< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

「僕は反対だ!!」

 

 大声で反対を主張したのは、所々に包帯をしたアカツキさんでした。

 今はナデシコで決まっている、赤いパイロットスーツを着てます。

 

「意外な人が反対をしますね、ユリカさん」

 

「そうだね〜、ルリちゃん」

 

 ルリちゃんの言葉に、無意識のうちに頷きながら、私もその事を意外に思った。

 この人だったら、真っ先に喜ぶと思ったけど・・・

 だって、ナオさんの事を前例にして、きっと色々と無茶をするんだろ〜な、と。

 

「おいおい会長さんよ、何で反対なんだ?」

 

 ウリバタケさんがそう尋ねると、アカツキさんは少し考え込んだ後、口を開いた。

 

「それは、ほら、重婚なんて・・・人として間違ってるじゃないか!!」

 

「・・・テメーが言うな」

 

 説得力ゼロの言葉に、ウリバタケさんの白い目が突き刺さる。

 ついでに、他のクルーの視線も突き刺さる。

 色々と噂の絶えない(一部真実が混じってるらしい)ネルガル会長の言葉だけに、誰もフォローをしない。

 この前も、何処かの女優の卵とトラブルがあった、とエリナさんの愚痴を聞いたばかりだ。

 それに国によっては一夫多妻制をしいている所もあるのに。

 

 その時、泳いだアカツキさんの視線が見ている人物を知り、私はアカツキさんの真の意図に気が付いた。

 

「ああ、つまりそういう事ですかぁ」

 

「いや、特に深い意図は無いんだってば!!」

 

 納得したと頷きながら私がそう言うと、アカツキさんは引き攣った顔で騒ぎ出す。

 しかし、私の視線の先を見て、ルリちゃんも気が付いたらしく、同じように小さく頷くと・・・

 

「つまり、千沙さんが、白鳥さんと一緒になるのが嫌なんですね」

 

「うっ・・・」

 

 ストレートなルリちゃんの一言に、胸を押さえて仰け反るアカツキさん。

 それを見たクルー達が、揃って苦笑をしながらアカツキさんを見た。

 確かに三人の合意の元で、この結婚が成り立つのなら、九十九さんと各務さんの結婚も有り得る。

 その事に危惧を抱いたアカツキさんが、それを阻止しようとするのは、ある意味当然かもしれない。

 

「でも、アカツキさんには百華さんの気持ちが、良く分かると思ったのですが」

 

 ちょっと笑っていたルリちゃんが、次の瞬間には真面目な声でそう尋ねる。

 

「まぁね・・・僕も妾腹の産まれだし、世間の風当たりとかは、身をもって知ってるさ。

 だけどさ、その事は別として―――ん、何??????」

 

 何時の間にかアカツキさんの隣にきていた各務さんが、軽くその肩を叩き。

 喋る事を中断し、そちらを向いたアカツキさんの口を塞ぎます・・・背伸びをしながら、自分の唇で。

 

「わぁ・・・大胆」

 

 ヒカルちゃんの一言が、私達の心情を物語っていた。

 固まってるクルー達の前で、暫くすると各務さんが唇を離し、真っ赤になった顔で話し出しました。

 

「・・・私にも女の意地があります。

 九十九さんは、ミナトさんを選んだ・・・それが全てです。

 先程、ルリさんが言った通りの条件、三人の合意は絶対に成り立ちません。

 それに、私を助けるために命を投げ出してくれたのは、アカツキさんでしょう?」

 

 ガクガク、と無言のまま凄い勢いで首を上下に振るアカツキさん。

 突然の事態に頭が付いてこなかったみたいだけど、段々理解が出来てきたのか、見事なまでに顔が崩れてく。

 その隣では真っ赤な顔をした各務さんが、クルーの視線に気が付いたのか、アカツキさんの背後に隠れていた。

 

「あの各務君が・・・変われば変わるもんだ。

 ん、待てよ、と言うことは俺にもチャンスが」

 

「それじゃあ、死ぬ気でチャレンジしてくれ。

 優華部隊は全員揃って、三姫の手助けをするぞ。

 愛娘の三玖と、愛妻の三姫の今後は心配無用だ」

 

 何を閃いたのか、楽しそうに呟いていたサブロウタさんの動きが止まる。

 その後ろを歩いていた万葉ちゃんが、多分何かを言ったんだと思う。

 

 ・・・いや、何となくサブロウタさんの考えていた事は、想像できるけど。

 

「は、ははははははははははは!!

 OK、OK、僕もその案に大賛成だよルリ君!!

