西暦2186年 火星 ユートピアコロニー近くの草原で


草原を自転車が駆け抜けていく

8歳くらいの男の子が少し年上の女の子を乗せて・・・・・・

男の子はやっと自転車を乗りこなせるようになり珍しく楽しそうな表情をしていた

女の子は念願のその男の子の自転車の後ろに乗れてやはり楽しそうだ

そして・・・

そこから少し離れた所にも

自転車の男の子とよく似た顔立ちの男の子がぽつんと一人

遠目に二人を見ながらつぶやく・・・・・・

「ユリカなんか・・・ユリカなんか大嫌いだっ」

その子、テンカワタクヤのつぶやきは草原に吹く風以外に聞く者はいなかった・・・・・・










機動戦艦ナデシコ

「Takuyaの戦い」

 

〜プロローグ〜



By 三平

 

 

西暦2195年 10月 火星宙域

のちに、チューリップと呼ばれる大型飛行物体が火星を目指して侵攻してきた

「敵は真っ直ぐに火星に向かっています、大気圏突入後予想到達地点は同南極」

それに対し火星に駐留していたフクベ提督の宇宙艦隊が迎撃にでる

「敵の目的は侵略であることは明白である、やつを火星に下ろしてはならん。 各艦射程に入ったら撃ちまくれ」


だが、射程に入る直前、そのチューリップの口が開き正体不明の艦隊が出現した
かまわず迎撃体制をとるフクベ艦隊

それが「第一次火星会戦」と呼ばれる戦いの始まりであり
「蜥蜴戦争」と呼ばれる地球連合と木連との戦いの幕開けだった

「撃てぇ〜〜」

砲撃は敵味方同時だった・・・・・・だが

一方的に叩かれたのはフクベ艦隊のほうだった
敵艦隊の重力波ビーム(グラビティーブラスト)がフクベ艦隊のビームをすべてねじ曲げてしまったのだ

だが、戦いはまだおわらない

チューリップより吐き出された無人機動兵器(のちにバッタと命名)が攻撃をしかけてきた

「レーザー、一斉発射」

副官ムネタケの号令のもと、残存艦隊は一斉に迎撃する・・・が、フィールドに弾かれて効果がない

苦戦するフクベ艦隊を尻目にチュ−リップは火星への降下軌道に入る

フクベは決断した。やつを火星にやるわけには行かない

「総員退避、本艦をぶつける」

この決断が多くの人の運命を変えた・・・

そして、フクベ ジン提督自身この事に苦悩することになる





同日、火星ユートピアコロニーの地下シェルター

激しいゆれと衝撃はおさまったが、シェルター内は騒然としていた

「本部、本部っ・・・」

「駄目なんじゃない? 地下がこれじゃ地上は全滅だよ・・・」

火星に降下しようとしていたチューリップにフクベ提督が戦艦をぶつけ軌道を変えることに成功したが
それがよりによってユートピアコロニーに直撃したのだ

もっとも、地下に避難していた彼らには何が起こったのか分からなかったし
それが市民や職員の不安をかきたてていた

「ママァ〜〜」
母親とはぐれたらしい女の子(七歳くらい?)が泣きそうな声で母を呼んでいた

でも、誰もその子をかえりみる余裕が無いようだ

「大丈夫かい? お父さんかお母さんは・・・」

「うえええぇ〜〜ん」

近くに居た少年が声をかけると、よほど心細かったのか女の子は泣きながら抱きついてきた

「・・・・・・大丈夫、大丈夫だから」

少年、テンカワ タクヤ(この時十七歳)はやさしく声をかけながらその子の頭をなでてやる

やがて、少し安心したのか泣き止んだようだ

「え〜っと、こんな物しかないけど食べるかい?」
「うん、ありがとうお兄ちゃん」

タクヤが差し出したのは、いつも彼が持ち歩いているあめ玉だった。
どうやら彼は甘いものが好きらしい

「お兄ちゃんもいっしょに食べよっ」

あめ玉を袋ごと受け取ったその子は、中から二個取り出して一個お兄ちゃんにわたす

お兄ちゃんのほうは、苦笑しながら受け取ったあめ玉を口の中に放り込んだ



女の子は、だいぶ落ち着いたようだが何時までもこうしているわけにもいかないだろう

「一緒にお母さんをさがすか?」
「うん、お兄ちゃん」

 

