<真実への路> 第一部 第三話「あの丘へ至る路」 (10) 「懐かしいな・・・この丘も。」 俺は遂に故郷の地を踏んだ・・・ この地を飛び出して10年・・・ その時間が短いのか長いのか実感は湧かなかった。 「ただ・・・この丘からの景色と。 兄さんに光の剣を渡された事だけは忘れていない。」 今、俺がいる場所はこの国の王城ルノバの裏だった。 その裏にある小高い丘・・・ そして目の前にあるのは墓石・・・ 「・・・墓参りは終りましたか?」 「・・・ああ。」 「兄王さまのご希望でこの地に墓を作らせました。 責は全て私に御座います・・・」 俺の後ろで老人、前宰相・・・ブライがそう報告する。 「誰も責めたりしないさ・・・ 兄さんはこの丘が好きだった。 あんな窮屈な王墓よりよっぽど兄さんらしい選択だ。」 それに・・・俺を待っていてくれたんだ。 この国が見渡せるこの場所で。 「・・・将軍達が到着いたしました。」 「ああ、解ってる。」 後ろを振り向いた俺の前に七人の人物が目に入った。 ルーク、ゼル、エイジ、前宰相のブライ、フィーナ・・・ そして四聖の将軍の残り。 「久しいな・・・ジーク、ノア。」 「お待ちしておりました。」 「・・・本当に、お久しぶりですガウリイ様。」 二人共に10年振りの再開だった。 黒将軍ジーク=ディ=コール=グラン、地を守りし者。 短い黒髪、黒瞳の武人の顔をした大男だ。 氷将軍ノーフィス=ラス=アイン=ブリード、通称ノア、氷雪を呼ぶ者。 長い銀髪、碧眼の長身の美人だ。 二人ともに俺の幼馴染であり・・・ 俺と国とがもっとも信頼する将軍である。 そして炎将軍ルークと翼将軍エイジ・・・ この国が誇る四聖の将軍。 だがその力を人間相手には使う事を縛められている者達。 しかし近い将来彼等は全力を持って戦う事になるだろう。 そう遠く無い未来で。 「・・・で、現宰相のガドル殿が御自分の領地に逃げ込み叛乱を起しましたが?」 軽くそう俺に報告するルーク・・・ 逃げ足だけは相変らず素早いな。 「恐らく後援として北の国コルデが関与していると思われます。」 ブライがそう締めくくる。 「解った・・・ ルーク将軍!! 炎将軍として指揮下にある紅の兵団、二万で叛乱の討伐にでろ!!」 「御命令、確かに拝領いたしました!!」 「氷将軍ノーフィスは蒼銀の兵団全てをもって、港と国境の警護に当たれ!!」 「了解しました!!」 「黒将軍ジークは黒龍の兵団全てをもって本国及び、周辺の街の護衛を強化!!」 「承知しました。」 「翼将軍エイジは白鳳の兵団全てをもってそれぞれの軍への糧食の配送、及び情報網を構築!! そして他国と叛乱軍の情報収集を急げ!!」 「ただちに!!」 俺はそれぞれの将軍に初めての命令を出す・・・ そして、ここからが正念場だ。 「ゼル、お前さんには別の頼みがある。」 「・・・何だ?」 「ブライの補佐をして宰相の仕事を覚えて欲しい。 ここから先の戦い、宰相も命を狙われるだろう・・・お前が後継者になるんだ。 それでも受けてくれるか?」 俺はゼルの目を正面から見据えて頼んだ。 暫しお互いの視線で火花が散る。 「・・・正直言って癪だが、戦闘に関しては今のルークにさえ勝てんだろう。 しかし、事そっちの分野では圧勝する自信がある。 その為に俺を連れて来たんだろう? よかろう、立派にその役を果たしてやる。」 真剣な目で俺の要望に応えるゼル。 すまんな今までゼルの役を隠していて・・・ 「それでは今後とも宜しくお願いしますブライ老。」 「なになに、この老骨には息子がおらんでな・・・この年で息子が出来るのも悪く無い。」 ・・・息子じゃないんだが(汗) まあ昔から掴み所の無い人だったからな・・・ ゼルも大変だろうな。 「それでは各自自分の命令を実行せよ!!」 「承知しました!!」 そしてその場から全員が立ち去る・・・筈だったが? 「ガウリイ様・・・私はどうすればよろしいのですか?」 「フィーナ・・・君は王城で逃げて来た君の神殿の巫女達を束ねてくれ。」 この頼みは彼女にしか出来ない事だ。 「・・・嫌です!!」 「へ?」 思わず間抜けな返事をしてしまった。 「ガウリイ様の・・・お側にいさせて下さい!!」 「そ、それは・・・」 「ちょっと待ちなさい!!」 恐る恐る振りかえると・・・そこには氷将軍ノーフィス、愛称ノアがいた。 「何を巫女如きが生意気に、ガウリイ様のお側に寄ってるのですか!!」 「そんな事をノアに言われる筋合いは無いわよ!!」 「何ですって!! フィーナこそ国に帰りなさいよ!!」 ・・・この二人も幼馴染だったんだよな。 俺は誰とも無しに呟いた。 でも昔から仲が悪いんだよな・・・ 『・・・天然か。』 (何だよロウ、天然って?) 『・・・』 「私はガウリイ様に呼ばれてこの国来たんです!!」 「じゃあ私があなたの国まで送ってあげるわ!!」 「どうしてそうなるのよ!!」 「帰れる場所があればいいんでしょ!!」 ぎゃーぎゃー × 2 ・・・・・ ・・・・ ・・・ ・・ 「はあ・・・」 頼むから早く命令を実行して欲しい・・・ 視線を感じて後ろを振り向くと。 「やっぱりああなったか・・・」 「ゼル、もしリナが来たらこの国ってどうなると思う?」 「・・・そんなに危ない女性なのか?」 「ジーク・・・向こうの大陸ではドラゴンも跨いで通る、と噂される程の女性らしい。」 「ほっほっほっほっ!! 若い者は元気があってよろしい!!」 岩陰に隠れて俺と女性二人を盗み見している影四つ。 ・・・俺は先行きにかなりの不安を感じた。
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