 

「ああ。」

 

 そしてラピスをブリッジに送り出した後。

 俺は格納庫に向って走り出した。

 

 勿論途中で女装を止めて、だ。

 

 

 ガイ・・・恐いけれど俺は頑張れる。

 守るべき約束と大切な人があるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何あれゲキガンガー?」

 

「連合軍は全滅か!!」

 

 俺達の目の前には二機の大型人型兵器がいた。

 俺とルリちゃん達には、あれがジンシリーズだと解かる。

 厄介なのは自爆装置と・・・

 

『敵は小規模ながらグラビティ・ブラストを持っています。』

 

 ルリちゃんの報告が俺の耳に入る。

 そうなんだよな、今回の敵はグラビティ・ブラストを持ってる。

 それと、多分彼も乗ってるんだろうな。

 どうする?

 

『グラビティ・ブラストならアキトも持ってる!!

 ど〜ん、とやっちゃってアキト!!』

 

 おいおい、言ってる事の意味が解ってるのか?

 それと、いい加減そのエステバリスのコスプレは止めろよな。

 

「・・・ヨコスカシティを壊滅させてもいいのなら、そうするけど?」

 

『あう・・・やらなくていいです。』

 

 

 もうちょっと考えてから発言しろよユリカ・・・

 まだ俺に甘えているな。

 

 

 

 

「本当ですよ、まったく・・・」

 

「うん、そうだねルリ。」

 

「これがユリカさんですか。」

 

 

 

 

 

 

 ドゴォォォォォォォォ!!

 

 

「くっ!! このぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 リョーコちゃんが突撃をして、ジンシリーズに攻撃をしかけるが・・・

 その強力なディストーション・フィールドを、破る事は出来なかった。

 それに、そっちのジンシリーズを破壊してもらっては俺が困る。

 

 なら、一撃で戦闘不能にするまでだ!!

 

「リョーコちゃんどいて!!」

 

「テンカワ!! 任せたぜ!!」

 

 

 ギャゥゥゥゥゥゥンンンン!!

 

 

 ジンシリーズの胸からグラビティ・ブラストが発射される。

 だが、遅い!!

 

 

 ヒュン!!

 

 

 ブラックサレナでその攻撃を軽く避け、敵に肉薄しDFSを振りかぶる。

 だが、俺の一撃は空を斬った。

 

 

 ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥンンン・・・

 

 

「そんな!! 消えた?」

 

「こっちの敵も瞬間移動するよ〜〜〜〜」

 

「・・・ここはテンカワ君に任せるんだ!!」

 

「何をいいやがるロン髪!!」

 

 後ろの通信を聞きながら俺は苦笑していた。

 割りに合わない役を、アカツキには割り振ってしまったものだな。

 

「さて、何時までも遊んでいる時間は無いな!!」

 

 再び現われたジンシリーズに向って俺は加速する。

 

 

 ブォォォォォォォンンン!!

 

 

 機銃らしきモノを撃って来るジンシリーズに、素早く取り付き。

 

「悪いな!! ちょっと間我慢をしてくれ!!」

 

 コクピットにいる彼には聞え無いと思うが・・・

 俺はそう宣言してその首をDFSで斬り飛ばす!!

 

 

 ドドドドドドンン!!

 

 

 そして離脱をしながら、胸のグラビティ・ブラストと手足をカノン砲で破壊する。

 今は大人しく捕虜になってもらわないとな。

 

 

 ドズゥゥゥゥゥンンン・・・

 

 

 そして倒れ伏すジンシリーズ。

 これで今後の予定はOKだろう。

 

 これでイツキさんも大丈夫だな。

 暗褐色のエステバリスの無事を確かめて、俺は安堵した。

 

 次は・・・

 

 

 

「残った一体に集中攻撃!!」

 

 アカツキが上空を空戦フレームで飛びながら、リョーコちゃん達に指示を出している。

 俺がいない間にちゃんと連携攻撃の経験を積んだみたいだな。

 ・・・ここは見物に徹するか。

 俺は最後の詰めをすればいい。

 

 

 

「よし!! 今だ!!」

 

 アカツキが指定した場所に現れる、もう一体のジンシリーズ。

 

 無人兵器の弱点

 

 パターンさえ掴めればそう恐い相手では無い。

 今のリョーコちゃん達の実力なら、危なげなく倒せるだろう。

 

 

 バラララララララララ!!

