(僕の名前はマキビ・・・ルリ!?「第5話」)



連合宇宙軍に喧嘩を売った形で、大気圏突破を目指す戦艦ナデシコ。
現在は、第四防衛ライン(地上からのミサイル)を突破中、
もうじき、第三防衛ライン(ディルフィニウム部隊)に接触しようかというタイミングであった。
そして、格納庫では、

「おらおらおらおら〜っ、ダイゴウジ・ガイ様のお通りだあ〜っ」

人の説明を聞かない熱血馬鹿が約一名、やたらハイテンションで、張り切っていた。
ゴートの説明も、ウリバタケの忠告も、まるで聞いておらず、
早く、エステバリスの発進の許可を出すよう、催促していた。
ブリッジで、そんな様子を把握していたオペレーターの少女、ホシノ・ルリは、
そんなヤマダに不安を覚え、無駄と思いつつも、思わず忠告していた。

「ヤマダさん。敵のほうが数が多いで…「ダイゴウジ・ガイだっ!!

「あ、はい、すみませ……」

ヤマダ・ジロウの名前の訂正要求に圧倒され、ルリは思わず、『ガイさん』、と訂正しようとした。
が、次の彼の一言が、全ての流れを変えてしまった。



わかったか!、ドブスチビ!!



「………………はい?、えーっと、いま何て?、よく聞こえなかったんですけど」



「なんだ、聞こえなかったのか?

俺はガイ、ダイゴウジ・ガイだ!!、よく覚えておけ、ドブスチビ!!



「…………艦長、ヤマダ・ジロウさんが、発進許可を…「ダイゴウジ・ガイだ!!



結局この後、ヤマダの訂正要求に、ルリはなぜだか応じることはなく、
発進許可の下りたヤマダは、そのままエステバリスで出撃していったのであった。





「ルリルリ、ヤマダ君の言った事なんて、気にしちゃ駄目よ」

「え、いやだなあミナトさん。ボクは気になんてしていませんよ。あははは……」

隣で、ルリとヤマダ、二人のやり取りを見ていたミナトは、フォローしようと、ルリに話し掛けた。
当のルリは、そんなミナトに心配をかけまいとしてか、平静を装って笑って応えた。
が、その笑顔はやや強張り、声も不自然に裏返っていて、何より目が笑っていなかった。
わかり易すぎるルリの反応に、ミナトは、

『ルリルリでも、やっぱりショックだったのね。ああは言っても、しっかり態度に出ちゃているし、
普段ルリルリは、女の子の自覚が少ないけど、こういう時のあの反応は、やっぱり女の子よね』

とまあ、こんな感想を抱いた。
ミナトはルリの裏の事情を知らない所為か、少しピントがずれたかもしれない。
あるいは、ルリがショックを受けた理由は、本人が自覚していないだけで、
実際にミナトの想像通りなのかもしれない。まあ、それはともかく。

「ヤマダ君、この後は、きっと大変よね、色々とね……」

モニターの画面のヤマダのロボットを見つめながら、ミナトは思わず意味ありげに呟いていた。
そんでもって、ちょうどその頃、ミナトの危惧の理由のひとつが、格納庫で騒いでいた。

「あのバカ、ルリちゃんのことを、ドブスチビだと!!」

ヤマダの発言に、整備員の皆さんは、大層ご立腹な様子であった。
ヤマダ、帰ってきてから、本当に大丈夫なのだろうか?
いや、それ以前に、一人で出撃していって、無事に帰ってこれるのだろうか?

「しょうがねえだろ、今の落ち込んでいるアイツを、出撃させるわけにはいかないからな」

アイツとは、アキト君の事だろうか?、事情はわからないが、お優しいことです。
で、本当の所はどうなのでしょうか?

「がーははははっ、俺様一人で行って、一人で活躍したほうが目立てるからな、
こんどこそ、アイツにだけいい格好は、させないからな」

……結局、それが本音ですか?

「それに、あの生意気そうなチビにも、ピシッと言ってやった。
これで、少しはアイツの仇はとってやれた事だしな、その分俺様が一人で活躍しても悪くはないだろ」

……アイツの仇?、それは、どういう意味なのだろうか?、そもそもアイツとは?
その話は、少し前までさかのぼる。







機動戦艦ナデシコ

僕の名前はマキビ・・・ルリ!?



