<優しい歌> 第一章.ある浜辺での二人 今、あたしとガウリイは海に来ている・・・ 理由は単純、ただ泳ぎたかっただけ。 近頃はいろいろとトラブルが重なり、ゆっくり出来なかった。 その埋め合わせを兼ねて、海に泳ぎに来たのだが・・・ 「・・・来るんじゃなかったわ。」 あたしの視線の先には、予想道理といえば予想道理な光景が、展開している。 「リナ〜!! 助けてくれ〜!!」 人垣に遮られ、姿が見えないが・・・ 多分、あの人だかりの真中にいるであろう、ガウリイの声が聞こえる。 いっその事、ガウリイごと攻撃呪文で吹き飛ばしてやろうか? そう思ったりもしたが・・・ 洒落で済みそうに無いので止めておいた。 「ガウリイ〜、取り敢えずお昼御飯取りに、先に宿屋に帰ってるからね〜」 お義理で声だけをかけ、あたしは宿屋に帰っていった。 後ろでは、強引に人垣を突破する事もできず。 ただ、うろたえるばかりのガウリイの声が聞こえた・・・ 「あ〜あ、せっかく新しい水着と、お洒落な宿屋を予約したのにな〜」 溜息をつきつつ、ガウリイの事を考える。 彼はどうして、あたしの旅に付き合ってくれているのだろう? 良い事なんて、殆ど無いだろうに・・・ こんな、魔蔟に付け狙われている女なんて。 ガウリイと旅を始めてから、もうかれこれ4年の月日が経つ。 いろいろな事があった。 いろいろな人と出会った。 その全てには、隣にガウリイの存在がいた・・・ あたしにとって、それが当たり前になってしまった。 しかし、彼の光の剣の代わりになる、ブラスト・ソードを見付けた時・・・ この二人の関係は、終わるのかもしれないと思った。 けどガウリイは、あたしとの旅に理由はいらないと言ってくれた。 ガウリイは一体あたしの事を・・・ そして、あたしはガウリイの事を・・・ 深く自分の意識の中に沈んだあたしを、ガウリイの声が呼び戻す。 「お〜いリナ、酷いじゃないか先に行っちゃうなんて。」 相変らずの能天気な声と、笑顔でであたしに話しかける。 「ふん!! 女の子に囲まれて、鼻の下伸ばしてたくせに!!」 「おいおい、そんな事ないって。 ところでさ、あっちの岩場では不思議な伝承があるらしいだ。 昼飯が終わったら、一緒に行かないか?」 ふ〜ん? 不思議な伝承ね。 まあ、浜辺にいても不快な思いをするだけだし。 少なくとも・・・その間はガウリイを独占できるし・・・ な、何を考えてるかなあたしは。 「いいわよ、一緒に行ってあげるわ。 まあ、それはさておきお昼御飯にしましょうよ。」 「おう!! そうだな新鮮な海の幸か!! これは美味そうだ、早くメニューを貸してくれよ。」 「だ〜め!! あたしが先に決めるの!!」 「・・・って言っても、どうせ全メニュー制覇するんだろうが。」 「・・・考えたらそうよね。 あたし達にメニュー表って、意味が無い物なのよね。」 「・・・」 「・・・」 「深く考えずに、取り敢えず注文しよう!!」 「そうね!! すみません、メニューの品を上から二品ずつ下さい!!」 あたし達の会話を聞き、引きつった顔をしていたウェイターは、それを聞いて顔を青くした。 「か、かしこまりました。 そ、それでは、デザートなどはどうなさいますか?」 「う〜ん、取り敢えず全部三品ずつ持ってきて。」 「俺もそれくらいでいいや。」 「・・・かしこまりました。」 「あっ、それから後で追加オーダーするから、聞きにきてね。」 その言葉を聞いて、ウェイターは青から白に顔を変えながら帰っていった。 「・・・どうしたんだろ?」 「さあ?」 (作る方の身にもなってみろ!! 君等は!!)謎の声 「何か聞こえなかった?」 あたしは周りを見まわしながら、ガウリイに問う。 「空耳だろ?」 ガウリイは、何も気が付かなかったみたいだ。 「・・・そうよね。」 そして、あたしはその事については忘れた。 第二章.ある伝承について あたし達が昼食を終え。 その岩場の付近まで来たのは、昼を過ぎて二時間位たってからだった。 「ねえガウリイ〜、何処にその伝承を書いた看板があるのよ?」 「そこに見えてるじゃないか。」 ・・・どこによ。 あたしには影も形も見えなかった。 「う〜ん、だいたい1km位かな。」 