< 時の流れに >

 

 

 

 

 

第二十四話.どこにでもある「正義」・・・想いを貫く力

 

 

 

 

 

 

 

 あの時とは違い、快く地球から送り出された私達ですが・・・

 どうも、世の中の摂理は捻くれているみたいです。

 

「・・・ルリルリ、九十九さんとの合流ポイントを知りたいんだけど〜」

 

「・・・」

 

 目の前のウィンドウには新たに現れた強敵が、目標に向かって猛攻を仕掛けています。

 強敵の社会的な立場上、私達も下手な手は使えません。

 

「・・・あ、あのね? もう直ぐ大気圏を抜けちゃうんだけどな〜?」

 

「・・・二人目の幼馴染、ですか?

 そんな事、私は初めて聞きました。」

 

 今までのユリカさんの強引な手段ではなく、一歩退いた所から婉曲的にアキトさんを攻めるカグヤさん。

 その新しいタイプの攻撃を前に、アキトさんは戸惑いを隠せない様です。

 

 むむ、敵ながら見事な戦法です!!

 

「・・・と、取り合えず、月の軌道に乗っちゃうね?

 行き先が分かったら、お姉さんに話して欲しいな〜」

 

「強引なだけでは、駄目なのですね。

 そうですよ、自己顕示だけでは相手は引くと言うもの・・・

 前回の様に出遅れるのも問題ですが、突出するのもまた問題ですか。」

 

 やはり、私も焦りがあったのでしょう。

 このままではアキトさんとの関係は、以前と同じ結末を向かえてしまいます。

 それだけは何としてでも防がなければ・・・

 

「ねえ、メグちゃん。

 一緒にお茶に・・・あれ、何処に行ったんだろう?

 艦長―――も、やっぱり居ないか。」

 

「艦長とメグミさんは現在食堂です。」

 

 ちなみに、アキトさんとカグヤさんも食堂です。

 そう、食堂は一種の戦場と化しています。

 私は残念な事に外せない仕事があるため、ブリッジに残っています。

 しかし、一歩離れた位置で見れば戦況も良く分かるというものですね。

 

 これは今後の課題として、充分に検討しなければいけません。

 

「・・・もしかして、私の言葉全部聞いてたのルリルリ?

 ねえ、そうなんでしょ?」

 

「現在、食堂は三つの勢力により分断されています。

 一つがアキトさんを中心にした集団。

 もう一つがウリバタケさん達を中心にした、例の集団。

 そして最後が、ナオさんやオオサキ提督を筆頭にした普通に食事をする為に食堂を訪れた集団です。 

 もっとも今は二つの勢力の抗争を肴にして、楽しそうに御飯を食べてられますが。」

 

「・・・ああ、要するに戦況報告を口頭で述べてただけなんだ。

 結局、私の言葉はルリルリに届いてなかったのね。」

 

 隣で何故か凄く疲れた顔をしているミナトさんを不思議に思いながら、私は自分の仕事に専念しました。

 この仕事が終らない限り、私の参戦は不可能なのですから。

 

 

 

 

 

「ねえ、アオイ君。

 九十九さんにする挨拶、もう考えてる?」

 

「・・・何故、俺がそんな事をするんだ?

 和平大使に対する挨拶ならば、オオサキ提督やカグヤさんがするだろう?」

 

「だって、九十九さんはアオイ君の義理の兄になるんだよ?」

 

「・・・いい加減、その話題から離れてくれ・・・頼むから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、多数の悲喜劇を起こしつつ。

 遂に私達は白鳥さんと合流する事が出来ました。

 ここまでは前回と同じ様に大きな困難も無く・・・

 ナデシコに格納される木連の連絡船を、メインクルーが総出で迎えました。

 

   ゴウゥゥゥゥゥンンン・・・

 

「アキト様、私精一杯お仕事を頑張って来ますね。」

 

 そう言いながら、アキトさんの両手をそっと握るカグヤさん。

 次の瞬間―――格納庫内に怒気が走り抜けました。

 

「あ、ああ、頑張ってね、カグヤさん。」

 

 周囲に満ちる気配の変化を気にしつつも。

 軽く握られた手を振り解くわけにもいかず、硬直したままのアキトさん。

 

