<剣士がささげる花束は・・・> 第一話 参戦 1.それぞれの再会 ある宿屋の、食堂での会話から始まる物語・・・ 「ねえガウリイ、次ぎの目的地の事なんだけど。 ゼルが、面白い話しを持って来てるのよ。」 食後のお茶を飲んでいる俺に、急に話しかけるリナ。 「ふ〜ん? どんな話しなんだ? それ以前に、次ぎの目的地って何処だっけ?」 と、聞き返す。 確か、次ぎの目的地なんて俺は、聞いてない・・・はずだ。 「あっ!! ごめ〜ん!! ガウリイに言っても、無駄だと思って言わなかったんだ。」 おいおい・・・まあ聞くだけで、無駄になるかもな。 どちらにしろ、俺の行き先はリナの隣だけだ。 「二日後に着く予定の街では、今は剣戟祭の開催予定地なんだ。」 と、昨日偶然にも再会したぜルが、俺に説明する。 何だと!! 剣戟祭!! まさかあの・・・ 自分の記憶の片隅から、忘れられない人々が浮かび上がってくる。 「それでね、ガウリイ!! その剣戟祭の優勝商品が、かなりの価値の魔法剣と、貴重な魔術書の謁見許可なのよ!!」 期待の眼差しで、俺を見上げるリナ。 「そこで、だ。 俺はこんな体で、出場する事ができん。 だが、魔術書には興味があるのでな、旦那出てくれないか?」 そうか、偶然じゃなく俺達を待っていたのかゼル。 ただ、これだけは確かめておかなければ・・・ 「・・・もしかして、その大会は『トライム剣戟祭』というのか?」 俺の顔を驚きの目で見上げる、リナとゼル。 「何でガウリイが、この剣戟祭の名前を知っているの?」 「驚いたな、ここ最近はそんなに有名な大会では、ないのだがな。」 驚愕の表情のまま、そう言葉を続ける。 なんてことだ・・・ 「・・・俺は参加しない。 それよりリナ、ここから早く立ち去った方がいい。」 何故、気が付かなかった!! ここ一帯の景色に!! あれほどの回数、駆け抜けた景色じゃないか。 「どおしてよ、ガウリイ!! こんな、おいしいチャンス!! 不意にする事ないじゃない!!」 「・・・まあ、無理にとは言わんがな。」 二人して、理由を聞きたそうな顔をしている。 一応、表の事情だけでも説明するか。 「まず、その大会には参加資格として、二つ名を持つほどの剣士・戦士じゃなければ駄目だ。」 一つ目の理由を挙げる。 「ええ〜!! ゼル、本当なの?」 「いや、そう言えば剣戟祭があるというだけで。 参加資格までは聞いていなかったな。」 汗ジトで、リナに答えるぜル。 「まだあるぞ、次ぎにその参加者の身元保証人、兼、後援者が必要だ。 しかも、その保証人・後援者は貴族階級と決まっている。」 そう、この制度のために俺は・・・・ 「なによそれ〜!! 思いっきり貴族連中の、お遊びじゃない!!」 「そんな内容だったのか・・・俺が迂闊だったな。」 今からでは、参加が無理と理解したのか。 お互い暗い顔で、何かを考えている。 「う〜ん、そういう事なら仕方ないわね。 明日には、違う街に出発しましょう。」 リナが気持ちを切り替えて、俺にそう話す。 ああ、そのほうがいい・・・ 「では、俺も少しだけ付き合うか・・・」 ゼルも、もう次ぎの街の事を考えている。 そう、これでいいんだ・・・これで。 突然、隣のテーブルにいた男が声をかけてくる。 「・・・又、逃げるのかね? あの時の様に。」 こっこの声は!! まさか!! 驚いて振りかえる。 俺の前には、煙草をふかした一人の男がいた。 2.その二つ名は 「久しぶりだな、『ソードマスター』ガウリイ。」 突然、ガウリイに黒髪黒目の若い男の人が、声をかけてきた。 何者だ? この兄ちゃんは。 「・・・カール!! 何故お前がここに・・・」 おや!! ガウリイがこの人の名前を知っているとは。 珍しい事もあるもんだ。 普段は、昨日会った人の名前まで、忘れるくせに。 「俺が、ここにいちゃおかしいか?」 何故か、揶揄するような口調でガウリイに話しかける。 「それよりガウリイ・・・本当に出ないつもりなのか?」 急に真剣な顔になって、ガウリイを問い詰める。 「・・・俺にとってはもう、過去のことだ。 そうだろう? 今更、俺に何が出来る?」 カールさんに、自嘲気味な笑いで答えるガウリイ。 一体・・・この二人の間には、何があったの? 「出来る事はあるさ、過去を清算してもらう。 彼等と、ソアラと、君の過去をな・・・」 ソアラ(女性の名前?