<剣士がささげる花束は・・・>
第三話 激戦
1.贖罪の始まり
今日から、トライム剣戟祭が始まる。
いろいろな思惑と・・・
さまざまな感情を・・・
そして、それぞれの過去と現在を巻き込みながら。
いつもなら、祭りの時にはリナと一緒に、屋台巡りをするのにな・・・
今日の俺は、エレナを連れて街を歩いている。
試合が始まるのは、午後の鐘が鳴るのを合図に行われる。
午前中は暇なので、どうしようかと思っていると。
ソアラとエレナが、俺を訪ねてきたのだ・・・
「いろいろと、お話をしたい事がありまして・・・」
ソアラが俺に、そう切り出してきた。
俺にも、確かめておきたい事があった・・・
話しの間は、ゼルにエレナの子守りを頼んだ。(かなり嫌がられたが)
そして、お互いの無事な再会と・・・それぞれの選んだ道を確認した・・・
そして最後に。
「エレナの相手をしてあげて、くれませんか。
あの子は父親という物に、憧れを持っているんです・・・」
ああ、そうだな・・・
ここまで、事態をややこしくしたのは、俺のせいだしな。
「解った、試合が始まるまで面倒を見るよ。」
そういう訳で、エレナと俺は連れ添って街を歩いているのだ。
・・・後ろに、リナとゼルの気配を感じながら。
「どう見ても・・・親子みたいたいよね・・・」
リナの呟きに、かなり危険な物を感じる。
ガウリイの奴、どうしてエレナの子守りなど引き受けたんだ。
試合以前に、リナに再起不能にされそうだぞ・・・
「ソアラさんは黒髪黒目、エレナは薄く見える金髪と碧眼・・・か。
幾ら否定しようと、父親は金髪碧眼よね。
淡い感じがして、可愛い子よね。」
・・・このまま、ガウリイの尾行を続けていいのだろうか。
ガウリイも俺達の尾行には、気が付いている筈だ。
愚かな言動は取らないと思いたいが。
・・・思いっきり裏切られた。
「なあ、エレナ・・・何故、俺の事父親だと思った。」
公園のベンチで休憩している、二人のいきなりの会話がこれだった。
(ちなみ俺達はそのベンチの直ぐ後ろの、樹の陰に隠れている。
・・・かなり怪しいだろうな。)
「お母様は、エレナのお父様は金の髪で碧の目の人だって。
それで、とても優しい人だって言ってたの。」
「・・・そうか。」
「ガウリイ様は、本当にエレナのお父様なの?」
いきなりの核心をつく言葉に、身を乗り出す俺とリナ。
「その質問には、剣戟祭が終ったら答えてあげるよ。
だから、俺の応援をしててくれるかな?」
優しい瞳でエレナを見つめるガウリイ。
「本当? じゃあ頑張って応援する!!」
元気に返事をするエレナを、ガウリイは笑顔で見つめていた。
そして、試合の時が訪れる・・・
2.我、執念の一撃を
試合会場に、ガウリイとトムが入場してくる。
第一試合からして、屈指の好カードなので。
闘技場は見物客で満員だった。
そして、司会による剣士の紹介が始まる。
「東から入場する剣士は疾風のトム!!
7年程前から、各地の戦争に傭兵として参戦し。
数々の功績を打ち立てた人物です!!」
オオオオッ!!
それなりに有名な奴らしい。
まあ剣の腕であたしが適いそうな人は、ここにはいないけどね。
そして、司会の声がかなり興奮に彩られる。
「そして!! 西からの入場!!
5年前の剣戟祭のチャンピオンであり、我等がトライムの英雄!!
『ソードマスター』ガウリイ=ガブリエフ!!」
オオオオオオオッ!!!!
ワッアァァァァァァァ!!
闘技場が鳴動している。
この人達にとって、ガウリイは本当に英雄なのだ。
そんな人をあたしは・・・
「さて、それでは剣士の方に、御自分の自己紹介をしてもらい。
試合に入りたいと思います。」
面白い趣向だ、やり方によってはハッタリも有りという事か。
「・・・俺の名は、トム=ウエッジ。
ガウリイ、貴様に皆殺しにされた俺の仲間と、弟の敵をたらせてもらう!!」
トム=ウエッジ?
