< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

「おうおう、ゴートさんよ!!

 あんた、隠し子がいたんだってな?」

 

 ヘラヘラと、何故か嬉しそうに笑いながらウリバタケ班長が俺に挨拶に来た。

 

「・・・」

 

「きゃ〜、全然パパとは似てないわね?

 きっと君の将来は安泰だぞ」

 

 何故か白鳥 ミナトまでが、ネルガルの本社に現れた。

 スーツ姿ではなく私服という事は・・・学校はどうしたんだ?

 

「・・・」

 

「生後一年と半年?

 ・・・ゴートさん、貴方戦争中にそんな余裕が良くありましたね」

 

 お前に言われる筋合いは無いぞ、白鳥 九十九

 典型的な戦場恋愛の代名詞が。

 

「ゴートさんと全然似ていませんね?

 やはり、大きくなると・・・似てくるのでしょうか」

 

 揺り篭に眠る赤ん坊を、興味深そうに眺めながらそう呟くホシノ ルリ 

 恐々と眠っている赤ん坊の頬を、人差し指で突いている。

 

 だから俺とその赤ん坊とは血の繋がりは無いんだ。

 ・・・俺と顔形が似るわけがなかろう。

 

 ―――いや、似ていたら逆に恐すぎるぞ。

 

 それより、どうして平日の昼を過ぎたばかりの時間に、お前達がこんな所に居る?

 俺は視線で前方の四人に疑問を投げ掛けた。

 

「俺は極楽会長に呼ばれた。

 面白いイベントがあると言われてな」

 

 ・・・会長、頼むから仕事をしてくれ。

 最後には本当にミスターにもエリナ女史にも見捨てられるぞ?

 

 ちなみに俺は既に半分諦めている。

 上層部がこんな感じで、我社は大丈夫なのか?

 

「私とルリルリは学校が創立記念日でお休み。

 だから閉じ篭りがちがルリルリを誘ってショッピングに出たのよね。

 で、途中で九十九さんから面白い話があるから、って呼ばれたの」

 

 なるほど、だから私服なわけだな。

 

「と、言う訳です」

 

 ホシノ ルリも動き易い格好でネルガルの本社に来ていた。

 まあ、この二人の事情はそれで納得するとして。

 

 ・・・おい、白鳥 九十九

 

 

 

 何故、この二人を呼んだ?

 というか、誰からこのネタを聞いたんだ?

 

 

 

「いや〜、目出度い事じゃないですか!!

 自分も早く子供が欲しいですね!!」

 

 爽やかに笑いながら、とてつもない嫌がらせをする男だ。

 多分、悪気は無いと思う。

 思うが、一番厄介なタイプの男だ。

 

 ・・・一度コイツの頭の中を見てみたい。

 

 俺は心の底からそう思った。

 今度、ジュンと一緒に闇討ちでもしてやろうか?

 

「「「「で、母親は?」」」」

 

「・・・」

 

 一斉にそう尋ねてきた四人に・・・

 

 勿論、俺は返せる答えを持ち合わせてなかった。

 

 

 

 

 

 

 ・・・視線が痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、まず生後一年と半年・・・

 妊娠期間を考えると、『事』を起こしたのはつまり2年と半年前と考えられるわね?

 皆さんご存知の通り、その時分に私達は最前線の中を渡り歩いていたわ」

 

 ・・・誰がドクターを呼んだんだ?

 

 いや、背後の席で笑っている会長とウリバタケ班長を見れば、犯人など直ぐに断定出来そうだが。

 残念な事に、俺は未だ取調室で椅子に拘束されていた。

 背後の二人を問い詰める事も出来はしない・・・

 

 実は先程の四人との会話も、この取調室で行なわれたものだ。

 

 人権擁護委員会に後で訴えてやる。

 

「はい、質問!!」

 

「どうぞ」

 

 元気良く手を挙げたのは・・・会長だった。

 ドクターから許可を貰い、椅子から立ち上がって質問をする。

 

「確かその時期は逆算すると、2197年の10月から11月になる。

 つまり、容疑者はナデシコ船内で『事』に及んだのかい?」

 

 誰が容疑者だ!!