 

 

                    ドドドドドドドド!!

 

 

 現われた瞬間、集中攻撃を受けて慌てて再度ジャンプをするジンシリーズ。

 

 

 ビュゥゥゥゥゥゥゥンンン・・・

 

 

「三秒後、右30度!!」

 

 その指示に従ってジンシリーズを追い詰めるリョーコちゃん達。

 ・・・もうそろそろ潮時かな?

 

「ジャンプのパターンさえ読めれば・・・勝てる!!」

 

 アカツキの勝利宣言が出た後にそれは起こった。

 

 

 ドガァァァァァァ・・・

 

 

 建物に寄り掛かったジンシリーズから・・・

 

 

 キュワァァァァァァァ!!

 

 

 甲高い音が漏れてきた。

 

「な、何だ!!」

 

 リョーコちゃんの問いに応えたのは・・・

 

 

 ピッ!!

 

 

『説明しましょう!!』

 

 

 ・・・この人だった。

 

「あ〜、はいはい・・・

 で、あの音の正体は何だよ?」

 

 投げ遣りな態度でイネスさんに説明を求めるリョーコちゃん。

 まあ、気持ちは解らんでも無いが。

 

『アイツは初めから自爆用にプログラムされて、ここに送られて来たのよ。

 周囲の空間全体を相転移してね。

 まっ、この街全体が消し飛ぶ事は保証するわ。』

 

 

「呑気にそんな事言うな〜〜〜〜〜〜!!」

 

 

 イネスさんの説明に怒ったリョーコちゃんが吠えている。

 さて、そろそろ出番かな。

 

「え〜〜〜〜〜!!

 じゃあどうしたらいいの?」

 

「まあ、何とかなるんじゃない?」

 

「その根拠は何だよロン髪!!」

 

『あら、私も同意見よアカツキ君。』

 

 イネスさんとアカツキの視線は俺を見ていた。

 

「テンカワ?」

 

「ああ、それじゃあ最後の詰めをやらせてもらうよ。」

 

 俺は自爆する準備をしているジンシリーズの、ディストーション・フィールドに片手を当てる。

 

「何をする気なのアキト君?」

 

 ヒカルちゃんが心配そうに聞いて来る。

 まあ、ちょっとした隠し芸さ。

 

 さてと、ジャンプ・フィールドを展開。

 ジンシリーズのディストーション・フィールドに同調、と。

 

 

 フィィィィィィンンンンン!!

 

 

 そして、空に虹色の空間が生まれる。

 

「テンカワ!!」

 

「テンカワ君は大丈夫だ!! 落ち着き給えリョーコ君!!」

 

「離せよ!! テンカワ!! テンカワ〜〜〜!!」

 

 リョーコちゃんには、ちょっと悪い事をしちゃったかな。

 ・・・帰って来たら、また何か約束させられそうだな。

 

「ジャンプ。」

 

 

 ギュォォォォォォォォォ!!

 

 

 そして、俺とジンシリーズは虹色の空間に消えて行った・・・

 

 

 

 

 

「うぅぅぅぅぅ・・・アキトォ・・・」

 

「アキトさんが・・・」

 

「・・・」

 

「敵、消滅を確認しました。」

 

「通信が入ります。」

 

「ど、どうしてそんなにルリルリもサラちゃんも冷静なの?」

 

「だって、アキトならきっと大丈夫ですよ。

 向こうでも、何時も無事に笑って帰って来てくれました。

 ・・・私達を置いて消えるはずはありません。

 だって、ほら・・・」

 

 

 ピッ!!

 

 

『や、お待たせ。』 

 

「ア、アキトなの!!」

 

「アキトさん!!」

 

「・・・やっぱり大丈夫だったようね。」

 

「お疲れ様ですアキトさん。」

 

「で、何処にいるのアキト?」

 

『ん? 今は月だ。』

 

 

「月〜〜〜〜〜!!」(ルリ達を除く全員)

 

 

『そうなんだよな〜

 そうそう、皆にまだ言ってなかったよな。

 女装とかで連れまわされてさ・・・

 メリークリスマス!!

 

 

 俺は通信ウィンドウの向こうで微笑む皆を見て改めて思った。

 この笑顔は必ず守ってみせる、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラピスの夢へ続く

 

 

 

 

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