よね。)の名前に、過敏に反応するガウリイ。 「彼女は、俺を許しはしない・・・ ならば、俺は彼女の前に出るべきではない。」 苦しそうに答えるガウリイ。 「いいや、皆の時間は止まったままだ!! 止めたのが君ならば、動かすのも君だ!! 逃げるんじゃない!! 今逃げれば、俺は君の友人をやめ、君を・・・殺す!!」 そこには、深い友情と悲しいまでの決意があった。 この二人の会話は、一つの戦いだった。 「一ついいか、その『ソードマスター』というのは何だ?」 この場の緊張を無視、あるいは和ませようとしてか。 ゼルが話しかける。 目でガウリイに問いかける、カールさん。 ガウリイは目を閉じ・・・何かを必死で考えている。 「いいでしょう、お教え致します。 まず、『ソードマスター』というのは、このガウリイの二つ名です。」 ガウリイに、二つ名が!! でも、これほどの腕の持ち主だし、不思議ではないかも。 「そして、その『ソードマスター』は6年前の剣戟祭で、圧倒的な強さで優勝した男です。 いや、まだ少年と言っていいでしょう。 なにしろ、当時『ソードマスター』は17才でしたから。 そして、この領地の領主に認められ・・・」 「やめろ、カール・・・決心はついた。 俺の過去を清算しに・・・行こう、トライムへ。」 その瞳に力を込めて、カールさんを見る。 「やっと決心がついたかい。 では、表に馬車を用意している、それで移動しよう。 開幕式には間に合わずとも、抽選会には間に合うだろう。」 そう言いながら、歩き出す。 「わかった・・・お前にまかせる。 相変わらずの、手回しのよさだな。 でも、どうして俺がここにいるのが、わかったんだ?」 不思議そうに尋ねるガウリイに、カールさんが答える。 「・・・ジンが、君を見かけたと報告してきたんだ。 これが、最後のチャンスかもしれないと、息巻いてな・・」 「そうか、ジンがか・・・あいつにも迷惑を、かけつづけているな俺は。」 「そう思うんだったら。 ジンにも一言、謝っておけ。」 「ああ、そうするさ・・・」 などと、二人だけの世界に入る・・・ 「ちょっと待ったー!!」 あたしの言葉に、驚いて振りかえる二人。 「なんだか、あたしとゼルの存在を忘れていない? きちっとした、説明が欲しいわね!!」 あたしの言葉に、顔を伏せるガウリイ・・・そんなに言いにくい事なのか? 「・・・どうする、連れていくのか? それとも、ここで事情を説明して、待っていてもらうか?」 そう、ガウリイに問うカールさんに。 「いや・・・待っていてもらうのは無理だ。 いざとなったら、軍隊相手でもついて来るだろう。 今は・・・連れていくだけ、連れていく。」 横を向いたまま、カールさんにそう答えるガウリイ。 うーん、何だかガウリイにそう言われるのは、腹ただしいが・・・ たまには許そう!!(あたしって大人!!) それに、今回の事はガウリイの過去を知る、いい機会になりそう!! 言われたとおり、軍隊相手でもついていってやる!! ゼルもその事に興味があるのか。 黙って賛成の意思を、首を振ってあたしに伝える。 「あっ!! でも、ガウリイに二つ名があっても、身元保証人はどうするの?」 そう疑問を、投げかける。 「ああ、大丈夫だカールがやってくれるさ。」 軽く答えるガウリイ。 「えっ!! じゃあカールさんて貴族なんですか!!」 「ええ、一応トライムの街の、領主をやっています。」 なにーーーーー!! 思わず驚愕の表情をする、あたしとゼル。 こんな宿屋にいるから、下級貴族位に思ってたけど・・・ 領主クラスだとすると。 何らかの形で、この国の王家に係わる身!! 大貴族じゃないか〜 そんな人が迎えに来るなんて・・・ガウリイあなたの過去って・・・ その時ガウリイが、一瞬あたしを見つめ・・・呟く。 「・・・後悔するなよ、リナ・・・」 何を後悔するっていうの・・・ガウリイ。 3.ライバル達 まったく・・・ガウリイには驚かされるな。 街につけば、街中がガウリイコールとは。 お陰で、リナの奴が不機嫌そうだったな。 ガウリイが女性に、愛想笑いをしていたのが、気にいらなかったのだろう。 まったく、進歩のない二人だ。 お似合いの二人、とでも言うべきかな? しかし、あのカールとか言う奴。 