 

「その点は大丈夫です、プラバシーの侵害にならない程度にオモイカネがクルーの風紀に目を光らしていましたから」

 

 ホシノ ルリの弁護により、俺の疑惑は否定された。

 俺は表情を変えず、内心で深く安堵の溜息を吐いた。

 

「ただし、休暇と称してナデシコを下船していた間の事は分かりません。

 当時の記録を見る限り、容疑者には該当する外出日が2日ほどあります」

 

 ・・・弁護になってないぞ、ホシノ ルリ

 それより、君も俺を容疑者呼ばわりするのか?

 

「だから・・・俺は無罪だと言っているだろうが・・・

 大体、どうして俺の子供だと言う説を皆が信じるんだ?」

 

 殆ど声にならない声で、俺は自己弁護をした。

 

「彼が黙秘をしている以上、状況から真相を推測するしかありませんな。

 まず、ゴートさんのアパートに赤ん坊が居た事。

 そして、今朝方ゴートさんのアパートに私が現場検証に行った所―――」

 

 ・・・勝手に人の部屋に入らないでくれ、ミスター

 俺にはプライバシーを認めてくれないのか?

 それに、何時俺が黙秘をした?

 

「・・・まあ、部屋の内装及び、理解不能な偶像は記憶の片隅に封印するとして」

 

 両手で何かを右から左に移動させるジェスチャーをしながら・・・

 一筋の汗が、ミスターの額に浮かぶ。

 

「やっぱり、あったのね・・・」

 

「そうみたいですね」

 

 白鳥 ミナトとホシノ ルリが小声でそんな話をしている。

 あの神像は、俺の心のイマジネーションをそのまま表現した傑作なのに!!

 何故―――誰も認めてくれんのだ!!

 

「そして、郵便ポストに入っていた一通の手紙によりますと」

 

 次に胸ポケットから一通の手紙を取り出すミスター

 

 手紙?

 ・・・そう言えば、昨日は郵便ポストを覗いてなかったな。

 予想外のアクシデントのお陰で、そんな事を考える暇も無かったのだ。

 

 俺がそんな事を考えている間に、ミスターはその手紙を読み上げた。

 おい、普通他人宛てに届いた手紙を第三者が開封するか?

 

 ・・・世間の一般常識ってどうなってるんだろう?

 と、俺は考え込んでしまった。

 

「『暫しの間、貴方に息子を託します。

  ネルガルでもそれなりの地位に着く貴方なら、きっとこの子を守れると信じて。

  詳しい事情は次の再会の時に―――』

 と、書かれてありますな〜」

 

「明らかに、相手はゴート君の事を知っている。

 しかも、個人的にね。

 ・・・それに、この赤ん坊も『訳有り』ときたもんだ」

 

 会長が真面目な口調になってそう締めくくる。

 

「なるほど、こりゃあ下手に警察に届けられない訳だ」

 

 意外に慣れた手付きで赤ん坊をあやすウリバタケ班長。

 ・・・ああ、一応二児の父親だったな。

 

 

 

 しかし、自分の知らない所で、どうやら大きな動きがあろうようだな・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、この子の面倒は頼むよパパ

 

 ちょっと待て、会長・・・

 

「給料にもちゃんと扶養手当てを追加しておきますね。

 あ、託児所の申請も完了していますから」

 

 別に、今の給料に不満は無いのだがな、ミスター

 いや、そんな手当てはいらないから俺の自由を返せ。

 

「良かったわね、生活に張りが出来て。

 きちんと毎日息子の送り迎えをするのよ?」

 

 これ以上、重荷を乗せないでくれ。

 ・・・いっその事、貴方の息子にすればいいだろうが、エリナ女史。

 

「まあ、相手の信頼はゴートさんに向いてる訳だし」

 

 白鳥 ミナト、君達夫婦の方が適任だと俺は思うが?

 俺に子守りが出来ると本当に思っているのか?

 

「全然、問題はありませんね」

 

 問題、大有りだぞホシノ ルリ

 

「いや〜、流石ですゴートさん!!」

 

 一体何に感激してるんだ、お前は?

 ・・・何時かそれ相応の仕返しはするからな、白鳥 九十九!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、本当にゴートの奴の息子なのかよ、イネスさん?」

 

「まさか、全然血の繋がりはないみたいよ。

 でも、何か裏がありそうね・・・」

 

「きな臭くなってきたな・・・」

 

「・・・ええ、そうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五話に続く

 

 

 

 

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