ガウリイが、ソアラさんと知り合う切っ掛けになった盗賊団の名!!
「俺達は戦争に巻き込まれた町の、孤児の集まりだった。
そして、やっと復讐の機会っが訪れた時・・・貴様は現れた。」
そう、ガウリイがいなければソアラさんは・・・
「この7年間!! 貴様を倒す事だけを目標に、戦ってきた俺の執念!!
その身に受けてみろ!!」
静かにガウリイが答える。
「この因縁の始まり、そしてこの贖罪の始まり。
それに相応しい相手だな、トム。
いいだろうその執念の一撃、俺の体に刻んでみろ!!」
それが、戦闘開始の合図だった。
ギャリィンンンン!!
ガン!!
キィィィンンン!!
激しい剣戟が続く。
しかし、トムの腕前はではまだガウリイには及ばない。
次第に劣勢に、追い込まれていくトム。
しかし、その顔にはまだ余裕が伺える、何かとっておきでもあるのか?
ガウリイもそれを警戒し、無闇に仕掛けていかない。
「やはり、剣技も体力も貴様の方が上か、このままでは勝負は見えたな。
なら、俺は自分の鍛えたこの技に全てを賭ける!!」
トムが宣言した後、その姿が・・・!!
トムが二人いる!!
違う!! 素早いフェイントとステップワークで、残像が見えるのだ!!
一瞬とはいえ、二人同時の斬撃に対応しきれず。
浅く腕を切られるガウリイ!!
「くっ!!」
その後ろに、素早く回り込んだトムの攻撃が迫る!!
「死ね!!」
「そこか!!」
ギャリィィン!!
かろうじてその一撃を剣で防ぐ。
「まだまだ!! これからが本番だ!!」
残像を残す程のスピードで、ガウリイの周りを走りながら。
次々と斬撃を繰出すトム!!
ほぼ全方向の攻撃に、何とか対処しているのは、さすがガウリイと言える。
そして3分後・・・トムとガウリイが対峙していた。
トムは技の特性故、長時間の攻撃は心身共に疲労が大き過ぎた。
そしてガウリイは、幾つも傷を負っているが、致命傷には至っていない。
「見えたなこの勝負、さすが疾風と言うだけの試合だったな。
ただ、相手が悪かったな。」
隣でゼルがそう呟く。
しかし、試合は終っていなかった。
「・・・さ、さすがだなガウリイ。
こ、この攻撃を、し、凌がれるとは、な。」
息も絶え絶えに、言葉を紡ぐトム。
「なら、最後の一撃に賭けるか?」
多少の疲れを見せながらも、トムにそう話しかけるガウリイ。
「ああ、この為の7年間だ・・・
次の一撃が、正真正銘の俺の執念の一撃だ・・・」
剣を構え直し、トムが目をガウリイに向ける。
「・・・こい、全て受け止めてみせる。
お前の7年間の執念と、その仲間達への思いを。」
笑顔でトムは動き出した。
7年間・・・トムは見殺しにした弟と仲間に、罪の意識を感じていたのだろう
そして、ガウリイを・・・
ガウリイから逃げた自分に。
弟と仲間を助けられなかった自分に。
今トムは、ガウリイに立ち向かう事で、過去の自分と決別しようとしている。
「くらえ!!」
左手から、3本の投げナイフを投じ。
自らも、それに追い付きかねない勢いで走り出す!!
ナイフを弾けば、隙が出来る!!
しかしナイフを避けても、トムのスピードでは意味が無い!!
そして、ガウリイが取った行動は・・・
「ふん!!」
自らの左手の手甲で、ナイフを受け止め。
そのまま、トムと最後の一撃を繰出しあう!!
「俺の執念は、貴様の体に届いたのか?」
「ああ、貴様の執念。
確かに俺の体に刻み込まれた。」
「・・・そうか、ジーク、皆・・・俺を許してくれるか。」
そう呟いてトムは倒れた。
そして、ガウリイが左腕から血を流しながら。
高々と剣を持った右手を差し上げる。
「勝者!! ガウリイ=ガブリエフ!!」
ウオォォォォォォ!!