始めからガウリイの、参加登録をしていたとは・・・ 恐ろしく頭が回る奴だな。 それとも絶対に、ガウリイを連れて来る自信があったのか。 ・・・まあいい、明日の対戦の抽選会が楽しみだ。 今回は傍観役に、徹しさせてもらおうか。 次の日、朝からガウリイの姿が見えなかった。 が、迎えに来たカールは、何も聞かず俺とリナを馬車に乗せて、抽選会場にむかった。 「どこにったのよ、あのクラゲは!! まったく、本人じゃないと抽選クジは引けないのに!!」 リナが心配なのを誤魔化そうと、怒ってみせる。 「ガウリイは来ますよ。 彼は今、ある場所を訪れているはずです・・・」 街はずれの丘を見ながら、カールが呟く。 「あそこに、ガウリイは行ってるの? なら、あたしが迎えに・・・」 突然!! カールが叫ぶ!! 「駄目です!! あそこを訪れていいのは、限られた人だけです!! もし、行かれるとしたら、ガウリイが同行している時だけです!!」 突然の大声に、驚きながらも頷くリナ。 そして、気まずい空気の中、馬車は抽選会場に到着した。 抽選会場の中は、異常な熱気に包まれていた。 「そういえば、この大会ってここ最近あまり、盛況じゃないって・・・」 リナが俺に聞いて来る。 「ああ、俺はそう聞いたけどな。」 「それは、ガウリイがいなくなったからですよ。」 領主の正装に着替えた、カールが答える。 「彼は、いわゆる戦場の華ですからね。 こんな闘技大会でも、華である事に替わりはありません。」 戦場の華? どういう意味だ。 リナも頭に、ハテナマークを付けている。 「それに、ガウリイの参戦で。 4人の超一流の戦士が、参戦を申し込みましたからね。」 4人の超一流の戦士だと。 そう思った瞬間、正面のドアから剣士達が入場してきた。 なるほど、明かに桁違いの力量を持つと思われる、4人の剣士がいた。 「それでは、今から記念すべき第50回、トライム剣戟祭の抽選会を始めます!!」 そう司会が宣言した時。 例の4人の内の一人が、司会に突然声をかける。 「おい!! 一人足りないんじゃないのか? それとも、あの話しはデマか!!」 猛禽類を思わせ目で、司会を睨む。 「心配せずとも、彼は来るよ。 来ないという事は、保証人である私の顔に、泥を塗る様なものだからね。 先に抽選を始めたまえ。」 カールの一言で、その場は収まった。 「そ、それでは、抽選を始めます。 二つ名を呼ばれた剣士は、抽選のクジを引き。 自分のシンボルの彫像を、トーナメント表上のクジの番号上に、置いて下さい!!」 抽選会が始まった・・・まだ、ガウリイは来ない。 「疾風のトム!!」 先程、司会者に食ってかかった男が、出て来る。 少し背が低いが、スピードをウリにするタイプだ。 「Aサイドの・・・1番だ。」 そして自分のシンボル、短剣を2本合わせた彫像を置く。 「次ぎ!! 銀閃のクリス!!」 片腕の貴族的な容貌の男が、出て来る。 かなりのレベルの、剣術使いみたいだな。 「Aサイド・・・3番ですね。」 こいつのシンボルは、銀細工のレイピアだ。 しかし、これでAサイドに凄腕がいきなり二人・・・か。 「次ぎ!! 双剣のラバール!!」 二つのロングソードを腰に差した男が、出て来る。 外見上は細身で、それほど力自慢には見えんが・・・ 双剣という位だから、両方の剣を同時に使うのだろう・・・しかし こいつの実力は・・・俺には読めん!! 前の二人はまだ、凄腕だというのが、気配でわるのだが・・・ 「Aサイド、6番」 オオオオォォォォ!! こ、これは大変な事になったな。 Aサイドは激戦区だな。 そしてラバールのシンボル、剣と盾を合わせ物が置かれる。 何故? 剣と盾なのだ。 二つ名からいって、長剣が二つだと思うんだが。 「つ、次ぎ!! さ、殺剣のデリス!!」 瞬間、会場が一挙に静まりかえる。 そして・・・今まで俺に、気配さえ感じさせなかった男が、現れる。 銀髪で碧眼のかなりのハンサムだ、しかし・・ そいつは、死の気配を全身に纏いつかせ。 その目には、ただ死だけを写している様だった。 「B・・・7番だ。」 ふう、どうやらこいつはBサイドらしい。 しかし、なんてプレッシャーだこいつ!! 姿を見ているだけで、俺が気圧されるとは。 自分のシンボル、髑髏を貫く剣の置物を置く。 そして・・・抽選が16名中10名が終った時。 「本当にくるのか?」 