<真実への路> 第一部 第三話「あの丘へ至る路」 (1) 船に乗る為の桟橋の途中に懐かしい顔を見付けた。 軽く挨拶をしておくか・・・ 「久しぶりだなエイジ・・・元気にしてたか?」 「・・・10年振りの挨拶にしては色気がないですね。 女性の口説き方は上がったと、伝え聞いたのですけどね。」 顔では微笑みながらも痛烈な皮肉を返すエイジ。 こいつも10年前とそんなに変わりは無い様だ。 後ろではルークが笑いを堪えているのが気配で解った。 ゼルは相変らず顔を隠していて表情が解らないが・・・笑っている様だ。 「さて・・・さっそく出港するとしますか?」 船に乗り込む俺の横を歩きながら、エイジがそう聞いてくる。 「何故そんな事を聞くんだ? 別段もうこの港町に用事は無いだろうが。」 俺の返事を聞いてエイジが肩をすくめる振りをする。 そして俺の後ろを歩いているルークに話しかける。 「ルークお前はいいのか? 想い人は案外近く迄来てるかもよ?」 その言葉に反応して眉を吊り上げるルーク。 「今はそれどころじゃないだろうが。 ・・・それにミリーナが何故俺を追って来る理由がある。」 最後は消え入る様な声でルークは呟く。 そうかエイジの奴やっぱりリナの事を知っているのか・・・ 「これ以上この港町に滞在するつもりは無い。 早急な出港を頼む、エイジ=ラン=ロード=スカイヤー・・・ 空を翔ける者の名を継ぐ者よ。」 俺は姿勢を正し今のエイジの名を告げる。 それを聞いてエイジも姿勢を正し俺に問かける。 「・・・それは主君としての命令ですか? それとも・・・」 しかし俺はエイジに最後まで言わすつもりは無かった。 「そうだ主君予定の男の要請だ。」 エイジはしかし俺の顔を見つめ更に言葉を続ける。 「それだけでは承諾いたしかねます。 ・・・あの称号を継がれる覚悟はあるのですか?」 答え如何によっては船を出さない・・・ エイジの目は俺にそう語っていた。 「継ぐ・・・その為に俺はリナを置いてまでして、ここにいるのだからな。」 リナの事を思い出すと俺の胸の奥に鋭い痛みが走る。 この痛みを消す事が出来るのは・・・リナしかいない. 何時か笑ってリナを迎えにいけるだろうか? ・・・そう、俺が迎えにいくべきなのだ罪の清算をする為には。 俺は理由はどうあれリナとの約束を破った。 リナが俺に会いに来てくれると思うと、嬉しい気持ちで一杯になる。 今頃はセイルーンに着いているだろう・・・ もう一度リナに会いたい。 だが、会ってしまえば・・・俺はもうリナから離れられなくなってしまう!! 俺がこれからやろうとする事に、リナを巻き込みたくは無い!! いや、巻き込んではならないんだ!! 「エイジ出港を急いでくれ。 ルーク、ゼル・・・いいのか?」 俺は後ろにいる二人に最後の確認を取る。 「・・・最後に一目。 と思っているのは旦那だけじゃないさ。 だが今会えばあいつらは確実にこの船に乗船してくる。 それでは本末転倒だ・・・俺は絶対にアメリアの元に帰って見せる。 今は出港の時だ。」 相変らずクールな物言いだが、言葉に激情の欠片が見える。 すまんなゼル・・・お前を巻き込むのは俺の我侭かもしれんのに。 「俺も名を継ぐ者の一人だ・・・覚悟は出来てる。 ミリーナの事は一時忘れるさ。 そうだな、事が終わればガウリイと一緒にここに戻るつもりだしな。」 そして姿勢を正して俺に向けて礼をする。 「我が継ぎし名、ルーク=ディ=バーン=アフレイム。 炎を纏う者の名において主君ガブリエル様に従います。」 これはケジメだった・・・ ここから俺とルークは公の場では主従関係となる。 もう・・・あの頃には戻れないのだろうか? いや、もう一度あの頃に戻る為に俺達は今の関係を選んだ。 その為にも必ずやり遂げてみせる!! そして俺達は港町を出港した。 「エイジ最後に一つ教えてくれ。」 「・・・何でしょうか。」 俺がどんな質問をするのか解っているのかエイジの声が硬い。 「・・・兄さんは誰に殺された。」 「未だ主犯は解っていません。 ただ兄上様からガウリイ様に遺言がございます。」 聞きますか? と目で伝えるエイジに俺も目で承諾の意を返す。 「頼りない兄で悪かったなガウリイ。 済まないが俺が出来るのはここまでらしい。 後は頼んだ。 これが最後のお言葉です。」 俺はエイジに背を向け海を眺める。 「すまん・・・少しの間一人にしてくれ。」 「解りました・・・」 そして俺の周りから人の気配が消える。 ・・・最後まで俺を気遣うんだな。 俺を故郷から笑って送り出してくれた兄の顔が思い出される。 俺は兄さんに自由を貰った。 兄さんは自分が一番欲しかった物を俺にくれた。 だが、俺は兄さんに何もしてやれなかった・・・ 「・・・兄さんの遣りたかった事は俺が継いでみせる。 上で見ていてくれよな。」 俺は晴れ渡る空を見上げながら心にそう誓った。
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