< 時の流れに >
アキトさんより先に、ラピス達が到着しました。
実は、ラピスとハーリー君、そしてウリバタケさんは、月で『ブローディア』の最終調整をしていたのです。
そして、エリナさんとプロスさんはネルガルの月支部と交渉中。
ゴートさんとナオさんはラピス達の警備の為に、それぞれ月に残っていたのです。
現在は、ウリバタケさんとラピス・・・そしてハーリー君とナオさんが、ナデシコに合流する為に来ました。
あ、サブロウタさんは一応敵方なので。
新型エステのテストに同行は認められず、月でお留守番です。
・・・エリナさんの話だと、毎日の様に街にナンパをしに行ってるそうです。
急に、そこまで軽くなっていいんですか?
そんな事を考えているうちに、アキトさんの乗る『ブローディア』が帰って来ました。
ゴォォォォォォォォ!!!
漆黒の機体には、今まで見た事も無い『羽』が左右に付いています。
ですが、あの『羽』がアキトさんを守る盾であり、武器でもあるのです。
ナデシコに着艦する寸前に、飛行形態から機動戦形態に変形・・・
そして、その背に生えている翼を、誇らしげに羽ばたかせながら、格納庫に静かに舞い降りて来ました。
バサッ、バサッ・・・
ズゥン・・・
その力強く優美なフォルムに、その場にいたクルー全員が溜息を吐きました。
そう、この『ブローディア』こそがアキトさん専用の機体であり・・・
私達の最高傑作でもあるのです。
バシュゥ!!
そして、コクピットの扉が開き、あの漆黒の戦闘服を着たアキトさんが降りてきます。
そのアキトさんの姿を見て、また全員が溜息を吐きます。
その姿は・・・正に『漆黒の戦神』と呼ぶべきでしょう。
アキトさんが戦闘服を着ている理由ですが・・・
それは、『ブローディア』の操縦時に掛る高Gを、少しでも軽減する為です。
全力で機動戦をする『ブローディア』には、慣性制御装置が追いつきません。
そこで、個人用のディストーション・フィールドを薄く張れる、あの戦闘服が必要なのです。
慣性制御を超える程の高Gを、ディストーション・フィールドで更に軽減する為です。
そして・・・あの色は、アキトさんの要望です。
私もラピスも反対したのですが。
「忘れちゃ・・・いけない事もあるんだ。
別に後悔をする為じゃない、繰り返さない為に俺はこれを着るんだよ。」
そう言われては・・・何も言い返せませんでした。
あの時の決着は、アキトさんが自分で付けなければ、いけない事ですから。
「アキト!!」
ダダダダ!!
ラピスが格納庫に降り立ったアキトさんに向かって、走り出します!!
むっ!! 近頃は機動力が格段に向上してますね!!
しかし・・・
ボゥ・・・
「ラピ姉、あたしの紹介がまだだよ!!」
ピッ!!
『僕も僕も〜』
「うきゃ?」
ディアのホログラムと、ブロスの通信ウィンドウに阻まれ立ち止まります。
ふふふ、抜け駆けをしようとするからです。
「アキト〜、この二人って?」
ユリカさんが代表で、アキトさんに質問をします。
「ああ、この二人は『ブローディア』に搭載してあるAIなんだ。
女の子の名前が『ディア』・・・ラピスとルリちゃんで作り上げた子だよ。
男の子の名前が『ブロス』・・・ルリちゃんがこの子を作ったんだよね?」
「いえ、基本はハーリー君です。
私は、色々と手助けをしただけです。」
「えっ!! だってブロスが自分で、ルリちゃんに組んでもらったって。」
そのアキトさんの言葉を聞いて、私は首を傾げます・・・
おかしいですね、ブロスはその事を知ってるはずですが?
その時、ブロスが自分で発言をします。
『だって・・・ハリ兄の性格まで、受け継ぎたく無いもん。』
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんん!! ブロスの馬鹿〜〜〜!!」
ダダダダダダダダ!!!
・・・いたんですか、ハーリー君。
全然気が付きませんでした。
「・・・後でちゃんと謝っておくんだぞ、ブロス。」
アキトさんに叱られ、素直に返事をするブロス。
『は〜い。』
この性格は・・・もしかして私に、似たと?
