<理由> 第一章.過去 俺はここから出たかった・・・ 誰も俺の事を知らない土地に行きたかった・・・ ここには辛い思い出と・・・ 皆の期待の視線が痛いだけだ・・・ 俺はその期待に応える事は出来ない・・・ そんな資格は俺には無い・・・ 俺はここから逃げ出したかった・・・ 「なら・・・遥か彼方の地に私が連れて行ってあげるわ。」 黒いフードで顔を隠した女性は俺にそう言った。 「面白い、本当にそんな事が出来るのなら俺を連れていってくれ。」 俺は軽く応えた・・・俺の願望を見抜いたこの女性に。 「後悔はしない? この地に留まる限り貴方は英雄なのよ。」 この女性は俺に何を言わせたいのか? 俺の本心は・・・ 「血塗れの英雄など平和な時代には無用の人物だ。」 俺は今まであの人達にも隠していた本心を、何故か初対面のこの女性に漏らした。 「なら・・・全てを捨てる覚悟は出来ているのね将軍様?」 女性の身に纏う気配が一変する!! こ、これは人間の持つ気配ではない!! 「・・・全てを捨てて、俺は何になれるのだろう?」 しかし、俺の決心は変わらなかった。 人外の者でもいい・・・ 俺を・・・ここから連れ出してくれ。 俺はこの街に相応しくない・・・ 「では、考えなさい・・・ 遥か彼方の地で今後の自分の生き方を・・・」 女性のその言葉を最後に。 俺の存在はこの土地から完全に消えた・・・ 「貴方の存在が必要なの・・・ 私の今後の計画にね・・・」 その言葉を最後に・・・ その女性もその場所から姿を消した。 第二章.彷徨 気が付くと俺は何故か見知らぬ街にいた。 見た事の無い街並み・・・ 何処か街に漂う空気さえ俺には違和感を覚えた。 「本当に・・・俺はあの土地から・・・」 視線は感じる。 何時もの事、俺の容姿に目を止めた人達の視線だ。 だが、その視線の中に必ず混じっている俺を恐れる視線が・・・ 俺を忌避する視線がその中に無かった。 「全てを捨てて・・・遣り直せるのか・・・今更?」 しかし、奇跡は起こった。 俺の願望通りに。 ならばその奇跡に甘えてみるのもいいだろう。 「どうせ失う物も無いんだからな。」 周りの景色を見回し・・・ 俺は一人で愚痴る。 「腹減った・・・」 そして俺の記憶は白紙になった・・・ 「ね〜〜、ガウリイさ〜〜ん、今日はウチに寄ってくれないの?」 行き着けの飲み屋の看板娘が俺に声をかけてくる。 「わるい!! 今は生活がギリギリなんだよ!!」 俺は律儀に返事を返すと目的地に向かって走り出す。 「ぶぅぅぅ!! ガウリイさんだったらタダでもいいのに・・・」 そんな声が背後から聞こえた。 幾ら遊び人だと自称してても女性に奢られる気はないさ。 「ただいま帰りました!!」 「あらお帰りなさい・・・今日は何をしてたの?」 宿屋の女将が俺に微笑みながら聞いて来る。 行き倒れ状態の俺を助けてくれた親切な女性だ。 「今日も日雇い労働ですよ。 まあ治安がしっかりしてるから、身分証明の無い俺は定職に着けませんからね。」 「まったく・・・上の人も余所者だけには厳しいんだから。」 女将はそう言うが・・・ 今の時代、治安に気を付け過ぎるという事は決して無い。 ましてや俺は・・・記憶喪失の身の上なのだから。 「あ!! そうそう息子達が今日も体術を教えて欲しいって言っててね。」 すまなそうに女将が俺の顔を見る。 まあそんなに疲れている訳じゃ無いし・・・ 「ええ、いいですよそれ位。 裏庭ですか坊主達は?」 「ええ、じゃあお願いね!!」 その声を聞きながら俺は裏庭に向かった・・・ 静かな時間が流れる・・・ ここには何故か俺を安心させる空気があった。 第三章.決別 「どうして俺を疑う!!」 「君しか犯人は考えれないんだよ、ガウリイ君。」 「そんな!! 俺はただの・・・ただの遊び人だ!!」 それは些細な喧嘩だった・・・ 行き着けの酒場で酔っ払いに絡まれた。 「ようよう兄ちゃん!! 綺麗な顔してなんでこんな安酒場にいるんだい?」 「・・・俺の勝手だろうが。」 「兄ちゃんなら上の人達のお気に入りに、直ぐなれるんじゃ無いのかい?」 我慢出来なかった・・・ 何故か自分の自由を他人に任せる事が・・・ だから定職には付かなかった・・・ それが俺が遊び人でいる本当の理由・・・ その気持ちが何処から来るのか俺には解らなかった・・・ 「無視するんじゃね〜よ!!」 気が短い男らしく喧嘩になった・・・ 俺の一撃で相手は沈黙したが・・・ そして男は後日手下を連れて現れた。 「悪いな兄ちゃん、俺にも面子ってもんがあってな!!」 「そんなくだらない面子なんて持っていても邪魔なだけだぞ。」 「まあそう言わず付き合いな!!」 乱闘になった・・・ 俺には何故か人並み外れた体術と・・・その上をゆく剣術を持っている。 