「見えるか〜い!!」 あたしはガウリイの後頭部に、突っ込みを炸裂させた。 「あ〜、何か疲れた。 岩場って歩きにくいのよね〜」 「まあ仕方ないじゃないか、走って転んだら目も当てられないぞ。」 「まあ、そうなんだけどね。」 などと話しをしながら、看板に辿り着いたのは20分後だった。 「どれどれ・・・」 その伝承を要約すると・・・ 昔、海辺に住んでいた女性に恋をした男性がいた。 その女性の歌声は素晴らしく、聞く者の心を洗う様だった。 そして、その女性も男性に恋をした。 男性は内陸の住む者で、女性を連れて帰りたいと言った。 しかし、女性には男と一緒になれない訳があった。 そのために、女性はこの海から離れる訳にはいかず。 男性は女性の意思が硬い事を知り、失意のまま家へと帰った。 そして、男性は家に帰るが、女性を忘れられず。 また女性に会いに家を出る。 男性は家を捨て、女性の元で暮らす決意を固めるが・・・ その旅路の途中で、事故に遭いその命を落す。 そしてその事を知った女性は・・・海に身を投げ・・・ それいらい、この岩場の付近には夜な夜な女性の歌声が響く・・・ 「・・・ほとんど怪談じゃん、これ。 もしくは悲劇・悲恋物。」 「・・・そうだな、でもこの浜辺では有名な話しらしいぞ。 実際に夜中には、歌声が聞こえるらしい。」 ふ〜ん、まっ岩場に波が当たる音が、歌声に聞こえるんでしょうね。 「まっ、暇つぶしにはなったわね。 それでガウリイ今日は・・・ってどうしたの?」 何故か岩場の方を凝視して、固まっているガウリイ。 「ん? あっ、ああ何だか歌声が聞こえた気がしてな。」 「またまた、そんなの空耳よ空耳。」 「う〜ん、やっぱりそうなのかな〜」 まだ首を捻っているガウリイを引きずりながら、あたしは宿屋に帰っていった。 そしてその場に残る、呟きがあった・・・ (やっと・・・逢えた・・・) 第三章.夜の浜辺で・・・ ふと、夜中に目が覚めた・・・ 何となく寝苦しい夜なので、風に当たろうとして窓を開ける。 3階の窓からの景色は格別だった。 そして、どからか流れてくる優しい歌声・・・誰が歌ってるのだろう。 そう思いつつ雄大な景色を眺めていると、眼下に金髪の男性が見えた。 「あれ? ガウリイよね? どうしたのかな。」 何故か浜辺に向けて歩いているガウリイを目撃する。 「何だか・・・怪しいわね。 追いかけてみるか。」 あたしはパジャマに、軽く上着をかぶると。 窓からレビテーションで地上に降りる。 そして、ガウリイの後をつけていくと・・・ 「・・・うそ・・・」 そこには、一人の女性と抱き合っているガウリイがいた。 あたしは、その光景を信じられず見ていた・・・ そして、不意に自分を取り戻し。 そのままその場を走って逃げた・・・り、なんかするかい!! 「ガ・ウ・リ・イ、その人は誰なのかな?」 自分でもかなり怖い声でガウリイに質問をする。 びくうっっっ!! ガウリイの背中が緊張で強張るのが解る。 そして、ガウリイの言い分けは・・・ 「こ、これには訳があるんですお嬢さん!! だから僕の話しを・・・ぐえっ!!」 問答無用のあたしの一撃が、ガウリイの腹部に決まる。 お嬢さん? 僕? そこまでしてとぼけたいのか、こいつは。 「あの〜、彼の言い分けも聞いて上げてくれませんか?」 心行くまでガウリイを叩きのめし、一時休憩をしているあたしに例の女性が声を掛けてくる。 「・・・ふん!! 今更なんの言い分けよ!! そんな物聞きたく無いわ!!」 涙を見られないよう、後ろを向いてそう答える。 「でも、聞いておかないと後悔しますよ。 彼は、あなたの知っている彼では無いのだから。」 どういう意味? 後ろを振り返り、ガウリイをその手で抱き起こしている女性を睨む。 「つまりこの人は、貴方の知っている人ではありません。 今は・・・私の大切な人が、この人に取り憑いてるんです。」 「・・・説明しなさいよ。 取り敢えずは聞いてあげるわ。」 そして、彼女の説明が始まった。 その説明によると、ガウリイに彼女の死んだ恋人の幽霊が、憑依しているらしい。 ・・・どうしてこう、やっかい事ばかり起こすかなこの男は。 でもあたしの方が、厄介事起こす回数多いよな(笑) 「それで事情は解ったけど。 