周囲の視線がそう物語っています。
不本意です・・・私は、あそこまで軽い性格はしてません。
ハーリー君のプログラムが、私のプログラムと変に混じったみたいですね。
・・・きっと、そうです。
「ユリカ・・・これ、皆に見て欲しいんだ。」
アキトさんが戦闘時の記録テープを、ユリカさんに手渡します。
「何、これ?」
不思議そうに、受け取った記録テープを弄ぶユリカさん。
「ムネタケ提督の・・・最期が映ってる。」
「!!」
アキトさんのその一言に、その場の全員が凍り付きました。
「馬鹿な事を・・・だけで、済む話じゃなかった。
提督には提督の人生があり・・・俺には俺の譲れない事情があった。」
「うん・・・ルリちゃん、ここで再生出来る?」
ユリカさんが私に、その記録テープを渡します。
「はい、『ブローディア』を介すれば大丈夫です。」
私はアキトさんとユリカさんに、目で尋ね・・・
二人が頷いた事を確認してから、そのテープを『ブローディア』を使って再生をしました。
そして・・・一人の男性の、死に際の独白が始まりました。
「皆には、見せない方が良かったかもしれない。
そうも考えた。
でも・・・一人でも多く、提督の気持ちを知って欲しかった。
俺達は結局、提督を孤立させただけだった。
これは、甘い考えかもしれない。
でも、助けられる命であった事は、確かなんだ。」
アキトさんの言葉と同時に、『ブローディア』が『ラグナ・ランチャー』を発射しました・・・
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!
・・・ジュワッ!!
そして・・・ムネタケ提督を乗せていた新型エステは、この世から消えた。
「・・・全員、その場で黙祷!!」
ユリカさんの言葉が格納庫に響き渡り・・・
その場にいた、クルー全員が黙祷を捧げました。
一言で言えば・・・憎たらしい人物でした。
自己保身と出世欲の塊。
その身勝手な行動の為に、どれだけアキトさんや私達が苦しんだ事か。
ですが・・・
亡くなった人に、幾ら文句を言おうと返事は返ってきません。
謝ってもらう事も、苛める事も不可能です。
不本意な・・・勝ち逃げですね。
「黙祷、止め!!」
そして、私は目を開け・・・
もう二度と、あのキノコさんとは会わないんだと実感をしました。
「で、アキト君はどうやって助かったの?」
何故か・・・ミナトさんが代表で、アキトさんに質問をしています。
本当、何故でしょう?
「まあ・・・何処に跳ぶかは、解らないジャンプでしたが。
自分でも、賭けだったんですよ。
ただ予想外な命綱があったんです。」
そう言って、自分の戦闘服のマントにしがみ付いている、ラピスの頭を撫でるアキトさん。
「ラピスちゃん・・・が命綱?」
不思議そうな顔で、アキトさんに再度質問をするミナトさん。
「ええ、実は俺とラピスは精神的に繋がっているんです。
ですから、ランダムジャンプを実行した時・・・
その繋がっている紐を辿るようにして、俺は現実の世界に還って来ました。
もしラピスがいなければ・・・俺は消滅していたかも知れません。」
そうです、ラピスの存在が今回は吉と出ました。
月で『ブローディア』の整備をしていたラピスも、突然現れたアキトさんに驚いた事でしょう。
しかも、御丁寧にも私がラピスにアキトさんが無事かどうか、尋ねた後です。
・・・もう少し、アキトさんの出現が早ければ、私があそこまで取り乱す事は無かったのですが。
タイミングが悪すぎますね、本当に!!
「でも、どうしてラピスちゃんと精神が繋がる、なんて事になったの?」
サラさんがラピスを羨ましそうに見ながら、アキトさんに話し掛け・・・
そのサラさんを見て、ラピスが勝ち誇った顔をします。
・・・ラピス、後で皆でお仕置き決定です。
私はアイコンタクトで、全員の意思を確かめました。
皆さん了承、との事です。
「まあ、昔ちょっとした事故に遭ってね・・・その時の後遺症、みたいなモノかな?」
アキトさんが苦笑をしながら、そう返事をして・・・
そのまま、自室に向けて歩き出します。
「流石に・・・かなり力技でジャンプをしたからね、精神的に疲れたよ。
御免、俺今日はもう限界・・・」
そう言い残して、アキトさんは格納庫を出て行きました。
私達は・・・アキトさんの気持ちを考えて、今日はそっとしておく事にしました。
誰が何と言おうと、結局最後にムネタケ提督を葬ったのはアキトさんです。
色々と思う事があるのでしょう・・・
ですから・・・
「お待ちなさい、ラピス。」
ガシッ!! × 女性陣全員
「う、うきゃ?」
慌てて逃げようとするラピスを、女性陣全員で拘束します。
そう簡単に、アキトさんの側にいかせる訳にはいきません。
「さあ、『ブローディア』の説明を皆さんにして下さいね♪」
「え〜〜〜〜ん、アキト〜〜〜〜〜!!」
ズルズル・・・
ジタバタするラピスの襟首を掴み、『ブローディア』まで連行する私達でした。
「・・・ラピ姉も、ルリ姉には勝てないのかな?」
『まあ、実力順に並べるとルリ姉、ラピ姉が僅差、それにオモイカネ兄、ダッシュ兄と続いて・・・』
「私達?」
『かな〜?』
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんん!!