〜第5話「漢たちの熱い事情」〜



By 三平









今回の作戦(地球圏脱出)が行われる直前、パイロット二名は出撃に備えて自室で待機していた。
正規のパイロット、ヤマダ・ジロウ(自称、ダイゴウジ・ガイ)は、戦いを前に士気を盛り上げるために、
ゲキガンガーのビデオを、自室で上映、鑑賞していた。それはそれは楽しそうに。
だが、一緒に見ていた(見せていた)テンカワ・アキトは、ちっとも楽しそうでなく、溜め息をついていた。

「なんだなんだ、湿気た面して。俺がせっかくゲキガンガー見せてやっているってのに、面白くないってか」

「ち、違うよ。ゲキガンガーは好きだよ。でも、今はそんな気分になれないだけなんだ…」

「ん?、何かあったのか?、俺でよければ話を聞くぜ、話してみろ」

ヤマダは、アキトの態度から、知らないところで何かあったと察して、ゲキガンガーの上映を止めた。
熱血ゲキガンガー馬鹿には珍しい事だが、アキトの話を聞いてみようという気になったようである。

「でも……」

「あー、イライラする。俺はそういううじうじした態度は大嫌いなんだ。いいからとっとと話せ!!」

ヤマダ(ガイ)は、渋るアキトに、強引に話をするように促した。
アキトも、そんなヤマダの態度に、何があったのかを、ぽつりぽつりと話しを始めた。





それは、つい数時間前の出来事だった。
その時、アキトは食堂で、料理人見習いの仕事を務めていた。
そんなアキトに、ホウメイが声をかけた。

「テンカワ、ちょっとオムライスを作ってみな」

「オムライスですか?」

「そう、ちょっと特別なお客さんのだから、気合入れていきな」

そう言いつつもホウメイの表情は、あまり気のりしないように見えた。何やらいわくがありそうだ。
アキトは、オムライスの作り方は知ってはいるが、お客に出す程のモノは作った事はない。
はたして、そんな自分がいきなり特別なお客とやらに出すモノを、作ってよいものだろうか?
いわくありげなこの注文に、アキトはどうすればいいのかわからずに、戸惑いを感じていた。

「テンカワ、中の味付けは、少し甘めにしてみな」

「シェフ、……はいっ」

そんなアキトに、ホウメイはこっそりとアドバイスをしてくれた。
おかげで迷いは吹っ切れた。アキトは、一度自分の両頬を両手でピシャリと叩き、
気合を入れなおして、オムライス作りを始めたのであった。





「出来た」

アキトにとって初めての、オムライスが完成した。
見た目はまあまあ、中のチキンライスの味のほうも、ホウメイのアドバイス通り、少し甘めに出来た、
初めてにしては出来栄えは良いと思う。アキトはホッとしていた。
完成したオムライスが運ばれて行き、それを見送りながらアキトは思った。

『あれを食べる、特別なお客って、誰の事なんだろう?』

どんな感想が返ってくるんだろう?
あのオムライスで、喜んでもらえるんだろうか?、それとも……、
もし良かったら、感想を聞かせてほしいな。

だけど、まさかあんな反応が返ってくるなんて、この時アキトは想像もしていなかった。



その少し後に、サトウ・ミカコが慌てて厨房に、駆け込んできた。
深刻そうな表情で、なぜか同僚のテラサキ・サユリに、何やらひそひそ話、
それを聞きながら、サユリも表情を曇らせている。
ホウメイガールズ(便宜上、この表記)の他の娘たちも、その様子を心配そうに見ていた。

嘘でしょう。……まさか残すなんて
だって…ちゃんは、オムライスが好物だって言っていたほどなのに
……どうする?、こんな事になるなんて、これじゃ逆効果だよ

ひそひそと、いったい何事だろう?
何を話しているのかよく聞こえないけど、深刻そうな雰囲気である事は、アキトにもわかった。
同僚の少女たちの、その様子を見ながら、アキトはふと思った。
こっそり何やら企てて、シェフ(ホウメイさん)に働きかけたのは、あの娘たちだったんだなと。

『そういえば、さっき俺の作ったオムライスは、ミカコちゃんが運んでいったんだったよな』

同時に、その事に、なぜかピンと来るものを感じたアキトは、食堂にむかって駆け出していた。

「あ、アキトさん!、ちょ、ちょっと待ってください!!」

後ろから、慌てて制止するような、誰かの声が聞こえてきたが、構わずに食堂へ、
そして、アキトはテーブルの上の、それを見た。
アキトの作ったオムライスが、ほんの少しだけ食べかけの状態まま、ぽつんと置いてあった。