「もう、私の事はカグヤと呼んで下さいと、あれほど頼んでいますのに。

 だいたい、ユリカさんだけ呼び捨てにするなんてズルイです。」

 

「あ、あははははははははは・・・」

 

 と、一人で盛り上がってらっしゃるカグヤさんに。

 乾いた笑いで返事をするアキトさんでした。

 

 そして、クルー全員が視線でオオサキ提督とアカツキさんを睨みつけます。

 この騒動の元凶は、カグヤさんの乗船を断りきれなかったこのお二人の責任なのですから。

 確かにお二人の立場と現状の打破の為に、仕方が無い処置だった事は認めます。

 ですが、それでどうしてカグヤさんが和平の使者に選ばれるのですか?

 ちゃんと選ばれる使者の確認をしてから、物事を運んで欲しかったですね。

 

 

 

 

「・・・オオサキ提督、皆の視線が痛いんだけど。」

 

「仕方が無いだろうが。

 断ったところで、次には力押しでくるのは分かっているんだからな。」

 

「結局、テンカワ君に対する嫉妬のとばっちりなんだよね〜」

 

「ああ、そうだな。」

 

「「本当、いい加減にして欲しいな・・・」」

 

 

 

 

 ・・・等といった、馬鹿騒ぎをしながら。

 私達は整列をして、白鳥さんが連絡船から降りてこられるのを待っていました。

 

   ウィィィィン―――ガシャン

 

 タラップが降り、連絡船の扉が開きます。

 その時、隣のアキトさんの表情が何故か急速に青くなっていきます。

 

「ま、まさか・・・いや!! この気配は!!」

 

 タッタッタッ・・・

 

 続いて聞えてくる駆け足の音に、ナオさんの顔が引き攣ります。

 

「お、おい・・・この足音は―――冗談だろう!!」

 

 次の瞬間―――二人して同じタイミングで後ろを向き、素晴らしい速度で格納庫の出口に向かいます。

 

 後に並んでいた整備班の人達の隙間を、縫うように走り抜けるアキトさん。

 その姿は一瞬にして人の壁を通り抜け、次の瞬間には格納庫の出口の前におられました。

 そして、アキトさんのダッシュに及ばないものの、素晴らしい速度で加速をするナオさん。

 

 ですが、全ては遅かったみたいです・・・

 

「アー君、見つけた!!」

 

「ナオ様!! お会いしとう御座いました!!」

 

 最短距離―――つまり、整備班の上空を舞う二つの影・・・

 

 紅く長い髪を持つ少女は二回。

 

   タン!!    トン!!

 

 栗色の髪を団子状にして結んだ少女は五回。

 

    タン!!  タタン!!   タタン!!

 

 それぞれの回数を整備班の人達の頭に着地をして、次の目標に向かって跳び。

 遂には最短コースで格納庫の入り口に辿り付いたのでした。

 

 そして次の瞬間には、格納庫を脱出していたアキトさんとナオさんに続くように・・・

 格納庫からその姿を消したのです。

 

「百華ちゃん、ファイト!!」

 

「枝織様も頑張って下さいね!!」

 

 

 

 

 

「・・・・」

 

 私達はその光景を、呆然とした表情で見送る事しか出来ませんでした・・・

 ちなみに、紅い髪の少女は黄色のフレアスカートで空を跳んでいるように見えました。

 踏み台にされた整備班の顔が緩んでいるのが・・・その証拠でしょう。

 あ、栗毛の彼女の方はベージュ色のズボンを履いてましたね。

 多分、艦内を走り回る事を予想していたのでしょう。

 

 

 

 

「あ、あの〜、和平使者の白鳥少佐。

 ただ今到着しました。

 聞いてます?