いきなり存在を忘れられてるよ〜〜〜〜〜!!」
ダダダダダダダダダダダダダダ!!!
「ハリ兄・・・何時の間に、帰ってきてたの?」
『・・・さあ?』
「で、まずは『フェザー』ね。
これは特殊な加工をした装甲板で出来ているわ。
特徴としてディストーション・フィールドに反応して、自分自身にフィールドを溜め込むのよ。」
・・・まあ、説明と聞いてこの人が、黙ってるはず無いですよね。
「・・・じゃあ、私が連行された意味が無いじゃない。」
「それでも、この場に居なさい。」
「ぶぅ〜」
これは親切心から、言ってるんですよ?
アキトさんと心が繋がってると判明した今、貴方は明らかにターゲッティングされてるんですから。
色々な意味で・・・ですがね。
・・・イネスさんの妖しい目を見れば、ラピスも理解すると思いますが。
現在は下を向いて、イジケていますからね。
可愛くないですね。
一度、イネスさんに引き渡しましょうか?
「だから、アキト君が『ブローディア』で展開したディストーション・フィールドに反応して。
フィールドの周囲を旋回しながら、更に防御力を上げる訳ね。
フィールドの飽和量を超えた『フェザー』は、赤く発光をして更に強度を上げる。
そして、そのディストーション・フィールドの流れを、一定の方向に向ければ・・・」
「あの弾丸みたいな攻撃になる訳だな?」
リョーコさんが興味深そうに、質問をしています。
自分でも使ってみたいのでしょうか?
「その通りよ・・・
蓄えたフィールドを放出しながら、相手のディストーション・フィールドを突き抜け。
敵の身体を切り裂くわ。
でも、それだと使い捨ての弾丸になってしまう。
幾ら『ブローディア』が数百枚の『フェザー』を装備していても、長期戦には不利だわ。
そこで、ブロス君の出番なのよね。」
ピッ!!
『呼んだ?』
・・・どうも、性格が軽いですね?
本当に、私に似たんですか?
絶対に、ハーリー君のプログラムミスですよね。
・・・今更、フォーマットなんて可哀相な事はもっての他ですし。
ハーリー君は後でお仕置きです。
「な、何故ですか〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「あ、帰って来てたんですか、ハーリー君?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!
皆が僕を無視するんだ〜〜〜〜!!!」
ダダダダダダダダダダダ・・・
・・・そう思うのなら、いい加減落ち着いて下さい。
「じゃあ、続きを説明するわよ?
『フェザー』同士は微かにだけど、お互いを引き合う性質があるの。
その性質を利用して、普段は翼として『ブローディア』に格納されているわ。
そして、戦闘中に飛び散った『フェザー』は、ディストーション・フィールドに回収する。
その為に、散らばった『フェザー』の位置を把握し、『ブローディア』に誘導しているのが・・・」
誰も走り去ったハーリー君の心配はしません。
まあ、皆さんハーリー君の奇行に慣れたのでしょう。
『僕の仕事の一つだよ。』
誇らしげに発言をするブロス。
う〜ん、こうゆう行動はハーリー君似ですよね。
「さて、次は『ラグナ・ランチャー』の説明にいこうかしら。」
『え〜、『フェザー・ソード』の説明をしようよ〜
イネス母さん〜』
ピクッ!!
・・・さて、私はブリッジで当直にでも就きましょうか。
隣を見ると、ラピスがギクシャクした動きで歩いています。
「・・・ルリちゃん、それとラピスちゃん。
ちょ〜〜〜〜っと、お姉さん聞きたい事があるんだけど?」
そして、私達はイネスさんに襟首を捕まれ・・・
問答無用で、医療室に連行されていきます。
「わ、私じゃありません!! 始めに言ったのはラピスです!!」
「ふ〜〜〜ん、そうなんだ?」
「ち、違うよイネスさん!!