「あの〜、アキトさん。これはですね……」

「ミカコちゃん!、このオムライスのお客さんて、誰?」

アキトにとっては、当然の疑問だった。なぜ?、どうして?
ミカコは、アキトのその勢いに押されて、つい口を滑らせてしまった。

「それは、ルリちゃんの……」
「ば、ばか!!」
「あっ!」

サユリが慌ててミカコを止めるが遅かった。
もっとも、アキトは最後まで聞いてはいなかった。
『ルリ』という少女の名前を聞いた直後に、食堂を飛び出していた。





「いた!」

アキトは、食堂からブリッジへ向かう通路上、自動販売機のコーナーで、ルリの後姿を見つけた。
見つけたはいいが、ルリを見つけた後どうするのかまでは、咄嗟には考えていなかった。
アキトはただ、理由を知りたかっただけかもしれない。

『俺の作ったオムライスの、何が気に入らなかったんだ?』

それを聞きたいはずなのに、何故か声がかけ辛かった。答えを聞くのが怖いと感じていた。
少女は、そんなアキトに気付かずに、ドリンクを片手に、ある自販機の前で何かを待っていた。

コトッ

小さな音がして、自販機の取り出し口にそれが落ちてきた。
少女はそれを、暖められたチーズバーガーを取り出して手にとった。
そして、……その光景とその意味を理解したアキトは、激高して思わず口走っていた。

「ルリちゃんは、俺の作ったオムライスより、自販機のファーストフードの方がいいのかよ!!」

少女は、突然の声に驚いて振り向き、目を大きく見開いて、驚きの表情でアキトを見た。
が、次の瞬間、スッと目を細め、アキトを睨みつけながら、怒ったような声で言った。

「ああ、そうだよ!、あんたの作ったものより、これの方がずっといいよ!!」

ルリは、ただそれだけ言い捨てて、アキトに背を向けると、足早にその場を離れて行ってしまった。

「あんたの……、俺の作ったものよりずっといい……」

アキトは、ルリの捨て台詞にショックを受け、その場に取り残されたまま、呆然としていた。



この後、食堂に戻ったアキトを、ホウメイガールズの面々はフォローしようと、
あのオムライスを皆で食べて感想を述べたり、慰めたりしたが、落ち込んでいる彼の耳に入らず、
そのうちに、パイロットには待機命令が出て、アキトは自室へ戻り、そして今に至るのだった。



そこまでの事をヤマダ(ガイ)に話し終えたあと、アキトはぽつりと呟いた。

「俺、あの子に嫌われているらしいんだ」

彼、テンカワ・アキトは、普段はこういうことには鈍かった。
ルリのアキトに対する反感に、他の人達は薄々気付いていたのに、彼は今まで気付いていなかった。

「俺の作ったものより、ファ−ストフードの方がずっといいんだってさ」

だが、いくらアキトが鈍くても、ああまで言われれば、さすがに気付いてしまった。

『俺、何かあの子に嫌われるような事、したんだろうか?』

いくら考えても、理由はわからなかった。
そもそも、嫌われるほど接する機会もなかったはずだ。
嫌われるのは仕方ないけど、作ったオムライスを食べてもらえずに、ファーストフードの方がいいなんて、
コックとしての自分を、強く否定されたような気がして、とても悲しかった。
 
「はあ〜っ」

そうやって話をして、さっきの事を思い出すうちに、アキトは更に悩み落ち込んでいくのだった。





「何だ、そんなつまらん事で落ち込んでいたのか」

「つまらない事だって!!」

アキトの話を聞き終えたヤマダ(ガイ)は、つまらなそうにつぶやいた。
そんなヤマダに、アキトは食ってかかる。

「ああ、つまんない事さ。だってそうだろ!
あのコに嫌われているだって?、料理を食ってもらえなかっただあ?、上等じゃねえか!!」

ヤマダ(ガイ)は吼えた。
落ち込んで覇気のないアキトに、熱い思いをぶつけていた。

「確か前に言ってたよな、『俺はコックだ。パイロットじゃない』だあ?、笑わせるな!
このくらいの事でそんなザマじゃ、コックにもパイロットにも何にもなれやしないぜ!!
悔しいか?、悔しかったらお前の意地を見せてみろ!、お前はコックになるんだろ?
今度はもっとぐうの音も出ない程、美味いもの作って、
あの生意気そうなチビを、見返してやりゃいいんだ!!」



