＜真実への路＞


第一部　第二話「それぞれの理由（わけ）」

（８）

　その場にいなければ信じられない事だった。
　私の頭上には数十を超える燃えさかる岩石が停止していた。
　岩石に油をかけて燃やしているのだろう。
　こんな物が港町に落ちた日には全焼は免れ無かった。
　しかし・・・その岩石は港町に落ちる事無く。
　エイジと私達の頭上で静止していた。
「そんな！！　あれだけの数の岩石を人間の力で止めるのは無理なはず！！」
　私はこの力を行使しているエイジを眺める。
　エイジの纏う雰囲気には、この桁外れの術を制御している様な緊張は感じない。
　それともエイジにとってこの術は片手間程でしかないのだろうか？
　もしそうならば・・・
　あきらかに人を超えている。
　私の視線に気が付いたのかエイジが私の方に顔だけを向ける。
　そして・・・ウィンクを一つしてまた前を向く。
　・・・どうやらかなり余裕があるらしい。
　何だか真剣に悩んでいた自分が馬鹿らしくなった。
　私がそう思っている内に事態が急変しました。
「さて、頂き物にしては物騒で量が多過ぎるな。
　受け取り拒否、という事で返却させてもらおうか！！」
　その言葉を聞いたのは私とシルフィールさんだけだった。
　しかし、その後に起こった出来事に全員が目を見張る！！
「疾風よ我が意に従え！！」
　エイジが構えていた剣を頭上に掲げ・・・一気に剣を海賊船の方向に振り下ろす。
　そしてその剣の軌跡に従う様に上空にある岩石が飛び出す！！
「う、うわ〜〜〜こんなの嘘だ〜〜〜〜！！」
「逃げろ！！　直撃だ！！」
　ドガシャ〜〜〜〜ン！！
　ドゴ〜〜〜〜〜ン！！
　グシャッ！！
　自分達で作り出した火炎岩石に次々と襲われる海賊達。
　まさにその光景は隕石の大群に襲われる船団そのものだった。
　そして海賊達は壊滅したのだった。

「呆れた強さですねエイジさん・・・
　何故始めからあの力を使って、海賊達を攻撃しなかったんですか？」
　私がそう責めると、エイジは静かな眼であたしを見詰めた。
「ならばアメリア姫・・・
　貴方は凄い力を持っている、というだけで人を殺す権利を持つのですか？」　
　その質問に私は凍り付いた。
　そう私も凄い力・・・権力を持つ身なのだ。
　簡単に人を殺せる力。
　だからこそ行使する側はその人格と倫理観を試されるのだ。
　その力を使うに値するかどうかを・・・
「確かに俺が本気を出せば事件は早く終わるでしょう。
　だがそれが本当に正しいのでしょうか？
　力を持つ者より、持たない者の方が遥かに多いのが現実です。
　だからこそ俺は出来る限り人の力のみで戦います。
　それが持つ者と持たぬ者が付き合う上での、最低限の礼儀だと思います。」
　私は恥ずかしかった。
　私はエイジの力に嫉妬したのだ。
　その巨大な力が私にあれば・・・と。
　この気持ちは力を持たない者の気持ちそのもの・・・
　そして嫉妬や恐怖にも直ぐに変化できる物。
　だからこそエイジは私を諌めてくれたのだ。
「ごめんなさい！！　私が言い過ぎました！！」
　私が素直に誤るとエイジは微笑んでくれた。
「いえいえ、アメリア姫ならご自分でも気付いていましたよ。
　それにしても素直な方ですね姫さまは、王族にしては本当に珍しいですよ。」
　笑いながらエイジが続ける。
　・・・一応、誉め言葉なんだろうな。

「でもその力は人間とは思えません。」
　シルフィールさんがそう切り出す。
　それは私も同じ意見だった。
「う〜ん、この力の正体は秘密だしな。
　ただ一つ言える事は俺だけの力じゃ無いって事かな。」
　また軽い調子に戻って話し出すエイジ。
　まあ私としてもこっちの方が気安く話せていい。
「じゃあその剣に秘密が・・・」
　私達の視線がエイジの剣に集中する。
　エイジは頬をかきながら答える。
「まっ、あの港町の人達には世話になったからな。
　本来ならこんな事したらタダじゃ済まないんだがな。」
　答えではないが、言外に私達の指摘を認めるエイジ。
　やはり基本的にお人好しらしい。
　私はゼルガディスさんやガウリイさんを思い出した。
　今は何処にいるんだろう？　と思いながら。
　そんな事を考えると、私はもうエイジを追及する気にはなれなかった。
「では住民を代表してお礼を言わせて貰います。
　港町を救って頂いて有難うございました。」
　頭を下げて礼を言う。
「いえいえ、どういたしまして。」
　エイジも私に向って頭を下げる。
　そして私達は同時にお互い顔を上げて微笑む。
　この人は悪い人では無い。
　ただ秘密が多いが問題だが、セイルーンに災いをもたらす事は無いだろう。
　私は私の直感と、このエイジに感じた私の大切な人と同じ心を信じよう。
　そして私達は生き延びた海賊達を連れて、セイルーンに帰って行った。
　だからその後にエイジあてに伝令が来た事を私は知らない。
　エイジの最後の呟きも。
「・・・了解っと。
　これでこの港町とも後一週間でおさらばか。
　さて、最後まで逃げ切れるかな？」
　そう言ってエイジは一人で笑っていた。
　

（９）へ続く

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