 もう、全力でバックアップしちゃうもんね!!」

 

「でも、浮気をする時は覚悟を決めて下さいね。

 アカツキさんにまで裏切られたら、私、もう何も信じられなくなりますから」

 

 ・・・こちらも大声で賛同を表明した後、背後からの呟きに停止するアカツキさん。

 その後で、必死の表情で背中にいた各務さんに話し掛けてた。

 まあ、そうそうあんな特殊な状態は築けないという事だね。

 ウリバタケさんも、複雑そうな表情でアカツキさんやサブロウタさんを見てるし。

 

「さて、と。

 じゃ、ヤマダ君〜、ちょっとあっちに行こうかな〜」

 

「は? 何を言ってるんだヒカル?」

 

「そうそう、こちらの話も早く纏めないとな」

 

「へ? 万葉、お前まで何を?」

 

 ズルズルと、不思議そうな顔をしたままのヤマダさんの襟首を掴み、食堂から連れ出していく二人。

 状況が理解できていないのか(きっと出来てないと思う)、無抵抗なまま連行されるヤマダさん。

 今までの話の流れを見ていて、何も気が付かなかったのかな?

 

 

 

 

 

 

 ・・・気が付かなかったんだろうなぁ、ヤマダさんだし。

 

 

 

 

 

「あ、万葉さん。

 とりあえず、切り札はヤマダさんの『改名』でいけると思います」

 

「ああ、有り難う。

 お陰で大分説得が簡単になるよ!!」

 

 ルリちゃんの応援を受けて、嬉しそうに微笑みながら万葉さんは手を振ってきた。

 女性陣の声援と、男性陣の怨嗟の声を受けながら、『特殊な状態』の三人組退場。

 

「なあ、どうして引きずられてるんだ、俺?

 というより、何か怖いぞ・・・二人とも」

 

「「大丈夫、将来の話をするだけだから」」

 

「将来ぃ?」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・まだ気が付いてないんだ、ヤマダさん。

 食堂のドアが閉まる寸前に聞こえた会話に、ヒカルちゃんと万葉ちゃんの苦労を思う私だった。

 

 

 


 

 

 

「まあ、これで少しでも泣く人が減るのなら・・・多少の無茶もします」

 

「・・・ルリちゃん」

 

 表示したままだったウィンドウを消しながら、ルリちゃんはそう呟く。

 私の声が聞こえたのか、ルリちゃんは微笑みながら話を続けた。

 

「時々、凄く不安になるんですよ。

 一度体験してきたあの時間に、追いつけば追いつくほど。

 あの時は、ユリカさんとアキトさんは居なくて、私の仲間もハーリー君とサブロウタさんだけでした。

 今は、こんなに頼りになるクルーが居るのに・・・不思議ですね」

 

「もう、以前の記憶とはまるで違う現状だもんね。

 ルリちゃんの不思議な体験も、ある意味・・・もう直ぐ終わるんだね」

 

 ルリちゃん達が過去へと跳んだ、五年間という時間がもう少しで埋まる。

 その信じられない事件が、私をこの場に存在させ・・・アキトを連れ去った。

 不思議な不思議な運命のリングは、何処までアキトや私達を翻弄させるのだろうか?

 

「・・・そう、ですね。

 半年が経てば、また16歳になるんですよね、私は」

 

 複雑な表情で、ルリちゃんは笑っていた。

 ルリちゃんと同じように、時間を遡ったラピスちゃん達は、どう考えているんだろう?

 ハーリー君も色々と考えているんだろうし、サブロウタさんもそれは同じだと思う。

 自分自身で経験した訳じゃないけど、きっと複雑な心境なんだろうな。

 身体は当時の姿に『戻り』つつあって、精神だけが5年の月日を余分に重ねている。

 聞いただけの当時の状況は、決してルリちゃんにとって幸せとは思えなかった。

 ピースランドの御両親との関係も、殆ど断絶状態だったらしいし。

 

 ルリちゃん達の記憶が、過去に追いついた時・・・何かが起きるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

「―――よし、頼むぞ万葉」

 

 ウリバタケさんから手土産に渡されたリュックサックを背負い、北斗さんが万葉ちゃんに話しかける。

 服装は動き易さを優先したのか、Tシャツにパーカー、それにジーパンだった。

 ・・・その服装と身に着けた『四陣』の輝き、そして背負ったリュックを見ただけでは、普通の女性にしか見えない。

 

 北斗さんの呼び声を聞き、ジャンプフィールド発生装置の使用方法を聞いていた万葉さんが、頷いて返事をする。

 

「はい、北斗様」

 

 北斗さんの後ろでは、零夜ちゃんがリュックサックを背負って控えていた。

 お揃いを意識しているのか、零夜ちゃんも北斗さんと同じような格好だった。

 その二人の直ぐ前に、赤いパイロットスーツ姿の万葉ちゃんが近寄る。

 

