<真実への路>

 

 

第一部 第四話「再会」

 

(12)

 

 

 搭の最上階に3人の人物が居た。

 一人は長い金髪に黒いライトメイルを着た長身の男性

 一人は黒いローブに身を包んだ人物

 一人はそのローブの男の背後で震える小男

 

 時刻は深夜、その三人の姿を見ているのは天空に輝く月だけだった。

 

 

 

「随分と動きが速かったな、ガウリイ殿」

 

 ローブの男が対峙している金髪の男性・・・ガウリイに話し掛ける。

 

「ゾンビを操ってる大元を倒すのが、一番早い解決だと思ったからな。

 もっとも、そんな事はオマケみたいなものだがな」

 

    チャキ・・・

 

 右手に持っていた剣を構えるガウリイ。

 それに呼応するように、黒いローブの男は右手を持ち上げ・・・その手の平の先に、暗褐色に染まる光を集める。

 

「ひ、ひぃぃぃぃ・・・」

 

 二人の戦いに巻き込まれて堪らないとばかりに、転がるようにその場から逃げ出す小男。

 この小男の名前はガトル、この国の内戦を引き起こした張本人だった。

 そしてそのガトルに力を貸し、操っていた人物こそこの黒いローブの男・・・ダリオだった。

 

「必ず返してもらうぞ・・・リナを」

 

「貴様の命と引き換えに、な」

 

 ダリオが打ち出された暗褐色の光を放つ玉を、ガウリイの剣が引き裂く。

 そのままの勢いで斬り込んでくるガウリイの一撃を、背後に飛び退る事で避けるダリオ。

 しかしガウリイの剣戟の凄まじさを物語るように、ダリオの着るローブの裾が裂け・・・次の瞬間には繋がった。

 

「魔族でも着物に拘りがあるのか?」

 

「長い間、人間の真似事をしているとな」

 

 深く被ったローブのせいで顔は見えないが、確かにダリオは笑っていた。

 ガウリイの問い掛けに、茶化すような口調で返事をする。

 魔族にとって着物すら自分を構成する一部である。

 別にローブ姿に拘る必要な無いのだが、ダリオはその姿を維持するつもりの様だった。

 

「見事に自分の力を抑えているが・・・何処まで耐えられるかな?

 全力で戦えば私を倒す事など簡単だろうに」

 

「余計なお世話だ。

 リナが階下にいる以上、下手な攻撃などするものか!!

 そもそも、貴様の目的はリナを人質にして、俺の力を封じ込める事だろうが!!」

 

 次々と繰り出されるダリオの攻撃を、自分の剣で防ぎつつ・・・二人の戦いは白熱していった。

 そしてその戦いの余波を恐れるように、ガトルは必死の思いで階下へと続く階段を降りていた。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ・・・冗談じゃないぞ、あのガウリイとダリオの戦いに付き合いきれるものか!!

 大体、ダリオの奴も私を囮にして、ガウリイを屋上に誘き寄せるなど無茶な事をしおってからに!!」

 

 命の危機が去った安堵感から、利用をしているつもりで、何時の間にか利用されていたダリオに怒りを向けるガトル。

 彼の予定では兄の訃報を聞き、国に帰って来たガウリイを捕まえれば全ては終る筈だった。

 四聖将軍達の動きも見張っていたつもりだが、ルークの存在により情報が漏れてしまったのだ。

 何よりもあれほど嫌悪していた神殿に、ガウリイが自ら赴くとは予想すらしていなかった。

 それ以降は坂道を転げ落ちるように、次々と隠してきた犯行がバレていった。

 

 ―――そして気が付けば、国境にある砦の一つに追い込まれていたのだ。

 

「認めん、こんな現実は決して認めんぞ!!

 私はきっと復讐をしてみせる!!

 何が四聖だ!! 何が王家だ!!

 兄はただ優しいだけが取り得の無能者、弟は自分の力に怯える臆病者ではないか!!

 ・・・血筋になどに敬意を払う必要など私は認めん!!」

 

 ぎりぎりと歯軋りをしながら、自分の正当性を確認するガトル。

 自分は間違っていない、あのままでは他国に滅ぼされるのが目に見えていたのだ、と。

 

「ま、魔族に野心を唆されたとはいえ、自分の主君を謀殺したんだ。

 それなりに痛む心も残ってた・・・って事か。

 だがな、俺はお前を許せねぇよ」

 

 突然掛けられた言葉に、驚いて通路の先を見るガトル。

 そこには赤い剣を片手に立つ男・・・ルークが居た。

 

 

 

 

 

 

 

「リナさん!! 大丈夫ですか!!」

 

「う・・・ミリーナ?」

 

 繋がれていた鎖が解かれ、自由になった身を抱き止められる。

 抱き止めた人物はリナが良く知る女性・・・ミリーナだった。

 

「ははは、流石ねミリーナ・・・一人で逃げ出したんだ?

 あたしなんて魔力を封印されるは、お腹は空くわで全然動けなかったわよ」

 

 嬉しさ半分・・・だが寂しさも交えた声でミリーナにそう話し掛けるリナ。

 自由になった瞬間、彼女が考えたのは一人の男性の姿だったから・・・

 

 その気持ちを振り切るように、頭を左右に振るとミリーナの手を借りて立ち上がる。

 捉えれられてから一日中、食事もとらず不自由な格好で囚われていたが、仕返しをする気力だけは満々だった。

 やるせないこの気持ちをぶつける相手を、無意識のうちに求めていたのかもしれないが。

 

 そんな空元気を見抜いたのか、ミリーナが苦笑をしながらリナに話し掛ける。

 

「リナさん・・・ガウリイさん、来てますよ」

 

「!!」

 

 全ての動きを止め、ゆっくりとミリーナの方を向くリナ。

 そんなリナに向かってミリーナは再び同じ事を告げた。

 

「ルークと二人で乗り込んできたのよ。

 私も・・・ルークに助けられたわ。

 今はこの反乱の元凶と戦ってられるそうよ」

 

       ズズズズン・・・

 

 ミリーナの言葉を証明するように、搭全体を揺るがすような衝撃が頭上から走る。

 細かな石の破片が降る中で、リナとミリーナは同時に天井を見上げた。

 

「・・・本当は自分の手で助けたかったそうだけど。

 でも、ゾンビ達の進撃が始ったから、仕方なく敵を仕留める事を優先したらしいわ」

 

 王としての義務がある以上、どうしても敵の驚異を見逃せなかった。

 その心情を汲んで欲しいと、ミリーナはリナに伝えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「に、似合わない気遣いするんじゃないわよ・・・あの馬鹿」

 

 目元を拭いつつ、先ほどより元気な声でそう呟くリナだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(13)に続く  次で第四話は終了〜

 

<真実への路>トップに戻る