タクヤも一緒に女の子の母親をさがしたせいか、やはりその子をさがしていた母親と無事再会できた

「ママ〜〜っ」
「この子は・・・・・・心配したんだから」

母親が女の子をしっかり抱きしめる・・・・・・あるいは感動的な親子の再会かもしれない

それをしっかり確認したタクヤは、もう自分の役目は終わったとばかりにそっとその場を離れようとした

が、・・・・・・しっかりと女の子の手がタクヤのシャツのすそをつかんでいた

「お兄ちゃん、どこにも行っちゃやだよ・・・」

どうやらすっかりその子に懐かれたらしい



  

「タクヤ、お兄ちゃんのなまえはテンカワ タクヤだよ」
ともかくこの場は観念したタクヤは自己紹介していた

「じゃあ、タクヤお兄ちゃんだね。私、アイっていうの」

「じゃあ、アイちゃんだね」

うん、と嬉しそうにうなずくアイちゃん

「お兄ちゃん、今度デートしよ」

タクヤとアイの母は、顔を見合わせ苦笑した。
いやはや、最近の子供は・・・・・・

だが、・・・・・・ずーーん

「な、なんだ?・・・」
にぶい音とともに壁が崩れ・・・

「危ないっ」

タクヤはとっさにアイと母親をかばって伏せる

爆風が辺りをなぎ払ったあとには、バッタが一機そこにいた


「うわあああああっ」
「きゃあああああああっ」

パニックに陥った避難民たちは一斉に閉じた出入り口に殺到する

「ただいま手動で扉を開けています、慌てないでくださいっ」
必死に扉を開けようと職員たちが作業をしている

「市民の安全を確保せよ」
警備員たちが避難民たちをかばって応戦する・・・敵わないまでも

そこでは誰もが生きるために必死だった

ふと、誰のものか小型のトラクターがタクヤの目に入る
これだ・・・

「オレがやつを抑えるからその隙に・・・」
「タクヤおにいちゃーん」

タクヤは勢い良くトラクターでバッタに体当たりをしてそれを押さえつける

身動きできずもがくバッタ
よし、うまくいきそうだ

「おお〜〜っ」
「お兄ちゃん、すごいすごい」

見ていた皆は感心していた・・・だが

「よし、扉が開くぞ」
その扉を開けた瞬間


どおお〜〜ん

タクヤの後方で爆発音が響き後ろを見ると

そこには生きて動くものは誰もいなかった・・・・・・

いや、扉の向こうから来た無数の無人兵器だけが動いていた・・・タクヤ目指して

「うそ・・・だろ? そんなのうそだろ・・・・・・そんなこと」

ついさっきまでみんな生きていたのに

アイちゃんだってついさっきまで楽しそうに話していたのに・・・・・・こんなのはうそだ

「うそだああああああああっ」

タクヤが絶叫したそのとき、その首にかけていた両親の形見の青いペンダントが激しく光り

その光がおさまったときそこには誰もいなかった

そう、誰も・・・・・・

 

 

 

つづく


あとがき

はじめまして、三平です

3〜4ヶ月前から書きたくて暖めてた話、やっと始まりました(だから素直にうれしいです)

とはいえ、このホームページのカラーからみればちょっと毛色がちがうかも知れません

なにしろ主人公が、逆行者でもなければ最強でもないんですから

僕なりに、TVシリーズを見直したり解釈してみたつもりです

とはいえ、あまり本編と変わり映えしない気もしますがこれからもTVシリーズのエピソードなぞっていくしある程度仕方
ないかな(少なくとも前半は)

えーっと、それとこのSSの主人公はテンカワ タクヤ(天河 拓也)君です

まだ、SS読んでも分からないですが、設定上アキトの双子(一卵性)の弟となってます。

アキトは? でて来ませんねどうしたのでしょう? しばらく忘れてください(笑)

ポジション的にはアキトの代りにタクヤがいる・・・ということで
(でも、微妙にアキトとは違わせるつもり・・・うまくできるといいなあ)

とりあえず、このつづき勢いに乗っては3〜4日くらいで書きたいな、と思ってます

それではみなさん、これからよろしくお願いします

 

 

代理人の感想

 

チッチッチ、このページのカラーは逆行者でも主人公最強主義でもありませんよ。

ここのカラーはズバリ、「なんでもあり」です。

まあ、多くのSSが「時の流れに」の再構成物である以上

逆行物、主人公最強主義に傾倒する事は否めないんですが(苦笑)。

ただ、比較的多いのは確かなんですがそれがHPのカラーになっているかというとそうでもありません。

「マジョリティ(多数派)」ではなくあくまでも「一番大きいマイノリティ(少数派)」なのだと思います。

言い方を変えるなら「国会で単独過半数の取れない第一党」という所でしょうか(笑)

 

まあ、それはともかく正直言ってこういう毛色の変わった作品は大好きです。

今後の展開に期待させていただきましょう。