一気にまくしたてた、ガイの言葉は熱かった。そのガイの熱い言葉に、アキトはっとした。
同時に、つい先日、お世話になっていたサイゾウさんの言葉を思い出した。

「お前、何にもなれやしないぜ、逃げてるうちはよ」

アキトは、自分になにが不足しているのか気がついたような気がした。
すっきりと何か吹っ切れたような表情で、ヤマダを見返した。そして……、

「ありがとう、ガイ。俺、結局逃げていたんだ。あの時も、そして今も……、
俺、もう一度がんばってみる!!」

「よーし、その意気だ。俺が取って置きのいいもの見せてやる!!」

そう言って、ヤマダ(ガイ)は、ゲキガンガーの27話以降のビデオを取り出したのだった。





「アキト〜、アキトってば」

アキト(&ヤマダ)の部屋に、振袖姿のナデシコ艦長ミスマル・ユリカが、
アキトにその晴れ着姿を見せようと思い立ち、やって来た。のだが……、



「わかるか、わかってくれるか。男の死に様はああでなくっちゃ」

「ありがとう。こんな良いもの見せてくれて、本当にありがとう。うう〜っ」

アキトはヤマダ(自称ガイ)と、暑苦しいアニメを見ながら、抱き合って泣いていた。

「…こっちのほうがいいのに」

せっかくアキトに、振袖姿を見てもらおうと気合入れてきたのに、結局気付いてもらえず、
ユリカはがっかりしながら、すごすごと引き上げていったのだった。





だからユリカは気付かなかった。
ガイがぽつりと洩らした独り言に。

「少し元気が出たみたいだな……」





ガイが出撃して言った後、アキトは一人部屋に残って、ゲキガンガーのビデオを見ていたが、
突然、そのガイ(ヤマダ)が、敵に捕まったと知らされた。

「しょうがないなあ」

ゴートの状況説明を聞きながら、アキトはエステバリスで出撃していった。
ガイを、大切な友人を、助けるために。





つづく



あとがき

11月のはじめごろ、このシリーズの感想メール(?)というものが来ました。

あまりこういう場で、他人のメールの内容を晒してうんぬん言うのは好まないのですが、

この人は、アキトに突っかかるハリルリが嫌いなのだそうです。

それは構いません。キャラクターにせよ、お話にせよ、好き嫌いがあるのは当然ですし。

ただ、その後書かれていた内容に、最初は何を書いてあるのかわからず、

次にその内容に笑い、最後にはだんだん腹が立ってきて、僕はムッとしてました。

>もし逆行していたらラピスを絶対にナデシコに乗せて下さい。
>そしてアキトにつっかかるハリルリを見て激怒し陰険な仕返しをするようにしてください。

この人は、僕のSSのどこを読んでいたのだろう?、何を期待しているのだろう?、と。

少なくとも、僕はキャラいじめのSSは書くつもりはないです。

そんな訳で、あの時は『私、少年です』の続きを書いていたのですけど、

急遽こっちのほうに変えました。中途半端になってしまいましたし、完成が遅れまくりましたけれど、

僕なりのキャラに対する思いを込めたつもりです。

といっても、まだ答えは出てません。

ルリ(ハーリー)のアキトに対する反感も、それに気づいたアキトのルリに対する感情も、

まだまだ、これからですから。





まあ、そういう話はおいて置くとして、

次回は4話、5話の続きというか表の話を、ルリ(ハーリー)を中心に書くことになると思います。

アキトのオムライスを食べたときの、ハリルリの事情はどうだったのか?とか

それ以外でも、いい加減決着つけて、ナデシコを宇宙に出さなきゃいけないですからね。



ちなみに、ハーリーの設定は、好きな食べ物は、カレーライスとオムライスなのだそうです。

アキトに作らせる料理を、オムライスにしたのはその設定のせいもありますが、

(ホウメイガールズは、食堂に来るハリルリに接しているうちに、好物に気づいたようです)

オムライスの中身は、チキンライスなので、それに引っ掛けても考えてこれにしてみました。

まあ、アキトもハリルリも、他のSSで、アキトがルリにチキンライス作るものとは知らないでしょうけどね。

あと、後日アキトが、再びハリルリに料理を作るとして、

「うまいぞお〜」

とかいって巨大化しながら後方で、火山の噴火するアニメのノリも考えたけど、

さすがにそれは、無理ありますしやりません(笑)、でも一応ここで思ったことだけ書いてみました。



今回のSSは、萌えはないです。内容も少なくて物足りないかもしれません。

でも、少しだけ熱いかなと思います。皆さんはどうだったでしょうか?

よければ感想をお願いします。



それでは、次回もよろしくお願いします。





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代理人の感想

おおっ。

男、いやさ漢だねぇダイゴウジ・ガイ!

とりあえず本音を晒さなければカッコいいままでいられたかもしれない、というのはさておいてw

 

しかしハリルリも突っかかるというか、今回はなんと言うか残酷ですねぇ。

ここらはやっぱり11歳の子供だから、他人の痛みを思いやるほど成熟して無いってことなんでしょうか。

さすがにこの所業はむごかったなぁ。