 ・・・聞いてませんね、はい。」

 

 

 

 

 

 私達が白鳥さんの拗ねる姿に気が付いたのは、それから5分後の事でした。

 

 

 

 

 

 そして始まる女の戦い

 

 私達は冷たい格納庫の床に座るのは御免ですので、ウリバタケさんに頼んでマットを敷いてもらいました。

 女性にとって寒さは大敵ですからね。

 そして用意して貰ったマットに座り込み、適度な弾力を楽しみながら。

 お二人の戦いを、ポテトチップスとジュースを片手に観戦をしています。

 残念ですが、アキトさんと枝織さんの所在は掴めませんでした。 

 お互いに全力をもって『かくれんぼ』をしているのでしょう。

 ナオさん達ならば、予測のしようもあるのですが・・・

 

 それにあの二組が高速で艦内を移動されているために、下手に廊下に出ると危険なのです。

 既にオヤツを取りに行って貰ったハーリー君が、三回程轢かれてますし。

 

 ・・・得意のハーリーダッシュも、相手が悪かったと言う事ですか。

 

 

 

「ハルカさん・・・決着を着けましょうか。」

 

「あら、野蛮な事はしないわよ?

 私はか弱い女性なんだし。」

 

「あ、あうあうあうあうあうあうあうあう・・・」

 

 

 

 千沙さんの底冷えする言葉に、ミナトさんが柔らかい笑みを浮かべて迎撃します。

 流石ですね、あの殺気に対して一歩も退きません。 

 ・・・二人の間で動揺している白鳥さんが、一番哀れに見えますね。

 前回の時にはもう少し立派な人だと思っていましたが。

 

「その正体は、コレですか・・・」

 

「何か言った? ルリちゃん?」

 

「いえ、別に。

 あ、動きがありましたよ艦長。」

 

「え、本当!!」

 

 私の独り言に反応をしたユリカさんに、目の前の戦況を話して注意を逸らします。

 相変わらず、変なところで鋭いんですから―――

 ちなみに、ラピスが一番面白そうに最前席で観戦をしています。

 その他のクルー達(優華部隊含む)もやはり談笑をしながら、それぞれの話題を交わしていました。

 

 結局、京子さんと三姫さん以外の方は全員来られたそうです。

 ・・・まあ、枝織さんが現れた時点で予想は出来ましたが。

 

 

 

「この際、はっきりと言っておきます。

 もう九十九さんには係わらないで下さい。」

 

「あら? 私が誰と仲良くしようと私の勝手でしょう?

 それに、貴方もウチのアカツキ君と結構良い雰囲気だったじゃない。」

 

「何ィィィィィィ!!」

 

 

 

 大声でそう叫んだのは白鳥さんではなく、ウリバタケさんでした。

 まあ、反応するとは思っていましたけど。

 

「おい、アカツキ・・・ちょっと面(つら)かせや。」

 

「な、何の事だいウリバタケ君!!

 僕は誓って疚しい事は―――うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「お前達!! 取り合えず例の部屋に連れて行け!!」

 

「うっす!!」

 

 アカツキさん退場―――

 

 

 

「あ、あれはお互いに戦闘リーダーとして意見の『好感』を・・・」

 

「・・・『好感』の意味合いが違うように聞えるんだけど。」

 

「はうっ!!」

 

 

 

「・・・何だか会話から置いていかれてるんですよ。」

 

「こんな場合、男の立場なんてそんなもんさ。」

 

「そうです、こんな時は飲むに限りますな。」

 

「うむ、我が神もそう言っている。」

 

 

 ヒートアップする二人の美女の戦いをよそに。

 サメザメと泣く九十九さんにオオサキ提督が酌をし、プロスさんが隣で慰めています。

 ・・・ゴートさんは何故か明後日の方向を向いて頷いてられますが。

 誰かそこにおられるのですか?

 

 

 

 しかし、意外な一言により事態はさらに面白く―――いえ、混乱を深めました。

 

「お兄ちゃん!!」

 

「ユキナ!! 無事だったか!!」

 

 感動的な兄妹の再会―――

 

 しかし、そんな感動的な場面を容認するほど、ウリバタケさんは甘い人ではありませんでした。

 擦れている、とも言いますが。

 多分、近頃もてだした例の人が許せないのでしょう。

 

「おう、ユキナちゃん。

 良かったな、無事兄さんと再会できてよ。

 で、お兄さんに彼氏の事を報告しなくていいのかい?」

 

 

    ピキィィィィィィンンン・・・

 

 

 その瞬間―――確かに白鳥さんの動きが止まりました。

 そして、白鳥さんを中心にして冷たいナニかが吹き荒びます・・・

 

「ユキナ・・・彼氏って誰だ?」

 

 顔は笑っていても、その言葉に含まれる敵意が白鳥さんの内心を如実に物語っていました。

 

「えっとね〜」

 

 お兄さんの変化に、気付いていないのか?