 ―――ウリバタケさんに先導され、床に書かれた白い円の中に、三人は入る。

 

 改良が進んでいるジャンプフィールド発生装置による、フィールドの発生範囲がその白い円内。

 アキトが使っていた頃は、何とか二人が限界だったけど、今では5人までなら運べる。

 もっとも、使いこなせるA級ジャンパー自体が、限られているけどね。

 

「では、直ぐに帰ってきますので」

 

「了解でっす。

 気を付けてね、万葉ちゃん」

 

 万葉ちゃんは、北斗さん達を送った後、直ぐに帰ってくる予定だった。

 木連が既に敵地と化した以上、下手に人数を増やすより、北斗さんと零夜ちゃんだけの方が動き易いからだ。

 北斗さんに与えられた猶予は3日間・・・

 3日後に、ジャンプをして送り届けた場所に、万葉さんと後二人のA級ジャンパーが迎えに行く。

 そのタイムリミットまでに、海神さんや舞歌さん達を救わなければいけない。

 他にも人質になっている人は居るだろうけど、救助にも限界がある。

 少なくとも、今後の動きに支障とならない人物を救出する事が、今回の最大のポイントだ。

 残された人の事を思うと非情かもしれないけれど、出来る事と出来ない事は確かに存在する。

 連続ジャンプは、私達A級ジャンパーの精神が持たないだろうし、敵にも発見されると思われるからだ。

 何よりも、この作戦は北斗さんに一人に、多大な負担を与えている。

 

 ・・・せめて、ナオさんが完全な状態だったら、もっと色々な手は打てたのに。

 喜びによるクルーの洗礼(?)を別にして、『ホスセリ』で受けた傷は、まだ完治に至っていない。

 私達には、北斗さんの活躍を地球で祈る事しか出来ないのだった。

 

 肝心の北斗さんは見送りに来た私達を軽く一瞥し・・・苦笑する。

 

「随分と見送りが増えたもんだ。

 昔は出撃時は、零夜一人位だったんだがな」

 

「北ちゃん、あの頃とは立場も目的も全然違うよ」

 

「・・・舞歌を含むとはいえ、俺が人助けとはな」

 

 背後から注意する零夜さんの言葉に、今度は自嘲気味に笑う北斗さん。

 聞かされてきた、北斗さんの人生を思い浮かべれば、確かに異質と言っていい任務かもしれない。

 ふと・・・闇に生きてきたこの人にとって、今の人生はどうなのかな、と思った。

 思い返してみても、北斗さんは『闘い』以外、何も望んでいなかった。

 枝織ちゃんも、自分の好奇心を刺激するモノに素直だけど、執着をする事はまずない。

 

 ―――唯一、この二人が求め執着したモノは、アキトだけだった。

 

「まあ、あの海神の爺さんも、それほど嫌いじゃないしな。

 出来る限り、助け出してみせるさ」

 

「よろしくお願いします」

 

 視線で万葉ちゃんに合図を送りながら、私達にそう告げる北斗さん。

 顔に浮かんでいる不適な笑みが、今は心強く思えた。

 

「では―――跳びます」

 

 そして、北斗さんの合図を受けた万葉ちゃんは、そのままジャンプへと突入したのだった。

 私達は、三人の姿が消え去った後も、暫くの間その場を動かなかった。

 

 

 

 

 

「・・・こちらも出来る限りの事をしないとね。

 ルリちゃん、直ぐに連合軍の本部に向かうよ。

 あ、お父様に連絡を入れておいて」

 

「はい、分かりました」

 

 見送りはここまで・・・こちらも、止まったままでは駄目だ。

 相手の動きが本格的になる前に、こちらも迎撃の準備を整えないとね。

 木連の事は、全て北斗さんに任せます!!

 

「アカツキさん、統合軍と連合軍の橋渡し、大変ですけどお願いしますよ」

 

「はははは、今の僕に不可能は無い!!」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・だからって、性格まで変えなくてもいいです。

 

「俺は、俺は・・・だが、ダイゴウジ・ガイを名乗れるなら。

 いや、しかし・・・親父達と兄貴に、なんて説明すれば・・・」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・こちらは、別の意味で悩んるし。

 

 

 

 

 

 ―――そんな風に色々な思惑を乗せたまま、ナデシコBは動きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その4に続く

 

後書き

今回の話は、前編、中編、後編で考えています。

まあ、更新の間隔が結構空きそうなので、一括ではなく、順次にアップしようかと(苦笑)

こんな作品ですが、宜しければ今後もお付き合い下さい。

ではでは。

 

 

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