俺に何故そんな技術があるのかは解らない。 ただ漠然とその術を知っていたんだ。 「けっ!! また来るからな!!」 男は手下を引き連れ帰っていった。 しかし、その顔は晴れ晴れとしていた。 「まったく・・・俺と喧嘩して楽しいのかね?」 俺もあの男との喧嘩は・・・実は楽しかった。 命のやり取りじゃない・・・喧嘩だから。 そんなある日、官吏(警官)が俺を訪ねて来た。 「ガウリイ君、君を殺人容疑で逮捕する。」 「な!!」 「この男性に見覚えがあるだろう?」 「ええ・・・」 官吏が俺に見せた似顔絵には・・・あの男の顔だった。 「じゃあ出頭して貰えるね?」 「俺じゃない!! どうして俺があいつを!!」 「君の言い分は取り締まり室で聞くよ。」 そして俺は街の官吏所に連れていかれた。 理由はどうでもよかったんだろう・・・ 面倒な事件にするより、手っ取り早く犯人を作り出す方がいい。 俺は余所者だと言う事と、例の男と喧嘩をしていただけで・・・ 有罪となり・・・ 街を追放された。 「女将と坊主達に・・・一言挨拶がしたかったな。」 もう見える筈が無い街を振りかえって見る。 あの時の時間が何か・・・今はっきり解った。 幸せだったんだ。 最終章.出家 「それでも・・・貴方は人信じますか?」 あのフードを被って顔を隠した女性と再開を果たしたのは・・・ 街から追放されて三日目の事だった。 「ああ、あの男に恨みは持ってなかった・・・ 何より俺が記憶を取り戻した今・・・ あの幸せな時間をくれた女将達に感謝の心さえ持っている。」 街に裏切られた・・・ 人の優しさに触れた・・・ 嫉妬の感情をぶつけられた・・・ 喧嘩で友情を感じた・・・ そしてその男は死んだ。 今までに俺があの地でして来た事に比べれば些細な事かもしれない。 だがあの街は俺を一人の人間として見てくれていた。 「なら今後はどうしますか?」 「その前に答えろ・・・何故この街で俺の記憶を封じた? いや・・・あの地に辿り付く前の俺の記憶。 それすらもあんたが俺に封印をしてるんじゃ・・・」 「買かぶりですね。 確かにあの街での記憶の封印は私がしました。 しかし、あの地に辿り付く前の貴方の記憶の欠如は、私の仕業ではありません。」 俺は女性をじっと睨み付けた・・・ その女性の顔はフードによって隠され解らない。 だが・・・嘘では無いと何故か、何故か納得できた。 「・・・俺は罪を償いたい。 普通の幸せを実感した今。 俺が奪ってしまった彼等の幸せを・・・償いたい。」 「それがいいでしょう。 貴方は幸せが何かを知らなかった。 そんな貴方が償っても彼等から何を奪ったか実感出来ないでしょう。 しかし、今貴方は自分が何をしてきたかが理解している。 貴方だけが決して悪い訳では無い・・・ だけどあの戦いで貴方は本当はいない人物だった・・・ 貴方の参戦であの国は助かった。 歴史は変わったのです、貴方の手によって。」 「俺の参戦により無用の血が流れたからか・・・」 俺はあの戦いを思い出す・・・ 酷い戦だった。 まさに血で血を洗う戦い。 しかし俺には守りたい人達がいたから・・・ 「この先に大きな寺院があります。」 「俺に出家しろと?」 「いい身分ですよ? 税金は安いし、身元の保証人としては最高です。」 その女性の答えを聞いて俺は軽く微笑んだ。 「なるほど遊び人をしているよりは生活が安定してるな。」 「時間は十分にあります・・・ 貴方が本当にしたかった事。 本当にするべき事を見付けて下さい。」 そう言いながら女性の姿がぼやけていく。 俺は慌てて今まで気になっていた事を聞いた。 「おい待ってくれ!! 最後にあんたの名前くらい教えてくれ!!」 「・・・いずれ再会するのですが。 いいでしょう。 私の名前は・・・ルナと言います。 貴方は私の妹と・・・」 最後にフードから見えた微笑と言葉が・・・ 俺に脳裏に強く焼き付いた。 「妹? 何が言いたかったんだ?」 まあいい、取り敢えず今後の予定は決まった。 「さて!! 坊主ってことは・・・もしかして頭を丸めるのか!!!!!!」 ちょっと今後に不安を持ちながら。 俺は寺院への道を歩き出した。 そして全ての歯車は揃った・・・ <出家> END 1999.11.07
あとがき
外伝1で〜す!!
これは「西遊記」じゃないと思った方!!
いえいえ、これも「西遊記」ですよ!!
実は奥が深いんですね(笑)
さて皆さんにこの作品の全ての設定が明かされる日はくるのか!!
何だか読者に喧嘩売ってるし(汗)
と、取り敢えず本編とは雰囲気が違いますがこれも「西遊記」です。
次ぎの外伝は15000Hit記念で書くつもりです。
出来れば感想が欲しいです。
では、さようなら!!