 それとも無理に無視をしているのか・・・

 ユキナさんはニコニコと笑いながら、ある一点を指差します。

 

 そこには―――

 

「え・・・俺?」

 

 呆気に取られた顔のジュンさんがいました。

 

 

 

 

 

 30分後―――

 

 私達の目の前には、白い特設リングが設置されていました。

 ちゃんとコーナーポストと赤いロープもついてます。

 

 もちろん、先頭に立って整備班を指示したのはウリバタケ整備班長です。

 ・・・何処にしまっていたんでしょうね? こんな巨大リング一式を?

 

「赤コ〜ナ〜!! チャンピオン!! 白鳥 九十九ォォォォォォォ!!」

 

 白いガウンと白いトランクスを着た白鳥さんが、厳しい表情でコーナーポストに向かいます。

 ・・・その衣装、やっぱりウリバタケさんからお借りしたんでしょうね。

 

 それと司会をしているのは、何故かイツキさん。

 どうやら、こういうシチュエーションが大好きなようです。

 私、この人だけは理解出来ません・・・ええ、本当に・・・

 

   ワァァァァァァァァァ!!!

 

 周囲の歓声に応えて、高々とグローブを嵌めた右手を差し上げる白鳥さん。

 なんだか思いっきり殺る気満々ですね。

 

「本人曰く、『兄として!! ユキナの婿に相応しい漢か俺が見極めてやる!!』だそうです!!

 う〜ん、燃えていますね〜

 ですが本当に彼には和平使者としての自覚はあるのでしょか?

 ナデシコに到着早々修羅場を発生させ、その上でナデシコの副官に喧嘩を売る!!

 でも良いんです!! 私達はそんな貴方が大好きだ!!」

 

 オオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 ・・・どうも、怖いくらいにノってますね皆さん。

 特にイツキさん。

 

「そしてチャレンジャ〜

 青コ〜ナ〜!! アオイ ジュンンンンンン!!」

 

  ブゥブゥブゥゥゥ!!

 

 そして青いガウンと青いトランクスを着たジュンさんに、全員が揃って野次を飛ばします。

 その姿はまるで、敵地でチャンピオンに挑む挑戦者を彷彿とさせます。

 

 ここ、一応ジュンさんのホームグラウンドなんですよね?

 いえ、ちょっと自分の居場所を疑いたくなってしまったので・・・

 

「え〜、挑戦者からのコメントは一言だけでした『だから、どうして俺が・・・?』

 はいはい、自分の立場を認識していない証拠ですね?

 でも、そんな貴方も今はチャレンジャー!!

 正々堂々と戦って、ユキナちゃんを勝ち取りなさい!!」

 

 

  ワァァァァァァァァ!!!!

 

 

 歓声に背中を押されるように、お互いがリングに上がります。

 ・・・世界が違いますね、どうも。

 ミナトさんと千沙さんも、あまりの事態の急変に付いていけず今は休戦常態です。

 まあ、お二人して白鳥さんのコーナーに立ってられますが。

 

 ちなみに、ジュンさんのコーナーにはオオサキ提督、プロスさん、ゴートさんがおられます。

 何時もは中立を保っておられる三人なのに、珍しいですね?

 勿論、ユキナさんもおられますけど。

 

 ・・・それを見て、白鳥さんが静かに闘志を燃やしてられます。

 

 

 

「ルールをもう一度説明しておきますよ?

 金的、噛み付き、目潰し、それと凶器使用以外の攻撃は全てOKです。

 蹴りだろうと膝だろうとサブミッションだろうと『昂氣』だろうと、御自由にどうぞ。

 またラウンド内に3回ダウンをすると、KO負けとなります。

 二人共、異論は有りませんね?」

 

「無い!!」

 

「有る!! どうして俺がこんな事を―――」

 

「では、第1ラウンド―――ファィ!!」

 

 

「俺の話を聞け〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 

 カァ―――ン!!

 

 

 あ、なし崩し的に始まっちゃいました。

 白鳥さん対ジュンさんの決闘が・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十四話 その2へ続く

 

 

 

 

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