その司会の声を受け、止まっていた闘技場の歓声が、再び巻き起こる。
その歓声を背に、ガウリイと。
担架に乗せられたトムが、闘技場を去って行く。
あたしは堪らず、ガウリイを追って、闘技場の剣士控え室に向かう。
控え室では、ガウリイが傷の手当てをしていた。
「・・・こんな事を、最後まで続けるつもりなの。」
あたしが手当ての替わりに、リカバリィをかけながら聞く。
「ああ、取り合えず・・・な。」
頬をかきながら、いつもの口調で答えるガウリイ。
「次も上手くいくとは、限らないのよ。」
そう、彼等の思いの全てを受け止めるなど・・・
「・・・でもなリナ、気付いていると思うが。
あいつらは、俺との決着をつけないと、先に進めないんだよ。」
苦しそうに顔をしかめる。
不器用な人達だった。
傷つきながらでないと、前に進めない位に。
「そう・・・死なない程度に、頑張りなさいよ。」
「何だ、応援してくれないのか?」
呑気にあたしに問い掛けるガウリイ。
「あたしの替わりは、エレナちゃんとソアラさんがいるでしょ。」
いや、あたしが彼女達の替わりかもしれないんだ・・・
「・・・俺は、リナに応援をして欲しい。
俺がこの戦いを、乗りきれる様に。」
驚いて振り向くと、ガウリイの真剣な瞳があたしを見つめる。
しばらく、お互いの真意を計り見詰め合った後。
「・・・一応保護者だもんね、応援していてあげるわよ。」
・・・負けてしまった。
「有難うリナ。」
そして、ガウリイが優しく微笑む。
3.我、誇りの斬撃を
その後の試合は、退屈な物だった。
例の4人の残り(デリスは別だ)に至っては、対戦相手を30秒以内に倒してしまった。
ただ今日は、Aサイドの第四試合までだった。
明日はBサイドの第四試合まで。
ガウリイとあの、片腕の剣士クリスが戦うのは、明後日の第五試合だ。
しかし、本当に贖罪の為に試合に出てるんだな、ガウリイ・・・
これでは、この先の三人とも何らかの関係が、有ると言う事か・・・
まあいいさ、しっかり見届けてやるよガウリイ。
そして、第五試合当日になった。
別だん変わった事もなく、静かに闘技場に現れる二人。
「それでは第五試合を開始します!!
剣士の方々、何か相手に告げたい事は有りますか?」
その司会の言葉に、クリスが頷き話し始める・・・その視界には、ガウリイしかいない。
「私の本当の名前はクリス=リミガン。
このトライムの、リミガン伯爵家の長男です。」
その言葉に、周りの観客が騒がしくなる。
「・・・あの出奔した、リミガン伯爵家の・・・」
「ああ、そう言えば昔大怪我で、片腕を無くしたらしい・・・」
周りの雑談も気にせず、更にガウリイに話し掛ける。
「・・・貴方は、只の傭兵でしかなかった。
しかし、私達貴族が望む物、全てを持った人だった。
その容姿、人望、剣技、そして領主様御一家の親愛さえ。
何も持たぬ筈の傭兵に、私達は劣っている・・・
そう思えて、仕方が有りませんでした。」
淡々と、当時を思い起こしながら、クリスの述懐は続く・・・
「そして、つまらぬプライドを賭け、私は貴方と決闘をした。
せめて、剣の腕では貴方に負けていないと、自分に言い聞かせる為に。
結果は・・・自分の未熟さを思い知り、この左手を失った。」
ガウリイの目は、クリスの失った左手に注がれている。
自分が負わせた傷を、確かめるかの様に・・・
「そして、俺の言葉が出奔の原因か・・・」
ガウリイが呟く・・・
「ええ、あの言葉は忘れられません。
『しょせん戦争に出た事の無い貴族が、俺に適うはずはあるまい。
貴族は貴族らしく、お互いでお遊びをやっていろ。』
でしたね。
そして、その言葉は真実でした。
私は実際の戦場を知らない、無知な青年でしかなかった。」
徐々にその体の内から、闘気を膨らませるクリス。
それに答え、自らの闘気を奮い立たせるガウリイ。
「そして、私は家を捨て、許婚を捨て、貴族である自分を捨てました。
自らも傭兵となり、貴方の世界を見て来ました。
そして帰ってきた・・・
貴方にもう一度、貴族ではない私という者の価値を問う為!!