私じゃなくて、ハーリーが先にそう言ったんだよ!!」
ピタッ・・・
イネスさんの進撃が止まり・・・
「それ、本当かしら?」
ブンブン!!
必死に頷く私達・・・
「ふっ、若い身の上で・・・人生を誤ったわね、ハーリー君。」
スタスタスタ・・・
プシュー!!
そして、一人の鬼が格納庫を去って行きました。
・・・まあ、ハーリー君ならどんな尋問にも、耐える事が出来るでしょう。
「では、俺が代わりに説明するぞ〜〜」
「はい、お願いしますねウリバタケさん。」
ウリバタケさんの登場で、その場で起こった事件を全員が忘れ去りました。
これで、いいんです。
「ハリ兄って・・・」
『まあ、人には定められた運命があるらしいからね〜』
「この『ラグナ・ランチャー』はな、チャージをするとあのナナフシと同じ攻撃が可能になる。」
「・・・と言う事は、あのマイクロブラックホール弾ですかぁ!!」
ウリバタケさんの発言に、ユリカさんが驚きの声を上げます。
まあ、ナナフシのサイズを考えれば驚きますよね。
「そうだ!! しかも、一発に掛るチャージの時間は30分!!
DFSとアキトの技、そしてイネスさんの科学力によって、ここまで短縮する事が出来たのだ!!」
「でも・・・使えるのは、最初の一発だけだね。
とてもじゃ無いけど、戦場では使え無いよ。」
ヒカルさんが、そう指摘をします。
確かに、幾ら短縮されたからと言っても、30分は掛り過ぎです。
「ふふふっふ・・・そんな事は俺も考えてるぜ、ヒカルちゃん。
普段の『ラグナ・ランチャー』は、グラビティ・ランチャーとして使用は可能なんだ。
つまり、チャージの時間が経過するまでは、『ガイア』に搭載しておくも良し!!
グラビティ・ランチャーとして使用するも良しだ!!」
握りこぶしを固めて、そう力説するウリバタケさんでした。
「ほへ〜、じゃあカザマちゃんのエステに付いてる、グラビティ・ランチャーと同じなんだ。」
「でも、私のグラビティ・ランチャーには、マイクロブラックホール弾なんて無いですよ?」
カザマさんが不思議そうな顔で、ウリバタケさんに質問をします。
「それは簡単な問題だ。
つまり、『ブローディア』に搭載してある小型相転移エンジンの出力があって。
初めて30分と言う、短時間のチャージが可能なんだ。
新型エステのジェネレーターだと、まず無理だな。」
「ふ〜ん、さすがアキト君の専用機・・・って事だね。」
そうです、ですから『ラグナ・ランチャー』は付かず離れず、『ブローディア』の周囲に存在します。
普段は『ガイア』によって、その銃身を戦場から保護しているのです。
「そして、最後にこの『ガイア』だ・・・
これは、『ブローディア』の鎧としてだけでは無く、リョーコちゃん達のエステの鎧にもなる。」
「何ぃぃぃぃぃぃ!!
なら俺の『ガンガー』との合体も可能なのか!!」
・・・ここで、喚いた人を今更紹介するつもりはありません。
ですから・・・
「煩せ〜よ・・・」
ガスッ!!
「静かにしましょうね。」
ドゴッ!!
「鼓膜が痛いよ、ヤマダ君。」
ガキッ!!
「少し、大人しくしてなさい・・・」
バゴン!!
流れる様な連携で・・・
リョーコさんの右フック、アリサさんの掌打、ヒカルさんの張り手、イズミさんの前蹴り。
そして。
「ちょっと、寝てて下さいね♪」
ゴキュ!!
止めはカザマさんが、背中に肘鉄を打ち込みました。
・・・皆さん、さすが本職ですね。
綺麗な技でしたよ。
そして・・・ヤマダさんは、格納庫の床に沈みました。
「えっと・・・俺の話を聞いて欲しいな〜〜〜〜」
それと、寂しそうな、ウリバタケさんの呟きが聞こえました。
「・・・ヤマダさんの機体と、『ガイア』を合体させたくないな〜」
『・・・同感、だね〜』