何時までガウリイに憑依してるつもりなの?」 一番気になる事を聞いて見る。 もし憑依したままとなれば・・・力ずくとなる。 「心配かけて申し訳ありません・・・ あと3日だけ、彼と一緒にいさせてもらいませんか?」 彼女の真摯な瞳に圧され、あたしは思わず承諾をしてしまった。 しかし・・・何処かで聞いたようなシュチエーションだな? 考え込むあたしの目の前で、女性はガウリイに膝枕をしながら歌い出す・・・ あっ!! この歌は・・・この女性が歌っていたんだ。 ただ恋人一人の為に。 「果報者ね、その人も・・・」 あたしは離れてその光景と、歌を聴く事にした。 ガウリイが一緒じゃないのが、ちょっと寂しいが・・・ 第四章.そして別れ 「なありナ? 何か最近疲れが取れんし・・・何だか体中傷だらけなんだが。 理由を知ってるか。」 ぎくっ!! 「さ、さあ? 知らないけど・・・寝惚けてベットからでも落ちたんじゃないの。」 「う〜ん、そうなのかな? それしかないよな・・・」 うんうん唸っているガウリイに背を向け、あたしは呼吸を整える。 ・・・実は憑依状態のガウリイが彼女に触れるたび、さりげなく攻撃呪文をぶち込んでいたのだ。 さりげなくと言っても、さりげなく呪文を唱えるだけで・・・ 威力と見た目は変わらなかったりする(笑) いきおい、傷が絶えないというわけだ(笑)一応リカバリィはかけてるけど。 「それより今日は嵐になるそうよ。 まあ、今日は一日中宿屋の中ね。」 「ふ〜ん、そうなのか。 それは残念、リナの水着姿が見れないのか。」 えっ!! み、見てくれていたのかガウリイ・・・ ちょっと嬉しいぞ。 などとちょと幸せを噛み締めてるあたしの目に、雨が降り始めるのが見えた。 「あ〜あ、振り始めちゃった・・・」 「しかたないな、部屋に戻ろう。」 「そうね。」 「あれは・・・まさか!!」 あたしの部屋で雑談をしていると、急にガウリイが窓から身を乗り出す。 「どうしたのよ急に?」 「子供が溺れている!!」 「えっ!! どこよ、あたしには見えないわ!!」 「助けにいってくる!!」 「ちょっと待ってよ!! あたしが飛んで行った方が・・・」 「それでどうやって溺れている子供を抱くんだ?」 そうか、術の制御をしながら子供を助ける事は出来ない。 でも・・・ 「あたしがガウリイを運ぶから、そこからはガウリイにお願いするわ。」 ガウリイを引き止めながらあたしは言いつのる。 「解った。 そのかわり俺を運んだら、直ぐに浜辺に戻るんだぞ。 何が飛んでくるかわからんからな。」 一瞬だけ悩んだ後、泳いでいては間に合わないと判断してあたしに頷くガウリイ。 「うん、解ってるわよ。」 そしてあたし達は嵐の中に飛び出した。 「ここでいい!! 早く浜辺に戻るんだリナ!!」 ガウリイはあたしから離れると、直ぐに溺れている子供を後ろから抱きかかえる。 「よし!! もう大丈夫だからな。 余り海水も飲んでいない、見付けるのが早くて良かった・・・」 子供を安心させながら、浜辺を目指してゆっくりと前進するガウリイ。 「あたしは誰かに知らせてくる!! それまで頑張っていてねガウリイ!!」 「ああ、心配するな。 体力だけが俺の取り柄なんだろ?」 そう言って笑顔であたしを送り出してくれた。 そして・・・ 「兄ちゃん!! よく頑張ったな!! もう少しの辛抱だぞ坊主!!」 地元の漁師が船を出してくれた為、比較的早くにガウリイと子供の救出に向えた。 「よし!! 坊主もう大丈夫だ!! 兄ちゃん早く上がって来い!!」 「ああ!! 解ってる・・・」 どかっ!!! その時!! 突如の大波により、ガウリイの身体が船体に叩き付けられる!! 「ガウリイィィィ!!」 沈み行くガウリイを助けようとして、あたしが術を解き海に潜る。 しかし、漁師のおっちゃんに抱きとめられて、船に引きずりあげられた。 「無茶だお嬢ちゃん!! この荒波の中じゃ俺達だって・・・」 「それでもいいの!! ガウリイ!! ガウリイ!!!」 「仕方無いな、すまんなお嬢ちゃん。 お嬢ちゃんまで道連れにしたら、あの兄ちゃんも浮かばれねーからな。」 