と、またあの疾風のトムが、司会にくってかかる。 その目には、殺気がこもっている。 そして静かになる会場・・・ 「そ、そう言われましても。 当方といたしましても、何とも言い様が・・・」 しどろもどろに、返答をする司会・・・そして。 あいつは、現れた。 「俺を待ってるのか? 悪かったな、待たせちまって。」 そう能天気な答えを返したのは、ガウリイだった。 4.新たなる疑問 いつもの格好、いつもの笑顔で。 ガウリイは会場内に現れた。 そして・・・司会の声。 「ソードマスター、ガウリイ=ガブリエフ!!」 「おう!!」 今まで静かだった会場が、一瞬にして沸き返る!! ふと、悪寒を覚えて視線を巡らすと。 あの4人が、ガウリイだけを注目している。 その目には、もはやガウリイだけしか映っていない。 一体、あの4人とガウリイの間には、何が・・・ 「さてと、ふ〜ん、もうほとんど抽選は終ってるな。 これじゃ、クジを引くまでもないな。」 どういう意味なの? 急に顔を引き締めて、宣言するガウリイ。 「俺が引くのは、Aの2番でいい。」 その発言に、どよめく会場!! 「何言ってるのよガウリイ!! Aサイドは激戦区!! しかも優勝候補総当りよ!!」 思わず食ってかかるあたし。 「ああ、だからさ・・・ こいつらとは、納得ずくで勝負をしないとな。」 あの4人を睨みながら、ガウリイが答える。 「過去は、自分の手で清算してみせるさ・・・」 こちらに、4人が近づいてくる。 「・・・御指名、ありがとよ。 だが、あんたを殺すのは俺だ!! それじゃあな、1回戦で・・・」 そう言い残して立ち去る、トム。 「やっと、お会いできましたね。 私以外の人に、殺される事は許しません。 では、2回戦にてお会いしましょう。」 丁寧ながらも、その殺気を隠そうとせず、言葉を紡ぐクリス。 「ふん、久しいなガウリイ。 どちらにしろ、あの二人では貴様は殺せん。 ・・・3回戦にて、決着をつけよう。」 そう、淡々と告げ去っていくラバール。 そして4人目・・・こいつは本当に、生きているのか? まるっきり、生きているという気が感じられない!! 「・・・何人だ。」 4人に会って、初めて口を開くガウリイ。 何の事なの? 「・・・299、300人目はお前だ。」 そう言い残し、また無表情な顔で去っていく、デリス。 そして・・・ 「馬鹿野郎が・・・」 苦しそうな表情で、ガウリイが呟いていた。 思い出した様に、司会がガウリイに話しかける。 「本当によろしんですか?ガウリイさん。」 「ああ、あの4人は納得したよ。 あてゃ、残りの剣士の意見次第で、まとまるだろう。」 カールさんの方を見て、そう話しかけるガウリイ。 「そうだな、当事者同士の話し合いで決まるなら。 それでも、いいのじゃないのか。」 軽く答えるカールさん。 そして、ガウリイの意見に反対する剣士は、いなかった・・・ もう!! 勝手にしなさいよ!! 心配なんか、してあげないんだから!! あっ!! でもガウリイって、シンボルなんか持ってるのか? 「では、ガウリイさんシンボルを、トーナメント表に。」 そう言われて、慌てるガウリイ。 「あっ、しまったそうか!! 何か忘れてると思ったら、シンボルが無かったんだ!!」 おい!! そんな事を忘れるな!! このクラゲ!! 「心配ありません、ガウリイ様のシンボルは、ここにあります。」 突然の声。 そして、固まるガウリイ。 そこには、片手に黄金の獅子像を。 もう片方の手には、5才位の金髪碧眼の可愛い女の子の手を引く。 黒髪黒目の美女がいた。 「さあ、ガウリイ様・・・これを、貴方が5年前に、置いて行かれた忘れ物です。」 しかし、ガウリイは黄金の獅子像には、目もくれず。 「ソアラ・・・その子は、もしや・・・」 震える声で、ソアラさん(と言う名前らしい)に尋ねるガウリイ。 そして・・・目を伏せながらソアラさんは・・・ 「はい・・・私の子供です、そして父親は・・・言っても仕方ないでしょう。 あの時、ガウリイ様は私を選んでは、くれなかったのですから・・・」 その、ガウリイとソアラさんの、二人の間にいた子供が。 あたしの今、一番考えたく無い言葉を放つ。 「・・・お父様? ねえ、お母様この人は、エレナのお父様なんでしょう?」 第一話 参戦 END 第二話 過去 に続く