あの時に砕かれた、私の誇りを取り戻す為に!!」
そして、クリスの銀の斬撃がガウリイに襲いかかる!!
お互いが、芸術的なまでの剣技を披露する。
舞うように、踊るように・・・
しかし、それは確実に相手の命を奪う・・・死の舞。
だからこそ、美しいのかもしれない。
だからこそ、魅せられるのかもしれない。
クリスには闘気はあっても、殺気は無い。
ただ、純粋に自分が追い求めた目標に。
自分のこれまでの年月を、叩きつけるのみ。
そしてそれに応え、その斬撃を全て受け、捌くガウリイ。
静かで、美しい戦いは十数分に及んだ・・そして。
「さて、準備運動はここまでです。
ここまで付き合って頂いて、有難う御座います。
では、改めて決着をつけましょう!!」
お互いに間合いを取り、呼吸を整えながらクリスが語る。
スタミナでは、体格で勝るガウリイ相手では不利だからな。
ここが勝負時と言う事か・・・
そして、対峙するお互いの目の色が変わる!!
クリスが全てを賭けた、決死の色に・・・
ガウリイが全てを受け止める、決意の色に・・・
「いきます!!」
ヒュッヒュンシュシュン!!
同時に4条の光の筋が、ガウリイに襲いかかる!!
早い!! いや早いなんて物じゃない!!
とっさに飛び退いた、ガウリイだが・・・
鳩尾と、心臓、そして喉と眉間に血が流れていた。
どれもが一撃で、致命傷になる個所である。
ガウリイの実力をもってしても、避けるのが精一杯だとは。
さすが、銀閃の二つ名に恥じぬ実力だ。
「次は外しません。」
静かに間を詰めながら、クリスが宣言する。
ガウリイも覚悟を決めたのか、ゆっくりとクリスに向き合う。
「この一撃が、私のこれまでの全てです。
我、誇りを込めた最後の一撃を受けてみよ!!」
そして、再びクリスの4条の斬撃が、ガウリイを襲う!!
そして・・・結果、ガウリイは喉元から血を流しながらも、闘技場に立っている。
そしてクリスは、腹部をガウリイの斬撃にやられ、倒れ伏していた。
「み、見事です・・・
私の剣の腹を狙って、突きの軌道を逸らすとは・・・」
そう、ガウリイは二撃目の突きまでを、後退して交わし。
追いすがったクリスの三撃目、喉元の突きに狙いを絞り。
クリスの剣の腹を、自分の剣で払いながら前進し。
その隙だらけの腹部に、一撃を叩き込んだのだ。
言葉で言えば簡単だが、あのガウリイが首に、浅くは無い傷を負った・・・
それだけ、ぎりぎりのタイミングでの勝負だったのだ。
そして、その攻撃を逸らし切れなければ、四撃目の突きが眉間に決まっていた。
そして、クリスからガウリイに質問が出される。
「聞かせてください・・・私のこの6年間と、貴方の6年間の違いは何です?
私は最初から、貴方を倒す事だけを考えていました。
そして昔の貴方なら、迷わず私を殺していた・・・
しかし、貴方には闘志はあっても殺気が無い。
何故、初めの剣技比べに、付き合ってくれたのです?」
「・・・あんたの誇り、確かにこの身体に受け取った。
6年前の言葉は取り消すよ。
あんたは、最高の剣士だクリス二つ名に恥じない程のな。
そんな剣士と戦いたい、と思うのは剣士の性だろう?」
悪戯っぽい笑いをしながら、クリスに話し掛けるガウリイ。
しばし、呆然としたクリスだが、苦しそう笑出だす。
そして、ガウリイの言外の意味。
自分を殺したくなかった・・・事を悟る。
「負けました、完敗です。
私は全てを出し尽くしました、でも貴方にはまだ底があるらしい。」
そして、静かにクリスは意識を失った。
ガウリイの右手が掲げられ。
「勝者!! ガウリイ=ガブリエフ!!」
司会の声が、闘技場に響きわたった。
そして、この後の第六試合へと会場は移行していく・・・
ガウリイの、次の相手を決めるために。
第三話 激戦 END
第四話 決着 に続く
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