その言葉と共に腹部に衝撃を感じ、あたしは意識を失った・・・ 「ガウリイ・・・いや、置いてかないで・・・」 そして・・・嵐は去った。 あたしの大切な人をさらって・・・ 「どうして・・・こんな事になったんだろ・・・」 あんな事位、今までの事を考えれば危機の内に入らない・・・ でも、今ガウリイはあたしの隣にはいなかった。 あの子供の両親が御礼に来ても、逢おうとはしなかった・・・ 両親とあの子供をなじってしまいそうで・・・ そんな事をガウリイは望まないから。 そう、あたしが自分の後を追う事も・・・ 「非道いよガウリイ・・・こんな事で、あたしを置いてくなんて。」 あたしは自分の部屋から一歩も外に出ず・・・ 宿屋の従業員も気を効かせて、誰も入ってこなかった。 自分だけの世界に閉じこもって・・・気が付くと真夜中だった。 そんな時にふと、歌声が聞こえてきた・・・ 「・・・彼女には知らせておくべきね。 今日が最後の日だったのにね・・・ガウリイの馬鹿・・・」 また泣けてくるのを我慢し、歌声の聞こえる方に歩いていく。 そして・・・あたしは例の岩場に辿り付いた。 何故この岩場から声が・・・浜辺に彼女はいなかったし。 「声は聞こえるのに・・・彼女は一体何処に?」 そう呟いた瞬間!! 前方の海から光の珠が浮かび上がる!! その珠があたしの目の前に降りてきて、輝きが消えた後。 そこには・・・ガウリイがいた!! 「ガ、ガウリイ? ガウリイなの!!」 あたしはガウリイに抱き付き、彼の無事を確認する。 息は・・・大丈夫している。 心臓も・・・動いてる!! 体温も顔色も全部が大丈夫だ!! 「お約束の期限ですね、彼をお返しします。 今まで有難うございました・・・」 その声に後ろを振り返ると。 彼女がいた・・・海面に浮き出た姿は人間、しかし・・・ 「そう、私は人魚です・・・ だから彼とは結ばれなかった。 でも私のせいで彼が死んだと聞いて、ショックでした。 所詮結ばれない事は、十分理解していたつもりなのに。 もう、彼の事は諦めた筈だったのに。」 彼女の独白は続く。 「でも、彼は死んでもなお私に会いに来てくれました。 正直嬉しかった・・・でも、彼の魂まで私は縛るつもりは無かった。 だから三日だけ、彼との思い出がほしかったんです。 でも、ガウリイさんが溺れために・・・ 助ける事は簡単です、しかしそれは自然の摂理に反します。 そこで彼が言いました、自分の魂をガウリイさんの代わりに持っていけ・・・と。」 それじゃあ!! ガウリイに憑依していた人は、ガウリイの代わりに!! 「彼からの伝言です。 自分はこれから愛する人と一緒にいる。 だから気に病む必要はありません。 いままで有難うございました。 これが彼の伝言です・・・それでは、私も帰ります。 もう、お会いする事はないでしょうが。 今まで有難うございました。ガウリイさんとお幸せに。」 そう言い残して、彼女は海に消えていった。 後にはあたしと、ガウリイのみが残った。 「ガウリイ・・・お帰りなさい。 もう、絶対あたしから離れたら許さないんだから。」 ガウリイの頭を膝枕してやりながら、そっとあたしは呟いた。 起きたらまず何を言ってやろうか? 彼女の事や子供の事・・・色々あるけど。 やっぱりあたしに心配させた事を、謝らさせないと・・・ね。 そう考えながら。 気持ちよさそうに眠る彼に・・・お疲れ様のキスを送る。 「本当・・・早く目を覚ましなさいよ、このクラゲ。」 辺りには、あの優しい歌が響いていた・・・ Fin 1999.7.1 By Ben
後書き
リクエスト物です・・・
ちょっと苦しい設定だったかな(汗)
しかも、伝承との接点が薄いし・・・彼女と彼の名前出してないし(笑)
決して考えるのが面倒くさかったわけでは・・・素直にゴメンナサイm(__)m
今後精進します、許してやって下さい。
ほら風邪ひいたりして、体調不良だったし(言い分けモード発動)
・・・取り敢えず次の作品で仕切り直します・・・
出来ればこんな駄文の感想を、メールか掲示板で送ってやって下さい。
すごく喜びますから。
それではまた。
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