雪谷食堂の居候兼従業員のテンカワ・アキトが、ラピスを拾って(?)来た翌日・・・
その日の営業のため、仕込やら何やらで慌ただしい最中のこと
「・・・アキト、これお前が作ったのか?」
これとはアキトの作ったチャーハンのこと。たずねているのは店主のサイゾウさん
「・・・そうですけど、何か問題ありましたか?」
アキトは少し恐る恐る聞き返す・・・
「いや、問題なんてねえ・・・それどころかお前が今まで作った中では最高の出来だ・・・」
「本当ですか? サイゾウさんにそう言ってもらえるとうれしいっす」
いつもは辛口批評のサイゾウに、めずらしく褒められてアキトはとてもうれしそうだ・・・
「・・・・・・」
それとは対照的に、何やら難しそうに考え込むサイゾウ
『偶然うまくできたなんてモンじゃねえ・・・急にうでが上がるなんてことあるのか?・・・・・・』
何か壁を突き破って急にうでが上達することもある・・・
だがこの場合はそんなものじゃない、いったいどうしたんだアキト?
サイゾウのその疑問に誰も答える事はないのだった・・・・・・
機動戦艦ナデシコ
ラピスの想い
〜外伝その一「雪谷食堂での日常補足」〜
By 三平
時間は少しさかのぼる・・・
ラピスは少し遅めに目を覚ました
「・・・ココは・・・・・・!!」
桃色の髪の少女は、布団の中で少し寝ぼけ気味だったが、はっと気が付く
ココはどこだろう?
ナゼワタシはココに居るのだろう?
そこは見た事も無い木造住宅の一部屋
そしてラピスは思い出す、昨日の事を・・・・・・
「そうだアキト、アキトは・・・」
この部屋には誰もいない、アキトはいない
アキトはドコにいるの・・・?
ラピスは急に不安にかられ、布団から跳ね起きた
「アキト、アキト〜ッ」
と、そこにすーっとふすまが開き
「どうしたんだい?ラピス」
とりあえず朝食の準備が出来たので、ラピスを起こしに来たアキトがそこにいた
「アキト、モウどこにも行かないで・・・」
と、いってラピスはなかなかアキトをはなしてくれないのであった(苦笑)
ぴと・・・ラピスくっついてます(さらに苦笑)
(どうしてかわからないけど、離れ離れになることにすごく臆病なんだなあ・・・)
と、アキトは思う・・・・・・
なんとかしてあげたいけど、どうすればいいんだろう?
「今朝の朝食は俺が作ったんだけど、どうかな?」
「アキトがつくった?・・・」
ラピスは少しだけ驚いている
今まで彼女の知ってるアキトは、食事を作ったことなどなかったから・・・
ユーチャリスではほとんど出来合いのランチパックか携帯食ばかりだったし
食事とは栄養補給の手段でしかなかったのだから・・・(足りない分は栄養剤)
「ラピスの口に合うかどうか食べてみてよ」
そう、アキトが言う・・・味の事気にしているようだ
そういえば、昨日食べたあのおじさん(サイゾウ)の作ったものは今まで食べたなかで一番味が良かった
アキトの作ったこれはどうだろう?
それはご飯に味噌汁、焼き魚に目玉焼きという基本に忠実な献立だが・・・
ラピスには今まで縁の無かった新鮮な献立だった。
ぱくっ
ラピスが食べるのをアキトはじっと見つめていた・・・
「・・・おいしい・・・・・・・・・」
それがラピスの口から出た言葉だった
その様子にアキトは『良かった』といった風に顔をほころばせる
照れたような笑顔だった(テンカワスマイルというやつかな)
その様子にラピスは少し戸惑いつつもご飯を食べる・・・アキトのご飯は美味しいから
ぱくっ、ぱくぱくっ・・・
アキトのご飯を食べながらラピスはふと思い出す
エリナが・・・エリナ・キンジョウ・ウォンが言っていた昔のアキトのことを・・・
それは、その時たまたま側にアキト(黒アキト)が居ないとき、エリナがラピスの事を見ていた時のことだが・・・
エリナは強い女性
いや、普段は強がって見せて人に弱みや弱いところを見せないようにしているが、ホントは弱い女性なのだ
それだけに、ふと弱気になることも、誰かに本来の弱い自分を見せたくなる事もあるようだった・・・・・・
そんな時、ふと、ラピス相手に愚痴のひとつもこぼしてしまうのだった・・・
そうした話の中に、昔のアキトの話が出るのも自然な成り行きかもしれない
話している本人も、今こんな話をしても無意味な事は承知のうえで・・・・・・
「・・・あの人はね、ホントは優しくてお人好しで、照れ屋で寂しがり屋でね・・・まあ色恋沙汰には鈍いというか鈍感だったけどね・・・」
つい、昔を懐かしむのは仕方が無いかもしれないが・・・
どこか生き方が不器用なアキトの話、アキトの作る料理の話、今はもう見る事の出来なくなった笑顔の話・・・などなど
「・・・あなたにもあの頃のアキト君に会わせてみてあげたいわね・・・ホントは復讐なんて、あんなこと出来る人じゃなかったのに・・・・・・」
そう言うエリナはとても辛そうだった。
でもラピスにはピンとこなかった。そのころのラピスにはわからない話だったかもしれないが・・・
黒い復習鬼に成り果てたその頃のアキトにはそんな面影など無かったのだから
そして、ラピスにはそのアキトが自分にとってのすべてだったのだから・・・
でも、どうしてこんなこと思い出したんだろう?
・・・!?そうか、このアキトはエリナに聞いた昔のアキトみたいなんだ・・・・・・
ふと、その事に気づくラピス・・・でもどうして?
小さな疑問に気が付きつつも、その答えがでないまま朝食もおわり後片付け・・・
「あ、そうそう、これめくっておかなきゃ・・・」
アキトが日めくりのカレンダーをめくってそれをゴミ箱にすてる
日常のごくありふれた風景のはずだったが・・・
それがラピスの目に留まった・・・日付は2196年10月の・・・・・・!!
『2196年!?』
でもどうして五年も前のカレンダーを使っているのだろう?
いや・・・・・・もうラピスは気づいていた、気づかされてしまった・・・
『ワタシ、ランダムジャンプで過去に飛ばされたんだ・・・』
あのときのジャンプの暴走で・・・
いや、自分が飛ばされたことはわかり切っていたはずだけど、過去に飛ばされているとは思わなかったから・・・そして
「どうしたのラピス?、何かあったのかい」
アキトが心配そうに話しかけてくる
ああ、そうか・・・・・・ラピスの知らなかったこのもう一人のアキト、やさしくてあったかいアキトは・・・・・・
『・・・あなたにもあの頃のアキト君に会わせてみてあげたいわね・・・・・・』
エリナが会わせたいと言っていた、むかしのアキトなんだネ
あの時わからなかったエリナの話、今少しだけわかった気がする・・・・・・
「大丈夫だヨ、チョット考えごとシタだけ・・・」
「何とも無いのなら良かった」
そう言ってアキトはラピスの頭を優しくなでたのだった
ラピスは思う、過去に飛ばされてこれからどうなるか? どうすれば良いのかわからない・・・
でも、今はこのアキトについて行こう・・・ワタシにはそれがすべてなのだから
ラピスの誘拐未遂事件がおき、それが切っ掛けで二人がナデシコに乗り込む事になるのは
これから一ヶ月半の後の出来事である。
だが、その前に穏やかで平和な雪谷食堂での日常生活は
後で思い返せば、アキトとラピスにとって貴重なひとときは
まだ始まったばかりなのであった。
つづく
あとがき
ぜーぜーぜー、よ、ようやく久々の投稿ができそうです。(ほぼ半月ぶり?)内容は薄いですが、ラピスの想い「外伝1」をおくります
一度こけるとなかなか次に行けない物ですね・・・SS書くのが止まってしまってどうしようもないというか・・・
ともかく、短くても良いから書くことを優先しました・・・どうだったでしょうか?
とはいえ、次は早くできそうです。ラピスの想い「第三話」は途中まで書いてあるし二三日中には投稿できるのではないでしょうか?
さて、愚痴や言い訳はこんなもんで良いとして、書いてるうちになぜにかエリナさんがラピスの回想(?)に出てきちゃいました。
考えてみるに、アキト以外ではこの方がラピスのこと見てたんでしょうね・・・ただし、あの未来のエリナさんにはともかく
この時代のバリバリキャリアーウーマンなエリナさんとどういう関係になるのか・・・まだ先の話だが、誰か教えてくれないかなあ(おい)
でも、ほんとにどうしよう?
僕は、この話を書くに当たり、ラピスにラピスの知らない昔のアキトに会わせてみたかった、というのがあります
話中のエリナも話の流れでそう望んでましたしそれができましたね・・・・・・
ただ、エリナ(未来)もまさかラピスが過去に戻り、過去の自分の強力なライバルになるとは夢にも思ってないでしょうね・・・
このSS、日常補足のはずが、結局横道それちゃってますが、まあいいでしょう。(ラピスの服とか身の回りの品買い物に行かせたかったのだが)
(アキトのことあまりふれてないなあ・・・まあいいか)
必要な事は本編でフォローするとしようかな・・・ある程度は何とかなるでしょう
ということで、次回もよろしく
代理人の感想
ライバルになるンかい(笑)。
・・・まぁ、「女性はゆりかごから墓場まで」があ奴のモットーだし問題はないのか?(爆)
ナデシコでは取り敢えずラピスはミナトさんに面倒を見てもらうんでしょうが、
この時期のエリナも潜在的世話好きである節があるので、自分に懐いてくる女の子に対しては
結構面倒見が良くなってしまうんじゃないでしょうか?